作者:アイングラッド

スーパーSF大戦



7/2 午後

 硫黄島海域に接近した第五使徒により、周辺空域を飛行していた航空機の大部分が撃墜されてしまった。
 その攻撃は無差別であり、恐らく周辺に近付いた飛行物体は敵性物として自動的に攻撃を仕掛けるだろうと推測された。
 その為、自衛隊から使徒の分析情報をもたらされた政府は、怪獣Gメンの助言からも使徒の攻撃範囲及び隣接する空域を飛行する事を固く禁じた。
 民間機に対しては当然の事ながら関東平野の上空の飛行は完全に禁止され、北日本と西日本は半ば断絶されたも同然であった。
 これによってもたらされた経済活動に対する被害総額はかなりな額に上り、改めて武装テロ、怪獣、その他の侵略行為に対する社会的不満が鬱積して行く事になる。
 また、民間機に対する飛行禁止指令だが、それは自衛隊機にも適用された。
 恐らく山やビル陰に隠れて移動する、自衛隊員や避難民を乗せた低空飛行の非武装ヘリコプターであっても問答無用で撃墜されるであろう。
 それが軍事的に非常識な距離を置いていたとしても、使徒の攻撃識別能力と命中率は驚異的な物であった。
 人間でこれに匹敵する狙撃命中率の持ち主は、世界最高の殺し屋ゴルゴ13か、未来の野比のび太位の物だろう。
(野比のび太の事は未だに表に出ていないが、この後の時世には射撃の公式試合に於いて一発の外れ弾の記録も出した事のない驚異的なシューターとして知られる自称あやとり研究家である。 現在学校では目立たない小学六年生に過ぎないが、中学高校時代に参加した射撃競技会にて、驚異的な記録を出した後は、警察や自衛隊からの猛烈な勧誘があったのは良く知られる事となる。)
 第五使徒の射撃能力からすれば静止目標、動体目標の区別無く射程距離内のあらゆる物を撃ち抜く事が可能。

 よって飛行物体に対して無差別に攻撃を仕掛ける第五使徒が関東地方に接近してきた場合、前もって航空機の飛行を禁止するようにしたのである。
 だが、現代に於いて迅速な兵員の輸送となればヘリボーンは欠かせない輸送手段である。
 その高速度と経路の自由度には満足な代替手段は出来ていない。
 現在の所、未だ飛行禁止令が発令されていない為、想定主戦場である第三新東京市へと急ピッチで人員と物資、各種機器の搬入が急がれている。

 さて、そんな中、エヴァンゲリオンパイロット達三人は薄暗いSCEBAIの一室にて一心不乱に励んでいた。
 シンジは苦痛と時折訪れる快楽に呻き声を上げ、それが自分だけではなく、共に励むアスカとレイも同様である事に安堵した。
 彼自身が今行っているその行為に対して自信が持てなかったからだが、アスカはシンジのその視線を受けると気恥ずかしさと反発心を覚え思わず食って掛かった。

「シンジッ、アンタあたしがこれ苦手だって知って笑ったわね!?」
「え? そんな事無いよ」
「嘘つきっ! 」

 自分が他の二人に比べて劣っている気がしたアスカは思わず不機嫌な顔をしてそう言った。

「そんなぁ〜、そう言われても」
「アスカ、シンジ君に文句を言っても、意味はないわ」

 こまったシンジは思わず助けを求めてレイの方へと視線を遣る。するとレイはすかさずシンジに助け船を出した。
 だが、アスカの答えはシンジの予想を超えていた。

「分かってる。ただの八つ当たりよ」
「そんなぁ・・・」

 思わず脱力してしまうシンジ、だがアスカはそれを気にも留めず現状に不満を零した。

「まったく、何でこんな事しなきゃならない訳? 世界の共通語は英語なんだから、こんな悪魔の言語の訓練なんて」
「悪魔の言語? なんで、漢字の書き取りが」

 その意外な言葉にシンジは驚き、疑問を投げ掛ける。

「だって、漢字って上から下に書くでしょ?」
「うん、左から右に書いたり、右から左にも書けるけど」
「上から下に書くって事は天国から地獄に向かって書き進むって事じゃない。だから悪魔の使う言葉だって事よ」
「ガクッ、なんだよそれ?」
「多分、基督教ね」

