スーパーSF大戦 第22話 I−Part




 アメリカ軍が構築した戦線を突破したムーのロボット軍団と村の攻防戦は、ゾンビーによって始められた。
 屍霊術師達が操るゾンビーは見る者を恐慌に陥れる様な腐敗した体を持っていたが、原初的な恐怖感や生理的嫌悪を持たない無感情なムーのロボット達にはその迫力は通じなかった。
 ムーのロボット兵からすると、そのリビングデッド達は人間の範疇には入っていなかった。
 彼らの定義から外れたそれはただの障害物に過ぎなかったのだ。
 足を引きずりながらゆっくりと迫ってくるゾンビーはそんなムーのロボット兵が放ったレーザー砲によってあっさりと薙ぎ払われた。
 バラバラにされながらも、蠢く死体共はムーのロボットの体にしがみついたりして妨害を行おうとしたがそれらは何の障害足り得なかったのである。
 途中、南北戦争時代に北軍が使用していた人型蒸気「スター」を待ち伏せ攻撃に使ったのだが、ガトリング砲は多少の効果を上げたようであったが如何せん初速の遅い旧式弾頭であった為装甲を凹ませ打撃で転倒させるだけの威力しか持たなかったのである。
 たちどころにスターは撃破されていった。

 村の対策本部たる村長宅には千里眼を備える術師達と偵察隊から入る情報が溢れていたが、そのどれもが悲観的な情報であった。
 そしてムーの魔の手が間近に迫った時、村長は悲壮な決意と共に決断を下したのだ。

「皆の衆、聞いてくれ。このままでは我々の絶滅は免れない、よって非戦闘員である女子供達は北へ逃れてくれ。男衆と術師の女衆にはまだ役目が残っているから、済まないがここへ残って貰う。至急命令を伝えてくれ、それと戦闘員は直ぐにここへ集結、最後の会議を行う。それから・・・娘をここへ連れてきて貰えないかな」

