時空融合してしまった地球。
様々な世界がモザイク状に組み合わさってしまい、静止衛星軌道上に現れた次元の壁(相剋界)によって宇宙空間への道が閉ざされてしまった。
地球上では、様々な世界から現れた国家、団体がモザイク状になった地表に出現していた。
大は連邦国から小は研究所まで、その数は数百にも及んでいた。
それらの世界の中はそれぞれ様々な特徴を持つものも多く、特に人型兵器の開発に成功している世界が多く含まれていた。

さて、相剋界の外では白銀の鎧をまとった真紅の巨人が白い壁に覆われた地球を観察していた。
元々戦争を行っていた世界が多く、時空融合の混乱と共にその戦火が飛び火し、更に混乱に拍車を掛けていた。
彼の正義の心は、この混乱を鎮めるべく訴え掛けていたが、相剋界内に実体を保ったまま侵入することは不可能であった上に、彼の立場がそれを許さなかった。
彼は「恒点観測員340号」、公務員である。

彼は惑星上を走査した。
そして、目的に合致するひとりの人物を発見した。
彼は精神感応能力を用いその人間に声を掛けた。

その日、初野 あやめは突然の休校によって空いた時間に、海岸縁にあるオバさんのレストランに来ていた。
彼女はTVの正面の机を陣取っていたが、時間になっても目当てのTVは始まらなかった。

「なによ〜! FMWの中継は〜!? 報道特番なんてどうだっていいでしょ〜!! プロレスプロレス! プ〜ロ〜レ〜スやれー!!!!」

あやめは台の上に乗っていたTVを掴んで揺すりだした。

「あやめちゃん、テレビ壊れちゃうよぉ」
「ハナちゃん、プロレスが中止になったのよ! ボンバー死神の大暴れを楽しみにしていたのに〜!!」
「やってないのはしょうがないよぉ」
「ちぇっ、外に出て空気吸ってくるわ」
「あやめちゃん、宿題は?」
「あ〜と〜で〜」

彼女はテラスに出ると空を見上げた。
その空は、昨日までの物と様子が変わっていた。
全体的に霧状のフィルターが掛かったかのように白くぼやけていた。
しかし、星の輝きは変わらず地表に降り注いでいた。
空気自体は、人間のいない原始地球から流入した空気によって鮮烈なまでに澄んでいたが。
彼女は陽の沈んでいった方向に輝く金星を見つめた。

<・・・・・・ブツブツ・・・ ・・・BPPBPBBPPP・・・は・・の・・・あやめ・・・>

あやめは呼ばれていることに気付き、辺りを見渡すが誰の姿も見えなかった。

「誰よ! ブツブツと暗いわね! はっきりしなさいよ!」
<初野あやめ、いま地球は混乱の局地に立っている。私は君に力を借りたい、協力してもらいたい>
「何言ってるのか分かんないわよ、話があるなら目の前に来なさい」
<私は今宇宙から君にテレパシーで話しかけている。私はM78星雲からやってきた恒点観測員340号。ノンマルトの民の祖先を作り出した始祖民族のシア派と敵対していたスニ派の末裔、光の国の民である。>

あやめはなじみのない概念の羅列に頭が混乱したが、肝心の事は忘れなかった。

「それで、私に何をしろってわけ?」
<うむ、正義の戦いのために君の力を貸して貰いたい。そのために私の持つ能力を君に貸そう。>
「何故あなたが直接戦わないのよ!? 」 
<私は地球を覆う壁を越えることが出来ない。その為、地球に力を行使する代理人が必要なのだ。君の持つPHSを目の前にかざすのだ>
「これ?」

あやめは胸元から黄色と赤のツートンカラーの6角形がふたつ繋がったデザインのPHSを取り出し、目の前で構えた。

<デュワ!>

PHSから力場が発生し、あやめを包み込むと一瞬で彼女の姿を彼とよく似た姿に変えてしまった、多少女性的になっているが。

<これは!>
<これで君は地球の神にも匹敵する力と超能力を手に入れた。これで、人類を脅かす存在から人類を守るのだ、特に我々古代科学により生み出された「使徒」たちに備えよ。ただし、人類同士の抗争に手を出してはならない。その力は人類にとって諸刃の剣なのだから・・・>
<分かったわ、それで名前は?>
<こう名乗るのだ、「ウルトラセブン」と>


スーパーSF大戦 第4話
 かべのそとよりの声  <恒点観測員340号現る>



地球地表部の再配置が一段落した次の日、GGGは地球に何が起こったかの説明を全地球上のすべての組織、人間に向けて放送した。
それと同時に、すべての国家及び軍事組織に向けて武力行使を控え、対策会議の呼びかけを行ったが芳しい返事は未だに帰ってきていなかった。
そんな中、GGGの大河長官は様々な対応に追われているにもかかわらずエヴァンゲリオンのパイロット3名に直々に現在の状況を説明していた。

