スーパーSF大戦  第19話


星野ルリの学園日誌



 こんにちは、星野ルリ(小)です。
 この度、私たちナデシコのクルーは全員が日本国立研究所SCEBAIの関連子会社である「ナデシコ重力制御機構調査会社」に移籍することになりました。
 ここの世界では重力制御が未発達だったようなので、上手いことやったなって感じです。
 それで私もナデシコの一員としてそこに移ったのですが、プロスさんが言う事には

「ルリさん、大変に申し訳ないのですがこの時代は教育の飛び級が認められていないようでして、是非この近くの学校へと通って貰いたいのですが」

 と云う事がありまして、現在私とナデシコBのサブオペレーターであるマキビ・ハリくんが私立江東学園初等部へと通っています。
 ここなら私達に見合った教育が受けられるとの事でしたので。
 確かに私には一般常識という点で見劣りするところがあるのは認めます。
 それは私と同じマシンチャイルドのハーリーくん(そう呼んで下さいとの事でしたので)と比べれば良く分かります。
 彼も本当のご両親には会った事がないとのことでしたけど、私よりもずっと明るくて活発な年相応なって感じの子です。苛めると良く泣きますし。 クスッ

(そんな・・・、ルリさんひどいよぉおおおおーっ! うええぇぇぇぇぇぇんんん)

 それと私がこのまま成長した姿が、ハーリーくんの尊敬する上司である所の星野ルリ少佐(大)となると・・・このままではいけません。
 あんな風に艦長、ユリカさんと一緒になってアキトさんの後ろを追いかけ回すなんて。バカバッカ。
 確かに一般常識とやらを身につけなければなりませんね。それも早急に。
 それは兎も角、私の通う江東学園について説明しましょう。
 元々は国立科学研究所が未来を担う科学者の育成を目的として設立された学校組織、と言うことでしたが、その元々のSCEBAIという組織がやりたい放題の結構いい加減な組織の為、学園の方の気風もざっくばらんな感じで、ナデシコに乗っていた頃みたいな感じですね。話によると都内一自由な校風で知られる私立春風高校に匹敵するとかなんとか。
 上はSCEBAIと直結した大学院から下は幼稚園までの一貫した組織となっています。
 もっとも、気風が緩やかな割に学業には厳しく、エスカレーター式って訳には行かないようです。
 現在、私とハーリー君は12才、ですから小学6年生としてランドセルを背負って登校しています。
 どこからかと云えば、ナデシコから移籍した人達用に用意された会社の寮からです。
 私の保護者は色々と揉めましたが(特にミナトさんと艦長が最後まで粘っていたようですが)ルリ(大)と成りました。
 ですが、彼女が出社している間は私も学校へ行ってますし、彼女の仕事が終わった後もアキトさんの後を追いかけ回しているようなのでなかなか会うことはないですね。
 第一、私用の個室も持ってますからそれほど接触があるわけでもないし。
 別に構わないけどね。
 そうそうアキトさんは相変わらず私に対して優しくしてくれます。
 私にとってはお兄さんみたいな感じです。多分。
 アキトさんはナデシコ寮でコックさんをしてますので、夕飯の時にチキンライスを作ってくれた時、アキトさんが浮かべた笑顔なんか見て私も自然と笑い顔を返せるようになりました。

 そう言うとき、何故か後ろにルリ(大)や艦長が立っていて私のことを引きつった笑い顔で見ている事が良くあります。  何考えてんだか。

 そうそう、それからもうひとり、最近気になるヒトが出来ました。
 私の周りの皆さんからは「暗い」とか「八方美人」とか「う〜ん、可愛いんだけど、いまいちかなぁ」なんて評価は低いんですが、そんな事ありません。
 皆はあの人の良いところを知らないだけです。
 あの人はアキトさんみたいに、笑うととても胸が暖かくなるって云うかそんな感じの人です。
 それは誰かと言うと、以前ナデシコに来た四人組の中の1人で、私と同じ江東学園に通う中等部2年生の碇シンジさんです。
 この前ナデシコに来た時から、アキトさんみたいにハッキリしない所とかが気になっていたんですが、なかなかシンジさんの取り巻きの方々のガードが堅くて近寄れません。
 ちなみにその方々は美人生徒校内ランキング(生徒会秘密委員会の秘密投票による)で中等部一位から三位を独占する惣流アスカラングレーさんと綾波レイさん、霧島マナさんの3人組です(ちなみに順位は秘密です)。
 最初の頃、シンジさんの事が何故かとても気になるので、その原因を特定するためにシンジさんに接近を試みたことがあります。
 自然に、ごく自然なシチュエーションと言うことで偶然登校が一緒になるように画策したりしましたが・・・その時は顔が赤くなってしまって「おはようございます・・・」と云うのが精一杯でした。
 そう言うわけで、私のこの反応は何より私にとって謎なのでした。
(でもハルカさんにはバレバレだったみたいですけどね)
 そこで一応名目上の保護者であるルリ(大)に相談してみました。あれでも確実に私より人生経験を積んでいると言える人ですし。
 で、この前やっと覚悟を決めた私はルリ(大)に相談しました。
 するとルリ(大)はまるで豆鉄砲(って何でしょうか)を喰らった鳩のように目を丸くして驚いていましたが、不意に顔を和らげるとこう云いました。

