なんと! それら数多くの船魂がいるというのに「ネコ耳少女」や「バニーガール」がひとりとして存在していない事が判明したのである。  ショーッック!!!

スーパーSF大戦 第22話


Mパート



 ま、それは置いておいて、実験の方であるが結果は芳しくない物であった。
 今回の実験は霊力場を人工的に発生させ、霊力EMP効果により侵攻しつつあるムーのロボット軍団の行動を封じる主旨に基づいた物であったのだが鷲羽の予想通り起爆剤となる霊的インパクトが足りない事が判明したのである。
 ナデシコにて状況をモニターしていた鷲羽はジトッとした冷や汗を掻きながら「こんな事も有ろうかと! 」用意していた次善の策にて対処する事を決断した。
 と言うよりもこちらの方が本命の様な気がしないこともないような感じがそこはかとなく漂う今日この頃という感じだろうか。
 鷲羽はユリカに「ちょっと出てくるわ」と声を掛けると砂紗美達がいる居室へと足を運んだ。

「ハロー、砂紗美ちゃん。どう? 宇宙に出た感想は」
「わ! 鷲羽先生。ここ本当に宇宙なんですか」
「あったりまえじゃないのぉ、いやぁねぇ砂紗美ちゃんたら。所で砂紗美ちゃんにひとつ頼み事があるんだけどぉ・・・ふふふふふふ」
「う゛っ・・・なんかイヤな予感」
「砂沙美ちゃんに魔法少女プリティーサミーになってもら・・・」
「だから知りませんってば!」
「あぁ〜らそう? 残念ねー・・・今プリティーサミーが活躍してくれないと凄ぉく大変な事になるんだけどなぁ」
「・・・・・・凄くって、どんな?」

 砂沙美は鷲羽の言い方が少し気になり軽い気持ちで訊いたのだが、鷲羽はそれまでの脳天気な仮面をかなぐり捨て、真面目な表情で砂沙美の質問に答えた。

「アメリカ軍の兵隊さんが死ぬわ、それも沢山。今これを救えるのは・・・プリティーサミーしかいないのよ」
「でもそれなら鷲羽先生の科学の力で・・・」
「ゴメン、頑張ったんだけど・・・今の私の力では彼らを完璧に押さえるだけの力はないの。でも、サミーが力を貸してくれれば何とかなる、いえ、何とかしてみせる。これからずっとって訳じゃないの、彼女の能力の秘密を解析すれば、きっと私がそれを形にして見せる、だから・・・お願い。力を貸して、砂沙美ちゃん」
「鷲羽先生・・・でも私、もう2度と。美佐緒ちゃんがあんな目に有ったのは魔法のせいなんだもの、だから砂沙美は」

 砂沙美は悪の魔法少女ピクシーミサとの最終決戦時の事を思い出し、口篭った。
 あの時、悪の魔法に人格まで完全に支配されそうになっていたミサこと美佐緒を辛うじてその魔法で救う事の出来た砂沙美は、その時以来魔法を使ってはいなかった。
 それが悪の魔法少女がいなくなった為なのかそうでなかったのかは親しい者、美佐緒にも魎皇鬼にも分からなかったのだが、実際は心に深い傷を負っていたのだ。
 それは時空融合後の出来事だったので、その後、魔法の必要を実感する出来事が起きなかったのが不幸であった、そういう事なのだろう。

「砂沙美ちゃん!」
「美佐緒ちゃん?」
「私なら大丈夫だから、人が死ぬなんて私はいや」
「砂沙美だって。イヤだよ」

 沈黙が降りる、重苦しい空気が砂沙美の口を更に重くしていた。

「だけど、ううん・・・鷲羽先生。本当に今回だけだよ?」
「OKよ」
「分かった、じゃあ砂沙美はサミーを呼んできますから・・・鷲羽先生は待ってて下さいね」
「はいはい。(まったく頑固よね〜)私はこの船の艦橋にいるから。プリティーサミーによろしくね」
「ハ〜イ」
 それを聞いた鷲羽は苦笑しながらその部屋を後にした。

 艦橋に戻った鷲羽が状況を聞くと、ムーの戦闘ロボット達は隊列を組み直し再度の侵攻を開始したと言うところであった。
 それを聞いた鷲羽が焦るだろうと予想していたアオイは鷲羽の顔に浮かんだ笑い顔に驚いた。

「鷲羽・・・博士?!」

 鷲羽はアオイの怪訝な顔を見て破顔した。

「ナ〜イスタイミングだわよ。これから・・・魔法の力と言う物を皆に見せつけられるんだからね〜♪」

 鷲羽は不敵な顔で正面モニターをにらみ付けた。
 だが彼女はひとつ言い忘れていた事があったのに気付き、彼に向き直った。

「あ、そうそうアオイ副長にひとつ言いたい事があるんだけど・・・、いい?」
「は、はい」

 出発時に色々と自分の心理に付いて解説されてしまっていた彼は知らずの内に鷲羽の気に呑まれてしまっていた。

「私の事は鷲羽ちゃんっ♪ て呼んでって言ったでしょ!」
「いえっ、でも政府要人に対して・・・」
「もう、お堅いんだからアオイちゃんはぁ」
「アオイちゃん・・・」

 いきなり顔に似合った可愛い愛称で呼ばれてしまった彼は、BGMに艦橋要員のクスクスと言う笑い声を聞きつつ呆然としてしまった。

「そうよぉ、加治首相だって私の事は鷲羽ちゃん、て呼んでいるのにあなただけ例外にする訳には・・・いかないわよね」
「う・・・うん、分かったよ」
「うん? 」

 鷲羽は何か足りないんじゃないのとばかりに右手を耳に当てて次の言葉を待つポーズを取った。
 彼女が何を要求しているか汲み取ったアオイは思わずうろたえてしまったが、意を決すると顔を赤くしながら怒鳴るように言い放った。

