さて、陸自と空自の高射隊の違いとは何かというと。
空自高射隊の主任務は、侵攻してくる敵機から国民が集まる都市などを守る事、そしてその為により広い範囲の敵機に対応できるような兵器を使用している。(例としてペトリオットミサイル)
それに対して陸自の高射隊は、迫り来る敵機から陸自の基地や作戦行動中の部隊を防衛すると言う任務を帯びているのだ。その為、主に高度一万メートル以下の中低空域の敵機を撃墜する為の兵器を装備していた。(改良ホーク、81式短距離地対空誘導弾他)
だが、今回の時空統合によりG−FORCE世界で特異的に発展した技術、パラボラ式原子熱線砲が手に入った為、その高性能から全国の陸自と空自の高射部隊に少数ずつではあったがこの0式メーザー式高射砲の配備が始まっていた。
又、陸自では原型(メーザー殺獣光線砲から綿々と続くメーザー兵器群)と同じく自走砲型式の両用砲として生産されていた。(空自では高射砲専用として配備。又、艦載仕様に固定砲台とした対空兵装も開発中)
その自慢の最新鋭自走メーザー両用砲が遂に口火を切るときが来たのである。
イリスはウルトラホーク1号との空中戦にまんまと打ち勝ち、本州上空を東へと進んでいた。
時折地上から散発的に地対空ミサイルが打ち上げられてきたが、イリスはそれを電磁バリアーにて軽々と防御していたためまるでダメージは受けていなかった。
そしてイリスが日本一の山、富士山に接近してきたときのことである。
流石に散発的にではあるが、直撃を受ければ決して軽いダメージとは言えない対空ミサイルから逃れる為に高度を三万メートルに取り、巡航飛行していた。
SR−71やU−2しか飛ばないような高高度であったが、イリスの電影はハッキリとレーダーに捉えられていた。
だが、比較的低空の飛行機を対象とした従来の高射部隊に配備されていた兵器群ではそれを迎撃するのは不可能であった。
しかし、電磁波を拡散減衰させる大気が薄くなる高空ほど飛距離が伸びるメーザー砲にとって、水平射撃よりも垂直方向への射撃の方が飛距離が伸びる上に射撃精度も向上する。
その最新鋭の自走式対空メーザー砲が富士演習場に集まっていた。
これは今までにない新式の兵器であるメーザー砲の扱いに各基地の担当官が操作になれる為の短期集中演習の為であったのだが、今回はそれが幸いした。
日本全国に20台配備されているメーザー砲の約半数である11台が現在、ここ富士演習場に集中して運用されていたのだ。
自衛隊は空陸海、すべてがデーターリンクで繋がっていたため空自による迎撃が失敗した事を知った陸自は直ぐさま進路上にある基地に連絡した。
そして、この富士演習場に11台ものメーザー砲が集結している事を思い出すと、幹部は直ぐにその場を決戦の地に定めた。
飛行怪獣迎撃の下命を受けた富士教導隊は、広い敷地の一角に集中していたメーザー砲に隊員達を乗り込ませると、直ぐに迎撃に向いた場所へと散開させた。
戦車とするには異様に車高が高すぎるメーザー自走砲は、フレキシブルサスペンションの8輪タイヤを勇ましく廻し、決して平坦とは言えない泥道を各車所定の場所へと急がせた。
また、迎撃が成功し、演習所内に墜落してきた場合を考え90式戦車に積んだ弾頭を全て撤甲弾に載せ換え、メーザー砲1台につき5台の90式を護衛に付けた。
その他にも第1特科連隊の75式自走155mm榴弾砲や155mm榴弾砲FH70や多連装ロケットシステム自走発射機MLRSがバックアップに入っていた。
メーザー砲は高温を周囲に巻き散らかす性質を持っている為、11台の0式メーザー自走砲は富士演習場の中の礫地に陣地を構えた。
90式はメーザー砲からの輻射熱に影響を受けないように50メートルほど離れた場所に盛られた戦車用の壕の中に身を潜めてその時を待った。
0式メーザー自走砲は、高度三万メートルと言う超高空を飛ぶ怪獣の飛行速度を計算するとそれまで寝そべらせていたパラボラ式メーザー発信器の鎌首を擡げて上空へと顔を上げた。
その頃、富士演習場の隣にある国立科学研究所SCEBAIでは例によって、事件に顔を突っ込みたがるマッドサイエンティスト達の親玉が怒鳴り散らしていた。
「エリアルは出せないのか!?」
岸田博士は自衛隊のレーダー防衛網のみならず、民間の観測機器や旧駐留米軍のレーダーまで駆使して怪獣=イリスの位置を確認していた研究所員Bにエリアルの状態を確認した。
「博士〜。この前 オーバーホールの指示を出したのは博士じゃないですか。現在エリアルは第1種分解整備で3基のバランサー全てを取り外して分解整備中ですし。主機のトカマク型核融合炉も取り外して炉心と超電導プラズマ封入殻発生装置の交換中。残っているのはメインコンピューターのAYUMIと管制系、それに駆動系が残っているだけですよ」