「小さいルリさん」
「はい、何でしょうか」

 ここで彼女は真剣味を帯びながらもどことなく笑いを浮かべた目で私を見ました。何故? しかし、次の言葉は私にはなかなか理解できない物でした。

「こう云う時は、アタックあるのみです」
「・・・・・・は?」

 アタック・・・でも私はアナタみたいにキャラが壊れてませんし、それはちょっとって感じです。

「私も初めは恥ずかしかったですよ。でも恋愛の達人であるハルカさんに色々と指導を受けた私は確信しました」

 確信・・・、ですか。でもその結果があれじゃあ。
 ハッキリ言って今のアナタは艦長と同じぐらい突飛なキャラになっているような気がするのですが。

「恋愛は格闘です。闘争なんです。特にいつの間にか周囲の女の人から好かれてしまうアキトさんのような人物を相手にするときには積極性が欠かせません」
「ハァ・・・、そうなんですか」
「ええ。まず第一に、自分が女の人に好意を抱かれている事に関して非常に鈍感な人物に対して、自分はアナタが好きです! と宣言することが必要です」
「はぁ」
「何しろアキトさんと来たら、最終回になってようやく艦長の気持ちに気付くぐらいの超朴念仁ですし。第二に、私のような美少女がアキトさんに四六時中まとわりつくことで近寄ってくる余計な虫を追い払う効果が出てくる事です」

 最終回って一体・・・・・・。それにしても良い歳して、自分のことを

「美少女ですか・・・」
「何か不服でも!?」  ギロリ
「いえ・・・何でも・・・」

 何か触れてはいけないことに触れてしまったようですね。


 何はともあれ、私はルリ(大)の言葉を受けて積極的な行動に移ることにしました。
 とは言え、いざ積極的に、と言われてもその手のことに関しては私なにも知らないんですよね、そこで私はナデシコAの(初代)思兼とナデシコBの思兼2代目の記録を調べてみることにしました。
 すると出てくる出てくる、これでもかって位の恋愛模様と云う物が出てきました。
 特に思兼2代目の方の記録はなかなか凄い物がありました。
 アキトさん、モテモテって命懸けなんですね。好かれる女性のほぼ全員が料理に関して「全滅娘」で、その上自分の料理は最高だ、なんて思いこんでるんですから。
 ホウメイガールズの・・・誰コさんでしたっけ、確かサユリさん・・・あの方を除いてですけど。
 料理人を志すテンカワさんにとって・・・・・・いいえ、最早アレは料理と言うよりも料理に擬装した化学兵器といった方が良いのかも知れません。(この前シンジさんにその事を話したら、世の中上には上が、下には下がいるんだって顔に縦線を引きながら語ってくれました。シンジさんも料理がお上手ですから特に大変ですね)
・・・・・・・ちょっと嫌な考えが浮かんでしまいました。
 テンカワさんを好きになった人々がほぼ全員全滅娘と言う事は、もしかしてルリ(大)も、更に私も料理が下手と言う事?!
 これは由々しき事態と云うべきでしょう。何らかの対処を取るべきでしょうね。
 艦長やメグミさん、リョーコさん、そしてルリ(大)達と違って私はまだまだ有り余る若さですし、何とでもなるはずです。
 まぁ、それもあって料理のプロ、それでいてお袋の味を体現している料理長のホウメイさんに指南を仰ぐことにしました。
 とはいっても朝昼晩と一日中忙しくしているホウメイさんにばっかり頼っているわけにも行かないので、基本的なところをミナトさんに習ってから取り敢えず自分用にひとり分の料理を作ってみました。
 基本はお味噌汁ですよねって事で本格的にカツヲと昆布から出汁を取って入念に作ったんです。


