スーパーSF大戦 第16話


G−Part

 イリス襲撃から数日前の7月7日。
 科学要塞研究所、人類に襲いかかる幾多の敵から人類を防衛するために必要な兵器を開発研究することを目的とした研究所である。
 所長の兜剣造博士はマジンガーZの流れを汲む技術を持っていた為、最初に開発された兵器は彼の父親が開発したマジンガーZをシステムアップしたグレートマジンガーである。
 もっとも、当初マジンガーZの数倍の戦闘力を持っていたグレートであったが最終決戦の際に彼の息子の兜甲児がNASAで強化したマジンガーZ(改)に助けられた時には既に能力の差はなくなっていたようだが。

 さて、現在ここには新規に設立される特殊機動自衛隊の幕僚長に任命される事が内定していた人物が訪問してきていた。
 彼にとってこの科学要塞研究所は彼が育った場所でもあり、戦いの中過ごした青春の思い出深い場所でもあった。
 だが、今日の彼は元グレートマジンガーのパイロットとして寄ったのではない。
 剣鉄也特機将として、この科学要塞研究所所長である兜博士に量産型グレートの試作製作の督促に来ていたのであった。
 元々グレートは量産を目的としていたのだが、超合金ニューZの元になるジャパニウム鉱石の希少さと戦闘能力を最優先させた為パイロットに過酷なまでの衝撃を与えることから量産化は不可能と判断されたのだ。
 しかし、マジンガーとグレートのエネルギー源である光子力エネルギーの元となるジャパニウム鉱はこの富士山周辺からしか採れないと言うことを逆手にとって、武器輸出禁止を掲げる日本政府としては例え強奪されたとしても運営維持できない光子力エンジン搭載型スーパーロボットという観点からグレートマジンガー量産計画の可能性をスーパーロボットの維持管理を担う特殊機動兵器本部に打診させていたのである。

「それで博士、グレートの量産化を進めるに当たってですが」
「うむ、はっきり言ってジャパニウム鉱の埋蔵量から推定すると、とてもじゃないが量産機の装甲を超合金ニューZにする訳には行かないな」
「そうですか、しかしそれではグレートの売りである堅牢さがなくなってしまい、量産化するメリットがなくなってしまいますね」
「そうだな、しかし他世界の中、超合金ニューZに匹敵する超合金があるんじゃないのかな? 例えばGGGのガオガイガーに使用されているLi−Al合金なら量産が可能な筈だが」
「なるほど、検討する必要があるようですね。後、改良するべき点として挙げられているのがグレートの制御系ですね。この点については随分と検討会で突っ込まれましたよ」

 鉄也は検討会の時の情景を思い浮かべながら苦笑を浮かべた。

「ああ、何しろ格闘戦専用として設計したからな。確かに現代戦に慣れたパイロット達には不評だろう。それに関してはお前にも苦労を掛けたな」
「いえ、俺はグレートの専任パイロットとして特訓を受けましたからね。別段気にするほどの事ではなかったのですが」
「まぁ確かに量産機を現代戦に投入するには幾つかの抜本的な改善が必要だな」

 スーパーロボットとして製造されたグレートマジンガーであったが、スーパーロボットの常として主に中近距離戦闘をメインに据えて設計されていた為に火器管制システムやアビオニクス系が大胆に省略されていた。
 これによりグレート単独での広域戦闘行動には少なからぬ支障があった。
 これはアメリカ軍の地上攻撃機A−10サンダーボルトと状況が似ていたが、よりパイロットに負担の大きいスーパーロボットとしては致命的な欠陥であった。
 例えば、火器管制で言えば、火器の照準コントロールはレーダーによりロックONした標的に対し攻撃を行うわけではなく、ただ単に目視にて見当を付けた方向に向かって攻撃しているだけなのである。
 それを言えば、超古代ムー文明の遺産ライディーンのゴッドバードアタックの方がよっぽど進んでいると言えるだろう。「照準セェエエーット! 」ってね。
 兜博士はじっと考えていたがやがて結論を出した。

「よし、では大まかな改良点としては次の項目が上げられるだろう。
第1にアビオニクス関係。
第2に火器管制システムの近代化。
これらはブレーンコンドルを再設計する必要がありそうだ。
そして第3として装甲材の再検討だな。とりあえずこんな所だろう」
「了解しました。では次の特殊機動兵器本部の会合の時に提案してみますよ博士」
「うむ。しかし、お前もしばらく見ない内に大変な地位についた物だな」
「はは、しかしまぁ、これは俺の天職と言える物だと思ってますから。他にはちょっと居ないでしょう。元スーパーロボットのパイロットだった自衛隊幹部なんてね」
「そうか、そうだな。日本の平和はお前の肩に掛かっている。これは昔わたしがお前に課した試練だった。そして、今またお前はその為に戦いに赴こうとしている。いつかお前にこの借りを返すことが出来るのだろうか」
「何を言ってんですか博士、孤児だった俺とジュンを拾ってくれて生きる目的を与えてくれた貴方には感謝こそしても、怨む気持ちなんてこれっぽっちもありませんよ」
「・・・ありがとう」

 少し老いた博士は毅然とした態度を保持していたが、自らの使命を全うするために甲児とシローと言うふたりの息子を捨てた。
 そして自らの目的、人類の敵との決戦という大義名分の下に戦闘マシーンとして育ててしまった目の前の青年、剣鉄也。
 その立派に成長した姿に彼は感慨深い物を感じていた。

「話は変わるんだがな鉄也」

 博士は目つきを真剣な物に変えて鉄也の目を射抜くように見た。
 鉄也は何時にないその眼差しに気圧されながらも、辛うじて返事を返す。

「はい、何でしょうか」
「お前、ジュンとまだ身を固める気にならないのか? 」
「え、あ そっちの話ですか。はぁビックリした」
「ビックリしたじゃないぞ。ここ最近、ジュンの口から出てくることと言えば大概、お前が逃げてばかりでもしかして他に相手が居るんじゃないかとか。私に愚痴をこぼされても困るんだがな」
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・ま、まだ早いですよ。そ、そう。それに今はスーパーロボット軍団をまとめ上げるのに忙しくてとてもとても」
「鉄也よ」

