スーパーSF大戦 第17話 B−PART



「あ、シンジくーん」
 一日の授業が終わり担任の先生である春麗が教室から出ていった。
 まだざわついている教室でシンジが帰り支度を始めたところ、一番新しい転校生である霧島マナがシンジに声を掛けてきた。
(ガードのメイン担当が春麗からマナにスイッチした。)
 シンジはドキッとした表情でマナを見た。
「あ、ま、マナ・・・さん。どうしたの?」
 シンジは過去に会った事にある戦略自衛隊のスパイであった霧島マナとそっくりそのままの人物に対して少し対応に困っていた。
 この世界の彼女は戦略自衛隊のスパイなどではない。
 一九八〇年代の世界から来たマナの本名はキリヤマ・マナ、地球防衛軍のエリート、ウルトラ警備隊の隊長であるキリヤマ隊長の養女である。
 だからシンジが第3新東京市で会った霧島マナとは別人なのであるが、性格も容姿も「鋼鉄の」マナに設定されていた物とほぼ変わらないためどう対応したらいい物か分からなかった。
 自分のマナとの辛い過去を気にすると悲しそうな顔をするし、あんまり親しげにすると後ろのふたりが・・・怖い目で睨んでるし。
「何びびってんのよ〜、もう。ねぇ、今日これから何か予定あるの?」
「え、ううん。特にないけど・・・」
「だったらねぇ〜、これからちょっと付き合って・・・」
「ちょっと待ったぁ!」
 マナがシンジに約束を取り付け様と画策したその瞬間、シンジの後ろから怖い目つきで睨み付けていたアスカが叫んだ。
「シーンージー、確か今日はこれから私達の買い物に付き合ってくれる約束、まさか忘れた訳じゃないわよね」
「え・・・約束って・・・」
「ネ!」
「え、そのあははははは。ハイ・・・」
 実はシンジはアスカ達に対する好意は充分あるのだが、初恋とも言うべき相手にそっくりなマナに対しても非常に関心があったのだ。この浮気者。
 その為、非常に未練はあったのだが・・・。
「へー、アスカさんは何を買いに行くの?」
「え? あ、えーとね」
 実は考え無しに言い放ってしまった為、マナの質問にアスカは慌てた。
「私とアスカは、シンジ君と共に衣料品の購入に行く約束をしていたのよ」
 そんなアスカを見かねて、後に立っていたレイが助け船を出した。
 アスカにクギを刺す必要もあったからだが。
「あ、そうそう。そうなのよ。だから荷物持ちにシンジが必要な訳。分かった?」
「よかったぁー。ちょうど私も服を買いに行くつもりだったの。一緒に行って良いでしょ?」
「う、(しまった・・・まさかこう云う展開になるとは)・・・い、良いわよ。別に」
「ラッキー! じゃあどこに行こうか。永崎屋?」
「何言ってんのよ。何でそんな量販店になんか。ブティックよ、近くのショッピングモールの」
「うえ、ブティック・・・お小遣いが・・・」
「無理なら別に来なくても構わないわよ。私は」
「むぅ〜・・・いいわ」
「あっそ。じゃあまた明日ね」
「じゃなくて、いいわ、行くわって意味よ」
 アスカ:(チッ・・・しつこい奴。)
 マナ:(ここで離されたら、隠れて尾行だものね。それにしても今日出かけるって話は聞いてないけど・・・ハハン、アスカは私と碇シンジが同行する事に嫉妬している訳ね。了解了解)
「じゃあそう言うことだから、シンジしっかり付いて来るのよ」
「うん、分かったよ」  はぁ
 シンジは溜め息をつくとパワフルな3人娘の後ろに付き従い歩いていった。


 シンジ達は少し遠出して富士市の富士駅前の街を歩いていた。
 とは言え実際に目当ての物があったわけでもなく、ほとんどウィンドウショッピングになってしまっていた。
 アスカとマナは積極的に動き回り、飾り窓から見える素敵な商品に目を奪われていた。
 一方レイはそんなふたりの後ろについてチョコチョコと歩いていたが、きらびやかな衣装などには大して興味がないようであった。
 そしてシンジはそんな3人の後を付いていっていた。
 だがハッキリ言ってシンジはだれていた。
 自分に興味のないことを無理に他人に合わせて付き合うという物は意外に気力を使う物なのだ。
 夕飯の買い物もあるのに、等と考えていると道を歩いていた外国人と目が合ってしまった。
 彼らは何か不安げな表情をして、誰か声を掛けやすそうな人を物色していたのだ。
 シンジはどうやら彼の眼鏡に適ったようだ。
 彼は眼鏡をキラリと光らせるととなりの女の子の手を引いてシンジに歩み寄ってきた。
 シンジは緊張した。
 シンジに近寄ってきた彼はシンジと同じく14歳くらいの少年であったし、となりの女の子もやはり同い年だろう。
 しかし、男の子は白人。となりの女の子と来たらまるでサーカスから飛び出してきたような活動的?なヘソ出しルックをしていた。
 彼女の出身はどこかと聞かれたら印度と答える人が50%、阿弗利加と答える人が50%と云う所だろうか。エキゾチックに不思議な印象を与える容姿をしていた。
 もっとも、彼女の側には子供のライオンが座っていたのでアフリカ系と答える人が多いかも知れないが。
<あ、あいきゃんのっとすぴーきん、いん、いんぐりっしゅで良いんだっけ?>
 シンジは取り敢えず英語がしゃべれないことをアピールするためI can’t speaking English.というつもりだった。
「パルドン ムスィユ、 ウ エスク ジュ スュイ?」(あの すみません おにいさん、ここってどこなんですか?)
