「そろそろ時間だな」
大河長官は多忙な中、Gアイランドのヘリポートに立っていた。
彼が東の空に目を向けると、灰色の空にポツンと一点の曇りが見えた。
Gアイランドにて一度は滅ぼされた筈の第5使徒との戦闘があった翌日、第3新東京市近くの双子山からTDFのマークを付けたヘリコプターがやってきた。
ヘリは着地と同時にサイドドアーを開けると中からスワン・ホワイト、碇シンジ、綾波レイに付き添われた担架が姿を見せた。
バネ仕掛けで跳ね上がっていたキャスター付きの脚が引き下ろされた。
その担架の上に乗せられたアスカ共々チルドレン達とスワンは、待機していた救急隊員によって専用車に乗せられ、慌ただしく走り出した。
ヘリポートにはヘリから降りてきた白衣を着たTDFの女性医療官がGGGの医療関係者とアスカの容態について簡単な申し送りを行っていた。
彼女は申し送りを済ますと、スタスタと大河長官の方へと歩み寄ってきた。
「初めまして、わたしはウルトラ警備隊のアンヌ隊員です」
「あぁ、この前の。あの時はどうも、大変助かりました」
「いいえ、お互い様ですわ。これからも共に地球の平和に貢献しなければなりませんもの」
「ところで、ウルトラ警備隊は戦闘部隊の筈では? 何故、あなたがここに?」
「はい。我々ウルトラ警備隊は各分野の精鋭を集めて創られた特殊部隊なのです。異星人の恒星間戦争のあらゆる状況に対応するための処置ですわ。ちなみに私は地球防衛軍極東支部第二医療室室長を兼任しております。」
「なるほど、納得しました。ところで、彼女の具合なのですが、如何な物ですか」
アンヌはその凛々しい顔に、険しい表情を浮かべた。
「実際の所、かなり厳しい状況です。彼女の精神は現在崩壊の可能性を示しています。彼女、肉親に対してコンプレックスを抱いているようですね。そして、その調査はされているとお思いですが、第三新東京市、あそこは彼ら三人の存在していた世界に非常に近い世界のようです。そのため、彼らの世界では死亡した筈の人物、彼女の場合母親だったようですが、その母親に会ってしまいショックを受けたようです。」
「それは、また不憫な事を…」
「ええ、ですから当分の間は健全な生活を送らせることが必要です」
「そうですな。彼らのような未来ある若者を守ることこそが我々の使命です」
「はい、以上が私の医者としての意見です。ですが、地球防衛の任務に当たる軍人としてはあの使徒と呼称される謎の存在に対抗できる彼らの存在を無視することは出来ません。しかも軍隊式の訓練を受けていたのが彼女らだけというのが理解できません、彼らの属していた組織、NERV、一体何を考えていたのやら、そこでひとつ提案があるのですが」
「なんでしょうか?」
「彼らに戦闘術を教えるため、ひとりの少年兵をこちらに派遣したいのですが、手を回していただきたいのです」
「少年兵、ですか?」
「ええ、身元はしっかりしています。幼少時から様々な訓練を受け地球防衛軍幼年兵学校でも抜群の成績を収めているエリートです。この任務には最適だと思われるのですが」
「しかし、私は彼らに戦いを強制する気はありません。あくまで彼らの自己の判断に基づいて地球防衛の任務に就いて貰う気でいますので」
「それについては恐らく問題はないでしょう。碇シンジ君の心理特性は把握してますので、彼が喜んで地球防衛に着く意欲を沸き立たせる様に、彼の好みにピッタリ仕上げて見せますわ」
「は? 好み、ですか」
「ええ、始めての任務に彼女も乗り気ですし、彼女の父親も承認しています」
「父親というのは?」
「ウルトラ警備隊の鬼隊長、キリヤマ隊長です。そしてその息女は彼らと同じ中学2年生の女の子です」
GGGは時空融合の直後、あらゆる方法を用いて世界中の組織に、現在の地球の状況を説明した。
それはつまり、GGGが日本政府直属の秘密軍事組織から公然の場に姿を表した事になる。
