作者:EINGRAD.S.F

スーパーSF大戦 インターミッション


 インターミッション

 大激突! 二大怪獣現る。
 グドンVS.ツインテール
前編






 大都会東京、それは時空融合後も変わってはいない。
 江戸時代から日本の首都として栄えてきたが、国家としての中枢は官の霞ヶ関と政の永田町を中心とした地域に集約されている。
 時空融合後の世界の中でも日本連合は特にたくさんの世界が組み合わさった事でも知られているが、特に東京都は非常にたくさんの世界から成り立っている。
 それは多様性に富んでいると云う事でもあるが、何処にどのような危険が潜んでいるのか分からないと云う事でもある。
 ここは東京都下、二十三区の新宿区にほど近い場所にある工事現場にて事件は起こった。

 さて、現在の日本政府の組織の中でも精力的に活動している物のひとつに怪獣Gメンこと特異生物部の存在がある。
 日本各地にある人間に敵対行動を行う「怪獣」と云う物の存在を調査し、対応策を献策する非武装の組織である。
 そこに所属する部員には様々な人材が揃っており、まさに「怪獣退治の専門家」と一般人は思ってしまうが、実際には彼又は彼女達が怪獣退治を行う事はない。
 何故ならば「怪獣退治の専門家」は別に存在するからだ。
 それが自衛隊麾下のモンスターアタックチーム、通称MAT(Monster Attack Team)である。
 そこで用いられていた兵器群の使い勝手が良かった為、量産され様々な分野で活躍しているのは諸氏の知る所であるが彼らの真骨頂は対怪獣戦闘のエキスパートであると言う事だろう。
 他に有名な対怪獣組織としてはGフォースが知られているが、対G兵器への評価は高いもののその他の歩兵戦闘に於いては通常の軍隊から転科したばかりで戦術の研究が進んでいなかった事もあり、非常に低いものである。
 それに対してMATは低予算と云う枷を填められつつも実績を上げてきただけの事はあり、装備された兵装を効果的に扱う術を持った部隊として知られていた。
 元の世界に於いては軽車両×2、重火器×2、小火器×6を装備しただけの三人組二組のチームが怪獣に立ち向かう状況も良く発生していた位だ。
 だが、それ故にプライドも相応に持っており、対応の最初期である調査行動を余所の部署が担当する事に微妙な感情を抱いている隊員もいるのは確かだった。
 特異生物部の調査員達もレンジャー資格を有する為に警察権の付与と共に護身用の小火器を携行することが可能なのだが、如何せん安全講習と護身術程度の腕前しか持っていない為に怪獣という強大な相手には持っているだけ危険が増える可能性すら有る。
 特に硝煙のツーンとした苦い臭いは銃撃を受けた事のある動物にとって攻撃対象と成り得るファクターである。
 よって武器戦闘を熟知しており、対怪獣戦のエキスパートであるMATから特異生物部へと出向の形で人員を派遣しており敵対性特異生物への対処と逃走する際の援護を行うことになっていた。
 実際はフィールドワークの現場で色々と便利に使われることが多いのだが、チームワークの一環と云う事で。

 特異生物部へと出向している郷秀樹隊員は任務が終了した後、出向先である岩手県の山奥から東京へと舞い戻り、レポートを提出後にこの東京湾岸にあるMAT基地へと顔を出していた。
 任務中は怪獣に間近に接近する必要があることから迷彩服を着ていたのだが、久し振りにオレンジ色のMATの制服に身を包み、隊員達のいるミーティングルームへと足を運んだ。

「郷隊員、ただいま帰還しました」

 堅い合金製の自動扉が開くと、久し振りにビシッと敬礼するが、若干緊張気味なのか幾分堅い動きとなっていた。

「おう、お帰り、郷」
「郷隊員、お帰りなさい」
「いよう、久し振りだな郷」

 それに対して返ってきたのはフレンドリーな雰囲気の声だった。
 特異生物部の面々もそれなりにアットホームであり、女性率も高かったことから雰囲気としては柔らかいものがあったのだが、やはり古巣は違う。
 それに釣られて郷も笑顔を浮かべる、そこへ隊長が最後に声をかけた。

「ご苦労だった、どうだった現場は」
「いやあ、大変でしたよ。学者バカって云うんですか? 九州の事件で協力してくれた原滝さんの案内で岩手県の北上川の源流付近にある岩屋村の湖に調査に出たんですけど、ベースキャンプに泊まり込んで湖面の監視、生態痕跡の調査で足跡や糞のサンプル採取に始まって、アクアラングで湖底調査、摂取食物の調査に放射線測定、ようやく姿を見せたバランの超至近距離まで接近して皮膚サンプルの直接採取に電波タグの取り付け、目の回る忙しさに加えて何時怪獣が攻撃的な行動を起こすか分からないんですから。でも長峰博士とか平然な顔をしてこなすんですから学者ってタフですよね」
「! 出たのか」

 隊長が驚いて郷に聞き返すと、郷は手元のレポートを見ながら説明する。

「あ、ハイ。ではついでに報告も。えー、湖を拠点として生物活動が認められたバランですが、現地では数百年以上前から婆羅陀巍山神という名前で呼ばれていた古代生物で、学名はバラノポーダ、身長は約四〇メートルで四足歩行型爬虫類ですが、前肢と後肢の間にある皮膜にて滑空を行う可能性が指摘されています。特殊な性質としては集光性が認められています」
「ふぅむ、総合危険度数はA級か、G級でないのは不幸中の幸いだな。で、殲滅対象には指定されたのか?」
「いえ、これまでの行動パターンや解析された性質から要監視対象に指定されましたが、特別な刺激を与えなければ破壊活動を行わない事が予想され、又、攻撃した場合の被害範囲や移動速度が予想出来ないことと、現地に於ける宗教的崇拝対象になっていることから殲滅指定は行われておりません、が」
「ふん、だから特異生物部の奴らは甘いんだ。人類の敵なら即時殲滅が当然じゃないか。郷、お前もあいつらの影響を受けて腑抜けになったんじゃないのか? え?」

 郷が隊長に報告をしていると郷が入ってきてからずっと口を噤んでいた岸田隊員が舌峰も鋭く郷を責め立てた。

「岸田隊員……」
「岸田」
「大体お前はMATに対する心構えがなっちゃ居ないんだよ。それに俺に対する個人的な偏向も伺えるしな。何故そんなに俺の意見に反対するんだ」
「別に僕は岸田隊員に対して特別に反対している訳ではありません、ただ性急に事を運ばずに確実な対応が必要ではないのかと」
「何だと、俺の判断にケチを付けるつもりか」

 反論した郷に対し、岸田隊員は頭に来たのか些か感情的に言い放つ。
 この岸田隊員、軍人の家系に生まれ自分に対して自信が大きく、プライドが高い。
 そこへ入隊したばかりの郷隊員はルーキーながらも目立つ活躍をし、又、自分の意見と悉く衝突する事が多かった。
 よって郷の事を生意気でダメな奴と蔑んでいたのだ。
 郷も直情的な所があり、このまま会話を続けても状況は悪化すれども改善は望むべくもなかった。