「以上の様に、現在地球の社会環境は激変してしまった。その為かどうか分からないが、現在の所、我々GGGの敵であるゾンダリアンの攻撃は受けていない。ま、不幸中の幸いという奴だな。何か質問はないかね?」

結構広い会議室には大河長官とエヴァパイロット3名。それとオブザーバーとして獅子王博士、アシスタントにスワン・ホワイトが付いていた。
エヴァパイロット達は学生服のまま机に着き、スワンに渡された資料をめくりつつ長官の説明を聞いていた。
誰ひとりとしてメモを取っていなかった。
アスカとレイはその必要が無かっただけだがシンジはただ単にメモを取ることを思いつかなかっただけだった。

「質問ならあるわ」
「どうぞアスカ君」
「第3新東京市はこの世界に来ているの?」
「箱根にあるという遷都された新東京市というアレだね。獅子王博士」
「うむ、君たちからその位置を知らされていたので、真っ先にそこに飛行機を飛ばして観察させてみたんじゃが、これがその写真じゃ、スワンくん」
「ハイ、ハカセ」

アスカは緊張した面もちで写真が投影されるのを待った。
もしかしたら、この世界には私たちだけが来てしまったのでは、来ていたとしても自分たちがこの世界に来た後に使徒の攻撃を受けてサードインパクトを起こしてしまったのでは? と云う懸念が頭から離れなかったためである。
スワンがコンソールを操作すると、巨大な壁掛けディスプレイに一枚の写真が写った。
外輪山に囲まれた芦ノ湖の周りに高層ビルが林立していた。
思わずシンジは声を上げた。

「あっ! 第3新東京市だ」
「なんだ、来てるじゃないの! 」

アスカはホッとした表情で歓声を上げた。

「でもこれでGGGにいる必要はなくなったわね。私たちには帰るところがあるんだもの。長官さん、連絡は取って貰えるんでしょうね」

ところが大河長官は困った表情を浮かべた。

「それが、連絡が取れんのだよ。君たちの所属している組織、ネルフに再三呼びかけてはいるのだがね」
「一応秘密組織だもの、それなら私たちを保護していることを知らせればいいわ」
「もちろん、それも含めてあらゆる方法を採っている。だが、ネルフという組織の痕跡も見つけることが出来ないのだよ」
「そんなわけないわ」

アスカは長官に食ってかかっていた。自分たちを戦力に引き入れるため嘘を付いているのではないかと疑ったのだ。
その時、綾波レイが呟くように指摘した。

「・・・・・・これ、おかしいわ」
「なによ、ファースト。第3新東京市に間違いないじゃないの」
「・・・・・・・・・・・・・」
「何が変だってのよ」
「兵装ビルが無いわ」
「あっ本当だ、アスカ、集光ビルも無いよ。どうやってジオフロントに光を送ってんのかな」
「バカ、シンジ余計なこと言ってんじゃないわよ。ボソボソ・・・機密事項でしょーが・・・」
「あっ、ゴメン」
「ゴメンて云うなって言ったでしょ!」 ギリギリ
「あ痛て! アスカやめてくれよ」
「アンタがバカだからよ!」
「えへんっ! 続けていいかな? おふたりさん」
「あっ! ゴメ、すいませんでした、続けて下さい。」

アスカは真っ赤になってしまった顔を正面へ向け、小声で呟く。

「シンジ、アンタタダじゃ済まさないからね」
「まぁ、そう言うわけで実際我々も困っているんだ。それで、君たちの要望を聞いておきたいと思うのだが」
「それなら、今すぐ第3新東京へ行くわ。エヴァも一緒に・・・って訳にも行かないか。移送手段がないわね。私たち第3新東京市へ行くわ。問題ないわよね、このまま此処にいたってGGGに協力できるわけでも無いんだし」
「そう言うだろうと思って、車を用意してある。スワン君頼んだよ」
「OKデース。よろしく頼みますデス、ミスアスカ、レイ、シンジくん」
「監視ってわけね。」
「No! あくまで護衛でーす。」
「フーン」

