スーパーSF大戦 第14話


D−part.



 機械獣ジェノバM9は、太平洋岸から外輪山の上にあるグラビトン学園の校舎裏に隠れて、中央島で繰り広げられていたロボット兵器のパイロットを狙撃する機会を虎視眈々と狙っていた。
<指令:ジェノバM9ハ敵勢力ノ戦闘ロボットパイロットヲ狙撃シ、此ヲ殺傷セヨ>
 あしゅら男爵から特別命令を受けていたジェノバM9はグラビトン学園の第1校舎の陰に隠れて、長距離スナイパーライフルの目標を探していた。
 弾種は目標が脆弱な人間そのものであることから、少々弾頭がずれても確実に相手を殺傷できるようにタイマーを仕込んだ破片散布型の散弾を選んでいた。
 目標を確実に葬る為には、格好を付ける必要はない。一番確実な方法こそ最適なのである。
 冷徹な性格のジェノバM9が構えるその照準はただひとつの目標を捜して冷たく虚空を睨むだけであった。
 その姿は、狙撃に特化されたプロを思わせる人工知能の性格から世界最高のスナイパーゴルゴ13の様にも見えた。
 だがその足元では。


「ねぇねぇ、このロボット一体なんなの〜?」
「さぁ? 多分また大徳寺B子さんのオモチャじゃないの? まったくしつこいわよねぇ〜。あの人って。絶対A型よきっと!」
「あ、それってひど〜い。アタシA型だしぃ。それよりサ、帰りどこ寄ってこうか? 」
「う〜ん、やっぱり駅前のサ店にしない? あそこのチーズケーキって最高においしいのよ」
「うんそうね、じゃイこイこ」



 足元でそんな会話が交わされていようと、冷徹なスナイパージェノバM9は決して動揺などしない。
 彼はクールでニヒルなスナイパーなのだ。


 それにしても、すぐ近くで住民が避難するような状況でどうしてここの生徒達は平然と授業を受けていられたのだろうか。
 やはり普段が普段だけに仕方ないのだろう。



 マジンガーZが新ヤイヅCITY上空に到着した頃、中央島の本土側ではゴモラの本土上陸を阻止する水際作戦が続けられていた。
 もっとも、上陸ではなく水中に入るのを防いでいたのだが。
 300ミリライフル砲を構えたARIELは、ゴモラがビル街から姿を現すと同時に七〇年前の戦艦の主砲に用いられていたようなその大砲を発砲していた。
 さすがのゴモラも二〇ミリ機関砲弾のように無視できる範囲を超えた破壊力であったため、三発目を喰らった時点で迂闊に姿を見せることを止めていた。
 これはARIELにとってもラッキーであった。
 何故ならば、三〇〇ミリ砲は自動装填機構が備わっていなかったため、ARIEL自身がその技巧を凝らしたマニピュレーターを使って予備の砲弾を弾倉に装填するしかなかったのである。
 そのスピードは戦国時代の信長軍の火縄銃の装填のスピードとどっこいどっこいであった。
 しかし、残った砲弾の数は予備まで含めて僅かに2発。
 決定力となる武器はなく、防衛側としては手詰まりであった。

 最後の射撃から1分が経過した。
 ARIELの三〇〇ミリライフルには次弾を装填済みであった。
 突然戦場に投げ出されたゴモラは非常に神経を尖らせていた。
 そんな状態のゴモラが長い間待って居られるわけがない。
 ゴモラは勢いを付けると海岸から対岸に向かって突進を開始した。
 オートモードで射撃体勢に入っていたARIELはすかさず三〇〇ミリライフルを発射しようとしたが、ぐしゃ! と云う音共に排莢口にカートリッヂが引っかかってしまった。(自動装填でも無い癖に自動排莢機構は付いていたのだ)
「えぇーっ!! ジャムったぁ!?」
 ハワイやグアム、SCEBAIで実弾射撃経験のある美亜は絶望的な悲鳴を上げた。
「えっ、ジャムってイチゴ? オレンジ? ブルーベリー?」
 約一名勘違いしている者も居るようであるが。
「チッ! 役に立たないわねぇ」
 岸田博士が聞いたら青筋立てて反論するであろうセリフを吐いて美亜は三〇〇ミリライフルをその場に捨て、一二〇ミリバルカン砲を構えた。
「こっちに来るなぁ、ばかぁ!」
 一二〇ミリバルカンには強力な徹甲弾であるAPFSDS弾が装填されている。
 美亜は5秒間掃射し、ゴモラに対する効果を見た。
 僅か5秒で200発もの弾頭がマッハを超えるスピードで叩き込まれた。
 これだけの至近距離からであれば、戦艦大和の舷側装甲ですら大破せしめる量の弾が命中したにもかかわらずゴモラの突進スピードは些かの衰えも見られなかった。
 ダメージは与えていた。それは確かである。
 ゴモラの頭部から胸部に掛けて一条の弾痕が刻まれ、そこからは少なからぬ量の緑色の血液が流されていた。
 それを人間のスケールに当てはめていたら、流石に即死であっただろう。
 しかし、怪獣というのは体内構造は元より、細胞の構成からして通常の生物よりも強靱に出来ていた。
 でなければあんな巨大な有機物が地球上で生命活動をする事が出来るわけがない。
 ゴモラの周りに対する怒りは頂点に達していた。
 彼はその場で立ち止まると空に向かって吼えた。
 その声帯から絞り出された大声は、人間の可聴範囲を遙かに下回る重低音となって辺りに広がっていった。
 それは湾内の海面がビリビリと震え、コンクリートにヒビが入り、様子を伺っていたマットアローのエンジン軸を狂わせて緊急停止させ、崩れ掛けていたビルディングが倒壊するような破壊的な物理的パワーを持っていた。
 それは生物界の頂点に立つ怪獣達の怒りそのものであった。
 彼の怒りは特に目の前のARIELに向けられていた。
 そこから発せられる殺気のレベルは本気で怒った希代の剣豪のそれよりも上であったろう。
 彼の吼え声が止むと辺りは奇妙な静けさに包まれ、土煙と湯気が立ち上りゴモラとARIELの間の空間に広がる緊張感を演出していた。
「ね、ねぇみゃあちゃん。に、に、逃げない? なんか、マジ、マジ、マジで怖いんだけど」
 絢はガタガタと歯の根が噛み合わない口で恐怖に震えながら何とかそれを口に出した。
「は、はは・・・、そうね、なんか異星人の降下兵と立ち向かったときより(ゴクリ)、逃げよっか・・・ハハ」
 本能的な危機感を感じた美亜は、いつでも上昇を掛けられるように飛行ユニットのスクラムエンジンの予備動作を開始した。
 ARIELは一二〇ミリバルカン砲を構えてゴモラの動きを見守った。
 ゴモラはARIELの動きをジッと窺っていた。
 少しでも不審な動きをしたらそのままARIELに向かって攻撃を開始しただろう。
 それ程までにゴモラから発せられる殺気は激しい物だった。
 コクピット内に居た3人の内、機長の美亜とガンナーの絢は緊張に固まってしまっていたが、パイロットの和美は意外と平気そうな顔をして座席に座っていた。
「和美、平気なの?」
「えーっと、なにがぁ。えーっとえーとねー、あははは怖いかいじゅうさんだー」
 和美は無邪気にアハハと笑い声を上げた。
 それを見て絢は不気味そうに呟いた。
「こ、壊れてる。ねぇー、どうしよう美亜ちゃん」
「さぁて、取り敢えずSCEBAIに帰ったら考えましょう」
 それまで和美ちゃんが下手な事しないように気を付けてね。
 と美亜が絢に言おうとした瞬間、和美はパイロットコンソールの操縦桿を思いっきり押してしまった。
 きゃー、と美亜は無言の叫びを上げた。
 ガクンとARIELは前へ一歩進んでしまった。
 それを見たゴモラは猛然とダッシュ!
 岸壁から海面へ飛び込もうと体を傾けた。
 その時だ!
 東の空からそれが近付いてきたのは。
「退いて、どいて、退いてーっ!!」
 機体の前方にオレンジ色のバリアーを展開しつつ、一体の汎用人型決戦兵器が亜音速の猛スピードで空から落下してきたのだ。
 ここでひとつ疑問があるのだが、バリアーというのはそれを発生している本体にバリアーが受けているベクトルをフィードバックする物なのだろうか。
 どちらかというと、常に発せられ続けているエネルギーが本体とバリアー展開距離を変化させるだけだと思うのだが。
 しかし観測の結果から推測すると、エヴァンゲリオンのATフィールドは一定の負荷が掛かった場合にはフィードバックが発生すると見て良いようだ。
 そうでなければ現在のエヴァ初号機のようにATフィールドを前方に展開してその空気抵抗のブレーキによる減速は出来ないからだ。
 それはともかくかなり減速していたとは言え、初速が音速の数倍であった初号機は現在も700(km/h)を越えるスピードで突き進んでいた。
 しかも方向を制御できない初号機は、殺気立ち待ちかまえていたゴモラの正面からまともにぶつかってしまったのだ。
 オレンジ色の壁がゴモラと接触した瞬間に発生したエネルギーは大部分が熱エネルギーに変換されたとは言え、余剰エネルギーにて発生した大音響は先ほどのゴモラの咆吼が発生させたホーンを越えていた。
 ゴモラもエヴァも衝突の瞬間に意識不能の状態になり、2体はまとめて中央島の本土側から太平洋側へとビル群を破壊しながら吹き飛んでいってしまった。