「分かったよ鷲羽ちゃん!」
「はぁ〜い、良く出来ましたぁ。やぁっぱり、「さん」て呼ばれるよりも「ちゃん♪」の方が良いわよねぇ」

 カラカラとひとしきり笑った鷲羽は時が動き始めるのを待った。
 大規模霊障実験作戦「トリニティ」の初っ端でダミーのEMP兵器を宇宙から数発バラ撒いた他は戦場で広域霊子力EMPが敵に与える効力を監視するに止まっていたナデシコクルー達であったが、現在直下の地上での広域霊子力EMPの働きは殆ど認められなかった。
 艦長のミスマル・ユリカが思わず地上に降りて援護攻撃をした方が良いのでは等と考え始めた時、ようやく時が動き始めた。
 艦橋でナデシコのオペレーターをしている星野ルリのコンソールの前に突然無数のウィンドウが開いた。

<艦底の第7ハッチが開いてるよ>
<DANGER!>
<中に生身の人がいます>

 突然の思いも寄らぬ出来事にブリッジクルーたちは慌てた。
 何しろここは宇宙、ディストーションフィールドに包まれているとはいえ、その内側は高位真空が広がっているのだ。生身の人間が放り出されたら急激な気圧の変化に絶えられず、即死は免れない。
 思わず画面に注視してしまう中、ダメージコントロール担当の副長アオイ・ジュンだけは矢継ぎ早に指示を出し始めた。

「ルリくん、第7ハッチ緊急閉鎖、及び周囲の予圧室の状況を調査してくれ。近接ブロックLV3までの乗り組員は現場を退去し宇宙服を着用。待機させて下さい」
「了解。・・・思兼、お願い」
<分かったよルリ>

 ルリの両手のIFS(イメージ・フィードバック・システム)タトゥーが輝き始め、マルチタスクでコマンドを指示し終えた。
 自然文を直感的に一瞬の内にしてコンピューターに最も処理しやすい数式に変化させる事が出来るのが生身の人間の強みであり、又、それらの作業を並列して行えるのがIFS強化体質であるマシンチャイルドの能力である。
 一般の戦艦では期待するべくない迅速な対応を取ったのだが・・・。

<ダメ、ハッチ開放止まらず>
<周囲クルーの待避は問題なし>
<ウリバタケ整備班長以下6名が簡易宇宙服着用にて現場に急行中>

 思兼の報告と同時にナデシコ艦橋メインスクリーンにハッチ開閉率のグラフと周囲の人員数の簡易表示、そして通路をウリバタケ達ダメコン対応の整備員たちが走っている画面が表示された。

「ルリちゃん、原因は?」

 艦長のユリカが問い質す。

「不明です。思兼による閉止信号は受理されているとのアンサーが帰ってきていますので」
「じゃあ、もしかしてハッキング!?」
「その痕跡は見当たりません。思兼の攻勢防御は完璧に動作しています」
「・・・じゃあ、整備ミス・・・」

 ユリカが思わずつぶやくと画面に大アップになったウリバタケの顔が写し出された。

<こらぁっ! 聞こえたぞ艦長っ! こう言っちゃ何だが、俺たち整備班の仕事は完璧だぜ、ハァ、俺たち・・・ハァ・・・整備班を舐めんじゃ・・・ねぇぞぉ・・・・・・ハァハァ>
<班長、走りながら怒鳴っちゃそうなりますって、もう若くないんだし>
<なんだとぅ!!? 俺はまだ若いっ!>

 酸欠で目を回しているウリバタケに整備員の一人が気遣わし気に声を掛けるが、ウリバタケは怒鳴るように反論した。
 それを傍らで見ていた整備員AとBは(「「あっ、酷ぇ」」)顔を見合わせた。

<若いか?>
<さぁ・・・>
<俺はまだ30台前半だぁっっ!!>
「バカばっか」

 そうしている間にもハッチは開いていっていた。

<ハッチ開放率100%だよ>
<リフト上昇開始>
<人間型の生命反応2つ有り>
「ルリちゃん、船外カメラお願い」
「了解艦長」

 ナデシコの船底に設置されている遠隔操作のカメラが一勢に第7ハッチへ向けられた。
 その時、彼らの目がそこに集中した瞬間を狙ったかのように「デンドンデンドン」と地に響く太鼓の鼓動と威勢の良いトランペットの音色がブリッジに鳴り響いた。

「なに? この音楽は!? ルリちゃん!」

 この現状を把握しようとユリカが緊張した声で確認した為、猛烈な勢いでウィンドウを開閉し確認作業に追われていたルリが表面上は冷静さを装った声で報告した。

「ナデシコ艦内の全てのシステムを走査しましたが、この音楽データーを送信している形跡は見られません・・・。艦内マイクから音源を計測させた所・・・空中から発振されている事が判明しました。コミュニケの回線を乗っ取った形跡も有りませんので・・・原因は不明です」

 ルリが報告するとアオイは顎に手を当てて呟いた。

「・・・・・・思兼に異常が?」
「いやはや困りましたな、もしもナデシコのメインコンピューターである思兼に故障がありますと・・・ほら、こんなに損害が」
「ウム、問題だな・・・」

 彼の言葉に反応したプロスペクターが電卓片手にその損害額を横に立っていたゴツイ大男の堀井豪人に見せると元々渋い顔を更に顰めて言葉少なに言った。
 だがそれは思兼に絶大な信頼を寄せるルリには容認出来ない物だったらしく大人しい彼女にしては珍しく激しい口調で言い返した。

