ナデシコBの艦橋にてそれを見ていたルリ、そして高杉はそれが何なのかに思い至った。
「まさか「自爆!」?」
あの時と同じだった。
当たり前と言えば当たり前だが、マジンはその体内に自爆用の相転移炉を抱え込んでいたのであった。
「高杉さん!!」
「はい、間違いなく自爆用の物です。アレが暴走したら半径50キロはクレーターになってしまいます!!」
「・・・高杉さんが説得することは本当に無理なのですか? 今ならまだ間に合い」
「残念ながら! 優人部隊の気骨として、今の自分は彼らには許されざる裏切り行為その物としてしか映らないでしょう。特にマジンパイロットの月臣元一朗殿はお堅くって」
「そうですか。しかし、エステバリスだけで間に合うのでしょうか。自爆まであとどれ位でしょう」
「恐らく最大の効果を狙うでしょうから、あと10分もせずに」
「了解しました。ではナデシコB前進させて下さい。ナデシコBのグラビティーブラストを以て敵を殲滅します!」
「しかし、それでは月臣殿と白鳥殿は・・・それにエステのパイロットのイツキ・カザマとかいうパイロットも無事では」
「分かっています。このまま、いえ、現に今も彼らは罪の無い人達に危害を及ぼしています。責任は全て私に」
ルリが悲壮な覚悟で決断を下そうとした時、コ・オペレーター席のサブ・オペレーターであるマキビ・ハリがレーダーに映る影を捕捉。分析した結果をルリに報告した。
「艦長! 北北東より急速に飛来する飛行物体3機接近中。識別信号から早乙女研究所のゲッターチームと判明しました。」
「了解、マキビ少尉。至急現場で対応しているエステバリスと連携を取って行動するように連絡して下さい」
「了解しました艦長」
ハーリーは直ぐにIFSを通じてオペレートを開始した。
目の前にウィンドウを開くと3機のゲットマシンへ通信回線を開いた。
「こちらナデシコBです。ゲッターチームの方どうぞ」
<こちらゲッターチーム、流竜馬だ。キミは!?>
「ナデシコB、サブ・オペレーターのマキビ・ハリです」
<了解。情報をくれ>
「はい。現在、戦場では敵2機、50メートル級の人型ロボット兵器と味方機6メートルの機動兵器が4機戦闘状態に入っています。ゲッターチームの方は味方機と連携して敵を無力化して下さい」
<・・・分かった。他に特記事項はないのか?!>
「はい、敵機のデーターをこれから送りますが、敵機はボゾンジャンプと云う瞬間移動を行います。それに巻き込まれると生身の人間は生きていられません。ですから格闘戦闘は可能な限り回避して下さい」
<了解したぜ。よぅし、隼人、弁慶、行くぞっ! チェエエンジ、ゲッタァアアドラゴンッッ!!! スゥウイッチ、オン!!>
竜馬の合図に従って3人が同時にボタンを押し込むと、3機のゲットマシン、イーグル号ジャガー号ベアー号はゲッターエンジンからゲッター増幅器を介して機体を構成する合金ゲッター鋼へとゲッター線を照射した。
ゲッター線を浴びた機体は見事としか云いようのない形を遂げてゲッタードラゴンへと合体変形したのである。
ナデシコB艦橋にてそれを見ていたオペレーターのハーリーは「凄い変形だなぁ、本当にアニメのゲキガンガーみたいだ」等と呑気に考えていたのであったが突然ある事に思い至り「あっ」と声を上げてしまった。
緊張してモニターを監視していたルリと高杉は緊張感を削がれた顔をして何事かと彼を振り返った。
「どうしたんです? マキビ少尉」
「今は戦闘中だぞ、少しは緊張しろよハーリー」
流石にプロである彼らにとって、今のハーリーの行動は指揮系統に支障を来しかねないと考え、教育も兼ねて少しきつめに問いかけた。
案の定緊張してしまったハーリーは返答に躊躇を覚えたのだが、何とか思い付いた事を口にすることが出来た。
「あ、ハイ。ゲッターロボの事なんですけど・・・」
「ああ、あのゲキガンモドキか・・・あ!」
ハーリーの言い始めた言葉に最初は何の事やら、と思っていた高杉であったが流石は元木連の軍人である。
木連の、いわんや優人部隊の人間にゲッターロボを見せたらどう云う反応を示すか容易に思い付いた。
「ああ! 大変です艦長」
「どうしたんですか高杉大尉」
「ゲッターロボですよ。あれだけゲキ・ガンガー3に似ているロボットを見たら優人部隊の人間が黙っているわけがありません」