 ・・・駆け巡る不味さでした・・・


 本当のところは良く憶えてないんですよね。一口お味噌汁を啜ったところで記憶が無くなって居るんですから。
 翌日、いつまで経っても起きてこない私を心配してミナトさんが部屋を訪れて、ようやく真っ白に燃え尽きている私を発見して大騒ぎになってしまったそうですけど。
 それで事態の深刻さを悟ってくれたミナトさんが、「いきなりお味噌汁なんて難しいのじゃなくて、取り敢えずホットケーキから作ってみたらどうかしら」って云ってくれたので取り敢えずホットプレートを借りてきて部屋で作ってみました。
 結構簡単ですね、なんて思ってたんですけど・・・
 第1号−−−まだ焼けてない内にひっくり返そうとして・・・・・・失敗。
 第2号−−−表面は焼けてましたよ、表面は。生焼けの小麦粉ってどうしてあんなに不味いんでしょうか。・・・・・・やっぱり失敗。
 第3号−−−下拵えの大事さが身に染みました。ダマの中に封じ込まれていた粉の小麦粉が・・・小麦粉がぁ〜・・・・・・シクシク、大失敗。

「どう? ルリルリ、ホットケーキだったら簡単・・・・・・」

 タイミングを見計らっていたミナトさんが部屋に入ってきました。
 どうやら自信を付けさせるようにと簡単なホットケーキを作らせて、その出来を誉めてくれる積もりだったようですが、ベソをかいている私を見て困ってしまったように口を噤んでしまいました。

「あの、あはは。まぁ初心者なんだからドンマイドンマイ! 」

 引きつった笑いでは説得力に欠けますよ、ミナトさん。
 まぁそんな事はどうでも良いことです。
 問題なのは、この私がこんなにも料理(それ以前ですか?)が下手だったって事ですね。
 人のことは言えませんでした。
 はぁ、自己嫌悪ですね。

「ほらぁ、ルリルリってば、そんなに落ち込んじゃわないでよぅ。今まで料理したことが無くて失敗するのはおかしな事じゃない、って言うか初めからそんなに上手く行ったらホウメイさんやアキトくんの立場が無くなっちゃうでしょ。気にしない気にしない。それよりもさ、私がコツを教えるから、落ち込むのはその後でも遅くはない!」
「はい。ミナトさんて前向きなんですね」
「そんな事無いって。んー、でもまあ失敗しても次からは上手くやれば良いんだし・・・気にしてもしょうがないでしょ」
「そうですね。ではよろしくお願いします」

 ペコリ

「はぁい、よろしく頼まれましょう」

 むんっ! とばかりに胸を張るミナトさんですが、そんなに張り切って貰わなくても・・・まぁ良いですけど。
 と言う訳で、ボールにホットケーキミックスを入れて「ダマにならないようにね」と言うミナトさんのありがたい忠告を聞きながら今度こそは、丹念に練り込みました。

「ほらぁ、もうそんなにムキにならなくても良いのに。ハイハイ、それでOKよ」

・・・・・・こんな物で良いんですか。なんか拍子抜けですね。

「じゃあ、もうホットプレートは暖めてあるわね、じゃあ適量を丸い形に、食べられる量だけよ、簡単にひっくり返せる分量をお玉ですくいながら入れるのよ」
「油は引かなくていいんですか?」
「んー、だってテフロン加工してあるし、それに高いカロリーと油は乙女の体脂肪とお肌の天敵だしぃ。でしょ?」
「私分かりません。少女ですから」
「ん〜〜〜、ルリルリは成長期だから仕方ないかぁ・・・でもねぇ、成長期の終わり頃には注意しなさいよ。気が付いたらブクブクになってたりするから」

 はぁ、成る程。ミナトさんの胸もその時の後遺症ですか?

