「駄目! ゴルディオンハンマーでは使徒は倒せない!」
アスカの叫び声がメインオーダールームに響き渡った。
『何!?』
『いったいそれはどういうことなんだアスカくん』
「だって使徒は!」
アスカが説明しようとした瞬間、スピーカーから凱の声が聞こえてきた。
「天使の名を持つ人類の敵よ! 光になぁれぇぇええ!!」
黄金色に輝くガオガイガーは、その巨大なハンマーをそのままゼルエルの頭上に叩き込んだ。
ゴルディオンハンマーの一撃は完全にゼルエルの顔面に叩き込まれた。
Gツールの作用面から重力波の衝撃がゼルエルの体内に向けて撃ち出された。
一瞬でその衝撃はゼルエルを貫通し、そのままゼルエルの体を構成する物質は光の粒子に変換される、筈だった。
ゼルエルの体は黄金色に光った。
重力波は影響を与えていた、しかし、急速に輝きは失せると、ゼルエルの背後の地面が光の粒子となって吹き飛んだ。
ゴルディオンハンマーの一撃は使徒の体を通り抜けてしまったのだ。
一瞬使徒の体はぼやけた物の依然としてそこに存在していた。
『これは一体どうしたことなんだ』
「獅子王博士、以前倒した使徒を調査した結果は見ましたか?」
『ああ』
「使徒はエヴァと同じ物で出来て居るんです」
『エヴァンゲリオンと同じ、ハッ! しまったそう言うことか!』
『なんだ、一体どう云うことなのか説明して下さい。獅子王博士』
『以前にも話した通りエヴァンゲリオンの体は有機体で構成されているように見えるが、実際は違う』
「人間の遺伝子と99.98%同じ情報を持つ粒子と波の性質を備えた光のような物で構成されているの」
『つまり、ゴルディオンハンマーの一撃を加えても光を光に換えようとしているような物じゃ。物質に擬態している訳だから・・・』
「まったく効果がないって事はないわ。光と光が干渉すれば干渉波が発生するし」
『それによって使徒を構成している情報体に多大な損傷を与えることが出来る。間もなくあの使徒はあの形状を保っていられなくなるだろう。しかし・・・』
「使徒は自己修復能力、そして機能改善、増幅する事が出来る」
『いそいで奴を滅ぼさなければ取り返しの付かない物になりよる可能性が高い』
『なんてこった!』
「ボルフォッグ、急いで私をエヴァの所へ連れていって」
「しかし、アナタはエヴァに乗ることを拒否していたのでは」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ。使徒と人は共存は出来ないの。今すぐ奴を滅ぼさなければ、滅びるのは」
『我々人類か!』
「そう言う事よ。分かった? ボルフォッグ」
「了解しました。アナタのフォローはキッチリと務めさせていただきます。若き勇者よ」
「光栄だわ。ガオガイガー聞こえる? 私が出撃するからアナタは退いて」
「聞こえている。だが、このまま人類が滅びるのを指をくわえて見ているわけには行かない」
「でも、ゴルディオンハンマーは使徒に対する必殺技にはならないのよ」
「しかし、奴に確実に効いている。続けてもう一度ゴルディオンハンマーを叩き付ければ奴を倒せるはずだ! もう一度行くぜ」
凱は重いゴルディオンハンマーを担ぎ上げようとガオガイガーの右腕を上げようとした、しかし彼の右腕は軋みを上げるだけでビクともしなかった。
「なんだ!」
凱は自分の意志を裏切った右手に驚きの声を上げた。
そのガオガイガーの様子を見ていた獅子王博士は愕然とした表情で叫んだ。
「しまった! 」
「父さん、一体これは・・・右腕が、言うことを聞かないんだ!」
「すまん凱。ゴルディオンハンマーの放つ衝撃波のフィードバックが予想以上に大きかった。もう一撃を放つことは・・・不可能だ」
「そんな」
碇唯がGアイランドの地下に広がる駅に降り立った時待ち受けていたのは、緊急避難勧告であった。
彼女は直ぐにそれに従い更に地下深く掘られたシェルターへと他の乗客達と共に急いだ。
碇シンジはエヴァ初号機のエントリープラグ前で今回エヴァの生体部分の修復を担当したモーディワープからの派遣技術者、都古麻御から説明を受けていた。
「初めまして碇くん。私はモーディワープからの派遣技術者、ミヤコ アサミと言います宜しくね」
「は、はい。よろしくお願いします」
麻御は彼女よりも背の低いシンジに合わせるように膝を曲げて目線を合わせた。
だが、そうすると無闇やたらに色っぽい麻御の胸元に視線が向いてしまう。
男の子だから仕方ないが、ハッキリ言ってアスカやレイ、そしてミサトすらも凌駕する色気にシンジ陥落寸前。
しかもそれを狙っている訳でないのが麻御の怖いところだ。
そう、彼女は自分が色っぽい事にまったく関心がなかった。
ただ人前に出る最低限のマナーを実践しているだけのつもりなのだが、それは世の男共には目の毒以上の物であった。
特に彼氏持ちの女性の天敵と言えるであろう。
それはともかく、麻御は初号機に搭載したリンカージェルシンクロ補助システムの説明を始めた。
「碇くん、シンジくんと呼んで良いかしら」
「ははい、ミヤコさん」
「ん〜んん。私のことは麻御と呼んで下さい」
「は、はい、アサミさん」
「それで初号機について何ですけど。元々エヴァンゲリオンのエントリープラグはLCLと言う液体でシンクロを行っていたそうですね」
「はい、GGGでは作ることが出来ないからって今は別の液体が使われていますけど」
「ふぅ〜む。今の液体はただの衝撃緩衝剤としての役割しか果たしていないそうですね。LCLと比べてどうですか」
「はい、やっぱりシンクロの仕方とか、LCLの方が良かったように思います。直接液体を肺には入れなくても良いのは良いんですけど」
「ふ〜ん、やっぱりそうですか。実は私達モーディワープが管理している物の中にLCLと似た性質を持つ液体。リンカージェルと言う物があります」
「リンカージェルですか」
