襲撃してきた敵、ムーの飛行型戦闘ロボットは実質レーダーに映らなかった為レーダー連動タイプの近接防御システムのレーザー実体弾混載式新型CIWSは火器担当員の指示にも従わず期待された防空弾幕を張れなかった。
ならばと、艦載砲の OTO-MELARA をマニュアルにて操作し敵の方向へ向けて攻撃を開始した。
各艦からまばらに放たれる目視による攻撃は本来の命中率を大幅に下回ってしまった。
そんな中、被害担当艦として過剰なまでの装備を行ったと噂されていたヤマトだけは正確に敵を捕捉していたのであった。
その正体は艦体各所に設けられた複合センサーであった。
その中のTV画像解析によってステルス性を持ったムーの飛行型戦闘ロボットを捕捉出来たのである。
ヤマトの対空パルスレーザー砲は戦場を光の帯で満たし、次々とロボットの接近を阻んでいた、が、ヤマト以下数隻の活躍だけでは充分ではなくジリジリと接近を許してしまっていたのである。
今回の戦訓は直ちに取り入れられ、各艦のセンサーに画像認識システムが組み込まれたのは云うまでもない。
他にも飛行機など比べ物にならない素早い機動を行う敵に対しての対空ミサイルとして「新ヤイヅCITY」の大徳寺財閥傘下の軍事メーカーが開発した対人誘導ミサイル「ジャコビニ流星ミサイル改」と県立地球防衛軍のサイボーグ「カーミ・サンチン」に積まれていた猪熊博士と真船博士が開発した「対怪人ミサイル」が採用される事になる。
改装の結果、複合センサーによって中近距離による防御はほぼ完璧になるのだが、敵は接舷戦闘による超接近戦を仕掛けてくる為に1メートル以上と云う超近距離でホーミングが可能なこれら対人ミサイルが活躍する事になるのだ。
現在戦闘中なので話を戻すが、並み居る護衛艦群は自慢の対空戦闘装備が無力化された上に舷側以下の海面ギリギリという死角を突かれ、むざむざ敵ロボット兵に船体に取り付かれそうになるが、その時満を持してもう一つの未確認集団が騎兵隊よろしくムーに襲い掛かった。
その機体の正体を知った参謀は司令に歓喜の声で報告した。
「司令! 未確認機群の正体が分かりました! ハルゼー艦隊からの援軍です」
「そうかっ! 直ぐに敵味方識別コードを変更し、援護射撃を開始せよ」
「はっ!」
「ターリホー! 野郎ども! 全機眼下の敵を掃討せよ!」
上空を飛行していた第1スコードロンの戦闘隊長ジョン・スミス少佐はヘルメットの暗視装置が組み込まれたH.U.D.(ヘッドアップディスプレイ)のお陰で、まるで昼間の様に見えるコクピットに感動しながら自らが操るニュームスタングの操縦桿を押し倒すと海面に向けて突撃を開始した。
超振動モーターによって回される奇妙に歪曲したマッハプロペラから音速を超える風を後方へ送りその機体を亜音速の領域にまで加速して行ったのである。
このマッハプロペラはブレードの形がブーメランの様に折れ曲がっており、付け根の辺りは通常のプロペラの原理で空気を押し出すのだが、後半の急角度に曲がっている部位の役割は通常のプロペラの原理とは異なりプロペラの付け根で亜音速にまで加速された空気の分子をブレードで直接たたき付ける事で弾き飛ばす超高真空ポンプの一種で有る分子ポンプのブレードと同じ役割を果たしている。
通常のプロペラの場合、音速に達した空気はブレードから剥離しプロペラが空気を掴めずに空周りしてしまう為にある一定の回転数より回転数を上げられないのだ、それを異なる原理を用いる事で可能にしているのである。
その為、ある一定の回転数以下では非常に効率が悪いのだが、現在の様に高速移動しているときには通常のプロペラでは考えられない様な高推進力を得られるのである。
彼のH.U.D.には海面上ギリギリを這う様に護衛艦群へ接近するムーの飛行型戦闘ロボットの姿が映し出されており、その内の一体に照準サイトがロックオンされた。
かれは迷わず安全装置を解除すると翼に固定されていた無誘導のロケット弾を発射した。
12基のロケット弾は機体の進行スピードプラス推進力で海面近くのロボットに殺到した。
炸裂弾頭のそれは大半が海面に激突し水柱を上げたが、内2発程が命中しそれを海の藻屑へと変えた。