 最後の命令は意外だったらしく、伝令員の若い衆は首を傾げた。

「あのぉ、村長殿。あの娘っ子はまだ14歳の子供だで脱出させねばならんのでは?」
「・・・村長の娘の任を果たして貰う・・・」

 それを聞いた者達は一斉に息を呑んだ。それが何を意味するか、戦闘訓練を兼ねた村祭りで重々知っていたからだ。
 村人達は一斉に怒号を上げた。しかし、

「破壊の妖精ラビズとそれに率いられる悪霊共の生け贄に・・・捧げるのだ・・・」

 村長の絞り出すような声にハッとなり、皆一様に押し黙ってしまった。
 何も好きこのんで愛娘を生け贄に捧げる親は居ない。
 特にこの村長の娘への溺愛振りは村人達に富に知られていたのだから。
 村長の命令は直ぐに実行に移された。
 女子供達はほとんど手持ち無沙汰で村を離れ、北方へと歩いていった。
 彼女たちはこの後アメリカのスラム街へ潜伏し、能力を占い師等として使用し生計を立てて行く事になるのだが、その神秘の能力が軍事力として活用される事は無かったようである。
 そして中央広場では大きな祭儀の準備が進められていった。
 一番高い鐘楼の上には奇麗に飾り立てられた衣装に身を包んだ村長の娘が佇んでいた。
 山羊の血によって染め上げられた真っ赤なドレスはまだ鮮血が滴り落ち、生々しい匂いがそこらに溢れていた。
 祭儀が始まり、術者達の唱える呪文と打ち鳴らされる低い太鼓の音が響き渡る中、鐘楼の上の娘に異変が起こり始めた。
 ガタガタと歯の根が合わなくなり顎を振るわせ出した彼女の口から異界の者の声のような音が漏れだしてきたのだ。
 術者達はその声に歓喜の声を上げ、一同は更なるトランス状態へと陥ってゆく。
 やがて神掛かった状態になった娘の瞳は冥府の者を象徴するような黄色の光が輝き、日焼けしている筈の彼女の皮膚は皮膚が透けて見えるような蒼白いまでの抜けるような白に変わっていた。
 憤怒の表情の彼女は南の地へと顔を向け、その獲物を見据えようとした。
 しかし、その時偵察員が広場へと駆け込みムーのロボット達が1キロまで迫っていると告げたのである。
 ムーの血に飢えた戦闘ロボット達は人間を血祭りに上げるべく村へと殺到してきたのである。
 その戦闘ロボットのカメラに高さ10メートルの塔の上に立つ「人間・雌・年少」が立っていた事を確認され、これから始まる大虐殺の前祝いとばかりに攻撃の矢が放たれた。
 ズビシッ! と幾条もの光線が破壊の妖精ラビズが乗り移った娘の肉体へと殺到したのである。
 一瞬にして頭部が蒸発、その他肉体の各部へと光線が殺到し頭部と左半身が消し飛ばされたのであった。
 鐘楼の上で弾き飛ばされた娘の肉体は一瞬の後に不条理な事に1本足で平然と立ち上がりその攻撃を放った者を「見据えた」。
 その不埒な者共に冷たい笑みを返すと唯一残った右腕でそれらを指差し、存在しないはずの口から怒声が浴びせられた。
 ゾワッとする感覚と共に地の底から悪霊共がブツブツと意味のない呟きを漏らしながら沸き上がってきた。
 そしてそこには「地獄」が出現したのである。
 術者の制御に拠らない暴走したラビズの魔力はムーにも村人にも分け隔て無く与えられた。
 悪霊が付着した肉体は力学的な理由もなくへし折られ血管から血が噴き出し恐慌状態に陥った術者を含む村人達は歓喜とも絶望とも取れない絶叫を上げながら絶命していった。
 残された肉体は悪霊たちの良い玩具としていたぶられたまま。
 そしてムーの戦闘ロボットにも悪霊は殺到していった。
 最初は実体が存在せずエネルギー反応も無い悪霊をノイズとして無視していた彼らであったが、それらに取り付かれた個体が異常動作を起こしたのである。
 突然先頭で突撃していたロボット兵がぎこちなく立ち止まると突然腕を180度回してビーム兵器を味方に向けて乱射し始めた。
 頭脳回路の故障と判断されたその個体は味方の攻撃により一瞬にして殲滅されたのだが、突然地面から大量に噴出し始めた悪霊共が取り付くや否や内部回路が不可思議な力によって引き千切られ、動力炉の暴走、頭脳回路の機能不全、敵味方識別回路の暴走、間接部以外の場所からの不自然な折損事故等々が一時に大量に発生し全戦闘ロボットは超常現象の前に成す術もなく壊滅しようとしていた。
 悪霊達による魔女の鍋のような地獄の宴は果てることなく続けられようとしていた、が、この時にその様な超常現象よりも悪辣な決定が下されていたのである。
 それはこの時を遡る事一時間程前の事であった。



 後方にある司令部では司令官はニヤリと笑いながら幕僚達へ言葉を投げ掛けた。

「地図にない物が消滅しようと、それは元々無かった事だ。それよりも我々はこの一戦に全てを掛けている。後の戦いを有利に進める為にも有りとあらゆる手段を用いて奴らに勝たねばならないのだ。そうだろう諸君? 大統領に連絡は取れたのか?」
「イエッサ! ホワイトハウスにホットラインが繋がっております」
「うむ。これから私は大統領に戦術核の使用許可を求める。ソルトレイクの空軍基地へB2を核装備で待機させておけ」

 そして既にこの時、悲壮な覚悟を決めた大統領によって核使用コードを受け取った司令直属の情報将校はソルトレイクの空軍基地より南下してきたB2の機長と交信を開始していた。