「おい、ふたりともそういきり立つな。良いかい? 我々の任務は即断即決、臨機応変な判断が必要とされる場面が多い。その場合、隊員一人一人の判断を信用するしかない、岸田の云う通り早急に対応する必要があるのも確かだ。私は岸田の判断を信頼する、お前も信じてやれ。以上だ。良いな」

 窘める様に隊長が噛んで含んで言うと、岸田隊員も郷隊員も口を噤み敬礼を返す。

「了解」
「了解」
「うむ。郷はレポート提出後休暇に入れ、続けて特異生物部に詰めて貰わなければならんからな」
「了解しました」

 多少ギスギスした空気を残してしまったが、郷は作成していたレポートを提出、電子メールや回覧のチェックをした後に下宿先へと帰宅した。

 その頃、郷の下宿先の少年、悪名高い魔都新宿区の近くにある小学校からの帰り道、途中に奇妙なものを発見していた。
 工事現場から出たガラの中に複数の巻き貝の化石が付いた直径1メートルほどの岩塊が有ったのだ。
 工事現場の作業員や監督も不安そうな顔でそれを眺めていた。
 ふつうなら単に珍しい岩が出た位で騒ぎ立てる必要もないのだが、何しろここは魔都新宿区にほど近い場所である、数多の怪異や超科学兵器が出没する人外魔境魔都の近くなのである。
 非常に取り扱いに困るのだ。
 現場監督が現場の道路沿いに安置した岩を眺めて対応に苦慮していた。

「こりゃあまた、奇妙な岩が出てきたなぁ。化石か?」
「んだっぺよ監督さん、オラがは小いせえ頃さ見た図鑑にあったっぺよ」
「そうだよオジサン、これアンモン貝って云う大昔の貝の化石だよ」
「んだっパイ、アンモナイトだっぺ、って坊主、現場に入っちゃだめだっぺよ」

 東北訛りの工員が岩の隣に座り込んでいる少年の姿を見て直ぐに追い出そうとするが、少年の次の言葉にギョッとしてしまう。

「良いじゃん、端っこなんだし。それにこれ、もしかしたら怪獣の卵かも知れない」
「怪獣?」
「怪獣ねぇ」

 だが突然少年に怪獣の卵などと云われてもピンと来ない。
 寧ろこの子供にからかわれていると云った方が自然だ。
 何しろこれは正直言ってただの岩にしか見えないのだ、確かに卵っぽい形状をしているが直径1メートルもある卵など恐竜にだって有りはしない、それこそ怪獣的な話だ。
 そのまま見なかったことにしたい位だが、この怪しくも見える岩が、それ以外の何か呪術的な物や妖術士の代物だと非常に困る、さて、どこに連絡を取るものかと頭を捻っていると少年はさっさと行動を起こした。

「僕、MATに連絡するから」

 そう言うと、アカマツ工業製の子供用の防犯ブザー兼用の簡単携帯を取り出して電話し始めた。
 時空融合以前のMATならば直ぐに飛んできただろうが、特異生物部に調査が移されてからは電話はオペレーターの手によってそちらに回線が回される筈だったのだが。

「オジサン、もうすぐMATの隊員さんが来てくれるって。だから大丈夫だよ」
「お、おう。済まないな」
「良いって事よ」

 なにやら非常に大きな態度で答える少年だったが、道をこちらに向かって歩いてくる人物に気が付き直ぐに声をかけた。

「郷さ〜ん。こっち、こっちだよっ」
「お、次郎久し振りだな。学校の帰りだろ、こんな所でどうしたんだ」
「郷さん、怪獣を見つけたんだ」
「なんだって?!」
「怪獣の卵なんだ」

 郷はその言葉を聞いて目を見開いた。
 特異生物部の調査範囲は広く、怪獣の兆候が有れば現場に行き怪獣の存在を特定するのが任務だが、その元来の目的が平成ガメラの世界由来の物である事から古代文明によって造られた生物兵器「ギャオス」によって産み落とされた耐久卵の調査が最優先事項となっている。
 よって告げられた怪獣の卵と言う単語に強く反応した。
 郷は道と工事現場を仕切る柵を乗り越えて工事現場に立ち入った。

「ちょっと失礼」
「あんたは?」

 現場監督が突然入って来た私服の若者をいぶかしみ、誰何する。

「MATの隊員の郷秀樹と言います。調査しても宜しいですね」

 郷は当然の様に現場に入り込み、それに近づいた。
 その表面に着いたアンモナイトを見て、これが「ギャオス」の卵ではないと気付いた。
 古代文明が自らの生み出した生物兵器に滅ぼされたのは紀元前一万年ほどの事であり、アンモナイトが栄えていた約一億年前の中生代ジュラ期とは天と地程も年代の差がある。
 だが、郷はこの卵に異様な感覚を覚えた。
 それは特異生物部の調査に参加して数々の怪獣と実際に接触し、身に覚える事が出来た経験則みたいなものだったのかも知れない。
 どのみち自分が判断できないのなら、判断出来る人間に任せるべきだと郷は判断した。
 耐衝撃性に優れたスマートフォンを取り出すと電話帳を呼び出し、ビジネス関連から特異生物部の人物に連絡を入れた。

「(ピッ)あ、長峰博士ですか? 郷です。現在魔都新宿区の外にある工事現場で耐久卵らしき物体を発見、直ちに調査を願います」
『分かりました、今、三枝さんと近くに来ていますのでそちらに向かいます。何か特徴は?』
「はい、表面に年代標準化石のアンモナイトが付着している事から、ギャオスではない可能性が高いと思われます」
『それは、分かりました、現在地は』
「あ、メールで位置情報を送ります」
『お願いします』

 郷は電話が切れたのを確認すると、GPSを起動し座標を記録、メールに記載して送信した。
 時空融合で失われたGPS衛星だが、日本連合政府が機動戦艦ナデシコA、Bを用いて代替衛星群を軌道に投入した為、現在では使用が再開されている。
 数分後、白地に赤いラインが入ったスポーツ車然としたマットビハイクルが現れた。
 先ほど次郎少年が『直接』連絡した事を受けて出動したのだ。
 そこから現れたのは若きエリート岸田隊員である。
 岸田は先に帰った筈の郷の顔を見て不審気に訊く。

「郷、お前こんな所で何をしているんだ」
「岸田隊員、自分は帰宅途中で偶々遭遇したんです」
「そうか。君が通報してくれた坂田君かい?」

 岸田は近くにいた次郎少年に声を掛けた。
 次郎は自慢げに返事を返す。

「ハイ! 怪獣退治はMATの仕事ですからMATに連絡しました!」
「うん、偉いぞ。それで例の怪獣の卵と云うのはこれかい?」
「ハイ、こんなデッカい卵なんて、怪獣の卵しかないですから。それにアンモン貝の化石がついているので大昔の怪獣の物に違いないんです」
「ふむ、正直言って怪獣の卵とは断定できないが」
「絶対怪獣の卵だよ」
「時空融合からこっち、信じられない出来事が続いているからな、怪獣の卵の可能性も確かにある」
「それじゃ」
「うむ、離れていたまえ」

 岸田隊員は腰に携帯していた拳銃、マットシュートを取り出した。
 マットシュートは用途に合わせて光線を発射するモードと実弾を発射するモードを切り替えることが出来る。
 現在は光線を発射するユニットが組み込まれていた。
 彼は無造作にその岩にマットシュートを向けるが、郷がそれに待ったを掛けた。