 ・・・フランス語だった。
 英会話が得意ではないシンジであったが、彼の喋っている言葉が英語でないことだけは理解したようだ。
 折角用意したセリフもコレでは出せない。シンジは進退極まった。
 だがここにシンジが見落としている事がひとつあった。
 彼の同居人にはドイツ語と英語がしゃべれる頼れる女の子が居たではないか。
 ?フランス語喋られるのかな?
「ナニナニどうしたのシンジ」
「あ、アスカ。助かった。あとよろしく!」
 固まってしまったシンジに気付き不審に思ったアスカが戻ってきた。
 彼女はシンジから事情を聞くと取り敢えずアスカは目の前に立っている不審な2人に声を掛けてみることにした。
 しかし、やはりどことなく怪しい格好をしている。
 女の子は先程述べた通りだが、男の子の方も妙に時代がかった古くさい格好なのだ。
 ファッションと言えばそれまでだが、とてもファッションに気をつける様な人物に見えないし。
「ハロー」
「ボンジュール」
 基本的にフランスの一地方ルアーブルで生まれ育ち、その土地から出たことのないジャンはフランス語以外を喋ることが苦手であった。
 実は彼の父は大西洋航路の船長で、ジャンも英語くらいは喋られるように努力はしていたのだが、努力が結果に結びついてこなかったのだ。
 それでも挨拶してきたことは分かるので彼は返事を返した。
 だが、彼の横にいた女の子はそれを指摘した。
「ヘイ ジャン、シースピーキンギングリッシュ」
「ウィ ヴ ザヴェ レゾン。 ナディア ジェ ブゾワン ドゥ ヴォートル エード」
「ウィ、ウィ。ジャン」
 彼と共に歩いている女の子、ナディアは小さい頃にサーカスに売られて世界各国を渡り歩いてきた経験を持つ。
 その為、英語、仏語、独語、伊語、西班語、露語等の主要欧州言語を喋ることが出来る。
 そんな彼女はサーカス用の衣装そのままの格好であったが、胸に光る青い宝石が印象的だ。
「ヘロゥ、マイネーミズ ナディア」
「OK ナディア、マイネームイズ So−ryu ASUKA Langray」
 ナディアが差し出した右手をアスカは握り返した。
 で、ここからは日本語表記とします。喋れない言葉が書けるか!