「ドラゴンフライ、こちらチェックメイトキング2。Code202にて貴機に送信中。応答されたし」
<こちらドラゴンフライ、感度クリアー。Code202了解。答申その1「海原にカモメ舞う、海原にカモメ舞う」>
「カモメに非ず、ウミネコと確認。カモメに非ずウミネコと確認」
<ドラゴンフライ確認、答申その2。「Jnk.Ygm−mzyr」>
「パステル・ブルー・タートルズ」
<A−WAPON使用コードの確認を受理、これよりドラゴンフライはチェックメイトキング2の指示に従う>
「チェックメイトキング2了解。目標地名、チャーリー、アルファ、マイク、パパ、エコー、チャーリー、ホテル、エコー。19h49m30s,−090h31m60s」
<復唱する。目標地名、チャーリー、アルファ、マイク、パパ、エコー、チャーリー、ホテル、エコー。19h49m30s,−090h31m60s>
「オールグリーン。自動航法装置をセットし、アンフックにて待機」
<OK 予定時刻までカウント九〇〇、カウント一〇〇まで無線封鎖に入る>
「チェックメイトキング2了解。グッドラック」
<セギュ>

 既に暗い夜空となっていたニューメキシコ上空を、対レーダー塗装に塗られた前世紀の遺物たる最後の戦略爆撃機B2の特徴である全翼機は、対赤外線防御の為薄く冷やされたジェットの排気炎を後ろに吐き出しながらその鈍重な機体の進路を変更した。

 一三分二〇秒後、それまで相手に気取られぬ様に無線封鎖をし匍匐飛行をしていたB2は再度現地司令部へ連絡を取った。

<こちらドラゴンフライ、チェックメイトキング2応答を乞う>
「こちらチェックメイトキング2、貴機の無事を祝う。腹に抱えた熱いイチモツの調子はどうだ?」
<長い間待たされて、今にも暴発しそうさ>
「ハハ! 生まれて六〇年もチェリーじゃ仕方あるまい、じゃ、立たなくなる前に経験させてやろうか」
<OK、OK、安全装置解除コードを>
「イエス。ホテル、アルファ、ロミオ、デルタ、 、チャーリー、オスカー、ロミオ、エコー、 、マイク、アルファ、シエラ、タンゴ、リマ、マイク、アルファ、ノベンバー、 、ブラボー、リマ、オスカー、ノベンバー、デルタ、 、ゴルフ、ロミオ、アルファ、マイク、マイク、エコー、ロミオ、 、オスカー、ホテル、 、ヤンキー、エコー、アルファ、ホテル」
<ホテル、アルファ、ロミオ、デルタ、 、チャーリー、オスカー、ロミオ、エコー、 、マイク、アルファ、シエラ、タンゴ、リマ、マイク、アルファ、ノベンバー、 、ブラボー、リマ、オスカー、ノベンバー、デルタ、 、ゴルフ、ロミオ、アルファ、マイク、マイク、エコー、ロミオ、 、オスカー、ホテル、 、ヤンキー、エコー、アルファ、ホテル。登録、受領確認。安全装置解除、解除確認>
「爆弾倉解放」
<装薬庫扉開放、確認。A−1発射準備良し>
「ではマニュアルに従い、安全第一にて作業を敢行せよ。チェックメイトキング2より、オーヴァー」
<ドラゴンフライ了解>

 B2のステルス機能は十二分にその役割を果たした。
 アメリカ軍の戦線を突破し、呪術の攻撃によってほぼ全滅状態のムーの戦闘ロボットのセンサーも攪乱した戦場の状態にかき乱されレーダーセンサー、赤外線ともに使用不能であり、更に人間の知覚ではその機体が近寄ってきていた事さえ想像の外にあった。
 海産物のエイの様な機体の下にあるリボルバー式の弾倉からその凶悪な兵器は顔をさらけ出した。

