マジンを目の前にしてゲッターライガーは攻め倦ねていた。
コクピット内の神隼人、後の汎人類防衛機構ゲッターチームに於いて冷徹な戦闘指揮官と鬼のように厳しい教官を務めることになる「仏の神」(笑)は焦っていた。
「チクショウ、どうなってるんだ。切りがねえぜ」
バリアーと言う防御兵器を持つ敵に対して接近戦を禁じられたゲッターは意外と言っても良い苦戦を強いられていた。
タイムリミットは聞かされていないが、目の前でギラギラと輝くそれが、如何にも剣呑な代物であると云う事を主張し続けていた。
刻々と秒針は回っていた。
「隼人、どうする? 一か八かシャインスパークで勝負を掛けるか!?」
「そうだな・・・?! いや、その必要は無いみたいだぜ?」
「なんだって!? 」
何が隼人の気持ちを変えさせたのか、隼人は黙ってライガーを南へ向けた。
彼らの近くにある高層ビルの最上階、太陽を背負ってロボットがスックと立っていた。
「誰だ!」
「待たせたな!」
「だから誰だ!?」
「GGG所属、スーパーメガノイド・ガイガー。勇者だ!!」
「同じく、超竜神!」
「ボルフォッグゥ!!」
「勇者!? 本気か!? こいつら」
「とにかく、ここはオレ達に任せてくれっ!! トゥッ!」
ガイガーは掛け声とともに空中高く跳躍した。
ガイガーにフュージョンしているガイの掛け声は漸く復旧為ったGGGのヘクサゴンに届いた。
GGGの中枢、メインオーダールームにて機動部隊オペレーターの卯都木命は背後に控える長官へ報告した。
「大河長官! ガイよりファイナルフュージュン要請シグナルです」
ミコトが掛け声と共にコンソールに備え付けのアクリル板を叩き割り、下のボタンを押し込んだ。
それによりファイナルフュージュンプログラムがガイガーと3機のガオーマシンへ転送された。
同時にガイガーの胸部よりガオガイガーのファイナルフュージュンを阻害する敵の走査を妨害する為にGリキッドを含有する霧状のレーダー妨害ミストを放出した。
視覚、電波探知、磁気反応、重力波、そして聴覚までも全ての感覚機構の阻害を行い、敵の行動を阻止するのである。
その渦の中心にてガイガーはファイナルフュージュンを敢行した。
緑の霧が晴れるとガオガイガーは新ステルスガオーに搭載した新型の反重力エンジン・ウルテクエンジンを駆動。空高く舞い上がった。
「ミコト! ディバイディングドライバーだっ!!」
<了解っ!! 長官!>
<うむ>
<ガイ、ディバイディングドライバー射出っ! 行くわよ>
「良し、いつでも良いぜ」
<ディバイディングドライバー、射出!!>
ミコトの掛け声と共に三式空中空母からマイナスドライバーのような形をした時空歪曲ツールが射出された。
ガオガイガーは速度を増速し、それに平走するように速度を同調させた。
そしてディバイディングドライバーの最後部に右腕を宛った。
右腕が中に入ると固定用のダンパーが展開、ディバイディングドライバーと右腕を完全に固定したのである。
そのまま落下スピードを稼ぎながらエネルギーが充填されたディバイディングドライバーを大地に突き立てた。
その瞬間膨大なエネルギーが、エネルギーキャプから爆発的にディバイディングフィールド展開ブレードに押し込まれた。
解き放たれたエネルギーはディストーションフィールドとは桁違いの、ブラックホール並みの空間歪曲率を持つ反発空間(ディバイディングフィールド)が0距離空間を押し開き数秒の内に直径二〇キロにも及ぶ戦闘空間を造り上げてしまった。
地面が剥き出しのそこに2機のジンタイプ、そしてエステバリスが4機とゲッターライガーが落差五〇メートルほどのクレーター内部へ落ち込むように入ってきた。
マジンとテツジンは突然の出来事に慌てふためいたが、直ぐに集合して背中合わせになり2機のスーパーロボットと4機の人型戦闘機の攻撃に備えた。
