作者:アイングラッド


スーパーSF大戦


第23話 7/2 午前 面堂パート

 武家の末裔である面堂家の朝は早い。

 朝焼けが尾を引く鋭い日差しの差し込んでいる温室の様に馬鹿広い個室、そのベッドに眠る終太郎は黒服の声によって目を醒ました。

「若、おはようございます。気持ちの良い朝でございますぞ」

「・・・むぅ、これでボクを起こしてくれるのがラムさんだったらこの世は天国なんだがな」

「それは確かですが、これが私の職務ですので、悪しからず」

「分かってるよ。さて、今日の予定は?」

 そう言いながら終太郎は洗面台の前に座る。

 そこで待機していたマッサージ係とメイキャップ係が強張っていた終太郎の顔の筋肉をマッサージで解しながら、目脂や何かを拭い、いつでも人前に出て恥ずかしくない状態に持って行く。

「はい、坊ちゃま」

「坊ちゃまは止めろって」

「失礼、若。今日のスケジュールですが、登校前に坊ちゃま・・・若の私有企業の業績チェックの後にご家族の方と朝食を。本日の出席者は御家老、お父上、お母上、若、そして了子様の五名様にて御座います」

「うむ」

 メイキャップが済むと今度は髪結い係が終太郎の髪型をいじり出す、本日の終太郎の状態に合わせて少しばかりカットを入れた後、最高級ムースでオールバックに固める。

 この髪型は彼がまだ幼い頃から続けている終太郎こだわりの髪型である。幼稚園からオールバックというのもどうかとは思うが。

「ところで今日は第五使徒の会戦予定日だったな」

「はい、2時間後に硫黄島近海で迎撃戦闘が行われます」

「そうか・・・、悪いが午後の予定は全てキャンセルだ、お昼からラムさんに会えないのは残念だが、友引高校も午後から早退する、帰りのヘリの用意をさせておけ」

「ハハ、了解いたしました若」



 数分後、朝食を終えた終太郎は別室にて待機していた。

「終太郎、終太郎や」

 御簾の向こうから老人の声が聞こえてくる。

 和風様式のこの部屋の中にはこの老人とこちら側にいる終太郎の2人だけである。

「はい、御爺様」

 終太郎は凛とした声で返事を返す。

「終太郎、ハンカチは持ったか?」

「はい、面堂印、特製のケブラー、アラミド繊維の超強力な物を」

「うむうむ、外の世界は色々と物騒じゃからのぅ。用心に超した事はない。・・・終太郎、弁当は持ったか?」

「はい、御爺様。京都は王室御用立て5つ星のシェフが三ヶ月前から仕込みを始めた弁当が五つの重箱にしっかりと」

「うむうむ、若者はしっかりと食事を取らねばのう。・・・して、終太郎」

「はい、御爺様」

「身だしなみはしっかりとしたか?」

「はい、御爺様。今は無き仏蘭西のファッションデザイナーをメインスタッフに向かい入れ十全に」

「ふむふむ、面堂家の嫡男たる物、つねにトップに立ち、下々の者達を引きつけねばならぬからのう、さて終太郎」

「・・・御爺様、そろそろ学校に行きませんと遅刻してしまいますので」

 色々と言いたい事があるのだろうが、爺馬鹿のこの祖父に連れない素振りは見せたくはなかったのだが、このままでは遅刻してしまう。そうなれば面堂家末代までの恥、とばかりに意地でも皆勤賞を目指している終太郎である。

 と言うわけでそろそろ頃合いだと思い自分の意志を述べる終太郎、すると途端に御簾の向こうにシルエットだけ見せていたひょっとこの面を着けた老人がスルスルと近寄り、べたべたと終太郎の身体にまとわりつく。