放送を傍受したありとあらゆる組織の中、地球防衛をその任務とする各組織、TDFやSCEBAI、光子力研究所、地球統合軍、地球帝國軍、G−FORCE、青、その他の組織がGGGにコンタクトを取ってきた。
しかし、国家権力を中心とした軍事組織は混乱と同時に近隣勢力との戦闘状態に突入していた。
現在の地球上では同時多発的に「戦争」が発生していたのだ。
だが、その裏に広がる闇の世界では、世界征服を策謀する秘密結社の数々がその爪を研ぎ澄ましていたのであった。
数日後、チルドレンの住居とカモメ第1中学校への編入が決まった。
しかし、アスカは未だに自らの内に閉じこもったままであった。
「アスカ…」
碇シンジはアスカの横たわっているベッドの横に座り、心配そうにその顔をのぞき込んでいた。
「碇くん、招集の時間だから、行きましょ」
「綾波、君はアスカが心配じゃないの?」
「勿論、心配はしているわ。でも、私たちには任務があるもの。」
「任務って、綾波はアスカよりも任務の方が大事なの」
レイはシンジの目を見た。シンジは気付かなかったがレイの瞳は傷ついた様子を浮かべていた。
「いいえ、でも私たちが彼らに協力しなければ、弐号機パイロットの保護を打ち切られてしまうかも知れない…。私たちに利用価値がなくなったら、誰が彼女を救ってくれると云うの? 」
「あっ! 」
―――――綾波の方がアスカのことを考えているんだ、ボクは表面的な心配をしている振りをしているだけなんだ。
なんて情けない男なんだ、オレって―――――(T T)
「ゴメン…」 m(_ _)m
「気にしてないから」 (・_・)
「わかったよ綾波。それじゃあ看護婦さんにアスカのこと頼んでから行くから、いいかな」 (^-^)
「別に構わないわ。まだ、時間には余裕があるもの」 (・_・)
「ありがとう」 (^O^)
「…何を言うのよ」 (*^-^*)
「感謝の気持ちだよ、綾波」 (^O^)
「そう、わかったわ」 (*^-^*)
素っ気ない言葉とは裏腹に、レイの顔には照れたような表情が浮かんでいた。
いよっ! 女殺し! 碇シンジ! (#-_-)凸
「エヴァンゲリオンの起動実験、弐号機パイロットは参加できないわね」 (・、・)
「仕方ないよ。アスカは病気なんだし、休養を取らなくちゃ」
二人はアスカの病室を後にした。
すると、クスリで眠っていた筈のアスカの瞳が天井を睨み付けていた。
「あ〜ぁ、私ひとりだけ除け者か・・。こんな状態じゃ仕方ないけれど……。畜生! 悔しいぃ! あのバカシンジに心配されるなんてぇ! 畜生ちくしょうチクショウ! 体調さえよければバカシンジやファーストに私が一番の実力を持っているって知らしめてやれるのに!」 (-_-#)
気ばかり焦るアスカは力の入らない四肢に渾身の力を込めて、身を起こそうとしたが上手く起きあがれなかった。
「はぁ、チクショウ。バカみたいね、わたしって。気持ちばかり空回りしてサ。エヴァとのシンクロ率もバカシンジに抜かれそうだし…。もう、ダメかも知れない。ハッ」 (- -;
アスカがその一言を何気なく呟いた瞬間、激しい焦燥感が彼女を支配した。
そのどす黒い情念は彼女の精神を一瞬で支配し、彼女の身体にまでキリキリとした胸の痛みと云う形で襲いかかった。
「イヤ、イヤ、イヤァ! エヴァのパイロットに選ばれたあの日から、私はエヴァのパイロットとして最高のエリートとしてぇ! チクショウなのにアイツはポッと出のクセに私より活躍し・・どんなに頑張ってきたのか何もかも、私だけを私だけが最高のエリートパイロットの筈なのにぃ……。役立たずなの、この私が、セカンド、2流の、ママァ、私これからどうすれば、イヤなの、ヘンなの、間違っているのよぉ。Der Irrtum........nein ach Gott.......!!!!!!!!!! ich der Dummkopfe. Schinji... Die Abneigung..」 [(@ @)]
