スーパーSF大戦
  第21話木星蜥蜴

A−part





 GGGで時空間についての調査を続けていた獅子王博士らの研究チームは突然歪み始めた時空間湾曲測定器のデーターを政府危機管理政策本部に連絡、「時空融合の歪みに於ける揺り返し現象による小規模な(世界の一部の様な大規模な時空融合を伴わない、個別の対象のみの)引き寄せ現象が川崎市で発生する可能性が高い」との見解を報告した。
 事態を重く見た危機管理政策本部は関係省庁へ命令を通達、時空融合以来危機管理という物を身近に感じていた官庁は以前のお役所仕事と云う悪名を微塵も感じさせないような素早い対応を見せ、自治体が中心となって川崎市一帯から市民の避難が始まった。
 一般市民の避難が粗方終了していた午後1時頃、突然ボゾン粒子の煌めきが空間に発生し光の奔流の中から突然巨大なロボット兵器が2機と1機のエステバリス、そして小型宇宙艇が出現した。

 中のパイロット達が気絶しているのか自律行動を止めていた為、自衛隊の特殊偵察部隊が現地に赴き、密かに近接した後データー取りを行った。
 カメラに写し出された機体をデーターベースに照合し調査した所、機体の種類と所属する団体が判明した。
 小型の人型機械はナデシコと同じ機動兵器のエステバリス、大型の2機はナデシコBから報告のあった木星蜥蜴こと木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星国家間反地球連合体、略して木連で使用されているジンシリーズと判明した。
 データーから木連の兵器は地球に対して破壊活動を行う可能性が高いと言う事、エステバリスが1機含まれている事及び敵の兵器が有人兵器である事から、出来れば説得出来れば、と云う理由のため事情に通じているナデシコBの派遣を決定した。
 他には、基地が現場近くに位置し、周辺の被害を極力抑える事の出来る超技術ディバイディング・ドライバーと云うツールを有し、この前ようやく修理完了と相成ったGGGのガオガイガーと早乙女研究所のゲッターGがバックアップに駆けつける事になっていた。
 だが、丁度ナデシコは技術調査のために核融合エンジンの一部を分解していたので、大気圏内での運用が困難であった。
 低位真空を高位真空と置換することでエネルギーを得る相転移エンジンは大気圏外にて効力を発揮するように出来ていたからだ。

 ナデシコBは、ナデシコのエステバリス隊5機(内訳はスバル機アマノ機イズミ機ヤマダ機の4機と予備戦力としてテンカワ機の計5機である。正規の訓練を受けていないことから天河アキトは戦闘には参加せず予備戦力若しくは救助任務に就く事になっていた)を艦に搭載すると川崎市へと急行した。
 現場の情報を得た星野ルリ中佐と高杉は2機の巨大ロボットのライブ映像を見て驚愕していた。

「高杉大尉、これは!」
「間違いない、これはテツジンとマジン! ジンタイプと言う事は、木連の優人部隊の機体です! 川崎に現れたと言う事はもしかして」
「ええ、パイロットはあの二人だと推測できますね」

 ふたりは時代に翻弄されたふたりの優人部隊隊員の事を思い浮かべた。
 しかし、直ぐに気を取り直すと戦力分析に戻った。
 高杉は同じように現場に攫座しているエステバリスに注目していた。

「・・・ええ。しかし、このエステバリスは一体・・・? 記録からすると天河機と同じカラーリングですが」
「もしもあのゲキガンTYPE・・・いえ、ジンタイプがあの時の物なら、中に乗っているのは恐らく、えぇっと・・・カザマ・イツキパイロットです。彼女は九十九さんの操縦していたテツジンのボゾンジャンプに巻き込まれて消えてしまった筈ですが・・・ここへ来ていたんですね」

