S−1 下宿 旭荘前駐車場

 目の前の空き地に何故か巨大なパラボラアンテナが立っている下宿屋旭荘は、築数十年は経つ立派なオンボロ下宿である。
 そこの駐車場に色あせたオレンヂ色のビートル(フォルクスワーゲンのあだ名)が滑り込んできた。
 いつも幌を被って置いてあるスーパーセヴンは持ち主と共に出払っているのか姿はなかった。
 ビートルはタイヤを軋ませて止まった。
 直ぐに運転席のドアーが開き、中から褐色の肌をしたセーラー服の女子高生が飛び出してきた。
 彼女は最後に下宿を出た時と変わらない姿をした建物を見て思わず涙ぐんだ。

 「あ〜良かった。無事だった」

 しばらくの間ジーンとしていた彼女であったが、ふと我に返って下宿の玄関へと飛び込んだ。



 S−2 旭荘 ナミ・ファランドールの部屋

 銀河核恒星系に本社を構える三流の侵略企業ゲドー社所属の旧式戦艦オルクス情報部員として唯一地球上に作られた地上基地、(但し経済的に厳しい<チャレンジされている>国の大使館のように賃貸住宅の一室であるが)そこを活動の拠点としているナミ・ファランドールは壁の一面をしめるような大きさの携帯用多元通信機に向かっていた。
 その顔は茫然自失、意気消沈と云った感じで何の反応も出していなかった。
 彼女はつい先程まで富士のすそ野に広い敷地面積を有するSCEBAI 国立科学研究所に白由希女子学園高等学校の同級生である和美、エミ、由貴と共に厄介になっていた。
 三人に付き合わされて軽いドライブに連行されていたのだが、突然の時空融合現象に巻き込まれSCEBAIの敷地に逃げ込むのが精一杯であったのだ。
 たまたま和美の祖父が研究所所長であったため衣食住は確保できた。
 そこで厄介になっている間もビートルの通信機を使って衛星軌道上にいるはずの戦艦オルクスと連絡を取ろうとしたが一切の連絡が不通になっていた。
 情報部のマニュアルに載っていない突発事項に陥ってしまったためパニックになったナミは地上基地に置いてある恒星間通信も可能な多元通信機に一縷の望みを託し速行で富士から都内某所の旭荘へと駆けつけたのであった。
 部屋に飛び込んだナミは真っ先に通信機に囓りつき緊急回線を用いてオルクスとの連絡回線を開こうとしたが、地球上から放送される以外の人工電波を用いた通信が途絶していた。
 本来だったら核恒星系から漏れてくる筈の超空間波を用いた航行用電波シグナルすらも全くなかったのだ。
 こうなると考えられるのが通信機の故障であるが、仮にも野戦での使用が前提の二重三重にも及ぶ安全装置が施されたこの機械がそうそう簡単に壊れるはずもなく、念の為におこなったチェックも全く問題無しと出ていた。

 「わ〜ん。一体どうなってるのよ〜。」

 ナミが考えられるあらゆる手を打ってしまった後、手詰まりとなった彼女は呆然としていたが、ふと見ると緑の信号が点灯しており留守録が入っている事に気付いた。
 ナミは留守録再生のボタンを慌てて押した。
 するとノイズ混じりの画面に少し慌てた感じの顔をした銀髪タレ目の美形の男が浮かび上がった。

 「ああ! かんちょ〜お!!」

 ナミは画面上に表示されたオルクスの艦長であるハウザーの顔を確認すると通信機に囓り付いた。

 「艦長! なにが一体どうなっちゃってるんですか。」
 『まずは落ち着きたまえ。尚この映像はタダの録画なので君の質問に答えることは出来ない』
 「はい」 グスン
 『時間があればAIを使用した疑似インタラクティヴ質問システムを送れたのだが。まぁいい。現在オルクスで確認された所によると、この現地惑星上で空間の歪みが発生している。かなり大規模なものだ。残念ながら現地工作員である君を回収する事は出来ない』

 覚悟していた事とはいえ、艦長直々に宣告されてしまったナミはヘナヘナと床に座り込んでしまった。

 『そこで、今後の君の活動方針だが、手段を選ばずに生き残れ。現地政府との交渉もレベル3までなら許可する。この現象が落ち着いて君を回収する機会があれば必ず回収する、その時を待って貰いたい』
 「はい」 べそべそ
 『尚、現地での活動用に特別に経理部長から許可を貰い、再生した降下兵(スクラッパー3,4,5号機)を3機そちらに送った。そちらでなら充分に使用できるはずだ、活用してもらいたい』
 「了解しましたぁ」
 『それでは健闘を祈る、以上だ…』ガガガ…ヴュウン