「あ、痛てっつつつ!!」
 シンジは脳しんとうを起こし掛け、彼は痛む頭を右手で押さえて体を起こした。
 そしてそのまま半分以上朦朧とした意識で辺りを見回した。
 辺りはまるで斜めから隕石が突っ込んだような細長いクレーターになっており、周囲にはバラバラに吹き飛んだビルや乗用車などの残骸が転がっていた。
 更に見回すと近くに着ぐるみを着込んだ、自分より身長の大きい人が転倒しているのに気付いた。(注:シンジは意識が朦朧としている為、正常な判断力が失われており、自分がエヴァスケールで物を見ていることを忘れています)
 シンジは彼を助け起こそうとして手をさしのべた。
「あの、大丈夫ですか?!」
 だが幾らシンジがボケ倒そうと、ゴモラの方にはそんな事は関係なかった。
 いきなり大きな咆吼を上げて立ち上がると、頭部の巨大な角をぶちかますように強烈なタックルをブチ当てたのだ。
 完全に油断していた初号機は自己防衛によるATフィールドを張ることさえ出来なかった。
 初号機は放物線を描いて三〇〇メートルも吹き飛ばされ、奇跡的に被害を受けていなかったホテルにメリ込むように衝突した。
 100メートルはあるホテルの建物は地上30メートルの所で折れ曲がり、初号機はその瓦礫の上に仰向けに転がった。
 エヴァンゲリオンは使徒と同様の粒子と波の性質を持つ純粋に物質とは言い難い物質化したエネルギー体とも言うべき存在によって構成されている。
 その為、動物の筋肉のように自在に動く事が出来る上に通常の金属よりも強靱なボディーを持っているのだ。
 だが、全てがその「肉体」によって構成されているわけではない。
 人の手により作られたエヴァの素体はサイボーグの様に埋め込まれた各種機械によって制御されている。
 つまり通常の機械工学によって構成された部分を持つのだ。
 そしてそれらはあのNERVが誇る世界最高の(マッド)サイエンティストによって最高の技術と施工者と予算を用いて制作されていたが、エヴァという者にとってそこがウィークポイントであることは間違いなかった。
 それらは戦闘に於いて死角となるだろう方向、つまり背面に設置されていた。
 つまり、エントリープラグとその周辺機器である。
 そして今のように背面から衝撃を与えられると機械部分に与える影響は他の部分に比べると非常に大きい物であった。
 現在、エヴァが受けたダメージは深刻な物であったのだ。
 そのままピクリともしないエヴァ初号機を観察していたゴモラは、反撃はないと判断したのか無造作に初号機に近寄っていった。


「ねぇ、みゃあちゃん」
 対岸にいたため難を逃れたARIELは一二〇ミリバルカン砲を構えたまま、望遠カメラ並びに近距離レーダーでゴモラの様子を観察し続けていた。
「なぁに、絢ちゃん」
「援護しなくていいの? あのままじゃあのロボットのパイロット殺されちゃうんじゃ」
「ええ、それは分かってるわ。けどね、これもう弾の数があと二〇発しかないのよね」
「二〇発もあれば」
「たかが二〇発じゃ1秒も撃ち続けられないわよ。もっとも一回斉射して逃げるって手もあるけど。さっき博士から連絡があってそのまま監視を続けろって言われたのよね」
「撃ってから監視は出来ないの?」
「出来るとは思うけど、このいつ何処から敵がでてくるか分からない状況で、弾薬無しで立哨するのは機長であるこの私の判断からして。この機の安全を考えると出来ないわね」
「それってあのロボットを見殺しにするって事」
「ダメよ。私とあなた達を守るのが最優先。接近戦用の武器も持ってきてないしね。それに・・・」
「それに?」
「ARIELが観察していることで、援軍が有利に戦えるならその方が良いしね」
「援軍が来るの?」
「多分。それにあの島にはまだ防衛軍が残って居るんだし。ハッキリとは分からないけどね」
 そう言うと美亜はレーダーから得られたデーターを整理し、SCEBAIへ送り始めた。