「といって成長期にダイエットすると折角ナイスバディーになる素質があっても、ガリのヒョロになっちゃうゾ」

 それって・・・。

「もしかして大きいルリの事ですか?」
「ち、違うわよ」

 そうですか・・・それじゃあやっぱり・・・

「じゃあ・・・メグミさん?」
「え゛? い、いやぁねー。そんな事あるわけないじゃないのー、もー、おほほほほほ」
「ミナトさん」
「なぁに?」
「冷や汗」

 私が指摘するとミナトさんはパッとそこを手で覆い、飛び跳ねてしまいました。

「い、いやねー。もう、ちょっと暑くない? この部屋」  パタパタ。
「そんな事はないですが、どのみち食べ過ぎで体が不調になることはありませんから安心して下さい」
「え? それは多分成長期だから」
「いえ、私は伊達に遺伝子改造処置を施した強化人間じゃありませんから。例えば人間の遺伝子を少しいじるだけで人間は癌から解放されますし、多分私の体は風邪も引かなければ脂肪の過剰摂取による内臓への脂肪付着による内臓障害にも無縁の筈です。コンピューターに常時接続されるIFS強化人間が風邪を引いたせいで宇宙戦艦が機能停止しちゃ話にならないですからね」
「ルリルリ・・・」
「対BC用のナノマシン増産内臓型プラントも生成されてますし。それから、見た目は細い体付きなんですけど、多分筋力だけだったら同年齢の女子より上の筈です。運動神経は鍛えてませんから、全然無いですけどね」

 なんならこのジュースのアルミ缶を握りつぶしてみましょうか?
 まだ蓋開けてないんで中身入ってますけど。

「ふ〜ん、そうなんだ・・・」
「ハイ。遺伝子操作されたマシンチャイルドをバケモノ呼ばわりする人達が居るのもあながち間違いと言うワケじゃ」
「でもさ・・・やってることは女の子してるよね。多少個性があった方がもてると思うゾ、シンジくんに♪」
「だ! だから論点が違います」
「そう? 何故急にルリルリが料理に興味を持ったのか、凄っご〜く、興味有るんだけど? そうぉ〜♪ 確か〜アレは〜ルリルリが碇シンジくんと一緒にぃ〜♪」

 歌わないで良いです! ましてや♪マークなんて付けなくても良いです。
 不覚でした、そう言えばあの時艦長達と一緒にミナトさんも居ましたね。
 しっかりと見られていたと言うことですか。

「だ・か・ら・いま論じなくちゃいけないのは如何にアナタ達が普通の人と違うかじゃなくって、どれだけ女の子って云う点をアッピールしてシンジくんをゲットするかじゃないのカナァ〜」   ウィンク!

 どうして、どうしてこのヒトはいつもいつも優しくなれるのでしょうか。
 まったく・・・かないませんね。


 とまぁ、そんなこんなで料理の特訓を続ける事3週間。
 少なくともホウメイガールズのミカコさん並みになったと自負しています。
 調査した結果、シンジさんにくっついている惣流・アスカ・ラングレーさんと綾波レイさんは料理をしたことがないようですし、霧島マナと言う人も同様のようです。
 と言う訳で、シンジさんは他人の手料理に飢えてるはずです。(これは整備班の人達にアンケートを採った結果、独身男性に限っては明らかな数値が弾き出されていました)
 では早速行動にでましょう。


 翌日の放課後です。
 江東学園の初等部で授業が終わってから私は中等部が終わるまで近くの公園で待つことにしました。

「あの〜、ルリさん。帰らないんですか?」

 ・・・・・・ハーリー君ですか。さっきからザンギリ頭のヒトがチョロチョロしてるから誰かと思っていましたが。なぁんだ」
「うっうっ、ルリさんひどぉぉおいよぉぉおおお!!!」

 あ、うっかり後半の言葉が口から出てしまいましたね。ご免なさい、全然気にしてなかった物ですから、って俗に言う「ハーリーダッシュ」って走り方で何処かへ行ってしまいました。
 涙を流しながら目を覆って駆けて行きます。でもどうやって前方確認しているのでしょう。
 まさか空間識調でも持っているのでは・・・いくら遺伝子改造人間とはいえ。
 それはともかく、人の話を聞かないなんていけませんね。
 後でルリ(大)に言っておきましょう。
 あ、時間です。でも何故、終業の鐘が鳴る前に校門から出てくる人達が居るんでしょうか。謎です。
 ぞろぞろと人が出てきました、直ぐに目立つ筈なんですけど、シンジさんはともかくアスカさんとレイさん、それにマナさんは。
 あ、来ました。
 シンジさんの周りにビターってくっつくようにして3人の人達が寄り添って歩いています。
 ムカッ・・・。
 ふぅ・・・少し人通りが少なくなるところで声を掛けましょう。・・・・・・ドキドキ、よく考えたら、私こう云う事するのって初めてでした。
 少し緊張してきました。
 とことことこ。ぴたり、てってって、ぴたり、とこと・・・さささっ、ピタリ、しーん。
 ふぅ、どうにか見つからずに済んだようです。
 電信柱の影に隠れているのですが・・・・・・そろそろいいでしょうか。
 では、そぉっと覗いてみましょう。