「ガオガイガー!」
「おう、戦況は聞いているぜ。片腕のロボットを倒すんだな」
「ああ、そうだ。了解したぜ! ゲッターロボ、キミにはもう一機の方の牽制を、エステバリス隊はその援護を頼む」
「おいおい、一人で大丈夫なのか?」
「ああ、少しばかり危険な兵器を使うからな。出来るだけ離れていてくれ」
「分かったぜ! エステバリス隊は俺に続けぇ」
「ちぇっ、分かったよ! 」
そう言うとゲッターライガーは2機を引き離すために牽制のミサイルを撃った。
「ライガーミサイル!」
そのミサイルは一直線にマジンに突き進み、そのままマジンの左足を砕いた。
「なにっ! どう云うことだ、バリアーが効いていないのか?」
隼人は今までとは違い、呆気なく効果が出たことに疑問の念を抱いた。
そこへ彼の知らない老人からその場にいた全員に通信が入った。
<ワシが説明しよう。つまりじゃな>
<ちょっと待ったぁ!!>
説明を始めようとしていた老人の横から突然金髪美人のウィンドウが開き、それを遮った。
<説明ならアタシがするわ>
嬉々として説明を始めようとしていた美人に押されていた老人の窓から辛うじて、と言う感じで声が聞こえてきた。
<むー、誰じゃなキミは>
<あら、ゴメンナサイ。私ナデシコ重力制御研究・・・とこっちの説明は後回し。手早く説明するわよ。あなた達は今、先程ガオガイガーが作り出した超重力による歪曲空間内に居る訳だけど、今その空間はディバイディングエネルギーによって無理矢理広げられているの、それが元に戻ろうとするエネルギーを空間斥力アレスティングエネルギーによって保持して無理矢理支えている筈。
つまり、見かけ上は何の圧力も掛かっていないようだけど、実際は時空間的にかなりの応力が掛かっているわけ。つまり結果から云うと、その空間に於いてディストーションフィールドによるバリアーを形成しようとすると、ディバイディングドライバー以上のエネルギーを使用しなければならないの、しかし、それは不可能。と言う訳で、今敵機のバリアーは完全に消え去り無防備な状態である訳だけど、それは逆にエステバリスの保護バリアーをも消し去っていると言う事だから決して無理しないようにね。それとついでなんだけど、彼らボゾンジャンプ、つまり瞬間移動移動なんだけど、機体をディストーションフィールドで包んでから移動していたけど、今それは使えない、ホラ、さっきから2機のジンタイプは全然ボゾンジャンプしていないでしょ。止めを刺すのは今しかないわ>
手早く済ますのではなかったのか? 全員がそう思っていたが、誰もそれに突っ込まなかった。
直ぐに行動を開始しようとしたのだが、彼女はあっと口を押さえて言葉を続けだした。
<あっ、そうそう。その自爆しようとしている機体だけど、自爆用に相転移エンジンを臨界まで持ってきているようなの。下手に壊すと辺り一帯の空間が無くなっちゃうから気を付けてね。あとはぁ、特にないみたいね。明るい未来を開く科学者の鑑・イネス・フレサンジュでした>
言いたいだけ言うとイネス博士は通信を切った。
「そうは言ってもなぁ・・・どうすれば良いんだ?」
「俺に任せろっ!!」
重大な懸案に沈む一同であったが、ガイは自信たっぷりに言い放った。
「どうにか出来るのか! ガオガイガー!」
「ああ、GGGの科学力を舐めるなよ! 来い! ゴルディーマーグ!!」
彼が呼びかけると上空で旋回していた三式空中空母は四角くとにかく頑丈そうな重量級のロボットを落下させた。
それは地面の寸前でバーニアを吹かして軟着陸した。
「おおうっ! ようやく俺様の出番ってか!? 任せろ」
「うむ。いくぜゴルディー! ミコトォ! ゴルディオンハンマーだ!!」
