作者:EINGRAD.S.F

 スーパーSF大戦


 第23話 休眠期の終わり



 エヴァ・チルドレンは幸せに満ち足りた生活を送っていた。
 親に捨てられ人に省みられぬ、虚勢を張り人の注目を浴びていないと居られない、幸せと言う感情すら知らない、悲しい人生を送っていた彼らにとって、今の生活は生きる意味を持つ大切な物であった。
 その三人の中でも、もともとアッパータイプで極度にアクティブなアスカの活躍はそのエピソードが豊富だ。
 例えば次のような事があった。

 現在、シンジ達のクラスの昼食は担任の春麗と一緒に摂る事になっている。
 昼食を全員が食べ終わるまで静かにしていなければならない、と言う活発過ぎる中学三年生には少し厳しい仕置きだった。
 こうなった原因は、ある日の昼食の時間に騒いだ男子生徒がレイの机にぶつかってシンジの作ってくれた弁当をこぼしてしまった事に端を発する。
 それまでのレイを知るシンジはレイが静かに淡々と対応するかと思っていたのだが、レイは突然ホロホロと涙を流しうつむいてしまった。
 予想外の反応にシンジも周りの生徒たちもオロオロとするばかりだったのだがアスカは違った、その生徒の襟首を掴み上げ…た所で春麗が止めに入ったので大事には至らなかったが、その後のLHR(LongHomeRoom)で修身の意味も含めて先のような約束が決められたのである。
 だが反発も大きかった。「レイの様な事が無くなるのは良いとして、女の子がグループで喋りながら食事をするのも禁止するなんて横暴よ」とアスカは主張した。
 そしてアスカは考えた。
 春麗が決めた約束事を逆手に取った逆襲の方法を。
 静かな昼食が始まって2日後の木曜日の事。

「皆〜! 注目ぅ〜!」

 昼食の一時限前の休み時間が始まると同時にアスカは教壇に駆け寄り、声を上げて皆の注意を引いた。
 まだ教科担当の教師が出て行ったばかりで全員が席に座っていた為にアスカの声を聞き逃した生徒は居なかったが、野次は出た。

「何だよ惣流? 委員長でも無い癖に」
「うるさい、アンタは黙れ」

 アスカは剣もホロロに切って捨てた。
 まぁ相手が当の生徒では仕方が無いのだろうが…。
 ちなみにアスカは委員長等の役員に就く気は更々無かった。
 エヴァ・パイロットとして有事には出動の必要があるアスカ達は生徒たちの避難誘導を行うクラス委員長には不適である。
 それよりも大きな理由として、今は居ないアスカが初めて得た友達であった委員長の彼女の存在が大きいのだが。
 さて、壇上に立ったアスカはクラスメイト達に向かって言った。

「皆んな、今の休み時間中にお弁当を半分食べて」

 何で? と言う皆の顔に浮かんだ疑問に対してアスカはニヤリと笑ってそれに答えた。


 昼前の授業が終わると直ぐに春麗は教室に入ってきた。
 腹を空かせた若者達を待たせておくと禄な事にならないと身に染みているのだ。
 だがそこで彼女は意外な光景に出くわし面食らってしまった。

「あら皆んなどうしたの? そんなにニコニコして?」

 教室を覆っている雰囲気がいつもと違う事に春麗は気付き質問をぶつけて見た。

「はっは〜ん、そんなにお弁当が嬉しいのね。まあ、若くて食欲旺盛でよろしい事。さあ、では頂きましょうか」

 そう言うと春麗は手を合わせて号令を掛けた。

「頂きます」
「「「「「「頂きまーすっ」」」」」」

 挨拶が済むと春麗は優雅に箸を運び始めた。
 皆の真向かいに陣取って居る彼女は食事の作法の手本であり、事更食事の仕方には注意が必要だったからだ。
 そうして教室は奇妙に静かな雰囲気のまま食事が始まった。
 春麗が異変に気付いたのは食事が始まってから数分後の事だった。
 何故か顔に突き刺さる視線が増えて来た。
 春麗は何故か戦慄を憶え、冷や汗を垂らした。
 何が起こっているか認識できずにいた彼女は思わず箸を休めて視線を巡らせた。
 すると誰も彼も、いつも最後までもそもそと食事を続けている生徒までもが箸を置き、空になった弁当箱を目の前に置いていた。
 そして他のクラスの生徒が食事を終えて出て行き騒がしくなり始めた校庭には目もくれず、一言も喋らず、お行儀良く、彼女の顔を黙ってジーッと見詰めているではないか・・・。
 急に状況が掴めた春麗は思わず頬張っていた海老フライをゴクリと音を立てて飲み込んでしまった。
 すると生徒たちは?と云う顔をした後!と云う顔になった。
 いつも春麗が音を立てて食事をしてしまった生徒に向ける顔の巧妙なパロディーそのままに。

