「ダークサイドとの接触」




 例によって艦長達の防衛省への出頭命令があり、艦長他3名が静岡にあるナデシコから東京への出張に行くことになった。
 その際、艦長のミスマル・ユリカはオペレーターの星野ルリに声を掛けた。

「ルリちゃん、社会科見学だよ。一緒に行こうよ」
「そうですな、確かにレポートの表示の時にルリさんがいてくれると大変に助かりますし」

 と言う艦長達の誘いに乗って首都東京へ出てきていた。
 で、レポート発表が終わると艦長達は防衛会議の参考人として出席した為ルリだけ暇を持ってしまった。

「ルリちゃんゴメン。直ぐ終わると思うからちょっと待っててくれる?」
「ホント、相済みませんねー。お詫びに今日一日に掛かった費用は私のポケットマネーから出しておきますので街にでも出て時間を潰していて下さい」
「うん、そうそう。ちょっと行くと可愛いファンシーショップもあったし、そこ行ってきなよ」
「おお、それはグッドアイデアですな。是非行ってきて下さい、お金の方は心配しなくていいですから」

 てなわけでルリはここ、吉祥寺の街をぶらついているのであった。
 艦長達の出席している会議が終わったらコミュニケに連絡が入る手筈になっているので、はぐれるとか言う心配もなかったし。

「さっさ〜みちゃん!」   ポンッ!

 昼過ぎの午後、時間が空いた為に吉祥寺の街を散歩がてら歩いていると突然後ろから肩を叩かれた。
 振り返って見ると黒髪の長い、彼女と同い年くらいの女の子が立っていた。
 彼女は知り合いと思ってルリに声を掛けたのであったが、人違いであった事に気付くと慌てて頭を下げた。

「す、すみません。私、てっきり砂紗美ちゃんかと思って。あのご免なさい!」
「いいえ、別に構いませんよ。私に似てるんですか? その砂紗美さんという方は」
「え、はい。髪型が個性的で、てっきり砂紗美ちゃんだと思ってしまって、すみません」
「いえ・・・・・・星野ルリです。アナタは?」
「あ、すみません! 美佐緒・・・です。すみません」
「いいえ、構いませんよ。では、お友達に会えると良いですね」
「はい。本当、すみませんでした」

 ペコペコと頭を下げまくる美佐緒という女の子にルリは、あんなに頭下げなくてもいいのに、と思いつつその場を去った。

 その次の日の事。

 午前5時頃、東京都吉祥寺のビル街に突然、花が咲いた。
 突然地面を割って僅か数分で数十メートルもの高さに成長したその植物は、一旦その成長を止めるとその天辺に巨大な花を咲かせたのだ。
 幸い、出勤時間前であったのでほぼ無人のビル街では死傷者の数は少なかった。
 通報により異変に気が付いた政府は直ぐにその周辺2キロの地域に警備を敷き、被害の拡大を防ぐため民間人の立ち入りを制限した。
 そして、様々な世界からの情報を有していた首相府危機管理対策本部では過去に類似の経験をした自衛官や科学者達、そして環境省自然保護庁特異生物部のメンバーを集め対策会議の開催を決定した。
 北海道の陸上自衛隊真幌駐屯地に勤務していた渡瀬の元に連絡が入ったのは、午前8時のことだった。
 彼の元に召集が掛かったのは過去にレギオンの草体との接触があった為である。

「花?」

 彼は連絡を入れに来た部下に聞き返した。

「はい、吉祥寺のビル街に忽然と現れたとの情報が入りました」
「ふぅむ、レギオン草体との関係が考えられるな・・・なに色の花だ?」
「いえ、聞いておりませんが・・・」

 太陽が高く昇り始め気温が上昇し出すとその花は黄色い粒子状のミストを放出し始めた。
 現場は既に警察と自衛隊によって封鎖されていたのだが、そのミストが放出されると警官と自衛官達は騒然となった。
 彼らの世界に於いてもあの毒ガステロ事件が発生しており、その被害の大きさはBC兵器の被害の恐ろしさについて教訓を植え付けていた。

「状況、ガス!」

 指揮官の状況判断が告げられると警備に当たっていた者達は急いで毒ガスマスクを装着し始めた。
 そのほとんどが被害に遭う前にマスクを着け終えていたのだが、風下に位置していた一部の者達はマスク装着が間に合わずそのミストを吸い込んでしまっていた。
 それを吸い込んでしまった者達は一瞬の高揚感の後に、激しい焦燥感とやり場のない激怒に駆られた。

「うううう」
「どうした松井! 早くマスクを付けろ」

 突然胸を押さえると唸りだした同僚を見て、隣でマスクを着け終わっていた警官が心配そうにマスクの装着を手伝おうと手を出した。
 すると松井と呼ばれた警官はその手を振り払い、声を掛けた同僚に殴りかかった。

「うおおおおおっ!!」
「どうした、くそっ! 完全に錯乱してやがる」

 幸い、直ぐに駆けつけた援軍によって松井巡査は直ぐに取り押さえられ、後方へと搬送されていった。
 だが、巨大な怪獣花より放出された黄色いミストが風下に向かって広がって行くに連れてその被害は民間にまで広がっていった。


 作戦会議室に集まったメンバーは各世界に於いて似たような物体に接触した経験を持つ者達が優先して集められ、意見の集約が図られていた。
 その中には現在特異生物部の部員であり、過去にはGフォースに於いて超感覚能力者として活躍していた三枝未紀の姿も見られた。