 留守録は雑音を最後に途切れた。
 ナミはホワイトノイズが流れるばかりの通信機をジッと見ていたが、しばらくすると通信機を弄くりだしスクラッパーズの現在位置を探し出した。

 「ふぅ、なになに、地下に潜伏中…。はぁ…。先行き不安だなぁ〜、え〜ん」


スーパーSF大戦

第8話「新たなるつわもの」

 神奈川県川崎市JR川崎駅南口商店街
 今そこは第二次世界大戦以来の攻撃を受けていた。
 突然、県立北栄高校近くに出現したエヴァンゲリオン弐号機ゾンダー=アスカがソニックグレイブを振り回し市街地を破壊しながら南へと向かっていたのだ。
 市長は直ちに川崎市各地域にある市広報用のスピーカーから非常事態宣言を発令し、市民に避難を促すよう呼びかけていた。
 勿論の事、ゾンダーの情報はGGGに届けられ、GGG機動部隊はゾンダー撃滅のため出動を始めていた。
 GGG機動部隊のガイガー、氷竜、炎竜を乗せた三段飛行甲板空母はGアイランド上空へ舞い上がると、川崎市内に向かって次々と彼らを射出した。

 それまで遮二無二周囲を破壊し続けていたエヴァ弐号機ゾンダー=アスカだったが、何かを感じたのか南の空を睨むとソニックグレイブを目の高さに構え、迎撃準備を整えた。
 すると程なく、上空に3つの点が見え始めそれらは見る見る内にGGGの機動メカになった。
 白い点、ガイガー・ステルスガオー装備タイプは大きく上空を旋回しつつエヴァ2号機ゾンダー=アスカにプレッシャーを掛け、青と赤の点はそのままゾンダーの両脇に広がるように着地しようとした。

 「どげえぇぇぇぇ!!」

 青い機体の氷竜はきれいな着地を決めたのだが、赤い機体の炎竜は着地の瞬間バランスを崩しアスファルトを掘り返しつつ横転した。
 氷竜は素早くフリージングガンをエヴァ弐号ゾンダー=アスカに構え、炎竜に声を掛けた。

 「大丈夫か炎竜!」
 「ハハ、ドンマイドンマイ」
 「まったく、お前と来たら」
 「へへ」

 炎竜は照れ笑いを浮かべながら立ち上がり、メルティングガンをエヴァ弐号ゾンダー=アスカに向けた。

 「さぁ、このゾンダー野郎! おとなしく縛につきやがれぃ!」
 「炎竜、また時代劇見ただろう」
 「てやんでぃ、べらぼうめぇ。あたりきしゃりきのコンコンチキよ」
 「…任務には支障を来さないようにな」
 「OK! うらうらうらうらうらうらうらぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 炎竜の気合いの入ったかけ声と共に二人はフリージングガンとメルティングガンを撃ちまくった。
 青い光線と赤い光線がエヴァ弐号ゾンダー=アスカに襲いかかった。
 その大半はATフィールドに似たエネルギー障壁によって弾かれたのだが、たまたま顔を狙った氷竜のフリージングガンの青い光線がエヴァ弐号ゾンダー=アスカの顔面に当たった。
 しばらく呻くように顔面を抑えていたが、キッと氷竜を睨み付けると姿を消した。

 「なに、消えた! 視覚ステルスか!」
 「違う! 氷竜上だ!」
 「えっ!」

 氷竜が見上げると、自分の2倍以上もあるエヴァ弐号ゾンダー=アスカの巨体が軽やかに空中に舞い上がっていた。
 エヴァ弐号ゾンダー=アスカは氷竜の直ぐ間近に着地すると振り上げていた右足を落下の勢いのままに踵落としの要領で振り下ろした。
 慌てて飛び退く氷竜だったが、フリージングガンが氷竜の半分位もある踵落としに当たり、完全なスクラップになってしまった。
 転がるように避けた氷竜は、エヴァ弐号ゾンダー=アスカが地面にめり込んだ足を引き抜いている内に炎竜と共に二〇〇メートルほど後退した。