「スプラッシュ! ィイヤッホゥイッ!」
彼は戦果を確認すると操縦桿を引き上げ機体を上昇に転じた。
軽い機体と強力な推進力を持つニュームスタングはF−16にも引けを取らない力強い上昇力を見せながら一気に高度を稼いだ。
だが、そんな彼をムーの飛行型戦闘ロボットは見逃さなかった。
重力制御機関とジェットエンジンを組み合わせた飛行型ロボットは航空力学を全く無視した形状をしながら旋回能力でニュームスタングを上回り、スピード的には互角、そして重力を無視出来る関係から上昇力では大きいアドバンテージを持っているのだ。
一機のロボットが接近してくるのを確認した彼は高度5000メートルで水平飛行に移行した。
ムーのロボットは止めを刺そうとほぼ一直線に突っ込んで来る。
機体の関係上、ロボットの主武装はレーザー光線なのだが、ロボットはそれをニュームスタングの後方から撃ちはなった。
光速で命中するそれをジョン・スミス少佐は避けきれなかったが、無垢のジュラルミン地を剥き出した金属光沢そのままの機体は意外と低出力なそれを弾き返した。
機体内部の大部分が電池で閉められている為可燃物が少ないのが幸いしているらしいが、いつまでもその状態を維持出来るはずもない。
スミス少佐は呪いの言葉を吐きながら機体を左右に振るが、ロックオンされたそれは執拗に機体に命中し続けた。
だが、ロボットの方でもその状態にだれたのか小型のミサイルの発射準備をしたのだが、後方上空から接近してきたペア機が放った機関砲の直撃を受けてミサイルを放つ間もなく煙を吐きながら落下していった。
「ジョー! 遅いぞ!」
「悪いっ! どうもこのヨーヨー戦術には慣れて無くて」
「運動性に勝る相手を相手にするんだ仕方ないだろ、次はお前が囮だ」
「うーい」
そう言うと彼の機体は下方へ降りていった、その上方でジョン少佐は無防備なジョーの後をノコノコ付いてくる敵を撃墜するべく手ぐすね引いて待ちかまえた。
この戦法は第2次大戦でP−38が優速を活かして機動性に優れた零戦を仕留める時に使用した戦法である。
本国に戻った彼らは漸く手に入れたチャンスを逃す事の無いように、過去の戦訓を勉強していたのである。
この時アメリカ太平洋艦隊の空母群より発艦した新型の戦闘機はP−51D ムスタングの後継機としてホビー用の飛行機製造会社で開発された推進式の電動プロペラ機であり、アメリカ政府から厄介払いと実験の意味も込めてここに送り込まれた「ブル・ハルゼー」その人が率いるアメリカ海軍太平洋艦隊機動艦隊戦闘機隊であった。
彼らがこの戦場に投入されると言う事実。これにはアメリカ軍がムー相手にどの様な兵器が有効か未だに掴んでいないという事
情があったのだ。
また、勇猛果敢で知られる「ブル」ハルゼーの方でも独自にムーの飛行戦闘ロボットの運動性を考慮した結果、自分達の持つ機体でも行けると判断し軍上層部へと強く訴えていた事も理由のひとつであろう。
彼らは日本連合国布哇県襲撃事件の後、暫く本国の様子が掴めなかった為布哇県海域に遊弋し、その後に日本連合の大西洋調査艦隊の派遣と共にアメリカ本国へ帰還したのだが、そこは彼らの知る「古き良きアメリカ」ではなく、銃と麻薬、そして似非エコロジーそして訴訟訴訟の嵐に法律で雁字搦めになった極めて不自由になってしまった自由の国であったのだ。
何しろ久し振りの陸に開放的になった海兵達が特別に与えられた両舷上陸の休暇で町に出た所、道でタバコを吸った禁煙法違反によって30パーセントが逮捕、道を行く女性に口笛を吹いたセクシャルハラスメントによって40パーセントが逮捕、道を無許可で5名以上の団体にて行進した治安維持法違反で10パーセントが逮捕、その他諸々で大半が警察に捕まった上に民間人による損害賠償の訴訟を受けていたのである。
結果、彼ら太平洋艦隊はアメリカ軍海軍省から重大な警告を受けていた。
その上、戦力として全くの無価値であると考えていると示唆されていた為、ハルゼーは部下達の将来を守る為にも自分達の存在意義を示さなければならなかった。