 珍しく言い淀んだルリは記憶を手繰りながら当時の状況を思い起こした。
 川崎シティに初めてジンタイプが送り込まれた時、ナデシコはX’masパーティ中であったのだが、その直前ナデシコは軍に接収され乗組員達も軍へ組み込まれていた。
 しかし、天河アキトは軍人としての資質に欠けるとされ降船、その補充要員として乗船したのが彼女、カザマ・イツキだったのだが・・・その自己紹介の後、直ぐに行われたX’masパーティにはルリは参加せずにブリッジにて警戒に就いていた為、彼女がカザマ・イツキと接触していた時間は非常に限られていた。
 しかも、ブリッジ勤務中に折角飾り付けたパーティー会場をアカツキ主催パーティーに横取りされた整備主任の瓜畑セイヤが自棄になってブリッジで騒いでいたのである。
 その時にブリッジにいたルリとアオイはウリバタケに酒を強要された為、酔っぱらって顔を赤くしていたルリの記憶からイツキのことはほとんど消え去ってしまっていたのだった。


 彼らが現場に着くのを目前にして2機のジンタイプとエステバリスも起動を果たしてしまっていた。
 地球人に恨みを持つ木連人である彼らの主目的は「悪の」地球人の住む都市を破壊する事。
 ゲキ・ガンガーを模したテツジンとウミ・ガンガーを模したマジンは胸に装備されている小型のグラビティーブラストを周りの無人のビル街に向かって掃射し始めた。
 その破壊力は絶大で、白色矮星か中性子星表面にも匹敵する激しい重力による朝夕力が構成物質に掛かり、分子構造その物から分解されてしまった。
 一撃にて高層ビルは薙ぎ倒され、中層建築物などは土台毎跡形もなく消し飛ばされてしまったのだ。
 それを見たイツキの乗るエステバリスが2機のジンタイプが振り撒く暴虐を阻止しようと攻撃を掛けるが、ジンタイプの持つボゾンジャンプによる空間跳躍とディストーションフィールドに阻まれて有効な攻撃は与えることが出来なかった。


 この時、エステバリスパイロットの風間イツキは現在の状況を完全には把握していなかった。
 ナデシコ世界に於ける西暦2197年12月24日川崎市にあるネルガル重工川崎研究所に捕獲研究されていた小型チューリップを通じ突如出現した木星蜥蜴の巨大ロボット迎撃の為、着任したばかりのナデシコから出撃し空間跳躍を繰り返すジンタイプに手を灼いた彼女が思い付いた戦法は、相手にしがみついて相手の瞬間移動を無効にしようと云う物だったのだが・・・ボゾンジャンプは通常の人間が巻き込まれた場合の再構成が出来ないのであった。
 しかし、彼女も又火星で生まれ育ったA級ジャンパーの一人でありボゾンジャンプに対して耐性を持つ数少ない人間のひとりであったのである。
 無事にボゾンジャンプから抜け出した彼女であったが、遺跡の演算ユニットでさえ予想できなかった今回のようなイレギュラーなジャンプは再構成できたのでさえも奇跡的な僥倖であり肉体的には兎も角、精神的なダメージが大きく掛かりかなりの時間気絶してしまったくらいで済んだのは幸運であったのだ。
 彼女が目が覚まし周りの状況が目に入った後、幾つかの点で異常が認識できた。
 今まで居た川崎シティーの上空には木星蜥蜴の攻撃によって損傷が進んでいた破損状況の大きいドームが掛かっていたのだが、そのドームが根こそぎ無くなっている上にビルの様子も時代が戻ったかのような様相であった。
 だが、例え状況が変化していようと目の前の巨大ロボットが市街地を破壊していることに変わりはなかった。
 律儀な性格をしている彼女は急速に減って行く電池の容量を気にしながらエステバリスの9倍近くはある巨大なテツジンに突撃を開始した。

「あなた達の勝手にはさせませんよ! 覚悟しなさい! 木星蜥蜴の巨大ロボット」

 彼女はこの状況に危機感を抱いてはいた。
 巨大なロボットが瞬間移動を行ったと思ったら味方機の姿は見えず、エステバリスのエネルギー供給がいきなり絶たれたのである。
 何しろ重力波によるエネルギー供給が絶たれたと言う事はナデシコ本体に異変があったと言う事になる。彼女の乗るエステバリスには何の異常も見当たらないのだから。
 そこから彼女はひとつの推論を弾き出した。

「つまり、敵の戦闘ロボットが予想を超える移動能力を持っていたと言う事です。とにかく相手の動きを封じなければ」

 しかし、木星蜥蜴にしてみればいきなり相手の数が1機に減ったのだ。
 ジンタイプとしての対応はディストーションフィールドの守りを固めその1機の動きに集中するだけで事足りた。
 不気味に佇むテツジンは飛びかかってきたエステバリスを片手で振り払った。