「ええ、人の脳髄が発する電気インパルスに反応する性質を持つ粘度の高い液体なのです。もともとはエネルギー源として開発が進んでいた物なのですが、これをLCLの代用品として利用が可能だと私は考えます」
「はい」
「今回、私はこのリンカージェルをエヴァンゲリオンのシンクロの補助システムとして組み込みました」
「え、もう組み込んでしまったんですか?」
「はい、これによってシンクロ率は1割から2割り増しになる筈です。もっとも時間がなかったので初号機だけですが」
「はぁ、そうですか」 そう言うことはやる前に言って欲しいなぁ
「それでですね。エントリープラグの改修はほとんど行っておりません。元々エントリープラグにはLCLの透析システムが積まれていましたから少し改修するだけで対応できましたから。あ、これはLCLと違って肺には入れませんから、呼吸が苦しくなることはありませんよ」
「はぁ」
嬉々として説明する麻御にシンジは多少不安な物を感じていた。科学に没頭する科学者特有の闇みたいな物が垣間見えたからだ。
あの赤木博士みたいな。
だが、巨大ロボットには博士が憑き物である。(誤字に非ず)
「あとは液体の粘度が高いので、いつもよりシートに固定されてしまい、体が動かし辛いと思います。以上です」
「はぁ。わかりました」
「シンジくん」
取り敢えずシンクロ率が上がるんだな、と言うことだけを理解したシンジに後ろからレイが話し掛けた。
「どうしたのレイ」
「アスカの居場所が分かったわ」
「本当!?」
「ええ、アスカの部屋よ」
「アスカの部屋って・・・今使徒が来ているじゃないか」
「急がないと危険かも知れない」
「くっ!」
シンジはヘルメットを被るとエントリープラグの中に潜り込んでいった。
彼がシートに座ると、自動的にエントリープラグのハッチが閉じ、エヴァの中へと挿入されていった。
いつもより不透明感が強いリンカージェルに包まれ、シンジはエヴァとのシンクロを開始した。
すると目玉から送られてくる通常の映像信号に加えて、A10神経から直接送られてくる映像がシンジの眼前に広がった。
最初はテストパターンであったのだが、その映像は次々に入れ替わり、最終的にはエヴァが見ている映像そのものをシンジは見つめていた。
感覚的にはエヴァの視点=シンジの視点である。
彼がいつもの感覚で首を振ってみると、隣のケージではレイが零号機に乗り込もうとしているのが見えた。
現時点でのシンクロ率は70%、かなり優秀なシンクロ率である。
シンジは通信機を入れる感覚を思い出し、メインオーダールームに連絡を入れた。
『おお、シンジくんか』
「はい、初号機発進します」
『む、そうか。分かった。現在使徒はGアイランドの真上で破壊活動を行っている。十分注意してくれたまえ』
「はい、」
『エヴァンゲリオン初号機出すぞ。上の状況はどうだ』
『はい、ガオガイガーは右腕使用不可のため、現在プロテクト・ウォールにて防戦中。超竜神はその援護に入っています』
『分かった。シンジくん、状況は以上の通りだ。やってくれるな』
「ええ、アスカは必ず助け出します」
シンジは解除された固定ブリッジから歩き出した。
壁面には、新設されたばかりの高速エレベーターが置かれていた。
エヴァの幅よりも少し広めの開口部に一本のベルトが上下に伸びており、そこから伸びた突起を掴み足を踏ん張って上に登るという物だ。
シンジは伸びてきた取っ手を掴み、足を下の突起に掛けた。
「エヴァンゲリオン初号機、行っきまーす!」
シンジの掛け声と共にエヴァは猛烈な勢いで地上へと打ち上げられた。
僅か10秒足らずで海底の格納庫から地上へと持ち上げられたのだが、意外ときついとは感じなかった。
彼が地上に上がって最初に見た光景は、一面が焼き払われ荒野と化したGアイランドの惨状であった。
シンジはゼルエルを睨み付けた。
そんなシンジの視線に気付いたか、ゼルエルも初号機の方へ顔を向けた。
『うっ・・・、シンジくんか』
無線から凱の弱々しい声が漏れてきた。
「凱さん、大丈夫ですか?」
『ああ、伊達に勇者はやっていないさ。ただ、流石にピンチだけどね』
『シンジ隊員ですか』
「超竜神、大丈夫なの」
『はい、現在損傷率は50パーセント、このままでは勝利の確率は60パーセントと言ったところでしょうか』
「今からボクが戦う。皆は援護をお願いします」
『了解です、シンジ隊員』
「ATフィールド中和開始」
シンジが力を掛けるとゼルエルの目前にオレンジ色の壁が立ちはだかった。
「てやぁああああ!!」
様々な模様が浮かんでは消え、シンジの正面の部分の色が消えた。
初号機はそこをすかさず持っていたパレットガンで銃撃した。
だが、パレットガンのような高初速弾頭はゼルエルの正面から当たれば、その分厚い皮膚を突き破りゼルエルの本体にダメージを与えたが、それは奴にとって大した損害ではなかった。
「畜生! こうなったら接近戦でコアをやるしか・・・」
シンジはパレットガンを投げ捨て、肩からプログレッシブナイフを取り出した。
「今から突撃してアイツのコアを叩きます。援護をお願いします」
『了解しました! ダブルガン!!』
超竜神は腰の両側に有るダブルガンをゼルエル目掛けて連続で撃ちだした。
すると、先程までATフィールドで弾かれていたダブルガンがゼルエル本体に命中したのだ。ゼルエルに与えるダメージはかなり軽微ではあったが。
『これは!! 行ける!』
エヴァンゲリオン初号機がATフィールドを中和すると、今まで届かなかった攻撃の手が届くことが確認された。
これに元気付けられた超竜神はダブルガンを構えながら、ゼルエルへ接近を開始した。
初号機は超竜神の援護射撃の元、プログレッシブナイフを構えながら一気にゼルエルに向かって接近した。
「うわぁあああああ!!」
シンジはプログナイフを下手に構え、まるでヤクザ映画の鉄砲玉がドスを持って人を刺すような要領で体ごとコアに向かって突撃した。
しかし、その切っ先がコアに刺さる直前、コアを保護するようにシャッターが閉じてプログレッシブナイフからコアを守ったのだ。