「岸田隊員、迂闊です」
「なんだと郷、貴様、まだ俺の邪魔をするのか」
「違います、それがただの岩なのか、それとも本当に怪獣の卵なのか、然るべき機関で調査した後に対処すべきではないでしょうか」

 郷は真摯な態度で正論を説くが、迂闊などと言われた岸田は少々短絡的な行動を採ってしまった。

「隊長なら俺の行動を支持してくれている。本物だろうが違おうが、破壊してしまえば怪獣の脅威は排除出来る。もしも耐久卵ならば掘り出された事によって羽化が始まるかも知れない、そうなれば手遅れじゃないか。迅速な対応が必要なんだよ。違うか、郷」
「それは・・・確かに」
「ではそこを退け、マットシュートで処置する」

 郷は少々考えていたが、岸田の意見も間違ってはいないと思い直し、岸田に了解の意を返す。

「了解です岸田隊員。次郎、それから作業員の方々、今からこの岩に処置をしますので近寄らないで、離れていて下さい」

 郷は腕を回して近くにいた人達に遠くに離れるように指示した。
 岸田は郷のその様子に拍子抜けしたような顔を向けていた。
 郷の今までの態度から、自分に対し感情的な反対意見ばかり述べている様に感じていたので、もっと執拗に反対し続けるものと思いこんでいた為だ。

「済まんな郷。周囲の安全確保、安全装置解除、照準良し、シュート」

 ズバッと云う音を立ててマットシュートから光線が発射された。
 表面を覆うアンモナイトの化石が弾け、焦げた土が煙を上げる。
 そのまま立て続けに五発ばかり発射され、熱戦に炙られた表面は陽炎の様に揺らめいて見える。
「ふん、こんな物で良いだろう」

 そう云うと岸田はマットシュートを腰のホルスターに戻す。

「いえ、岸田隊員、何かおかしいです」
「何?」
「怪獣の表皮を破壊する事の出来るマットシュートを数発受けて、原形を留めているんです。この岩は」
「むっ、確かに異常な耐久力だな」
「既に温度も常温に近くまで下がってきてますし、もしかしてエネルギーを吸収しているのではないでしょうか」
「それは・・・」

 郷の指摘を受けた岸田はその異常性に気が付いた。
 元の世界では余りにも強力な威力に対人戦闘を禁止された兵器である光線銃のそれは、内包されたエネルギー量は装甲兵器にさえ通用するものなのだ。
 確かに塹壕など、質量が多い土などには効果が薄いという傾向はあるが、直径1メートルの岩にならば一撃で粉砕されていてもおかしくはない筈であった。
 岸田は目の前に佇む岩に慄然とする。

「郷さ〜ん」

 と、そこへ郷に声を掛けて近付いてくる二人の女性の姿があった。
 目の前の岩に集中していた郷が慌てて視線を向けると、出向先の同僚である特異生物部の長峰真弓と、同じく特異生物部の所属で元Gフォースで活躍していた三枝未希が歩道を歩いて来ている。
 郷はこれ幸いと、広範囲な知識を持つ長峰に助けを求めた。

「長峰博士、この岩なのですが」
「ふぅん、どれどれ、あ、本当だ。アンモナイトだね。確か白亜紀までには絶滅していた筈だから最低でも六千万年前の化石じゃないの?」
「確かにそうです、ですが今、念のためにマットシュートで破壊処置を試みたのですが。破壊出来ませんでした」
「本当? でもそれが本当だったら。ねえ、三枝さん。どうかな」

 長峰が水を向けてみると三枝は手の平を卵の近くに寄せる。
 神経を集中させ、眉を寄せて岩の中を感じるように超能力を起動させた。
 透視能力、それは可視出来ない物体の中身を感知する能力のことである。
 もちろん、視認する訳ではない、能力を用いてそこに有る物を『理解』するのだ。
 そして、ただの岩にはあり得ない物を彼女は理解した。

「この岩、ううん、この卵は『活きている』」

 そこからの行動は早かった。
 長峰は直ちに携帯で特異生物部に連絡を取り、そこ経由でMATに出動を求める。
 小回りが効き、狭い場所に着陸出来る上に密閉式の格納庫を持つヘリコプター、MATジャイロを利用するためだ。
 工事現場から民間人(もちろん次郎少年も)を退去させ、いつでも積み込めるように工事現場で使用していた作業用レイバーを用いて広い場所へと卵を移動させる。
 また、周囲の道路、地域は警察によって封止されており入念な警戒が施されていた。
 何故ならば念を押すようだが、ここは魔都新宿にほど近い場所なのだ、新宿区に棲むマッドサイエンティストや邪教の信徒が超生命体とも言える怪獣の卵を強奪に来ないとも限らない。
 彼らの事を考えれば新宿区内のフリーランスの『仕事屋』等に密かに依頼が行われていても不思議ではなかった。
 暫くすると上空からティルトローター機特有の爆音が響いて来る。
 ファンの側面が覆いによって覆われているので開放部方向以外への遮音性に優れている為に上空に到着し、ファンを下部へ向けるまでほとんど音がしなかったのだ。
 これはMATジャイロが対怪獣戦闘用に開発された副産物で、本来は怪獣の吐き出す熱線にファンが破損させられるのを防ぐ為の装備だった。
 MATジャイロが着地すると、郷が運転していた作業用レイバーがマニピュレーターで保持していた卵をMATジャイロの後部格納庫へと収納しようと中へと運ぶ。

「郷、もう少し高めに保持してくれないか?」
『了解。こんな物でどうですか?』
「おう、OKだ」

 すると中で待機していたMATジャイロを操縦してきていた隊員が格納庫内の冶具の位置合わせを行う。
 何しろゴツゴツしているとはいえ卵形なのだ、航空機の特性上、完全に安定して移送するのは難しい。

「冷却システムの方はどうですか?」

 長峰が隊員に訊くと、彼は分解してある箱状の物と傍らのボンベを示しながら云う。

「液体ヘリウム冷却装置を用意してありますから大丈夫。さすがに長期間となると難しい物がありますが、なあに、富士演習場までだったら問題ありませんよ」
「よろしくお願いします」
「任せてください、では。郷、降ろしてくれ」
『了解』