 博士はとても怖い目つきで、この息子同然に思っている男を見て少し後悔していた。
−−−−う〜む。戦闘訓練ばかりさせていたのはやはり失敗だったか? 誰にも負けない決断力を付けさせたつもりだったが・・・。
 彼は鉄也の肩を掴んだまま思考の海に沈み込んでしまった。
 それこそ、部屋をノックして誰かが入ってきたとしても気が付かなかっただろう。

「いいか、鉄也よ。男であるお前は良いとして、ジュンはもうそろそろいい歳だ。彼女にも焦りの気持ちが出てきているんだ。分かるだろう? そう、ことわざでも言うじゃないか<鬼も18、番茶は出鼻>とな。言うなればジュンは2回目のお茶、出涸らしを入れる歳になろうしているんだ。別の言い方をすればクリスマスイブの晩になっても机の上に並んでいるクリスマスケーキみたいな物だ。お肌も曲がり角、目尻の皺が気になり出す頃だ。それもこれもお前を待っている為だ。彼女の気持ちに答えてはやらんのか? どうした鉄也、何とか言ってみなさい」

 博士は心の底から親切心でそう言っていた。
 だが、鉄也は何かに怯えるような表情で固まり、迂闊には言葉を出さなかった。
 博士はそんな鉄也の態度にどことなく腹が立った、怒鳴りつけてやろうかと目を見開くと・・・鉄也の視線が博士ではなく博士の右斜め後ろに向けられているのに気付いた。

「ん? どうした、何かあったのか」

 その時、博士の後ろから褐色の肌をした腕が伸びて来て番茶が淹れられた湯飲みを二つ静かに机の上に置いた。
 何故か微妙に細かい振動が加えられていたが。
 その瞬間、博士の背中に今まで味わったことのない様な戦慄が駆け巡った。
 緊張から身動きが取れず、ゴクリと生唾を飲み干す。

「・・・博士? お茶を持ってきましたわ。 フフフフフフフフフ・・・・・・ご安心下さい? ちゃんと一番茶ですからね!!」
「あ、あああああ、済まないね、あああありがたく頂戴するよ」
 しかし何故か話の張本人であるジュンは静かに笑い始めた。

「クックックックック、済まない? 済まないですって? クククク、フフフフフ、ホホホホホホ」    
ピタッ
 突然笑いを止めたジュンの瞳には狂気にも似た熱い炎が浮かび上がっていた。
 今までの長いつきあいで、娘のように思ってきたジュンがこの様なときにどう云う行動を取ってきたか良く知っている博士は浮き足だった。
 そして原因は鉄也にある、と説得しようと鉄也のいた席を見たら、いつの間にか姿が消えていた。
 焦った博士は周りを見回すが、もう、何処にも逃げ場はなかった。


 結局、グレート量産化計画は1週間の遅延を余儀なくされたとの事である。





 関東周辺に位置する全てのレーダーサイトの注目を浴びつつ、イリスは午後2時の東京湾へと降下してきた。
 自衛隊の必死の迎撃により身体の各部に焦げ跡や被弾の跡が見られたがそれらを差し引いても幻想的な姿をしたイリスは、羽衣を連想させるヒレをなびかせつつゼルエルによって廃墟と化したGアイランドへ足を着けた。
 サルベージ作戦が開始されてより2時間が経過していたが、未だにエヴァ初号機に溶けた碇シンジは実体化しておらず、今攻撃を受けることはエヴァにもシンジにも致命的な事になり兼ねなかった。
 しかし、今現在、GGGはその戦力の大半を消耗させており、迎撃しようにも戦力が無くただ目の前で起きることを指をくわえて見ていることしかできなかったのだ。
 Gアイランドの地下にはGGGの秘密基地司令室であるメインオーダールームが存在した。
 現在そこには碇シンジの家族とも戦友とも言える存在である惣流・アスカ・ラングレーと綾波レイ、そしてパラレルワールドでの碇シンジの母親である碇唯、GGGメンバー、そしてシンジを過剰シンクロによる肉体溶解からサルベージすべく集まった皆が固唾を呑んでその光景を食い入るように見守っていた。

「なによ、アレ。エヴァと同じくらいの大きさの生物なんて・・・、使徒でもない癖に、まったく信じられない世界よね、ここって」
「でも、目の前のこの出来事は事実だもの・・・。それよりも、あの生物がエヴァに友好的とは思えない事の方が問題だわ」

 レイは、その怪獣の顔に当たる部位に光る光球に、何か嫌な物、邪悪な意志のような物を感じていた。それの関心は間違いなく初号機に向けられている事を確信していた。
 そしてレイと同じ様な感触を得ていた大河長官は傍らの獅子王博士に意見を窺った。

「獅子王博士」
「うん? なんじゃな」
「本当に我々には何の手段も残されていないと言うのですか。我々の戦友が目の前で・・・ムザムザと」
「長官。儂とて気持ちは同じじゃ。しかし、我々の勇者達は全員修理中。特に炎竜、氷竜は超AIにまで及ぶ重傷なのだぞ。どうしようもないんじゃ」

 大河長官の言葉に博士も沈鬱な声で応えたが、現在彼らに残された手段は本当に何もなかった。
 そんな中、熱血な参謀と言う矛盾した素質を持つ火麻激参謀が何かを思いついた。