シャッターに滑ったプログレッシブナイフはゼルエルの脇腹を削り取っただけで、大したダメージとはならなかった。
ヨロヨロと後ずさるシンジの目の前には、虚無の眼を向けるゼルエルの姿があった。
一瞬シンジはその迫力に飲まれてしまった。
ゼルエルは右腕を後ろに引くと、初号機目掛けて突きだした。
「うわっ!」
初号機は腕を前に突きだしてそれを防ごうとしたが、気休めに過ぎない程の防御力しかない事は明白だった。
『させません! ダブルトンファー』
ゼルエルへ接近していた超竜神は今までウルテク弾を発射していたダブルガンを腰から外すと両腕に構え、初号機の楯になる様にダブルトンファーを構えて立ちはだかった。
だが、ゼルエルの右腕はスッパリとダブルトンファーを両断、更に超竜神の両腕を切り落とした上に初号機ごと超竜神を弾き飛ばした。
『超竜神! シンジくん!』
ガオガイガーは丘の上の公園に弾き飛ばされ動きを止めてしまった超竜神とエヴァンゲリオン初号機に声を上げた。
しかし、2機から返事はなかった。
『ミコト! シンジくんは、超竜神はどうなんだ』
『超竜神は破損率90パーセント、超AIに損傷があるわ。それから、シンジくんの心音が停止してるの。さっきから心臓マッサージをしてるのに動かな・・・、動かないの!』
『うおおおおお!!』
ガオガイガーは激しい慟哭を上げた。
彼はユラリと立ち上がると、左手の人差し指をゼルエルに突き付けた。
『オレは、ここに誓う。例えこの身が滅そうとも。絶対にお前を倒す! 覚悟しろ使徒!』
その時、エヴァンゲリオン初号機が出てきたエレベーターからエヴァンゲリオン零号機と自分の身長の2/5のビッグボルフォッグを抱きかかえたエヴァンゲリオン弐号機が姿を現した。
『お待たせしました』
アスカは地上に出てきて目を疑った。
「シンジ、シンジどうしたの? 返事して、シンジイイ!!」
『アスカちゃん、シンジくんの心臓が止まったまま動かないの。今、救護班が向かってるから・・・』
今し方、絶対に守りきると誓いを新たにした当の本人シンジが既に地に伏せ、身動きひとつしない。
アタシガデオクレナケレバコンナコトニハナラナカッタノニイッタイドウシテコンナコトニナッテシマッタノチクショウチクショウチクショオオオオオ。
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!
冷たく凍ってしまったアスカの心を突き動かしたのは闇く燃える復讐の炎だった。
「・・・・・・レイ、ATフィールドの中和をお願い。私は差し違えてでもコイツを殺す」
「分かったわ」
「・・・ゴメンね。アナタひとり残すことになるかも知れないけど。けど、もし帰って来れたらピクニックでも行こっか。アンタ行った事無いでしょ」
「ええ」
「サヨナラは言わないわ。行ってきます」
「行ってらっしゃい、アスカ」
アスカの内面に燃える闇の炎は真っ赤に輝く熱いATフィールドとして現れた。
「うあああああああ!」
アスカはソニック・グレイブを構えるとゼルエルへと突進した。
しかし、それはどう見ても無謀な突進でしかなかった。
「ATフィールド全開!」
レイの零号機はATフィールドを中和しつつパレットガンを放った。
突撃を開始したアスカの弐号機を見たビッグボルフォッグは彼女の行動に危惧を抱いた。計算では、突撃前に撃破される確率が80%、余りにも無謀である。
「アスカ隊員、援護します。フォッグガス散布、プロジェクションビーム投影!」
ビッグボルフォッグはエキゾーストパイプからフォッグガスを散布し、両肩のプロジェクションビーム投影機によってエヴァンゲリオン弐号機の周りにエヴァンゲリオン弐号機の幻影を複数投影した。
「分身の術!!」
突然増えた弐号機の姿にゼルエルは戸惑った、数十機のエヴァンゲリオン弐号機を片っ端から攻撃するが全部スカであったのだ。
「どこを見てるのよ。アタシはここだぁ!」
突然、アスカの弐号機は空中から姿を現した。
実はビッグボルフォッグは複数の分身を作ると同時に、本体である弐号機は風景に隠れる様なホログラフを投影していた。
完全にノーマークになったアスカは大きく弐号機をジャンプさせると、ソニック・グレイブを袈裟懸けに斬りつけた。
仮面の横からソニック・グレイブの刃はゼルエルの肉体に喰い込んで行きそのままコアに届いた。
「貰ったぁ!!」
パキン
呆気ない音と共にソニック・グレイブの刃は砕け散った。
「えっ?!」
アスカは信じられない様子で折れた刃を見た。
「アスカ、逃げて」
「はっ!」
アスカがレイの声に気を取り直すが、彼女が見たのは目の前に迫るゼルエルの左腕の先端だった。
鈍い音と共に顔面を縦に割られたエヴァンゲリオン弐号機はそのまま大地に倒れ、活動を止めた。
「アスカ!」
「アスカ隊員!」
動揺したレイはATフィールドの出力を弱めてしまった。
ゼルエルはそんな零号機とビッグボルフォッグに向かっていきなり加粒子砲を撃った。
「ミラーコー・・・!!」
何の予備動作も無しに放たれた荷電粒子ビームは薄くなったATフィールドを紙のように突き破ると、ビッグボルフォッグがミラーコーティングを施すよりも早く到達した。
ふたりは悲鳴を上げる間もなく直撃を喰らった。
ただ、不意を突くために予備動作無しに射ったのが幸運だったのだろう、ビッグボルフォッグは右腕を完全に破壊された物の、AIに致命的なダメージはなかった。
レイの零号機も機体前面の拘束具を溶かされた割には素体にはダメージは少なかった。
だが、一見して最早戦闘不能である事が見て取れた。
残されたのはガオガイガーただひとり。
しかも右腕が損傷し、攻撃兵装のほとんどを右腕に集中していたガオガイガーはもはやブロークン・マグナムもヘル・アンド・ヘヴンも必殺のツール、ゴルディオンハンマーも振るうことは出来なくなっていた。
もはや彼に残された武器はひとつしかなかった。それは
