作者: アイングラッド
それは衝撃的だった。
突然、東京の、更には日本連合の行政機構を破壊すべく襲来した飛行要塞グールの艦橋が立っていられないほどの衝撃に揺れ、目も開けられないほどの閃光に包まれたのだ。
続いて起きている激しい動きに彼、ブロッケン伯爵は堪らず悲鳴のような怒声を上げる。
「ウヴァアアアアッッ!!」
だが、それを部下に聞かれて恥じ入る事は無かった。
何しろ、その場にいた全員が悲鳴を上げていたのだから。
時間にして僅か10秒ほどであろうか、まるでグールごと錐揉み状態に陥ったような錯覚を覚えたブロッケンであったが、ようやく動揺が治まると部下の鉄仮面に報告を命じる。
「何事が起こったのだぁっ!!」
赤色灯の赤暗い光に照らされた艦橋にブロッケンの声が響く。
幸いにして鉄仮面部隊は全員がフリッツ式の鉄帽を被っている為に頭部への衝撃による負傷者はいないようだったが、動転しているのか報告まで少しの猶予が必要だった。
「報告します」
「うむ」
「何者かの攻撃により、グール撃墜。現在われわれは脱出装置により艦橋脱出を確認しました。地上に向け降下飛行中であります」
「なんだと?」
実戦経験豊富なブロッケン伯爵と云えど、これほどの不意打ちは記憶に無かった。
だが、今の状況から次に打つ手までに必要な要素を確認すべく更なる報告を促す。
「機械獣軍団はどうなったのだ」
「はい、格納庫に待機していた機械獣は覚醒状態で待機していましたが、グールと共に墜落中であります」
「何と言うことだっ!!」
流石のブロッケンも絶句した。
これでは我らが総帥ドクターヘルの世界征服の野望が果たせないではないか。
「ですが、機械獣の九〇パーセントが健在信号を出しています。作戦遂行は可能かと…ぐはぁ」
そこまで報告した鉄仮面は突然くぐもった悲鳴を上げて崩れ落ちた。
「ええいっ、そう云う事は先に言わんか、バカモノめ」
そう言いながらブロッケンは部下を愛用の拳銃で撃ち抜き、硝煙の煙をたなびかせているワルサーP38をホルスターへと仕舞い込んだ。
フン、と鼻息も荒くブロッケンは指示を下す。
「機械獣軍団に命じろ、第一目標を完全に殲滅せよっ!」
「はっ」
鉄仮面たちは仲間が撃ち殺されたにも拘らず、まったく動揺を見せずに指示に従った。
脳改造を受けた彼らに人間的な感傷など最早存在しないのだ。