作者:アイングラッド

前書き
外典は本編との整合性は取っていない作品ですので、出てくる艦娘と船魂の関連性や任務については気にしないで下さい。

外典・艦隊これくしょん

 広大な太平洋に浮かぶソロモン諸島、その東側にブーゲンビルと云う島があり、その南にブイン鎮守府は存在した。
 ブイン鎮守府から南東の方角へ600キロほどの位置にはかつて、太平洋戦争時に激戦が繰り広げられた海域がある。
 この海域には数多くの軍艦が沈んでおり、別名『鉄底海域』と呼ばれるほどであった。
 その日、穏やかな日差しと低い波の海上に、ひとりの少女が立っていた。
 一見すると女学生の様なセーラー服を着込み、田舎っぽい雰囲気をしているが、背負った艤装と呼ばれる機械の部品と武器を抱えた彼女は悲しみを押し殺したような表情で周囲を見渡した。


 《サイド・吹雪》 西暦2033年12月某日

「周囲に敵影は無し」

 司令官命令による第三千五十一回哨戒任務に異常なし。
 味方の艦娘の姿もなし。ソロモン諸島の周りは謎の霧に包まれて外へは出られない。
 あの日、十年前の霧に囲まれたあの日にソロモン諸島にいた十万五千七百六十八名の司令官、そして司令官と強い絆、結婚(仮)を結んでいた艦娘達、そして島民の人達は姿を消して・・・・・・。
 そして深海棲艦の数が減って行くにつれて、艦娘の姿も消えて逝っちゃった。
 丸一年掛けてソロモン海を掃討して、最後の深海棲艦イ級を撃沈して、する事がなくなった皆(みんな)は存在意義がなくなったみたいな顔をしていた。
 同じ頃に妖精さんの姿が消えてしまい、入渠は出来るけど装備の修理が出来なくなった。

 それから数か月の内に鎮守府は枯れるように寂れていったの。
 鎮守府正面海域の哨戒任務に出たまま戻ってこなかった暁ちゃん達。
 『もうオリョクルにも行けないでち』と寂しそうに笑って潜ったまま浮かんで来なかったゴーヤちゃん達。
 最後まで残っていた夕立ちゃんと睦月ちゃんも五年前に。
 今、ここにいるのは、私と、彼女だけ。

ーーかえりたい・・・さびしい・・・の
「大丈夫だよ。司令官さえ帰ってきてくれれば工廠も使えるし。新しい艦娘の建造だって」
ーーみんないなくなった・・・こんなさびしい・・・わたしは・・・もっとたたかえる・・・はず
「私はぜったい、司令官が戻ってくるまで消えたりしないんだから」

 ここはアイアンボトムサウンド、鉄底海域の中心部。
 旧海軍に所属していた特型駆逐艦吹雪型一番艦『吹雪』が沈んだ場所。
 私の・・・沈んだ場所。
 沈んだ軍艦の残留思念が深海棲艦を生み出す。
 過去の軍艦の魂を持つ艦娘と云う存在。
 なぜ私が存在しているのかさえっ!
 ・・・・・・。
 でも、ここには誰もいなくなった。
 私以外の艦娘も、妖精さんも、司令官達も、市街地の人たちも、消えてしまった。
 こんな地獄みたいな所はイヤ。
 寂しくて、どうにかなっちゃうよ。

「誰か、助けて。姿だけでもいいから、声だけでも良いから。私たち以外の誰か、お願い・・・します」

 寂し過ぎて、怖すぎて、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
 周りを見回してもソロモンの海の周りは霧みたいな壁に囲まれてその向こうに行けない。
 風の吹く音と波のざわめきだけしかこの5年は聞いてない。
 無電も一切通じないし、この世から私以外の皆(みんな)が消えていなくなったみたいな、私だけがこの世にいるみたいな、そんな想像が頭に浮かんでしょうがない。

 ボー

 今なにか、汽笛みたいな声が聞こえた。
 船の鳴らす汽笛は艦娘にとっっては声みたいな物。
 長門さんか那珂ちゃんか球磨さんみたいな感じの、ううん、島風ちゃんみたいな元気の良い声だった。
 そんな気がした。
 声に釣られて私は海の上を歩いて行く。
 北へと1時間も行くと相変わらず白い霧の壁が立ちはだかっている。
 でもこっちから汽笛は聞こえた気がする。
 気のせい?
 声を出して訊いてみよう、恥ずかしいかな?
 でも構わない、恥ずかしさよりも寂しさの方がつらいんだもの。