 無造作に初号機に近付いていったゴモラであったが、先ほどの怪鳥(ARIEL)が対岸で佇んでいることもあり周囲に対する警戒は続けていた。
 そのお陰であろう。
 東の空から接近してくる2機のエヴァンゲリオンの姿が目に入ったのは。
 赤と青の2機のエヴァンゲリオンは頭上に横幅300メートルのパラグライダーを広げ、左右に機体を旋回させながらゆっくりと(実際は時速四〇〇キロ)落下してきた。
 エヴァ弐号機のアスカはGGG経由でSCEBAIから送られてくる戦場のデーターから初号機が怪獣に倒されていた事を確認していた。
「シンジをよくも、よくもぉ!」
 エヴァ弐号機は顔を赤くして怒りを表すと、直径が一〇〇〇ミリもあるロケット砲を発射した。
 砲弾を火薬のガス圧で押し出す反動型の火砲ではないため、射撃した後も大きく姿勢を崩すことはなかった。
 アスカが撃った一〇〇〇ミリロケット砲弾は正確にゴモラに命中。
 そのとんでもない量の火薬を瞬間的に燃焼させた。
 その火球は一〇〇メートルのクレーターを作った。
「やった?!」
 命中を確認したアスカはゴモラが非常識なまでに攻撃に対して耐性があることを知らなかった。
 ゴモラを屠ったことを確信したアスカは高度二〇〇メートルでパラシュートのハーネスを解除、そのまま地上に着地した。
 その少し離れたところで同じく滑空していた零号機も同様にハーネスを解除し、地上へ自由落下後、膝を大きく曲げて着地の衝撃を吸収した。
「へっへーだ。このアスカ様に掛かっちゃこんな怪獣なんか屁も出ないわよ」
「アスカ油断しないで。まだ死体を確認した訳じゃないわ」
「たかが怪獣、でかいだけの生き物でしょ。使徒じゃないもの。だーいじょうぶだってのよ。こいつはシンジの仇、もし生きてても絶対コロスッ!」
「・・・シンジくんはまだ死んだ訳じゃないわ」
「わかってるわ。まったく心配性なんだから」
 アスカは一〇〇〇ミリロケット砲を捨ててホルスターから一六〇ミリ自動拳銃を取り出すと、片手で構えてまだ煙の晴れない爆心地に向かって歩き始めた。
 彼女はレーダーを使って爆心地の様子を探査しようとしたが、煙の中に無数の金属片があるのか、レーダー探知が出来なかった。
 アスカは警戒を強め、探るような慎重な足取りで目標へ向かった。
「レイ、アナタはバックアップをお願い」
「ええ、了解」
 アスカの斜め後ろに立った零号機はポジトロン(正電子)ライフルを構え、いざという事態に備えた。
 その時、零号機の頭頂部の大レンズにマイクロ波長のエネルギーレベル放射が確認された。
「爆心地にエネルギー反応!!」
「うそっ!」
 バックアップのレイは、アスカが待避できるように冷静に構えたライフルから正世界には存在しない正の電荷を持った反電子を打ち込んだ。
 撃ち放たれた反電子は、大気を構成する分子の負電荷を持つ正電子と対消滅をしながら大気中にイオンのトンネルを掘り続け、光速にはほど遠いスピードで対象物に突き刺さった。
 正の荷電粒子はゴモラの体表の分子と衝突すると、それに見合った量の電子を消滅させてエネルギーに変換した。
 ゴモラの体表で起こった爆発はその肉を刮げ落とし、その反動でゴモラ自体を吹き飛ばした。
 このエヴァ2機による攻撃は如何に頑丈なゴモラにも強い影響を与えていた。
 火薬の爆発衝撃に於ける内臓系への打撃そして今度は体表から体内へ無視できない程の毒を打ち込まれたような物だ。
 ゴモラは敵がやたらと長い攻撃をして来る事の不利に気が付いた。
 この間合いでは奴らに敵わない。(翻訳こんにゃく使用)
 ゴモラは頭を下げるとエヴァ弐号機に突進した。
「何よ、こんな事ぐらいで! オゥレイ!」
 アスカは闘牛士のように可憐に身を翻すとゴモラの突進をかわした。
 エヴァ弐号機に突進をかわされたゴモラはその正面に立っていた中規模ビルディングを一撃で破壊するとクルリと向きを弐号機に戻した。
 さしものアスカもその破壊力に戦(おのの)いたのか、破壊力の小さい一六〇ミリピストルをしまうと畳んであったソニックグレイブを延ばしてゴモラの突進に備えた。
 その後何度か突進を繰り返したゴモラであったが、その度に交わされた上に背中に一撃を喰らわされるとあってはその戦法に無理があることを認識せざるを得なかった。
 今度はその体格差を利用した戦法へと変えた。
 ジリジリとゴモラはその間合いを詰めていったが、それに対して弐号機はソニックグレイブの範囲に入ったゴモラを切り払う事しかできなかったのである。
 相手が自分と体格が互角であれば問題はなかったのであるが、二〇メートル近くの身長差はゴモラの不利を無くしていた。
 しかも相手は一個の生物なのである。
 幾らアスカがインターフェイスを通じて高いシンクロ率を出していたとしても、機械を介して操るエヴァンゲリオンでは自ずと反応スピードに遅れが出てしまうのだ。
 しかも体格が大きい者がのろまと言うのは規格スレスレまで大きくなった個体に対してのみ用いられる物であって、この場合違う規格で作られたエヴァとゴモラの間に極端な動作速度の差がなかった。
 つまり体格が大きいだけリーチの長いゴモラの方がスピードを出せると言う事だ。
 NERVで格闘戦の訓練を受けていたアスカではあったが、跳躍などは自分に有利であったが、自分と互角のスピードで動く相手には得意の速攻もその意義が薄い。
 もしそれ以上近づければ、やられるのはアスカだった。
 しかしそうなるとバックアップの零号機も手出しできなかった。
 もしも射撃がそれたり、アスカが位置を変えるとレイの撃った射撃がアスカに直撃することにも成り兼ねなかった。
 そこでレイは反応速度の不利を知りながらも武器をポジトロンライフルからプログレッシブナイフに持ち替えた。
 彼女はゴモラの背中からこっそりと近寄ったが、ゴモラの太い尻尾が威嚇するように振り回されていたため零号機もおいそれと攻撃できなかった。
 余裕の出たゴモラはその巨体に見合わぬ跳躍をすると弐号機に飛びかかった。
 咄嗟にアスカはATフィールドを張り、それを防ごうとした。
 果たしてATフィールドは落差五〇メートルのゴモラの頭突きに耐えた。
 自らの体重を厚い頭蓋に受けてしまったゴモラは後によろめいたが、その威力はATフィールド毎弐号機を弾き飛ばした。
「キャアアアア!!」
 アスカは悲鳴を上げて後退った。
「アスカ!」
 アスカの叫びを聞いたレイは咄嗟の判断でゴモラの無防備な背中にプログレッシブナイフを突き立てるべく飛びかかった。
 しかし、ゴモラはそれを待っていたかの如く巨大な尻尾を零号機に向けて払った。
「!!!!!!!!!!!」
 強大な衝撃は耐衝撃緩衝剤に浸かっているレイの肉体に過大なる衝撃を与えた。
 レイは悲鳴も上げられず気を失うと、零号機は初号機のすぐ脇のビルに叩き付けられてその機能を停止した。
 ゴモラはそんな零号機を見ると勝ち鬨を上げ、残る弐号機に向かった。



