スーパーSF大戦



第16話   H−PART



「シンクロ率100%を下回りました! 安定域です」

 メインオーダールームに伊吹摩耶の興奮気味な声が響き渡った。
 今、その場にいる者達は地上で行われている戦闘に注目している暇はなくなっていた。
 これから行われるサルベージ作業は慎重に慎重を重ねなければならなかったのだ。
 その重責の所為だろうか、碇唯博士の声にも緊張の色が隠せなかった。

「ではサルベージ作業はフェーズ5に移行します。精神安定プログラム05を投与して」
「了解。投与開始。受信の開始を確認しました。 これが上手く行けば取り敢えず安心できますね、碇博士」
「ええ、気が抜けないわよ。猿頭寺さん、管制プログラムの安定率はどうですか?」
「順調です。システム的には極めて安定しています」
「分かりました。卯都木さん、上の怪獣はどう?」

 碇博士はこのメンバーの中で唯一、地上の様子を監視する仕事を受け持っていたため戦場の動向を知っている命隊員に質問した。
 いまここまで来てエヴァが怪獣に破壊でもされたら目も当てられないからだ。

「はい、現在地上ではイリスに対して早乙女研究所所属のゲッターGと剣特機将のグレートマジンガーが応戦しています。イリスの現在位置はGアイランドの南端でエヴァ初号機に向かおうと試みていますが2機のスーパーロボットに阻まれてます」
「イリス? イリスってあの怪獣のこと?」
「あ、はい、先ほどあの怪獣からの通信であの怪獣の名称が判明したそうです」
「通信? あの怪獣に知性があってそれが喋ったとでも言うの?」

 唯はたちの悪い冗談でも聞いたように顔を顰めた。

「いえ、正確には怪獣ではなくて有人の生体兵器である可能性が高いと分析が来ています。それによると怪獣の名称を「イリス」、パイロットはナギサカオルと名乗っていまるそうです」
「なんですってぇー!!」

 それを聞いたアスカは怒鳴った。

「渚カヲルって、あの渚カヲルなの?!」
「へ? あの、あのナギサカオルって・・・どのナギサさんで」
「転校生よ、転校生! 私達のクラスにこの前転校してきた奴の名前がその渚カヲルって云う名前なのよ」
「でも、それって偶然じゃ」
「この時期にこのタイミングで? 質の悪い冗談よね。本当・・・。あいつ、シンジのお弁当食べて置いて、恩を仇で返すつもりなの?」

 既にアスカはその渚カヲルが自分の知り合いの渚カヲルだと断定してしまっていた。
 その思いこみの激しさと物事を結びつける短絡さに皆は唖然としてしまっていた。

「とにかく、その正体は不明ですが、ナギサカオルと名乗る人物によりあの怪獣、イリスは操られていると報告がありました」
「分かったわ。とにかく、あの怪獣は人工の生体兵器であり、その目的はエヴァンゲリオンの殲滅であることは判明した訳よね・・・。とにかく作業を急ぎましょう。一刻も早くシンジくんのサルベージを終了させなければ」



 渚カヲルは心底驚いていた。
 これ程急激な変化、進歩を彼らの同胞は考えていなかったのだ。
 いくら自分たちと同じ人類とはいえ、神(アトランティス人)にアトランティス帝国の運営維持の為に頭脳労働に向くように作られた作られた我々真人類(バイオロイド)と違い、純粋な肉体労働向けの彼らがイリスと対抗出来るだけの機械人形を作り出せる日が来ようとは。
 しかも、彼らに悪影響が起こらないように、全ての遺産は完全に破壊したはずだった。
 しかし、ここでカヲルは忘れていたことがある。
 この世界は彼の世界だけの人類ではなかったのだ。
 また、彼らの世界の人類にしても我々と同程度までは進んだ科学を保持していた。
 目の前のスーパーロボット達を作るには至らなかったとしてもだ。

「ゲッッタァー! レェェエエイザァァアアア キャノンッ!!」

 ゲッタードラゴンがマントの後ろから武器を取り出すと、大口径のレーザーが連続して撃ち出された。
 ゲッタービームほどの破壊力はなかったが、それでもイリスには重大な損傷を与えていた。
 思わず後退するイリスに向かって間髪入れず、畳み掛けるようにグレートマジンガーが駆け寄った。
 走り寄るグレートの踵から突然凶悪なトゲが飛び出した。

「バックスピンキック!」

 グレートは左足を地面に叩き付けると、それを軸に走ってきた勢いを全て回転力に変換した。
 超合金ニューZ製の重い機体から繰り出された後ろ回し蹴りはイリスの右腕に突き刺さり、イリスを弾き飛ばした。
 イリスも、そしてカヲルも右腕に激痛を感じながら直ぐに立ち上がった。
 だが、損傷の激しい右腕は上手く機能しなくなっていた。
<骨格に重大な損傷有り・自己修復時間98時間を要する>

「ちっ、やってくれるじゃないか。リリン達。だが、ボク達も諦めるわけには行かないよせめて一太刀、エヴァンゲリオンに浴びせてやる!」

 イリスは目くらましの為、無闇矢鱈に荷電粒子ビームを辺りに撒き散らし始めた。
 地面に当たった荷電粒子ビームは地面を砕き、元々埋め立て地だったこの島を砕き始めた。
 そしてそれは今では余り残っていなかったビルにも襲いかかっていた。
 それらは多数の破片となって辺りに飛び散った。
 無論、そんな物で目くらましの役には立たなかったし、ましてや2体のスーパーロボットには損傷を与えるには至らなかった。
 だが、その中のたった一個の破片がシンジの運命を決めてしまった。