「終太郎ぅ〜、そう連れなくしないでおくれよぅ〜、爺ちゃん淋しいじゃないかぁ、ほらほらメンコはどうじゃ、けん玉もあるぞい。お爺ちゃんと遊ぼうよぉ〜」

「ええ〜いっ御爺様! お昼には帰りますのでお部屋でお待ちになっていて下さい」

「むぅ〜、つれないのぅ。終太郎のイケズ」

「・・・御爺様、御爺様ほどのご老人がブリッコをしても可愛くありませんので」

 と言うかちょっと怖い。

 と、その時部屋の片隅のスピーカーから放送が入る。

『若ぁ〜! ポイントTに到達しましたぁー、ご登校の準備をなさって下さい』

 それを聞いた終太郎はやおら側に置いてあったランドセルの様な箱を背負い込み、ハーネスにてしっかりと身体に固定する。

「では御爺様、行って参ります」

「うむ、気をつけて行ってこい。終太郎よ」

 祖父の激励を受けて終太郎は窓に近づく。



 ここは友引高校上空三〇〇〇メートル。

 その上空を大型のヘリコプターが飛行していた。

 するとそのヘリの後方ハッチが空中で開放され、白い詰め襟の制服をまとった終太郎が姿を現す。

「操縦室、面堂終太郎、これより降下を開始する。合図を送れ」

『了解しました終太郎坊ちゃま』

「だから坊ちゃまは止めんかっ!」

『了解了解、タイミング合わせ、3、2、1、降下! 降下!』

「御爺様、行って参ります」

 終太郎は合図と共に空中に身体を預けた。

 だが、しっかりと抱えた弁当箱は必要なのだろうか。昼に早退すると言っていた筈だが。

 少々迂闊な所も民草に愛される指導者のチャームポイントである。恐らくは。



「おっとっこっなんてぇ〜っっ!!」

 強烈な怒声と共に3年4組の教室から校庭に向かって机が数個飛んで行く。

 友引高校では珍しい事ではないが、宇宙で一番の浮気者と称された諸星あたるが毎度の事ながらクラスメイト達に悪質な悪戯をしたのだろう。

 ここ友引高校は80年代中盤の世界から来ている、よってブリッコ全盛時代にて、少し後の様にリバイバルブームも訪れていない。

 その為に女子生徒達のスカート丈もひざ下十数センチが普通であった。

 だがしかし、時空融合後、90年代や2000年代の社会と接触するに連れ女子生徒達のオシャレセンスがそちらに影響を受けたのは当然の事なのだが・・・80年代の健全な青少年の前でそんなミニスカートだなんて非常に無防備な、興奮モノです。

 よって暴走気味なのは諸星あたるだけではないのだが、まだ曲がりなりにも男気や古い形の社会的正義感を恥ずかしながらも表に出す事が出来る一般生徒達が、あのクラスメイトのしのぶや竜之介、保険医のサクラさん等々の非常識なまでのパワーを考えるとどうしてもブレーキが掛かるという物であり、実際に暴走出来るのは諸星くらいであった。

 と言うわけでそんな強力な女性パワーで投げ飛ばされた机はちょうど落下傘を開き着地に集中していた面堂終太郎に直撃したわけである。

 直ぐに日本刀を振り回しタフな男を演出している面堂だが、格好をつけている分だけ諸星よりもダメージには弱かった。

「ぐぉおおおおおお。これは、一体?」

 直撃した机を抱えて悶絶している終太郎はそのまま地面にハードランディングした。

 落下傘のハーネスもそのままであったので横風に流されて地面を引き摺られて行く。

「・・・面堂さぁん・・・」

 すると校舎の方から先ほどの机を投げた少女、怪力娘のしのぶがおかっぱ頭を揺らしながら駆けてくる。

「大丈夫? 面堂さん」

 転がっていた面堂の直ぐ側まで駆け寄ってきたしのぶは心配そうに面堂の顔を覗き込む。

「はっはっはっ、いやいや心配ありませんよしのぶさん、ホラこの通り。全然問題ありません」

 終太郎はそういってポーズをつけて立ち上がった。

 その純白の制服には一つの埃も付いていない、彼の無茶な格好付けにもキチンと対応するようにつくられているのだ。

 流石面堂財閥が総力を結集して作った特製の着衣である。

「ところで、この騒ぎの元は・・・また諸星ですか?」

 面堂は溜め息をつきながらしのぶに訊く。

 するとしのぶも頬に手を当てながら嘆息した。

「えぇ、諸星君たら最近流行のスカート丈の所為で無軌道になってしまって。この前なんか地面を舐める様にしてしゃがんで歩くんだもの、あんたは鼻行類かって言いたくなっちゃった」

 その時の様子を思い出したのか、しのぶは太平洋のハイアイアイ諸島で最近発見された独自に発達を遂げたほ乳類群の不気味な生態になぞらえてその無軌道振りを表現した。

「はぁ、まあ諸星ですからね。しかしボクが来たからにはご安心を、もしも諸星の奴が不埒な真似をしたら叩き斬ってやりますから」

 まぁ実際はまるで冗談の様な身のこなしで彼の剣戟すらかわしてしまうのが諸星あたるという男なのだが。

 この様に面堂は、規律正しい、とは言えないもののバイタリティーに溢れた学生生活を楽しみに友引高校へと通って行った。

<七月二日午前の部終了>








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