「・・・・・・・・・何?」
 初号機の中のエントリープラグで気絶していたシンジは近くで起こった衝撃に揺すられて目を覚ました。
 一瞬ボウとしていたシンジであったが、隣に転がっている零号機の姿が目に入った瞬間、まるでスイッチが入った様に覚醒した。
「レイ、レイ、レイ! 大丈夫 しっかりして返事をしてくれよぉ!!」
 シンジは零号機に連絡を取ろうとしたが、連絡は着かなかった。
 よくよく観察してみると、零号機のバックパック部に取り付けられた、G−Stoneを用いたGSライドシステムに損傷を受けている事が確認できた。
 外付け型の電源を切られても内臓電源が作動を開始するはずだが、未だその兆候はなかった。
 エントリープラグを強制排出させようとするシンジだったが、その時悲鳴が響いた。
 シンジが振り返ると、ATフィールドを展開した弐号機が必死でゴモラの猛攻を防いでいたが彼女はそれを防ぐのに精一杯の様子で後退一方であった。
「アスカ! 大丈夫!?」
「あ、シンジ。大丈夫、クッ! 」
「アスカ、今から援護に」
「来ないで! ・・・レイを連れて逃げてちょうだい・・・」
「そんな・・・」
「だって仕方ないじゃない。コイツ、使徒よりタフで強いんZZazzz!!」
「アスカァ!」
「何よ。さっさと逃げてって言ってるのよ。早くしてってば」
「イヤだ。ボクは絶対アスカをひとりに何かしないって決めたんだ。今から行くから」
 シンジは通信を切るとプログレッシブナイフを取り出し、アスカ目掛けて走り出した。

「ばか、無理しちゃって」
 そんなシンジを好ましく思いながらアスカは気合いを入れ直した。
「どぉおおおっせいいいいっ!!」
 アスカは凄みのある笑いを浮かべながら地面を踏ん張ると、ATフィールドと共に肩からぶちかましを掛けた。
 さしものゴモラも突進をくい止められ、ふたりは力をぶつけ合いその場で動きを止めた。

 

 アスカが雄叫びを上げて気合いを入れると弐号機のフェィスガードのスリットの下から四つの目が怪しく光った。
 その瞬間、彼女のシンクロ率は異常に上昇した。
 自分を取り巻くエヴァの肉体に異様に力が満ち満ちて来るのが実感出来た。
 そしてエヴァを取り巻くATフィールドの力。
 それは弐号機が、その胎内にいるアスカこそを守るため発せられている心の鎧であると認識できた。
『何よこの感覚。今まで感じた事ない。そしてATフィールドの使い方が。凄い、凄い! これならどんな奴だって叩きのめす事が出来る。私が守って上げられるんだ! シンジも、レイも!』
「フンッ!」
 ゴモラの眼前に突き付けられていたショルダーパッドのスリットが2つに割れ、中に4つの飛礫が見えた。
 死ネ!
 アスカが冷たい言葉を放つと同時にその飛礫は火薬により発射され、ゴモラの顔面に深く突き刺さった。
 ゴモラは顔面を押さえるとそのまま後退った。
「エヴァンゲリオンを舐めるなぁ!」
 アスカはATフィールドを集中させ赤く発光した右手の拳を、レイが開けたゴモラの胸の傷に叩き込んだ。
 ゴリッッとした音と共にゴモラのあばらが砕ける感触が伝わってきた。
 続けざまに2発、3発、4発、渾身の力を込めてアスカはゴモラを殴り続けた。
 だが5発目を喰らわした時、ゴモラは突拍子もない行動をとった。
 ゴモラの胸に当たり動きが止まった瞬間を狙って大きく開いた口が弐号機の右腕に噛み付いたのだ。
 肉食獣最大の攻撃用の武器の存在を忘れていたアスカも間抜けていたが、その結果は痛恨の一撃。
 メキッと云う音と共に右腕はへし折れた。
 エヴァンゲリオンの痛みは操縦者の痛み、冷や汗が出てくるような激痛に襲われたアスカは集中力が落ちた。
 その瞬間を見逃さなかったゴモラは回し蹴りの要領で回転させた尻尾を弐号機の脇腹に叩き込んだ。
 一瞬赤く光ったATフィールドだったが、あっけなく割れると尻尾が弐号機に襲いかかった。
「くぅ! ゴメンねシンジィ・・・」
 パイロットが気絶したエヴァは、力無く引き倒されると大地に転がった。




「ねぇ、シンジくん達の手助けしちゃダメなの? アナタの力は地球のピンチに使う物じゃなかったの?」
『ああ、その通りだ。しかし、無用な干渉は混乱を招く。真なる危機にこそ私の力は用いられるべき物なのだ』
「それって一体いつの事なのよ」
『アヤメよ、この星の人類全てに降りかかる様な危機の火種がこの星の上には存在する』
「う〜。分かる様に言ってくれないかなぁ」
『使徒と呼ばれる存在たちだ。そして、現在最も人類滅亡の原因となる可能性の高い者。それが彼らの乗っているエヴァンゲリオンなのだ』





 動かなくなった弐号機に興味を失ったゴモラは、近付いてきていた初号機に向かい、残りはひとつと向き直った。
 零号機、弐号機と次々にエヴァンゲリオンを倒してきたこの大怪獣に対峙し、シンジは精神的に追いつめられようとしていた。
 地響きを立てて迫り来る獣の迫力にたじろぐエヴァ初号機。
 絶体絶命のピンチにシンジは叫び声を上げた。
「ぜったい、ゼッタイにボクがふたりを守るって決めたのに。これじゃ何にもならないじゃないか! チクショウ、畜生! 誰か力を貸してくれよ!」
 シンジがそう口にした瞬間の事だ。


 