「そうだ。初号機のエントリープラグを取り出せば、少なくともシンジだけは助けられるんじゃないのか?」

 自分の思いつきに頷いた火麻は直ぐにでも飛びだそうと席を立ち上がり掛けたが、それを今回のサルベージ計画の主任である碇唯博士が押しとどめた。

「待って下さい。それは危険すぎます」
「しかしこのままではシンジは初号機と一緒にあの怪獣にやられちまうぞ!」
「分かっています、それは分かってます。でも、今、サルベージは一番大事なところに来ているのです。例え何があっても今エントリープラグを初号機から引き離すわけには行きません。今サルベージ出来なければ、もう二度と、永遠にシンジは帰って来れなくなるんですよ」
「しかし、このままでは! どうにかならないのかよ〜!!」

 どうしようもないこの状況に火麻はニレミアムモヒカンカットの頭を掻きむしった。


 GGGの苦悩をよそにイリスは慎重に初号機に狙いを定めた。
 彼が標的とする初号機は彼が目前に着地してから全く動きを見せなかった。
 カヲルが人類の敵と称するエヴァンゲリオンであるからより慎重を期したのだが、拍子抜けするほど無防備だったのだ。
 イリスの複数の鈎爪が不気味に強く光り、荷電粒子が貯め込まれていった。
 そしてイリスはその内のひとつを初号機に撃ち放った。
 そのビームは何の抵抗もなく初号機の左肩に突き刺さり上腕骨を叩き折り反対側へ突き抜けたのだ。
 そしてそのまま反っくり返るように大地に倒れた。
 だがしかし、それでも初号機はなんの反応も見せなかった。
 恐る恐ると反応を見守っていたイリスは次第に大胆になっていった。
 さっきまで100メートル以上は近寄らなかったのであるが、慎重にではあったが80メートル、60メートルと近寄った。
 地響きを立てて立ち止まるとイリスは初号機を見下ろした。
 そして一気に勝負を着けようと残った触手全てに荷電粒子の煌めきを纏わせた。


「エヴァンゲリオン、アトランティスによって作られた最初の人間たるアダムのコピー、そしてアトランティス人同士の戦争によって世界を滅ぼした悪夢の存在。そしてボク達第二期文明を滅ぼしたボク達の仇。 シンジくん、ボクにはどうして君がこれに乗っているのか分からないよ・・・サヨナラ、シンジくん。時の輪の彼方で今度会うときには違う出会いをしようね」


 カヲルは悲しそうに微笑みを浮かべた。
 そして全ての力を解放しようと、触手を一段と高い位置に構えた。
 その姿はまるで雄の孔雀が大きく羽を広げた様であった。そして、その事がカヲルとイリスを救うことになろうとは、皮肉なことである。
 その弾頭に積まれていた慣性/TV画像/赤外線複合誘導装置はそれぞれのセンサーで得られた標的の中心を狙うように設定されていた。
 その為、イリスの中心が頭部より少し上にずれてしまったのである。
 約1トンの鉄の塊は音速を超えたスピードでイリスの触手を吹き飛ばし、背後の地面に突き刺さると同時に爆発し巨大な土煙が立ち上り、煙が晴れたその後には巨大な破孔が出来ていた。

「なんだ!? 海、戦船か!?」

 その頃、横須賀沖に浮かぶ打撃護衛艦「ナガト」C.I.C.は戦場となっていた。

「第一射、敵欺瞞行動により近射、続けて陸上自衛隊幕僚部より支援砲撃第二射の要請有り」

 陸自の強行偵察隊の87式偵察警戒車が観測した結果から陸自の幕僚本部が送ってきた電文を通信参謀が艦長に読み上げると彼は直ちに命令を飛ばした。

「良し、続けて第1砲塔単射、撃てぃ!」

 艦長の命令が下ると、射撃管制官が射撃諸源を入力し終わった制御卓の赤釦を押し込んだ。
 試験的にナガトの第一主砲塔の連装四〇センチ砲は誘導弾射撃用に滑空砲へと改装されていた。
 これは旧来の主砲の命中率が5%を割り込む程の命中率しか持たず、近代戦にはとてもではないが使用することが出来ない上、運動性に置いて装甲車輌と比べて飛躍的に向上している二足歩行式人型戦闘機が登場しているためである。
 これによって静目標に対する命中率は九割を超え、戦車程度の速度の兵器に対しては弾種にもよるが八割近くをマークしていた。
 先程から尾栓を閉じて射撃準備が整っていた2番砲に衝撃が走った。
 その果てしない爆発力の大半は駐退機によって吸収されたが、それでも吸収しきれない反動がナガトの船体を大きく揺らしたのだ。
 撃ち放たれた主砲弾は折り畳まれた安定翼を開くと比較的低い弾道で目標に向かっていった。
 目標に接近すると慣性誘導装置が予め入力された位置に向かって安定翼を調整した。
 するとイリスは横須賀にあるナガトの発射光を確認したのか、500メートルほど右横に退いた。
 通常なら打ち出された弾丸は回転によって安定しながら弾道軌道を描く為、高運動性能を持つ物で有れば充分に避けきれるはずであった。
 しかし、TV画像処理によってナガトから撃ち出されたその主砲弾は位置を修正、スマート爆弾より遙かに緩やかであったがイリスに向かって方向を変えたのだ。
 飛んでくる砲弾を感知してイリスは電磁バリアーを展開した。

「ダメだイリス、上に避けるんだ」

 カヲルは咄嗟に叫んだ。
 だがその時、既にその主砲弾はイリスの目前二〇〇〇メートルまで接近していた。
 そして次の瞬間、主砲弾はバラバラになって四散した。
 するとその中から戦車に採用されているAPFSDS弾(装弾筒付翼安定徹甲弾)の重くて硬いタングステン製の弾芯を一〇倍に拡大した弾頭が一〇〇本も飛び出してきた。
 これこそ地上の機動目標に対する命中率の向上の為の対策その2である。
 超硬弾芯は半径一〇〇メートルにバラ撒かれながらその内三〇本がバリアーに接触、角度の悪い物は弾かれたりバリアーで溶解されたりしたが、その内の一〇本がイリスの硬質化した体表に突き刺さった。
 それは致命的な損傷を与えるまでに至らなかったが、まるでド素人が畳針で鍼治療の真似事をしたように耐え難い苦痛をイリスに与えたのだ。