「勇気だぁぁあ!!」
ガオガイガーはプロテクトシェードを構えながらゼルエルへと突進した。
ゼルエルには学習機能があった。
滅びさえしなかった物の、流石にゴルディオンハンマーの威力はゼルエルの体に多大なる損傷を与えていたのだ。
加粒子砲を放てばプロテクトシェードによって反射させられた荷電粒子ビームが数倍の威力となって戻ってくる。
今、あれを受ければ滅びるのは自分であると悟っていたゼルエルはガオガイガーを充分に引き寄せた。
「喰らえぇぇえええ!」
凱は右足のドリルを高速回転させると膝蹴りをゼルエルの胴体へ浴びせた。
だが、損傷を受けていたガオガイガーにはゼルエルのATフィールドを破る事は最早不可能だった。
「ガイィィィィ!!」
息を殺して戦いの趨勢を見守っていたミコトは絶叫を上げた。
「くそぅ! ガオガイガーが! 」
「バケモノめ」
「シンジ、アスカ、レイ・・・」
「ボルフォッグ」
「僕たちの勇者たちが」
メインオーダールームの面々はスクリーンに映し出された勇者ロボ軍団とエヴァンゲリオンを見、締め付けられるような悲しみを、そしてゼルエルに激しい怒りを感じた。
「ウォオオオオ!! 」
GGGの作戦参謀、火麻檄は雄叫びを上げるとエレベーターシャフトへ飛び乗った。
「何処に行くのだ、ゲキ!」
「決まってるだろう! あいつらの所だ!!」
「しかし、キミが行ってもあの使徒には打つ手がないぞ」
怒りの形相を浮かべた火麻参謀は鉄拳を壁に打ち込んだ。
ミシッと云う音と共に超合金製の壁が数ミリ凹んだ。
「そんな事は分かってる。分かってるけどよぉ、くっ。・・・・・・今のオレに出来ることは奴らの敵を討つ事じゃない。まだあの子たちは生きている、コウちゃん! オレはアスカとレイの救助隊を組織して現場に急行する。警備部の連中に連絡して決死隊に志願する奴を募集してくれ」
「ゲキ」
「こう見えてもオレだって参謀だ。今何が出来て一番重要なことが何かは分かっている」
「参謀らしくない行動は相変わらずだな。良し、行って来いゲキ」
「応よ」
「待って下さい!」
だが、エレベーターに飛び込もうとした火麻参謀を牛山隊員が呼び止めた。
「止めても無駄だぜ」
「まさか、エヴァンゲリオンのハッチは特殊な形状をしていて普通のやり方では時間が掛かります」
「だから?」
「機体のことは整備部のボクに任せて下さい」
「ウッシー・・・」
「ボクだって勇者のひとりと自負してるんです。行きましょう、火麻参謀」
「だったら急げ! グズグズしている暇はねぇぞ」
「了解!!」
牛山隊員は決して運動向けとは言えない体をコンソールから離すと火麻参謀の待つエレベーターへと駆けていった。
碇シンジの体はエントリープラグの中にあり、その身体機能は徐々に低下していっていた。
先程からスワンの指示に従いプラグスーツの蘇生装置から心臓マッサージの高圧電気が流されていたが、未だに彼の心臓が鼓動を取り戻す様子はなかった。
そんな彼の意識はなくなっていたのだが、意識下、まるで夢を見ているような心地の中、彼はエヴァを通じて流れ込んでくる様々な情報を聞き取っていた。
『オレは、ここに誓う。例えこの身が滅そうとも。絶対にお前を倒す! 覚悟しろ使徒!』
「シンジ、シンジどうしたの? 返事して、シンジイイ!!」
『アスカちゃん、シンジくんの心臓が止まったまま動かないの。今、救護班が向かってるから・・・』
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!
「・・・・・・レイ、ATフィールドの中和をお願い。私は差し違えてでもコイツを殺す」
「分かったわ」
「・・・ゴメンね。アナタひとり残すことになるかも知れないけど。けど、もし帰って来れたらピクニックでも行こっか。アンタ行った事無いでしょ」
「ええ」
「サヨナラは言わないわ。行ってきます」
「行ってらっしゃい、アスカ」
「どこを見てるのよ。アタシはここだぁ!」
「貰ったぁ!!」
「えっ?!」
「アスカ!」
「アスカ隊員!」
「ミラーコー・・・!!」
「勇気だぁぁあ!!」
「喰らえぇぇえええ!」
夢心地の中、シンジは聞いていた。
本来なら聞こえるはずのない他人の心の中が聞こえていた。
シンジを包み込むように直ぐ近くで光る音、弱々しいが澄んだ蒼い音、猛々しくしかし悲しみに暮れている赤い音、様々な光を放つ音が聞こえた。
そんな中、青銅と蒼、緑の音がヒラヒラと近寄ってきた。
<ん? ああ、エースにブルーにタマか。ゴメン、もう会えないんだ。死んじゃったみたいだから・・・>
だが、シンジのセリフを聞いたその三つの音は、シッカリと体をシンジに巻き付けて張り付いた。
<あったかいな、周りは何だかとても寒いけど、お前たちがいてくれると嬉しいよ>
<何だか、もうナニも聞こえない・・・苦しくも、冷たくもない・・・みんなともお別れかな、ゴメン、アスカ、レイ、ボクが守るって言ったのに・・・>
シンジの意識は段々と薄れていった。
そんな中、少し離れたところで光る桃色の音がシンジに気付き彼の音を開いた。
『あなたはだあれ?』
「・・・・・・キミはダレ? ボクはシンジ」
『ワタシはサクラ。ここはタクサンのヒトタチのココロがキザまれたチのセカイ』
「ココはドコなの」
『ヒトビトのココロはチのセカイをトオしてツナガってイるの』
「アスカたちはダイジョウブなのかな」
『このホンがアスカさん このホンがレイさん』
サクラが2冊の本を持ってくると、彼女が持っていた鍵を使ってその表紙を開いた。
『シンジをマモれなかった ゴメンナサイ ゴメンナサイ シンジ』
『シンジくん シンジくん サミしいの ココロがイタいの』
『フタリトモ シンジさんがイなくなって スゴクカナしんでるの』
「でもイきていてよかったよ」
『ミンナイきてるよ デモ このママだとミンナシんじゃうよ』
「ナンで」