 「大丈夫か氷竜!」
 「ああ、問題ない。しかし、これでは埒があかないぞ」
 「街に与える被害もバカにならないしな!」
 「まったくだ」

 『ガイ! 市街地の一般市民、関係者の避難完了』

 GGGメインオーダールームから卯都木 命オペレーターが通信を入れた。
 ガイガーとフュージョンしていたガイがそれに答えた。

 「分かったミコト、ようし行くぞ!」

 ピッピッピッ!
 『長官! ガイよりファイナルフュージョンの要請シグナルが入っています』
 『ようし! 承認!!!』
 『了解! ファイナルフュージョン、プログラム・ドラーイヴ!!!!』

 命が手元のコンソールのアクリル製の誤操作防止板を叩き割り、ファイナルフュージョンプログラムver.4.25aを起動した。
 信号を受信したガイガーと各ガオーマシンはファイナルフュージョン準備態勢に入り、変形・合体プロセスを開始した。
 箱根細工のように入り組んだ機体の一部がスライドし分離し芸術的な精度で組み合わさっていった。

 「ガオ・ガイ・ガァァァァー!!!」



 ガオガイガーは史上最強の勇者王である。
 最強のサイボーグ・獅子王ガイとフュージョンしたガオガイガーは無敵の勇者となるのである。

 『ディバイディング・ドライバー射出!』

 ミラーコーティングされたFB−1 Mk−2.ディバイディング・ドライバーがガオガイガー目がけて打ち出された。
 超音速で射出されたディバイディング・ドライバーからバラバラとミラーコーティングが剥がれて行き、ガオガイガーへと向かった。
 空中へと飛び上がったガオガイガーは、ディバイディング・ドライバーをキャッチし左腕に装着した。

 「いっくぞーっ!!! ディバイディング! ドライバー!!!」

 ガオガイガーはディバイディングドライバーを下にして地面に叩きつけた。
 ガオガイガーの左腕に宿る守りの力を利用したディバイディングドライバーは反発空間(レプリションフィールド)を発生させゼロ空間を延展し、固縛空間(アレスティングフィールド)により半径12キロメートルの空間を湾曲固定、都市部に無人の戦場(バトルフィールド)を作り出した。

 「さて、舞台は整った。いくぞ!!」

 ガオガイガーはエヴァ弐号ゾンダー=アスカと向き合った。
 エヴァ弐号ゾンダーの身長は約五〇メートル、ガオガイガーは約三〇メートル、その身長差は約二〇メートル。
 圧倒的な戦力差を感じさせる光景ではあるが、ガオガイガーには氷竜、炎竜と云う二人の援護がいる。
 エヴァ弐号ゾンダー=アスカはソニックグレイブを縦に構えた。
 そのままジリジリっとにじり寄る。
 ガオガイガーが右手をゾンダー=アスカに向け、先手を撃った。

 「ブロークン・マグナム!」

 破壊の右腕が爆発的な勢いで打ち出され、ゾンダー=アスカに襲いかかった。
 ゾンダー=アスカはバリアーでそれを防ごうとするが、ブロークン・マグナムはバリアーを突き破りゾンダー=アスカの頭部装甲を破壊した。
 大きく仰け反り、ゾンダー=アスカは後ろ向きに地面に倒れた。

 「やったか!」

 ガイとそれを見ていたメインオーダールームの面々は歓声を上げた。
 しかし、

 「ゾンダー!」

 低く唸るような声を上げてゾンダー=アスカは立ち上がった。
 その拍子にひびの入った頭部装甲が剥がれ落ちて行き、その内部が徐々に露わになって行った。
 その仮面の下から、白い陶器の様な肌、青く澄んだ宝石のような瞳、赤味掛かった金髪が現れた。
 勝ち気なその表情はまさしく惣龍・アスカ・ラングレーその人であった。



 同刻、GGGメインオーダールームを訪れた2人の少年と少女がいた。
 彼らこそエヴァンゲリオン専属パイロットであるファーストチルドレン・綾波レイとサードチルドレン・碇シンジであった。
 シンジはアスカの行方を聞こうとレイに無理を言ってここまで連れてきて貰っていた。
 彼らがメインオーダールームに入った途端、正面の巨大なスクリーンに些か巨大になったアスカの姿が映っていた。

 「アスカ!」

 シンジは行方不明になったアスカの姿を見て驚きの声を上げた。
 その声に気付きメインオーダールームの面々はシンジ達を見た。

 「綾波くん、シンジ君。」
 「どうしたって云うんですかコレは。何でアスカを攻撃しているんですか!」

 シンジはいつもの内向的な性格を見せず、長官に食ってかかった。
 さしもの大河長官もシンジの勢いに押されいささか退いたが、直ぐに立ち直り現状とその打開策をシンジに教えた。