アスカは不審な目でスワンを眺める。
このスワンに護衛が務まるのか、と云った疑問の視線である。

「問題ありまセーン。これでも現役のアメリカ軍将校ですかラ」

スワンは自信たっぷりに答えた。

「えっ、GGGの職員じゃないんですか?」
「モチロン、そうでスよ、シンジくん」

シンジの質問にスワンは微笑みで答えた。
だが、アスカは何か閃いたようだった。

「ふ〜ん。なるほど、私たちの監視にうってつけって訳よね、GGGにとっても。普段はGGGの監視をしている人物がいない内にって訳ね」

アスカが皮肉のこもった視線で大人達を見ると、何の事やらと云った表情で平然と見返してきた。


「お待たせシマーした!」

3人のチルドレンはGアイランド直上の宇宙開発公団ビル前でスワン隊員を待っていたのだが、自動車から降りてきたスワンの格好を見て絶句した。
彼女はヘソだしノースリーブのシャツに尻がはみ出しているとしか思えない超ミニGパンと云った、非常に開放的な格好をしていた。
さすがのアスカも唖然とし、シンジに至っては顔を真っ赤にしたままボーッとしている。
レイはほとんど無表情のままだったが、微かに頬の辺りが桃色に火照っていた。

「あんたねぇ! 何なのよ! その破廉恥な格好は!」
「ホワァット!? ノープロブレムね。さぁ早く行きまショー」
「なんかかえって注目を浴びない?」
「フ〜ム・・・。そうでスかぁ〜?」

彼女は自分の姿を見渡してから、腰を捻ってしなを作ってみた。
あ・・・、シンジが鼻血を噴いて倒れた。
アスカはそんなシンジを情けなさそうな目で眺めると足でつついた。

「フン、情けない・・・。これでもノープロブレム?」
「モチロンで〜す。これでどんな敵でも一撃ネ」

スワンはアスカにバチッ!っと悩殺されそうなウィンクを返した。
「はぁ、そう。もうどうでも良いわ。これだからヤンキーは」

ってアンタもアメリカ国籍では・・・。

「それジャ、出発しまショー。クルマに乗って下さーい」
「コレ、どうするのよ。アンタのムネやらシリ見て気絶してるんだけど、このバカシンジは」
「オゥ、純情ボーイね。

ボソ・・可愛い子

 ゴクリ


<コイツ、マヤと同類?!>同人界のマヤさんですね。


「クルマの中に入れますので、手伝って下さーい」


アスカは鼻血を噴き出し幸せそうな顔をして気絶しているシンジを見て言った。


「気持ち悪い」

「手伝ってくれないト、シュッパツ出来ません」

「分かったわ。ファースト、アナタも手伝いなさいよ」

「ええ、分かっているわ」


3人は苦労してシンジをクルマの後部座席に乗せると、ようやく旅路についた。

とりあえず、小田原までの高速道路と有料道路に致命的な損害は発生していなかったため、それを利用することにした。

東名高速道路から厚木で小田原厚木有料道路に乗り換え、小田原で一般道に降りた。

そのまま箱根ターンパイクと云う手もあったのだが、山岳地帯の地殻変動等により危険な個所が発生していることが懸念されたので、比較的安全と思われる一般道路を選んだのである、もっともそのルートを選んだのはGGG内部で作成した慣性誘導式のカーナビであったが。

小田急と箱根登山鉄道共有の駅である箱根湯本駅のところで、急に周りの雰囲気が変わった。

特に人工物に顕著なのだが、急に1990年代から2010年代に感じが変わっていた。

よく見ると、箱根湯本駅の登り側(海側)は通常の2条レールであるのに対して、下り側(山側)の方はモノレール、いや、リニア用のレールが延びていた。

ここを境界線として第3新東京市はこの世界に融合したらしいことが分かる。

彼らの乗った乗用車は外輪山に囲まれた第3新東京市に入った。

彼ら3人にとっては奇妙に懐かしさを感じる景色であったが、どことなく違和感も感じていた。

スワンは公共の駐車場を見つけると、そこに自動車を駐車し、近くの喫茶店にチルドレン達と一緒に入った。

彼らはそれぞれ好みの飲み物を注文するとようやくと云った感じで一息入れた。

一服済むと、スワンがこれからの行動を切り出した。


「それではこれから自由行動としまース。ただし、如何なる事をしようとも必ず、エート今10:30ナノで18:00までにここに戻ってきて報告をして下さい。ここに残るにしろ、GGGに戻るにしろデース」