「ルリちゃん何してるの?」
 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ルリちゃん?」
「あ、あわ、あわわわ、はわわわわわ」

 あ、あっあ〜、ビックリしました。
 まさか目の前にシンジさんのドアップがあるなんて思わないじゃないですか。
 はっ! いけません。クールがウリのこの私が動転しているなんて。な、何か言わなければ。

「好きです!」
「えっ・・・?」

 え・・・な、何を言っているのでしょうか、この口は!

「じゃなくてですね! あの、つまり、その、なんですか、それが、あの、その、つまり、その」
『オレにみそ汁を作ってくれないか』
「お、オレにみそ汁をって誰ですか!?」

 後ろか!
 居ない!?
 むぅ、確かに今のはミナトさんの声だったような。

「あの、ルリちゃん?」

 は、いけません。今はそれどころでは無かったのです。
 うぅ〜、何を言って良いのか・・・・・・。

「私が考えるにはシンジさんの周りの女の人達ってシンジさんに依存してばかりでお弁当だってシンジさんが全部作っててシンジさんが大変だと思うが故に私星野ルリが無い腕によりをかけてでもシンジさんの為だけにお弁当を明日作ってきたいと思うんですけどよろしいでしょうか!!!!」

 はっ、勢いの余りとはいえ言わなくて良いことまで言ってしまったような気が・・・。
そーっと覗いてみてみると・・・・・・やっぱり。
 後ろの3人が青筋を立てて怖い目つきで睨んでました。
 ・・・・・・いえ、いっそこう云う形で宣言してしまった事は良かったのかも知れません。
 ここはひとつ、ミナトさんに聞いた女の子らしい手管で。
 くっ、俯いてから上目遣いでっと、瞳をウルウルさせながらじーっとシンジさんの瞳を見つめれば良いんでしたね。

「あ、あの・・・ご迷惑ですよね・・・。私みたいな暗い女の子がシンジさんになんて・・・ごめんなさい・・・」
「そ、そんな事無いよ! ぼ、ボクはゼヒ食べてみたいな! ルリちゃんのお弁当!」

 グッ! 流石ミナトさん。素晴らしい効果です。

「あ、あの、じゃあ早速明日から毎日作ってきますね!」
「え・・・う、うん。ルリちゃんありがとう」

 シンジさんの笑顔が眩しいです。
 某魔法少女さんだったら「はにゃ〜ん」って所でしょうか。あ、ちなみに魔法のプリンセス・ナチュラルライチじゃありませんよ。
 ふっふっふっ、もう嬉しいやらなんやらでその場を駆けだしてしまいました。
 あ、敗残者がこっちを見てますね、思わず勝ち誇った笑みが浮かんでしまいました。シンジさんに見えないことは確認済みです。ふっふっふっ!

「くぅっ・・・ちょぉっっっと待ったぁぁああ!!」

 あ、赤毛さんが呼び止めてますね。ここは無視してしまっても良いんですが。

「はいっ♪ 何でしょうか♪♪ アスカさん♪♪」

 自然に♪マークが出てしまいます。
 そんなに嫉妬に狂った顔をしてるとシンジさんに嫌われてしまいますよ。

「勝負よ!」

 勝負、ですか?

「どっちのお弁当が美味しいか、明日シンジに判定して貰うの! 負けたらシンジにお昼のお弁当作って来なくても良いわ。誰の手も借りずに自分だけで作るのよ、わかった!?」
「なんで、シンジさんと私のことなのにアスカさんが口を挟むのか分かりませんが・・・良いですよ。その勝負受けて立ちましょう」

 ゴゴゴゴゴ、とアスカさんの私の間に炎の幻影が立ち上っているようです。
 ふっ、アスカさん、本気のようですね。
 しかし、この3週間、雨にも負けず風にも負けず、特訓に特訓を重ねた私の腕前に勝てるわけがありません。
 所詮は負け犬の遠吠えなのですよ。
 返り討ちにして差し上げましょう。