 彼は台座から延びたベルトを卵に巻き付け固定し、箱を組み立て、ボンベから延びたホースをカプラーで箱に固定した。
 圧力ゲージを確認しながらボンベのバルブを少しずつ開いて行き、所定の圧力に固定。
 内部の情報を蒐集するセンサーを生かして、格納庫を外からしっかりと密閉した。
 これは保温の考えもあるが、漏れ出した気化ヘリウムの害を減らす為でもある。
 発進準備を整えたMATジャイロはエンジン出力を上げ、ティルトローターの下部から大量の空気を吹き出した。
 卵の重量を物ともせず、上昇して行くMATジャイロは高度千メートル程でローターの角度を九〇度から徐々に一〇度近くまで水平にして行き、やがて水平飛行に移った。
 目指すは広大な敷地を持つ富士演習場である。
 午後五時過ぎ富士演習場にて。
 怪獣の処置を行う場所の選定基準であるが。
 富士のすそ野は明治の時代から陸軍の演習場として使用されており周辺住民の理解が得られ易いこと、自衛隊の駐屯地が近く戦力の移動がし易いこと、怪獣と云う常識を疑わざるを得ない存在の分析にSCEBAIと云う科学分野に明るい存在が心強いこと、以上を以て決められた。
 だが、身長が五〇メートル近くもある怪獣の行動範囲は自然と大きくなり、周辺地域への被害も充分に考えられることから、富士演習場を中心に半径一〇キロメートル圏内と愛鷹山周辺そこから駿河湾までの範囲が立ち入り禁止区域として設定された。
 ここには重要な交通路線である東海道線や東名高速道路が走っているのだが、例外ではない。
 また、富士演習場も時空融合後に単なる演習場としてだけではなく、新たに増設される事になった特機等の人型機械の性能試験が常時行われているので対怪獣の戦力として数えられている、訳ではなかった。
 後にこの富士演習場で行われる事になるPLD部隊とVFの模擬戦でも有ったように、身長の差は思ったよりも性能差に繋がるのだ。
 ましてや生物そのものの動きである怪獣相手にロボット兵器が使えるのかという疑問点も解消されていないので、この場に集められた戦力はMATを中心に既存の戦力で固められていた。
 六六式メーサー殺獣光線車がオーソドックスかどうかは別にして。
 さらに云えば、この時期の日本連合の特機の大半は南極決戦に向けて日本を離れ始めており、タイムスケジュールの関係からエヴァンゲリオンやマジンガー部隊、ゲッターチームや勇者王部隊の参戦は不可能であった。
 十メートル以下の人型戦闘機は先ほどの理由で弾かれるので、唯一参戦が決まっているのは軍事レイバー部隊のみである。
 さて、MATジャイロで運ばれてきた卵であるが、無難に爆破処理が行われる事になった。
 当然一撃で粉砕出来るように設置された爆薬を遠隔操作で起爆する作戦であるが、万が一孵化する可能性を考えて六六式メーサー殺獣光線車と0式メーサー戦車の混成部隊によって攻撃、効果が少ないようで有れば牽制して自衛隊最大の打撃力で粉砕する事になっている。
 MATジャイロから降ろされた卵は液体ヘリウムによって冷却され、冷えた空気が湯気を上げていた。
 その箱の周りには爆薬が仕掛けられ、爆破の時を待っていた。
 一キロほど離れて九〇式戦車の部隊が照準を合わせ、愛鷹山の方角には自走砲部隊が待機している。
 今回の敵は一体の怪獣なので自動車化された普通科の姿は少ない。
 だが、爆破する場所から一〇キロ程離れた演習場の一角の天幕に数少ない自動車化歩兵の姿があった。
 MATの隊員たちである。
 彼らは指揮所にMATジープを用意して不測の事態に備えていた。
 MATジープと呼べば随分と格好良い車両に思えるが、彼らの実状はお寒い物だった。
 怪獣対策にWDO麾下の実働組織として世界に展開していたMATだが、元は各国軍から抽出された部隊であり二線級の戦力が中心となっていたのだ。
 MAT日本支部の装備品はMAT本部から支給された航空機や爆薬、拳銃や戦闘服などの特殊装備を除き、自衛隊で時代遅れになった装備しか支給されていなかった。
 そもそも国連が主導して組織されたMATだったが、MAT本部への日本からの拠出金は莫大であり、更に基地装備や維持費も相当な金額に上った為に、怪獣退治は自分達自衛隊に任せれば良いのに、等と余計な金食い虫として敬遠されていたのだ。
 と言うわけで、MATジープと呼ばれるその車両であるが、その正体は第二次世界大戦で使用されたジープの米軍払い下げの物が1両と、戦後日本でライセンス生産した物が1両である。まさしくMATのジープであった。
 天幕の指揮所では緊張感が漂っている。
 今回の作戦の総指揮官は小田切綾陸将、元は空自の士官であったが、国連の軍事組織に出向し、特殊戦隊を指揮し特別指定結社を相手取って勝利した、怒らせると怖いと評判の女傑である。
 彼女は自衛隊に復帰後、陸自へと転向し今に至る。
 さて、天幕の内部にはSCEBAIが設置した各種観測機器の解析データーが表示されるモニターが光学映像、温度分布、その他の情報を映し出す。
 自衛隊の陸将を始めとする自衛官の姿が最も多いが、SCEBAIの研究員や特異生物部の長峰博士以下の姿もある。
 正直、怪獣の卵とは云え過剰な対応であると自衛官側は考える者も多かった。
 怪獣の卵の化石とは云え、2メートルにも満たない岩が超高性能火薬に耐えられる筈がないと高を括っている人間も少なくはない。
 時空融合後、その存在が多数確認されているとは云え、実際に暴れた事例がギャオス変異体のイリスと古代怪獣ゴモラと少ないためだ。
 やはり、データーだけでは納得させられるのは難しいと云う事なのだろうか。
 緊張の中、カウントダウンが始まる。

「現地作業班より連絡、爆破準備良し退避完了周囲状況異常なし」

 通信員から報告を受けた小田切指揮官は頷くと作戦開始を命令する。

「分かりました、では状況開始!」
「対閃光防御」
「メガネ掛ける」

 小田切指揮官の合図が掛かり、指揮所で監視している者達はサングラスを掛け、爆破地点を凝視する

「サン、フタ、ヒト、発破っ!」

 カウントゼロと同時に真っ白な火の玉が現れ、離れた場所にも届くような熱が発生したかと思うと一気に弾けた。
 使用された爆薬はMATで使用されていたMN爆弾である。
 時空融合前に対怪獣焼夷弾として開発された物で、コンバットプルーフは充分に済んでいた。
 鉄をも溶かす超高温で構造を脆くした後に衝撃波で吹っ飛ばす凶悪な代物である。
 参謀長を始めとする自衛官はその威力を目視し、爆破したことを確信したのか立ち上がってガッツポーズを取る。

「良しっ!」
「幸いな事にアナタ達の出番は無かったようね」

 小田切指揮官は安堵の溜め息を吐きながら長峰博士とMATの隊長に告げる。
 その言葉にMATの隊長は肩を竦め、長峰博士はフテ腐れたように顔の前で組んだ手の上に顎を乗せた。
 数秒遅れで大音響と、更に遅れて衝撃波の名残の突風が天幕を揺らす。
 衝撃波と共にEMP効果によって現地の観測が出来ないのかSCEBAIの設置した観測機器からのデーターは砂嵐状になっている。
 高熱に熱せられた大地が陽炎のように空気を歪め、目視でも確認することは出来ない。
 だが、煙が晴れるとそこには直径四〇メートルほどに成長した卵が存在したのだ。

「バカな」
「目標健在。いえ、成長を遂げた模様」
「エネルギーを吸収したですって?」
「ガメラも爆発炎上を続ける工場地帯の火災を吸収しプラズマ火炎にした事があるし。あり得ない事じゃないわ」

 長峰は暫く考え込むと小田切指揮官へ提言を決めた。

「司令、よろしいでしょうか」
「む、何でしょうか長峰さん」
「あの卵はエネルギーを吸収し、内部の特異生物を成長させる能力を持つようです。卵に対する攻撃は物理力を中心にする必要があるかと考えます」
「むぅ、メーサー兵器はあの怪獣には逆効果という事ですか」
「・・・いいえ、まだ内部の特異生物がエネルギーを吸収する能力を持つかどうかは分かりません。耐久卵の卵殻が持つ特異な能力かも知れませんし。とにかくこれ以上卵が成長する事は防ぐべきです」
「分かりました、以後の攻撃は直接打撃を中核に据える。戦車戦用意、拡大距離市町村に避難指示を」