「むぅ、そうだったな。いっその事エヴァンゲリオンみたいにひも付きで」
「博士ぇ。高度三万メートルにいる怪獣相手にどうしようってんですか?」
「そんな事は分かっておる。今回は隣の自衛隊が原子熱線砲を装備しおったからな。もしも尻に火がついた怪獣がこっちに向かって来たときの事を考えてじゃわい」
「それなら、機械娘々(メカニャンニャン)のフレームが残ってたじゃないですか。あれにケーブル付けてでっち上げたらどうですか?」
博士はしばし考えていたが、納得いったのかポンと手を打った。
「そうじゃな。それで行くか。B、急げよ」
「げっ! うわっちゃ〜、やぶ蛇だったぁ」
「何を言っとる。言い出しっぺがやるに決まっておるだろうが。AA(ダブルA)の部品を使用しても良いから速攻で急げ! 」
「へいへい」
どのみち既に時間はなかったが。
現地時間一三〇〇、エヴァ初号機のサルベージ開始から丁度1時間後。
富士演習場に展開した0号メーザー自走砲11台はレーダーとリンクした射撃管制装置はパラボラ式の電磁波発生装置の向きを微調整して高空を飛行中のイリスに向けた。
「目標捕捉。自動追尾装置作動良好。気象状態の精密走査、問題なし。但し、上空500メートルに逆転層有り、射撃装置へ条件修正良し。いつでも撃てます。」
富士演習場の一角に設けられた野天指揮所の擬装天幕の中で、陸自のオペレーターが新型の情報卓を前に緊張した声で射撃管制のオペレートを行っていたが、射撃に必要な諸条件がようやく整い、上官へ準備完了の報告を上げた。
実際の所、一万メートル以上の成層圏のように大気状態に変動のない場所で有れば兎も角も、今日のように初夏の陽気の下で対流圏の午後一時と言う大気状態が最も不安定な状況下に於いて、大気密度による屈折によってその軌跡を変えてしまう光線兵器の使用は大変にデリケートな操作が必要であった。
出来ることならより良い環境での射撃が望ましい。
より空気の薄い場所に近い高所、傍にそびえる霊峰富士山頂がベストなのであるが、そうなると水平線下への攻撃は民間に被害が出るため控えなければならないし、第一市民感情が悪くなり過ぎるため諦めざるを得なかった。
さて、報告を受けた陸自の佐官は初めての実戦に緊張しながらも、ここの所鍛錬を続けてきていたこの新兵器の威力を夢想し、震えた。
「良し、レーザー照準器発射、続けてメーザー砲発射だ!」
発射命令と共に、散開して待機していた0号メーザー自走砲から一斉に低出力のレーザー光線が上空に放たれた。
それぞれが微妙に位相を変えたレーザービームが上空へ放たれ、僅かに屈折しながらもイリスの体表に接触し光を散乱させた。
高速で移動する物体のため補正が大変だったがレーザー光線が放たれた〇.三秒後、既に臨界に達していたメーザー発振器からパラボラ式の収束器に強電磁波が注ぎ込まれ、次の瞬間、白熱した光線が撃ち放たれた。
「う〜ん。空は良いねぇ、青空に浮かんだ太陽に手の平を透かしてみれば、真っ赤に流れる生命の息吹を感じるよ。そうは思わないかい? イリス」
究極とも言える生体兵器で高度三万メートルを飛ぶと言う非常識な事をしていながら、カヲルは脳天気にそんな事を喋っていた。
だが、つい先刻に一万年を超える眠りから目を覚ましたばかりのイリスにそんな事を聞かれても彼は返事に困るばかりだった。
「こんなに天気が良い日は歌でも歌いたくなるよねぇ」
と言うか、これだけ高い所まで昇ると青空なんか無くなってほとんど黒くなった空には星までハッキリと見分けられるのだが。
第一、天気が良いのは当たり前である。こんな高さまで雲が上がってくることはないからだ。
「そうだねぇ、シンジくん達にもお弁当を作ってくれたお礼がしたいしね、歌を歌ってサ。♪フーフーフーフゥ・フーフーフーフー、フーフーフーフー フーンフフーン」
かなり上機嫌に歌っていたカヲルであったが、 「なんだ!?」 カヲルはイリスの腹の下にチリチリとした感触に違和感を感じ、意識を地上の方へ向けた。
すると白熱した11条の光がイリスの下面を灼いた。
一瞬何が起こったか判別できなかったが、イリスは本能的に電磁バリアーを展開した。
電磁波対電磁波の対決は辛うじてイリスが勝った。
だが、バリアーを維持する触手には過酷なフィードバックが逆流しており、また弾き返しきれなかったエネルギーが鋭い錐となってイリスの体を灼いたのだ。
実際、あと3秒も照射を続けられたらバリアーを維持できずに致命的な損害を出していただろう。