<幾ら日本人が数百年に渡って稲作農業による一斉行動を条件付けられて来たとは云え、ここまで一致するのは異常だ。必ず首謀者がいる筈、誰?>

 春麗は焦りながらもこんな事を考える生徒に目星を付け、観察を続ける。
 値踏みをして行く彼女の視線がある女生徒、惣流・アスカ・ラングレーとかち合った瞬間、春麗は悟った。

<間違い無い、この子が首謀者だ。まったく、禄でも無い事をして…人生楽しんでるわね。善哉 善哉>

 春麗は内心喜びながらもシカメ面でアスカを睨み付けた。
 その座った視線に平然を装っていたアスカだったが、内心かなり動揺していた。

<うわっ、バレた!? どうしよう、そうだ、シンジの仕業と云う事にすれば…>

 昼食の時間が終了するまでの間、責任回避の方策を練っていたが、結局の所、春麗の視線による恫喝のみで無罪放免となった。
 但し、春麗が退室の際に小声で何かを囁き、その内容にアスカは数日間何かに脅えていたようだが。
 ヤレヤレである。



 だが、何故彼女はこのような事をしでかしたのであろうか。
 確かにこう云う悪戯をしたい盛りである事は確かなのであるが、とある事件が彼女の心に無用の圧力を掛けていたのである。
 その事件とは、江東学園史にその名を轟かせる事になる、とある一連の事件の先駆けとなった戦慄すべき事件が彼女を襲っていたのだ。

 新世紀二年、初旬。
 学園を恐怖に落としいれ、その史緑に永く名前を留める事となる事件が発生した。
 とある世界の裏世界を支配し人類の暗黒面に潜む彼らは、その事件を契機にその名と存在を高らかにこの世界に謡い上げたのである。
 無論、学園生徒会も黙ってその暴力的行為に屈したわけでは無い。
 学園に所属する優秀な学生私立探偵や少年ヒーローの面々を召集し生徒会直属の特捜本部を設立、そしてその手足となって働く後の学園生徒会自治警察機構の元となった自警団をも作る事になったのである。
 だが、奴らの活動は収まらなかった。
 人の暗黒面たるその組織は敵である生徒会の中にもシンパを持ち、地道に人員を拡充しつつ活動を続けていたからである。
 奴らは決して義賊などと呼ばれる事が無い後ろ暗い道に自らを置いた事を後悔していなかった。
 自らの力を高め、更なる高みに導く「ソレ」の為ならば彼らは人としての道を踏み外す事すら歓びだったからである。
 奴らの活動は老若男女の別を問わず被害を与え、また、ソレに所属する個人によってその性向が異なったため、学園の誰もが被害に遭う可能性が有った。
 「学園の歴史の裏に奴らの影が有る」とすら呼ばれるようになったその組織の名は!・・・・・・

 或る日の体育の授業の事である。
 授業で学園周りのランニングロード一週10キロのランニングを終えてくたびれたシンジは汗だくで更衣室に戻ってきていた。
 午前中の授業は男女別で体育。
 男子は外でランニング、女子は室内プールでの水泳であった。
 因みにサボって女子を覗きに行った猛者(莫迦)達は待ち構えていた春麗先生に百裂脚を食らって沈んでいる。
 更衣室で着替え終わったシンジ達が教室に戻ってくると、既に教室に戻ってきていた女子達の空気が騒然としていた。
 彼女らは姿を現した男子の姿を見て息を呑んだ。
 その彼女らが投げ掛ける視線はいつもよりもよそよそしい。
 まるで「敵」を見る様な雰囲気さえ漂っていた。
 そんな空気の中に踏み込むのはためらわれたが、教室に入らない訳にも行かない。男子生徒たちは恐る恐る足を踏み込んだ。
 ピリピリした空気に気圧されて妙に無口のまま彼らは席に就く。

「男ってサイテーイ」

 中でも軽蔑の視線を隠そうともせずにいたナディア嬢がボソリと呟いた。

「何だよナディア! 僕たちが何かしたって云うの!?」

 訳も分からず非難を受けた男子の内、ナディアの知りあいであるジャンが思わず声を上げた。

「あんな事するのはスケベな男に決まってるじゃないっ! 男なんて最低よっ!」
「いきなりそんな事云われても訳が分かんないよ、一体何があったって云うのさ」
「それは…」