「いいわ、分かってると思うけど、シンジ時間に遅れるんじゃないわよ」

「分かってるよ、全くうるさいんだからアスカは」

「なんですって〜!」

「わたしはNERV本部へ行くから・・・」

「あっちょっとファースト待ちなさいよ!」

「綾波〜っ、アスカ〜、待ってよ〜」


3人のチルドレンは風のように去っていった。

それから10分後、安全が確保されたのを確認したのか、ひとりの女性がスワンの席にやってきた。


「GGGの方ですね」


その女性はスワンの正面の席に腰掛けるとスワンに質問した。

スワンは真剣な目つきでその女性を観察した。

ボブカットっぽい髪型をした一見して白衣の似合いそうな女性のようであったが、物腰の様子や雰囲気から軍事訓練を受けた人間であることが分かった。


「イェス。アナタが連絡のあったTDF(テラ・ディフェンス・フォース=地球防衛軍)の?」

「はい、ウルトラ警備隊のアンヌと言います」



3人は、いつも利用するNERVへの入り口に向かった。

町中の様子は、あんな事があったにもかかわらず案外、平和そのものと言った感じがした。

10分ほど歩き、地下ゲートの場所に着いたのだが、ゲートがある筈のそこはただの壁になっていた。

アスカは、壁の様子をじっくりと舐めるように調べていたのだが、つい最近塗り込めた様子もなく、歴然としたただの壁であった。

彼女は茫然とした様子で呟いた。


「どういうことなのよ、コレって」

「場所は、間違っていないよね」

「当たり前でしょ、わたしが間違えると思ってんの?」

「いや、そう云う訳じゃないんだけど。なんか変だよね」

「変なのはアンタの方でしょ」

「ボソ・・・アスカだって充分変わってるよ」

「アンタに言われたくないわ・・・(怒)。さて、次のゲートに行きましょう」

「・・・A−13ゲートが一番近くにあるわ・・・」

「ファーストが発言するなんて珍しい事もあるもんね。いいわ、それじゃ行きましょう」


アスカが来た方に振り返るとレイが右手通路の方に向き直った。


「そっちじゃなくてこっちよ」

「そ・・・、そんなの分かってるわよ! 全く!」


アスカは照れて赤くなった顔を隠すように先頭を切って歩き出した。

そして、次のゲート、そのまた次のゲートと探して回ったが一ヶ所のゲート、入り口も見つからなかった。


「どーなってんのよ! 全くぅーっ!」


12ヶ所目のゲート位置に来たがまたしても空振りに終わってしまった。アスカは地団駄を踏んで悔しがる。

ハッキリ言って目立ちまくっているアスカにシンジは慌てて言った。


「ほら、アスカ、あそこにマックがあるから、あそこに入ろう? ぼくお腹減っちゃってさ」

「ハァハァ。マック? そう、じゃあシンジの奢りね」

「えっ・・・? うん、分かったよ」

「アタシはビグマックのLLセットでイチゴシェイクね」

「・・・うん」

「・・わたしはアップルパイとフレンチポテトのLに紅茶、それにプリンで・・・」

「あ、アタシはアイスね!」

「とほほ・・・、分かったよ。じゃあ先に2階に行っててよ」


2人の少女は躊躇せずに2階席へと行った。

シンジが先の注文プラス、チーズバーガーセットを購入して2階に上がると2人は4人席に座って待っていた。

ちなみに、ダブルチーズバーガーと勘違いしていてチーズを一枚にしてくれと言って恥をかいたのは秘密である。

この時代では完全全席禁煙席である。

既に何組かのナンパを撃退していたらしく、シンジを睨む男共の視線が容赦なく突き刺さる。

アスカは腹が満たされると落ち着きを取り戻し、冷静に状況を分析できるようになった。

彼女はここの所、情緒不安定気味である。


「12ヶ所のゲートを見て回ったけど、どこにもゲートの跡はなかったわ。それに隠蔽工作の跡も見当たらなかった。どうも掴めないのよね。今は、・・・16:30か、まだ時間はあるわね。シンジ、家にいっぺん戻りましょう。ファーストも付いてくるのよ、いまバラバラに行動するのは得策じゃないわ」