 暗い闇の中に立つシンジの背後から異様な、しかし懐かしい気配が迫って来る感じがした。
 それはシンジを優しく包み込むと、彼の体をしっかりと抱きしめるような感触がしていた。
 エヴァの内部から沸き上がってくる鼓動は続いた。
 シンジは、自分の肉体として感じているエヴァの体内から鼓動と共に凄い力が沸き上がってくるのを感じた。
 鼓動が聞こえる度に彼の体の力が高まり、それにつれて先程とは比べ物にならない位エヴァの隅々までもが自分の体のように感じられた。
 しかし、それと共に彼の意識はエヴァから囁き続けられている言葉に少しずつ飲み込まれていたのだ。
 だが、彼の意識が消え去る前、彼を優しく包んでいたその存在がその言葉を断ち切った。
 それまでうるさく打ち続けられていた鼓動もそれを最後に止まっていた。


 少しの間沈黙を続けていた彼がふと気付くと、先程まで離れていたゴモラが目の前に立ちはだかっているのに気付いた。
 しかし、弐号機が倒れた時に感じていた絶望的な恐怖はすでになく、みなぎる力に酔った彼は目を爛々と輝かせゴモラを睨み返した。
 

 シンジは雄叫びを上げた。
 それと同時に初号機の口を固定している顎部拘束具のジョイントが引き千切れ、エヴァ自身の口から、第三使徒サキエルとの戦いの時、暴走したあの時よりも凶暴な叫びが発せられた。
 その咆吼は、さっきまでの悲鳴にも似た響きはその中にはなく、あるのは只、目の前の獲物と闘う事の出来る悦びだけだった。
 その異様な迫力に、今すぐにでも襲いかかろうとしていたゴモラは怯えにも似た感覚を得た。
 気圧された様に低い唸りを上げると、ゴモラは少し後へ下がった。
 だが、初号機はそんなゴモラを見ると目を細めニヤリと嗤ったのだ。
 ハァ〜ァアア。
 初号機は口から息を吐き、攻撃を逡巡するゴモラに向かって一気に詰め寄った。




 そんな初号機の様子を近くから見守っているひとりの少年の姿があった。
 不思議なことに、彼は波によってうねる海面の上に泰然とした様子で直立していた。
 銀髪と紅の瞳を持つその少年の名は渚カヲル。
 先日シンジ達のクラスへ転校してきた筈の少年である。
 彼は薄く微笑みを浮かべたまま、昏き波動を発し続ける初号機の中にいるひとりの少年の事を思い浮かべていた。
 ますます高まって行く昏き波動は、彼の脳裏に刻み込まれた太古の戦いの記憶の中にある、支配者達の作り出した13体の巨人達の姿を呼び覚ましていた。
 しかしそれと同時に、記憶を無くし素性の知れない自分に優しく接してくれたシンジの事を思い浮かべていた。
 彼は呟いた。
「シンジくん、エヴァンゲリオンを目覚めさせてはいけない。・・・でないとボクたちはキミが滅びるまで戦わなくてはならないからね・・・」





 初号機は鬼神が乗り移ったように激しく攻撃を始めた。
 異様に高揚したシンジは自分の中から沸き上がる破壊衝動を抑えることが出来なかった。
 最初はプログレッシブナイフを振るっていた初号機だったが、すぐにそれに飽き足らなくなった初号機はそれを投げ捨てた。
 彼が腕に力を込めると、今までエヴァの両腕を覆っていた拘束具が弾け飛んだ。
 まるでゴリラのように盛り上がった筋肉に力を込めると初号機はゴモラの頭に拳を振るった。
 そのヘビー級ボクサーのような激しいパンチはゴモラの頭に大きく張り出した左側の角を一撃で叩き折った。
 叫び声を上げて逃げようとするゴモラだったが、後から伸びた初号機の右手が右側の角をガッシリと掴んで離さなかった。
 激しく抵抗するゴモラは弐号機にした様に巨大な尻尾を初号機の脇腹に振るった。
 だが初号機はそれをしっかりと左手で掴んだ。
 そして両足をしっかりと地面に踏ん張ると自分の自重よりも遙かに重いはずのゴモラの体をゆっくりと持ち上げ始めた。
 それから逃れようとゴモラは巨体を大きく動かしたが、初号機の握力、腕力は異常に強く、多少ふらつく物のゴモラの体を高々と頭上に掲げた。
 初号機は大きく振りかぶると、必死で逃れようと足掻くゴモラの背中に頭から伸びた角を深々と突き通した。
 今度こそゴモラは悲鳴を上げた。
 今までは闘志を込めた咆吼であったのが、恐怖から逃れるための悲鳴に変わったのだ。
 それを聞いた初号機は突き通していた角を抜き取ると、ゴモラをその場に投げ捨てた。
 ゴモラの体から滴った緑色の血液を全身に浴びた初号機は見た者全てに恐怖を振り撒く悪魔の様なその凶暴な姿を曝すと、激痛から身動きの取れないゴモラに馬乗りになった。
 俯せになっていたゴモラは必死で逃れようと、四肢を振り回し足掻くように体を動かした。
 しかし初号機は、そんなゴモラの抵抗をあざ笑うかのように背後からゴモラの背中を殴りつける。
 その一撃毎にゴモラの体から力が抜けて行くのが感じられた。
 先程まであれほど激しかった抵抗もほとんど止まってしまった。
 それを見て取った初号機は冷酷な天使のようにゴモラの右手を掴み上げた。
 初号機が力を込めるとミシミシと音を立ててゴモラの右腕は脆くも引き千切られてしまった。
 引き千切ったゴモラの右腕を掲げると初号機は勝利の咆吼を挙げた。
 体内からはまたもや激しく打ち鳴らされる鼓動が聞こえてきた。
 その瞬間、初号機の双眸が危険な輝きを帯びた。
 初号機は背中を盛り上げた。
 良く見るとその装甲板の下で何かが蠢動している様であった。




 その様子を遙か遠くから眺めていたセブンは焦ったような声を漏らした。
『いけない、このままではアダムの複製たるエヴァンゲリオンが目覚めてしまう』
「どう云うことよ」
『あの人造人間の中にいる人間が、エヴァンゲリオンの中から発せられている昏き波動の虜となっているのだ。』
「良く分からないわ」
『もともと人造人間たるエヴァンゲリオンの中には魂が存在しない。それを外部から補うことでアレは動いている。しかし、魂を持たぬエヴァンゲリオンはその魂を自らのモノにしようと常に誘惑している』