 「見ての通り、行方不明だったアスカ君はゾンダーの素材として利用されてしまったのだ」
 「それは見れば分かります、早く攻撃を止めて下さい! アスカに何かあったらどうするんですか!」
 「それは、出来ない」
 「何故なんですか?!!」
 「いいかい、シンジ君。これはアスカ君を救助するための唯一の方法なんだよ」
 「分かりません。そんなの詭弁です。アスカを殺、殺せばそれで良いって言うんですか!」
 「いいから聞き賜え! 今、アスカ君はあのゾンダーの内部にあるゾンダー核に囚われている。彼女を救うためには、あのゾンダーの内部からゾンダー核を抜き出しマモルくんの特殊能力によって浄解しなければならないんだ。その為に、我々は今あのゾンダーの捕獲を実行しているんだ。分かるね」
 「はい」
 「しかし、戦況は芳しくない。あのゾンダーはエヴァンゲリオンに準じた能力を持っている。あの巨体がまるで生き物のように柔軟に機動するせいでGGG機動部隊の能力では追いきれないのだ。あのエヴァンゲリオンのゾンダーに対抗できるのは、本物のエヴァンゲリオンだけだ。綾波レイくん、出撃準備を頼んでもいいかね」
 「命令なら」
 「良し、それでは」

 大河長官がレイに出動の命を下そうとした所、シンジがそれを遮った。

 「待ってください」
 「しかし、それでは彼女を見殺しにすることになるのだよ」
 「違います。ボクが出ます」
 「しかし君は骨折しているじゃないか、出撃は無理だ」
 「ボクは今までアスカに頼ってきました。この世界に来てからもアスカに負担を掛けてばかりで、アスカがあんなになったのはボクのせいかも知れないんですボクにやらせて下さい」
 「しかし…」
 「ボクは、いえオレはエヴァンゲリオン初号機専属パイロットの碇シンジです!」

 シンジは絶叫するように懇願した。
 しばし、メインオーダールームを沈黙が支配した。
 大河長官はシンジをジッと見ていたが、頼りがいのある笑いを浮かべてシンジに言った。

 「よぅし! それでこそ勇者だ!」
 「そんな…。ボクはそんな大したモノじゃないですよ。ひとりじゃ何もできない臆病者で、ボクはただアスカを救いたいだけなんです。」
 「それこそが勇者の証なんだよ、碇シンジ君。ガイでさえ、ひとりだけで勇者たりえている訳ではない。われわれがそして数多くの人たちのバックアップがあればこそ我ら最強勇者軍団は戦えるんだ。そうだろう皆!」
 「その通りだ、オレ達の力強い援護がガイ達を支えているんだ。任せてくれよシンジ!」
 「そうですね、ボクのプログラム技術でお役に立てるなら」
 「エヴァンゲリオンの整備はオレに任せてくれよ」
 「頼りにしてマスです、シンジ」
 「アスカちゃんを救って上げて。頑張ってね、シンジ君」
 「ワシの頭脳を振り絞って援護するぞ、シンジ君」

 メインオーダールームの面々はシンジに向かって力強く語りかけた。
 NERVの頃まで含め、シンジは今まで聞いたことのない暖かく、力強い励ましの言葉を聞き涙ぐんだ顔をしたが、それ以上に気持ちは奮い立ち、高ぶっていた。

 「私も援護に行きます」

 レイも控えめな声で大河長官に言った。

 「わかった、行って来たまえ。勇者シンジ、そしてレイ。よぅし! エヴァンゲリオン初号機、及び零号機出撃!」
 『了解!!!』

 メインオーダールームの全員の声がひとつになり、エヴァ初号機と零号機の発進準備が始まった。
 大深度地下実験施設より水陸両用装甲車に移されたエヴァ2機は、車内で起動及びエントリーシーケンスを行いながらの出撃となった。
 川崎市夜光区の岸壁に接岸した水陸両用装甲車の扉が開き、中から2機のエヴァが飛び出し、戦場へと駆けて行った。。