 現在、自衛隊の装備計画局艦政本部によって計画されている滑空砲用の弾種は徹甲弾、榴弾、多弾頭装弾筒付翼安定徹甲弾、クラスター弾、対装甲用クラスター弾、対空散弾、焼夷弾、それらの複合型、それぞれ四〇センチ弾と四六センチ弾の2種類である。
 この内、徹甲弾と榴弾は弾頭に着ける被帽(コーン)に内蔵された誘導装置の有無によって誘導、非誘導を選択するがそれら以外は多核子の放出タイミングの問題から誘導装置一体型として計画中である。
 勿論、今までのように砲戦可能距離が高々30〜40キロメートル飛距離ではその有効性が非常に薄く近代戦には使えないのだが、多段薬室方式やプラズマ炸薬式、電磁加速式と色々飛距離を延ばす努力が続けられている為に中距離ミサイル並みの飛距離が期待できそうであった。
 しかも、弾頭に飛行装置が内蔵されていない為に製造コストがミサイルよりかなり安く上げられ、しかも高空から落下する為に位置エネルギーを破壊力に変換出来るのだ。
 勿論ミサイルに劣る部分も多いのだが、連合艦隊の処遇の問題等がありシーレーンの確保という日本の地政学的意味から熟練者が乗り込んだ戦艦や空母以下の護衛艦が必要な事も確かであった、そうそう簡単に彼らを排除するわけにも行かなかったのである。
 その為に彼らの陳腐化した装備、戦略、戦術を刷新することがこの混沌とした時空融合後の地球を生き残るための方策のひとつであったのだ。  だがそれとは別に、大艦巨砲主義が実用化可能であると言う可能性を示唆された彼らが、小さい頃から憧れていた戦艦を目前にして「やってやるぜ」と意気込んでしまうのは「漢」として仕方がないことではないだろうか。

 激痛に喘ぐイリスは、余りの激痛と怒りによって一番の目標である初号機の事が頭からすっかりと消え去ってしまった。
 南南西の方角を見ると27〜8キロ程離れた海上に彼に一撃を加えた棘棘しく砲身を飾り付けた鉄の城が浮かんでいるのが分かった。
 イリスは猛る精神を押さえようともせずに空に浮かび上がった。
 だが、それを抑えようとカヲルが精神の支配度を上げた。
 ナガトへの怒りとそれを抑えようとするカヲルの理性がぶつかり合い、イリスの体は悶え苦しむように地面へ伏した。
 イリスの闘争本能はこの様に過敏に反応し、直ぐに気まぐれにあちらこちらへと飛び移った。
 この欠陥こそ、イリスが現代まで封印されてきた理由のひとつであったのだ。
 イリスはアトランティス帝国末期に製造された最後の全領域戦闘生体兵器(ATフィールドを持たない軽装兵)として完成し、終末大戦後にそのプロジェクトチームの手によって封印されていたのだが、その禍々しいまでの戦闘本能を制御できるパイロットがいなかった事がイリスが戦闘に参加出来なかったもっとも大きな理由である。
 その後アトランティスが崩壊した後に成立した、人類が主体となった第二期文明によってイリスが発見され調査された。
 だが、それが余りにも危険な存在であり帝国の超技術によっても制御できなかったのだと理解した彼ら第二期文明人達によって再度封印されたのである。
 それから時代は下り、帝国の技術を発掘し利用していた彼らは禁忌の扉を開いてしまったのだ。
 それは恒星間航行用超弩級多目的宇宙船「レッドノア」の最深部に封じられていた発掘兵器・彼らアトランティス人達の下僕として創造された人間達を元に最強の人間兵器製作の為、倉庫に保管されていた試作型の人間アダムより抽出された「人造人間エヴァンゲリオン」である。
 彼らがそれを作り上げたのは帝国中期、もっとも文明が安定していたときである。
 M78星雲第1番恒星系に存在した惑星「光の国」は星雲間にまで達する進んだ文明を持っていたが、ある時本星で発生した事故によりその時光の国に居た人間達は特殊な放射線を浴びてミュータントと化してしまった。
 外惑星や他星系の植民星に住んでいたアトランティス人の始祖達は本国である光の国に戻ろうとしたのだが、まだ精神的に未発達であったミュータント達は有り余る力を持て余し彼らを追い返そうと超人的なその能力で機械文明と生身で戦い、これに打ち勝ってしまったのだ。
 それから長い期間、M78星雲で激しい戦乱が続いたが疲れを知らぬ超人=ウルトラマン達に駆逐された原アトランティス人達は這々の体で銀河系へと落ち延びた。
 彼らは自分たちに適合した環境を持つ惑星を求めて銀河中に散らばり、その内の一派が地球にたどり着いたのである。
 その後、超人達は数万年にも及ぶ人生の中で精神的に成長し、平和で高度な精神文明を築き上げたのだが銀河系に落ち延びた者達には与り知らぬ所であった。
 その為、アトランティス人達は超人達に対抗出来るような隔絶した能力を持つ決戦兵器「人造人間エヴァンゲリオン」を開発し、いつまた超人達に襲いかかられても迎撃できるように備えたのである。
 しかし数万年にも及ぶ帝国末期、内部分裂による抗争が激化するとエヴァと同じように人造人間の技術を以て作られた「使徒」を用いた最終戦争によって数千万人も居たアトランティス人達は一部を除いてこの世から姿を消してしまったのだ。
 それから数千年後、アトランティス帝国の文明を理解し、「使徒」すらコピーして使役した第二期文明人達であったがその巨大に膨れ上がった自信が破滅を招いた。
 傲慢になっていた第二期文明人達はアトランティス帝国が最後まで手をつけなかった決戦兵器の閂を開け、その内部に押し入ったのだ。
 だが、全ての人間の祖でもあるアダムと同等の力を持つエヴァンゲリオンは人間を拒絶したのだ。
 その暴走によって壊滅しようとしていた第二期文明人達の科学院議会は忘れ去られていた「イリス」の事を思い出した。
 彼らの文明に於いては、その労働力の大半をリリンと呼ばれる未開種族達と遺伝子操作によって生み出された獣人達によって賄っていた。
 それら遺伝子改造などの全ての持てる力を用いて凶暴な戦闘本能というOSを持つイリスを制御できる存在、使徒としての能力も兼ね備えた新造人間を作成し始めた。
 その名を・・・。