「思兼に異常なんかありません!」

 彼らがパニックを起こし掛けた時、一人冷静だった鷲羽はタイミングを見計らった様に声を上げた。

「ハイハイハイ!」

 突然の声にナデシコクルー達は思わず鷲羽に注目してしまった。

「ビックリするのも仕方がないわね。まぁ見てなさい。これが日本連合の今後を占う切り札・・・魔法よ。あ、ちなみにトップシークレットだから黙っててね? 説明せずに作戦を進める訳には行かないからある程度の事は言って置くけど・・・彼女たちとその技術は存在自体が無い事になってるから。他言無用・・・良いわね」

 にこやかに云う鷲羽では有ったが、そのドスの利いた言葉には有無を言わせぬ物があった。流石に若いとは言え日本連合の屋台骨を支える重鎮のひとりである、と納得出来るだけの迫力を持っていた。
 このナデシコと言うトップシークレットに包まれた彼らナデシコのクルーであるが、ある意味その対極でありその精髄は逆に似通った技術の結晶である日本連合のトップシークレットである霊子工学の更に先に存在する未知の技術「魔法」。
 その技術は薄い空気から音や光を紡ぎ出し、何の通信手段もない場所で念話にてコミュニケーションを成立させる事も出来るのだ。
 そんなお伽話やRPGの中の世界では馴染みの深いその存在を突然知らされたナデシコブリッジクルーの面々はあっけに取られた顔をして鷲羽を見つめてしまった。

「ほぉらそんな顔をしてないで、出てくるわよ」

 鷲羽が指し示す先の7番ハッチからはモクモクとした煙が溢れだしていた。

「煙・・・火災警報は!」
「アオイさん、熱源反応、酸化反応共に検出されていません。第一、真空中なのにあの煙の微粒子の動きは異常です」
「そういえば・・・一気圧が保たれている? ディストーションフィールドで空気を閉じこめているのか?」
「いえ、重力に異常は見当たりませんが・・・」

 ルリの報告に頭を悩ますアオイを尻目に鷲羽は溜め息を吐きながら呟いた。

「だから魔法だって言ってるのに。あ、ホラホラ、来たわよ〜」

 薄い煙の陰からうっすらと人影が頭から現れ始めた。
 その人影はまるで某超大型恒星間航行型光速戦闘用バスターマシン兵器壱号弐号の様に腕組みをしながら仁王立ちをしていた。
 その伏せ気味の顔はニヤ〜リとした笑いが張り付いている様に見える。
 艦底に漂う煙を突き抜けた彼女の金髪が現れると彼女の体がくっくっくと震え始めた。

<・・・フッフッフッフッフ・・・>

 何故か外部マイクが拾った訳でもない筈なのにその彼女の含み笑いがブリッジに届いた。
 それを見たユリカは何か思い付いたのか彼女を指差して声を出した。

「大変っ! あの子、宇宙服着てません!」
<ニョーッホッホッホッ!! そぉんなの全然問題ナッッシングだっちゃわいや!>
「いえ、生の宇宙線は健康に良くありません・・・と言うか普通即死の筈ですけど・・・。第一、あっと言う間にガングロですよ。二十代も半ばを過ぎるとあっと言う間にお肌も真っ逆様、幾ら若いとは言え油断は禁物です。そうですよねミナトさん!」
「どうしてそこで私に振るのかなぁ艦長?!」
「あはは。いえちょっと、最年長ですし・・・ブリッジでは」

 ユリカのいつもの事だが軽率な一言で妙な緊張感が漂ってしまったブリッジに金髪の少女の鋭い声が鳴り響いた。

<ちょっとちょっと、そっちだけで盛り上がらないでプリーズ!>
「あっはっはっ! ゴメンねー。で、誰さんでしたっけ?」
<フッフッフッ、よくぞ訊いてくれました・・・。魔法の事ならアタァシにお任せ! 魔法少女! ピ>

 ユリカの疑問に胸を反らせて自己主張を始めた金髪の少女、だが彼女が皆まで言う間もなくそのちょっと斜め下に位置している水色頭がツインテールな少女が喰って掛かった。

<ちょっとちょっとミサ! アタシの事を無視しないでよね>
<アハッ! oh! アイムソォーリー ヒゲソーリー、サミーちゅわぁん>
<じゃあせーので自己紹介よ、良いミサ>
<OK! サミー!>

 ふたりの魔法少女が鼻息も荒く意気投合した所で天然ユリカのツッコミが入った。

「はぁ、魔法少女のサミーちゃんとミサちゃんですか」

 その言葉を聞いたサミーとミサはオロオロしながら互いに顔を見合わせた。

<オーゥ、ゴッド! どうして分かったの?! 何故なにホゥワァアイ!??>
<凄っごぉい! どうして分かっちゃったんだろーっ! サミー不思議ィ!?>
「すっかり自己紹介してますよねぇ、ミナトさん」
「本当よね、可愛いの♪」
<コホンッ、まぁそれはそれとして・・・魔法の事件はサミィにお任せっ! 魔法少女プリティーサミィ! お呼びじゃなくても参上でぇす>
<ア〜ンドォ! 魔法少女ピクシィーッ! ミサァーッッ!!>

 派手な振り付けでポーズを決めるふたりの姿を見た通信士のメグミ嬢が思わず昔の職業であった頃に知った知識に該当するアニメーションの作品名を呟いてしまった。

「・・・ナチュラルライチ?」

 ちなみにナチュラルライチ第1期シリーズ+ゲキ・ガンガー3は出版元がこの世界に存在していなかった為、権限を強化した版権管理組織(某黄色い電気ネズミ関連でアメリカと版権問題が激化した後に設置された新組織。インターミッション「パケモン=バケモンマスター日米紛争」乞うご期待)に許可を貰った後にナデシコ乗組員が個人的に持っていた作品をS−VHDからプリントし、その素材をプロスさんがとあるアニメ会社に売り込んでいたのでナデシコ世界以外の一般の人達にも知名度が高いです。
 しかも随所にナデシコ世界では過去に常識となった製品が頻繁に出て来たので、新しい商品開発の為の資料として家電メーカーの商品開発担当者達がお宝ボックスを手に入れ目を皿の様にして観察・分析していたというのは・・・まぁ余談であるが。
 それはともかく、別名で呼ばれたふたりの魔法少女達は憤慨してメグミに喰って掛かった。