 一方、戦場では膠着状態が続いていた。
 一度はブロークン・マグナムを命中させたガオガイガーだったが、その後警戒を強めたゾンダー=アスカはガオガイガー、氷竜、炎竜の攻撃をことごとく避け続けていた。
 その理由は実は意外なところにあった。
 戦闘が始まってからの2発の命中弾はゾンダー=アスカの頭部に集中していた。
 ゾンダー=アスカの仮面には4つの目が付いていたのだが、普段2点の立体視しか経験していなかったため脳が情報量に付いて行けずパニックを起こし、目を回していたのだった。
 それが破壊され通常の立体視に戻ったため、生来の反射神経を活かした高速度の運動でその巨体にも関わらず機械体では追いつくことの出来ない回避能力を持ってしまったのだ。
 だが、ゾンダー=アスカの攻撃は消極的な物になっていた。
 最初から持っていたソニックグレイブが弾き飛ばされ、ガオガイガー達の足元に転がっているためにパンチ、キック等の素手での格闘技しか攻撃方法がなかったのである。武器使用時と遜色なく強そうだ。

 「隊長! もうあまり時間がないぜ!」
 「分かってる。しかし、あいつは今までのゾンダーとは訳が違う。このままでは」

 そう、このままではディバイディング・ドライバーによって作られたこの空間がタイムリミットで閉じてしまう。
 そうなったその時にこの空間内で戦闘が続けられていた場合、圧縮される空間によってエネルギーが反発作用を起こし史上まれにみる大爆発が起こってしまうのだ。

 「どうにかしてあいつの足を止めなければ、オレ達に勝ち目はない!」
 「それなら私が行きます。チェスト・スリラー!」

 氷竜は胸部装甲を開くと、その内部から極度の冷風をゾンダー=アスカに吹き付けた。
 極低温の旋風はゾンダー=アスカの脚部に吹き付け、その足元を氷付けにした。
 足を地面に縫いつけられたゾンダー=アスカは、足を地面から剥がそうともがくが、凍った地面は頑としてその足を離そうとはしなかった。

 「よし、良くやったぞ氷竜」
 「どういたしまして隊長」
 「行くぞ! うおぉぉぉぉぉ!!!」

 ガオガイガーは動きの取れなくなったゾンダー=アスカにダッシュで駆け寄った。
 ガオガイガーの右腕が凄まじいスピードで回転を始め、ゾンダー核のあると思われる胸部に伸びる。
 しかし、その拳はゾンダー=アスカには届かなかった。
 直前、ゾンダー特有のバリアーが展開されると同時にアスカの心の壁が張り巡らされ、さしものGパワーでもそれを打ち破ることが出来なかったのである。
 拳を弾かれたガオガイガーはバランスを崩しその場に転倒した。
 その隙を見逃すアスカではなかった。
 突然ゾンダー=アスカの青い両眼が輝いたかと思うと、そこから破壊光線がガオガイガーに発射されたのだ。
 しかし、ガイもそれを予期していたのか、すかさず左腕を振り上げると声を張り上げた。

 「プロテクト・シェード!」

 破壊光線は眼前に展開されたプロテクト・シェードによって阻まれ、五芒星の様に発光した。
 それが臨界点に達した途端、ゾンダー=アスカから撃ち込まれた破壊光線がそのままゾンダー=アスカに弾き返されたのだ。
 さしものアスカの能力でも予想も出来なかった反撃にたじろぎ、もろに顔面で受けてしまった。

 「良し! 今だ!」
 「ダメです隊長、避けて下さい!!」
 「ナニ!?  うわぁーっ!!」

 至近距離で激しく交わされた光線兵器の応酬に、ゾンダー=アスカを縛り付けていた氷の戒めが緩んでいたのだ。
 不用意に近寄ったガオガイガーの胸ぐらに、ゾンダー=アスカが適当に放ったヤクザキックが炸裂した。
 無造作に蹴り飛ばされたガオガイガーは、ヨロヨロと跪いた。

 「くそぉ、最早ここまでなのか」

 その時である。
 大きく跳躍した2機の機体が戦場へと飛び込んできた。

 「アスカァーっ!!」

 エヴァ弐号ゾンダー=アスカの前にエヴァンゲリオン初号機に乗ったシンジが立ちはだかった。
 初号機を見たゾンダー=アスカは初めてためらうような仕草を見せた。

 「シ、シンジ…」

 ゾンダーにされる前にもっともアスカの心に刻まれていたシンジに対する悔恨の想い。
 それが今、ゾンダーとしてのアスカを縛っていた。

 「アスカ、もう大丈夫だよ。ボクが君を救って見せるよ」
 「シンジィ…、うっうっう…、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 突然悲鳴を上げたゾンダー=アスカは天空を睨み、暫し絶叫を続けていたが、その絶叫が静まると静かに正面の初号機を見た。
 その瞳は真っ赤な光を放ち、歪んだ嗤いを浮かべていた。