 イリスは徐々に高度を取ると、すっかりとナガトの姿が目に入る位置に着いた。
 ナガトは40センチ滑空砲を対機動兵器用の武装を試験的に装備しているとはいえ、それはあくまでも他の艦に搭載するためのテストベッドであって、まだ臨機応変に使用できるほどシステム的にシッカリと構築されていなかった。
 その為、3次元レーダーによって敵怪獣が空中に浮かび上がってこちらに向かって来た事が判明した瞬間、CICにいた戦闘スタッフはパニックに陥った。
 まだ技術的な問題から、主砲弾の誘導装置に敵のデーターを入力するには弾を込める前に行っていなければならず、主砲に弾を込めてからデーターを変更する術がなかったのである。
 これについては正式に量産される40センチ砲塔と46センチ砲塔の内壁に対衝撃製のデーターリンクシステムを組み込める様に現在鋭意開発中であった、が、このナガトには積んでいないのである。
 つい先程、追加砲撃用にデーターを入力したばかりの誘導式徹甲弾を2発弾込めしたばかりなのであった。
 今更引き出すわけにも行かず、また、その他の兵装は第2次世界大戦時の兵装がそのままになっていたので事実上迎撃は不可能であった。
 だがそれでも迎撃を行わない訳には行かなかった為、この大正年間に作られた歴戦の古兵はありったけの砲、小は二〇ミリ機関砲から副砲までを空中に向けた。
 そして急速に接近してきたイリスに向かって空間を埋め尽くす勢いで火線が伸びていった。
 いくら水素爆弾(熱核融合弾)の直撃に耐える装甲を有しているとは言え、ビキニ環礁で核の洗礼を浴びた別世界の長門の時と異なり、火薬庫に炸薬を満載した状態でイリスの荷電粒子砲の直撃を受けては爆沈は間違いのないところだ。
 兵器という物は或る兵器に対して勝つ事を想定して設計されている。それ故に想定外の兵器に対しては以外と脆いというのが常である。
 ナガトが無数に吐き出した鉄の塊は空中でイリスが張り巡らした荷電粒子の壁に阻まれて虚しく弾かれてしまった。
 接近するに釣れ初速が最も早いという中口径砲以下の特徴から、最も口径の大きい副砲が撃ち出した弾頭の運動エネルギーがバリアーの持つ電磁エネルギーを凌駕しイリスの体に直撃するケースも出てきたのだが・・・硬質化したイリスの体表は多少削られつつも熱く灼けた高速の鋼の塊を弾き返したのである。
 海兵達は目の前に降り立ってきた白い怪獣に恐怖しながらもそれぞれが受け持つ砲の引き金を引き続けた。
 流石に一撃で壊すのは難しいと考えたのか、イリスはそれまで使わなかった両腕を振り上げると今まで出したことの無い巨大な電子の塊を造り上げた。
 既にナガトの前方五〇〇メートルの上空に浮いているイリスの頭上に、太陽よりも眩しく輝く巨大な光球が出来上がっていた。
 それを目撃した者達は全員が死を覚悟した。
 中には恐慌を来した者がその光球に機銃弾の雨を打ち込んだが、その巨大な人魂のようなプラズマには何の影響も出なかったのだ。
 打撃護衛艦「ナガト」は駄目で元々と全力後退を始めた。が、あの巨艦である、その速度は遅々として上がらなかったのだ。
 イリスの頭上のチカチカが限界値に達した瞬間、それは爆発的な光を放った。


「ンゲッタァァアアアアア ビィィイイイイイイイムゥッ!!!!!!」



 急速に大気を斬り裂き接近してくるスーパーロボットから放たれた強力なビームがイリスの光球に突き刺さり、只でさえ不安定だったエネルギーを封じ込める為の力場が一瞬にして崩壊した。
 弾き出された電子は大気の構成分子と衝突した。
 急激にエネルギーを与えられた大気は爆発的に膨張し、爆発風を辺りに撒き散らした。
 そのエネルギーは大半が上と横に広がったがナガトにも無視できないほどの爆風が襲いかかった。
 それは甲板で砲撃を行っていた海兵達にとって致命的な勢いで襲いかかった。

 ナガトの危機を救ったスーパーロボットはナガトとイリスの間に立ち塞がるように空中に静止した。
 赤、青、黄色、そして白に塗り分けられた機体のスーパーロボット、それは早乙女博士がいつでも戦力として投入できるように待機させていたゲッターロボGであった。
 彼らは、つい先程防衛”省”麾下の自衛隊に新設される予定の特殊機動自衛隊、通称スーパーロボット軍団の幕僚長として任命される予定の人物であり彼らの古い戦友でもある剣鉄也からの依頼があった為、空中待機していたその場から速攻でイリス目掛けて突撃を開始したのだ。
 エネルギーの閃光が晴れると、イリスは元の場所に存在しなかった。
 ゲッタードラゴンのメインパイロット、流 竜馬はその狭いコクピットグラスから敵の位置を知ろうと視線を巡らした。