<プリティーサミィです!>
<ミサよミサ! ピクシィーッッ! ミサァアアッッ!!!!>

 その余りにも激しい圧力に気圧されたメグミは愛想笑いを浮かべながら後退った。

「あははっ、了解しましたぁ」
「ハイハイ! おふたりさんちょっと良ぃい?」
<鷲羽先生・・・>
<鷲羽ティーチャー?>
「真面目な話・・・今地上にはあなた達の力を必要としている人達がいるの。私達政府では彼らを救うべくあらゆる方法を調べて、研究して、実験したわ。でも、上手く行かないの。人間を殺す為に生まれた殺人ロボットを封じ込める様に考案したフィールド、でもね私の実力不足の為に上手く働いていないの・・・このままでは人類はムーのロボットによって蹂躙されてしまう。だから手を貸して、今、私達には魔法少女としての貴女達の力が必要なのよ」
<鷲羽先生>
<ティーチャー・・・>
「未成年のしかも民間人、本来ならば貴女達は戦場に出さないのが政府の方針なのだけど・・・。しかし、今手を借りる事が出来るのは貴女達しかいない。だから今回だけはその神秘の力を私達に貸して。貴女達魔法使いが人前に出たがらない事は調査で分かっているわ。だけど」


<良いですよ、別に>
<別に人前で使っちゃいけないなんてラミアお姉様にも言われてないし>
<津名魅さんも言ってなかったし>
<<ねぇ〜>>
「あっそ・・・」

 アッケラカンとした答えにどう説得したモノかと悩んでいた鷲羽は気が抜けてしまった。
 まぁ、他の世界の魔法少女を含む魔法使い達は極度に、時空融合後のこの世界ではその存在すら掴まれない様に引き籠もっている(らしいと言う報告が政府の方にされていた)と言うのに、彼女たちだけはその例外なのが原因なのだが。

「・・・そんなにあっさりと言われると鷲羽ちゃん困っちゃうなぁ〜なんて・・・本当にホント?」
<勿論です。なにしろサミィは正義の魔法少女なのだから!>
<オフコース! ミートゥー! ミサだって負けちゃいないわよっ!>
「とにかく助かるわ。じゃあじゃあ観測機械のセッティングは済んでいるからいつでもバッチリOKよ」
<プリティーサミィにお任せ!>
<それじゃあサミーでっかいの行くわよ!>
<分かったっ! 魎ちゃん行くわよ>
<ミャーッ! GoGoサミィ!>

 サミィがその名を呼んだ途端、空中にポンッ! と煙と共にネコ位の小動物が出現し、あまつさえ人間の言葉を喋ったのである。如何に魔女っ子モノのお約束があるとは言えナデシコメンバーにとっては衝撃的な出来事だった。

「キャーッ! ネコがしゃべったぁ♪」
「えーっ艦長あれってウサギじゃないんですかぁ?」
「毛色はドブネズミの色よね。ちょっと毛皮にするには向かないなー」

 イヤ、意外と余裕がある様な・・・ま、それはともかく最後のセリフに冷や汗を流しながらも魎皇鬼は健気にサミィにエールを送った。

<頑張れ、頑張れ、サミィ! 負けるなGoGo、 Let’s Go サミィ!>
<ルーくん、こっちも負けてらんないわよ!>
<勿論だよミサ! >

 魎皇鬼と同様に現れた鳥を見てナデシコクルーは・・・「鳥が喋っても珍しくないわよねー」「そうですねーミナトさん」「バカばっか」別に驚いても呉れない様である。ここら辺アオイ副長に通じる物があるのかも知れない。


「さて、とアオイちゃん」

 鷲羽が傍らのアオイ副長に声を掛けると、もう既に諦めたのか弱々しい声で返事をした。

「何でしょうか、鷲羽・・・ちゃん」
「う〜ん、イマイチ照れが残っているわね。まぁいいけど、地上との連携なんだけどタイミングの方は問題ない訳?」
「ええ、裏作戦での予定通りアメリカ軍の支援攻撃要請の元、両洋艦隊の総力による艦砲射撃まで後・・・15分です」
「ん、アリガト。サミィ?ミサ?」
<なぁにぃ? 鷲羽ティーチャー>
「これから15分後に自衛艦々隊による攻撃が行われるわ。でもこれはね貴女達の為のダミーなの。ある意味凄く高い花火みたいな物ね。本当だったらその攻撃だけで相手をやっつけられたら良いんだけどね。残念ながらそうは行かない・・・で、貴女達の出番て訳」
<プリティー・コケティッシュ・ボンバーで敵をやっつけちゃえばいいの?>

 その言葉を聞いたナデシコで軍属だった経験のある人間は衝撃を受けた。この様な少女がその様な力を持っている事に対してもだが、そんな大量破壊兵器を地表で使うのか? と言った事に対してだったのだが。
 唯一事情を知る鷲羽は苦笑しながら訂正した。