 「私から何もかも奪って行くクセに、偉そうな口をキクナァァ!」

 ゾンダー=アスカはエヴァ初号機の顔面を殴りつけた。
 シンクロ率80%を越えていたシンジにもその激痛は伝わっていた。

 「うわぁぁっ!!」

 通信機を通じてその叫びは響き渡った。

 「碇くん」
 「シンジ君」
 「シンジ!」

 「それに乗っているのはシンジ君なのか? 無理だ、今きみは骨折しているんだろう。」
 「大丈夫です。ボクはアスカを救わなくちゃならないんです。それに…ボクはスリージーの一員です!」
 「分かった、君をサポートしよう。しかし、残された時間は少ない。頼むぞ」
 「はい」

 シンジは初号機をゾンダー=アスカへと歩み寄せた。
 それを見たアスカは怯えた。

 「まだ来る、まだ来るの?! 止めてよぉ、もうなにもかもわたしから奪わないでぇ」
 「アスカ聞いてよ!」
 「イヤァ!」

 ゾンダー=アスカはエヴァ初号機の手を振り払った。

 「碇くん、下がっていて」
 「綾波」
 「ファースト」

 後方でシンジを援護していたエヴァ零号機が初号機を後ろに押しやり、プログレッシブナイフを構えてゾンダー=アスカの前に立ちはだかった。

 「綾波、ここは僕に任せて」
 「でも、ワタシは碇くんを守ることが任務だもの」
 「頼むよ綾波」
 「…………分かったわ」

 レイの乗った零号機は素直に初号機の後方へと引き下がり、パレットガンを構え直した。

 「フフフフフ、やっぱりアンタは嘘つきなのよ。本当はアタシのことなんか何とも思っていないクセに、アタシのことなんか何とも思っていないクセに、心配しているポーズしてたって周りの同情を買うためなんでしょう!」
 「違うよアスカ、僕の話を聞いてよ」
 「うるさい!」

 ATフィールドとは、そのパイロットが外界を拒絶する心が具象化したもの、心の壁なのである。
 今、アスカの心はゾンダー・メタルによって蝕まれ、その能力をゾンダーの物として奪われていた。
 シンジを拒絶するアスカから力を引き出したゾンダーは無敵のATフィールドを張り巡らせた。
 ゾンダー=アスカは大きく右腕を頭上高く持ち上げるとエヴァ初号機に叩きつけた。
 ATフィールドによって強化された指先は、初号機左腕部の拘束具を切り裂き骨を砕いた。
 エントリープラグの中のシンジは鈍く唸る激痛によって血の気が引き、吐き気がするほどだった。
 だが、辛うじてそれを無視し、とんでも無いことを叫んだ。

 「アスカが好きなんだ! ボクは今まで何もかもから逃げてきたんだ。でもここに来て、僕たち3人しか知り合いがいなくなって、これまでどれだけアスカやミサトさんに頼ってきたか思い知らされたんだ。もう誰も失いたくないんだ、ボクはアスカと離れたくない、アスカはオレが守るって決めたんだ!」
 「……バカシンジ」

 シンジの激白によってアスカの閉ざされていた心の壁にヒビが入ってきていた。
 だが、開かれようとしていたアスカの心はゾンダー・メタルによって再度蹂躙された。

 「いや、ダメ、シンジ逃げてぇ」
 「アスカ、正気に戻ったんだね!」

 シンジが不用意に駆け寄ろうとした瞬間、ゾンダーは今まで以上に烈しい攻撃を開始した。
 正拳突き、踵落とし、昇竜拳、古今東西アスカが拾得した格闘技の全てを用いてエヴァ初号機に攻撃が加えられた。
 シンジはATフィールドを全開にしてそれを辛うじて防ぐことが出来たが、機体に与えられていたダメージが大きく、そろそろ限界が近付いてきていた。
 その時、背後にいた零号機がパレットガンをゾンダーに向けて撃った。

 「綾波!」
 「ダメ。もう弐号機パイロットの意識は乗っ取られてしまった。助けたいのなら急がないと」
 「その通りだシンジ君。今しかそのチャンスはないぞ」

 それまで静観していたガオガイガー、氷竜、炎竜は、エヴァ零号機に続いて攻撃を開始した。
 実体弾、エネルギー弾入り混じっての攻撃にたじろぐゾンダー。
 レイ、ガイの言葉にシンジも覚悟を決めた。
 肩部武器パイロンからプログレッシブナイフを取り出し、アスカの姿を模したゾンダーに構えた。