「きゃあっ!」

 腕に纏ったディストーションフィールドに弾かれてエステバリスはまるで木っ端のように弾き飛ばされ地面に転がった。
 激しい衝撃を受けたにも関わらず彼女の乗るエステバリスのアサルト・ピットは充分に役目を果たした。
 陸戦フレームは大破していたがコクピットブロックのアサルト・ピットは無傷、操縦していたイツキにも大した怪我はなかったのだ。
 一瞬意識を失っていたイツキだったが、巨大ロボットの止めの攻撃から逃れる為にコクピットから飛び出した。
 すると、大破したエステバリスの横には同時に出現していた小型宇宙艇が有ったのだ。
 彼女は慌てて巨大ロボットの様子を伺ったが、既に敵は彼女のことは眼中にない様子で市街に向けて攻撃を再開しようとしていた。
 取り敢えず危険がないと分かるとイツキはすぐにその宇宙艇のコクピットの様子を伺った。
 色ガラスの向こうに映るコクピット内部には、くてっとした感じで気絶している小柄な人影が有った。
 急いで彼女はコクピット横に設置されている緊急用のロック解除コックを捻った。
 丁度その時、エステバリスの重力波ユニットにエネルギーが届き始めたのであったが、イツキはその事実に気付くことはなかった。



 SCEBAIのある静岡から地表に危害が出ない程度のスピードで急行したナデシコBであったが、エステバリス用の重力波ビームの有効範囲が川崎市内に及ぶと同時にナデシコAから同乗した4機のエステバリスは川崎市市街地に向けてカタパルト発進していった。
 それとは別にテンカワ機には別命が与えられていた。
 極力戦闘から回避しつつ、先に現れ先程撃墜されたらしいカザマ・イツキ機と思われるエステバリスのパイロット及びエステバリスのアサルトピットの回収である。
 テンカワは目立たない様、ビル街の間を縫うように低空飛行で撃墜されたエステバリスへ向かった。



 攻撃隊を編成したリョーコを中心とした3人娘と山田(自称ガイ)は4機編隊を組みつつジンタイプに接近していった。

「ありゃ〜。ねぇガイ、本当にゲキガンガーだわ」
「ちっ、悪の宇宙人がゲキガンガーを真似したからって勝てると思うなよぉ! 俺様の正義の怒りをお見舞いしてやるぜ」
「いよっ! さっすが熱血してるじゃん」
「おうよ、俺はいつだって燃えてるぜ」

 敵に接近中だというのに脳天気に相手に対してゲキガンガーばりの会話をしている山田とヒカルにリョーコは苛立ちを覚えた。
 先日までの戦闘シミュレーションの結果から分かったのだが・・・真面目にやれば山田も強いのだ、連合宇宙軍戦闘機パイロット養成学校首席の実力は伊達ではなかったのだ。
 彼をスカウトに来たプロスペクターの採用基準は「性格に問題はあるが、実力はピカ一」である。弱いわけがないのだ。
 しかし、彼の憧れのゲキ・ガンガー3に拘る余り、行動は単純だわ、行き当たりばったりかと思えば非合理すぎる作戦を強行するわ、と余りにも無駄が多い行動が目立った。
 しかも同じくゲキ・ガンガー3に萌える天野ヒカルがそれを助長する物だからシミュレーションの結果では被撃墜率95%という余りにも芳しく無さ過ぎる結果しか出ていなかったのだ。

「うーっ」
「待てダイゴウジ、いやガイ! 」
「止めるなジョー! 俺は、俺は行かなくちゃならないんだぁ!」
「ガイ、ガイィーッ!!」
「ううぅぅーっ!!」
「あばよ、ジョー」
「いくなぁ! ガイィィッ!!」
「お前らいい加減にしろっ!! いつまでもゲキガンガーゴッコしてるんじゃねえよ」
「もー、リョーコったらノリが悪いんだからぁ、ねぇガイ」
「ああ、偽ゲキガンガーを倒すのは正義のヒーローの証だぜ。くぅうううーっ燃えるぜぇ」
「いい加減にしろよ・・・・・・これは戦争なんだぞ、あのゲキガンモドキには人間が乗って居るんだぞ! お前ら分かって言ってんのかよ!」
「分かってるさ。しかぁし! 俺の燃える正義の心には一辺の迷いもないっ! 」