 コードネームA−1。彼らの世界では特殊兵器は4つに分類されていた。
 A−アトミックウェポン。核分裂、核融合兵器。その非道さは旧世紀のヒロシマ、ナガサキにて立証済み。
 B−バイオミックウェポン。細菌などの生物兵器。
 C−ケミカルウェポン。毒ガスなどの化学兵器。その残虐さは旧世紀の東京にて立証済み
 D−ディメンジョンウェポン。空間を斬り裂き、目標をこの世界から消滅させる事の出来る最終兵器。
 この中でも歴史的に3番目に開発されたのが核物理学によって開発された核兵器である。
 爆発の際の熱線によって地上を焼き尽くし、もしも運良く生存したとしても核反応の際に放たれた放射線と残された核物質による被爆によりジワジワと被害者を死滅させる最も質の悪い殺戮兵器である。
 その戦術核弾頭を搭載した短距離誘導弾はゆっくりと機体を離れると先端のセンサーを作動させ、目標の位置を特定した。
 直後にロケットモーターを始動。
 意外とスムーズな加速で目標へ向けて突き進み始めた。
 知っていたとしても彼らは職務を遂行したであろうが、搭乗員達の耳には目標地域に民間人が多数存在していた事は知らされては居なかった。

 悪霊達の怨気の声が響いているこの地は核の炎によって浄化させられた。
 極めて高純度に精製されたプルトニウムは複数に分離させて向かい合わされている。
 その複数の塊がタイミングを合わせて合わさると、それぞれの一辺が臨界量ギリギリに達する微妙な量に計算された戦術目的の軽量な核分裂兵器は目標地点に達し、プルトニウムに装薬された火薬により一瞬にしてひとつに纏められた。
 臨界量を超えたプルトニウムの内部では、中性子を抱え込んだため不安定になっていた原子は分裂しながら不安定の原因である中性子を吐き出し、隣のプルトニウムに玉突きの様に吐き出し、それぞれが核分裂と共にエネルギーと中性子を放出していった。
 連鎖反応により一瞬にして核の炎はTNT火薬にして数万トン分の熱量と致死量を遙かに超えた放射線を地上に吐き出したのだ。
 つい先程まで戦場だった一見極変哲のない農村の上空500メートルにて核分裂反応を起こしたA−1短距離核分裂弾頭は灼熱を吐き出しつつ一瞬にして農村を蒸発させた。
 ピカッと光った瞬間、その光の直撃を浴びた村長の死体は放射線に貫かれ、一瞬の内に炭化し次の瞬間、上から襲い掛かったドンッと云う衝撃波によって原子の塵と消えた。
 一瞬にして蒸発する人間が居る一方、偶々悪霊から生き残っていた小数の術師達は物陰に居たのだが、その人間の肉体は多量の熱によって一瞬の炭化こそ免れたが、物陰を透過してくる放射線により一瞬の内に自らの肉が灼けて行くのを呆然として見ながら光の塊から斜めに襲い掛かってきた衝撃波に吹き飛ばされた。
 そして制御が効かなくなり暴走し続けていた悪霊達も太陽の光と同じ原理によって生み出された閃光を至近距離で浴びせられ、問答無用で「浄化」させられてしまった。
 もっとも邪悪な兵器がこの様な側面を持っているのも皮肉と言えば皮肉な話であるが。
 一瞬の内にして核分裂反応を終了した核物質は有り余る熱量によってその範囲を広げて行き、その下部は地面と接触しあらゆる物を燃やし尽くすと今度はそのエネルギーを横方向へと振り替え地面に沿って音速の衝撃波を四方へと広げ、人の肉体を含むあらゆる脆弱な構造物を一瞬にしてバラバラにしていった。
 ある程度熱量を周囲に広めた核物質などの反応域は周囲の空気が強力に加熱される事によって発生した上昇気流によって上空へ引っ張られ、そしてそれ以上の膨大な空気を巻き添えにして巻き上げられて行き、キノコ雲を形成した。
 その時、それまで外向きに広がっていった空気の流れは一瞬にして内向きに転換した。
 そのベクトルの180度転換によりそれまで何とか形を保っていた物もそのほとんどが崩壊、バラバラになって爆心へ引き寄せられて行き魔女の釜で煮られるよりも劇的な変化を与えられた。
 偵察任務に出ていた為悪霊にもムーの戦闘ロボットの被害にも遭わずに存在していた村の最後の生き残りであるレミントンを担いだ騎乗歩兵の牧者の末路はこうだった。

