スーパーSF大戦・第16話−アバンタイトル−





 青く輝く沖縄の海の中彼は大変に腹を空かせていた。
 彼は巨大な胴体に付いた四つの鰭を優雅に動かすと、巨体に見合わぬスピードで獲物を探して海中を邁進した。
 流石に肺呼吸生物であったため海面から離れることはなかったが、海中生活に適した形状の体は素潜りの人間など比較にならないほど長い潜水時間を持っていた。
 彼がかつての世界で獲物にしていた生物に良く似た生物もココにいたが、その生物は彼のいた世界の物と違い超音波で物を見ていたため彼が近付くと直ぐに逃げ出してしまった。
 幸い鮫類は彼の時代と大差なかった為、飢え死にという事態は回避できたがあのアンモニア臭いには閉口物だった。
 何しろこの時代の海は彼の時代と比べて極端に生物相が変わっていた上に個体の大きさが小さいのだ。
 たまに遠くに彼と同じくらい巨大な生物の群れの影を見ることもあったが、慌てて駆けつけても甲高い声と共に姿を消し去っていた。
 だから新しい獲物を探して彼は彷徨っていた。
 一億四千九百万年前ジュラ紀の海の覇者、地球史上最大最強の肉食動物、海洋爬虫類リオプレウロドン、三〇メートルにも及ぶ巨体の持ち主は不幸だった。


 沖女の生徒たちは新ヤイヅCITYでの戦いのあと、東京見物をしてここ、沖縄の校舎に戻ってきていた。
 昨日、彼らのコーチであるオオタコーチは朝の全校朝礼でこう言っていた。
「いいかお前たち。明日の体育大会は遠泳だ」
 それを聞いていたノリコは手を合わせて喜んだ。
「え、水泳! やった、私泳ぐの得意だし」
 体育会系のノリコは喜んでいたが、そんな様子を見てキミコはハァッと息を吐いた。
「あのねぇノリコ。あのコーチがそんな簡単な事をすると思ってんの?」
「え?」

 又、教員側にはトップ部隊のユングとリンダが聞いていた。
「聞いた聞いた? リンダ。遠泳だって、どんな水着着ていこうかしら? これでオオタコーチを悩殺よぉ」
「まったくもぉ。そんなにあのおじさんが良いわけ?」
「分かってないわねー。あのコーチの良さがわからないなんてカワイソー」
「別にかまわないわ」
 リンダは呆れた顔をしてユングに言っていた。

