さてナデシコが大気圏を抜けようとしていたこの時、鷲羽はコロッと忘れていたが今回彼女は連れが居たのである。
そのふたりは現在ナデシコ客室のひとつが与えられ待機している。
時をナデシコ発進時にまで巻き戻す。
彼女たちの素性がばれると色々困ったことになる為(未成年だし)、彼女たちの居室は特別に監視システムをオフにしていた。
部屋の中にはパステルブルーの髪をツインテールにした快活な少女と黒髪の大人しそうな少女が所在なさ気にチョコナンと座っていた。
「ねぇ砂紗美ちゃん・・・鷲羽先生どうしちゃったんだろう。もう結構経つのにまだ戻ってこないなんて」
「大丈夫だよ美佐緒ちゃん! それよりさホラ見てみて! 窓から富士山が見えるよ! おぉっきいねぇ」
「うん、ホントだ。私こんな近くから富士山見るの初めて」
「へぇーっ! そうなんだぁ。良かったね美佐緒ちゃん」
「うん。・・・・・・っと。あ、そうだ今日お弁当をママが作ってくれたの。砂紗美ちゃんも一緒に食べよ」
いつ言い出そうかタイミングを測っていたらしく、美佐緒はそう言うとバスケットから籐を編んで作った弁当箱を取り出した。
「わぁっ! アリガト美佐緒ちゃん。もう砂紗美お腹ペッコペコだヨォ」
「うふふ、砂紗美ちゃんたら。そうだ紅茶もあるけどいる?」
「モチのロンロン! えへへ、アリガト。で〜、お弁当の方は〜うわぁサンドイッチだぁ、美味しそう」
「ママが朝早く起きて作ってくれたの。今日砂紗美ちゃんとお出かけだって昨日言ったから」
「良かったね、美佐緒ちゃん」
「うん」
美佐緒は肯くと満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ「いっただっきまぁす!!」」
砂紗美が大口を開けてサンドイッチと格闘を開始しようとしたその時、砂紗美と美佐緒の持ってきた鞄が激しく藻掻きだし、自己主張を始めた。
「「あっ」」
忘れ物に気付いたふたりは慌てて鞄の蓋を開けると中にいたウサギみたいなネコみたいな謎の小動物「魎皇鬼」と正体不明の鳥類「愛称:ルーくん」を取り出した。
「酷いよ砂紗美ちゃん。・・・・・・ボクのことすっかり忘れてたでしょ」
「えっえ〜っとぉ・・・ゴメンナサイ」
「ルーくんご免ね。私ルーくんのこと忘れてて」
「大丈夫! 全然平気だよ! 美佐緒もこんな所に来ていて緊張しちゃったんだから仕方ないさ」
理不尽な事にこの小動物達は人間の言葉を喋りだした。思兼の監視が外れていて幸いだった。もしもこんな小動物がいるなんて事になったら思兼もパニックを起こしてしまうだろう。
鷲羽も彼女達のような年少の人間に何が出来ると言うのか。
しかし、魔法と言う物は科学とは別の法則に従う物である(量子学的にはともかく、主観的には)今までの科学的な常識は捨てて見なければならない。
だが今はその時ではない。彼女らの出番はもう少し後なのだ。