「何処だ! 奴は何処へ行った!!」
「落ち着け竜馬! 奴なら自爆のダメージでふらつきながら落下してる」

 ゲッターライガーのメインパイロット神隼人が指摘した通り、ゲッターのレーダースコープは激しい空電のため正確な反応は得られていなかったが巨大な影が高度を落としつつGアイランドの方へ向かっているのが見えた。

「くっ! まずい。このままでは海に逃げられちまうぜ!!」

 竜馬は操縦桿を倒すと、白煙の向こうのイリスに向かってゲッタードラゴンを突撃させた。
 だが、異常に帯電した白煙を抜けた竜馬が見ることが出来たのは海中に沈んで行くイリスの触手だけであった。

「ちっ! 遅かったか。弁慶!」
「おうよ! 海のことなら俺に任せとけって」
「頼んだぜぇ!! オープンゲェット!!」

 竜馬がドラゴンのコクピットで合体解除の釦を押すと、ゲッターマシン特有の形状記憶合金・合成鋼Gを多用した機体の変形をコントロールするためだけの機体管制装置は隣接する航法管制装置にモード変更コードを送信すると共に機体連接固定装置を解除した。
 拘束を解かれて分離したゲットマシンは安全距離まで離れるとゲッター炉から変形用にゲッターエネルギーコンデンサーに溜めてあったゲッター線をゲッター線増幅炉で増幅した上でゲッター合金で構成されたパターン−ゼロ用変形機構に誘導すると、ゲッター合金可変規定容量以上のそれを照射した。
 有る限度を超えたゲッター線を浴びたゲッター合金はゲッター効果によりゲッター合金を構成する可塑性ゲッター分子構造を改変し、ゲッター収縮効果により単位体積辺りの分子量が通常の10倍に折り畳まれていたゲッター重複構造の高密度ゲッター粒子を弱ゲッター作用によって展延する事で新たなゲッター構造材を構成しつつゲッター合金を構成する分子の規模を大きくすることで質量を増やすことなく又強度を変えることなくあれほどのフレキシブルな可変を可能にしたのである。
 又、ゲッター線の波長によって数種類の膨張圧縮パターンが利用できるのでゲットマシンも含めると4種類の変形パターンを可能にしたのである。
 これぞ早乙女博士らによって発見されたゲッター理論の実用レベルでの利用方法であった。(しかし、こんなに胡散臭い理論は初めて見た。)
 ちなみに恐竜人達がゲッター線を疎んでいたのは彼ら特有の構造を持つ遺伝子にゲッター線のゲッター収縮効果が働いてしまい、遺伝子を破壊してしまう作用が有るからなのだ。
 一見して非科学的なまでの変形を遂げた3機のゲットマシン・ドラゴン号・ライガー号、ポセイドン号それぞれに積み込まれた戦闘用コンピューターはCCVで姿勢を自動的に制御するとパイロットの手動制御に戻した。
 急速に海面近くにまで降下したゲットマシンの中、車弁慶は変形主導権取得釦を押しつつ音声入力&声紋鍵装置にコマンドを入力した。

「チェーンジッッ!! ゲッターポセイドンッ! スイッッチ オーンン!!!」

 合体条件が成立すると、各ゲットマシンはプレ(前)変形状態まで変形し合体装置に異常がないことを走査した後レッドランプがないことを確認。
 各機体は合体した。
 そして最終変形を行い、3機のゲットマシンはゲッターポセイドンへと変形を完了したのだ。

「ぃよぉおおおっしゃあああ! いくぜぇぇえ!!」

 弁慶は気合いを入れるとゲッターポセイドンを海中へと躍り込ませた。
 東京湾の濁った水の中に飛び込むと、一瞬だけイリスの白い体が見えた。
 だが、追い掛けようとした瞬間には濁った水の中に消えた。

「ちっくしょぉぉぉ。おい、隼人。魚探を頼むぜ」
「ハッ、魚探?! せめて音波探知機、ソナーって呼んでくれよな」

 そう言いつつも隼人はアクティブソナーで探査音(ピン)を打った。
 海中を音波が広がり、障害物に当たって戻ってきた。
 それをコンピューターで映像として解析すると、イリスはよりによってGアイランドへ戻ろうとしているらしいことが分かった。

「チィィイイッ!! 今のさっきじゃまだあのエヴァンゲリオンとか言うロボットは回収できてないんじゃないか?!」
「急げ弁慶。奴を何とか足止めするんだ!」
「分かってる。行くぜ」

 ゲッターポセイドンは水流ジェット噴射でイリスの前方へ回り込もうとした。
 しかし、イリスの速度も意外と速く遅々としてその差は縮まなかった。
 弁慶がイリスの触手を掴むことが出来たのは、Gアイランドの直ぐ目前であった。
 空を飛んで先回りをすれば良かったんじゃないか、と言う意見も有るだろうが、空中からイリスの位置探査が出来ない以上それは危険すぎたのだ。
 弁慶はしっかりとその触手を掴み取るとポセイドンの膝から下をキャタピラに変形させて海底に踏ん張った。

「へっへっへ。お前を行かせるわけには行かねえんだよ。うおおおおおお! ストロングミサァイル!」

 ゲッターポセイドンの背中に背負われた2本の筒から巨大な20メートルものミサイルが至近距離からイリスに撃ち込まれた。
 ミサイルというものは初速が遅いため至近距離というのは必ずしも有利というわけではなかった、だが、確実にイリスに命中させることが出来たのだ。
 水中では爆発の威力が大気中に比べて大きい、これは水というものが大気に比べて格段に圧縮されにくい物だからだ。
 2本のストロングミサイルの爆発はそれを撃った当の本人達を巻き込み激しく荒れ狂った。
 だが、ポセイドンが掴んでいた触手の手応えは未だにイリスが健在であることを示していた。