『で、何のようなのナディア』
『それがどう言って良いのか分かんないんだけど。ここって何処の国なの?』
『はぁ? どこって・・・』
『何か分かんないけど、気が付いたらここに立っていたのよね。で、歩いてるのは東洋人ばかりだから噂に聞く上海かなって思って話し掛けたら誰も話を聞いてくれないんだモン。まったく失礼しちゃうわ』
『あはは、日本人て英語が苦手だから』
 ちなみに、シンジを除くふたり、霧島マナは国際機関TDFの幼年学校での使用会話は英語であったし、綾波レイもネルフ内では英語環境も整っていたため普通に喋ることが出来た。
 それはともかくここが日本と聞いたナディアは驚きの表情を浮かべた。
『ええーっ、ここがあの神秘の国日本なの? でも変じゃない? 』
『どうして』
『だって誰もあの変な髪型、ちょんまーげをしていないじゃない、代わりにみーんな暗ーい色の制服なんか着てるし。わたしこの前パリで、うきよーえグラフィックを見たから日本人の事は知ってるんだからね。』
『あのね、世界に冠たる科学技術立国たる日本がいつまでもそんな格好している分けないでしょーが。一体いつの話よ』
『いつってこの世紀末、19世紀の話に決まってるでしょ! 失礼しちゃうわね』
『・・・・・・・・・ちょっとナディア、あなたここに来るまでいつの何処にいたわけ?』
『1889年の大西洋よ。詳しい場所は知らなかったけどね』
『そう、じゃあこの世界に来てまだ間もない。何も知らない訳ね』
『・・・(ブスッ)そうよ、訳分からなくて混乱してるんだから』
『なら、私達と一緒に来なさいよ』
『どう云うこと?』
『そうね、じゃあ少し説明してからの方がいいか・・・』
『ええ、説明してもらえるなら嬉しいわ』
『分かったわナディア』
 アスカが振り返るとマナがシンジの側でアスカ達の会話を通訳していたようで、シンジも何となく事情は分かったようだ。マナに囁かれて顔が赤くなっていたが。
 アスカはツカツカとマナに歩み寄った。
「ちょっとマナ、アンタ何してたのよ」
「ん? シンジくんに説明よ」
「私がするからアンタはいいのよ」
「ええー、アスカのケチ」
「なんですってぇ」
「おこっちゃいやん」
「むぅぅぅ・・・ま、いいわ。買い物は中止してもいいわよね」
 アスカが3人に告げると皆うなずき返した。
 それはそうであろう。この時空の混乱に巻き込まれた者達は皆、全員が他者の支援を必要としたのだ。
 自分たちがそれを受けて来た者は、他の者たちの同種の不安を感じ易い、彼らは出来るだけの事をしようと云う気になっていた。
「と、言う事でマックにでも入りましょう」
「えー、マクド? ロッテは?」
「ロッテ(4機編隊)?」
 彼らは近くの赤地にMのマークの店に入っていった。
『ナディア、ここは私達が奢るから』
『ありがとう。でもここってハンバーガーの店でしょ』
『ええそうよ』
 それを聞いたナディアは顔を顰めて店員が理解したら反論したくなるような事を言った。
『ハンバーガーって豚とか牛の肉を使ってるんでしょ。残酷だわ』
 店員は、ウチは牛肉100%ですって言うだろう、か。
『残酷って・・・アナタも菜食主義者なワケ?』
『アナタもって事はアスカもベジタリアンなの?』
『ううん、私じゃなくてレイなんだけど』
『私は、血の臭いがキライだから・・・』
『でしょお? 生き物をコロスなんて残酷よね』
『別に生き物を殺すのが嫌な訳じゃないわ。ただ、血の味を思い出すのが厭わしいだけだから』
 この発言にナディアは少しビックリしてしまったようだ。
 だが、同じ菜食主義者のレイにここでの肉以外の食べ物の注文リストを教えて貰ったので、特にその事には触れなかった。
 ナディアはそのままの形をしていなければ魚は大丈夫なようであった。
 彼女の場合、ただの偏食に理屈付けしただけのような気がする。
 それはともかく、トレーにハンバーガーやフライドポテト、コーヒーを乗せて2階席へ移った。
『ねぇねぇナディア』
『なにジャン?』
『この食器使っている素材って何なのかな? 初めて見るよ』
『ふーん、そういえば初めて見るわね。ちょっと聞いてみるわ』
 ともかく一〇〇年分の技術格差は凄い。
 ジャンの生きていた時代には合成樹脂は存在していなかったのだから。
 もっとも、ノーチラス号は硬化テクタイトやダイヤモンド繊維や構造不明の宇宙金属(スペースチタニウム)、果ては対消滅エンジンと云った超科学の文明、身長五〇メートルの実験用人間・人類の始祖アダムを作った星間文明が残した発掘潜水艦であった。つまり、文明度で云えば発泡スチロールよりあちらに感心すべきだろう。
『ねぇ、アスカ』
『なに? やっぱり食べられないの?』
『ううん違うわ。ただ、ちょっとね。このお皿とかコップって紙じゃないわよね』
『あ、それね。それは石油から作った合成樹脂(Plastick:プラスティック)よ』
『プラスティック?(Plus−Tick?)』