ガイが通信を入れると直ぐさまメインオーダールームから「総理大臣許可(使用認可の委託キー)」の封印が解かれ、ゴルディーマーグはゴルディオンハンマー使用形態へと変形を開始した。
「よっしゃあ! 行くぜ」
ゴルディーマーグはロケットを噴射して重々しく空中高く昇り始めた。
或る高さ迄来ると彼の機体は二つに分離、それは以前Gアイランドで使徒ゼルエルを迎撃した時に使った超兵器、この世の全ての物質を変換作用面に於いて重力衝撃波によって光子に変換してしまう超科学の産物、ゴルディオンハンマーであったのだ。
しかし、それを扱うガオガイガーの腕に改修の跡などは見られなかった。
ゴルディオンハンマーの重力衝撃波はスーパーメガノイド・ガオガイガーと云えど完全に相殺しきれる物ではなく、前回の戦いの際に致命的なダメージをガオガイガー本体へ与えてしまっていたのである。
そこでゴルディオンハンマー使用時にガオガイガーを補助するためのツールが開発されたのである。
それが今分離したパーツのもう一方である巨大な腕と手をしたゴルディオンハンマー使用時専用の衝撃緩衝ツールであるマーグハンドである。
そして、ふたつの運用面と超AIを搭載する都合上、独自の運用が出来るようにしたのがゴルディオンハンマーとマーグハンドが合体し一人の勇者として誕生したゴルディーマーグである。
彼の超AIは促成製作する為にモデルとなる人物、火麻檄参謀の精神をコピーした物を使用していた。
その為、的確な判断を行うことが出来るのだが、それ以上にロボット3原則を軽視してしまい、短気なパーソナリティーが目立ってしまうと云うサポートツールとしては些か困ったちゃんとして誕生してしまっていたのである。
それは兎も角、マジンを仕留めるためにゲッターロボとエステバリスは共同でマジンからテツジンを引き離そうと攻撃を開始した。
先程までディストーションフィールドというバリアーによって守られ、比較的余裕のあったテツジンだが、その身を守るバリアーを剥がされた今となってはただの鈍重な機体に過ぎなかった。
その火力に抵抗できずにテツジンはヨロヨロと離れて行かざるを得なかった。
右腕のパーツを離脱させると背部のステルスガオーに収容、落下してきたマーグハンドを替わりに右腕として取り付けた。
巨大すぎる力を制御するための機構をコンパクトに取りまとめたとは言え、余りにも大き過ぎるその姿はまるでシオマネキの様に不安定であり、克つ力強さに溢れた姿をしていた。
掛け声と共にガオガイガーの全身が光に染まった。
黄金の輝きを全身に纏い、見るものを圧倒する迫力である。
ガオガイガーは掛け声を掛けるとダッシュで駆け寄り、手前でマジンの頭上の高さ迄ジャンプした。
右腕に装着したマーグハンドから光のパイルを引き出すとマジンの頭部に押し当てた。
叫びながらガオガイガーはゴルディオンハンマーをパイルに叩き付けた。
その衝撃で光のパイルはコクピットのあるマジンの頭部を貫いた。
操縦系の中枢を破壊されたマジンはそのまま立ちすくんだ。
ガオガイガーに装着されたマーグハンドの一部が延び、釘抜きの様に突き刺さった光のパイルを引き抜いた。
そのパイルと共にマジンの頭部にあるコクピットブロックが引きずり出された。
ガオガイガーはそれを左腕で抱えると巨大な右腕を振り落としゴルディオンハンマーをマジンに叩き付けた。
マーグハンドの動作は完璧だった。
又、ガオガイガーのバランサーも完全に機能していた為、この如何にもアンバランスな機体を完璧に制御仕切ったのだ。
完璧な角度でマジンに叩き付けられたゴルディオンハンマーはその作用面から重力衝撃波をマジンの機体に叩き付けその全ての物質をフォトンの固まりへと変換、マジンは完璧にこの世から消滅し、目も開けられないほど激しく眩い光が辺りを包み込んだ。
しかし!