「では、モーディワープに所属する生体工学者、都古麻御博士よりあの植物体が発するミスト状の物についての分析結果を報告して貰います」
「初めまして、モーディワープの都古麻御です。あの植物体が発するケミカルミストは脳内の内分泌系を攪乱し脳内の危険シグナルを打ち続けるような性質を持つ化学物質であることが動物実験で明らかになりました、あのケミカルミストを吸い込むと極度の不安感に陥り周囲のもの全てが自分の敵であるという認識を持ってしまうように誘引する性質を持っているようです。似たような物としては麻薬の禁断症状に近い物があります、つまり分かりやすく言えば一切の快楽をもたらさない極めて粗悪な麻薬であるともいえますね。ただ、唯一の救いであるのが、あのケミカルミストは生物のしかも極めて大きい花粉が変異した物と考えられます、その為あの手の物質としては極めて大きな粒子をしています。その為に例え専用のマスクでなくとも、そう、ハンカチ一枚でも容易に症状を防ぐことが可能であるのです」
「では、一度掛かってしまった者についてはどうしたらいいのですか」
「残念ながら、瞬時に効果を打ち消す薬品は見つけられませんでした。ですが、清浄な空気にさらせば僅か10分間で正常な状態に戻るほど持続性が弱いので、患者を直ぐに後方へ連行すれば直ぐに何の後遺症もなく元の状態に戻ります」
「なるほど、都古博士大変に参考になりました。さて、それでは敵植物体についての根本的な対策について協議いたします」

 渡瀬が肯くと、傍の自衛官がコンピューター画面から映像資料を取り扱うべくファイルを操作し始めた。

「それでは映像資料をご覧下さい」

 正面のスクリーンに映し出された巨大な植物体を見た未紀は、彼女が初めてゴジラと接触した事件の時に出会ったあの生物を思い出した。

「あれはビオランテ!?」

 自衛隊側の指揮者である渡瀬は突然大声を上げた元Gフォース派遣のオブザーバーの女性に問いかけた。

「ビオ・・・何ですかそれは?」
「はい、映像資料に映っている植物ですがあれは薔薇と同じ特徴を持っている様に見えます、あの生物は私のいた世界で人工的に合成された生物、ビオランテと特長が良く似ているのです」
「人工合成・・・キメラ・・・遺伝子操作ですか」
「はい、我々の世界で最強を誇った放射能を帯びた大怪獣ゴジラ、薔薇、そして人間の遺伝子を合成して人工的に作られた怪獣、ビオランテです。ですが、黄色い花粉を放出するようなことはありませんでした、被害としてはその触手によって数人の遺伝子メジャーの放った産業スパイが虐殺された程度でしたので」
「ふむ、成る程、他に心当たりのある方は」

 こうして白熱した対策会議は続けられた。

 一方現場ではスクープを狙った悪質なマスコミの操るテレビ局のヘリコプターが警戒していた警察のヘリコプターの制止を振り切って現場に近付いていって居た。
 彼らが近付くとあの巨大な薔薇の上にひとりの人影があることに気が付いた。
 カメラマンはその人物にズームを掛けるとテレビ局に送信を始めた。
 テレビ画面では先程から緊急ニュース特番が流されていたのだが、ニュースキャスターが何やら紙を受け取ると専門家がダラダラと続けていた説明をうち切って、このスタジオから現場に映像を変えようとした。

「えー、先ほど我が社のヘリコプターによる現場からの映像が入ったようです。現場の園場さんどうぞ」
<はい、こちら吉祥寺上空の園場です。現在私達は突如吉祥寺に現れ僅か数分でビルを凌駕する高さまで育った植物の前にいます。見えますでしょうか、あの植物の天辺に巨大な薔薇の花が咲いています。先ほど私達が近付いたとき、あの花の上に人が居たことを確認しました>
「人、ヒトがあの植物の上にいるのですか?」
<はい、逃げ遅れた犠牲者が取り残されたのか、それは分かりませんが確かに10代前半の少女のような人物がいることを確認しました。我々突撃リポーターは再度接近を試みます>

 しばらく画面からはバタバタとしたヘリコプターのローター音が響き渡っていたが、カメラから送られてくる映像では徐々にその花の絵が大きくなっていることが分かった。

<あ、見えました見えました。スタジオの幹本さん見えますでしょうか。巨大な花弁の上に、え〜と、金髪に染めた長い髪とボンテージ風の衣装を着た小柄な人物の姿が見られます、あ、手を振っています。救助を待っていたのでしょうか、大変嬉しそうに手を振っています。口に手を当てて・・・何か叫んでいるようですが・・・集音マイク入りませんか? 入りますか! お願いします>

 カメラマンの横にいたディレクターが鞄からパラボラ式のマイクを取り出すゴソゴソとした音に続けてマイクを接続する雑音が響いたかと思うと、かなり雑音が混じっていたが薔薇の花の上の音声がかなり明瞭に拾い上げられていた。

<ニョ〜ッホホホホホホホォ!! ハローエブリバディー!! お間抜けな人間の方々にグッモーニン! ンッンッンッンッン! 初めましてのコンニチワー! ワターシの名前はぁ、魔法少女! ピ・・・>

 画面の中の少女が名乗りを上げようとした瞬間、突然雑音が響き渡りプツンと画像も切れてしまった。

「園場さん、園場さん? えーっとどうやら現地からの映像送信状態が悪いようなので引き続き植物の専門家である田中権兵衛博士に今回の植物についての解説を行って貰うことにします。その前にコマーシャルをどうぞ」



「って事があったのよ。結局プリティーサミーのプリティーコケティッシュボンバーで草体は枯死してしまったんだけどさぁ、あれ以来ピクシーミサもプリティーサミーも姿を現さないのよねー。一体ドコに行ったのかしら、砂紗美ちゃんと美佐緒ちゃん知らな〜い?」
「「知りませ〜ん!!」」



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