 少し弱気になっているリョーコに対し彼は少しの曇りもなくそう言いきった。
 実際、戦争に参加した人間にとって最も危険な物が敵への攻撃に対する躊躇いである事は確かだ。
 殺し合いならそれが最も有効なやり方だろう。
 だが、精緻なオペレーション、現実に則した明確なイメージを求められるエステバリスの操縦にそれが通用するかは・・・実際に戦ってみなければ分からなかった。

「いっくぜぇええええっ!! ゲキガン・フレアーッ!!」



 ナデシコB艦橋ではルリと高杉がテツジンとマジンの調査を続けていた。

「高杉さん、気付いたことがありませんか?」
「はい、数点ばかり気付いたことがあります」
「ボゾンジャンプ、ですね?」
「はい。あれは遺跡の能力によって物質を時間を順行する遅延波、逆行する先進波の内の先進波のみを有する特殊なフェルミオンに対象を変換しレトロスペクト、先進波つまり時間を遡る物質に乗せ過去へ送る、そして遅延波によって望む場所と時間へ再度再構築するシステムです。この世界に遺跡が無い以上ボゾンジャンプが出来るはずがないのに」
「逆に、どう云う要因が有ればボゾンジャンプ出来るかを考えてみましょう」
「・・・そうですね、CCつまりチューリップクリスタル等を使い次元跳躍門を形成し、機体と人間の保護としてディストーションフィールドを形成。更にジンや他の無人戦闘ユニットの様に機械もしくはA級かB級ジャンパーのイメージを遺跡に届けることが出来れば、ボゾンジャンプは可能かも知れません、ですが」
「遺跡には世界を超える能力があるのでしょうか?」
「イネス博士に聞いてみないとハッキリとは言えませんが、無理じゃないっすか? 流石にそこまで便利には行かないでしょう」
「なら、話は簡単ですね。遺跡もこの世界へ来ている、そう考えるのが正直な解釈でしょうね。それが演算ユニットだけなのか火星の局冠遺跡毎なのかは分かりませんけど」
「しかし、うーん、もしかするとレトロスペクトが時空融合以前の時空まで届いていて、その時空間を経由して遺跡に届いている可能性も捨て切れませんから・・・断言は出来ませんね。でも例えそれがどう云う理由であるにせよ相克界は超えられないと思いますが、勘ですけどね。下手しなくても相克界の真ん中でボース粒子のままバラバラになるのが落ちだと思います。今度イネス博士に「説明」して貰いましょうか?」
「それだけは勘弁してって感じですね。とにかく今はデーターの収集に当たるとしましょう。それから、マキビ少尉」

 突然矛先を向けられた少年、サブ・オペレーターのマキビ・ハリは慌ててコンソールから目を離した。

「マジンとテツジンのハッキングの方はどうです? 上手く行きましたか?」
「すいませ〜ん、艦長。ボゾンジャンプの影響かも知れませんけどミリ秒単位で通信波が途切れる物で上手く行きませぇん。上手く行けば映像付きの音声通信なら問題ないと思うんですけど」
「そうですか、では出来ることをやるしかないですね。観測されたデーターは随時ナデシコAのエステバリス隊へ転送して下さい。特にジンタイプのボゾンジャンプの予想位置計算の結果は最優先でお願いします」
「はい、艦長」