『ミンナシンジさんがシんじゃったカラ タダしくカンガエられないの ソレニ』
「ナニ」
『あのシトはアナタのマワリをマモってイるヒトがキライなの ニクんでいるの』
「?」
『ハヤクカエってコないとアスカさんもレイさんもあのシトにコロされちゃうの』
「あのシト?」
シンジが聞くとサクラはどす黒く光る音を指さした。
『ゼルエル』
「アレはシト?」
『シンジさんがココロにフれたからスゴくオコってるの』
「デモボクはもうナニもデキない」
『シンジさんがココロのソコからノゾめば テツだってくれるヒトがいるの スグソバにいるよ』
「ダレなの」
『シンジさんのオカアサン』
「!」
シンジが慌てて振り返ると、自分を取り囲む大きな存在の奥底に依然知っていたことのある光が聞こえた。
「ノオォォォオ!!」
最強勇者ロボ軍団が壊滅し静まり返ったメインオーダールームにスワンの絶叫が響き渡った。
「どうしたんだスワンくん」
「エヴァンゲリオン初号機のシンクロ率が急上昇していマース」
「シンジくんが生きていたのか!?」
「いえ、依然心音は聞こえませーん。シンクロ率のみが上昇してイるのデース」
「なに? ええい! エントリープラグ内の映像は出せないのか?!」
「残念ながら、現在ほとんどの回線が切断されたままです」
「そうか、スワンくん今のシンクロ率は一体どれだけあるんだ?」
「現在300%で、更に上昇中デース」
「なに、300? 100%を越えているというのか? 博士これは」
「ううむ、正直言ってエヴァンゲリオンについては分からないことが多すぎる。しかし、何か異常事態が発生していることは確かだ」
「くそっ 我々には見ていることしか出来ないと言うのか!」
大河長官は怒りを拳に込めて机を叩いた。
「エントリープラグ内のカメラの信号が入りました。メインモニターに出します」
猿頭寺隊員がスイッチを入れると、エントリープラグ内の映像が映し出された。
しかし、そこには碇シンジの姿は無く、ただプラグスーツが浮かんでいるだけであった。
「こ、これは一体。都古くん」
獅子王博士は副制御室で待機している都古麻御に連絡を入れた。
画面の向こうでは都古博士がコンピューターに向かって入力している姿が映った。
「都古君」
「あら、獅子王博士。如何なされましたか?」
「この映像について意見を聞かせてくれたまえ」
「この映像は、エヴァ初号機のエントリープラグですね。あら? シンジくんはどうしたのです?」
「エントリープラグの中に乗っていることになっているんじゃ。確かに彼がこの中にいることは確かなんだ。しかし、見ての通りシンジくんはどこにもいない」
「それはおかしいですね。リンカージェルは人間を分解してしまうような細菌ではありませんし、ふ〜む。残念ながら良く分かりません」
「そうか。何か気が付いたら教えてくれ。今は情報が欲しい」
「分かりました。この件は検討しますわ」
都古は獅子王博士にそう確約すると再度コンピューターに向かって何か分析を始めた。
現在、シンジの乗るエヴァ初号機の中には異なる世界からもたらされていた様々なエネルギーが渦巻いていた。
エヴァの起動電力として設置されたGSライドとそれを伝えるためのGリキッド。
今回、エヴァ生体部分の修復担当者である都古 麻御がエヴァとパイロットの間の意思伝達を向上させようと実験的に導入したリンカージェル。
そして全てのエヴァシリーズが密かに持っていたSS機関。
それらが敵をうち倒しアスカとレイを救うための力を求める碇シンジの精神とその母親でありエヴァ初号機に自らの魂を封じ込め永遠の命を手に入れ永遠の孤独を味わっていた碇ユイの精神に反応した。
その発端となったのは麻御が導入したリンカージェル、それは古細菌からなるゲル状の液体である。
リンカージェルは電磁波に反応し、生体の発する微弱な電磁波をも検知することが出来る。
彼らは古来より地球の地の底奥深くに生息し、現在の地球はその海洋陸地を問わずそれによって取り巻かれていた。
彼らは地上で生命活動を続ける者達全ての生体電流を検知し、その全てを記憶し蓄えていた。
地上のほとんど全ての生物が目撃したり感じたりした事、その情報は彼らの中にある。
そしてリンカージェルの持つ情報にアクセスできるチャンネル、それをリミピッドチャンネルと云う。
阿嘉松 紗孔羅や、闇の世界にて人類を滅ぼしソムニウムを危機に陥れようとするゾンダリアンと戦っているベターマン・ラミア。
彼らはリミピッドチャンネルを用いて様々な情報の海から危険を察知していたのだ。
エントリープラグに満たされているリンカージェルはシンジの心が発する危険信号に敏感に反応した。
そして生命の危機に瀕した時、彼の脳内には擬似的なリミピッドチャンネルが開いた。
その為、シンジは紗孔羅と意志を通じ合い、アスカとレイに降りかかる災悪を知った。
実は彼の脳波はデュアルカインドの物に非常に似通っていた。
シンジは心の底から力を欲した。
そんなシンジの叫びに導かれ、エヴァのコアで眠りに就いていたユイの精神がシンジに向いた時、エヴァの心とシンジの心がリンカージェルの作用によって増幅され、そして疑似ダイブインスペクションによりもたらされたリミピットチャンネル、そしてシンジとの感合により精神的に繋がっていた火蜥蜴達の持つATフィールドをも突き破る指向性テレパシー。それらが複雑に作用を引き起こした。
その結果、もたらされたのは圧倒的なまでの破壊力であったのだ。
火麻参謀と牛山隊員、他20名からなる救助隊は装甲ビークルに乗り込みゼルエルによって倒されたエヴァンゲリオン零号機エヴァンゲリオン弐号機の救助にやって来ていた。
残念ながら凱の体はガオガイガーをフュージョンアウトさせなければ救出は不可能であったし、それを行っている設備も時間もないのだ。
そして、ゼルエルの監視の目を盗んで救助活動を行う事も時間の制約が考えられた為にシンジの初号機は最後に回された。