「いいわ。碇クンの家・・・」

「ファースト! シンジの家じゃないでしょ、シンジは倉庫で寝起きしてるんだから良い所イソーローよ」

「チェッ、アスカが後から来たクセに」

「あ〜ら。無敵のシンジ様に大層ご無礼の段、失礼つかまつりましたわね。アンタ、こんな可愛い女の子に倉庫で寝起きしろっての? それとも一緒に寝たかったのかなぁ?」

「そんなわけ無いだろアスカ、いいよもう。勝手にしてくれ」

「ふふん、イジケちゃって。情けない奴ぅ」

「アナタがちょっかいを出したせいではないの? 弐号機パイロット」

「何よ、文句あんの? 優等生」


アスカとレイの間に緊張が走った。

アスカの口調が再度の爆発を予期させる物になったとき、彼らに声を掛ける者がいた。


「な〜んや、また夫婦ゲンカかいな。良くまぁ飽きンもんやなぁ。センセに明日香は」

「明日香、どうしたの一体。それに休みだってのに制服なんか着ちゃって」

「ふぅ、平和だねぇ。(って他にセリフはないのかオレは)」


彼らの横には相変わらずの黒ジャージを着たトウジとちょっと張り切った格好のヒカリ、ワンパな迷彩ルックのケンスケが立っていた。

しばらく茫然として3人を見ていたチルドレンだったが、シンジが店内に響き渡るほどの大声を出してしまった。


「トウジ! ケンスケ! 委員長! 3人とも無事だったんだね!」



「うわっ! なんやセンセ! そないなでかい声あげんかて聞こえよんがな」

「何だ真司、放送聞いていなかったのか? 今度の事件での死傷者は奇跡的だけどゼロだったんたぜ」

「本当? よかったぁ。それじゃミサトさんもリツコさんもみんな無事なんだ」

「コラッ!」


声と共に何かのパンフを丸めた物がシンジの頭上に振り落とされた。


「碇真司君? いくらわたしが美人の担任だからって美里さんは無いんじゃないの?」

「ブザマね」


驚いてシンジ達が声の方に振り返ると、生け垣の向こうから葛城美里が腕を組んで立っており、その向かいの席には赤木理津子が座っていた。


「ミサトさん?」

「真司君〜? 2度とは言わないわよ。美里先生、そうでしょ?」

「アスカ、そうなの?」

「わたしに聞かないでよ、訳分かんないんだから、ミサトの様子も変だし」

「惣龍明日香さん? 先生を付けなさい。美人な、でもいいけどね」


チルドレンは訳が分からなくなって言葉に詰まってしまった。

するとさっきからレイに視線を送っていた健介と桃児がシンジに言った。


「ところで真司、その女の子誰なんだ? ウチの学校の制服着てるけど校内じゃ見たことないし、オレのデータベースにも入ってないぜ」

「ハハ〜ン。分かったでセンセ、さっきケンカしとったんは、センセが転校生にナンパしてたんを惣龍にみっけられて絞られてたっちゅ〜訳やろ。図星や図星」

「えっ? 綾波が転校生?」

「せやろ、今まで見たことないオナゴがウチの制服着とるっちゅ〜事はや、転校生っちゅう事になるわけじゃ」

「何言ってんだよ、綾波だよ綾波、ウチのクラスの」

「いないぞ、そんな子。ほら、オレの完璧なデータベースを見てみても該当無しだぜ、ああ荒波って云う女の子だったらいるけど、1年生だな。コレは」

「綾波、ねぇ・・・。理津子、聞いてる? 転校生のこと」

「アンタねぇ、担任はアナタでしょう。わたしより詳しくなくてどうするのよ。まぁ私も聞いてないけど」

「えへへ、ゴミン、理津子」


いつもの調子でヘラヘラ笑っている美里と対照的にチルドレンは押し黙ったまま声も出さなかった。

委員長がアスカに声を掛けるが、アスカは何の返事も返さない。


「それじゃ明日香、私たち向こうの席で食べてるから・・・」

「ホイじゃあなセンセ」

「ごゆっくり」


数分の間無言であったが、アスカがボソッと呟いた。


「ウチに行くわよ、ファースト、シンジ」

「大丈夫かな?」

「行ってみなくちゃ分かんないわよ」


それを最後に無言でチルドレンはコンフォート17へ向かった。

高級マンションの例に漏れずフロアー入り口のセキュリティーがドアに掛かっていた、しかしセキュリティーロックはいつものナンバーであっさり開いた。

彼らはエレベータに乗って目的の階に着いた。

緊張しながらいつもの扉の前に立ち、鍵を開けようとしたが、それは既に開いていた。

シンジが先頭に立ち、部屋の中に入ると、そこにはエプロンを着けた見知らぬオバサン(ギロ!ドゲシ!オウチ!)お姉さんが立っていた。

彼女はさわやかな笑顔を浮かべながらシンジに言った。


「お帰りなさい、真司。あら、明日香ちゃんも一緒なの? それにえ〜と新しいお友達? それともガールフレンドかしら? 」 ニコッ!