「なんだってぇ! こいつ、バケモノかよぉ!!?」

 弁慶は驚愕した。
 こいつは強い!
 しかし、イリスもゲッターポセイドンも体格的には互角のサイズ同士である。
 しかも、彼には例え体格差があろうともそれをも利用してしまう格闘戦専用の技を持っていたのだ。

「いっちょ、やってやるぜ!」

 ポセイドンの両手が強引にイリスの触手を引き寄せ、その白いからだが見えた。
 すかさず弁慶はイリスの腕を掴み取ると襟首に設置された高性能スクリューを作動させた。
 一瞬にして海水が渦を巻き、辺り一面が巨大な渦潮と化した。

「うぅぉおおおおおおおおお!! 大雪山、おーろーしーっ!!!!!」

 海水に押されてバランスを崩したイリスの勢いを利用し弁慶はポセイドンを中心にイリスを振り回し始めた。
 とても海中とは思えない勢いで回転を始めたイリスの体は少しずつ勢いを増していった。

「そりゃー!!」

 タイミングを測っていた弁慶がその絶妙なタイミングでゲッターポセイドンの腕を振り上げると60r.p.mもの回転速度を保ったまま一瞬にして海面を割ってイリスの体は空中へ投げ出された。
 空中を飛ぶことが出来るイリスであったが、その様な状態で飛行できるわけもなく頂点から落下したままの勢いで海面に叩き付けられた。
 さしもの強固な生体装甲を誇るイリスであったが、流石にこの攻撃には耐えきれなかったようだ。
 角質化した体表にはヒビが入り、無惨な状態を晒していた。
 だが、それでもまだイリスの闘志を削ぐには至らなかった。
 そのまま海面近くに漂っていたイリスに油断したゲッターポセイドンが近寄ってきた。

「へっへっへー。オレ様に掛かればこんなものだぜ」

 弁慶は鼻歌でも歌いそうな軽い感じでイリスの側に浮かんできた。

「ま、今回は弁慶の活躍が大きかったのは認めるがな」
「おいおい隼人、そんなに誉めても何も出ないぜ」
「ふたりとも油断するな。まだ奴がやられたと決まった訳じゃないんだぞ」
「何を言ってるんだリョウ、こんな状態で一体何が出来るってんだい」

 そう言いつつ、弁慶はイリスの触手の一本を掴み上げた。
 その瞬間、力無く垂れていた触手がポセイドンの腕に絡みついた。

「うおっ!」

 弁慶が驚きの声を上げたと同時にその他の触手もポセイドンの体に絡みつき、その自由を奪った。

「しっしまったぁ!」

 まさに油断大敵、注意一秒怪我一生である。
 弁慶は必死に逃れようとするが、触手は完全に決められており全く自由が利かなかった。

『まったく、君たちリリンには脱帽するよ。よくもまぁ、このイリスと互角に戦えるだけの機械人形を作り出すとはね』

 突然響いてきた声にコクピット内の3人は驚愕した。

「なんだ、今の声は!?」
「わからん、が、この目の前の奴から聞こえてきたようだが」
「そんなバカな。だってコイツは怪獣なんだろう?」
「いや、そうとも限らんぞ。機械獣にラインXがいたように、こいつにも知性体が組み込まれているのかも知れん。しかし、リリン・・・どこか・・・そうかユダヤ人の作った旧約聖書の外典に確かその名があった」
「どう云うことだ?」
「いや、大したことじゃない。リリンと言うのは多分人間のことだろう、昔なんかで読んだことがある」
『君たち、邪魔をしないで呉ないかな。ボクはどうしてもあの人類の敵エヴァンゲリオンを倒さなくちゃならないんだ』
「なに!? エヴァンゲリオンが人類の敵だって?!」
「竜馬、敵の戯れ言に耳を貸すな。余計な話をして人心を惑わすのが悪人の常套手段だろう」
「ちっ、それもそうだな」
『おやおや、随分と警戒心が強いんだね君たちは。あ、そうそう、ボクの名はカヲル、渚カヲル。そしてこのコはイリス。このままでは誰も名前を知らずに終わってしまうからね』
「ああ、お前はここでオレ達に倒されるんだからな」
『やれやれ、強がりもそこまで言えれば上等だね。仕方がない、相手をして上げるよ』

 そう言うとカヲルはイリスにポセイドンを掴ませ、先ほどのお返しとばかりに振り回し始めた。

『う〜んと、確かこれで良いんだったかな? 柔道の技かなんかだったよね。これって。行くぞ、ダイセツザン、オーローシー』
 イリスはポセイドンを掴んでいた腕と触手を一気に突き放すとゲッターロボをGアイランドへ向けて投げ飛ばした。
 触手で雁字搦めになっていたゲッターに抗う術はなく、先ほどのイリスよりも派手に空中に飛ばされてしまった。
 初めて自らの技を受けたゲッターの3人はその技の威力に驚愕していたが、限度を超えたGによってコクピットの座席に押しつけられてしまい操縦する間もなくGアイランドの岸壁に叩き付けられたのだった。

「「「ぐはぁーっっ!!」」」

 ゲッターポセイドンは地面を200メートルも転がってからようやくその場に止まった。
 だが、攻撃によりあちこちの部品にガタが来ており、流石に満足に動くことも出来なくなっていた。
 俯せになったゲッターポセイドンのコクピットでは弁慶達パイロットは一瞬の気絶の後、直ぐに目を覚ましていた。
 タフであることがスーパーロボットのパイロットの第1条件である為もあるが、彼らのパイロットスーツには直ぐに意識を回復できるように様々な仕掛けが施されているのだ。
 音速で格闘戦を行うジェット戦闘機のパイロットよりも過酷な操縦環境を持つスーパーロボットパイロット達には欠かせない装備なのである。
 彼らは目を覚ますと、直ぐに機体を立ち上がらせた。
 その直ぐ後、岸壁からイリスが陸に上がってきた。
 それを認めた3人に緊張が走った。