 村の近くまで帰還していたかれは異様に村が静かである事に気付いていた。
 いそいで報告を述べる為村へ急いでいた彼の1キロ前方の空中に突然太陽が出現した。
 思わず右腕で目を庇い輝きに耐えていた彼は光の強さが収まると馬の手綱を振るおうと右手を動かそうとした、しかし、一瞬にして煮えたぎってしまっていた彼の右腕はその基部からごっそりと脱落してしまった。
 その光景に呆然とする彼であったが、物凄い吐き気が沸き上がり無事だった左手で口を覆おうとしたのだが、露出していた顔面から布のように垂れ下がっていた皮膚が邪魔して思うように口に手が運べなくなっていた。
 激しい目眩に耐えながら彼が村に目を向けると何か線状の物がこちらに迫ってくるのが見えた。
 慌てて彼は馬を走らせようとするが、多量の放射線を含んだ熱線を頭部に浴びた彼の愛馬は立ったまま絶命していたのである。
 次の瞬間に襲ってきた衝撃波によって彼と彼の愛馬の肉体はバラバラに砕かれた。しかし不思議な事にその断面からは血が出なかった。
 何故なら照射された熱線によって彼らの血液中のタンパク質は一瞬にして凝固しゼリー状に固まっていたのである。
 こうして事前に脱出した者達以外、全ての村人は「消滅」したのである。


 だが、B2ステルス戦略爆撃機の撮影した光景を司令室で眺めていたアメリカの軍人達にとっては核兵器と言えどただ単に威力の大きい爆弾に過ぎず、その閃光が画面を覆った瞬間総立ちになった彼らは歓声を上げたり大きな拍手を叩いて喜んでいた。
 彼らの持つアメリカンスピリットの根底には一八九八年の西米戦争当時マッキンレー大統領が上院で行った演説の精神が息づいているのだ。