「へ、部屋を間違えました! すいませんでしたオバサン」

「なっ・・・!?」


唖然とする碇 唯を尻目に硬く扉を閉じてシンジは廊下に出た。


「シンジ、誰だったのアレ?」

「分からないんだ。何か見たことがあるような気もするけど、誰だか知らない人だった」

「そう言えばファーストにどことなく似てる気がするわね」

「・・何を言うのよ。わたしはあんなにバァサンじゃないわ」

「キッツ〜い。ファーストって意外と怖い性格してるわね」

「あら、明日香、帰ってたの?今日は遅くなるって言ってたのに」


不意に声を掛けられたアスカは、恐怖と歓喜を呼び起こす聞き覚えのある声に気付き、恐る恐る振り向いた。


「どうしたの? ママの顔に何か付いてる?」


ひきつった笑いを浮かべるアスカの脳裏に、あの日の出来事、惣龍・キョウコ・ツェッペリンがブラ下がっている光景がフラッシュバックしていた。

微笑みを浮かべながら近付いてくるキョウコが首を締められた時の顔と、感覚が同調し、今が何処で誰なのかの判断も曖昧になってしまっていた。

イヤイヤと首を振り後ずさるアスカは再会の喜びと死への恐怖で涙が溢れていた。


「どうしたの明日香?」『大丈夫よアスカ・・・』

「イヤァ・・・」

「顔色悪いし、・・・何故泣いているの?」『・・・一緒に死んで頂戴』

「イヤア!」

「明日香?」『アァスカァァァァァ!!!!』




半狂乱になったアスカはエレベーターへと駆けて行く。


「アスカ!」


シンジとレイは彼女を追った。

ちょうどタイミング良く開いたエレベーターにアスカが飛び乗るとすぐに扉を閉めるが、シンジが体を扉に割り込んでレイ共々中に入り、1階へと下っていった。

響子が茫然としているとアスカの絶叫を聞きつけた唯が扉から出てきた。


「なになに? どうしたの響子」

「わたし、何かしたのかしら、あんな明日香・・・始めてみたわ・・」

「思春期だから・・・? そういえば真司も何か変だったわね。私のこと、オバサンなんて言うし」

「あら、でもオバサンには違いないし」

「何よ響子。それを言ったらアンタだってオバサンでしょ」

「オホホホホ、私はまだ『明日香の姉ですぅ』って言えば学生料金で映画館に入れるわよ」

「それって若作りのオバサンが怖くて思わず入れちゃったんじゃないの?」

「アラ、やけに突っかかるじゃないの」

「そっちこそね」

「フフフフフ」

「ホホホホホ」


見事に脱線しているが、このふたりはそれぞれ第3新東京大学で良識ある教授として有名だった。

しかし、高校の時から親友として過ごしてきた為、両者の間には遠慮のかけらもなかった。


1階に降りたエレベーターの中ではアスカが縮こまったまま冷や汗を流し、一点を見つめたままガタガタと震え続けていた。


「アスカ、アスカ! 大丈夫なの、アスカ!」


シンジは固まったままのアスカの両手を広げようと力を入れたが、レイに止められた。


「ダメ、いまの彼女にそんなことをしたら後に残るような障害が起こるかも知れない。関節を上手く使って動かさないと」

「どういう風に、するの?」

「肘関節のここの部分を、コウ押して腕を引けば筋や腱を傷めずに済むわ」

「こう?」


シンジがレイの言う通りやってみると意外とあっさりアスカの腕をほぐすことが出来た。


「うわっ本当だ、凄いな綾波って。なんでも知ってるんだね」

「そんなこと無い。本に書いてあっただけだもの」

「それでも凄いよ。本で読んだだけで出来るなんて。尊敬しちゃうよ」

「・・・何を言うの・・・私が手伝うから、碇くんは弐号機パイロットを背負ってくれる?」

「えっ、うん良いよ」

「屈んで」

「はい。どうぞ」

「行くわ、う〜ん」


レイが力の限りアスカを抱え上げ、シンジの背中に乗せた。


「?!」


背中が嬉しいかシンジ、羨ましい奴。

ともあれ彼らはとりあえず近くの丘の公園に向かった。

既に陽は落ち始め、夕陽が辺りを黄金色に染め上げていた。

意外と重く感じるアスカに、背負ったシンジはヨロヨロと歩いていた。

他の人から見たら微笑ましい感じに見えただろう。

現に彼らを見て噂している中学生2人の男女がいた。


「ねぇ、見てみて真司ィ。ほら、あそこの二人。なんかラブラブモード全開って感じじゃない?」

「あっ本当だ。背負われてる彼女も結構美人だし、」

「・・・ねぇ真司、デートの帰りにもう浮気?」

「ち、違うよ。って今日のデートだったの? 」

「あのねぇ、私がこれだけ気合いの入った服でおめかししたのよアンタの為に。まぁ他の女子にも人気あるしねモテモテシンちゃんは。美人な幼なじみじゃ飽きたらず他の女の子にも色目使いしてさ。今の子とか」

「違うよ。いまの子、髪の毛が黄金色に染まってて明日香みたいだなぁって思ってさ」


それを聞いた明日香は夕陽よりも顔を赤く染めた。


「そうね、背負ってた男の子も真司に似てたし、・・・! そうだ、ねぇ真司ィ」


明日香の顔は良いこと考えた! と云う思いでニマァとなった。

長いつき合いの真司は彼女がその笑いを浮かべたときに受けた数々の迷惑を思いだし、戦慄が走った。


「な、なに、明日香」

「おんぶして」

「えっ?」

「だからぁ、さっきの子みたいにおんぶしてよぅ」

「だって明日香って意外と重いし」

「! なんですってぇ!」


バッチィン!!