「おーい、おぉーいっ!」

 両手を振り上げて全身で霧の向こうへ呼びかけた。
 どうせ気のせい、意味なんて無いけど、何もせずにはいられない。

『ぶぉおおおおー』
「ひゃあっ?!」

 久し振りに聞いた、汽笛の声。
 いる、間違えるわけ無い私は艦娘、船そのものなんだから。
 霧の向こう、薄っすらとしか見えないけど、1海里も離れていない場所にいる駆逐艦が近付いて来ているみたい。
 あのシルエットは、丙型駆逐艦? 島風ちゃん? でも4隻いるし。
 その後ろに白露型? それと睦月型?
 でもシルエットは似ているけど、海自の護衛艦みたいな電探や艤装がついてる。
 あっ、そうだ、探照灯っ!
 合図をすれば返事が返ってくるかも知れない。 ランプを点けて、遮光板をぉ〜、アルファベットのモールス信号で、ってモールスって廃止されてたんだっけ?

『ー・ーー(w) ・ー(a) ・ー・(r) ・(e) ・・ー・(f) ・・ー(u) ー・・・(b) ・・ー(u) ー・ー(k) ・・(i)』

 カシャカシャと音を鳴らして探照灯を島風ちゃん? に向けて点滅させてみた。
 向こうもこちらに気付いたみたい、舳先がこっちに向き直ってきた。

『ぶぅおおーん(おぅっ?! フブキ?)』
『ボーォン(ぽーいっ!)』

 ああ、返事をしてくれた!
 帰ってきてくれたんだ。
 なんで艦になっているのか分からないけど、島風ちゃん、夕立ちゃんが返事を呉れた。
 もう私は嬉しくなって手を振りまくった。
 霧が薄くなってシルエットが段々とハッキリと見えてくる。
 あっ! 島風ちゃんの舳先に軍服を着た男の人が立ってる。
 司令官!
 帰ってきてくれたんだぁ。
 もう、無我夢中になって私は司令官に向かって駆け出していった。

「お帰りなさいっ! 司令官!」



 《サイド・島風》 新世紀3年初夏

 ゾーンダイクと云う存在がいる。
 彼は人類に絶望し、全ての海洋を自ら生み出した水棲人類の領域として武力テロを断行。
 そして全世界を相手に海洋テロの枠を越えた大災害、南極大陸の氷河を溶解し海水面上昇を人為的に引き越し全大陸の海侵を宣言したのだ。
 それは人類の生存権に対する重大な侵害として受け止められ、時空融合後にギクシャクし始めていた国家もとりあえず現状に目を瞑り、手を携えてゾーンダイクに対応することを誓っていた。
 裏で色々と画策しているのは確実であったが。
 現在明確にそれに手を取り合っていないのは、人工知能による世界支配を計画している南米大陸のムーであり、それ以外の国家や軍事組織は天才ゾーンダイクに対して反抗の準備を進めていた。
 日本連合もオーストラリア大陸に前線基地を設けて反攻作戦へ向けて基地の整備、兵器の輸送、物資と人員の移動を開始していた。
 人員の移動には航空機が多く用いられていたが、兵器や物資の移動は大量の重量物を搭載する必要があることから船舶による移送が基本である。
 しかし、敵地である南極大陸に近い南氷洋に接するオーストラリア大陸はゾーンダイクの息子であるベルクが指揮するムスカ級を始めとする生物兵器が出没し、船団護送方式を取ってしても輸送船の足の遅さに被害が増大するシミュレーション結果が出ていた。
 その対策として船速の早いDDE−1451「島風」の同型艦4隻1452「山雨」1453「秋雨」1454「夏雨」を護衛に回し、超高速貨客船として建造された小笠原級TSLが4隻配備された特殊輸送船団が結成されたのだ。
 平均速度35ノット(時速約60キロ)と云う常識外れの速度で太平洋を南へ北へと移動する慌ただしい様は、江戸時代に弱小藩が喘ぎながら時短を画策した参勤交代を彷彿とさせたのだ。
 その為に船団に付けられた渾名は超高速参勤交代と云う、いやはやな代物だった。