「あのー、アスカ、僕の意見は」
「却下」

 あ、シンジさんいじけてしまいました、しかし、これも明日のための試練なのです。我慢して下さい。

「あのー、アスカ。盛り上がっているところ悪いんだけどぉ」
「何よマナ」
「それって一騎打ちなの?」
「あったりまえじゃないの。あ、手助けはいらないわよ。アンタの手を借りるまでもないから」
「チッチッチ、んー、別に手助けなんて考えてないわよ。ただ、わたしも参加するわ、文句無いでしょ」
「だから手助けなんていらないって」
「手助けなんて、する訳ないでしょ。私が勝ってシンジくんをゲットしたいだけ」
「なんですってぇ」
「この必殺料理人と恐れられた霧島マナの手に掛かれば、シンジくんだって一撃必殺!」

 恐れられたって・・・一体。

「なら、私も作る・・・」
「レイ、レイって、料理できるの?」
「分からない。けど、本は読んでるから・・・」

 何だか、大変なことになってしまった様です。
 シンジさん大丈夫でしょうか。
 こんな事なら、シンジさんがひとりになった所・・・と言ってもシンジさんが一人きりになる所なんて・・・お風呂場(ポッ)位ですし、仕方ないですね。

「むぅ・・・仕方ないわね。いいわ、じゃあ明日のお昼のお弁当を各自男子1食分ずつ作ってくるのよ」
「ちょちょちょっとアスカ、いくら何でも4人分なんて食べられないって」

 そうです、アスカさんも考え無しですね。

「シャーラーップ! いいから最後まで聞いて」
「う、うん」
「こほん。勝負は大食堂のホールで、それぞれ持ち寄ったお弁当の4分の1ずつをシンジに食べさせるのよ。シンジに食べさせるんだから、当然味見したいだろうし、って訳だから最初に4分の3食べた人から順番にシンジに味見して貰うの。いくら早くしたいからってあわてて食べたりなんかしたら恥掻くんだから。ね、それだったら丁度良いでしょ。グーッド、アイデーア」

 なるほど、理に適ってますね。しかし、それだと私が不利ですけど。いえ、ならばそれを逆さにとってしまいましょう。
 こう云うときは艦長の戦略眼を見習って、一番最後に出す物、そう、デザートに力を入れれば良いんです。
 うん、決まりですね。

「私は異存ありません」
「わたしも」
「私も」
「決定ね。と言う訳で、明日はシンジはお弁当作らなくても良いからね。ボケボケっとして間違って作って来るんじゃないわよ」
「わ、分かったよ・・・」   チェッ

 と言う訳で明日、お昼に決戦です。
 今日は気合いを入れて下拵えをしなくては。


 で、結局次の日、気合いを込めて作ったお弁当を持って上は大学院から下は幼等部まで集まる食堂で、衆人環視の中、料理対決は始まったのですが。
 ・・・・・・・・・結局勝負は着きませんでした。
 だって、最初にお弁当の試食を出したアスカさんが「はいシンジ、あ〜んしてぇ」なんて言いながら自分の使ったお箸で手渡しでシンジさんに食べさせる物ですから、2番手3番手のマナさんとレイさんも「はい、あ〜ん」ってやって。
 で、仕方ないですから、私も恥ずかしかったですけど、対抗上仕方なく同じようにシンジさんに「ハイ、ア〜ンして下さい」(ポッ)として食べさせざるをえなかった訳で。
 食堂の目立つところでそんな事をしていたせいで、それまで沢山のギャラリーの方たちがジーッッッと見てたんです。
 で、最後にシンジさんの口元に付いていたお弁当をパクッとやってしまったんですね、私が。
 そうしたら私達に当てつけられていた方々、お姉さま方はニヤニヤとか、「ケッ」とか、にこやかーに見守ってくれてたんですけど。
 それ以外の、つまりシンジさんの同級生以上の男性の方たちが一糸乱れぬ行動でシンジさんを取り囲んだかと思うとまるで御神輿のように担ぎ上げて、一瞬の内に何処かへ連れ去ってしまったのです。
 何故かウリバタケさん率いる整備班の方たちの姿があったように見えましたけど・・・気のせいでしょう。
 私とアスカさん達はしばらくの間、呆然としてそれを見守ってしまったのですが、気が付いたときにはもう後の祭りでした。
 私がコンピューター網で、アスカさん達は足を使って一所懸命に捜したのですが、シンジさんは完全に行方不明になってしまったのです。
 一時期はエヴァンゲリオンパイロットが誘拐されたって言う事で大騒ぎになりそうだったのですけど・・・。
 ところが次の日の朝、ヒョコっと帰ってきたらしいです。
 一応酷い怪我もなかったのでホッとしていたのですが。