完全に錯乱状態に入ってしまったアスカは、安全の為にその精神を心の奥へと逃げ込ませてしまった。
さて一方、碇シンジと綾波レイはGGG基地の地下深くにある実験場へと来ていた。
広大な実験室内には3体のエヴァンゲリオンが機体固定用の構造物によって固定されていた。
背面のアンビリカルケーブル用のコンセント部には緑色の光を発する動力源が固定されていた。
GGGの研究員たちはエヴァのアンビリカルケーブルに替わるエネルギー供給源としてGストーンを利用したジェネレイターを作成し、完全自律行動を可能にしていたのである。
これが後にエヴァの行動に影響を与えることになるとは、この時点では誰も思っていなかった。
その他にもシステムの変更点はあった。
エヴァの運用に当たって一番の問題点となったのが消耗品であるLCLであった。
LCLとはジオフロントの地下深くに存在したリリスより生み出された液体で、生体の生命維持及び衝撃の吸収。そしてパイロットの思考を拾いやすくする物であったのだが、LCLはエヴァに積んでいた物しか無く、人工的に複製することも出来なかったのである。
同じ様な働きを持たせた液体を化学的に作成することは出来るのだが、生体に対する刺激が強く、気管支等に強いストレスを与え気管支炎や肺水腫、中耳炎等の要因となることが予測できたため、その代用品として衝撃吸収材としての能力を持たせた液体をコクピットに充填することになった。
パイロットはコクピット中での呼吸用としてヘルメットを被り、呼吸用酸素を送気管から供給するシステムにしなければならなかった。
シンジとレイはプラグスーツの上にそのヘルメットを被りコクピットに収まっていた。
「綾波、どう? 感触は」
「問題ないわ。ただ、いつもと違う気がする」
「うん、エヴァとのつながりが薄くなった様な感じがする。それに鼻の奥にLCLが入ってきた時のツーンってのがないから楽になったかな」 (^-^)
「……血の匂い。しないもの……」 (・_・)
獅子王博士を中心とした研究者グループは、エヴァからサルベージしたデーターを元にエヴァの制御システムを再構築していた。
今回のシンクロテストはそのシステムが正常に動作するかの最初のテストである。
獅子王博士の正面にあるメインパネルにはエヴァの内部解析図と内部機構の制御模式図が表示されていた。
「それではこれからエヴァンゲリオン零号機および初号機の起動試験に入る。根豆くん、オペレーション第一段階へ移行してくれたまえ」
「了解しました。エヴァンゲリオンパイロット各位に伝達。これよりエヴァンゲリオン起動試験を開始します。ヘッドセット用コネクターのスイッチの確認をお願いします」
『わ、わかりました。え〜と、エ・エヴァ初号機、碇シンジ確認しました』
『零号機パイロット、問題ありません』
「了解、零号機および初号機の第一次神経接続を開始。エヴァンゲリオンとパイロットとのシンクロ率は30%,42%を示しています」
「ふ〜む…。音戸クン、パイロットに異常は出ていないかね?」
博士は二人のパイロットの体調を監視管理している音戸 奈之代(22)に確認を取った。
「はい、現在の所、異常は見られません、が、初号機パイロットに緊張による物と思われる心拍数の増加が見られます」
「試験に問題は?」
「ありません。むしろ零号機パイロットの方が普通ではないと思われますが」
「どういう事かね? 」
「はい、試験前後での環境の変化にも関わらず、一切の生理的変化が見られません。修行僧の様に強靱な精神集中による物なのか、それ以外の異常かは判別しかねますが」
「そうか、とりあえず試験は続行しよう。戌出(いぬで)くん、エヴァ中心部のブラックボックスに異常はないかね」
「はい、ブラックボックスと外界との通信が行われていることを確認しています。しかし、いずれも意味のない信号が検知されているだけです」