「だってこの前の家族会の時、明日香、ワインを4杯も飲んじゃって床に寝ちゃったじゃないか。憶えてないと思うけどあん時ベッドまで明日香を運んだのボクなんだよ」


真司は憤懣やる方なしって感じで言ったが、明日香は何故か赤くなりながら告白した。


「知ってる。だって、本当は目が覚めてたし」

「えっ、・・・」ドキドキ

「だから・・・その後真司が私に何したのかも知ってるし・・・それに、叔父様達も知ってるわ」

「ええっ!」

「真司は気付いてなかったけど、戸の隙間からみんな覗いてたわよ。叔父様なんかビデオ廻してたし」

「えええっ!」


真司はそれを聞いて愕然としていたが、明日香は小悪魔的な笑みを浮かべていた。


「だから、観念なさいね。真司!」 ニマ!

「ハイ・・・」


ああっ哀れ真司、君の未来は既に彼女の手中にあったのだ。


「でも、誰かに見られたら噂になっちゃうよ。」


真司は僅かな反撃を試みたが、


「良いじゃない。させまショ、ウ・ワ・サ」


彼女の計算尽くの行動の前にあえなく撃沈した。

真司は明日香を背中に乗せるとそのまますんなりと歩き出した。

あちらのシンジよりもガッチリとした体格のため、明日香の体重をしっかりと支え、シッカリとした足取りで歩くことが出来た。

その光景をしっかりと撮影している者がいた、碇 源道その人である。


「真司、男になったな。父さんは嬉しいぞ。なぁ唯」

「ええっ全くですわアナタ」


平和だねぇ。



しかし、こちらは平和どころではなかった。

夕闇迫る公園のベンチにアスカを横にしたシンジとレイは途方に暮れていた。

アスカの瞳は緊張により極限まで絞られ、全身から冷や汗が流れ続けていた。

肌は青白く染められ、全身が緊張により硬直し、口からはうわ言のような呟きしか漏れてこなかった。


「・・・・・・・ママ・・死ぬのはイヤ・・・死ぬのはイヤ・・・・・・イヤ・・・死ぬのはイヤ・・・・」


シンジとレイはそんなアスカを見ているしかなかった。


「アスカ・・・どうして、こんな事になっちゃったんだろう・・・、どうしよう綾波」

「碇くん、あの人から貰った携帯電話、持ってる?」

「え、スワンさんから貰った、持ってるけど」

「それであの人を呼んで、私たちの行き場は・・・もうあそこしかないもの」

「・・・・・うん、そうだね綾波・・・」


シンジは懐から携帯を取り出すと、登録No.1をボタンした。

呼び出し音が6コールほど続くと受話器を取る音が聞こえた。


『ハァイ、フロムスピーキング バイ スワンで〜す』

「ボク、シンジです」

『Hey シンジ! 約束の時間は過ぎてるデ〜ス。契約違反は厳罰デ〜ス!』

「あ、ごめんなさいスワンさん・・・。それよりお願いしたいんですけど」

『What’s?』

「アスカが・・・」

『ンフン?』

「アスカが、・・・その・・・今動かせないんです」

『怪我でもシたのですか』

「いえ、その、怪我じゃないんですけど。亡くなったお母さんみたいな人にあったら急に、壊れちゃって」

『今行きまス、場所はドコですか?』


スワンの口調はそれまでの明るい物から緊張感の漂う物にガラリと変わった。


「丘の上の公園ですけど、・・・場所分かりますか?」

『携帯電話のスイッチを切らなければ、発信をたどれますカラ、そのままスイッチをオンしていて下さい』

「ハイ、分かりました。よろしくお願いします」

『今行きますデス』


シンジは携帯の設定をハンズフリーに変更すると、アスカの寝ているベンチに立てて置いた。

ハァ・・・、シンジは溜め息を付いてアスカを見た。

夕陽は既に山の向こうに沈み、辺りはすっかり薄暗くなっていた。

昼間あれだけうるさかった蝉の声も今ではすっかり静まり返り、それに代わってコオロギたちの声が高らかに響いていた。

山の上に位置する箱根だけに、急速に気温が下がり始め、冷や汗をかいているアスカの体温を容赦なく奪っていった。


「碇くん、ハンカチ持っていない?」

「あるけど、」

「弐号機パイロットの汗拭くから貸して・・・」

「あ、うん。頼むよ綾波」


レイはハンカチを受け取ると、シンジに頷いた。

レイがアスカの体に触れると、体温を奪われた肌は氷のように冷たくなっていた。

彼女はアスカの肌に浮かんだ汗をハンカチでゴシゴシと擦るように拭き取っていった。

その甲斐があったのか、少しはアスカの血色は良くなっていた。