「ガイ隊長! まだです!!」
ボルフォッグの叫びがガイの耳朶に響いた、ガイは慌てて振り返りマジンが消滅した箇所を見た。
すると相転移反応によって歪んだ空間から今にもエネルギーが溢れんばかりに明滅していたのだ。
「なんだとっ!? そうだ! 超竜神!!」
ガイが叫ぶと打って響く様に返事が返ってきた。
超竜神が腰溜めに構えていた超巨大な弾頭の弾丸が空間の穴に向けられた。
イレイザーヘッドは超振動作用によりエネルギー等を重力方向に対して垂直に巻き上げ、宇宙空間へ解放する能力を持つ。
その能力は極秘事項であったが、史上最強のメガトン級戦略核の核融合反応による爆発エネルギーでさえも物ともしない威力があった。
かつて日本政府がGGGと云う軍事組織にその超技術を独占的に保有したことによりアメリカなどの核大国が過剰に反応し、核の傘下による平和を構築していた大国らの間に緊張が走り、一時的に世界中が不穏な雰囲気に包まれたほどである。
特にこのイレイザーヘッドLLはそのエネルギーキャパシティーが大きく、直径一〇〇キロ級のクレーターを作るのも容易いエネルギーを完璧に制御仕切って見せた。
超竜神がそのイレイザーヘッドの動作中、過剰なまでに掛かる負荷に耐えられるように雄叫びを挙げた。
見る見るうちに光は弱くなっていったが、その一部が漏れただけでディバイディングドライバーによって作られたこの戦闘空間は消滅してしまうであろう事は想像に難くなかった。
既に許容量一杯まで貯め込まれていたのであろうか、長い間光は輝き続けていたが2分も過ぎる頃にようやく空間の穴は消滅したのである。
「さて、」
ガオガイガーは左手に抱えたマジンのコクピットを地面に降ろすと、あと一機残っているテツジンに語りかけた。
「お前はどうするつもりだ! 抵抗しないで投降しろ! 少なくとも同じ人間同士として話し合いをしようじゃないか!」
そう言って彼は相手からの返事を待ったがテツジンからの返事はなかった。
「ここまでか、そうそうこの空間も維持していられる訳じゃない。返事がないので有れば、今、ここでお前の機体を破壊せざるを得ないんだ。返事はどうした」
ガオガイガーは吼えるがテツジンは沈黙を守っていた。
「仕方ないな」
そう言うとガオガイガーは改めてゴルディオンハンマーを握り締めた。
第2ラウンドが開始されようとしていたその矢先、カザマ・イツキを回収に行っていたアキトのエステバリスから通信が入った。
<ちょっと待ってくれ>
「キミは?」
<ナデシコのパイロットのテンカワアキトです。今彼を説得してくれる人を出しますからもう少しだけ待って下さい!>
「彼らの知り合いでも居るというのか?」
<はい。さ、ユキナちゃんお願いするよ>
<・・・はい、ペコリ、白鳥ユキナです・・・お兄ちゃん、返事をして>
画面の中の少女が頭を下げてから呼びかけると、それまで全くアクションの無かったテツジンから返事が返ってきた。
<ユキナァ!? 何でお前がここに居るんだ?!>
<それ何だけど、ここは私達の居た世界とは違う世界なんだって。本当よ、この人達が言っている事とは嘘じゃないみたいなの。だって・・・まるでマンガの中みたいな無茶苦茶な合体をする機械があるのよ? 私達の世界じゃ考えられないじゃない、お兄ちゃん>
無線から聞こえてきたこの言葉にゲッターチームの面々は苦笑するしかなかった。
<う、うーむ。確かに我々が断念したゲキ・ガンガーの完全変形に酷似したシステムを持つロボットがあるのは確かだが・・・だが、それが悪の地球人では無いという証拠にはならないぞユキナ。現に我々の無人艦隊を痛めつけてきたナデシコがいるじゃないか>
<う、ギクギク、それはそうなんだけど。ポリポリ。と、とにかくこの人達が戦いを望んでいる事が無いというのは分かるでしょう?>
<そう言う割には過剰な戦力が備わっている気がするが>
<オロオロ。けど、この人達は危険を省みず私のことを助けてくれたし、現に直接戦闘した元一朗さんだって助けてくれたじゃないの!>
<何! 生きているのか!? 元一朗が!!>