戌出 スワン(23)はエヴァンゲリオン内部に追加したセンサーを用いて、未知の動作をするコアの観測をしていたが、それはヒトの脳波から思考を抽出するのと同じくらい難解な作業であった。
「そうか、ではそろそろ第二段階へ移行しよう。根豆くん」
「了解しました。第二次神経接続を開始。エヴァンゲリオン本体とパイロットとの五感の交換を行います。香良洲さん、パイロットのシンクロ率を20%に制御、ヘッドセットのフィルターにコードを入力してください」
「分かりました。コード入力」
香良洲 和歌(25)はキーボードを叩き、コード入力を行った。
低域のシンクロ率から実験を開始するのにはこう云った意味がある。
シンクロ率が高域であればあるほど、エヴァが体感している情報を生でパイロットが受け止めてしまう。従ってエヴァに何か異常があった場合パイロットがダメージを受けることになってしまうのだ。
「それでは博士、これより五感の交換に入ります。よろしいですね」
「やってくれたまえ」
「了解、ではシンクロ率の高い初号機から実験に入ります。碇シンジ君、」
『ハ、ハイ』
「これから、エヴァンゲリオンとの接続に入ります。体をリラックスさせて感覚の変化に気を付けていてください」
『分かりし、・・ました』
「それではまず触覚から神経感覚融合を行います。香良洲さん」
「はい、感覚融合開始しました。」
「今回触覚は皮膚感覚を人間のスケールに調整しています。エヴァンゲリオンの脚部に掛かる圧力を人間がそのまま感じたら大変なことになりますので。また、今回は内臓感覚などの体内深感覚もカットしてあります。人間とエヴァンゲリオンでは体内構造が異なりますから。これは異性間の精神感応者の交感実験の結果からも回避すべき所です。」
「感覚融合、レベル上限に達しました」
「どうですか? 碇くん」
『は、はい。いつもと違って、ボクの体の方がぼやけている分、外の体の感覚がしっかり感じているって云うか、そんな感じです』
「ふぅん。なるほど、いつもとは違うっと。問題ありませんね? 碇くん」
『え、ええ(としか云えない質問の仕方だよなアレって)』
「それでは続いて味覚嗅覚に移ります。」
「了解、融合開始します」
感覚融合率が上昇するにつれモニターに表示されているシンジの表情が妙な具合に歪むのが分かった。
「大丈夫ですか? 」
『なんか、妙な感じです…ゲロゲロ』
「不快ですか? 」
『はい、かなり。下手な新製品の缶ジュースを一気のみしたような感じです』
「それ位なら大丈夫ですね、続いて聴覚に移ります」
「聴覚融合準備スタンバイOKです。融合開始」
「どうですか、異常はありますか、碇くん」
『いえ。ただ、いつもよりハッキリとモノが聞こえるのと、この格納庫内の音が一緒に聞こえてきます』
「それはエヴァンゲリオンの聞いている音です。問題はないようですね。それでは最後の視覚融合を行って下さい。」
「はい、視覚の融合を実行します。目眩を感じるかも知れませんのでパイロットは目を閉じていてください」
『分かりました』
香良洲の指示に従い、シンジは瞼を降ろした。
実のところいつものシンクロと違い、感覚の融合が進む度に自分自身の体の感覚の方が薄れてきていた。
その代わりにエヴァが感じている様々な情報がいつもと違い直感的に入ってきており、エヴァの体が自分の体になって行くような感じがしていた。
ふと、シンジは自分が瞼を閉じているのに周りの景色が見えている事に気付いた。
通常のエヴァとのシンクロではあり得ないことだ。
エヴァのパイロットが外界の景色を「見る」時には、脳内の視覚野にエントリープラグからの視点の映像を投影し認識しているのだ。
それはエントリープラグ内の自分の姿を同時に認識する様にし、混乱がないようにシステムを作っていたからだ。
しかし、今、彼の実の体はシンジの思い通りには動いてくれなかった。