 その頃、太平洋岸にて例の計画を推し進めようとしていた中米派遣艦隊ヤマト中央管制室に於いて電磁波の強力な乱れを感知していた。
 その電磁パルスは対NBC装備を施していない設備の電子回路を焼き切らん程であった。
 いきなりの現象にある任務の準備をしていた太平洋岸の中米派遣艦隊旗艦「ヤマト」と、大西洋にて同じ任務に就いていた大西洋派遣艦隊の打撃護衛艦「エチゴ」、そしてその頭上遙か宇宙空間にてインビットの猛攻を力業で蹴散らしつつ待機していたナデシコ艦隊はアメリカ軍による核攻撃を知ったのである。
 この頃、日本連合が全世界に提案しようと準備していた規制条約があった。
 それは熱的に完全に封じ込まれている地球圏が許容出来る熱量を、その熱量の発生場所と環境に与える影響をポイント制で評価したプログラムで、山田芽斗郎を助手にした鷲羽・F・小林博士が作り上げた。
 理論上の人類文明破滅点の計算から残り生存可能年数が弾き出されたのだが、その結果として、人類滅亡まで六百六十六年という結論が導き出されたのである。
 因みにこの数値は、人類文明が熱死によって滅び、最後に生き残った人類が死滅する期間であり地球文明崩壊までの期間は更に短い。
 その数値は大体100年程度と推測されていた。
 この評価も地球圏内での活動如何によって大幅に変化する事になり、文明の推移になり期間が増減するのだ。しかし、着実に破滅点は近付いてくるのだが。
 鷲羽博士の計算の為のパラメーターは多岐に渡り、それによると海面の上昇だけでも海面温度の上昇及び南極の氷山と北極周辺氷河の溶解に伴う淡水化による植物性プランクトンの死滅、海面の上昇に伴う珊瑚礁の死滅、暖められた海面よりの蒸発率の上昇から多雨による土壌の洗い流しによる熱帯雨林の崩壊、それらによる二酸化炭素吸収率低下に伴う大気中の熱保有量の上昇の促進など色々と同時進行の段階が設定されておりMAGIやSCEBAI等の高度なコンピューターのサポートがなければ計算出来るものではなかった。
 地球圏の保有熱量が増えると、人類の生活環境を冷却する為に外界に対して熱量を放出する事になる為加算ポイントは放物線を描く様に増える事が予想された。
 それ故に日本連合政府は期間内に地球圏の開放を推し進める計画と熱量規制計画を推進する事になる。
 これにより、敵を倒す際に用いられる兵装は大量破壊兵器(爆発力が四方に飛び散り、熱量をばらまくタイプ)の使用は規制、質量兵器と爆発の衝撃によって敵を破壊する兵器、そして定点に熱量が集中するビーム兵器が主流になる。(実際にはどれも熱量の放出が避けられないのだが、熱量発生が少ない生物兵器でさえ起動中は近寄ると非常に熱い)
 また日本連合では、ほとんど熱量とは無縁の霊子力兵器の開発が急がれる事となる。
 現在、地球環境観測用人工衛星と連動して加算ポイントを計測中。
 そしてその評価実験中にポイントが一気に溜まった事が観測され、鷲羽ちゃんは官邸へ駆け込んだ。
 その直後に派遣艦隊からのホットラインで核兵器の使用が報告されたのである。

 後に、現在進行している対ムー戦闘で核兵器が使用された事による自然環境への大量の放射性物質の放出と共に、文明の維持限界点まで一気にポイントを稼いだ(二十年ほど破滅年数が縮んだ)アメリカに対して、本日中に日本連合は遺憾の意を表すと共に暖めてきていた熱量総量規制を公表。
 この時に世界中に向けて現在の地球がどれ位の熱量を許容出来、その期間がどれ位かを世界中に向けて公表し、全ての人類へ規制に批准する事を求めたのである。
 現在までの所、完全に自然環境に対して独立した循環環境系のサイクル・コロニーを維持しているエマーン文明が最上のエネルギー効率文明であったが、この時の日本内部には極度に省エネ思想が進んだ世界も有れば石炭モクモクの環境もあったりしていて正に今改善中である
 この時、最も熱量二酸化炭素共に排出量ナンバー1なのがアメリカ合衆国で、失業者アレルギーの彼の国は京都議定書批准離脱以来経済稼働率低下に伴う失業率の上昇を恐れて改善の見込みはまったく無し。
 克てて加えて軍事政権移行後は武器の増産で規制どころではなくなったのであるが。

 また、話は変わるがアメリカがメキシコ政府から防衛戦闘の主導権を渡されていたとは言え、主権を有するメキシコ政府に何の断りもなく他国の領土であるメキシコ領内で原爆を使用した事にメキシコ政府は容赦ない罵倒を浴びせた。
 その結果巻き起こった全世界の政府機関、自国民であるアメリカ国民、マスメディアからの訴追も厳しくホイットモア政権は追い込まれて行くことになるのである。
 また、ムーの根拠地を宙間降下作戦によって殲滅する事を試み、インビットの攻撃により挫折した事もあり、アメリカ大統領ホイットモアはある決意をする。
 それにより数ヶ月後にアメリカ軍はメキシコ政府の武力制圧とカナダ国土侵攻を実施する事になる。