しかし、光線の通過による大気屈折率の上昇に伴う射撃収束率の低下、そして0号メーザー自走砲のエネルギーコンデンサーの容量は連続10秒間、連発3秒間×4発と未だに短く、並みの兵器なら兎も角、常識外の怪獣やスーパーロボット群に対しては決定的な打撃力を持っているとは言い難かった。
だがイリスに備わっていた2本八対の触手の内、3本がメーザー砲の威力に耐えきれず弾け飛んでしまった。
イリスの本能としては直ぐにでもこの敵に向かって進路を変えたいところであったが、カヲルがそれを許さなかった。
<!!!!!?>
「ああ、あんな物は無視だよ、無視。キミには戦うべき相手が他にいるだろう? ここは堪えてもらわなくっちゃね」
イリスはカヲルのその言葉に落胆を憶えたが、既に完全にシステムを掌握されているためムズがる事もできなかったのだ。
地上では目標である怪獣に対し、その動向を固唾を呑んで見守っていた。
しかし三万メートルは遠すぎ、肉眼ではメーザー砲の効果が判別できなかった。
「効果確認!」
指揮官は直ぐに管制官に問い質した。
「は、・・・観測班によりますと、敵、小破。触手3本程度の脱落を確認」
その瞬間、野天指揮所に歓声が上がった。
「しかし、敵は依然として速度を落とさず首都方面へと進行中です」
「むぅ、そうか。では、追加砲撃は可能か?!」
「いえ、1,4,8,9号機砲身加熱の為、現在冷却中。また、敵の位置が移動した為角度が悪く、下手に攻撃をしますと大気の層に電磁波が反射して厚木市周辺に致命的な電波障害が発生してしまいます」
「そうか分かった。では第1師団司令部に報告。又、損傷のあったメーザー自走砲は直ぐに撤収。残りは待機してくれ」
「了解」
この時、彼の脳裏にはここの所、陸自の将校以上の連中に誠しやかに流された噂から、未だに秘されたあの戦力が使われるのではないかと考えていた。
それは確かに噂であったのだが、それらが存在することは事実であった。
その噂とは、東京都市ヶ谷駐屯地の地下200メートルには公開されていない特殊な倉庫があると言う物であった。
時空融合で現れた全ての軍事組織は日本連合政府の指揮下に入ったのだが、全ての兵器が元の通り使用されている訳では無い。
様々な兵器の中には、その有用性に疑問が有る物や、使用することに躊躇を覚える物、そして兵器は来たが兵隊達が来なかった世界も有ったからだ。
それらはこの秘密倉庫に集められ、使用されるかも知れない日を待って長い時を待つことになるはずだった。
それらの一例を挙げると、都市防衛用空中移動要塞スーパーX(T−1)、対ゴジラ用装備搭載型首都防衛用全領域移動要塞スーパーX2(T−2)以上陸自所属。スーパーメカゴジラMk−2、全領域対怪獣決戦兵器MOGERA、以上G−FORCE所属。陸海空地下全領域万能攻撃型戦闘艦富士壱號、陸海空地下全領域万能大型戦闘母艦富士弐號、以上防衛連合軍(TDFとは異なる組織)所属。等である。
これらはいつでも稼働できる状態に整備されてはいるが、他に一切戦力が無くなると言う状況に陥らない限り科学技術の資料として調査研究の対象として保存が決まっていた。
だが、状況は動いておりこの秘密戦力の行使も検討されていた。
しかし、状況は一足飛びに動いたため、今回彼らの出番はなかった。
御殿場の富士演習場から報告を受けた防衛庁では既に統合幕僚会議情報本部によって敵性巨大生物への戦果分析が始められていた。
だが、今までの再三に渡る通常兵装による航空攻撃と新型のエネルギー兵器による航空攻撃及び対空射撃による攻撃は、敵性巨大生物へ充分な戦果を挙げていないことが確認されただけであった。
これを受けて統合幕僚本部の柳田陸将は発足の準備段階である特殊機動自衛隊の幕僚長へと連絡を取った。
彼は特自の設立のため日本全国を飛び回っている人物とのホットラインを入れた。
「私だ。特殊機動自衛隊の剣君に連絡を取ってくれたまえ」
彼が受話器を置いて暫くすると、鈴と受話器が鳴り響いた。
「剣君かね? 統合幕僚本部の柳田陸将だ」
<!・・・・・・・・・・・・>
「うむ、状況は行っていると思うが、現在首都圏に向かっている敵性巨大生物についての件だ」
<・・・・・・・・・・・・・・・・・>
「ああ、新型のメーザービーム砲による11基集中攻撃も効果が薄く、このままでは陸自空自の手に余ると判断された。そこでだ、大変に済まないがキミの軍団に出撃を要請する」
<・・・! ・・・・・・・・・・・・・・・。>
「頼む、今現在首都の民間人を守ることが出来るのは他にいないんだ。未だに戦力が整っていないことも承知している」
<・・・・・・>
「うむ。頼んだぞ」
柳田陸将は肯いてから受話器を置いた。
「さて、賽は投げられた。今の我々に出来るのは民間人の避難誘導と彼の才能に期待する事ばかりだ」