「いいえ、違うわ。今回の作戦が重要なのは敵を無力化する算段を見つける事。その原理を知らなければ今後日本連合は闘いから身を守る事が出来なくなるからね。貴女達には敵のロボットの行動を止めて貰いたい訳、で、出来る事なら敵の親玉にまで被害を拡大させる事が出来れば御の字なんだけどね」
<敵の親玉・・・ってどんなのなんですか?>
「それが分っかんないだわ、これが」
<ズコーッ ヘイっ! 鷲羽ティーチャー。おふざけすんのもいい加減にしてちょーよ>
<幾ら何でもサミィには無理だヨォ>
「まぁそうなんだけど。出来る事なら・・・、こう考えて見てみてくれない? 敵のロボットは見えない絆で結ばれているの。だからそれを辿って向こうでバーンといく様なイメージでやってみてくれないかしら」
<まぁ、やってみるだけならやってみるけど・・・失敗しても文句云わないでよぉ>
「言わない言わない。それじゃ合図したらお願いね、ふたりとも」
<はぁ〜い>
<オッケェ〜よん>


 そして瞬く間に作戦開始予定時刻になった。
 すると眼下に見えるアメリカ大陸の両側にある海から無数の光の粒が陸の方へ動いているのが見えた。

「サミィ、ミサ、そろそろヨロシクお願いするわ」

 鷲羽がそう言うとふたりは地球の側に向いたナデシコ艦底のハッチの脇で魔法バリアーに身を包みながら肯いて見せた。

 


 ふたりの魔法少女の掛け声が唱和するとふたりの体を強烈な燐光が包み込んだ。
 それに引きずられる様にこの世界の全体にピンク色の光点が出現すると光速を超えたスピードで彼女たちの周りに乱舞し始めた。





 彼女たちを象徴する「力ある言葉」が唱えられ、精霊の踊りの流れを汲む呪術的な効果を持つ動作と共にピンクの光の密度は高まり物理空間に圧力が感知できるほどに構成が紡ぎ上げられて行く。
 ふたりはそれぞれのバトンを頭上で交差させると目をカッと開き、眼下に広がる闘いの中心地のメキシコを睨み付けた。
 そして最高値にまで高められた魔法のエネルギーを開放する言葉は発せられた。



 絶叫とも言えるその言葉と共にハート型をしたピンク色の光弾は地上へ向けて一直線に突き進んでいった。
 成果が気になるのか、サミィとミサ、そしてナデシコのメンバーも唾を飲んで見守っていた。
 見る見る内に小さくなってゆくピンク色のハートは霞んで見えなくなり、夜側の薄暗く寂しい地球が見えるばかりとなった。

「ルリちゃん、今のプリティー・コケティッシュ・ボンバーの分析をお願い」
「了解しました。・・・? 艦長」
「どうかな、何か分かった?」
「いえ・・・それが・・・」

 ルリは歯切れの悪い口調で続けた。
 ナデシコブリッジでは各種観測機器を用いて「P.C.B.」で発生した光点の観測、分析を実施していたが、思兼の分析でも未知の現象としか判明出来なかった。限りないデーターベースを持つ思兼と云えど類例のない現象を断定出来る事は出来なかった。・・・もっともルリに提示された仮説その1には古今東西の魔女っ子アニメのデーターが表示されていた様だが・・・ルリによって黙殺されてしまったらしい。元の世界でも未だにボゾンジャンプにすら触れた事のない彼女にとって通常の物理学に反する出来事はバカらしいと思ってしまうのも無理がないと言えば仕方ない所なのだが。
 その様にハート形の輝く光体の正体は不明であった、だが光点自体の移動は完璧にチェックされていた。

「じゃあ、ともかく今何が起こっているか、とにかくそちらの方を重点的に見ましょう。結果次第では地球に降下して援護射撃を行うことも視野に入れる必要があります。引き続き監視を密にしてお願いします」

 ナデシコ艦長のユリカはそう宣言し、地表の観測を怠らない様に念を押した。

「了解しました艦長」
「あ、それからあの娘達の回収をお願いね」
「はい。それからアオイさん、ウリバタケさんからの報告ですがエアロックの制御機構他機械的電子的な不良箇所は発見出来なかったと言う事ですが」
「うん、それなら近隣2ブロックの立ち入りを禁止する様にして貰えるかな? 基地に帰還してからジックリと原因を調べる事にするから」
「はい、じゃあコミュニケの方に入力しておきますね」
「よろしくホシノくん」
「いえ」

 と、ナデシコで色々行っている間に落下地点では過去に類例のない現象が発生していた。
 この時、地上では顕在化していないとは言え太平洋と大西洋の艦隊間で発生させられている霊力値がかつて無い程に高められた霊力の活性地帯と変貌していたのである。
 そこへ必殺技「プリティー・コケティッシュ・ボンバー」が炸裂したのだ。

 この時より時刻を遡る事4時間程前、東部戦線ではカーター大佐発案によるFAE(アフガンで多用された気化爆弾の事)弾の投入による反攻作戦の準備が進んでいた。
 アメリカ軍の優秀な作戦参謀の頭脳を以てしてもカーター大佐の立案した作戦以上の方法は浮かばなかったからである。
 図を見て貰えば分かるのだが、この東部戦線はメキシコ湾により他の戦線から孤立しており後方で強襲揚陸艦による撤収準備は進んでいた物の、下手をすると半数以上の部隊がアメリカ軍にあるまじき行為「玉砕」すらしかねない状況だったからだ。