最も救助活動に時間が掛かりそうな初号機と生還の可能性が薄いシンジに時間を掛けていて、急げば助かるアスカとレイを放って置くわけには行かなかった。
冷たいようだが、最も効率の良い方法を採らざるを得なかったのだ。
アスカの弐号機は比較的簡単に救助活動が行われた。
牛山隊員が装甲板の下に隠されていた外部補助操作盤を操作するとエントリープラグがイジェクトされ、気絶していたアスカはエントリープラグから引き出されると装甲ビークルの架台に横たえられた。
しかし零号機はそうは行かなかった。
ゼルエルの荷電粒子ビームに晒された零号機の機体は損傷が激しく、電子入力に内部機構は反応するのだが応力が掛かりすぎて安全装置が作動してエントリープラグの装甲シャッターが開かなかった。
そこで牛山隊員は機械的にそれを解除しようと試みた。
彼の脳裏に叩き込まれたエヴァの図面を展開し、最も機械力学的に脆くそして内部に損傷を与えない箇所の選定が行われた。
牛山隊員の指示に従い、決死隊員たちはプラスティック爆弾を仕掛けると少し離れた場所に待避した。
「よう、ウッシーよ。爆弾なんか仕掛けて中にいる人間に問題はないのか?」
「ええ、あの位置なら内部に被害を出さず、外部による振動のみで装甲ハッチが緩みますので私が手動でハッチを開けられるようにします。あとは火麻参謀に手伝って貰って力任せに無理矢理こじ開けるだけです」
「よし、力仕事なら任せとけって」
何やら難しい専門用語を使って説明されるのではないかと言う不安を持っていた火麻参謀は、自分の鋼鉄の肉体が役にたつと聞き、二の腕に力瘤を溜めると力強く肯いた。
「点火します!」
牛山隊員が雷管の電気スイッチを繋ぐとくぐもった音と共にハッチ周りに煙が漂った。
直ぐに彼らが駆け寄ると、牛山隊員は軍手をはめた手を装甲板の隙間に差し込む。
彼は手探りで継ぎ手のボルトの位置を確認すると、レンチを使ってそれらを外していった。
第1装甲板を外すと、その下のハニカム構造になっている第二装甲板のフレームのヒンジを取り外すべくサイボーグ凱の戦闘用装甲服と同じ材料で更に硬度を増して作られたタガネをハニカム板のロックに押し充て、玄翁を叩いてそれらを取り除いていった。
そうしてハニカムのワンブロックを取り外すとその下の第三装甲板の異種金属溶接部分をガス溶接のバーナーを押し当てて固定ブロックの溶接カバーを取り外し、中に隠されていた軸押さえをペンチで断ち切りフレームカバーを持ち上げて九〇度回し、顕わになった油圧シリンダーの固定ボルトをレンチで緩めラチェットで手早く外した。
そしてハッチの機械式の自動固定装置を解除するとハッチの手動用のクランクを引き出した。この間僅かに5分強、手連の熟練工だけが成し得る早業であった。
「火麻参謀、このクランクを左回しに回し続けて下さい。」
「おう、待ってたぜ。うぉおおおりゃああああ」
火麻参謀はリーチが50センチほどのクランクを掴むと顔を真っ赤にしながら全身を使ってそれを回し始めた。
ハッキリ言って手動用とはいえ回せるほど軽くはないのだが、そこは流石に火麻参謀だけ有って力任せにギリギリと回し続けた。
するとジリジリとだが重厚なハッチが動き出した。
そしてキッチリ5分後、ハッチは完全に開いた。
流石の体力莫迦である火麻参謀と云えども疲れ果てたようで肩で息をしていた。
「火麻参謀、今からプラグをイジェクトします」
「お、おうよ。いつでもいいぜ」
「いきます」
牛山隊員が電気スイッチを入れるとエントリープラグは1/2が排出された。
彼は扉横の非常用ロックを解除し扉を開けた。
その途端、中から衝撃緩衝液がドドッとあふれ出た。
中には、レイが気絶したまま横たわっていた。
直ぐに救助隊員たちが防護服に身を包み牛山隊員が開けたハッチから中に入っていった。
そして彼らも日頃の訓練の賜物か、非常に迅速にレイを担ぎ出し装甲ビークルの後部座席に乗せるとダッシュでGGG基地への出入り口へ急いだ。
それまで超竜神と共に大地に伏していたエヴァ初号機に異変が生じた。
全ての内蔵電源を使い切り、外付けのGジェネレイターを破壊されたエヴァ初号機には一切のエネルギーが残っていない筈である。
しかし、突然エヴァ初号機の目が開くと、不気味な閃光を放ったのだ。
メインオーダールームのスワン・ホワイトのコンソールではエヴァンゲリオン初号機のモニターを行っていた。
しかし、先程から全てのモニターの反応が消えていた。
現在、エヴァ零号機、弐号機共にパイロットの少女たちは助け出されてこの地下へと向かってきていた。
初号機のエントリープラグ内での出来事は現在の所、調査している暇が無く、後に回されていたのだが、突然状況が変化した。
スワンのモニターに表示されているエヴァ初号機のエネルギー値がいきなり上昇し、測定限界を超えたのだ。
「大変デス! エヴァ初号機のエネルギーレベル、上限振り切れました、計測不能デス!」
「計測不能だと!? いったい何がどうしたというのだ!」
「分からん。しかし、・・・スワンくん、シンクロ率はどうなっているんじゃ?」
「ハイ、現在シンクロ率は400%で安定しました」
「400%、じゃと? 」
彼がエヴァの内蔵プログラムや様々な仕様から推測した結果、過剰シンクロがパイロットに対して及ぼす影響は計り知れなかったが、それらのベクトルはほぼ全てマイナスへ向かっていた。
その事に獅子王博士は不気味な戦慄を覚えていた。
奇跡的に右足首の捻挫と数多くの打撲だけで大怪我を負わなかったアスカは、駆けつけたGGGの救出隊の手によりエントリープラグから救出された。
そして共に助けられたレイと共にGアイランド地下の救護室へと向かっていた。
しかし、幾多の戦友たちが倒れたというのに、救助されこの場にいるのはアスカとレイのふたりだけ。
シンジは一体どうなったのか、非常に心配だったアスカは火麻たち救助隊員たちに聞いてみたが彼らは答えられなかった。