 小田切指揮官が指示すると、参謀達は通信士達に命令を伝達させた。
 爆心地に近く、戦車内で容赦なく照りつける爆熱と降り注ぐ破片に耐えていた戦車隊は主砲の照準を巨大化した卵の中心へと設定し、戦車壕の中から移動を開始する。
 一列横隊で隊列を整えると、各車は狙いを定めた。
 これは曲面を描く卵殻に弾芯が弾かれることを防ぐためだが、打撃を一点に集中できない欠点がある。
 硬度と厚さが分からない為に貫通出来るか不安であるが、孵化する前に叩いて起きたいので事前の調査無しで攻撃を開始する。
 各車の主砲塔から放たれる鋭く重い轟音が飛び散り、徹甲弾が一キロ先の卵めがけて飛翔する。
「弾ちゃ〜く、今」

 指揮所に観測員の声が響く。
 発射された砲弾は爆発しない弾種なので全く目立たなかったが、灰色の卵殻には命中した数の穴が開いた。
 その様子を確認した戦車部隊長は弾種を徹甲瑠弾に変更、自動装填装置から砲弾が主砲へと送り込まれた。
 各車両は最初に命中させた箇所に照準を補正、ただでさえ世界一の命中精度を誇る射撃統制装置が職人芸とも呼べる精密さで微修正される。
 全車修正が終わった後、一斉に射撃が行われた。
 そのほぼ全弾がピンホールショットと成り、卵の内部で破裂する。
 ビシッと音を立てて一直線に罅が走る。
 もしも内部の怪獣が未成熟ならばこのまま死滅する可能性もあるが、何しろ怪獣と云う存在は非常識極まりない。
 次の瞬間、卵殻の上半分が吹き飛んだ。
 すると四角く光る二つの光源が姿を現し、生革をこすり付けたようなギシギシとした不気味な音が轟く。
 残りの卵殻を弾き飛ばし二本の巨大な鞭が飛び出した。
 卵殻が邪魔なのか、それは躯をクネらせて立ち上がる、その身長は約四五メートル。
 棘の生えた二つの鞭状の触手があり、ふたつの発光体の下にはテニスラケットの様な赤い体表が見える、だが口はない。
 その姿に既知の生物に該当する様な特徴は見られなかったが、中心線で二つに割れた蛇腹状の腹と無数の棘が生えた背中が確認できる。
 全く未知の生物にしか見えないのだが、全身が姿を見せた事でその特徴有りすぎる形態に全員が唖然とした。
 巨大な口が開き、眠そうな眼が付いた顔が下にあった。
 つまり逆立ちしたかの様な特異な姿がそこにあったのである。
 流石の長峰もどう分析したものか悩んでしまったが、その時天幕に同席していたMATの岸田文夫隊員が声を上げた。

「あれは古代怪獣ツインテールだ!」

 いきなりの声に全員の視線が集まる。

「以前調査した文献に載っていた、中生代ジュラ期に活動していた巨大生物で地底怪獣グドンが常食としていた、とありました」

 天幕中の注目を浴びていると気づいた岸田は自信ありげに報告をした。
 長峰は古代にまで遡る特異生物の資料があると知り、興味が沸いたが現在必要とされている物についての情報がないか質問する。

「その資料にはツインテールについての他の情報は有ったんですか? 例えば高温を吸収するような」
「いや、それについての情報は記載されていなかった。流石に化石からではそこまでは分からなかったらしい」
「では地底怪獣についてはどの様な、白亜紀までには絶滅したのでしょうか」
「確かにその後の痕跡は出ていませんが、それを言うならばツインテールも同じです。これが時空融合の結果なのかどうかは分かりませんが」
「なるほど」

 そうこうしている間にツインテールは海の方へ向かって移動を開始した。
 愛鷹山の裾を越えるとすぐに海となるが、そこへ至るまでに東名高速道路や東海道新幹線や東海道本線と云う重要な幹線が走っている、そこへ至るまでに足止めをし、止めを刺さなければならないのだ。
 小田切指揮官は予め設定していた地域割り地図と現在地を確認し、戦車隊に足止めを命じる。

「では敵怪獣の現在地、丁6番に留める為に戦車隊、及び自走砲部隊に攻撃命令を。また、メーサー部隊に対し試験攻撃を命令、敵がエネルギーを吸収する様子があれば直ちに攻撃を中止する様にしなさい」
「了解」

 各隊に指示が下され、先ほど効果があった徹甲弾と徹甲瑠弾を用いて攻撃するが、堅くて柔軟で反発力が高いと云う肉体に阻まれて貫通されずに弾き返されてしまった。
 だが、少なからぬ刺激を感じているのか、進撃が鈍くなる。
 攻撃自体が効かなくとも足止めに成功しているので有れば攻撃は有効である、今度は瑠弾も混ぜて感覚器があるだろうと思われる上部の発光体周辺と顔を目標に攻撃を集める。
 その間にツインテールの進行方向へ展開を完了した六六式メーサー殺獣光線車と〇式メーサー戦車が、鎌首を擡げるようにパラボラをツインテールに向けて構える。
 六六式一号車の指揮官、家城茜は照準を上部に光る発光体に合わせた。
 上部は動きが激しく命中が難しいが、中距離であるこの位置から地上に近い頭部を狙うと地面に遮られ、下手をするとフレンドリーファイアーの可能性があったので諦めざるを得なかった。
 事前に励起させて置いたメーサー発振器の準備は整い、茜隊員は引き金に指を掛ける。
 左右に揺れるツインテールの動きを予測し、タイミングをはかって引き金を引く。
 するとパラボラの根本に設置されたメーサー発振器が青白く発光し、先端に設けられた集束レンズへと集結する。
 放電を引きながら青い光線は狙い誤たらずツインテールの発光体の直下へと命中した。
 その強大なエネルギーは確実にツインテールの躯を灼き茶色い体表を真っ赤に変色させる。
 観測員とSCEBAIの研究員は観測データーを分析、報告した。

「メーサー砲による攻撃、効果認む。エネルギー吸収による敵の強大化は認められず」

 その報告に小田切指揮官は全メーサー車による攻撃を決断し、直ちに命令を下す。

「全メーサー車は直ちに全力攻撃、敵を殲滅せよ」

 下った命令により、射撃待機していた各メーサー車もすぐさま攻撃を加え始める。
 空気を切り裂き数条のメーサー光線がツインテールに命中し、その前身を焼き付ける。
 ツインテールは激しく身を捩り鞭を振り回すが、自動追尾装置によりその大部分が命中する。
 だが、全く無駄という訳でもなく、掻き乱された空気によって軌跡が歪んだ光線が虚空へと消えることもあった。
 何しろ通常の大きさの鞭ですら先端は音速を超えるのだ、二〇メートル近い鞭状の触手の先端は超音速となる、空気を切り裂き真空を作り出し、又は圧縮して空気の壁を造るのだ。
 それはともかく、ツインテールの前面はたちまちの内に激しく灼かれた、それと共にある現象が発生しつつあった。
 ツインテールの厚い体表が焼け、体内の肉が焼け始めると気化したガスが辺りに漂い始めたのである。
 辺りに広まりつつあるそれは、人体の感覚器を通して人間の本能に多大な影響を与え始めていた。
 天幕の机で会戦中のデーターを検討していた長峰は、先ほどから感じ始めていた異臭が耐え難いほどに自分を刺激し始めている事を自覚し始めていた。
 室内に設置されている酸素濃度計及び毒ガス検知器に異常を示す数値は出ていない。
 周りを見渡すと、どうやらほぼ全員が自分と同じ反応をし始めている様子が伺えた。
 そして彼女は、内からこみ上げる欲求に耐えかねて、今ここでは言ってはならない事を呟いてしまったのだ。