 そして翌日。
 彼女たち沖女の1〜3年生は全員海岸に立って海を眺めていた。
 マシーン兵器に乗って、だったが。
「ねぇ〜ユング。水着着てきたのぉ?」
「うっさい。そうよもうヤケだから着てきたわよ。文句有るの?」
「ううん、べっつにぃ?」
 だがモニターに映る彼女の顔は笑いに歪んでいた。
「よぉおし、全員乗り込んだな。今からマシーン兵器で遠泳を行う。尚、実戦形式としてオート操作、オートバランサーのスイッチは切る」
「「「ええーっ!?」」」
 コーチの宣言に女子生徒の間から悲嘆とも抗議とも取れる声が上がった。
「甘ったれるな! お前ら、そんな事で立派な帝國軍人に成れると思っているのか!?」
「地球帝國なんてなくなってんじゃん」
 ボソッとした声で突っ込みが入ったがコーチはそれを無視した。
「よおし、では一年生から順に沖合二〇キロの所に浮かんでいるポールまで往復してこい」
 オオタが胸に下げた体育教師御用達のホイッスルを鳴らすと、海岸に整列していたマシーン兵器達のオートバランサーが切られた。
 途端に大きくよろける者達が続出したが、流石に実戦を経験した者達が多かったので転倒することはなかった。
 マシーン兵器の中では、パイロット候補生たちが四肢を全て使ってパネル操作から手足の制御までをキッチリとこなしていた。
 ここ数週間の特訓と実戦の経験によって彼女たちのレベルは大幅に向上していた。
 特に、最初は直立することすらままならなかったノリコの成長は著しかった。
 彼女は体で覚えた事はなかなか忘れない、と言うか頭で憶えるのはアニメや特撮の事ばかりという質だったので一年生の中でもトップを切って海に飛び込んだ。
 マシーン兵器は単純なシルエットをしている為水の抵抗が少ないと思われるのだが、意外と丸まっこい体型のそれで泳ぐのは結構大変なのであった。
 そしてノリコがトップを独走し一〇キロ地点に差し掛かった頃、アマノのハイペースな追い上げとユングの猛追が始まっていた。
 アマノはバタフライ、ユングはクロールである。
 彼女たちはあっぷあっぷとしている者達を尻目に先頭に近付いていった。
「なかなかやるじゃないの、天才さん」
「そっちこそね」
 見た目はかなり異なるが、根底には同じ物が流れるふたりは更に奮闘して泳ぎを早めた。
 目指すはひとつ、トップをねらえ。
 さて、一方ノリコであったが、うしろからの猛追に気付かずのんびりと海底の様子など観察しながら泳いでいた。
「へーっ、やっぱり沖縄の海って綺麗ねー。ウチの地元の大阪湾とはエライ違いやわ、ホンマ」
 感動してしまい思わず地の言葉が出てしまったが、そんな彼女のマシーン兵器のモニターの片隅に何か反応があった。
「あれ? なんだろう」
 ノリコは目を凝らしてそちらを見た。
 すると遙か遠くから小さな点が沢山こちらに向かっているのが見えた。
 それらは見る見るうちに大きくなると流線形のスマートなイルカの姿になった。
「あっ、イルカだイルカ、かっわいいー」
 おーい、やっほーとか言ってイルカに愛嬌を振りまいていたノリコのマシーン兵器であったが、彼らはその異様な物体に構っている暇は無いようで完全に無視してあっと言う間に去っていった。
 だが、海中で初めてイルカを見たノリコは感動した様子である。
「はぁー。やっぱりイルカはいいわねー、う〜んドルフィンウォッチングって奴?」
 彼女が感動の余韻に浸っていると、更に何か大きな影がこちらに向かってくるのが見えた。
「うわっ! もしかして今日ってラッキーデー? ドルフィンウォッチングの次にホエールウォッチングまで出来るなんて、もう最高!」
 ノリコが見つめるその生き物はマシーン兵器の姿を見ると海底深く潜って行ってしまった。
「あれ〜? チェッ逃げちゃった。ざ〜んねん」
 ガッカリしたノリコが後ろを振り返るとカズミとユング、オオタコーチの乗ったモーターボート、そして後続の皆がどんどん接近してくるのが見えた。
「あ、いっけな〜い。コーチに怒られちゃう」
 ノリコが慌てて遠泳の続きをしようとするとメインモニターにユングとカズミのウィンドウが開いた。
「あら、ノリコさん、随分と余裕ね」
「うわ、お、お姉さま」
「本当に、おミソの癖に余裕を見せてくれるわね」
「う、ユングさん。だってだってイルカがいたんですよ〜」
「甘いぞタカヤ!」
「うわっ、コーチ」
「いいかタカヤ、戦場では一瞬の油断がお前の命を奪う。例えパンダやコアラやラッコやウーパールーパーやえりまきトカゲや反省する猿が目に入ろうと油断をするな!」
「はい、コーチ。でも反省する猿って何なんですか?」
「む、知らんのか?!」
「はい」
「そうか、なら良い。さっさと遠泳に戻れ」
「ハイ、コーチ!」
 そう言ってノリコが敬礼をすると、突然海中から現れた大海獣の巨大な顎に噛み付かれた。
 勢い余って15メートルも海上に姿を現したリオプレウロドンは水柱を上げて海中深く姿を消した。
 あんまりと言えばあんまりな出来事にその光景を見ていた者達は絶句してその場に硬直してしまった。
 それはそうだろう、人間の等身大なら兎も角、10メートルもあるマシーン兵器をくわえ込むなんて非常識なことが出来る巨大な生物なんて。
 流石のオオタコーチも呆然と拡声器を掴んだまま静かになった海面を眺めていた。
「・・・・・・ハッ! ノ、ノリコォ!」
 ノリコの親友であるキミコが我に返りノリコに呼びかけるが勿論返事はなかった。
「コーチ! しっかりして下さい! ノリコはどうなっちゃったんですか!?」
「あ、ああ。待ってろ今確かめる」
 キミコの声に我に返ったオオタは、艇に装備されていた魚群探知機のスイッチを入れた。
 ピーンと云う音が海中に伝わると、障害物に跳ね返ってモニターに映し出された。
 そこには目測約全長30メートルの巨大な影が藻掻いている様子が見て取れる。
 その巨大生物はどうやら獲物を噛み千切ろうと頭を振っているようだった。
 勿論獲物とはノリコの乗ったマシーン兵器RX−7<ナウシカ>の事である。
 暫くするとリオプレウロドンはその獲物を飲み込むことを諦めたのか、マシーン兵器をポイッと吐き出すと何処かへと姿を眩ました。
 だが、解放されたノリコ機は浮かび上がってこないでそのまま海中深く潜っていった。
「いかん、このままではタカヤが危ない」
 オオタはこの前のハワイ沖決戦に於いてのスペシャルチーム、アマノ、ユング、リンダの3名を艇の周りに呼んだ。
「いいか、これからタカヤの救出に向かう。何か質問はあるか」
 だが、とても優秀な彼女たちは無駄口を叩かずコーチを見ていた。
「良し。それから3年、2年代表と1年代表はいるか?」
「はい」
「ハイ」
「ハイ!」
「良し、お前ら。これから速攻で皆をまとめて陸へ引き返し全員校庭へ集合させろ。それから学校長へ連絡し県海域での遊泳の禁止と漁の自粛を県に求めるように要請するんだ。分かったな」
「はい」
「では行け」
 彼女たちは肯くと直ぐに学級委員に命令し、落ち着きの無くなってしまった生徒達をまとめ上げ整然と来た方向へと戻っていった。
 オオタコーチはそれを見届けると艇のハッチへと潜り込んだ。
 こんな事も有ろうかと、モーターボートの下にオオタ用のマシーン兵器をくくりつけていたのであった。
 オオタが乗り込みイグニッションスイッチを入れたオオタ機はカメラアイを輝かせると艇とマシーン兵器を繋いでいたバンドを解いた。
 ゴポッと機体の各部から泡をこぼすとオオタ機は海中深く潜行していった。
 その後に3機も続いた。
 ここいら辺の海域は陸からの距離の割には水深が深く、海底を一望することが出来なかった。
 その為にノリコ機とリオプレウロドンの行方は分からなかったのである。
 さて一方、ノリコのマシーン兵器は海底に沈降していた。
 マシーン兵器の装甲は流石の肉食爬虫類も歯が立たずに諦めたのである。
 放り出されたマシーン兵器であったが、元々海に浮くようには出来ていなかったため海底に沈んでいった。
 搭乗していたノリコもリオプレウロドンがマシーン兵器をかみ砕こうと散々振り回したためコクピットに体を打ち付けて気絶していた。
 時折泡を吹きながら沈むノリコのマシーン兵器は海底へと着底した。
 金属同士がぶつかり合うような音がした後、海底潮流に流されノリコ機は規則的に繋がる窪みのひとつにはまった。
 するとそれまで眠っていた赤い光が瞬きノリコ機の照合を行うと脇の扉を開き彼女を招き入れた。