<てやんでぃ! 勝手に殺すなよ九十九。この通り俺はピンピンしているぜ。マジンはやられちまったがな・・・>
<そうかそうか、生きていたのか。オレはてっきりマジンごと葬られたと思っていたんだが。そうか、確かにユキナ、お前の言うことも間違いでは無いようだな>
それまで親友の死に、必ず仇を取る為に、死しても引かない覚悟を決めていた九十九であったが、戦友でもある月臣元一朗が無事であることを確認した途端態度を和らげた。
だが、やられた元一朗の方はそんな気は更々無いようである。
<騙されるな九十九!!>
<元一朗?>
<幻の回、ゲキガンガー第9話「キョアック星からの逃亡者」の粗筋を思い出せ! 悪の地球人は善良そうな顔をして我々を誤魔化そうしているに違いないんだ。騙されるな>
<しかし、戦闘用アンドロイド・カーメン−7は平和を愛する心を知って真実に目覚めたんだぞ>
<あー、もうお兄ちゃんも元一朗もいつまでもマンガの話しなんかしないでよ。もう、マニアなんだから!>
<いや、ユキナ。お前も大人になればゲキガンガーの良さが分かるって>
<わたしアニメキライ!>
九十九は柔らかくユキナを説得しようとしたが、ユキナは頑として聞かなかった。
<あのー、ちょっと良いですか?>
<キミは?>
そんな木連の人間の話が続いていたのだが、そこへアキトが口を出した。
<お兄ちゃん! この人がアタシのこと助けてくれたんだよ。アキトさんにお礼を言って>
<え!? ああそれは済まない。私の大切な妹を助けていただき。どう言って言葉を出したらいいのか・・・ともかく、ありがとうアキトくん>
<いえ、当然の事っすから。それより幻の回って一体?>
<ああ、第9話、第13話、第33話の事なんだが。我々木連の先祖が月から持ち出せたビデオの中にそれらの回が含まれていなかったのでね。パンフレットや雑誌などから粗筋やキャラクターは何とか復元できたのだが、まだ誰も見たことがないんだ>
<うーん。ガイは持ってたよな?>
<おうよ! 劇場版のビデオだって持ってるぜぇ!! しかし、9話13話33話か・・・全部ゲキ・ガンガー3で名作と呼ばれる話しばっかりだな? サファイアと並ぶ人気ゲストキャラのアクアマリンと戦闘用アンドロイド・カーメン−7だろ? それにナナコさんのお兄さんのロクロウ。全部が全部敵側が味方に紛れ込んでいる内に味方を裏切るような話しばっかだ・・・よー、もしかしてアンタらの親玉が都合が悪いからって言って隠してるんじゃないのか?>
<何言ってやがる。そんな事有る訳が>
<待て元一朗。木連指導部が幻の回を自分達だけで見てるとか、そう言う噂は良く聞いたぞ>
<だから何だって言うんだ。木連は正義の味方! 悪い地球人をやっつけろってのがオレ達の使命じゃないか。どうしたんだ九十九>
<いや、彼・・・ええと君の名前は>
<俺の名は!><ジロー?>
<ヤマダジローですぅ>
<そうか。元一朗。オレは投降しても良いように思えるんだが>
<だめだ!! もしも草壁中将直々に和平の申し立てをすると言うなら兎も角>
<あ、そうそう。アタシ草壁様に地球と和平を結ぶ為の使者として来たんだった>
<なにぃ! ユキナ本当か!? それは>
<むぅ・・・ちょっと待っててね>
ユキナはポケットに無造作に突っ込んだ手紙をカメラに翳した。
<ジャンジャジャ〜ン。びしっ! お兄ちゃん、これを見て>
<おお、これは、ユキナ、これは本物なのか?>
<むむむむむ。お兄ちゃん、私の云う事が信じられないの? これは和平大使に選ばれたアタシが草壁閣下から直々に預かったナデシコ宛ての和平の書状よ>
九十九と月臣は映像を通して写し出されたその書状を唖然とした表情で見た。
木連に於いては婦女子は銃後の守りを固めるべきモノ、と言う常識があった。
確かにユキナはエリートコースを歩む木連婦女子挺身部隊の一員では有ったが、和平の大使などと言う重要な役職を与えられるとはとても信じ難かった。
それらのやり取りを見ていた、ナデシコBの星野ルリ艦長と高杉三郎太は複雑な表情であった。
後の歴史を知っている者としてはそれによって引き起こされた悲劇に心が向いてしまうのである。