 「アスカ、今ボクがそこから助けるから、待ってて」
 <うん、待ってる>

 一瞬、シンジの脳裏にそんなアスカの声が浮かんだが、精神統一し始めたシンジは気にせずにATフィールドをプログレッシブナイフの切っ先に集中すると袈裟懸けにゾンダーを切り裂いた。
 アスカの無惨な姿に一瞬息を呑むシンジだったが、あくまでその姿はニセモノの物であると思い直した。
 そして、切断面から覗く内部構造物から球体のゾンダー核を引きずり出した。

 「よぉしっ! あとは俺に任せろ!  ン !
 」

 破壊の右腕、守りの左腕から発せられるエネルギーを重合させる必殺技ヘルアンドヘヴン!
 だが、この必殺技には欠点があった。
 両腕からのエネルギーフィードバックがちょうどガイのいる胸部でぶつかり合い、パイロットであるサイボーグガイの生命維持機能を著しく侵害するのである。
 そのため、ヘルアンドヘヴンを放つまでの約一〇秒間、サイボーグガイは引き裂かれるような激痛の中で耐え続けなければならないのだ。

 「勝負だ!! ギルギルガンゴーグヴォー、セイヤァァァァァァァ!!!!!」

 ガオガイガーは緑色に光る両腕を前方に構え、ゾンダー核の抜き取られたゾンダーの体に叩きつけた。
 ヘルアンドヘヴンを受けたゾンダーの体は塵の様に粉々になりながら、最後の瞬間に爆発四散した。

 「さぁ、急いで脱出だ! 」
 「了解」

 ガイの声にディバイディングドライバーによって作られた戦場の中にいた全員、ガオガイガー、氷竜、炎竜、エヴァンゲリオン初号機、零号機は全力でそこから脱出した。
 その直後、固着空間(アレスティングフィールド)の消失により反発空間(レプリションフィールド)が収縮し消滅。
 川崎市市街地は元の状態に戻った。
 エヴァ初号機は夜光区にある水陸両用装甲車の前に跪いていた。
 その手のひらの上にはアスカが囚われたゾンダー核が置かれていた。
 シンジはエントリープラグをイジェクトし、ゾンダー核へと駆け寄った。

 「アスカー!」
 「お待ち下さい。シンジ隊員。迂闊に近寄るとゾンダー核に同化されてしまいます」
 「誰?」

 そこにはパープルの塗装とパトライトを付けたフェラーリF50が1台。
 そしてその中にはひとりの少年が座っていた。

 「私はGGG諜報部所属のボルフォッグです。マモル隊員、よろしくお願いします」
 「うん、分かったよボルフォッグ」

 ボルフォッグの中から出てきたマモルはゾンダー核へと近寄った。

 「ハァ!」

 マモルが気合いを入れると全身が緑色に輝き、背中から羽根が広がった。
 驚くシンジをよそに、マモルは空中に浮かび上がると呪文を唱え始めた。

 


 マモルの額に紋章が輝くと浄解の光がゾンダー核を包み込んだ。
 万華鏡のような光が辺りを取り巻くと、ゾンダー核は縮みはじめ、後にはひざまついた姿勢で滝のような涙を流しているアスカの姿があった。

 「アスカ!」

 シンジが嬉しさの余り声を上げた。
 アスカは涙を拭いながら辺りを見回していたが、シンジの顔を見ると飛び上がった。

 「シンジ、シンジシンジシンジシンジシンジシンジシンジィーっ!!!」
 「アスカ、むぐっ」

 アスカはシンジに抱きつくとそのまま唇を押しつけた。
 パニックに陥ったシンジは無事な右腕を振り回し目をシロクロさせた。

 「わっはあ!」

 浄解を解き、普通の姿にもどったマモルが顔を赤くしながらジーッと見ていた。

 「マモル隊員、見てはなりません、教育上許されざるものです」
 「えーっ、でもウチのパパとママは良くやってるよ」
 「それはおふたりがご夫婦だからです。未成年者がこのような、全く、

 うらやましい 
 」


 「どうしたの? ボルフォッグ」
 「いえ、なんでも」
 「恋人同士だったらいいってママが言ってたよ」
 「恋人同士ですか? 確かふたりは・・・。そのような人間関係ではなかったはずですが」
 「そうなの? でも」