多少はマッサージの効果があるようだったが、次々とアスカの肌から汗が浮いてくるので、それも焼け石に水であった。

しかもアスカの滑らかな肌に擦り傷が目立つようになっていた。


「綾波、ボクも手伝うよ。」


アスカ、気が付いたら怒るだろうなぁ。とは思いながらアスカの腕の辺りを擦り始めた。


「どうかしたのか?」


2人がアスカの手当をしていると後ろから声を掛けられた。

二人が後ろを振り返ったが、あいにく街灯は近くになくその辺りは薄暗くなっていた為、その姿はよく見えなかったが、仲の良い夫婦が散歩の途中に立ち寄ったと云った感じだった。


「どうした? 何かあったなら早く言え」


シンジは知っているような口調に既視感を覚えたが、構わず言った。


「あ、はい。なんか彼女ショックを受けたようで、・・・」

「うん? それは大変だな」

「アナタ、何ですかそれは、どうしたの? 大丈夫?」

「いえ、大丈夫じゃないですけど、もうすぐ迎えが来ますので直ぐに病院に連れていけると思います」

「そう、なら良いけど。アラ大変、凄く寒そうじゃないの。コレ使って頂戴」


そう言うと女性は羽織っていたカーディガンをアスカに掛けた。


「ほら、アナタも」

「うむ」


女性はその夫を促すと夫はジャケットをその上に掛けた。

するとかなり楽になったのか、アスカも様子も若干楽になった感じがした。


「迎えは直ぐ来るの? 何だったら救急車呼びましょうか?」

「いえ、いいんです。それにちょっと訳有りで」

「そう・・・。他に何か手伝えることないかしら」

「いえ、大丈夫です。あっ来た!」


彼らの乗ってきた自動車が公園の車止めを吹き飛ばし園内に侵入してきた。

シンジは二人から借りた服を返そうとしたが、妻にやんわりと断られた。


「使ってちょうだい。そのままじゃ彼女凍えちゃうでしょ。いいわよねアナタ」


夫はサイフをズボンのポケットに移していることを確認すると言った。


「ああ、問題ない。使ってくれたまえ」

「もう、いつも愛想がないんだから。あ、そうそう、返さなくてもいいからね。お大事に」

「ありがとうございます」


シンジは思わぬ親切に涙を流してしまった。


「ほら、綾波も」

「ええ、碇くん。・・ありがとう」

「いいえ、構わないのよ。碇くん?」

「あ、僕の名前です」

「アラ奇遇ね、私たちも碇って名前なの。珍しい名前だから、出身地が一緒なのかもね」

「そうですね」


その時、スワンの運転する自動車が彼らのすぐ脇に止まった。

彼女は運転席から飛び出すと後部座席のドアを開き、トランクから毛布を取り出すとそれを掴みながらシンジ達の方へ駆け寄った。

「シンジ! 直ぐ乗って下さい」

「ハイ、スワンさん」


スワンはアスカを掲げ上げるとふたりにアスカを挟んで座るように指示した。

クルマに近付くと車内ランプに照らされてシンジ達の姿が夫婦にもハッキリと見えた。


「むう!? 
若いころの唯にそっくりのかわいコちゃん
 」

「真司!? それに明日香ちゃん!!」


二人は思わず自動車に駆け寄りそうになったが、自動車は急発進していたので近寄れなかった。

それで二人は近くの公園出口から自動車道に先回りするため全力で走った。

クルマの中ではアスカを挟んでシンジとレイがひとつの毛布でくるまり、アスカの体温を稼いでいた。

アスカの体は、死体のように冷え、シンジとレイは必死でアスカを暖め続けた。

ふとレイが車外を覗くと、先回りしていた夫婦がヘッドライトに浮かび上がるのが見えた。


「碇司令!」

「えっ、父さんがどうかしたの?」

「いいえ・・・、何でもないの」


夫婦はもの凄いスピードで遠ざかって行く自動車をただ見送っていた。


「どういうことなのかしら」

「分からん。ただ、あれが私たちの真司ではないらしいと言う事だけだ」

「ええ、今家にいることは確認しているもの。でも・・・。一体どういうことなの・・・」


碇 唯は途方に暮れた顔をしていた。




「あ、そうそうアナタ、若いころの私にそっくりのってどう云うことです?」

「え、そんなこといったかなぁ」

「はい、しっかりと。・・・・・・・・・今日の夜は長くなりそうね、ゲンちゃん」

源道は妻が浮かべた笑顔に恐怖を覚えていた。



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