 戦闘終結後の事になるのだが、この悲惨な戦場で得られた戦訓がひとつ有った。
 それは廃墟となったこの爆心地を調査した結果明らかになった事だが、ムーの戦闘ロボットは核爆発の際に発生した超強力なEMP作用に曝されていながら、それが直接の機能停止に繋がっていないと云う事実である。
 元々ムーは人間が活動不可能な戦場にて運用する事を前提として開発された経緯を持つ。
 それは化学兵器の充満する市街地であったり、窒息性・有毒性のガスや非酸素環境下に於ける作戦行動もだが、限定核戦争下に於ける運用が想定されていたのだ。
 もちろん核の炎に晒されて無事な構造にしていてはコストの面からも不都合があったのだが、爆心より少し離れた地点に位置していたロボット達が核爆発の際の強力な放射線や電磁パルスにより機能不全を起こす様では兵器として不完全である事から備えられた能力である。
 完全なシーリングと回路に設けられた防護処置により少々のEMPであれば一時的な障害で済み、自己快復機能により短時間に於ける能力復帰及び回収修理が可能であったのだ。
 戦場に転がっていた様々なサンプルを解析した解析したアメリカ軍の科学分析班は次の様な結論を出した。

「回収されたサンプルの大半は核反応の熱と爆風によって破壊された物であったが、それ以外の物については核反応によって引き起こされたEMP作用ではなく、それ以前に戦場となった村で起こっていた電子機器に対する高度な干渉によって発生していた機能障害による物と思われる現象が原因であると推測される。
 明らかにEMP作用による障害によって機能停止していたロボット兵の大半は戦闘により機体の一部に損傷を受けシーリングが完全でなかった物に限定されている。
 戦場で行われていたロボットの電子頭脳に対する高度な干渉の手段は不明であるが、それが極めて効果的な物である事は確かな事であったと思われる。しかし、その当事者達の死滅により今となってはどの様な手段が取られたのかは推測の手掛かりすら存在していない。
 又これを推論するに足る、科学的手法によって解析するだけの要因は見つかっていない。
 これにより、我々アメリカ合衆国に対する敵性組織の内、「生体制御によるインビット」、及び「電磁波の活動が抑制される海洋域を活動の場とした海洋テロリスト達」の他に、「ムーのロボット」もEMP作用を元にしたEMP兵器の影響を受けにくい対象のひとつに挙げるべきであろう」 と結論しているのだ。

 彼らはここで思考を神秘学の方向へ振り向けられなかった為、日本連合の様に優れた神秘学への道を持つに至らなかったのであるがそれも仕方有るまい。
 日本連合と違って、その実在の豊富なサンプルは彼らに存在しなかったのだ。(正確に言えばTCT<タイム・クラッシュ・タウン>のオリエンタル・アーツにそのヒントがあったのだが・・・この時点で彼らはそれを見逃していたのである)
 その状況で「心霊現象による霊障によってロボットの電子頭脳は機能を失った」等と結論を出す様では研究者の正気が疑わしいと思われても仕方ないし、又実際にそう言う推論を出す者も存在しなかったのである。
 そして彼らの手の内にあった神秘学への手掛かりは自らの手でこの世から葬り去ってしまったのだ。
 結果、彼らアメリカ軍とそれに連なるチラム軍が自らそれに気付く事はなかった。
 又、このレポートだが、日本連合の優れた能力者達によってこのレポートの存在を知った日本連合の技術者、特に防衛省防衛技術研究所の第4研究室の面々にとってこの事実はパニックと成る様な衝撃的な報告となったのである。
 何故ならその時彼らはようやく実用化成った二式EMP砲の開発が終了したばかりだったからだ。
 レポートから推測すると二式EMP砲の出力では、一時的な機能停止を引き起こす事は可能であったが、決定的な障害を与えるには至らない、と言う事であった。
 その為、彼らは泣く泣く二式EMP砲の機能向上型、二式EMP砲改の研究に着手したという事である。ご愁傷様。





日本連合 連合議会


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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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