その上、エヴァは機体固定具によって束縛されていたため、全くの不自由を感じていた。
「碇シンジくん、視覚の融合は終了しました。感覚の方はどうでしょう」
『…外の様子は良く分かります。でも、ボクの体の感覚がないんです。本当にボクは口で喋ってますか?』
管制室の面々は一斉に音戸に視線を向けた。
彼女は無言で首を振った。
「(シンクロ率20%でここまでの効果があるなんて思っても見なかったけど)まぁ、予想の範囲ですね。音戸さん、碇シンジ君の生体としての活動に異常はありますか?」
「いえ、身体の各所に異常は見られません。神経系にも問題無しです。脳波その他にも異常、見あたりません」
「では、予定通り起動試験第三段階へ移行したいと思います。博士、よろしいですね」
「ボクとしては碇シンジ君の意見を聞いてみたい。本人の同意なしにそこまで進めては問題だよ」
「(フン、自分の息子をサイボーグにした人間にしては気弱なセリフね (-_-#) )そうですね。シンジ君、これからシンクロ率を上げてエヴァンゲリオン初号機の起動実験第三段階へと入ろうと思うのだけど、良いわよね」
シンジは根豆 美菜野(29)主任研究室長の(半分以上強制的な)提案にしばし逡巡したが、アスカの病室での一件から「逃げちゃダメだ」と思い直した。
『分かりました。やります。ただ綾波の実験はボクの試験が済んでからにして欲しいんですけど』
「ええ、それは構いません。まずは有効なデーターを取ることが優先されますから。エヴァンゲリオンだけが使徒に対抗出来る唯一の実戦的な兵器なのですから、その専属パイロットの意志は優先されます」
根豆は獅子王博士に視線で許可を求めると博士は頷き返した。
「それではエヴァンゲリオン初号機起動試験第三段階に移行します。碇シンジ君のシンクロ率を30%までアップ。ヘッドセットフィルター抵抗を軽減して下さい。」
「了解しました。コード入力、シンクロ率30.02%にアップ。」
「初号機パイロットの脳波、心拍数、その他に異常なし」
「シンジ君、これからエヴァンゲリオンを固定している設備を外します。問題ないと思いますが転倒などしないように注意して下さい。それでは兎羽さん固定具を除去して下さい」
「はい、第1第2ロックボルト除去、第1支柱ブロック移動開始」
エヴァを固定していた数々の固定用具が外されて、それらは自動的に格納庫の隅に片づけられていった。
シンジは突然体の自由が戻ったことを知った。
そして、初めてエヴァに乗ったときのような違和感を感じながら首を下の方に傾け、地面を見た。
くらっ
シンジは自分の視界がグルッと回るのを感じていた。
ドシーン! とデカイ音を立ててエヴァ初号機は床にヘタり込んでいた。
「何が起こったの!?」
「分かりませんが、シンクロ率に異常は発生していません」
「エヴァンゲリオン各部、異常なし」
「初号機パイロットに障害は発生していませんが、軽い貧血状態になっているようです」
「貧血? 碇シンジ君!」
『ハイ、スミマセン。ちょっと下の方を見たらあんまり高いところに立ってたんで立ち眩みしちゃいました。高所恐怖症気味じゃないんですけど50メートルも下があると、…思わずクラクラっとしちゃって、』 (^^;
「なるほどのぉ、こいつは迂闊じゃったわい!」 (^.^)
「迂闊じゃスミマセン! よくそれで今までエヴァンゲリオンを操縦出来たわね」 (-_-#)
『えーっと、いつもはコクピットに座って操縦してましたから、でももう大丈夫です。エヴァの視点に慣れましたから。』 (>_<)
「なるほど、分かりました。そこら辺については後日レポートで提出して貰います」 (-_-#)
『レポートですか、余り得意じゃないんですけど』
「う〜ん、まだ中坊じゃ仕方ないかな。分かりました。後日、音戸の質問に答えてくれれば構いません。それでは機体連動試験に入ります。よろしい?」 (-.-?