『エヴァンゲリオンのコアの奥底に封じられた昏き波動にパイロットが飲み込まれてしまうと、エヴァンゲリオンの自我が形成されてしまう。今はまだコアに封じ込まれた何者かの意志によりそれは防がれているが、このままでは時間の問題だな』
「そんなそうしたらシンジくんはどうなるのよ」
『これ以上、彼に戦いを続けさせてはいけない。彼が自ら生け贄を刈り取れば、その瞬間に人類最大の敵が誕生する事になるだろう。残念ながら私たちの出番だ』
「シンジくんと戦うの?」
『いや・・・そうなる前に彼の獲物を私たちが奪う』
「横取りしちゃうワケね」
『そう言うことだ』
 そう言う彼の思考には苦笑の波動が混ざっていた。
「いいわ、友達のためだもん。いつでもいいわ」
『行くぞ』
 それまでアヤメは自室の椅子に座って意識をセブンとリンクさせて新ヤイヅCITYの様子を観ていた。
 だが、友達に危機が迫っていると教えられた彼女は彼の力を借りるべく立ち上がった。
<デュワッ!>





 シンジは目の前のゴモラに止めを刺そうと右手を大きく振り上げた。
 完全にエヴァに主導権を握られてしまったシンジは、むしろ楽しげに暴力を振るっていた。
 だが、シンジと繋がっている心はエヴァンゲリオンだけではなかったのだ。
 それまで自室にいるように堅く言い聞かせられていたシンジの火蜥蜴達は、彼らの主人である碇シンジが何者かによってその心を蹂躙されて行く事を感じ取っていた。
 激しい焦燥感に駆られた彼らは後先考えずにシンジの元へ跳んだ。
 エントリープラグ内に満たされている液体は緩衝剤としての役割を第一に作られた物だが、万が一の時にパイロットが窒息しないように肺の中に充分な酸素を送り込むことの出来るだけの飽和酸素を含有していた。
 シンジはその時、目の前の怪獣を倒すことのみを考えさせられていた。
 エヴァはシンジを包み守っていた存在を排除し、再度干渉しないようにATフィールドで包み込んでいたのだ。
 しかしその瞬間、火蜥蜴達は間隙を通り、シンジの肉体の前に空間跳躍してきた。
 エントリープラグの中に現れた火蜥蜴達はシンジに泳ぎ寄ると、その首や腕にしがみついた。
 青銅色の火蜥蜴、エースは破壊衝動に取り付かれたシンジの顔を見て取るとシンジを怒鳴りつけるように大声で鳴いた。
 その鳴き声はシンジを独占しようと取り巻いていたエヴァのATフィールドを通り抜けシンジの心に突き刺さった。
 その瞬間、シンジの初号機は冷水を浴びせられたようにその動きを止めた。
 それまで激しく光っていた双眸の輝きも静まり、背中で蠢動していた動きもなくなっていた。
 右腕を失い全身に手酷い怪我を負おうともその隙を逃すゴモラではなかった。
 のっそりと初号機を押しのけて立ち上がると、初号機の首を左手で握ると吊し上げた。
 抵抗もせずにぶら下がっている初号機ではあったが、パイロットたるシンジにはきっちりその感触が伝達されていた。
 首を絞められるような酷く苦しみをシンジは味わっていたが、それにより脳内に分泌されていた脳内麻薬の興奮が流され、ようやく冷静になれる状況になっていた。
 しかし、このままではシンジ自体がエヴァからのフィードバックで死んでしまう。
 しかもその攻撃を振り払おうにも、肝心の初号機が動かないのだ。
 正気に戻ったシンジは又、朦朧とした世界へ足を踏み入れようとしていた。
 だがその瞬間、エヴァンゲリオンと同じ位巨大な赤い巨体が初号機の前に滑り込み、初号機を吊り上げていた左腕を振り払った。
 喉に掛かっていた圧迫感が無くなったシンジは一時咳き込んでいたが、酸素が脳に回りようやく頭が回転を始めると初号機を救ってくれた赤い影が気になった。
 もしやアスカが復活したのかと、弐号機が倒れていた方向へ振り返ったシンジの目に入ったのは地面に倒れた弐号機の姿だった。
 では、先程自分を救ってくれた赤い影は何者なのか。
 改めて赤い巨体を見たシンジの脳裏に、先日使徒が現れたと言う戦いの資料の中にあった白銀の鎧を纏った様な姿の「ウルトラセブン」と云う謎の巨人がうかび上がっていた。
 ウルトラセブンは初号機の方を振り返ると、ひとつ肯いた。
 そして、ヘァッ!! と言う掛け声と共にウルトラセブンは抵抗できずにいるゴモラの尻尾を掴まえると、自分の体を中心にゴモラを振り回し始めた。
 そのまま彼はゴモラをジャイアントスイングで振り回し、海へ放り込んだ。
 巨大な水柱と共にゴモラの体は海中に没した。
 その水柱が納まらない内にセブンは自分の頭頂部の飾りを取り外すと、まるで投げナイフを投げつけるように水中のゴモラに向かってセブン随一の超兵器「アイスラッガー」を投げつけた。
 海中に消えたアイスラッガーが旋回を描いてセブンの手元に戻った瞬間、その海域で多量の光が輝き大音響と共に先程と比べ物にならない様な巨大な水柱が立った。
 セブンはそれを見届け、唯一立っている初号機に向き直り大げさなゼスチャーで肯くと両手を振り上げた。
「ゼィヤ!!」
 アイスラッガーでゴモラを倒したセブンはマッハ10もの高速で空中へと消えていった。
(レーダーで監視していたSCEBAIの監視網からも逃れた)


 戦いは終わった。
 戦いが始まる前は一大都市であったここ、新ヤイヅCITY中央人工島はシンボルタワー以外のビル街はほぼ半壊し、大部分が廃墟と化していた。
 ただ虚しく風が吹くだけだったそこに、島の東側で機械獣軍団と戦いを繰り広げ、それを倒したマジンガーZと沖女のマシーン兵器達が集まってきていた。(マシーン兵器は体格差から苦戦し、損傷した者が多かった。)


 しばし呆然としていたシンジであったが、零号機と弐号機が倒れたままであった事を思い出した。
 急いでふたりを助け出さなければとシンジはエヴァのエントリープラグを排出すると、その扉を開き、中から顔を覗かせた。
 それを虎視眈々と狙っている者が居るとも知らずに。


 スナイパーライフルの照準の中には、エントリープラグから顔を出したシンジの疲れた顔がクッキリと映し出されていた。
 ジェノバM9にとってこの距離は外しようのない絶対射程圏内であった。
 無感動にそれを見つめていたジェノバM9の聴覚装置にふたつの人間の足音が聞こえて来ていた。
 しかし、監視装置から送られてきたデーターからすると無武装の人間に間違いなかった。
 そんな戦力単位しかない一般人が何をしようと、射撃を絶対外さない自信が彼にはあった。
 ジェノバM9はそのふたりに構わず、確実にエヴァンゲリオン初号機と呼ばれるロボット兵器のパイロットを狙撃するタイミングを測っていた。