その頃、アメリカ軍はムーとの戦闘中に極少数だが、ムーの飛行ユニットである機動兵器と接触していた。
識別コードMFR−01 そのコンセプトから西側コードネームは「デリンジャー」と呼ばれていた。
全長3メートルの飛行ユニットを積んだ人型ロボットである。
それの飛行方法は、重力制御機関を積み主に推力にのみ頼った航空力学を無視した強引な飛行を行っていた。
ただ、それだけに有人機では絶対に搭乗人物が死んでしまう様なアクロバットな急激な方向転換を可能とし、格闘戦に特化した存在だと言う事が分析されていた。
武装は高出力のビーム砲ではなく出力の関係からか小型のレーザー光線砲が1門と小型誘導ミサイルが2発。
最高速度は意外に遅く遷音速域である。
アメリカ空軍はこれに対して高度に発展した制空戦闘機F−22(ラプター)によって対処した。
第2次大戦中に確立した一撃離脱戦法はミサイルの発達した昨今、現在に至るまで戦闘方法の基本であり、ドッグファイト・格闘戦は他に手段が無くなった時のみに行う下策とされている。
だが、高速で接近するラプターから撃ち出されたレーダー追尾ミサイルは敵の高い運動性と航空力学を無視した動きに翻弄され追尾しきれずに虚しく自爆する事が多かった。
たまたま近接信管が作動し、破片を撒き散らしても軽戦車に匹敵する厚い装甲に阻まれ撃破できる事は希であった。
そして最終的にドッグファイトに巻き込まれた戦闘機はまず間違いなく被撃墜となるのである。
出番を奪われ暇を囲っていたこれらの戦闘情報を検討したハルゼーは自分達にも取る戦法があると確信した。
古人曰く「戦争は数」である。
航空戦は時代が下るに連れて戦闘に参加する機体の数は徐々に少数精鋭化して行き、このアメリカの時代では10機以上の戦闘機が同時に作戦に参加する事は希であった。
それは一機当たりの値段が高い事と、コンピューター管制により一機が同時に対処できる数が格段に増えた為だが、制空権の確保の為に戦闘機を温存する傾向などから同時に大量の戦闘機を失う危険を冒さない様にと言う側面もある。
第一に命の値段が第二次大戦時に比べて格段に跳ね上がった事も重要だ。
そうこうしてミサイルによる撃墜が期待出来ない現在、迎撃の効率が格段に弱くなっている事は確実であったのだが、それに代わる有効的な手段は未だに確立されていなかった。
彼ハルゼーの指揮する機動部隊の戦闘機の戦闘方法は兵装が機関銃しか存在していない事からドッグファイトのみであり、第2次大戦時の戦法である戦闘機の戦場への大量投入が基本方針となっている。
そしてアメリカの工業力が生み出した、彼のいた時代の世界最高の戦闘機があるのだから(彼らが未だに使用し続けているのはワイルドキャットであり、ハルゼーはその後にレクチャーされた零戦の性能を未だに信じていなかった)対処できるはずと考えたのだ。
その提案が上層部に上げられた時、未知の敵に対する戦法の実験台として彼らが選ばれたのである。
その背後には彼らの命の価格がとても安い事もあった。
安く大量に促成されたパイロット達、遠距離からの誘導ミサイルによって勝負が決まるミサイル時代以前の彼らが持っていた戦術思想は命の危険と引き換えに行うドッグファイトを当然と考えていたからだ。
この時ペンタゴン(国防省)ではムーの飛行ロボットに対抗するには高運動ミサイルの開発か戦闘機自身の格闘戦能力の向上かが取り沙汰された。
そしてそれを検証する為の実験台として選ばれた彼らには、判断材料として新しい兵器が供与された。
それがムスタングの設計思想を受け継ぎながら高速戦闘を可能にした新型の格闘戦専用戦闘機である。
これは元々ホビー機としてあるメーカーが製造した物を改造したものであった。
ムスタングは航空機史上最高の能力を持ったレシプロ戦闘機として知られている。
零戦を上回る格闘能力、航続距離、上昇能力、機体剛性。
当時としては考えられない程の恐るべき性能を以て大戦初期に散々アメリカ機を痛めつけた零戦を研究して最高の技術を以て作られた戦闘機である。
そして大戦後、アメリカの民間航空機保有者達はムスタングを使い続けた。
現在に於いてもアメリカの航空ショーには多数のムスタングが飛んでいる。
