作者:EINGRAD.S.F

スーパーSF大戦


インターミッション 「横島 FILE」 その一



 横島忠夫(18)、世界でただ一人の文珠使いで最強のGS見習いである。
 彼は現在、高校に在籍している学生であり、美神除霊事務所にアルバイトとして勤めている。
 一般的にゴーストスイーパー=GSとは高給取りとして知られて居る。
 彼らは危険を犯して現代科学では解析出来ない旧知にして未知なる悪霊と戦っている故に、その報酬も高額に成らざるを得ないのだ。
 そしてそれは時空融合を果たしたこの世界に於いても同様であった、否、より希少性が増した事やインチキ祈祷師やインチキ霊媒師に飽き飽きしていた他世界の民衆からしてみればより重要性が増したと見ても良いだろう。
 よって、GS世界から来たGS達には仕事のオファーが引きも切らずに寄せられており、特にオカルトアイテムの供給が断たれたにも関わらずそれに代替する手段を持つ美神除霊事務所の稼ぎ高はダントツであった。
 当然の事ながら美神除霊事務所の所長である美神令子はホクホクである。
 得られた稼ぎは財テクに回し、復興期ともあってグングン成長する経済に伴って彼女の財布に更なる利益をもたらした。
 更に、もうひとつの霊力を用いた組織である帝國華撃團とも懇意にしており、そこでの活動により断たれていたオカルトアイテムの供給源の復興にも一役買っており、他のGSにも恩を売る事に成功。
 更には南米に於ける邦人救出作戦では重要な役割を果たし、帝撃の紅蘭と共に神秘学への道筋である精霊石の効用を示した事によって政府にも太いパイプを持つ。
 彼女は今正にこの世の春を謳歌していのだ。
 美神除霊事務所アズナンバーワン!
 これに異を唱えられる者など有る筈が無かった。
 なのに…。























「なのに何でオレはこんなに貧乏なんじゃーっ!!!!」

 と、横島忠夫は住処としている老朽アパートの一室で即席ラーメン(具無し)をすすりながら絶叫した。
 彼の時空融合前の経済状況は親からの仕送り(家賃+授業料)とGSアルバイト時給¥255−(生活費=光熱費+食費)であった。これは一般的に極貧と言って良いだろう。
 それが時空融合後、時空融合孤児として扱われた為に後見人に美神令子が就いた。
 時空融合孤児の保護者は被保護者に対し文化的な生活を送れるようにしなければ成らない。これは当然の事であるが何しろ相手はあの美神令子である。
 法で明確に禁じられているにも関わらず、被保護者である横島忠夫を丁稚扱いとして限りなく低い賃金で縛っていた。
 しかも過去に存在した本来の丁稚は雇い主の元で飢えからは保護されていたはずなのだが…。
 と言う訳で彼の生活水準はかなり危険な域にまで低下していた。
 これでは彼が隠し玉として隠し持っている例の邦人救出作戦で貰ったボーナスに手を出さざるを得ない。
 その金額は百万円、事務所を出た時や気まぐれで進学を決めた時等いざと言う時まで出来る事なら取って置きたい金であった。
 が、背に腹は替えられない。
 このままでは「死」あるのみ。
 飢死とは飢えて死ぬ事を言う、そして成長期の彼が置かれている現状は果てしなく厳しかった。
 実はこれまでにも賃上げ要求を行った事が有るのだが、難癖付けられて現状維持を告げられている。
−−何しろ歩合制にしてくれと言ったらホワイトボードで儲けの差し引き計算をしてくれて、「アンタが歩合制にしたら、給料がマイナスになっちゃうわね〜♪」と脅しだしたのだ。この計算には文珠の引き取り額を0円として計算に入れなかったり損害額を大きく見積もったりした偽計算なのだが、美神令子なら実際にその通りにするだろう。というか文珠の大半は難癖&暴力によって若しくは横島の命綱たるおキヌ謹製の夕食代として美神の懐に入っているのが現状だ。
 とは言え、時空融合後の混乱期に彼が飢え死にしないで済んだのは美神のお影であったのは間違い無いし、その恩もあるので意外と義理難い彼としては強く出たくなかった。
 その他にもここには彼の命綱となってくれた存在があったので今まで耐えて来れたのだ。
 だが、しかし、どうするべきか…悩む横島。
 ただ焦るばかりで決断が着かない彼であったが、ちょっとしたキッカケが向こうからやって来た。

「チクショーッ! 何だかとってもチクショーッ!!」

 苦し紛れに霊波刀を振るってしまった横島、その光る切っ先は心のストレスの大きさそのままに自分で思っていたよりも大きな刃となって安普請のドアを一刀両断してしまった。

「あっ…」

 思わぬ事に「やっちまった、これで修理代が…、余計な出費が…」と呆然となった横島の耳に聞き憶えの有る声が響いて来た。

「よう、相変わらず過激な奴だな」

 のそりと壊れたドアの影から一人の目つきの鋭い小柄な男が姿を現した。声を掛けられた事から分かるように、その男は横島の旧知の男である。

「雪之丞…どうしたんだ一体」
「ふん、オレがここに来たって事は…決まってるだろ?」
「妙神山の修行場なら今は入るのが大変だぞ? お前だって知ってるだろうが」
「ああ、それはそうなんだがな…」