「エビフライが食べたい」

 小さくポツリと放たれたそれは、ザワついた喧噪の中で異様に良く響いた。
 ツインテールの灼ける匂いは耐え難い芳香となって人間の食欲中枢を刺激していたのだ。
 彼女の心の底からの呟きはそれに対するリアクションも多数に上った。

「俺はエビ天蕎麦が」
「エビ天丼こそ最高だ」
「普通に海老の天ぷらが好きだなぁ」
「桜エビのかき揚げに勝る物はないって」
「僕はエビ満月が、好きだ」
「海老チリが」
「中華街で食べる海老ソバが美味いんだ」
「普通は海老せんべいでしょう」
「私はカッパえびせん」
「止められないし、止められない・・・。ふぅっくぅ〜海老が喰いてぇ」

 公式調査に『エビの味がする』と書かれているツインテールが発する物凄い濃厚な海老の香りに食欲が激しく刺激されてしまい、この周辺にいた人達の心の大半がそっちへと持って行かれてしまう。
 最早これは毒ガスと呼べるレベルだ。

「全員落ち着きなさい、直ぐに目の前の作業に集中するのよ、任務を済ませてからにしなさい」
「ちなみに小田切陸将は何を?」
「エビのカクテルサラダか、伊勢エビのグラタン焼きね。先月最後の独身仲間の結婚式で出たのが忘れられなくてねえ」
「ああ、結婚願望が強そうですものね」
「お黙りっ!」

 此処に至り、小田切指揮官は指示を下す。

「状況、ガス。マスク着用、急げ」

 小田切指揮官の指示に従い、自衛官達は急いでガスマスクを取り出し、隙間が空かないようにキツく締め付ける。
 実際の所、ガスに合わせて濾過する吸収缶を取り替える必要があるのだが、幸いな事にそのままの吸収缶に付いていた活性炭の吸着作用と面体のゴムの臭いで充分に中和する事が出来た。
 勿論、自衛官達以外の特異生物部の人間も自前のガスマスクを着用が済んでいる。
 特に特異生物部の場合は生物由来の毒ガスを浴びる可能性が高く高性能な物を使用していたので、自衛隊の物よりも高い効果を上げているようだ。
 さて、思わぬ攻撃に気を取られてしまったが、ツインテールへの攻撃は順調に進み、メーサービームの熱線によって真っ赤に変色した躯は網焼きの海老のように仰け反った。
 このままで行けば作戦は完遂する。
 終わりが見えてきた事に安堵の空気が流れ始めた時、地面が揺れた。
 震度にすれば2位だろうが、明らかに砲撃やツインテールの挙動に伴う振動ではなかった。
 長峰はSCEBAIのデーター表示を横目に携帯で気象庁のデーターベースを呼び出す。

「富士火山帯が近いから、砲撃でマグマを刺激したとか。震度2、震源地下1キロ、震源地は静岡県御殿場から沼津方面へ移動中!? これは」

 彼女が一番印象深く覚えている移動地震と言えば仙台壊滅の原因となったレギオンだが、何の脈絡も無しに・・・脈絡と言えばツインテールを捕食していた特異生物がいたと云う情報が有った、確か地底怪獣グドン。
 これだろうか。
 彼女は確信を持てないまでも素早い対処に必要かと思い、意見を述べる。

「小田切指揮官、今の地震ですが移動性地震、と云うよりも地下を何者かが移動してきているようなデーターが出ています。岸田隊員の資料にあった地底怪獣の可能性が高いかと」
「地底ですか、ウルトラ警備隊のマグマライザーは使えますか?」
「いえ、南極決戦に備えて太平洋を移動中です」「そうですか、移動性地震源の現在の位置は特定出来ますか?」
「各地地震計のデーターを総合しても確度の低い予想値しか出ませんが、恐らく十分以内にこの場所に出現する筈です」
「ふむん、地底怪獣がツインテールを捕食する関係にあるとすれば、その行動目的はツインテールの捕食にあると見て良いでしょう。だったら、今は全力でツインテールの撃滅に専念するべき。食餌中は移動、及び戦闘行動は少ない筈です」

 小田切指揮官が視線で長峰に確認すると、同意したのか頷き返した。

「では、地底怪獣が地上に出てくる前にツインテールの息の根を止めるように攻撃を強化。地底怪獣に対しては地上に出現後、会戦設定エリア外に移動する場合に限って攻撃を許可する」

 小田切指揮官の指示に従い、もうほとんど移動出来ないツインテールに対して自走砲部隊に加えて砲兵部隊からも全力で撃ち放たれた砲弾が雨霰の様に降り注いだ。
 メーサービームや徹甲瑠弾によってダメージを受けて劣化した皮膚を爆風と破片が抉り、その巨体故に即死こそしない物の見た目で致命傷を与えているのが理解できる。
 胴体下部の移動用の触手も破壊されており、こちらは既に時間の問題だった。。
 そうして過ぎること約十分、ほぼ動きの止まったツインテールから五〇〇メートルほど離れた場所から土煙が激しく吹き上がる。
 陥没した地面から内側に大きく湾曲した二本の角が見えたかと思うと、ツインテールの物よりも長い鞭状の触手が飛び出してきて激しく地面を打ち据える。

「全隊攻撃中止、ツインテール及び地底怪獣との距離を取れ。メーサー部隊は直ちに第2防衛線の集結地点へ移動せよ」

 小田切指揮官が指令を下すと、各部隊は攻撃を停止、比較的近くに位置していた戦車部隊と中距離から攻撃していたメーサー部隊はそれぞれ移動を開始する。
 陥没した孔は更に広がりを見せ、そこから堅く角張った頭部が姿を見せる。
 頭部の前方よりに朱く発光する二つの眼球が辺りを見渡し、高く響きわたる雄叫びを上げた。
 ビリビリと空気を震わせ、周囲を威圧したそれは腕を高く上げると地面に叩きつけるように打ち付け、その反動で身体を地面の上に引きずり上げる。
 全身は白褐色をし、その堅い表皮のあちらこちらに刺々しい角が生えており、全体の形は二足歩行の恐竜に酷似しているが、長細い尻尾は両腕と同じく鞭状をしていた。
 素人目には頭部の二本の角と両腕と尻尾の鞭、朱く発光する眼が特徴として見えるが、特異生物部の長峰博士にはそれ以外の特徴が目に着いた。