 レイの的確な返答にアスカも肩を竦めて話を続けた。

「まぁね。それにこんなに訳の分からない、偏だの作りのだの覚えなきゃいけないし。良い? 言葉なんてものは26文字あれば表現出来るのに、こんなの合理的じゃないわ。こんな膨大な数の表意文字を憶えるなんて脳の容量を無駄に使用しているとしか思えないわ。だから私は断固として」

 と、決意表明を始めようとしたアスカの機先を制するようにレイが鋭い突っ込みを入れる。

「アスカ、現実逃避していても宿題は終わらないのよ。それにアスカの言ってる事には2つの間違いがあるわ」
「・・・なによ、その間違いって」

 意外な意見に鼻白むアスカだったが、その答えに興味を持ったのか答えを促す。

「最初に、合理的じゃないというのは間違っているわ。全ての言葉をアルファベットで表すとひとつの音に対して子音と母音が必要になるから、漢字仮名交じりの日本語ならたったひとつの文字で済む所が複数のアルファベットを使わなければいけない。例えば『愛』をアルファベットで書くとローマ字なら2文字の『ai』英語なら4文字の『Love』と表記する必要がある、だから日本語の小説をローマ字で書けば単純計算で2〜5倍、英語で書けば4倍近くの紙面が必要だもの。それだけでも簡単に日本語の方が非合理的であるという証拠にはならないわ」
「うっ・・・そりゃ、そうだけどさ…本当にそうなの?」
「それに、この世界のアジアからインド・・・天竺までの人口密集地帯を持つ中華共同体は大日本帝国の文化的影響下にあった歴史世界が中心、つまり共通語も英語ではなく日本語だと言う事を忘れちゃダメだわ。つまり、エマーン語圏と英連邦、アメリカの英語圏、東欧のスオミ語族〜露西亜語圏以外は日本語が強い影響を持っていると云う事ね」

 以上の持論をつらつらと、毅然とした態度でアスカに説明するレイであったが、それを見ていたシンジは呆然とした顔でこう呟いた。

「・・・レイってリツコさんみたいだ」
「何を言うのよ」

 シンジの言葉を聞いたレイは顔を赤くして俯いた。照れているのか腹を立てているのかは分からないが。
 それは兎も角、レイの説明に説得力を感じたのか、アスカは強がりながらもこう言った。

「フ、フ〜ン。ま、まぁ確かにレイの言う事にも一利あるわね。今回はアタシが引いてあげるわ」
「別に、勝ち負けは必要ない。ただ、・・・」
「ただ、何よ」
「アスカだけが手を止めてると、私たちだけ先に宿題、終わってしまうから」
「あっ・・・」
「早めに仮眠しておけって言われてたっけ。じゃあ先に僕たちだけご飯を」
「シンジ君と私が二人きり・・・それってラブラブ?」
「い、いや、そんな事はないと思うけど。あ、あは、あはははは」
「むぅー。分かったわよ、やりゃいいんでしょう、やりゃあ。どりゃあああっ!」

 妙ちきりんな言葉の遣り取りではあったが、何故か危機感を憶えたアスカは気合いを入れて書き取りに取り掛かり始めた。
 そんな熱心なアスカを見て引け目を感じたのか、シンジは言い訳のような事を言って弁解し出した。

「こればかりは手伝ったら筆跡でバレバレだから。ゴメンねアスカ」

 今の言葉で分かると思うが、アスカの書く文字はアルファベットを始めとして、平仮名片仮名は少し、漢字に至ってはかなりの悪筆である。
 もともとサインの文化をもつ文明圏で教育を受けた彼女は他人の書いた文字との識別の為にわざと個性的な文字を書くよう訓練されている。
 よって、かなりの癖字を書いてしまうのも仕方がない所なのだが。

「ふん、このアスカ様の実力を思い知るがいいわ」
「アスカは、テストの答えが分かっていても日本語を間違えて点数下げているから、それは仕方がないものなのだもの」
「文化的特別カリキュラムって奴かぁ」
「分かってるわよ、じゃなきゃ大学出ている私が小学生がやる様な漢字書き取りドリルをやってる理由なんて無いでしょうが。まったく、完全に日本語が分からないカエル喰い共(フレンチ)にはR.N.A.頭脳テープで簡単に憶えさせているってのに。なぁんでアタシはコツコツ勉強しなきゃならないわけ? 非合理的だわ」
「それは、まだエマーンを完全に信頼していないって事。特に脳波にシンクロするエヴァンゲリオンには致命的な結果に成り兼ねないもの」

 そうでしょう? と言ってレイは小首を傾げた。

 続く。



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