 さて、出来るだけ内海を通り安全を確保する必要上、アジア大陸南部にあるインドネシアからオーストラリア大陸北部にたどり着くのが理想なのだが、その航路上には時空融合の泡とでも云うべき不可侵領域が存在していた。
 そこは赤道近く、旧海軍が激戦を繰り広げたアイアンボトムサウンドを含むソロモン諸島である。
 現在の海上自衛隊には旧海軍から移籍した艦艇が多数存在し、その中の多数が沈んだ歴史を持つアイアンボトムサウンドには高い関心が寄せられていたし、時空の泡に包まれていると云う事は、何らかの『存在』がある事を示していた。
 よって、海自はソロモン諸島近辺に『揺り戻し』や人類に敵対する存在が出現した際に対応が取れるように数隻の護衛艦と海保の巡視船を監視業務に遊弋させており、現在は護衛艦「夕立」「秋月」、巡視船「むつき」「きさらぎ」が当該海域の哨戒を実施していたのだが。
 日本連合政府の時空融合現象を観測する部署からの情報がもたらされたのは1時間ほど前の事だった。
 旧海軍所属の人間の強い関心と共に注目されていたソロモンの鎖が解かれる。
 付近を航行していた島風護送船団も時空障壁の観察任務に投入され、島風は夕立と肩を並べて壁の向こう側を観察していたのだった。
 基本、電探は壁に遮られて用を成さないので監視員及び監視カメラによる目視が行われていた。
 舳先を前に向けて、船体の各所に見張り員を配置していたのだが、非番の水兵だけでは手が足りなかった、なので士官も駆り出されて異常の兆候はないかと目を光らせている。
 その中で島風の舳先に立っていたのは独製の軍用双眼鏡を構えた阿倍野晴仁3佐、島風の艦長である。
 時空障壁までの距離感が掴めなかったので先ほど汽笛を鳴らしたのだが、思ったよりも反響音が少なく壁の向こう側へと振動が逃げている結果が観測された。
 予定では壁が消えている事を確認した後、搭載された無人の偵察機ファルコン・アイによる障壁内部への偵察を行う予定であった。
 が、そこで彼は不思議な光景を目撃する。
 壁の向こうの海の上に立つ少女の影がこちらに向かって手を振っていた。
 先祖の血ゆえか、船魂の姿を見るだけでなく触れることまで可能な阿倍野3佐だが、背中に煙突の様な物を背負い両腕に連装式の銃みたいな物を持つ少女と云うのは想像外だった。
 彼の霊能力は部下たちには秘密にしていた為に努めて目を向けない様にしたのだが、となりで監視していた見張り員も愕然とした表情で視線を向けていた。
 つまり、目の前にいる少女は超常現象ではない?
 その事に気が付くと阿倍野3佐は少女に目を向ける。
 彼女は手に持ったカンテラを点滅させ、モールス信号にて言葉を伝えてきた。

「む、『ワレ フブキ』?」

 かつて習った点滅信号からそれを読みとり、その意味を理解しようとしたが、突然の轟音で思想は中断された。
 突然、島風と夕立が汽笛を鳴らしたのだ。
 自分が命令を下した訳では無かったが部下の独断でも無い。
 後ろに目を向けると相変わらず破廉恥な格好をした島風の船魂がビックリした顔をして口元を押さえていた。

「あれは、船魂が単独で存在しているのか?」

 島風の様子を見て、思わず小声で呟いてしまう阿倍野3佐だったが、こちらに駆け寄り始めた少女を見て焦りを隠せなかった。
 時空障壁は致死致傷作用こそ無い物の、危険がないわけではないのだ。
 彼は少女からもよく見えるように大きく手を払いながら大声で叫ぶ。

「そこから離れるんだっ!」

 その事に気付いたのか否か、彼女は彼の方を見つめながら敬礼する。
 その瞬間、霧が晴れた。
 壁の内と外を隔てる時空障壁が消え去ったのだ。
 彼の耳には溌剌とした少女の嬉しそうな声が聞こえてきた。