「ちぃっ! どうする竜馬!?」
「ああ、どうにかここで喰い止めないとエヴァンゲリオンが危ない」
「俺に任せろ、ライガーのスピードでキリキリ舞いさせてやるぜ」
「分かった、任せたぞ隼人」
「オープンゲーット!!」

 弁慶が合体を解くとゲッターポセイドンは3機のゲットマシンに分離し、空中に舞った。

「チェーンジ、ゲッターライガー! スイッチオン!!」

 隼人が音声入力のため叫びながら合体スイッチを入れ合体準備状態に入ったゲットマシンを3人はほとんど錐揉み状のアクロバット飛行で合体位置に誘導し、接触事故を起こしたように激しく合体した。
 機体の扁平な箇所が隆起、収縮を繰り返し、それまでの姿からは考えられないような形状のスーパーロボット・左腕の凶悪なアームが特徴的なゲッターライガーへと変形を完了した。
 素早く着地したライガーは目にも止まらぬ速さで大地を駆け始めた。

「分身・マッハスペシャル!」

 その余りのスピードに大地に立ち上がったばかりのイリスはゲッターの姿を見失ってしまった。
 焦ったイリスは触手を広げてバリアーを張ろうとしたが、ライガーのスピードはそれすらも上回った。

「ゲッタードリル!」

 超硬化処理を施されたゲッタードリルはイリスの脇腹を突き破った。

『うわぁああああ』
「OohWoOOOOOhh!!!」

 イリスとカヲルは悲鳴を上げ、後方へ退いた。
 油断無くライガーを見張っていたイリスであったが、またもやライガーの姿が消えた。
 イリスのスーパーセンスによって辺りを索敵するが、ライガーの気配は感知できる物の位置を完全に把握する事が出来なかった。

「ライガーミサイル!」

 成す術無く警戒していたイリスの周辺からほぼ同時に3発のミサイルが囲むようにして発射された。
 イリスは咄嗟にそれを斬り払うと上空へと逃れた。

「チッ! しまった」

 隼人はコクピットで舌打ちした。
 スピードに優れたゲッターライガーであったが、その活動領域は地上と地下に限られていたため空中目標に対する攻撃手段はゲッターミサイルしかなかった。
 ピタッと足を止めてしまったゲッターライガーを見てイリスの中のカヲルもそれに気付いたのか、思わず苦笑を浮かべていた。

「おやおや、あれだけの性能を持っていながら地上専用とはね。それではこのイリスには勝てないよ。さぁ、そこでおとなしく見ていておくれ」

 そう言うとカヲルはイリスをエヴァンゲリオンのいる位置へ向けようとした。
 だが、その背後ではゲッターロボが再度の変形を行おうとしていた。

「オープンゲーット!!」

 再びゲットマシンに分離したゲッターは空中へ飛び上がった。

『チィッ! 君たちも諦めが悪いな』
「悪いがこっちはそれが取り柄でね! 行くぞ! チェェーンジィ ゲッッタァアアドォゥラゴンッッ!! スイッッチオーン!!!」

 ゲットマシンは弁慶の乗る黄色い機体ポセイドン号が下半身に変形し隼人の乗る上半身を構成する青い機体ライガー号と合体、そして竜馬の乗る頭部とマントを構成する赤い機体ドラゴン号と合体しようとしたところ 『チィイイッ! させるかぁ!』 イリスが放った荷電粒子ビームが竜馬の操るドラゴン号の機体を掠めたのだ。

「うわっ しまったぁ!」

 バランスを崩したゲッターは合体に失敗してしまった。
 首無しのゲッタードラゴンとドラゴンの顔だけという妙な状態のまま機体はバランスを崩しつつも再度の合体を試みる。しかし、

『させるわけには行かないんだ。大人しくしていたまえ!!』

 イリスの放った荷電粒子ビームは現在晒されている最も脆弱な部分、ゲッターの合体部分へ向けて放たれてしまった。
 ゲッターに乗り込んだ3人は、迫り来るそのビームを緊張の中凝視していた。
 それが命中すれば、さしものゲッターであっても大破は免れない。
 刻々と迫り来るビームに3人は死を覚悟した。

「サンダァァー! ブレェェーイクッッ!!」



 突如雷鳴が轟いたかと思うと、眩い雷光が横殴りにイリスの放った荷電粒子ビームに襲いかかった。
 それを受けた荷電粒子ビームは大気の中へと拡散消滅してしまった。

『なんだって?!』

 しとめたと確信したカヲルは驚きに目を見張った。

「今だ!」

 その隙を突いて竜馬はスロットルを全開に開き急上昇を開始、追ってドラゴンの下半身が上昇。
 そのままの姿勢で竜馬の乗るドラゴン号が垂直に降下し下半身ブロックとの合体を完了した。

「ふぅー、危なかったぜぇ」

 冷や汗を拭う竜馬のコクピットに通信機から呼び出しのコール音が鳴り響いた。
 竜馬が受信ボタンを押すとTV画面に戦闘服に身を包んだ剣鉄也の顔が写し出された。

『済まない、竜馬君。遅くなった』
「いや、いいタイミングだ、助かったぜ」
『よぅし、それじゃ久しぶりに暴れるとするか!』

 鉄也はここの所対面していた最大の敵から逃れられた鬱憤を晴らすかのように、普段のクールな仮面を脱ぎ捨てて晴れやかとも言うべき笑顔でそう叫んだ。−−そんなに辛かったのか。恨むなら雪達磨さんを恨んでくれ。

「望むところだ! いっくぜぇぇぇ!」

 2機のスーパーロボットの反撃が始まった。





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