「指が、無い。足は完全に靴状で指の痕跡も見られず、両腕の鞭の付け根も間接の数からすると手首に近いし、鞭自体は腱と皮膚から構成されている様に見える。分類するとなると無指類、かな? 新しい区分に成っちゃうけど」

 長峰博士は新たに姿を見せた特異生物の分析に掛かった。
 本来ならば生体活動等から行動パターンの分析を行うのだろうが、残念ながらここは戦場である。
 今すぐにでも『敵』の弱点を探し出し、助言をしなければ。
 問題はツインテールには効果があったメーサー砲が地底怪獣に対して効果があるのか、否定的な所だ。
 何しろ、地底というのは意外と熱い、地下数百メートルの炭坑内部ですら崩壊熱によって作業員が熱射病で倒れる事すら有ったのだ、ましてやマグマ近くまで潜れるのであればどうであろうか、耐熱性は非常に高いと考えざるを得ない。
 だが、二足歩行型の特異生物に有効と思われる戦術が使える筈だけども、指が無いのは効果が下がる可能性が高い。

「長峰博士、地底怪獣に対する戦術に関して意見は無い?」
「はい、敵は二足歩行を行っています。足元を砲弾によって攻撃することで歩行を困難にする戦術が有効かと思われます、ですが見ての通り足に指が存在しないので痛覚による追加効果は望めないかと」

 つまりは人間よりも足の裏に掛かる単位面積当たりの荷重が大きい怪獣の歩行を困難とするべく、地面を耕し泥沼を歩くようにする作戦である。
 本来ならば、足の踏ん張りを担っている足の指を攻撃することによってバランスの制御を困難とさせ、又、足の小指をタンスに打ち付けた様な激痛を与える事を追加効果とするのだが、指自体が存在しないので有ればそれも出来ない、と云う事だ。
 勿論これは行動を阻害する為の予備作戦であって、ダメージを与える為の作戦は別にある。

「来た時と同じように地底に逃げる可能性はどうかしら」
「地底怪獣はツインテールに異様に執着しているように思われますので、多分、逃亡することはないかと」
「なるほど、では陸自はグドンに対する攻撃を続行。トドメは海自のアレを使いましょう」

 小田切指揮官は方針を固めると、予備戦力として確保していた海自の艦隊へと連絡を入れた。
 現場である富士演習場から直線距離で三〇キロほど離れた駿河湾沼津沖に打撃護衛艦「武蔵」を中心とする艦隊が遊弋していた。
 起工時には戦艦であったが時空融合後に打撃護衛艦と艦種変更された武蔵は、二ヶ月ほど前に長崎で艤装を終えたばかりの新造艦であり、刻々と迫り来る南極決戦へ向けて戦力化を急いでいる段階であった。
 時空融合後には現代戦に合わせた戦力を保持する自衛隊が中心となって戦力の再構築が始まった為に戦艦と云う時代遅れの艦種を戦力化すること事態が無駄なのではないかと建艦自体が中止され掛けた経緯を持つ。
 その後の現代戦では想定し得ない(※注・誰がロボット兵器や怪獣との戦闘を想定出来ると云うのか)戦闘経験と、第二次世界大戦前の帝国軍の戦力化に伴い無事に建艦に漕ぎ着けたのだが、武蔵の目指すべき建艦コンセプトは紆余曲折する事となった。
 対空ミサイルでは迎撃不能なビーム兵器が平然と出てくるこの世界の戦場に於いて現代型の護衛艦では無抵抗で撃沈もあり得る事から、敵の注目を引き、攻撃を引き受ける事を目的とした被害担当艦として高い防御力を付与する事となった。
 また、防御だけでは敵に無視されてしまう可能性が高いので、敵に脅威を与えられるだけの強力な兵装も与えられている。
 船体そのものの防御力としては新規の装甲材の採用や装甲形状と積層装甲等の追加装甲、光子力研究所やウルトラ警備隊から技術支援を貰ったバリヤーシステム、三重底や水密区画と注排水能力等の硬防御は勿論、バルカンファランクスやパルスレーザー、ビーム攪乱剤散布ミサイルやその他対空ミサイル等の軟防御も充実している。
 硬防御による被害担当艦である事から、自動化省力化ロボット化とアンドロイドを利用した人員削減がより一層進められており、故意に爆発させなければ爆発しない核融合炉の採用、増加装甲板によるステルス形状化など最新技術の塊である。
 ここまで来ると空さえ飛べれば『僕の考えた最強の戦艦』そのものと言えそうだ。
 勿論、身体の神経系であるコンピューターネットワークも進歩しており、網の目状に張り巡らされた通信網によって一部が寸断されても目的の部署に連絡が通るようになっている。
 その神経系の大脳部分に当たる中央コンピューターは第一楼艢の基部に設置されたメインコンピューター室に鎮座している。
 その部屋の一角に鏡面仕上げが施された直径1メートル程の柱が立っていた。
 それはそのまま上に伸び、第一艦橋まで届いている。
 構造を考えるとエレベーターの様に思われる事が多いのだが、実際には艦長以上の役職の者にしか知らされていないシステムであったのだ。
 『船魂』システム。
 時空融合後に数多の法則を持つ世界が組み合わさったが、その中にはオカルト分野が社会的に確立した世界があった。
 元々、船などには自然発生的に霊的存在が憑くことがその世界の霊能力者によって確認されていた。
 『彼女達』ならば自分の身体の事ならば誰よりも詳しく理解している筈、もしも船魂自身が護衛艦を操作する事が出来ればそれは最高の操艦になるのではないか、と考えて新造艦に設けられたのが船魂システムである。
 が、今までの所、一度も起動したことはない、搭載された全ての艦に於いてである。
 未だに解明が進んでいない神秘学の一分野である霊子工学は未発達であり、手探りの段階であるからだ。
 本来ならば人員が退艦し、操艦が不可能になった段階で起動出来れば良いのだが、船魂には沈没する航海の出航時にその船から離れてしまうという習性が有る故にそれも望めないのだ。
 根本的なコンセプトに間違いがあるのは、未だに霊子工学が発展を始めたばかりの技術であるから仕方がないと言えるかも知れない。
 さて、そんな武蔵の楼艢の最上部に露天監視所が設置されているのだが、そこに長い黒髪をポニーテイルに纏め鞘に包まれた日本刀の先を床に着けて柄を握り、剣道着を着た十代後半位の少女が右舷の陸地を眺めていた。
 そこからは富士の絶景が望めるのだが、彼女はその手前右側にある愛鷹山の方面を頻りに気にしている様子である。
 山に遮られて直接視認出来ないが、先程から大量の煙が立ち上り、数条の光線が空に走っていた。

「目視は出来ないか、ふむ、対地攻撃が初任務とは、いや時代遅れの代物と蔑まれるよりはマシか」
「ハイ、不幸中の幸い、と云っては何ですけれども、この世の中ではわたくし達の力が必要とされていますもの。それが花形の艦隊戦ではないとは云えども、誉れに違いはありませぬ」
「む、雪風か」

 武蔵が横を見ると身の軽そうな姿をした女性、彼女と同じ船魂が立っていた。
 奇しくも武蔵の左舷で艦隊を組んでいる同位置に当たる。

「まあ確かに、この世界では艦隊戦は望むべくもないが、だが最初の標的が『巨大な怪異』だとは思いも寄らなかったぞ」
「元の世界とは異なる世界が合わさったのですもの、元の世界の常識に捕らわれてはいけないのです」
「何とも難儀な事だな。しかし、数ヶ月後に控えた大作戦に合わせ急いで竣工したとは云えこの武蔵、長崎の造船所で艤装が済んだばかり故に分からぬ事ばかり、完熟航行は昨日済んだが、大丈夫だろうかとふと心配になるものだ」