『そ、石油を分解して添加物を加えて色々やって合成した化学物質ね』
『・・・(ヤダ、聞き間違っちゃうなんて)ふ〜ん、でも石油の味なんてしないけど』
『当たり前でしょ、あんな味したら使い物にならないじゃん』
『でも・・・なんか不気味な感じ』
『ま、科学文明は段々進歩してて便利になっているんだから。気にしない事ね』
『分かったわ。−−−−−−−って云う事よ。分かったジャン?』
『うん、すっごい発明だ! これなら夢の飛行機械だって作れるよ』
 ジャンを羽田空港へ連れていったらビックリして目を回す事請け合いである。
 さて、アスカはナディアとジャンにこの時空融合現象について説明を試みた。
 じっさいこの事を納得することは出来ないようであった、が、彼らのいた時代から一世紀前後もの時間が流れ、ジャンの故郷であるフランスと言う国がこの世界には現れなかったという話はジャン達を失望させた。
 もう既に彼らの故郷は何処にもなく、フランス人の存在自体さえ今となっては絶滅危惧種扱いである。
 その席が妙に静まった所、ナディアの胸元で静かに澄んでいたブルーウォーターが突然光り出した。
 突然光り出したブルーウォーターに驚く6人。
『ナディア、それって一体なに? 』
『分からないの、ブルーウォーターって言って孤児だった私が唯一持っていた物なんだけど・・・、昔から何か大変なことが起こる時にこうして光るの』
『つまりそれって』
『何だか分からないけど何かが起こるのかも知れない』
『何か・・・、何かしら。ねぇ、そのブルーウォーター、見せてくれない?』
『見るだけなら』
 ナディアは首から下げたブルーウォーターを外すとアスカに手渡した。
『凄い澄んだ青い結晶ね。どれが発光したのかしら、ふ〜む』
 アスカは上にブルーウォーターをかざして見た。するとその内部に薄い文様が見て取れた。
『なにコレ・・・。規則正しく幾層にも重なって、集積回路みたいな、これってまさか、超高積層光電子回路!』
『電子回路?』
『それが本当ならコレひとつでMAGIに匹敵する超々スーパーコンピューターって事なのかも』
 アスカはその百年以前の時代に存在したという超技術の結晶を見て衝撃を受けていた。
 集積回路という物は小さく作れば小さく作るほど動作部位を結ぶ線を短く作ることになる。
 つまりそれは余計なタイムラグやエネルギー損失を無くす事に繋がり、回路をより単純に、より高速に、より使用するエネルギーを少なく出来る。
 あれだけ巨大な頭脳を持つMAGIはそれだけで既に不利な理由を持っているのだ。
 それは置いておいて、アスカはジーッとそれを見つめ続けていた。
「ねぇアスカ。アスカァ」
 心配になったシンジはアスカの肩を揺すった。すると完全にブルーウォーターに見入っていたアスカの意識がこちら側に帰ってきた。
「え、なにシンジ」
「アスカ、なにをそんなにボーっと見てるの」
「何って、つまりこれはその。とてつもない凄い物かも知れないの。少なくともNERVの科学力じゃね」
「へー、それって、凄いとしか言いようがないね」
「でしょう? 」
 アスカはブルーウォーターをナディアに返した。
『何が起こるのか分からないけど、これだけの情報があれば有利に事が運べるわ』
『いやよ、これは、ブルーウォーターは私の唯一の・・・手掛かりなんだから』
『分かってる。悪いようにする気はないって。さて、行きましょうか』
『行くって何処に?』
『あなた達のように他世界から来て孤立してしまった人達の生活基盤をバックアップする制度があるの。で、私達の知っている所のひとつにあなた達を紹介しようと思って』
『変なところじゃないでしょうね』
『大丈夫よ。私達が保証するから』
『なんで? どうしてあたしたちにそこまでしてくれるの?』
『だって。・・・私達3人もアナタと同じだからよ。アタシもレイにも実の両親はいなくなってた、シンジだって母親は早くに亡くして父親とも離ればなれ、挙げ句の果てにはこの災害で知り合いも全員いなくなっちゃったわ。私達はなんとかする事が出来た、だから同じ境遇のあなた達に出来るだけのことはしたいの。ね、いいでしょ』
『そう、そうね、そう言うことなら是非お願いするわ』
『行きましょう』
『ええ。ジャン!』
 ナディアはジャンに簡単に説明すると店を出た。
 ナディアはあまり気にしないようであったが、ジャンは周りの科学技術に興味津々と言った様子であっちへキョロキョロこっちへキョロキョロと落ち着きがなかった。
 5人は富士駅から電車を待った。
 電車がホームに入ってくるとジャンは目を輝かせた。
『うっわー、見てよナディア。電気で動く汽車だよ』
『ええそうねジャン・・・はぁ』
『どうしたのナディア。元気ないけど』
『なんでもないわ。まったくもう』





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