その書状に誘い出されてナデシコは和平への会談へと望み、そしてそこで草壁の陰謀にはまり和平推進を願っていた白鳥九十九は親友である月臣元一朗の手に掛かったのだから。
兎も角、月臣と白鳥の両隊員は白鳥の妹、ユキナに畳み掛けるような勢いで問いかけた。
<<なにっ!?> ユキナ、それは本当か?>
<むーっ、プンスカプン! 何よお兄ちゃん。アタシの言う事が信じられないのぉ?>
<い、いや、そう言う訳じゃないが。・・・・・・分かった、では、例の戦艦に連絡を付けるとするか。ナデシコ聞こえるか!>
<はい、こちらナデシコBの星野小佐です。ナデシコAに繋ぎましょうか?>
<・・・ああ、頼む。一応私達の敵として確認していたのはそっちの方だしな。ところでさっきから声が聞こえているのだが、そこにいるのは高杉・・・か?>
<は、なんでありましょうか白鳥中佐!>
金色に染め上げた長髪を垂らし軟派な雰囲気を辺りに振りまいているその青年に、九十九は違和感を感じまくっていたのだが何故か彼があの高杉だと見抜いてしまった。
九十九は眉を顰めながらも質問した。
<キミは本当にあの高杉なのか? 秋山の部下のあの>
<ハッ、熱血・・・詳しい事は後ほど説明させていただきますが、和平成った戦後に連合宇宙軍提督となりました秋山提督の命により星野小佐の護衛任務に就いておりました。現在はナデシコBの副長を努めております>
<そうか、分かった。元一朗!>
<・・・仕方有るまい、投降するぞ。 高杉! 貴様には元優人部隊軍人として嘘偽り無く、全てを話して貰うぞ>
<ハイ、全て包み隠し無く、全てをお話しいたします>
何故か言い辛そうな顔をして答える高杉に妙な感触を得ていたが、元一朗も全てを説明されると有って納得して見せた。
・・・後に、サブロウタは3人に彼らの歴史の有様を包み隠さず報告したのであるが、その中の1項目に彼らに関連する最大の事件があった。
それは白鳥九十九・木連の英雄追悼国葬のVTRである。
そして、その事件は木連に於いては木連から持ちかけた和平への道を破壊しようと云う卑劣な悪の地球人によって英雄白鳥九十九は和平交渉の場に於いて悪の地球人によって暗殺された、と云う物であった。
しかしその実、元々和平のテーブルに着く気がなかった木連の実質的な指導者である草壁春樹の手によって引き起こされた茶番劇であった事が3人に数々の証拠と共に明示されたのである。
そして白鳥九十九をナデシコの仕業に見せ掛け暗殺を命じたのがVTRで熱弁を振るっていた彼ら優人部隊の直属の上官であり、彼らが尊敬していた草壁春樹当人であると言う事、そして実際に九十九を手に掛けたのが草壁に命じられた九十九の無二の親友を自他共に認める月臣元一朗である事を知らされた時、白鳥九十九、月臣元一朗、白鳥ユキナの3人は言葉もなかったという。
いや、一人だけ居た。
「ガガーン・・・。ブルブルブルブル。クワッ! 元一朗! あんたお兄ちゃんの友達じゃなかったの?! あんまりにも酷いじゃないの。この鬼! 悪魔! 人非人!」
ユキナはありのままの怒りを月臣にぶつけた。
しかし、月臣当人ですらそれを信じられる要素は見当たらなかったのである。
もちろん親友たる九十九も信じようとはしなかった。
「高杉! 嘘を付くな嘘を! オレが! よりにもよってこのオレが九十九を暗殺したというのかっ! てやんでぃ! ふざけるなよ篦棒メェ」
「誠に遺憾であります。しかし、これは・・・事実なのであります。嘘偽りは・・・無いのであります」
「信じられん。いや、信じられはしない。このオレが。無二の親友の九十九を?」
息も荒く彼は否定した。
尚も彼は叫んだ。
「証拠を、証拠を見せて見ろっ!! もしも嘘であると言う事が分かれば、オレは絶対にお前達を信じられない。絶対にお前達の指示には従う物か! この命が果てるともだ」
そう言う彼の目には燃えさかる真実の輝きがあった。
ふっと高杉は嘆息すると傍らのハーリーに告げた。
「ハーリー、ゆめみずき和平会談のVTRとその後のナデシコ医務室での記録を」
「いいんですか? 本当に・・・。サブロウタさん」