 マモルはまだ唇を重ね合わせている二人を見た。
 シンジは必死で逃れようともがいているがアスカがそれを許さなかった。

 「ねぇ、シンジ兄ちゃん。アスカ姉ちゃんと、恋人同士じゃないの?」

 マモルが声を掛けたシンジは、その時目を回して(はにゃーんとなって)地面に座っていた。
 その目はうつろで、とてもマモルの質問に答えられる状態ではない。
 そのかわり満足そうに唇を舐めたアスカが質問に答えた。

 「モッチローン! 私とシンジはアツアツのカップルよ!」
 「アスカ姉ちゃん…」

 マモルは以前見たときのアスカとの違いに声を失った。
 まるで別人のように思えたからだ。
 実際、ゾンダー化以前以後でアスカの心には大きな変化が起こっていた。
 ゾンダーの活動源は人の心に発生するストレス物質を燃料に、ゾンダー核で活動用の動力源として利用している。
 その為、彼女のように激しくストレス物質を消費された被害者達の心は完全に癒やされ、特に彼女の場合は心の奥底で激しく主張を続けていたトラウマまでも完全に燃え尽きていた。
 理由はさておき、彼女の性格は大きく変化していた。
 勿論、それは彼女にとって幸いな事であった。
 その為にシンジの人生が多少振り回されたところで誰も気にしなかった。
 いや、ひとりだけレイ外がいた。

 アスカはマモルに向かって顔を赤らめながら言った。

 「そうねぇ、もしかしたら恋人とは言えないかも」
 「違うの?」
 「うん、だってさっきの言葉、うふふ。シンジのプロポーズの言葉は「君を一生守る」だもの、ふにゅ〜ん」

 自分の真っ赤になった顔を抱えて実に嬉しそうに顔を左右に降り続けるアスカを見て、既にマモルの目は点になっていた。

 「だからぁ、恋人じゃなくてフィアンセよ、キャン!」
 「フィアン…セ?」
 「うん、日本語で言ったら許嫁の事ね」
 「イイナズケ…」
 「そうそう、婚約者って事」
 「ええーっ! アスカ姉ちゃん、シンジ兄ちゃんと結婚するの!?」
 「ええーっ! ボクとアスカが結婚?」

 いつの間にか復活していたシンジがマモルの言葉を聞きびっくり仰天、赤い顔をしてアスカを見た。
 だが、アスカはシンジのその態度を見て不安感に襲われた。

 「ちがうの? シンジくん。さっきのアナタの言葉はうそだったの? 口から出任せだったんですかぁ?」
 「シンジくん? アスカ、一体どうしちゃったんだよ」
 「えっ、シンジくんじゃダメ? それじゃあ、・・・シンジ様とか」
 「シ、シ、シ、シ、シ、シンジって言ってよアスカ、いつもの通りにさ」
 「ハーイ、分かったわシンジ!」

 呆然、と云った感じでアスカを眺めていたシンジであったが、不謹慎にも内心では「病院で見て貰った方が良いみたい」と考えていた。
 だが、ニコニコと満面の笑みを浮かべてシンジを見つめるアスカを見ていると何だか心が安らぐシンジであった。




<後書き>
極少ない読者の方々、お待たせしました。
スーパーSF大戦・第8話「新たなるつわもの」です。
分かって貰えるとは思っていますがここで言う「つわもの」とは、今まで弱気であったシンジが自分の意志で勇者へと変わると云う事だったのです。
さて、この話でようやくLAS風味を加えることが出来るようになりました。
この話の設定はテレビ版を元にしていますので、ふたりをすんなりとLAS状態に持って行く訳には行かなかったのです。
勿論、完全にLASと言うわけではありません。
LRSもあるでしょう。何故なら作者がシンジ並に優柔不断だから、更にはLMSまで? (^^

さてさて、次回からはまた別の展開が待っています。
火麻檄参謀が向かった日本連合艦隊はどうなるのか、宇宙戦艦オルクスの地上工作員ナミ・ファランドールの命運は、そして日本列島を襲う数々の試練。
問題は山積みです。
ちなみに、数々の秘密組織を運用するための費用などの経済学的なことはこの話の中では一切無視しております。
でなけりゃ、金食い虫のエヴァンゲリオンは廃棄処分になってしまいますから。

皆さんのご感想、ご意見、ご要望をお待ちしております。
あの作品のあのキャラを出してくれ、とか、私の知ってる限り対応する予定です。






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