画像提供・岡田雪達磨さん。有りがたく使わせて貰います。



 その為に後方にある本土空軍基地では予備戦力として確保されていた空軍他の戦力の事前準備が執り行ない、状況さえ許せば一気に敵を押し返そうと画策していたのだが。・・・自衛隊側の返答は意外な協力的な物だった。
 自衛隊への要請は作戦立案者である元日本駐留軍に所属していたカーター大佐直々に行われた。
 彼の立案通り自衛隊側の艦砲射撃により反抗の切っ掛けを掴もうとしていたのだが、自衛隊側からその要請を待っていましたとばかりに受け入れられたのである。
 何と日本連合海上自衛隊が誇る打撃護衛艦の全力射撃でもってムーを混乱させるべく有りとあらゆる種類の攻撃を行う準備が整っていると言う事だった。
 実はこの要請があった時点で既に霊力の同調だけではEMP効果が発動する事はなく、鷲羽が第2段階としてナデシコに用意した切り札を使わざるを得なかったのだが・・・それをそのまま使用しては日本連合は未知の技術を持って居る事が世界に知れ渡ってしまう。そしてそれは日本連合にとって早過ぎる出来事である。
 そのカムフラージュとして立案されたのが艦隊による砲撃である。
 元々日本がEMP兵器に対して強い関心を持っている事はわざとリークされており、アメリカ側にも知れ渡っていた。
 そして艦砲その他の攻撃にEMP弾を投入しておき、本命のEMP兵器が呪術兵器というとんでも無い物である事を隠すつもりなのだ。
 極最初期には艦隊での実験で呪術兵器が抗力を発揮するはずだったのでナデシコが囮とされていたのだが、色々と検討を進めてゆく内に今回の形になっていた。
 元より計画されていた作戦の為、艦隊の行動は迅速に行われた。
 未だ以て霊力フィールドを維持し続けているふたりのGS(ゴースト・スイーパー)、美神令子と横島忠夫が座乗する掃海艇とその護衛艦を残し、全打撃護衛艦は攻撃地点の五〇キロメートル離れた位置に占居し、ムーのロボット兵士から水平線下に姿を隠した。
 これはムーの機動兵器が未だに姿を現さず、飛行型ロボットを殲滅していた為に可能になった戦法である。
 ムーのロボット兵士の主兵装は直線しか出来ない光線兵器であり、誘導ミサイルは近距離用の物しか装備していないと言う人間に対する蹂躙を目的とした構成を採っている欠陥である。
 それに対し放物線を描いて水平線の山越に攻撃出来る砲弾は多様な戦術が取れる強みがあるのだ。
 今回は主砲塔を新型に換装して初めての実戦であり、新規採用した砲弾の有効性を確かめる為にも多種類に渡る砲弾が用意されていた。
 超硬金属による多弾頭翼安定銛弾頭やクラスター弾、中にはレーザー光線を拡散させレーダーの効きを悪くさせるグールのステルス物質をコピーした粉末を充填した物、閃光によって光学カメラを破壊するフラッシュ閃光弾等々云々エトセトラ・・・である。
 だが、自衛隊は全くと言って良い程陸上戦力を用意していなかった。
 実際の闘い、如何に敵を攻撃しようと実際に敵を制圧するのは結局の所歩兵である。
 最終的にはアメリカ軍は自衛隊による攻撃で混乱したムーに対し攻勢を掛けるべく下準備を進めていた。
 陸上戦には一切手を出さないと言うその事が一部高官達に激しい不信感を抱かせる事になった。

「所詮は自衛隊は玩具の兵隊であり、張りぼてに過ぎない。例えどんなに闘いに貢献しようとも肩を並べて銃を手に取らない相手を信用する訳にはいかない」

 この様な理屈が彼らの間に根強く残っていたのは事実だった。
 後のチラム軍高官に日本連合に対する不信の念が強いのはこの一件による物だという風評が付く様になるのだが、それはさておき。この時の彼らはその日本側の作戦決行に唯一の希望を載せるしかなくなっていたのである。

 ムーと相対している各地の戦線では総本部からの連絡を受け、なけなしの戦力の保存を行いながらその時を待ち受けていた。

 日本の特殊バレッジが掛けられていると言う異様な雰囲気の中、最終防衛線に急遽構築された塹壕に身を伏せ、兵士達は息を押し殺して迫る殺人ロボット達の接近を見守っていた。

 ゼロアワー、海岸線からかなり離れているというのに東部戦線東部、核の爆心地から離れた位置に置かれた前線本部にいた者達は背後の水平線が輝くのを見た。
 迫り来るムーの軍勢は態勢を立て直し再度アメリカ側が構築した戦線に接近を開始していた。
 最早急造の土塁、土壁、塹壕しか身を隠す場所がなかった彼らの頭上を数え切れない程の光の粒が通過していった。
 余りに高く、余りに速い鉄の塊は真っ黒な夜空に大気の摩擦で纏った輝きを煌めかせ、吸い込まれる様に彼らの前方へと殺到していった。
 初弾、大西洋艦隊旗艦エチゴが放った六発の大口径艦砲は、従来の常識を越えた飛距離を飛翔しほぼ真上からムーのロボット軍団にその牙を剥いた。
 地表に散らばる小型の目標に対して徹甲弾では余りにも効率が悪い。その為に撃ち出された砲弾はそれぞれが対戦車ライフルを凌駕する破壊力を有する無数の鉄球が詰め込まれた三式対地散弾で、高度五〇〇メートルで弾体が炸裂、指向性火薬により傘の様に撃ち出された弾丸はただの一撃で横五〇体五列、つまり二五〇体ものロボット兵士を完膚無きまでに破壊した。
 流石に第二撃は警戒されていたらしく、足を止めた対空歩兵によって無数のビームが空を焼き尽くさんばかりに弾幕を張り巡らしたのだがそこで迎撃された砲弾はチャフ効果を持つ微粉末が詰め込まれていた。
 雲の様に広がったチャフ粉末は微風に押し流されながらムーのロボット兵士の頭上を覆った。
 すると対空レーダーが阻害され、光学装備も煙幕効果によって非常に信頼が置けないものになっていた。
 打撃艦による矢継ぎ早な砲弾の雨によってアメリカ軍に接近していたムーは大幅な足止めを喰らっていた。だが、それでも無数の兵士が控えているムーにとって致命的な結果には結びついていなかったのである。