だが、西暦2050年を超えた頃になると機体年齢が100年を超えてしまい、レストア技術が発展していたにも関わらず飛行可能機は2機を数えるばかりとなっていた。
そこで、彼らは航空機メーカーに代わりの機体の供与を求めたのである。
そうして民間機のメーカーが開発したのがニュー・ムスタングである。
だがその時代は石油ショック等による石油価格高騰などもありホビー機に高価なガソリンを使う余裕が社会になかった。
その替わりに発達していた超電導電池技術と小型高性能の超電導モーターを組み合わせた機体となったのだ。
今回彼ら太平洋艦隊は実験戦隊としてこのニュー・ムスタングに武装を施し、戦場に投入したのである。
第二次大戦時の勇者達は喜び勇んだが、二〇五〇年代のアメリカパイロットにしてみればミサイルも付いていない欠陥戦闘機、否、プロペラ練習機での実戦である。
唯一明るい材料と言えばどの様な高速戦闘機が登場したとしても、ドッグファイトに持ち込まれた場合のスピードは遷音速以下に落ちてしまう事だ。
由って戦術さえしっかりしていれば、まともな戦闘になると踏んだのだ。
だが、現在のアメリカでは採用されるはずのない戦術なのだが・・・この研究が進められた事の背景には軍内部で進められていたある計画が関わっていたのである。
この古くて新しい敵戦闘機にはムーの空中戦闘ロボットも手こずらされた。
何しろ超電導モーターによるプロペラ駆動の為、赤外線ミサイルでは追尾出来ないのだ。
これと似た状況は過去に存在している。
現カンボジア独立紛争時にイギリスの最新鋭ジェット戦闘機はカンボジア側が使用していたP−51Dムスタング相手に戦闘した時に赤外線ミサイルが追尾できなかった為、骨董品のP−51Dムスタングよりも高価なレーダーミサイルを使用するか、危険なドッグファイトに入るしかなかったという。
ターボプロップですらないレシプロエンジンのP−51Dムスタングが発する排気ガスの温度は当時の性能が低い赤外線ミサイルが要求する程高くない為に追尾が不可能となりミサイルが使用不可能となる事が多かったのだ。
その為に最新鋭機が危険を冒してドッグファイトを挑む事になったのだが・・・一撃離脱戦法が幅を利かしていたとは言え乱戦になってしまっては旋回スピードが早い方が生存率は高い、レシプロ機は速度が遅い分旋回半径も小さい為にレーダーにロックオンされるとレーダーレンジの範囲から逃れられず結局は被弾する可能性が高いのだが、ドッグファイトに於いては耐G性能から人間への負荷がある程度以上になる事は許されない、その為ドッグファイトと言う限定された戦闘方法に於いては皮肉な事に一概に最新鋭機が有利とは言えなくなってしまう状況が現出してしまったのである。
また、骨董品のP−51Dムスタングでも当時イギリス軍で使用していた輸送機相手には充分な戦果を挙げることが出来た為に無視することも出来なかったのだ。
しかもこのニュームスタングは原型となった牽引式のムスタングとは形状が大きく異なりエリアルールを採用した先尾翼(エンテ式)形式の機体の後方に独立した大型のエンジンブロックがひとつ設けられており、そこに2重反転式のマッハプロペラを装備していた為、急降下時の直線に於ける最高スピードは時速900キロとプロペラ機としては限界ギリギリのスピードを持っている。
所で、格闘戦の際に速度が低下するのは次の理由による。
機体に対する空気の速度が音速を超えると機体表面から空気の層が剥離してしまうのだが、翼によって揚力を得ている飛行機にとってこれは致命的な現象であった。
何故なら揚力というのは翼の上と下の空気の速度差によって圧力差を生じさせて浮力を得る物であり、羽の断面図を見れば分かるのだが翼の下面に対して上面が膨らんでおりそれが速度差となる。
しかし、マッハに近いスピードとなると機体自体は音速以下であっても翼上面の空気は先に音速を超えてしまい翼から空気の層が剥離し揚力を得る事が出来なくなってしまうのである。
また、方向舵による旋回も効きが悪くなる為に主翼に大きな2枚の垂直尾翼が設けられ旋回性能を上げている。