アスカは戦況を確認したいとメインオーダールームへ行くように言ったが、火麻参謀はそれを蹴った。アスカたちの治療が先だと主張する彼らに対し、アスカは喰って掛かった。
「だがアスカ、お前だってどんな怪我してるか分からないんだぞ」
「そんな事よりシンジの方が大事でしょ。そんな事も分からないの?」
「だがシンジは既に・・・」
「シンジが何よ。・・・・・・・・・何よ・・・続きを言いなさいよね。そんなんじゃ心配になるじゃないの、ちょっと」
「・・・・・・今のお前さんには、ちょっと言えないな」
「な・・・なによ。別に私は問題ないわよ。格好つけてんじゃないわよ、このゴリラ芋」
「悪かったな」
「何で怒らないのよ。どうして目を逸らすの? ちょっとぉシンジはどうなったのよぉ」
アスカは涙目に成りながら訴えた。
そんな弱々しいアスカに火麻は折れた。
「シンジの救出は出来なかった・・・」
「何でシンジを助けなかったのよ! アタシたちなんかより先に救出に行くべきでしょう!」
「アスカ、無茶を言うな。あそこは危険すぎる」
「危険だって云うならシンジはどうなるのよぉぉ・・・、だったらアタシが行くわ! だから行かせて」
「駄目だ! お前たちを行かせるわけには行かない。意味のない自殺行為は絶対に許さないからな。もう、助けられる仲間を失うのは沢山だ」
「だって」
「エヴァのない今のお前さんはタダの女の子に過ぎん。どうしても行きたければオレを倒してからにするんだな」
火麻参謀は担架に乗せられたアスカにそう告げた。
勿論、アスカに戦闘力がないことを見越してのことであるがアスカはその挑発に乗った。
「云ってくれたわね。アンタを倒してアタシ達はシンジの所に行ってやるんだからね」
「出来るモンならな。さぁ来い」
このモヒカンマッチョな親父は薄く笑いを浮かべると、両腕を後ろ手に組んだ。
「火麻参謀、無茶です。この子たちは怪我人なんですよ」
「黙ってろ。こう云うきかん坊にはな、口で言ったって聞きゃあしねえんだ、来な」
「分かってるわよ。そこを動くんじゃないわよ」
アスカは担架から廊下に足を着けた。
「クゥ! こんなの何でもないわよ、チクショウ」
アスカの全身には激痛が走っていた。
それはそうであろう、ついさっきエントリープラグというシェイカーの中で盛大に振られ全身を痛めていたのだ。
だがアスカは額から脂汗を流しながらも火麻参謀を睨む目からは強い意志が消えることはなかった。
「こんちくしょお!」
アスカは渾身の力を振り絞って火麻参謀の鳩尾を殴りつけた。
しかし、周りからは瀕死の狸の様な動きにしか過ぎない動きに見えた、元より筋肉達磨の火麻参謀にそんなパンチが効くはずがなかったが。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょおぉぉ」
全身の痛みに顔をしかめながらアスカはパンチを打ち続けた。
だが、次第にその力は弱々しくなり、掛け声にも涙声が混じりだした。
「ごめんねシンジ。ひっく」
最後のパンチを繰り出すアスカだったが、それを火麻は太い右腕で受け止めた。
「そんだけ元気が有ればわざわざ治療室に行く必要なんか無いな」
「え?」
「お前を今更戦場に戻すことは出来ない。が、アスカが最初に言った通りメインオーダールームにだったら連れて行ってやるよ」
「いいの?」
「だが、ひとつオレの言う事を守ればの話だ」
「何よ」
「メインオーダールームには連れて行ってやるから、治療は受けるんだ。いいな」
「うん」
「それから俺の前でそんなに泣くな。どうも女の涙はいかん」
グスッ 「それじゃあふたつも言うこと聞かなきゃならないじゃん」
「おっと、悪いな。それにどうせゴリラ芋だしよ」 フン
「えっと、ゴメンナサイ・・・火麻参謀」
「ま、良いって事よ。行くぜ、早く担架に乗りな」
「はいっ」
火麻参謀と牛山隊員、そして救助されたアスカとレイはメインオーダールームへと戻って来た。
アスカとレイの無事な姿を見たメインオーダールームの面々はホッと溜め息をついた。
初号機があんな事になっている以上、状態の確定できないシンジ達全員を失うという不安はなくなったのだ。
だが、そこでアスカ達が見た物は、まるで悪夢の中に出てくる鬼神のように暴れ回る初号機の姿であった。
初号機は突然目を光らせると上半身を起こした。
そして暫く天を仰いだまま身動きをしなかったが、低い、果てしなく低い唸り声を漏らしだした。
そんな目立つことをすれば、否が応でも目立つことこの上ない。
この生きとし生ける者たち全てに死を与えんと死の鎌を振るうゼルエルの、有るのか無いのか分からない眼はエヴァンゲリオン初号機に向けられてしまった。
だが当の初号機は、シンジが操っているとは思えないゆっくりとした怪しい動きで立ち上がった。
ゼルエルはそんな初号機の背後から充分にエネルギーをため込んだ荷電粒子砲を撃ち放った。
閃光が走り、強大な荷電粒子ビームは初号機に突き刺さった。
かに見えた、しかし、多重に重なったオレンジ色の壁がその一撃を拡散消滅させた。
その様子を不思議そうに見たゼルエルは再度荷電粒子砲を放った。
絞り込まれたその荷電粒子ビームは反射され、飛沫を残して虚空へ消えた。
おるおるおるとまるでハイエナの様な唸り声を響かせると、初号機は中腰の姿勢のままゼルエルへと向き直った。
初号機は眼差しをゼルエルに突き付けると、ギリギリと顎に力を込めた。
その顎部拘束具は極限まで引き延ばされると、そのジョイントロックが破壊された。
ロック用の金具がそこから撒き散らされ地面に散った。
彼女は自由に動く様になった口を大きく広げると歓喜の雄叫びを虚空へ放った。
「るおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん」
そして笑うような目をゼルエルへと向けた。
それに怯えたのか、ゼルエルは鋭く尖らせた右腕を初号機へ伸ばした。
見る見る間に迫る腕を初号機は掴まえた。