 そして天空から星が落ちてきた。


 味方による物とは言え、艦砲による地面が吹き飛ぶ様な激しい揺れに耐えキリキリと胃が締まる強い緊張の中、その艦砲の雨の中を人を殺すべくプログラムに従い更に進軍してくる敵陣の中央を睨み付けていたネイティブアメリカンの血を引く非常に目の良い兵士のひとりがふと空を見上げて遙か高空、偵察衛星軌道よりも更に低軌道の宇宙空間に定点保持している常識外れな宇宙船の姿を見いだしていた。
 これは戦闘が始まった頃から居た為に兵士達の間にはその存在が知られていたが、最初にミサイルをおざなりに撃ってから何時まで経っても戦闘に参加するでもなく監視作業をしているだけらしい、と知られてからは彼らから憎々しげに見上げられるばかりであった。
 だが、突然その宇宙線の近傍から淡い紅色の閃光を放ったと思うとその光点は見る見るうちに彼らの頭上へと接近してきた。
 不思議な事にハート形をした光学兵器が目にも止まる様な低速で燐光を弾かせながら降下してくるのだ。それはどう見ても過酷な戦場で見る様な物ではなかった。
 だがいつか見た事がある様な・・・そう、彼がまだ冷徹な兵士ではなくただのガキだった頃、妹と一緒に見た子供向けの日本の女の子アニメにでも出てくる様なファンシーな物だったのだ。
 戦場では緊張の余り頭脳に掛かるストレスを反らす為に急激な眠気を覚えたり、ありもしない物を見る事を知っていた彼は思わず自分が戦場神経症の前兆を見ているのではと目を瞬かせてしまった。
 だが、幾ら目を瞬かせても擦ってもそれは厳然としてあり続け、そしてそれは敵陣に叩き付けられると無数のハートマークに分裂した。
 その瞬間、艦隊からの砲弾が飛び交い闇夜を眩いビーム兵器が斬り裂く殺伐とした景色は一瞬にしてお気楽極楽な桃色の空気に変化した。
 何故かは分からないが空には派手な模様の布地が靡いておりホンワカワンとした奇天烈な音楽まで聞こえて来るではないか。
 戦場のプロたる彼ら陸軍兵士達は思わず浮き足立ち、その大部分が不用意な事に塹壕の上から頭を出してしまい無防備な姿をさらけ出してしまったのである。
 無論絶好のチャンスを逃す程ムーのロボット達は慈悲深くなく、たちまちにして光線兵器が彼らに集中した。
 だが不思議な事に衝撃はあった物の、その温度はまるで熱めのシャワーを被った程の物でしかなくとてもではないが人体には害のある物ではありえなかった。
 その理不尽さは正に魔法、物理法則をねじ曲げるにも程があると真っ当な物理学者なら抗議したくなる様な出鱈目さである。
 だが、それこそが魔法の恐ろしい所であるのだが。
 その一部を理解する為にこの時戦場で起こっていた事を鷲羽博士らの研究グループが構築したばかりの極秘資料・鷲羽レポートの理論を視点に見てみるとしよう。
 残念ながらこれは霊子学を説明する為の理論であり、より高位の現象に基づいている魔法については完全には説明出来る物ではないのだが、魔法に伴うその一部の物理的側面に関する説明が可能である。