『はい、構いませんが…』(’.’;
『大丈夫、碇くん』 (・_・)
『綾波、うん 大丈夫だよ。ありがとう』(^^)ゞ
『(///・ ・///)問題ないわ』
『そうだね、綾波』
シンジがレイと会話を交わしていると管制室から不機嫌そうな声が伝わってきた。
「はいはい、私語は慎むこと。それでは碇シンジ君、エヴァンゲリオンを立ち上がらせて頂戴」
『分かりました』
そう言うとシンジはエヴァを立ち上がらせた。
いつもみたいにレバーを引きながら、客観的にエヴァが立ち上がるイメージを思い浮かべる必要はなかった。
自らの体を動かす様に気軽な感覚でエヴァは立ち上がったからだ。
「結構です。それではこれから流れる音楽に合わせてエヴァを動かして見て下さい。」
『って言われてもボク、ダンスなんて出来ません』 (`.’;
「大丈夫、貴方なら出来るわ。ミュージックスタート」
根豆が合図すると格納庫内のスピーカーから「ラジオ体操第1」が流れてきた。
「あー恥ずかしかった」 (//’_’//)
エヴァ起動実験が終わったシンジとレイはプラグスーツから学生服に着替えて休憩室にて休憩を取っていた。
開口一番、シンジの口から出てきた言葉が冒頭の物であった。確かにアレは恥ずかしいだろう。
ちなみにレイと零号機は起動試験までで、機体の連動試験は後日執り行うことになっていた。
「ねぇ、綾波」
「なに?、碇くん」
「帰りにアスカの病室に行きたいんだけど、いいかな」
「構わないわ。彼女、元気になればいいわね」 (・_・)
「うん、そうだね」
シンジとレイは彼らに用意された集合住宅に行く途中、買い物の前にアスカの病院による事にした。
アスカは宇宙開発公団直属の総合病院に入院していた。
1階の自動販売機コーナーの前を通りかかった時、シンジがレイに声を掛けた。
「あ、ねぇ綾波。ジュース飲まない?」
「ええ、構わないわ」
「それじゃあ何にする」
「わたしはコレがいい」
そういうと彼女は野菜ジュースのボタンを押した。
「あはは、綾波らしいや」
「そう? 赤木博士が言ってたの、体に良いって」
「へぇ、リツコさんが。じゃあボクも付き合うよ」
シンジは野菜ジュースの隣のボタンを押した。
レイはその缶ジュースを怪訝そうな顔をしながら見つめていた。
「それ、私のと同じじゃないわ」
「え、えっとさ。野菜ジュース、苦手なんだ匂いが。だからトマトジュースにしたんだけど・・ゴメン」
「別に、気にしてないから」 嘘を付いたのね (-_-#)
「うっ、(目が怖いよ綾波 (T T)
)じゃあアスカのお見舞いに行こうか」
「ええ、…先に行っててくれない? 」 (・_・)
「なんで? 一緒に行こうよ」 (^^?