 ジャンの反撃にナディアは思わずひるんだ、彼女の次の発言に事情を知らない男子達は注目を浴びせた。
 図らずしも注目を集めてしまったナディアは顔を赤面させ、無意識の内にジャンの頬に平手打ちをかましていた。

「そんな事云えるわけ無いでしょ! ジャンのエッチ、スケッチ、ワンタッチ!」
「あてーっ、…それじゃ訳が分かんないよ」
「フンだ」

 ギロリとした視線でジャンを封圧しながらナディアはソッポを向いた。
 理不尽な仕打ちである。

「アスカ…、レイ…」

 シンジは仲間の塩梅が気になって彼女達を見るとレイは澄まし顔で、アスカは頭を垂れて意気消沈していた。
 思わず近寄っていこうとした所、勢い良く扉が開き春麗が入って来る。

「あらー、空気が悪いわねー」

 その空気を誤読した春麗は事態を掌握しようと緊急ミーティングを始める。だが、それは明らかな失敗であった。

「えーっと、もう皆知っているでしょうけど、今日の体育の時間、女子更衣室に荒しが入りました」

 そんな春麗の発言に女子は何をバラしているのかと非難の悲鳴を上げ、対して男子は何イッ! と云う怒声と共に立ち上がる者数名。
 予想外の反応に失敗を悟った春麗は口篭ってしまった。
 憤慨し立ちあがった男子生徒達の中にシンジの姿もあった。
 彼はダッシュでアスカに駆け寄ると、顔を赤らめて鬱向くばかりのアスカの前に立った。
 傍らのレイはそんなシンジとアスカを見て逡巡したがアスカをかばう様に肩を抱く。
 その様子を見てシンジは思った。

<間違い無い、アスカも被害に遭ったんだ>

 今日の体育が水泳の授業だったと云う事は今朝アスカ本人から聞いていた、つまり。

『つまり、その、アスカの着ている物はすべて更衣室に置いてあったわけで、だから…何と云えば良いんだろう…』

 果てしない羞恥が彼女を襲っているのに違いないとシンジは確信したのである。

「その…大丈夫? アスカ…、替えの『パンッ!』ぐふぅ〜」

 何かを云おうとしたシンジの頬を電光石火の早業で叩き、アスカはシンジの口を封じた。

「そんな物盗られていないわっ! 盗られたのは…盗られたのはアタシのプライドよ!」

 そう、更衣室のロッカーに置かれていたアスカのソレは被害に遭った物の隣りに置かれていたと云うのに全く興味を持たれた様子が無かった。
 因みに隣りのロッカーのレイは全く被害に遭っていない。犯人グループの言から意見を持ってくると、ほぼ無臭のレイではダメなのだそうだ、それに引き換え、欧米人の血を引くアスカの四肢の脂肪腺は耐え難い芳香を放つそうである。
 奴らは事もあろうに犯行現場に自らのサインを残して行った。
 そう、奴らこそ人類の暗黒面に生きる羅刹。
 その名も、
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『ソックスハンター』


である。




 その後数日間に渡って学園内の老若男女のソックスを荒しまわったソックスハンター達であったが、この事態に焦れた九州出身の某学生兵部隊の元整備班長が隊員を率いて動いた数日後、秘密裏に事態は終結した。


 最初にとっ捕まった、某ソックスロボの言葉。

「速●、てめぇ俺らを売りやがったな!?」

 その非難に対し、彼は平時から浮かべているポヤヤンとした笑みで彼に告げた。

「だって、舞が怒るんだ。僕は彼女のためなら…」 クッ

 刹那、彼が浮かべた笑みを見てしまった某ソックスロボの記憶は数日に渡って消え去っていた。
 戦利品の数々と共に。

 こうしてこの事件は秘密裏に処置された。
 だが、これがソックスハンター達の最後ではなかった、否、永き学園史にその影を落とすソックスハンターの戦いは正にこれを起に始まったと言えるのである。

 この出来事は、外部からの介入による物ではなく生徒間に発生した出来事であったために、裏側で生徒達の安全を警備している情報機関は動かなかった。
 何故なら学園の総責任者である岸田博士が不介入を表明し、潜入調査員及び護衛官達に対して調査のみを指示したからである。
 彼は決して生徒間の問題にそれらを動かす事をよしとせず、生徒の自主性の尊重を貫き通した。
 結果的にアスカにストレスが溜まる結果になってしまったが…。






日本連合 連合議会


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