 でも結局、誰のお弁当が一番だったかは聞けなくなってしまいました。
 だって、その事を聞くとシンジさんは顔を真っ青に変えて部屋の隅でガタガタと震えるばかりで何も答えてくれないのです。
 何があったのでしょうか。
 シンジさんが教えてくれない今、一切の謎となってしまいました。



 第1次シンジさん争奪戦はこうして終了しました。
 しかし、次の戦いの火蓋はすでに切られようとしていたのです。
 そう、すぐに。
 くすくす。





エピローグ




 事務室で書類仕事をしていたプロスペクターの元にページングで連絡が入った。

「プロスさん、プロスさん、面会の方がお見えになっています。至急応接室までお願いします」

 それを聞いたプロスペクターはメガネを指で押し上げると呟いた。

「来ましたか、彼女が。さて、同じネルガルの社員とは言え、火星の極冠遺跡の研究に就いているはずの彼女がどうしてココに・・・、まぁ、とにかくお会いしましょうか」

 プロスは独りごちると事務室を後にして廊下へ出た。
 そんな彼の背後にいつの間にか大柄な男が背後を守るように立っていた。

「ミスター、護衛はいらないのか?」
「ええ、大丈夫でしょう。何しろ直接の面識はありませんが彼女がネルガル火星研究所きっての天才科学者イネスフレサンジュ博士であることは確認していますし」

 まぁ、その本人がここにいることの方が興味深いところですがね。

「分かった。だが、異変があったら直ぐに飛び込むからな」
「ハイハイ、よろしく頼みますよ」

 彼が軽い口調でそう言うと大男、ゴートホーリーもプロスペクターの裏の顔を知るだけあってあっさりと引いた。
 だが、そんなプロスも応接室の前に立つとゴートと連れ立ってこなかった事を後悔していた。
 応接室の中から漂ってくる緊張感は裏稼業を経験していたプロスでもビビるほどであったのだ。
 こう云うとき、あのガタイの大きいゴートは安心感を与えてくれる。
 しかし、今更どうしようもなかった。
 覚悟を決めたプロスは営業用のスマイルを浮かべると心に錠前を掛けてリラックスした。

「えへんっ!」

 ひとつ咳をしてから彼は応接室の扉を開いた。
 応接室の中には金髪の成人女性(彼女がイネス博士であろう)とピンク色の髪と金色の瞳をした少女、そして先程から殺気とも言える程のピリピリした空気を作り出している正体不明の男、黒髪に黒マント、黒衣に黒いサンバイザーをした黒尽くめの男が椅子に座って彼の方をジッと見ていた。

「いやぁ〜、どうもどうも初めまして。私が当社「ナデシコ重力制御機構調査会社」のシャチョ〜を務めさせて頂いておりますプロスペクターという者です。どうぞよろしく、フレサンジュ博士」

 プロスは内心の緊張を全く見せずいつもの営業スマイルで彼らに対応した。
 彼はイネスに名刺を差し出した。

「あらどうも。私の事は、もう確認してるわよね。腕利きで有名なプロスペクターさん」

 あいにく名刺の持ち合わせの無かったイネスは握手でそれに換えた。

「さっそくですが、フレサンジュ博士、アナタは何故ここに」
「その件に関してはノーコメント。あなた方だって自分がどうしてここにいるかはご存じ無いのでしょ」
「ハッハッハ、これは手厳しいですな。ではもう一つの質問を」
「それは私を雇ってくれたらお答えします」
「ふぅ〜む。ま、我々も貴女がいてくれれば心強いですしね。勿論結構、貴女に有利な条件で雇用契約を致しましょう」
「ありがとう。ま、当然と言えば当然なんだけど」
「ええ、それは勿論ですよ。それで、そちらの方々は」

 プロスが残りふたり、ピンクの少女と黒衣の青年に話を向けるとイネスは言った。

「まず、この少女はラピス・ラズリ。見て貰えば分かると思うけど、ルリちゃんと同じマシンチャイルドよ」
「おや? ルリさんをご存じで?」
「それはもう。有名ですからね」
「ほほう。そうですな。彼女もご一緒に?」