「トイレに行きたいんだけど。いけないの?」 (・_・)
「えっ! ゴゴゴ、ゴメン!! あっ、じゃあそのジュースもボクが持っててってるから、先行ってるね」 (^^;
シンジは焦りまくった口調で慌ててレイの手から缶ジュースをもぎ取るようにしてあっと言う間に消え去った。
彼女はそれを黙って見守っていたが、 ニヤリ('ー')
。
さて、シンジはあっと言う間にアスカの病室の前に立っていた。
「はぁ〜。綾波って恥ずかしげもなく言うから焦っちゃうよ。はぁーっ恥ずかしかった。さて」
[惣龍 アスカ ラングレー]
病室に掛かっている名札には確かにそうあった。
「アスカ、入るよ」
シンジはベッドの上を見た。
しかし薄暗い部屋のベッドの上には薄い毛布が掛かっているだけでアスカ本人の姿がなかった。
「どうして?」
彼が振り返ると薄暗い闇の中に学生服のアスカが暗い表情で立っていた。
「どうしてアンタなんかがアタシよりもエヴァを上手く使えるわけ?」
彼女の能面の様な無表情を見たシンジは声を出すことが出来なかった。
「アンタなんかよりアタシの方が訓練を受けているのに、エヴァを使えるエリートに選ばれたのはアンタなんかよりアタシの方が先なのに、アンタなんかより苦しい訓練に明け暮れてきたのに、賛美を浴び続けてきたのはアタシなのに、アンタなんかじゃ耐えられないくらいの激しいスケジュールをこなしてきたのに、アンタなんかじゃ耐えられないほどの努力を続けてきたのはアタシなのに! 何故フラッと現れたポッと出のアンタなんかがアタシよりも良い成績を上げられるのよ!」
彼女はシンジを睨み付けながら激白した。
「アタシが一番の筈なのに」
シンジはこれまで彼女が見せたことのない一面を激しく感情をほとばしらせながら当たり散らせている事に当惑し、混乱し、戸惑っていた。
「アスカ?」
シンジはアスカの様子が尋常でないことに気付き、健気にも彼はアスカを励ますのに最も有効な言葉を探そうとした。その結果は、最低な物となるのであるが。
「答えなさいよぅシンジィ。シンクロ率、そして何よりも使徒の撃破数、無敵のシンジ様はどうやって世界最強の人間になったのかを」
彼は彼女の意外な指摘に動揺した。彼自身にはその様な自覚は一切なかったからだが。
「碇司令の贔屓なの? それともミサト? どうやって取り入ったか知りたい物だわ」
彼は彼女の彼に対するいわれのない非難に頭に血を上らせた。
「父さんは関係ないだろう! それに第一、なんでボクが贔屓されなきゃなんないんだよ。あんなエヴァの操縦なんかどうだって良い事じゃないか」
それはアスカの逆鱗に触れる一言だった。それは彼女のプライドの大前提となる事を根底から崩壊させる物であったからだ。彼女が最も誇りに思っている事を彼は全く意味のない物だとしか認識していないと言うのだ。「彼女」が望んで努力し手に入れた物をあっさりと奪い取った「彼」がだ。
彼女の言葉は怒りに震え、後半の方が掠れてしまい他人に聞こえるように発せられる事はなかった。
「アスカ、せっかく元に戻ったんだから静かにしてた方がいいよ」
シンジとしては、いきなり静かになったアスカを宥めようと穏やかな声で彼女に語りかけたつもりであったのだが。
「許さない。アタシはアナタを絶対に許さない。」
彼女は目尻に涙さえ浮かべ、殺人的な視線でシンジを睨んでいた。
「どうしたんだよアスカ」
「さわらないで! そうでないと」
シンジは右手をアスカの肩に伸ばす。
「アスカ」
「触るなぁぁ!!!」
破壊衝動を伴った暴力的な気分に支配されていたアスカは躊躇う事なく、否、むしろ喜んで右手をシンジのみぞおちに沈めていた。
突然の衝撃にシンジは悶絶しながら崩れ落ちた。
「アンタが悪いのよ、何もかも私から奪っていながらどういうつもりなの?
どういうつもりなのかって訊いているだろ! ハッキリ言え!
」
床にのたうち回っているシンジにアスカは容赦のない蹴りを叩き込んだ。
蹴りがシンジの肉体にめり込んだ瞬間、言い様のない感触が彼女の心を走った。
もはやうめき声すら上げずに苦しむシンジにアスカは苛ついた。
「言いなさいよ!」
続けざまに蹴りをシンジに喰らわせるアスカは、心に溜まり続けていたドス黒い不快感が白く染まっていくような快感を感じていた。
もはや、シンジに対する憎しみからではなく、その感触を得るためだけの為に彼女は腕を振り上げ、足を振るい続けた。
シンジは全身に与えられ続けた打撃のため既に意識を失っていたのだが、アスカの使徒と戦うために鍛えられた格闘技術は容赦なくシンジに振るわれた。
そして、