「なるほど、確かにそうですね。徹底抗戦された挙げ句に自爆されては堪りませんしね。出来れば説得出来れば良いんですが、地球と木連が戦争していたあの世界なら兎も角、歴史的な確執があるわけではないこの世界でかれらとの戦闘は出来るだけ避けたいところですからね」
ルリは最適な対処方法を考えようと思考を巡らせ始めた。
さて案の定、空中で3機が合体したゲッタードラゴンを見たテツジンとマジンのパイロットの2人は激しく反応した。
優人部隊としての資質を満たした彼ら、つまり木連の聖典である「ゲキ・ガンガー3」および「熱血ロボ ゲキ・ガンガー3」に精通した精神「激我心」を体現する優れた人間、生体ボゾンジャンプ実験により生み出された最高傑作たる彼ら優人にとって、ゲキ・ガンガーに酷似した機体であるゲッターロボGは高揚心を憶えると共に、自らゲキ・ガンガーを模した機体であるテツジン、マジンに乗る者として我らのゲキ・ガンガー3を冒涜する存在として映ってしまったのである。
「いぃぃっくぞぉっ!! ゲッタァァァアビィィイイイムキャノンッ!!」
ゲッタードラゴンは機体の背後からレーザーキャノン砲を取り出すと直ぐに大口径のレーザー砲を打ち出した。
しかし、気合いを込めて撃ち出されたそれ、位相を揃えて吐き出された大出力大口径のレーザー光線はディストーションフィールドによって軽々と曲げられてしまい、背後のビル街を切り刻んだ。
<P! あ、さっき送ったデーターに入ってますけど、敵のディストーションフィールド、時空歪曲場はレーザー光線とかの光線兵器をねじ曲げてしまいますので注意して下さいね>
「・・・・・・そう言うことはもっと早く言ってくれ」
どことなく肩を落としながら竜馬は呟いた。
「仕方ない。ゲッタァトマホゥク!」
竜馬がコクピットで叫ぶと、音声入力システムが基準値以上の音声に反応しそれに応じた反応を示した。
ゲッタードラゴンの肩、マントの留め金部分の突起から巨大な斧、ゲッタートマホークが飛び出した。
すかさずその柄を掴むとゲッタードラゴンは旋回しつつマジンに向かって接近していった。
マジンも黙って見ては居なかった。
右腕を肩の高さまで掲げると肘の部分の留め金を解除、その先の部分がゆっくりと重力に引かれて落下を開始した。
その直後、切り離された腕の付け根から噴煙が吹き出し、ゆっくりと重々しくロケットパンチいや腕の形を模した大型ロケット弾はゲッタードラゴン目掛けて前進を開始したのだ、しかし!
「遅ぉおおおいっっ!! 蝿が止まるぜぇえっ! でぇえいりゃああっっ!!」
ゲッタードラゴンは迫り来る大型ミサイルの横をすり抜けるとゲッタートマホークで斬りつけた。
しばらくの間ミサイルは前進を続けていたが、空中高く上がった所で大爆発を起こして消滅した。
「今度はこっちの番だ! ゲッタァァァトマホォオウク、ブゥゥウウメランッッ!!!」
ゲッタードラゴンはトマホークを振りかぶると、渾身の力を込めてそれを投げつけた。
実体弾に弱いとは云え、ミサイル程度ならば弾き返すディストーションフィールドであったが、相手が悪かった。
ダントツの剪断力と打撃力を誇るトマホークブーメランは厚いディストーションフィールドを貫いたのだ。
危わやマジンは真っ二つに、と言う寸前でマジンは緊急ボゾンジャンプを敢行した。
マジンが消え去った空間を虚しく斬り裂き、トマホークはゲッタードラゴンの手に返った。
直ぐにどこへ行ったかと索敵するゲッタードラゴンを尻目にエステバリス隊は南南西の方向へ向けて全力射撃を開始した。
またもや跳躍直後の無防備な瞬間を捉えられたマジンは弱々しく蹌踉めき、近くのビルにもたれ掛かるように傾いた。
しかし、破壊された胸部装甲の奥から覗く相転移炉の輝きは衰える所かますます輝きを強くして行く一方であった。
<P! ゲッターロボのパイロットさんよぉ!>
「キミは?!」
<あ、わりいわりい。エステの隊長してるスバル・リョーコってんだ。よろしくな。>
「こちらこそ、で、用事は何なんだ」
<ああ、今攫座したマジンなんだけど>
「うむ、あのマシンがどうかしたのか?」
<装甲の下でギラギラしたエンジンが見えると思うけど、今自爆用のエネルギーを貯め込んでいるんだ。はやく奴を止めてくれ! 早くしないと直径100キロのクレーターが出来ちまう!>
「! 何だって!? 分かった直ぐに行く!」