 メインオーダールームでは、シンジのサルベージについてはほぼ確実になったと考えていた。
 もう既にサルベージ用のプログラムも90パーセント以上が転送されていた、転送が終了すればほぼ安定した経過を辿っているこのサルベージ計画も順調に終了することであろう。
 そのまま、順調に行けばだ。


 その時、破片のひとつ、直径50センチばかりのそれはひょろひょろと頼りない軌跡を描きながら初号機の背中のGSライドにぶつかった。
 その破片はあっさり弾き返され、GSライドにも見た目は何らかの損傷も見えなかった。
 だが、その小指の一突きにも似た弱々しい一撃で充分だったのだ。
 既に半壊していたその通信機能は、複数のバックアップが断ち切られ、たった一本だけ残っていた受信アンテナを繋いでいた電線を引き千切ったのだ。
 その瞬間、メインオーダールームにレッドアラートが鳴り響いた。
 画面には通信不能の文字が表示されていた。

「送信状況は!?」

 唯はプログラムの管理をしていた摩耶に訊いた。

「・・・ほぼ百パーセントです・・・」
「報告は正確に! 」

 唯の怒気を孕んだ怒鳴り声に摩耶はビクッと竦んだが、直ぐに再度の報告を行った。

「99.999999998%送信完了しています・・・」
「どこなの? 一体何処まで送信されたの!?!」
「は、はい。画面に出します」

 摩耶がキーボードにコマンドを入力すると、正面の画面に残りのプログラムが全て表示された。
 一瞬、皆は目を凝らしてその画面を見た。
 何故なら、その大きな画面の中には何も表示されていなかった様に見えたからだ。
 しかし、画面の片隅、一番端にそれは表示されていた。
 その広く精密な大画面の中にはピリオドがたったひとつだけ点滅していたのだ。

「なんて事! よりにもよって、あそこで止まったっていうの?!」

 それを見た唯は絶望的な表情になった。
 一瞬、彼女はそれに魅入っているようであったが、その結果を素早く脳裏でシミュレーションしていた。  ほとんど勘と呼べる物であったが、彼女はMAGIの千倍のスピードで結果を得た。

「直ぐに中止プログラムを入力して! 早く! 」

 唯は素早く対応を取ろうと摩耶に叫んだ。それを受けて摩耶も魔法のようなタッチでキーボードを操作するが、返った来た答えは。<エントリー不能>
 それならばと、彼女が知っているあらゆる手管を使って通信を試みるが結果は変わらなかった。

「駄目です! 入力は全て拒否されています」
「何ですって!?」

 激昂した唯は無意識のうちに机に手を叩き付けてしまった。
 しかし、副担当をしていたスワンが疑問を投げ掛けた。

「シカシ、オカしいデース。エヴァ初号機カラの送信は受信されてマスです」
「ちょっと待って下さい」

 その様子を見ていた赤木理津子は通信断絶直前の過去ログと現在送信されてきているエヴァからのシステム情報の再チェックを試みた。

「どうやら、エヴァの方の、と云うよりGSライドの送受信アンテナの内、受信アンテナが物理的に脱落した模様です。修理しない限りこのままでは通信は不能です!」
「そんな、そんな事って、ここまで来てどうして、ウソ、ウソウソウソウソ! そんなのウソよ!」

 今まで毅然として作業を続けてきた唯博士のその突然の変貌ぶりに他の面々は唖然とした。
 唯は正しく理解していたのだ。そのピリオドひとつの脱落が最悪の結果を招くだろう事を。
 もしも、あと一文字多ければ完了していたし、あと一文字少なければ修正プログラムが自動的に走るようになっていた。
 だが、よりにもよってこの位置のピリオドが脱落するとは。
 それまでアスカとレイは緊張はしていたが、仲間達の落ち着きと働きを見ていたため心配はしていなかった。いや、例え上手く行かなくても彼らが何とかするだろうと黙って作業の様子、それとエントリープラグ内の画面を凝視していたのだ。
 しかし、突然泣き叫び始めた唯博士の様子を見て一気に緊張に囚われてしまった。
 レイもアスカも息をすることも忘れて画面を見続けた。

「あ、唯博士、作業シーケンスが始まりました」

 このまま、サルベージが中断されてしまう事に不安を感じていた摩耶はホッとしながら報告した。
 それを聞いてハッと我に返った唯はメインオーダールームを見渡した。

「大河長官! 火麻参謀!!」
「な、なんだね。唯博士」
「お、おう」

 突然の唯の声にふたりはビビリながらも返事を返すことが出来た。
 だが、次の唯の言葉は予想していなかったらしく、らしくもない狼狽を見せてしまった。

「アスカちゃんとレイちゃんの目をふさいで下さい! 早く!!」
「え、ええ??」
「なんだ、そりゃあ」

「いいから早くしなさいーっ!!!」



 ビリビリと耳に響く唯の怒鳴り声にふたりは顔を見合わせてから駆けだした。
 そして、未だに怪我によって弱っていたふたりの少女は抵抗したが、呆気なく目をふさがれてしまった。
 その代わりと言ってはなんだが、アスカの口からは3×2人分の罵詈雑言が投げ掛けられたが。
 大河長官と火麻参謀は目で唯に答えを乞うた。
 それに対して唯は目を逸らした。しかし、口の中ではこう呟いていたのだ。



















「・・・・・・シンジが死ぬところを、ふたりには見せられないわ」





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