 オオタ機他3機は頭部側面からライトを照らしながら海底へと潜行を続けていた。
 すでに周囲の海は暗くなっており、ライトに照らし出された周囲だけが捉えられた。
 如何な巨大なリオプレウロドンといえどもこの深度までとは思うが、一応警戒しながら彼らはノリコ機を探した。
 しかし、まだ残骸すら見つからなかった。
「タカヤはまだ下か。仕方ない、もう少し潜るぞ」
 水深五〇〇メートルともなると水圧は五〇気圧もの加重圧となる、亜光速航行時の重圧に耐えられるように設計されているとは言え基本的にマイナス1気圧に耐えられれば良い宇宙用のマシーン兵器にはかなりの重圧が掛かっているのは事実である。
 中心の耐圧殻に嫌な軋み声が響く。
 水深七〇〇メートル圧力七〇気圧でオオタコーチは海底に向けて音響探知波を打ち出した。
 水温変位層等がなければ正確な海底の姿が探知できるはずである。
 探知結果は非常に綺麗な姿を返してきていた。
 しかし、それは綺麗すぎる物であった。
 その結果を4人は怪訝な顔で受け取った。
「どう云うこと。これは自然な海底の姿じゃないわ」
「もしかしてこのアクティブソナー壊れてるんじゃ」
「て言うかユング、これって人工物って可能性が高いんじゃないの」
 リンダが指摘したとおり画面に表示された物はその全長を別にすれば明らかに人工の建造物の兆候を示していた。
 だが、全長三〇〇〇メートルの金属製の物など人類に作れる物だろうか、しかし彼らの世界では全長一〇〇〇メートル超の巨大宇宙戦艦ヱクセリオンの建造が始まっていた。
 人類の作った物である可能性は高かった。
「・・・・・・行くぞ」
「ハイ」
 彼らは更に二〇〇メートル潜って行った。
 すると眼下にうっすらとした床が見えてきた。
 緩やかな傾斜を描いたそれはライトの投射界を遙かに越えていた。
 注意しながら彼らは足をそれに着けた。すると金属板特有の音が響く。
「コーチ、材質はスペースチタニウム製です!」
「うむ、やはりな」
 オオタはサングラスをキラリと光らせ、辺りを窺った。
 すると北の方に彼らの足元とは違う色が見えた。
「アマノ、0時の方角へ向かうぞ。ユングとヤマモトはあちらの方の光源へ向かってくれ」
「了解」
「わっかりましたぁ。ちぇっ私の方が役に立つのにさ」
「ぼやかないぼやかない」
 マシーン兵器が足を離すとうっすらと土埃が浮いた。
 この積もり具合では、せいぜい数ヶ月しか経っていないだろう。
 高い水圧の元、微速でそちらへ向かう彼らの眼下に明らかに周りと異なるパターンの色彩が描かれていた。
 彼らの位置からではまるでナスカの地上絵を地上から見た様に認識することが出来なかった。
 その為、彼らはマシーン兵器をそこから少し離した。
 大きかったそのパターンは少しずつ小さくなってその全体像が見て取れた。
 そこにはこう書かれていた。 とらいおん、と。
「コーチ、これって」
「うむ。間違いなく宇宙戦艦だ。銀河連邦軍所属艦とらいおん、か、見た感じではエクセリオン級に似た構造をしているが・・・。我々の地球帝國とは異なる所属らしいな」
 その時、光源に向かっていたユングから音響通信が入った。
「オオタコーチ、こちらへ来て下さい」
「どうしたユング」
 ふたりが近付くと、ユングが見ていた物が彼らにも見えた。
「オオタコーチ」
「うむ、これは・・・」
 オオタが絶句したのも無理はあるまい。
 巨大な窓の中には、人っ子ひとりいない街が広がっていた。




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