「お帰りなさいっ! 司令官!」

 静かなソロモン海の穏やかな波がたゆたう。
 しかし、そこには誰もいなかった。



《サイド・調査官》   新世紀3年初夏

 ソロモン諸島海域に入った監視艦隊の前に広がっていたのは市街地の廃墟と旧海軍の物と思われる施設の廃墟であった。
 海外の地にあったが、門に掲げられた「ブイン鎮守府」の文字が旧日本海軍に関連した施設である事を物語っていた。
 もっともどの世界の海軍にもブインに鎮守府が設営されたと云う記録は残っていないのだが。
 海域を巡回し敵性勢力の有無を確認し終えた島風達「超高速参勤交代」は艦隊を分離し、本来の輸送任務に戻っていったため、現海域には夕立達だけになっていたのだが、そこへチャーターした飛行機に搭乗して駆けつけてきた者がいた。
 夕立の乗組員から陸戦隊と睦月の乗組員から海保職員が鎮守府施設の警備体勢を構築し、調査隊の受け入れ準備を行っていたところ、北の方角から白銀に紅い帯の入った円形に近い航空機の姿が鎮守府上空へと姿を現したのだ。
 連絡によると調査団の到着は明後日であるとされていたので、警戒して小銃を構えたのだが到着した機体を識別してすぐに降ろすことになった。
 この機体を保有し運用しているのは彼らの知る限りと或る一組織しかなかったからだ。
 その機体は鎮守府上空に達すると急速に減速し、両翼に設置されたスリットを解放し内部に納められたファンを回転させて下方へと吹き下ろした。
 分厚い主翼とずんぐりとした機体が特徴のこの機体の名称はMATアロー2号と言い、怪獣退治の専門家Monstar Atack Team.通称MAT(マット)が保有するV/STOL機である。
 通常、他の組織に貸し出される事などないのだが、あらゆる組織に恩と貸しとコネを持つある天才少女がそう望めば時間短縮のために使用される事もあるのだ。
 マットアロー2号が着地すると分厚い耐熱ガラスのキャノピーから飛び出した赤毛の少女が暑苦しそうにヘルメットを脱ぐ、この場にいる陸戦隊の隊員がひとり確認のために近寄っていった。
 それに合わせて少女も機体から離れて野暮ったいパイロットスーツを脱ぎ捨てて、暑い南国向けの軽装姿になった。
 目の前に立っている陸戦隊隊員に目を向けた彼女は日本政府発行の身分証明カードを提示しながら隊員に身分を明かした。

「どうも、私は時空融合研究の第一人者、鷲羽・フィッツジェラルド・小林博士と申します。 ♪鷲羽ちゃん♪って呼んでね?」
「あ、はい。海上自衛隊の倉敷三尉です。では小林博士は」
「鷲羽ちゃん」
「鷲羽F小林さんは」
「鷲羽ちゃん」
「鷲羽チャンさんは」
「鷲羽ちゃん。中華系の血は入っていないから」
「鷲羽ちゃん、は何をしにこの『鎮守府』へ」
「あ〜、久しぶりに時空融合の泡が弾けたのが観測されたから居ても立ってもいられなくってさぁ。知ってる? 泡の内側と外側で整合性が合わないと障壁は消えないんだけど。ほら、天ぷらの衣を作るときにダマが出来ちゃうみたいな」
「はぁ」
「それで障壁が消える直前に何か観測されなかった?」
「はぁ、そう言えば島風の艦長と乗組員が海の上に女の子の姿を見たと・・・」
「それって心霊現象? いや、霊子力が残留思念の形で」ブツブツ
「(なんか変わった人だな。)取りあえず屋内に危険な装置や建屋はありませんでしたので案内出来ますが」
「お願いね」

 倉敷三尉が正門近くにある最も立派な装飾が施されたレンガ造りの建屋の中へ案内すると、二階以上の階層にはわずか二畳ほどの広さの小部屋が密集しており、中にはコンシューマーゲームの筐体の様に斜めについたテレビ画面の左手前に四角い凹みがあり複数枚のカードを読み取る接触型情報読み取り機と中央奥に舵輪が、その右下に『出撃』と書かれた釦が付いている将儀台が一台置いてある。
 他にはエルゴノミクス設計の安楽椅子とシングルベッド、本棚、サイドテーブルが置いてあり壁には軍艦を模した大砲や煙突を身につけたコスプレ美少女〜美女のポスターが貼られている。
 その他に用途不明の等身大のシリンダーが六基置かれていて違和感が生じている。
 この様な個室が提督の数プラスアルファー用意されていて、その数は二十万室近く。
 ブイン鎮守府の敷地一杯に赤煉瓦の長屋がズラリと並んでいる光景は壮観そのものである。
 さて、鷲羽が無作為に選んだ一室に入るとその装置を起動させ、立ち上げ画面から情報を読み取り配線の配置を読み取ると、一階にある厳重にロックされた『室算電央中』と書かれた部屋へと足を向けた。
 マッドサイエンティストである鷲羽にとってこの程度のロックなど百円ショップの南京錠並みに簡単に開錠出来てしまうのだった。

「ふぅん、これがメインサーバーでこれがメインフレームと、さぁ〜て情報を吸い上げるかぁ」

 鷲羽がメインフレームの端末に向かうと、どこをどうやったのか管理者権限でログインして画面に情報を映し出す。

「えーと、この施設は柱島式後期型大規模司令部。運用が行われなくなってから10年が経過。一部『艦娘』・・・かんむす、ヘルプで半自立海上戦闘システム『艦隊これくしょん』にて戦闘ユニットとして行動する自由意志を有する人型艦艇ユニットの事。過去の軍艦の魂を有する。おおっ! 霊子力関連の技術がここに」