リョーコの話しに驚いたゲッタードラゴンは直ぐにマジンの相転移炉を止めるべく駆け寄ったが、未だにマジンは戦闘力を失ってはいなかった。
「ゲッタートマホォクッッ! ブゥウウメランッッ!!」
止めとばかりにゲッタードラゴンがトマホークを投げつけたが、マジンの胸の菱形のシャッターが開き、そこから黒い光、空間湾曲により光が吸収されている為そう見えるのだが、グラビティーブラストが射ち放たれたのだ。
ディストーションフィールドをも貫いたトマホークだったがグラビティーブラストの直撃を喰らっては堪らずに粉々に砕け散った。
「ウオッッ!? なんて奴だ。どうする隼人、弁慶!?」
「接近戦は出来ないんだったな」
「ああ、しかも光学兵器も無効だ」
「だったら俺の出番だ。ポセイドンに任せてくれぃ」
「どうする気だ?」
「ポセイドンのストロングミサイルで一気に片を着けてやるぜ」
「・・・そうか、分かった。オープンゲェット!」
竜馬が合体解除スイッチを入れるとゲッタードラゴンは一瞬にして3機のゲットマシンへと変形分離した。
「いくぜぇぇっ! チェーンジポセイドン! スイッチオン!!」
「んー、見当たらないなぁ。あのエステはどこにあるんだ?」
アキト機はビルの間をすり抜けるようにして移動していたため道に迷ったのか、未だにアキト機と同色のピンクのエステバリスを発見していなかった。
戦場は刻一刻と移動していた為、それらに巻き込まれないように隠れて移動したのが仇になったようだ。
「あった、けど・・・撃墜されて損傷が激しい? アサルトピットは無事みたいだけど・・・中のパイロットは大丈夫なのかな」
慌ててアキトはエステバリスを着地させ、辺りの様子を伺った。
「コクピットハッチが開いている。中には・・・見当たらないな。ちょっと見てみるか・・・」
アキトは口に出して喋ることで危険な戦場に徒歩で踏み出す決意を固めた。
アサルト・ピットのハッチを開け、恐る恐るアキトは大地に立った。
「おーい、カザマさーん、誰かいませんかーって。いないなぁ。何処に行ったんだろう?」
コクピットを覗いてからそこに誰もいない事を確認すると直ぐに周りを見てみた。
辺り一帯は戦闘によって瓦礫の山と化していた。
傍らには特に後部の破損が激しい小型シャトルの残骸が物言わぬ墓標となっていた。
町中にロケットと云うそぐわない物があることが気になったアキトはそこへ駆け寄った。
彼は中を覗こうとしてハッチの縁に手を掛けた。
ぬるりとする異様な感触にアキトは己の手を見た。
コクピットハッチには、赤黒い血糊がこびり付いていた。
改めてコクピット内部を観察すると、外観はそれ程損傷は見られないにも関わらず、コクピット内部は不自然なほど損傷が激しかった。
まるで隠し持っていた小型爆弾を間違って爆発させてしまった様な惨状である。
アキトは赤く染まった己が手を呆然と見つめ、ここで起こったであろう惨劇に心を痛めた。
「間に合わなかったのか・・・オレは?!」
ここへ到着するまでの行程に必要以上に手間取り、助けられたかも知れない命を救えなかった。
心が渇く悔恨にアキトの心は苛まれた。
精神の奥底から突き上げられるような衝動にアキトは耐えられなかった。
心の奥から絞り出されるような絶叫と共に、助ける筈であったパイロットの名を彼は叫び挙げた。
「はーい、ここでーす」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ はい?」
目が点になる一瞬。
暫し呆然。
考え中。
放心状態。
再起動実施。
立ち上げ中。
ハッとしてアキトは辺りを見回した。
すると瓦礫に隠れた車の中から声がしているのに気付いた。
彼は慌ててその自動車に駆け寄り、窓の中から中を覗き込んだ。
その中には少し凹んだ天井ではあったが、閉じこめられて憔悴している女性と少女が力無くアキトを見ていた。
「あの・・・」
「アキトさん! 助けに来てくれたのですか?! でも、よくエステバリスで来れましたね。軍からは放り出されたと云いますのに」
「えっと(こっちは初対面なのに、向こうはこっちの事を知っているってのも何だか変な感じがするよな〜。まぁ良いけどさぁ)、とにかく後で説明するから。いまエステ持ってきて助けるからちょっと待っててね」
「はい、待ってます。アキトさん(ポ)」