 一方、ジェノバM9に無視されたふたりだが、外輪山の麓から物凄い勢いで土煙を上げながらグラビトン学園を目指して駆け上がっていた。
「A子ぉ!!! いい加減に往生しなさい!!!」
「だから何で私が往生しなくちゃなんないのよぉぉぉ!!!」
「問答無用!!」
 B子が反重力ブレードの出力を全開にして放った蹴りは、A子を学園内の敷地へと放り込んだ。
「死ね!! A子!!」


 夕暮れが迫り、陸風が完全に止まり海からの風が吹き始めるその一瞬、沿岸には完全な無風状態が発生する。
 ジェノバM9はその瞬間を待っていた。
 彼の人工知能は後20秒ほどで弾道に影響する風は完全に止まると計算していた。
 彼はスナイパーライフルの引き金を引き絞り始めた。
 このタイミングなら命中は間違いなかった。
 発射された弾頭は確実に目標であるロボット兵器のパイロットを血煙に変えてしまうだろう。
 何も知らずに照準サイトの中のシンジはエントリープラグへと急ごうと動き始めていた。


 辛うじてB子の蹴りを避けたA子は素早く立ち上がると校舎裏へ隠れるべくダッシュで走り始めた。
 しかし、校舎の角を曲がった先には、巨大な2本の柱が立っていた。
 良く良く見ると、それはロボットの足だったのだ。
−−−B子ったらわざわざ私が通れないようにこんなデカブツをこんな所に置いとくなんてぇ!! しつこいにも限度があるわ!!−−−
 その瞬間A子の怒りは頂点に達した。
「A子!!」
 その瞬間、後からB子が凄い勢いで駆け寄ってきた。


 サヨナラダ。
 ジェノバM9は冷徹な思考の中でそれだけを呟くと引き金を引いた。
 しかし、次の瞬間気が付くとジェノバM9の体は数十メートル上空に放り上げられていた。
 彼が必死に今まで居たところを見ると、赤毛の少女が彼を物凄い形相で睨み付けているのが見えた。
 マサカ!!
 飛行能力のないジェノバM9が地上に叩き付けられる瞬間、A子はダッシュでジェノバM9に駆け寄るとその寸前でジャンプ!
 ソンナ!!
 常識を越えた現象に彼のAIは凍り付き、何のリアクションを起こすこともできなかった。
 A子の跳び蹴りを喰らったジェノバM9の体はまっぷたつに裂け、大爆発を起こしてこの世からその姿を消した。


「ちょっとB子!! こんな所にまでこんなデカブツ置いておくなんて非常識じゃないの!!! 大体こんなデカブツ何の役にも立たないって朝教えたでしょ! いい加減にしてよね」
「えっ? それ私じゃないわよ」
「はぁ? こんな物アンタ以外に誰が作るってぇのよ」
「そんなの私知らないわよ」
「むっかぁ! そんな言い逃れするなんて、大体アンタはねぇ」
 今までのB子の仕打ちに頭来ていたA子はB子に詰め寄り胸ぐらを掴もうとした瞬間、海の方から爆発音が聞こえてきた。
「なに?」
 いままで追いかけっこに夢中で戦闘が有ったことにさえ気付かなかったふたりは慌てて校庭から海の方を見た。
 すると今までいた中央島がボロボロになっているのに初めて気付いた。
「あー、あーああーB子い〜けないんだぁ。あんなに島を壊しちゃってぇ〜。アタシし〜らな〜い」
「ちょっちょっとA子あれは貴女の仕業でしょ。責任転嫁は止めてよね」
 ふたりは責任をなすり付け合っていたが、その内に単なる悪口合戦に発展し、それは夜の夜中まで続いたと言う。


 それはさて置き、ジェノバM9が引き金を引いた瞬間、確かに砲口から砲弾は発射されていた。
 しかし、砲弾が砲身から離れる最後の0.01秒の瞬間、A子に放り投げられた為その弾は若干目標からずれていたのだ。
 そう、若干である。
 砲弾は真っ直ぐエヴァンゲリオン目掛けて突き進んでいった。
 そしてそれはエヴァ初号機の目前で時限信管が働き爆発、衝撃波と破片を撒き散らしエヴァンゲリオンに降りかかった。
 ただひとつ幸運だったのは本来の場所から大きく外れたことだろうか。
 直撃するはずだった弾頭はエヴァの足元に着弾したため、破片は機体に阻まれシンジには当たらなかったのだ。
 その瞬間をエントリープラグ内のアスカとレイは目撃していた。
 気絶していた彼女たちを呼び覚ましたのは彼女たちの火蜥蜴達であった。
 シンジの火蜥蜴達が跳躍した時、同じく主人の危機を感じ取っていた彼女たちの火蜥蜴も同じくそれぞれの主人の元へ駆けつけていたのだ。
 そうしてようやく目を覚ましたふたりの前には、ただ一体だけ佇んでいるシンジの乗った初号機だけがあった。
 この時彼女たちはひとりであの怪獣を倒したシンジに頼り甲斐というモノを感じていた。
 だが、次の瞬間、彼女たちの眼前に映る映像はとても信じたくなくなる物であったのだ。
 エヴァ初号機の足元で爆発が起こると破片が辺りにバラ撒かれた。
 空中を伝わってきた衝撃波は小さく、エントリープラグ内の彼女たちには一切の振動は伝わらなかった。
 その為、まるでサイレント映画の様に見える光景の中、オレンジ色に染まった初号機のエントリープラグからひとつの人影が落下していった。
 シルエットのみであったが、それは木の葉のように放り出されると地面向かって・・・