 思わぬ情報に興奮した鷲羽は更に深い情報を引き出そうとキーボードを叩く。
 するとトレーディングカード大の大きさのカードに図柄と名称、艦種、性能が列挙された物がズラズラと並んで出てきた。
 艦娘図鑑と書かれたそれにはナンバーが振ってあり、No.001〜350までの枠があるが、埋まっているのはそれほどでもなく114+改装バリエーション程度である。
 これは個人情報を引き出してきた為であり、廃人と呼ばれる提督ならば大部分が埋められているのだが不真面目な大佐程度ではこんな物であった。

「ふ〜ん、これはサンプルが拙かったわね。えーとエインクラット提督か。これだけ読むとただのゲームセンターなんだけど。艦娘カードを提督の将儀盤に並べて『出撃』を選ぶと艦娘実体化チューブの中で儀体が生成されて実際の海域に出撃し実戦を行い、『演習』を選べばネットワーク上で他の提督の艦隊と実戦のシミュレートを行い経験値が溜められて、『遠征』を選ぶと実体化した艦娘が遠征に出て目的地にある物資を運搬回収する事が出来る、ね。『深海棲艦』って云う敵対組織によって滅びた無人の諸島や海岸線の都市から、か。殺伐とした世界だけど、人類滅亡が掛かれば仕方のない方法かな」

 そう感想を述べると鷲羽は二階の将儀盤から回収した艦娘カードを数枚眺めた。

「ま、実際試してみなけりゃ分からないわよね。フィールドワーク、フィールドワークよ」

 ウキウキとした様子で二階の個室に移動した鷲羽は早速一枚のカード、初期艦と呼ばれる5枚のカードを見つめた。

「さーて、『吹雪』『叢雲』『漣』『電』『五月雨』が初期艦ね。この中から〜君に決めたっ! 吹雪っ」

 鷲羽は起動させた将儀盤に吹雪のカードを載せて『起動』させる。
 画面上にWAKE UPの文字が浮かび上がり、ERRORの文字と共に猫を胸元で抱えたエラー娘が表示された。

『艦娘カードから魂が抜けています。新しいカード、又は建造にて新しいカードを生成して下さい』
「ええ〜っ! もしかして」

 鷲羽は焦って他のカードを選び『起動』させてみるが最終的には鎮守府にある全てのカードから魂がロストしており、当然ながら妖精が存在していない以上『工廠』も機能していなかったので生きているカードは生成出来なかったのだ。
 落胆した鷲羽であったが、霊子力を用いた実体化施設の実物が存在しているのだ、それを参考に出来れば霊子力の工業化への大きな技術的進歩と言える訳だが、調査してみて愕然とした。
 将儀盤はゲームセンターにあるゲームの筐体とほぼ変わらず、艦娘実体化チューブもただの陶器製の円筒にガラス管が繋がっているだけの日曜大工レベルの簡潔な代物であった。
 それが成立していたのは偏に『妖精』在りきの技術大系であり、この時空融合後の世界にて姿を隠した妖精達の存在がなければただのチューブに過ぎない。

「せっかく奮発してマットアローまで借りてきたのに、骨折り損かぁ。まあいいや、やっぱりお宝を最初に調べられるのは科学者の醍醐味よねぇ。ある程度運用されていたってだけでも方向性は調べられるんだし。OKよん」

 ちなみに日本連合の東京で知らせを受けた鷲羽はすぐさま仕事を放棄しMAT基地へと急行し、マットアロー2号をパイロット毎レンタルしてすぐさま南下し、基地やタンカーに垂直着陸して燃料を調達しつつソロモン諸島へとやって来ていた。
 スピードだけなら通常の戦闘機の方が早いのだが、着陸する滑走路がここブイン鎮守府になかった為にV/STOL機のマットアローシリーズを選択していた。
 ちなみにマットアロー1号は緊急時に海底基地からのスクランブルに対応する為に強く拒否されている。
 正式な調査団が来る前に散々好き勝手に調査していた鷲羽はめぼしい成果は得られず落胆を隠しきれなかったが、ただひとつ気になる出来事があった。

「艦娘を修理する為の『入渠』施設、あそこの風呂桶に溜まっていた液体、それから『剤復修速高』と書いてあったバケツに入っていたのはLCLやリンカージェルに似た性質を持っていた。もしかすると……」






掲示板へ




スーパーSF大戦のページへ