「仕方ないだろう! スマン。ハーリー、気を使わせるな」
「いえ、サブロウタさんこそ。ではVTR流します」
そこに流された映像こそ衝撃的な物であった。
・木連のマークが描かれた屏風が置かれた和室風の会談の席に於いて白鳥九十九は和平の要求が書かれた文書を掴み上官である草壁に喰って掛かっていた。
<・・・正義は、正義はひとつの筈です!>
<そうだ、キミの言う通り正義はひとつだ!!>
草壁が叫んだその瞬間、屏風の陰に隠れていた長髪の男が構えたリボルバーから一発の銃弾が放たれ、白鳥の白い制服に赤い染みが広がり力無く彼は畳へと伏した。
・続いて戦艦内の医務室が映し出されていた。
医療ベッドの上には力無く横たわる九十九が・・・、銃創から吹き出した鮮血を身に纏い白いシーツが胸まで掛けられていた。
傍らには白鳥ユキナ、そして彼らが知らぬ3人の男女が立って見守っていた。
ユキナはゲキ・ガンガー3の超合金を握り締め、兄に縋り付いた。
<お兄ちゃん・・・ほら、お兄ちゃんの好きなゲキガンガーだよ、もうバカにしたりしないから頑張ってぇ!>
<良く分かったよユキナ・・・ミナトさん、これを>
そう言うと彼は懐から血にまみれた小箱を取り出し、ミナトと呼ばれた女性に差し出した。
彼女はそれを開け、中の指輪を見ると感極まり更なる涙を流し出した。
<白鳥さん・・・>
表情を和らげて彼女を見た後、眉間に皺を寄せながら彼は向き直り黄色い制服を着た少年に語りかけた。
<テンカワくん、最終回、一緒に見れなくて残念だ・・・忘れるな、正義を信じる心を!>
「もういいっ! やめてくれっ!! おれは、おれは、許してくれ九十九ぉ。オレがオレがお前を」
「それは違うぞ元一朗! お前はやっちゃいない! これはオレ達が居た世界とこの世界が違うことが証明されたに過ぎない。そうだろう? 高杉ぃ!」
「そうです、白鳥少佐! 私達、そしてあなた方はそれを防ぐためにここに来たのですっ!! この悲劇を繰り返さない為に!! それで良いじゃないですか。これはあり得たかも知れない悲劇です。しかし、今ここにいるあなた方はそうはしない筈だ。月臣殿、そして九十九殿。この世界はまだ間違っていない、一緒に守りましょう。・・・・・・地球の平和を!!」
「・・・緑の地球を・・・」
「「「オレ達が守る! レッツ ゲキガイン!! 」」」
「わっはははははははっ!!」
その場にいた者達は涙を流しながら笑い続けた。
それは彼らが投降した数日の後、サブロウタから事情の説明を受けてからの事であった。
さて、ナデシコBを経由し、静岡のナデシコAへと通信が繋がった。
<お待たせしました、ナデシコ艦長のミスマル・ユリカです>
「何? ナデシコBのみならず、あの我らの宿敵ナデシコの艦長までもが、お、女だと!? そんなバカな」
<アタシ女ですけど! それが何か問題でもあるんですか?!>
ユリカは物凄く不満そうな顔をして文句を返した。
実際、木連よりも男女平等が進んでいた地球連合の人間であるミスマル・ユリカにとってこの扱いは不当な物、その物であった。
「いや、済まない。我らを痛めつけた地球の戦艦がまさか・・・いや、貴官の能力は疑うべくもない事実だ。伏して非礼をお詫びする」
<あはは、いいんですよぉ。それにこの船はあなた達を苛めたナデシコ自身ではないんです。このナデシコは。説明は受けました?>
「ああ、信じがたい事だが。別世界なのだな。この世界は」
<はい。ここでは月の反乱も起こっていませんし、第一、今私達のいる地球は特殊なフィールドに包み込まれて宇宙、衛星軌道より上に上がることが出来ません。この地球はあなた方の云う「悪の地球」ではないんです。納得してもらえましたか?>
「少し、時間が欲しい。我々はこの一〇〇年間、悪の権化地球に対し復讐することのみを目的に生きてきたのだ。おいそれとは納得することは・・・出来ない」
<構いません。我々もこの世界に跳ばされ、あなた方と同じ境遇なのですから。仲間です! 仲違いする必要なんてありません。時間を掛けて理解し合いましょう>
「分かった。直ぐに武装を解除し投降する」
<ハイッ!>