鬼のようにここで終わる。





<後書き・・・にならない>

「どーこーだぁぁあああああ!!!!! 何処に行ったァァァァァ!! 出てこぉぉぉい」


「・・・無駄よアスカ・・・」


「何故!? どうしてよ」


「だって、コレを見て」


「コレは! <本日定休日>だぁああああ???!!!!」


     ・「レイ、これなんて読むのよ」

     ・「日の本のモト、日曜のニチ、定めの矢のサダめ、箸休めのヤスめ、日曜のニチ」

     ・「もとにちさだめやすめにち??? なにそれ」

     ・「クスッ、それを音読みした物よ」

     ・「音読みぃ? そんなの分かるかぁ!? 分かってたら訊かないわよ」

     ・「ええ、そう言えばそうね。ゴメンナサイ、アスカ」

     ・「第一なんだって同じ文字なのに読み方が複数ある訳ぇ?! ワケ分からなくなるばっかジャン! モウ!」

     ・「そんな事ないわ。アスカ」

     ・「そんな事あるから困ってんでしょ〜が!」

     ・「それもそうね。正解はホンジツテイキュウビ、よ」

     ・「ダンケ! ふむ、ホンジツテイキュウビ・・・本日定休日ぃ!?」

     ・「ええ、そう言うこと。つまりアイングラッドは逃げ出したと言うことね」

     ・「ちっくしょお! アタシのシンジをあんな目に合わせて置いて逃げたぁ!? 殺してやる」

「次会ったらぜったい殺すゥゥ!!!」




<エピローグ>


 第3新東京市、コンフォート17では恒例の家族会の準備が進められていた。
 碇家の唯とお隣の惣流家の主婦響子、その娘の明日香が腕によりを掛けて御馳走を作り、夜中までゲームをしてから酒盛りに映るのが常であった。
 最近では碇真司と明日香も両親に無理に飲まされた酒の味を覚えて酒盛りに参加し始める様になったことが両親達に嬉しさを与えていた。
 だが、今日その日に限っては様子が違っていた。
 両家の夫たる碇源道と真司、惣流ゲオルグは料理が出来るまでの間、邪魔にならない様に居間に座っているであるが、テレビで報道特別番組が始まるとその映像に釘付けになってしまっていた。
 息子の真司はゲームやアニメではなく本当にロボットが戦闘している映像が流れていることに興奮していたのだが、源道によって食堂から呼ばれた唯と響子を含む4人は怪獣に立ち向かっていった3体の大型ロボットの姿を見て絶句していた。
 彼らが昔、それを生み出さないために必死になって滅ぼしたはずのそれが姿を現していたのである。
 明日香は真司の様子を見て「ほ〜んと。まだまだお子様なんだから(はぁとマーク)」等と言っていたのだが、両親達の真剣な表情に何か異様な物を感じていた。
 普段の陽気でマイペースな4人が今まで見たこともないほど緊張していたのである。
 こんな事は真司が崩れた石垣の下敷きになった時にも見たことがなかった。
『こちら静岡県の中部にある新ヤイヅCITYからの実況中継です。現在、ここ新ヤイヅCITYは戦場と化しています。現在戦場となっている場所はここのすり鉢状の湾内に浮かぶ人工島だそうです。午前10時に怪獣ゴモラが出現し現地の防衛軍が応戦しつつ島内の住民は既に全員が避難を完了したとのことで、現在までに死者の報告はありません。ただし、避難誘導をおこなった警官や消火活動を行っていた重軽傷者が発生している模様です。十六時現在、対岸の中央島では先頃発足した第四軍に所属するロボット兵器が投入されている模様です。あっ! 光った! 物凄い閃光です! 島の東側で突然物凄い閃光が発生しました。あ、あぁぁぁぁビルが、高層ビルが見る見るうちに熱によって溶けて崩れて行きます。何が起こったのでしょうか、現在の所、投入された戦力についての情報は防衛庁より発表されておりません。情報が入り次第お伝えする予定です。え? えっとはいぃハイ。ちょっとお待ち下さい。えーとですね、ただいま入った情報に寄りますと、攻撃をして来た敵勢力の名前はDr.ヘル率いる機械獣軍団だと言うことです。各報道機関へ犯行の声明文がファクスにて届けられいるそうです。そして、怪獣ゴモラですが、現在、見えますでしょうか、島の北側に陣取り先程から本土へと渡ろうとロボットへの攻撃を続けております』
 カメラがそちらに向けられると、崩壊しつつあるビル街に小さく赤いロボットと青いロボットが映っていた。
 映像が拡大されるとそれらはハッキリとした映像となってテレビ画面に映し出された。
 赤いロボットは長い杖の薙刀の様な武器を、青いロボットはナイフのような武器を構えてゴモラの前後を囲っていた。
 それらの顔がアップになると碇唯はハッと息をのんだ。
「どうしたんです? おばさま」
「い、いえ何でもないのよ、ありがとう明日香ちゃん」
 唯が明るく返事をすると明日香は不審そうな感じであったがそれ以上何も聞かなかった。
 源道は唯の横に座ると、小声で唯に囁いた。
「で、どうだ唯。こいつらは矢張り例のアレなのか」
「ええ、私が計画し、私たちが屠った筈の人類補完計画の要と同じだと思うわ」
「そうか、しかし何故」
「私たち以外の世界から来たのでしょうね」
「と言う事はアレに乗っているのは」
「ええ、恐らく間違いないわ。多分この前私たちの前に現れた子たちよ」
「そうか・・・」
 源道と唯は暗い表情で話し合った。
『ああー、青いロボットが怪獣ゴモラの攻撃により弾き飛ばされ動かなくなってしまいました。数百メートルも弾き飛ばされて中のパイロットは無事なのでしょうか。まったく動かなくなってしまいましたが、心配であります。・・・・・・えー、ただいま入った情報に寄りますと、あの3機のロボットの名称が公表されました。現在GGGによって保護されているエバンゲリオンと言うロボットだそうです。現在動いているのは僅かに1機、残りの2機はゴモラの攻撃を受けて動かなくなってしまっています。怪獣という物の危険性が痛感させられます。おお、エバンゲリオンの中で最初に動かなくなっていた一番怖い顔をした紫のエバンゲリオンが動き出しました。ただいまゆっくりと赤いエバンゲリオンに向かって行きます。共同戦線を張るつもりなのでしょうか』
 画面の中のエヴァ弐号機が突然、物凄い攻撃を始めたと思うとゴモラを連続して殴り始めた。
 しかし、それも長く続かず、ゴモラの反撃を喰らった弐号機はあっさりと大地に伏した。
 そうして固唾をのんで画面を見つめていた彼らは時が経つのも忘れていた。
 すると、西の空が真っ赤に染まり始めた頃、突然現れたエヴァンゲリオンと同じくらいの大きさの赤と白銀の巨人が現れると、紫のエヴァンゲリオンによって凄惨な位にズタボロにされていたゴモラは海中に投げ込まれ大爆発した。
 そこで特別報道番組は特設スタジオで始まった自称怪獣専門家やロボット工学研究者たちの言いたい放題に変わった為、大人たちは興味を失いテレビを消した。
 しかし、そこに漂う雰囲気はいつも彼らが漂わせる雰囲気とはまったく異なる異質な物であった。
 ぎこちなく終わった家族会の後、子供たちが眠ったことを確認して四人は酒盛りを理由に今で密談を始めた。
 それが終わった頃、唯はひとつの決心をしていた。





<その後の後書き>
 こんにちは、アイングラッドです。相変わらず鬼のような引きで止めました。
 さて、シンジは一体どうなるのか。アスカは、レイは。
 そして第3新東京市の学園版の彼らはどう関わってくるのか。
 それはまだ秘密です。
 それから、これはVer.2.0です。
 最初に公開した物は、終わり方が唐突で全然つまらないと言う感想が殺到したので、若干変えてみました。
 でも結局セブンが止めをさすんですがね。
 これから2話はシリアス調で行きます。その後は元の雰囲気に戻ると思いますけど。
 出来るだけ早く続きを書きます。
 ではでは次回を楽しみにしていて下さい。




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