 謎のエネルギー体であるハート形をしたピンク色の発光体は東部戦線にほど近いムーの戦闘ロボット軍団の直上から接触、分裂した。
 その際、無数の強固な電磁−霊力場カーネルを放出したのだが、外観的な特徴はそのままに規模を小さくしたそれは、それまでただ単に強力な霊波長によって貯め込まれるばかりだった霊力場を連鎖的に電磁−霊力場カーネルに誘導し、それと同質のエネルギーへと変貌させた。
 まるで生体に入ったウィルスの如く霊力場のエネルギーを使い自身のコピーを増殖させたP.C.B.はその場にあった人間に対する敵を持つ存在の情報を収集し、それに特化した能力を持つ攻性体とそれらから人間を守る為の物理的障壁を作り上げた。
 まるで意志が有るかの様な振る舞いで空中を駆け抜けた攻性体は次々と敵に取り憑き、その高性能の電子頭脳に障害をもたらしたのだ。
 大規模な電子回路はその電磁場−霊力場相互作用により霊力場に影響を与えているが、その逆の作用も又存在している。
 ムーの戦闘ロボット達の電子頭脳はその条件に充分以上に当てはまる程の電子頭脳を持ち、尚かつ霊的には全くと言って良い程無防備であった。
 その為電子頭脳の回路内で活動している無数の電子達は霊力場から与えられた障害によってその活動を止めてしまった。
 直立歩行は負の安定性に基づいた制御を行っている為、制御系のフリーズによってロボット共はバタバタと音を立てて転倒しそのまま動きを止めてしまった。
 その際にロボット達のモノアイがハート形に変形し、あまつさえ「ラブラブー」とか「プリティー」とか「萌え萌えー」とか放言したのは霊子力学では説明出来ないので割愛する。
 電子頭脳の動作不良は南米に存在するムーの政治機械に採用されている光電子回路に於いても同様で、ムーのロボット兵士の指揮に使用されている情報伝達回路に何らかの形で逆送し、その大元にも多少ならからぬ影響を与えたのである。
 それは人を愛する心を持つ魔法少女の愛の力、と言う物が行う事が出来た奇跡なのかも知れないがそれがどう云う原理なのか杳として知らない。
 だが、ムーの政治機械は末端の全ての観測機器の情報が失われた為、その時計算されていた人類抹殺作戦のデーターは消去され最初のデーター採取からやり直す羽目になり、アメリカに絶大な猶予期間を与える事となったのである。
 しかも戦場に於いて全ての電子機械が活動を停止したと言う訳ではなかった。
 人類に敵意を持つ電子回路にのみその効果が現れたのである。
 その為、南米大陸でアンヘル基地へと合流を謀り、敵兵に発見捕捉され絶体絶命の危機に陥っていたシノブ&モームの独立偵察チームは正にこの時に発生した魔法攻撃の余波で動作の停止した殺人ロボット達の追及を逃れる事に成功していた。
 後年、ビアン・ゾルダーク博士が汎人類防衛機構のフラッグマシンに搭載したサイコブラスターの基本原理はここでのデーターが基となっている。
 だがこの時戦場で戦っていた兵士達にとってそれはどうでも良い事だった。
 彼らはその突然の出来事に呆気に取られてしまった。
 それまで冷血な機械的行動によって味方を攻め続けていた優勢な敵軍であったが、日本軍(彼らの認識では軍そのものであるから間違いではないのだが)のジャミングが始まると言われ、「あの数十年も遅れた劣等国」である日本連合に対して全く信用を寄せていなかった兵士達は何の期待もしていなかったのだが・・・艦砲射撃の合間に突然のピンク色の輝きが起こり、それと共にムーのロボット共が完黙したのである。驚くなと言う方が無理であった。
 この後、上層部はともかく一般兵卒の間にはある種の日本への連帯感が生まれる事になるのだがそれはそれとして、突然の出来事に呆然となっていたアメリカ軍の兵士達は我に返ると猛烈な攻撃を開始した。
 その時の攻撃は苛烈を極めた。
 地獄の使者かと思える程の頑強さを誇った戦闘ロボットが面白い様に無抵抗になり破壊されていくのだ。それまで抑圧され続けたストレスを吐き出す様に破壊衝動に囚われた兵士達は引き金を引き続け、有りとあらゆる砲弾をムーの戦闘ロボットに浴びせ続けた。
 後にサンプル採取の為戦場を回った技官達が完全なスクラップに変わってしまったロボットの残骸を見て嘆く程であった。
 だが、それで良かったのだと後には結論付けられる事になる。何しろロボット達は動作不良に陥っていたとは言え一時的な物であり霊力場が落ち着けば直ぐにでも正常に動作する事が可能だったからだ。
 サミィの敵として魔法によって創られていたラブラブモンスターは魔法の構成を破壊するだけでこの世に存在する事が適わなくなるのだが、機械的な物を敵味方の識別をさせて魔法によって破壊するのは難しいのかLVが足りないだけなのか、物理法則をねじ曲げる魔法と云えど物理法則に支配された物を自在にするにはそれなりのエネルギー量がいるという物なのだろう。
 今回、エネルギー総量はともかく単位面積当たりに平均化してみれば広大な範囲を対象にしている為にそこまでの破壊力はなかったという事だ。
 戦場の優劣は逆転した。手酷い損害を受けて後退を続けていたアメリカ軍はムーのロボットが快復するタイムリミットまでに戦線を大幅に南下させ、初期に被った戦略的敗北をかなり取り戻す事に成功するのであった。
 それには対空砲火の関係で下げていた空軍、特にここ数十年ばかり埃を被っていたB−52Hまでもが絨毯爆撃に駆り出され、中米陸橋地帯に存在する物全てを灰燼に帰していた。
 この時発生した熱量も又膨大な量に昇り熱死への期間を縮めていたのだが、秘密裏に行われた人造魔晶石技術を応用した熱量のフロギストン結晶化実験によってその一部は回収され、後の研究に繋げられるのだがそれは別の話にて。
 ちなみに今回用いられた霊力関連の実験ではほとんど熱量の発生は認められていない。逆に吸熱作用に因る物と思われる気温の低下が観測された位である。
 地上の方はこの様な状態であったが、宇宙にいるナデシコの方はと言うと。
 プリティーサミィとピクシーミサを艦内に回収したナデシコは戦場のデーターを採取し終えるとナデシコA,Bの両艦連れ立ってハワイ方面への降下軌道を採り日本への帰還を始めていた。
 ブリッジの鷲羽博士は膨大な量の魔法に関するデーターが取れた為上機嫌であった。
 元々彼女の研究テーマは「魔法」であり、「霊力」に関してはあくまでその関連テーマでしかなかった、ここの所それをメインに研究を続けなければならなかった為に生の魔法のデーターが取れた事にご満悦なのである。
 もっとも、後に鷲羽が提出したレポートによると「魔法少女による特殊技能は非常に目立つ現象を伴っており、通常のEMPと容易に較べられてしまう物であった。秘匿すべき情報が漏れていなければよいのだが・・・」と懸念を示した。
 確かにこの時の現象はカメラにも記録され大多数の人間が不審に思っていたのだが、それを呪術や魔法と結びつけられる人間はペンタゴンや関連研究施設にはおらず、むしろ騒いでいたのはオカルトネタで胡散臭がられている出版社やネットの掲示板であり、却って信憑性を失わされる結果となっていた。しかし、その情報操作に日本連合の工作員が暗躍している事はアメリカの情報網にはまだ捕まえられていない。
 何はともあれ、今回得られたこの実戦でのデーターにより霊力EMPの雷管に当たる作用が研究され、後日その成果が結実する事になる。
 こうして北米大陸への侵攻は一時的に食い止められた、米軍も戦力の再構築に全力を注ぐ様になり軍産態勢が整えられていった。それに伴い軍の権勢も増大、それが後のホワイト大将によるクーデターへと繋がるのであるが。












 だが、これで終わった訳ではないのだ。




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