こうした高速飛行時にジェット機ならば音速に適した形状の翼とエンジン推力による力任せな飛行が可能だが、如何に効果的なマッハプロペラを積んでいたとしてもプロペラ推進ではそれは無理。
戦闘機の映像を見た事のある人もいるだろうが、翼端から蒸気を発生させながら旋回している場合がある。
もしもその機体がそれ以上のスピードを出すか旋回半径を縮めれば翼は空気を掴みきれずに失速して墜落してしまうだろう。
よってこのニュームスタングは最初から格闘戦に特化した速度のみを追及した性能を持っているのだ。
それによりミサイル戦闘を行わない格闘戦専用戦闘機として音速以下のドッグファイトを制する性能を持たされたのである。
それプラス、余計な電子兵装を省いた為に非常に軽量な機体でありドッグファイトに関してはF−14・トムキャットに匹敵する性能を持っているのだ。(耐G服は最新鋭の物が供与されている為、搭乗者は生のGに耐えなくても済んだ)
これが大量に投入されたのだからムーの飛行型戦闘ロボットといえども他のアメリカ軍が保有するミサイル戦闘優先で軽ステルス性能を持たせた為に格闘能力が若干低下したF−22等と戦闘を行うよりも状況が悪化したのは当然と言える。
アメリカ軍は事前の偵察衛星による敵勢力下の兵力分布をかなり精密に掴んでいた。
実際には広く薄く散らばっていた直上からの視認性に乏しい直立型のロボットの大半は見逃していたのだが、それら以外の戦力とその拠点の位置を確認していたのである。
一大反攻作戦を展開し、敵の主力をそちらに集中させて置き、その隙を突いて敵の根拠地を破壊するのがこの「テイルズ・オブ・アメリカ」の本当の目的であったのだ。
軌道降下兵団は宇宙に進出を始めたアメリカが創設した科で、以前から存在する軍事衛星を管理運営していた軌道防衛団から発展したものである。
その目的は衛星軌道上から降下強襲であり、空間戦闘は主目的ではない。
構成戦力は強襲降下艇及び護衛戦闘機と地上掃射機のセットである。
彼らの時代、降下中の上陸部隊を内包した強襲降下艇は宇宙空間では航宙戦闘機隊、惑星降下中はブロンコ2と言った護衛戦闘機によって敵機より護衛され地上に降下する事になっていた。
今回のミッションでは強襲部隊に新兵器が満載されていた。
何故なら今までは重量の制約を受け、軽装甲の歩兵戦車位しか随行が不可能であったが、エマーンから重力制御システムを手に入れた事によって重戦車を中心とした機甲師団を大型輸送船に乗せて降下させる事が可能になったからだ。
彼らは意気揚々と軌道上へ昇っていった。その行く手に待ちかまえる強敵の事を知らずに。
彼らも軌道上に展開するインビットの脅威の事は知っていたのだが、それまでは観測衛星などを積んだ非武装の化学ロケットしか上げておらず、彼らの秘蔵戦力である軌道降下兵団の実力を以てすれば軽くあしらえると判断されていたのだが・・・それは大きな誤算となって現れたのである。
今度のフライトオペレーションは北米大陸から南米大陸と言う事もあり、低軌道での弾道軌道を描くミッションとされていたのだが弾道軌道の天頂部が微かにインビットの勢力圏内を掠っていたのである。
軌道降下兵団が設立されると同時に整備された多数のロケットを同時に軌道上へ上げるミッションが可能な宇宙基地がダラス近郊に存在していた。
メキシコでの戦闘が開始されると同時に軌道降下兵団に出撃命令が下った。
コントロールルームは軌道エレベーター攻略戦以来のミッションに慌ただしさが頂点へと達していた。
だがそれは決して浮き足立ったものではなく、陽性な活気に満ちあふれた物だった。
彼らも自分達が誘導する戦力を信じており、勝利を確信していたのである。
まず第1弾として障害を取り除く目的で宇宙戦闘機がブースターによって1キロ間隔で同時に打ち上げられた。
続いて第2弾、地上掃射用のブロンコ2戦闘攻撃機が同じくブースターによって発射、天空へと消えていった。
そして本命の強襲降下艇が腹の中に重戦車を抱えながら空へと昇っていった。
最後に殿として宇宙戦闘機部隊が出撃していったのである。
待ち受ける未来も知らぬまま。