 ガイの突撃から始まった4機のエステバリスの攻撃は元の世界での戦闘の様にエステバリスが翻弄されなかった事からエステバリスに有利に進められていった。
 何しろ彼らと接触したナデシコBは地球連合と木連が和平を結び、新地球連合を成していた世界から来たのである。
 彼らからもたらされていたデーターは既にナデシコAにも渡され、機体データーはすっかり皆の頭の中に叩き込まれていたのだ。
 そのジン・シリーズのボゾンジャンプだが、基本的に移動の基準は電子頭脳によって制御されており、距離と方位には一定の法則が見られていたのだ。
 つまりパイロットの意志によりボゾンジャンプしているのではなく、あくまでもパイロットは戦闘のために乗っているだけでありボゾンジャンプを行う際にはただボタンを押して跳躍を行っているだけであった。(人類補完機構世界に於ける航宙船のストップキャプテンの様な物だ)
 ジンタイプのパイロットはジャンプのナビゲートをしている訳ではないのだ。
 そしてルリ(大)達はその電子頭脳の跳躍パターンを連合宇宙軍を通じて入手しており、あまつさえ元デンジンパイロットの高杉三郎太さえ副長として乗っていた。
 神出鬼没で敵を翻弄するのがジンタイプの基本戦術である。しかしそれはジンタイプの持つ致命的な弱点をも示していた。
 木連の聖典であるアニメ、「ゲキ・ガンガー3(後に「熱血ロボ ゲキ・ガンガー3」と改名)」それを再現することが彼ら木連人の望みであり矜持であった。
 しかし、彼らの技術ベースはバッタ、ジョロ等の一桁メートルサイズのロボットの製作技術が中心であり、ゲキ・ガンガーの設定である50メートル級の人型機械を造り上げる技術を有していなかったのである。
 だが、彼らはそれを断行した。
 その結果、完成した機体は余りにも鈍重であり、機動性で地球の戦闘機には勝てない事が予想されたのだ。
 本来人型ロボットは人間と同じかそれ以上のスケールの運動性を有している事が絶対条件である。
 例えば腕を振り上げ振り下ろす、この基本動作を帝撃の2メートル超の光武も早乙女研究所の50メートル超のゲッターロボGも人間と同じかそれ以上の秒数で行うことが出来る。
 そうでなければよりスピードに優れた人型機動兵器によって喰われてしまう事が明白だったのである。
 ゲキ・ガンガー3に出てくるウミ・ガンガーを知っていた木連の技術者達がそこに気付かない訳はないのだが、何事にも政治的都合という物が存在し、優先的に働く物であるからその辺りは言わずもがなであろう。
 この世界に出現した各スーパーロボット達の機体のスケールは伊達に決められた訳ではないのだ。
 無理にゲキ・ガンガーを再現しようとした彼らはそれを補う技術、遺跡文明の超技術である時空間跳躍、相転移炉、歪曲空間場を以てその機体を補い、聖典の兵器「ゲキ・ガンガー」を完成せしめたのである。
 だが彼らと同じ遺跡技術(相転移炉と歪曲空間場)を地球側が手に入れた瞬間その優位性は消え去ってしまい、素材としてのロボットが持つ低機動の機体に優れた防御力、そして強力な武装と云う面だけが残された。
 これは攻撃機としては合格だったが、機動性に優れた敵人型戦闘機と格闘戦を行うには余りにも不利な条件だったのである。


 敵の情報から弱点を知っていたリョーコはそこを狙った。
 ボゾンジャンプした直後、エネルギー容量とフィールド展開のスピードから数秒とは云えジンタイプは全く無防備な状態を晒し出す。
 相手を攪乱翻弄する味方機が打撃専門の味方と連携を取って出現ポイントに集中砲火を浴びせれば例え重装甲のジンタイプと言えども彼らの敵ではなかった。
 しかし、今の彼女たちは完全な連携を取れているとは言い難かった。
 先程も述べた通り、山田は自分がゲキガンガーの登場人物で有るかのように振る舞いたがり「敵の弱点を攻めるなんて正義の味方のする事じゃない」と言い張って常に正面攻撃を続けていたし、アマノも「行けーっ! ガイッ! 悪い宇宙人をやっつけろー」と、それを囃し立てながら援護していた。
 今回、空戦フレームを使用しているのは山田二郎のみであり、ヒカルとイズミは陸戦フレーム、リョーコは重機動フレーム(砲戦フレーム)である。
 囮役が囮を引き受けなければリョーコの作戦は成り立たないのだ。
 いつまで経っても言うことを聞かない山田とヒカルにリョーコはブチ切れた。

「お前らいい加減に俺の言う事を聞けーっ!」
「おっとナナコさん。ここは俺様に任せとけって」
「誰がナナコさんだっ!! 山田ぁ! いい加減連携攻撃に参加しろ。ウロチョロしてると邪魔なんだよ」
「危ないガイっ! 偽ウミガンガーがアナタの事を狙ってるわ」
「おっと、こいつぁ危ないぜ。サンキュー」
「いいってことよ」
「・・・・・・・・・」