 武蔵はキリリとした精悍な顔に一抹の不安を覗かせる。

「その為の演習でしょう。最初の砲撃こそ外しましたけど、その後の命中率は八〇%以上、充分に使用に耐えますわ」
「そんな物か」
「案ずるよりも産むが易しとも云いますし、恐らくは反撃を受けることもなくアウトレンジ出来ますわ」
「しかしそれでは正々堂々とした斬り合いは出来ぬ、卑怯ではないのか」
「古来より、日本の武器は刀より槍、槍より弓、弓より鉄砲、そして大砲、航空機、誘導噴進弾とより長距離の武器が戦場では好まれてきました。決して日本の伝統から外れている訳ではありません。最初の一撃を与える事を『一番槍』、戦上手のことを『弓取り』と申しますでしょ」
「ふむ、確かに。どうも『武蔵』と云うと剣豪宮本武蔵に引きずられてしまうな」
「ふふ、ならば目の前の戦に集中しましょぅ、貴女が気に病んで機関故障でも起こしたらどうするのですか」
「む、それは不本意であり、本艦の乗組員に迷惑を掛ける事になろうから自重せねばならないな。自らの意志で戦に望めないのであるならば、せめて、私に乗り込む兵達に望むべく最高の状態で戦に集中して貰いたい物だ」
「はい」

 船魂達は陸自の観測隊から送られてくる座標情報を衛星位置情報と照合しながら追尾する作業に集中し始めた。
 彼女達が集中することによってより早く、より精度の高い作業が行われる。
 そして厳重な装甲に守られた弾薬庫のエレベーターから『対機動兵器』用の多弾頭銛弾や徹甲榴弾が昇って来る。
 この砲弾は単に弾道軌道を描いて着弾する通常弾と違い、目標に対して誘導性能を持つスマート砲弾である。
 とは云え、少し大きめの風防にキネティクス誘導体式のパルスバーニアが付いているタイプなので、大きく針路を変更は出来ない。
 弾道の頂点から数度のみの微修正だけが可能なのだが、その風防、弾頭共に人間が持てる大きさの物ではなかった。
 よって機械の補助で以て主砲の薬室内に装填されている。
 勿論、砲塔員が命令書を確認し、指差呼称を行いながら確実に信管の安全装置は解除されていた。
 全てが実弾である。
 そう、これは演習ではない。
 打撃護衛艦による艦砲射撃が実行されようとしていたのだ。
 ただ、地図を参照してもらえば分かるのだが、富士演習場と沼津市沿岸との間には愛鷹山(最高峰は位牌岳一四五八m)が聳え立っている為に間接射撃に成らざるを得ない。
 新型の誘導砲弾とはいえど誘導範囲は狭い、区画を区切って、標的の移動先に砲撃しなければならないのだ。


 補足。
 この戦い、打撃護衛艦による艦砲射撃によって止めを刺された対怪獣戦闘で得られた経験則がある。
 対怪獣兵器として開発されたメーサー兵器は確かに有効だが、直接打撃力を叩き込める砲撃も対怪獣兵器として有効であると。
 だが、船と云う大輸送力を誇るプラットホームだからこそあの大口径砲を運用出来るのであり、直接怪獣と対峙する事の多い陸自にはその能力を持つ「兵器」が開発保有出来ないのである。
 そうして一部の幹部に強迫観念の様に残った思想が後に、HWR−00−Mk.U「デストロイド・モンスター」と云う非軌道陸戦兵器、超弩級二足歩行型打撃兵器に結実する事となる。
 だが、その開発は困難を極めた。
 最初の構想では反重力式やホバー式の陸上戦艦案や打撃型スーパーX案等が検討されたが、重量と飛行の為の重力制御装置の能力から断念をせざるを得なかったのだ。
 苦悩する開発陣達。
 だがそこに、とある筋からエクソダスによってドイツより日本連合に移住してきているケーニッヒ・ティーゲル博士の異世界同位者が用兵側からの要求に耐える兵器を開発していたとの情報が流れてきたのである。
 日本連合のとある研究所で戦闘ロボットの研究開発に携わっていたケーニッヒ博士はその構想を聞くと瞬く間にそれを形にしてしまった。
 全長約四〇メートル、重力制御装置を利用しても相殺し切れない285.5トンにも及ぶ重量は、可動域は狭いが重量物を支える事の出来る鳥脚型二足歩行装置を利用して移動に当てる事とした。
 肝心の兵装は、打撃護衛艦長門に搭載されている液体炸薬式四〇サンチ砲を四門搭載し、左右に三門ずつ大型のスサノオミサイルのランチャーを搭載したデストロイド・モンスターは正に陸上に再現した大艦巨砲主義の権化であり、開発・配備の直後にはマスコミのみならず、軍事関係者からも無用の長物扱いされる事となった。
 確かに機動性の欠片もない移動能力に運動性、待ち伏せを基本とした戦術にしか使用出来なかったが、後に発生した石油怪獣ペスターやエリマキ怪獣ジラース等の戦いに参加し、一撃の元に撃滅した事から評価も上がり、用兵側からの要望が正しかった事を証明したのである。
 限定された運用から生産数は極少数に留まったが、後に環人類圏連合にて強力な打撃力を求められた時には時代が進み、能力向上を見せていた重力制御技術を応用してデストロイド・モンスターを兵装も含めてコンパクトにまとめた上で、シャトル形態・ガウォーク形態、バトロイド形態に可変変形させ機動力を付与させたヴァリアブル・ボンバーVB−6「ケーニッヒ・モンスター」が開発されるに至った。
 世界中を飛び回る環人類圏連合防衛軍にとっては重量級ではあるが、重量比で二分の一と大幅なスケールダウンと、コンパクトにまとめられていてドッグファイトこそ無理な物の長距離移動とそこそこの機動性能を持つケーニッヒ・モンスターはかなり重宝されることになる。
 もっとも、改造計画の中心人物であったケーニッヒ博士本人はモンスターをコンパクトに改造すること自体に反対し、遂には開発チームから脱退してしまう。
 その後になっても試作機である量産型デストロイド・モンスター三号機を改造したケーニッヒ・モンスター試作試験機こそが、本物のケーニッヒ・モンスターであると主張し続けた。
 後に日本連合陸上自衛軍にてそちらがHWR−01「スーパー・デストロイド・モンスター」として少数が生産されるに至る。
 最初は日本連合防衛省もケーニッヒ・モンスターを輸入して任務に使用しようと検討していたのだが、或る要素がそれを断念させた。
 矢張り日本連合にとっては怪獣退治には「大口径砲による打撃力」が必要であり、環人類圏連合が必要とした「戦場での使い勝手」よりも優先させられる要素だったのである。
 非常に鈍足だが戦場まで自力で飛行出来て、大口径砲で敵怪獣を破壊できる、それこそが怪獣と云う人類の天敵が多数発生する事になる日本列島で必要とされる能力だったのだ。

続く。



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