 プロスがラピスも雇用するのかと訊くとイネスは首を振った。

「いいえ、これは雇用条件のひとつとして上げようとしているんだけど、彼女も研究所で育てられて普通の人と違う感性になってしまっているわ。だからアキ・・・、ラピスの保護者である彼が普通の女の子と同じ環境で育てたいって言ってね。ルリちゃんと同じ学校に入れて欲しいの」
「なるほど、それなら何とかなるでしょう。それで、その黒衣の方は?」
「彼は今言った通りラピスの保護者よ。名前は「黒衣の王子様」、かな?」
「出来れば本名を教えて貰いたいのですが」

 プロスが当惑した顔でそう告げると、それまで一言も喋らなかった黒衣の青年が一言言った。

「アンタの本名を教えてくれるならな」
「あったぁ〜。痛いところを突かれましたな。いや結構、無理して言わなくとも結構ですよ、ハイ」

 プロスは自分の額に手を当てて大げさに仰け反って見せた。

「それで、貴方も雇った方がよろしいのですかな? 実際、警備課の人員不足が多くてですねぇ」
「それは、出来ない。もうすぐオレの体は不自由になるだろう、それにオレの拳は血塗られた暗殺拳だ。警備員には向かないさ」

 黒衣の青年は淡々とした口調で語ったが、何故か拳はギリギリと音がしそうな程握り締められていた。
 プロスペクターは不思議そうな目でそれを見ていたが肩を竦めると肯いた。

「そうですか。分かりました。それで本日の宿はどうしましょうか。もし決まっていないようでしたら私達の方で手配しますが」
「そうね、じゃよろしく頼みますわ。プロスペクターさん」

 そう言うとイネスは握手を求めた。
 一連の会話が交わされている間、ラピスは不安そうな顔をして黒衣の青年のマントの裾を掴んだまま離さなかった。



 ホテルの予約を取って彼らを玄関まで送り届けたプロスペクターであったが、彼らの姿が消えるとそそくさと応接室に舞い戻り何かを探し始めた。

「う〜ん、多分ここに残っていると・・・おっと有りましたありました」

 かれは椅子の隙間に落ちていた一本の黒髪をつまみ上げ、しげしげと見つめた。

「これで彼が誰だか遺伝子照合しますとしましょうか、あ、さってさぁて〜」

 そう言うと算盤にキーボードが付いた卓上打算機のような物のサンプル投入口に件の髪の毛を差し込んだ。

「あ、そぉれぇ、あっなたぁのおーなまえ なーんてぇの?!」

 髪の毛に含まれる遺伝子のDNA解析が始まるとその小型ディスプレーに漢字や記号がズラーっと並び走り、そのデーターがナデシコのメインコンピューター思兼の膨大なデーターベースから該当人物の照合を始めた。
 何しろ裏の顔が広いネルガルが擁する最大最新鋭のコンピューターである。
 そこに納められた人物情報は、彼らの世界に限れば社会の裏の裏の者に至るまでほぼ完璧に網羅されているのだ。
 しかし、1分という長い時間の後に返ってきた返答はプロスの求めていた物ではなかった。

<< 完全該当者無し:>>
「ふぅ〜む・・・、これは彼が我々の世界の人では無いことをしめすのでしょうかねぇ」
<< ただし、98%の確率で該当する人物有り>>
「ほほぉ? ではこの遺伝子情報を持つ者とその人物が同一人物とは断定し得ない理由を述べよ」
<< 当該遺伝子サンプル提供者には、近似遺伝子情報体が持たないナノマシーンの影響があり、その期間は最低でも2年以上である。しかし、近似遺伝子情報体の遺伝子に異常、大幅な変動がない事は、定期サンプル採取が行われた先日のパイロット特別健康診断にて確認済みである。>>
「つまり、その人物はこのナデシコにのったパイロット、男性と・・・、誰ですか。それは」

 プロスペクターの脳裏には何となく確信があったが敢えて思兼に聞いてみた。
 思兼は人工知能特有の平坦な口調で回答を返した。

<< 遺伝子解析による最も遺伝子サンプルに近いと判断される人物は、エステバリスパイロット兼コックの「天河アキト」である>>
「テンカワさん!? はてさて、この前この応接室で面談した時の髪の毛、ではないですよねぇ。確か天河博士ご夫妻のお子さんはアキトさんただひとりの筈ですし。はてさて、謎は深まるばかりですなぁ」





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