そしてグッとそれを引っ張ると、根本から腕はもげた。
それを初号機は打ち捨てると、ゼルエル目掛けて咆吼を放った。
ごおうっ! と衝撃が走るとゼルエルのATフィールドに丸い穴が開いた。
気が付くとゼルエルの右半身は虚空へ消滅していた。
断面から緑色の血を吹き出しながらゼルエルは地面に倒れた。
某所でそれを見ていた渚カヲルは眉をひそめてその光景を眺めていた。
常に冷静なカヲルは顔を青冷めさせながら呟いた。
「バカな、何なんだあのエヴァの能力は。我々第二文明を滅ぼした第一始祖民族(アトランティス人)のオリジナルよりも凶暴じゃないか・・・。やはり、人類を滅びの運命から救う為にはボクはキミを滅ぼさなければならない運命のようだよシンジくん。ボクは大変残念だけどね」
彼が胸元に下げた青黒い勾玉を握りしめると、それは鈍い光を放った。
数瞬後、カヲルは姿を眩ませた。
エヴァンゲリオン初号機は全身に力を込めた。
すると腕や肩、そして背部の拘束具が弾け飛んだ。
エヴァンゲリオン本来の力を封じ込める目的で装着されていた拘束具は、単に堅い装甲で覆うことで動きを制限する物ではなく、内側に無数に埋め付けられた電気針によって筋肉の動きを妨害することでその能力を封じていた。
しかし、その拘束具も最早機能を喪失した。
もはや彼女を止められるのは存在しないのだろうか。
ほぼ首から下のほとんどの拘束具を弾き飛ばしたエヴァは更に変化を進めた。
背中の肉が盛り上がったかと思うと、青銅と蒼、そして緑が混ざり合い光を放つまるで火蜥蜴のような蝙蝠状の翼が広がった。
その姿はまるで地獄の底にて氷の中で眠りに就いていると云う伝説がある或る堕天使の姿を連想させる。 その映像を見た者達全ての脳裏にはそれは悪魔そのものとして映っていた。
『おああああああああっ!』
エヴァは右腕をおおきく振り下ろすと、5本の指に伸びた五本の鈎爪から鋭いATフィールドの筋が放たれた。
その延長線上にある全ての物がスパッと切断された。
近くのビルの残骸共々ズタズタに引き裂かれたゼルエルはそれでも尚生きている。
だが、彼の自由になる体は既に左上半身のみであった。
鳩尾の当たりにあったコアは奇跡的に無傷であったが、装甲シャッターは破壊され、内蔵共々無惨な状態を晒している。
エヴァは興味深そうにそれを眺めると、食欲をそそられたのか舌なめずりをしてゼルエルへと近寄っていった。
もはやゼルエルには荷電粒子砲を放つだけのエネルギーもなく、ただ苦しげに息をするばかりである
エヴァはハラワタを掴むと難なく引き千切り、その仮面に噛み付いた。
躍り食いにされているゼルエルの光が薄くなり、その奥から赤い球体を掴み出す初号機。
それを掲げ上げ、噛み付かんと口を開いた。
しかし、いつの間にか背後に忍び寄っていた赤い巨人「ウルトラセブン」がそれを阻止しようと蹴りをかました。
だがその攻撃は初号機のATフィールドによって弾かれた。
セブンは気を取り直して両手の人差し指と中指を額の紅玉へ当てた。
エメリウム光線。
光の国の戦士達が会得した超兵器のひとつ、超物質エメリウムを光速で打ち出すその必殺技はしかし、初号機のATフィールドによって弾き返された。
流石に必殺技があっさりと跳ね返されると予想していなかったセブンは戸惑った。
食事を邪魔されセブンの攻撃をうるさく感じた初号機は格闘戦の構えを取るセブンに向かって腕を振るった。
刃のように鋭いATフィールドがセブンに突き刺さる。
逆に反撃を喰らったセブンの体が一瞬薄くなる。
光の国の住民達にはある特殊な形質が備わっていた。
それは数十万年前、光の国のある発狂した科学者が暴走させたエネルギー炉によって引き起こされた事故に遡る。
詳しい説明は省くが、その時浴びた特殊な放射線が光の国の住民の身体に劇的な変化を起こしたのだ。
(既に恒星間文明を築いていた彼らの本星に起こった事故であった為、変化した者としなかった者の間に軋轢が生じ、未だ人格が安定せず暴力傾向の強かった超人に追い出された少数派は宇宙へ散っていた。)
それまでは地球人類と変わらない体格の持ち主だった光の国の住民であったが、それ以降体を構成するATフィールドをその体が持つエネルギーキャパシティー以内ならば自由に変化させる事が出来るようになる、と言う物だった。
その為、身長数ミリから数十メートル、体重もほぼゼロから数十万トンと見せかけの大きさを自由に変化させられるようになった。
だから、今セブンの体を構築しているのはセブンの力の拠り代となった初野あやめを中心に今までため込んだ使徒のコアなどから得たエネルギーを使って見せかけの質量を作り出し構成した物なのだ。
その為、セブンの力の許容範囲を超えた攻撃を受けると、見せ掛けの鎧は容易に剥がれてしまう。
既に数体分の使徒のコアを貯め込み充分以上のエネルギーを持っているはずのセブンであったが、初号機のエネルギーはそれを遙かに凌駕していたのだ。
セブンを斬り裂いたATフィールドの刃は中にいたあやめにも届いていた。
突然の衝撃にアヤメは悲鳴を上げる。
「きゃあああああ!!」
「しっかりするのだ、キミが意識を失えばこの擬体を維持することは出来ない」
いままでセブンの中で拠り代となっていたあやめは一切の衝撃もGも感じたことがなかった。
それが、この「敵」に対しては通用しなかった。
言いようの知れない恐怖にあやめはパニックを起こした。
セブンの魂はそれを励ますがアヤメは気絶してしまう。
あやめを失うわけにはいかなかったセブンは決断した。
不意にセブンは姿を消してしまった。
それを見ていた彼女は勝利の雄叫びを上げ、ゼルエルのコアにむしゃぶり付きSS機関をその体の内に取り込んだ。
唯が避難所から密かに抜け出しエヴァの元にたどり着いたときは既に時遅く、シンジは初号機に取り込まれ、エヴァの覚醒を果たした後であった。もっとも、某非公然組織の髭親父の目論見とは大きく異なる歪な形をしていたが。