 どうやらまともに話が通じないと判断したリョーコはしかし諦めなかった。
 遂に切り札的なカードを切る気になったらしい。

「・・・おい、山田、山田二郎!」
「だーかーらーっ! 俺の魂の名前はガイ、ダイゴウジ・ガイだって何度言ったら分かるんだよ」
「秘密指令が有るんだ。秘守回線に切り替えてくれないかな(ハート)」
「(ギョッ)・・・ああ・・・分かった」
「マキ! ヒカル! 1分間保たせてくれ、コイツと決着つけるからよ」
「うん、いいよ」
「焼鳥屋で手羽頼みました、店のオッちゃん手羽焼く、オッちゃんてばやく、てばやく、・・・ね。くくくく」
「・・・・・・ヒカル、頼んだぜ」

 リョーコの重機動フレームはビル影に潜むように隠れ、山田の空戦フレームもそれに追随するように着地した。
 もちろんそのチャンスを看過する優人部隊パイロットではなかったが、イズミとヒカルの連携攻撃は伊達ではなかった。
 的確なその攻撃の前にダメージこそ受けなかった物の、前進することは完全に阻まれたのである。

「ねぇねぇ、リョーコがガイに話し着けるって何かなぁ?」

 もっともヒカルは防衛中であるにも関わらず、いつもの調子で会話していたが。

「さぁね。あの時の事と関係有るんじゃないの?」
「あの時?」

 ヒカルは首を傾げた。

「そうよ、今年の正月、新年会の次の日」

 そう言いながらイズミはふたりのいる方を見た。
 何故か山田の乗る空戦フレームはシェーッ!をしたり突然頭を抱え込んだりしていて見ていて飽きない物があったが。
 IFS(イメージ・フィードバック・システム)も難儀な物である。操縦者本人が無自覚に考えてしまった事まで追従してしまうのだから。

「私は4次会まで覚えているけど、その後のこと覚えてる?」
「えーっと、リョーコがガイに操縦が下手だとか言って、ムカピーになったガイが、生意気な奴だなお前とは雌雄を着けてやろうと思っていたんだ、とか何とか言ってたよね」
「で、アタシたちは5次会に行ってあの二人はケンカしに公園へ消えた・・・っと。何があったのかしらね。ケンカしてきたにしちゃリョーコの顔は綺麗すぎたけど」
「ガイはヘロヘロだったけどね。・・・もしかしてだけど、酔っぱらってて雌雄を決するって意味を間違えたとか・・・あははは、まさかねぇ」
「へへ、負けた方がお嫁さんだぞってか? へへへへへ」

 とか何とか言っているとリョーコと山田のエステバリスが行動を開始した。

「ヨッ、お待たせ。ジロー、囮役は頼んだからな、ドジ踏むんじゃねーぞ」
「・・・ああ。・・・チクショウ、もう絶対酒なんか飲まねぇぞ」

 返事を返す山田は陰々滅々とした雰囲気でリョーコの指示に従った。

「おおっ、ガイが魂の名前に拘らないなんて。雪でも降るかな?」
「ここの所シベリア高気圧が張り出してきてるから、当分の間は晴れよ」

 だがしかし、理由は不明だがいきなり真面目になり行動を開始した山田の動きには目を見張る物があった。
 キビキビとした機動は、2機のジンタイプを完全に翻弄していた。
 必死になってテツジンとマジンはグラビティーブラストを放つが、空戦フレームのディストーションフィールドに掠りもせずに避けられ、援護のヒカルとイズミの攻撃をコクピットのある頭部に受けてしまった。
 堪らずマジンが跳躍した。

「よぉし、ヒカル、イズミ、右斜め150メートル!」
「「りょーかい」」

 重機動フレームは別名砲戦フレームと呼ばれるほど火器が充実している。
 リョーコの指示に従ったイズミとヒカルを含めた3機のエステバリスの猛烈な火線上にまんまとマジンは出現してしまった。
 ディストーションフィールドを張る暇もなく大口径ライフルとミサイルの猛攻を喰らったマジンの胸部装甲板が剥落した。
 喜びもつかの間、剥落した装甲の下、そこには不気味に光る相転移炉の輝きが溢れていた。

B−Partへ続く




日本連合 連合議会


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