 シリアスな雰囲気で話し始めた雪之丞、だがそれを横島はジト目で睨んでいる。

「おい…」
「なんだ?」
「何気ない風に、大事な人の買い置きをさも当然のように食べ始めるのはどうにからんのか?」
「ケチケチするなよ。それほど貧乏でも無いんだろ」
「貧乏なんだよ。他にアルバイト入れられる程暇じゃねえしよ」

 横島が吐き捨てるように云うと雪之丞はニヤリと笑って横島の肩に手を回した。

「だから前から言っててるだろ。オレと一緒に組んでGS事務所を開こうぜ」
「GS免許もないし、資金も無い。今のままじゃどうにもならねえっての」

 はあっ、溜息をついて諦め顔の横島に雪之丞は哀れみの視線を投げ掛けた。

「…お前、本当に美神の旦那にだまされてるんだな。今の世の中、GS免許があったって、ステータスにはなるが事務所を開くのに必須な公式な免許じゃなくなってんだぞ。GS協会が無くなっちまったからな」
「あっ!?」
「ようやく気付いたのかよ。んでな? 俺達の世界のGSってのは今の世の中で引っ張りだこでな、ちゃんとした形で霊能力が見えるGSは他の霊媒師よりも信頼が有るってんで独立しようとしているGSに銀行や投資家がよってたかって融資の機会を狙ってるんだぜ。知らなかったろ」
「全然」

 自慢気な雪之丞に対して横島は愕然としていた。

「美神の旦那も徹底してるぜ。だから、GSの中でも一位二位の実力を持つ俺達が事務所を開くって噂が流れただけで資金の方はバッチリOKって事だ。納得行ったか?」
「ああ…」
「なら」

 意外と乗り気な雪之丞であったが、次の瞬間横島は絶叫した。

「イヤじゃーっ! あのチチ、シリ、フトモモが拝めなくなる位なら餓死がナンボのモンじゃ!」

 そんな情けない横島の態度であったが、慣れたもので雪之丞もサラッと流した。

「ヤレヤレだぜ。ま、思ってた通りだけどな。で、だ。お前、最近良い相手を見つけたそうじゃねえか」
「相手って?」

 話しの矛先が変わった事に横島は戸惑った。雪之丞だったらもっとしつこく突っ込んでくるかと思っていたためである。

「聞いたぜ。帝國歌劇團の人間に武術を習っているそうじゃねえか。オレを出し抜いて武術のスキルを上げようったってそうは行かないぜ。にしても何であんな踊りのチームに習ってんだ?」
「ん、まあな。以前帝都区で仕事した時にな。それに色々と武術の達人が多いぞ。北辰一刀流の剣術師範代、沖縄空手の師範代に長刀の免許皆伝の持ち主、射撃の名人に軍隊式戦闘術の達人とかな」
「…本当に踊りの団体なのか?」
「…秘密だ」

 横島は苦笑して御魔化した。

「それだけの人間がいるなら、オレも連れてけよ。自分だけずるいぞ」
「う〜ん、そこまで言うなら…ちょっと待て」

 そう言うと横島は数少ない荷物が置いてある戸棚をゴソゴソと漁ると小さな木箱を取り出した。
 電源…と言うか蒸気源を入れるとハム音が流れた。
 暫くダイヤルを回していたが、漸く相手が出たのか小さな画面に向かって話始めた。

「ちわーっス。横島です、あやめさんですか? ハイ、えー、ハイ、そうっス、今からそっち行きますワ。で、ですね。前言ってたアイツ、そう伊達雪之丞が一緒に行きたいってんですけど良いっスかね。いえ、まだ何も話してませんけど。ハイ、あっ良いっスか。じゃあ今から一緒に行きますんでよろしく。失礼しまーっス」

 そう行ってスイッチを切った横島が振りかえって伊達に言った。

「来ても良いってよ」
「そうか、腕が鳴るぜ」

 バトルマニアの血が騒ぐのか、腕を鳴らしながら興奮気味に喋った。

「ただ、…向こうに行ったら分かるんだけどよ。あんまりおおっぴらにすんなよ」
「へっ、ファンにイビリ倒されるってか?」
「そんなんじゃ無いんだけどな」

 ちなみに今は昼のちょっと前の平日である。
 今日の帝劇公演は新しい出し物の準備期間中と言う事で入り口の売店を除いて閉まっている。
 電車を乗り継いで帝國劇場にやって来たふたりは正面玄関から乗り込んだ。
 劇場内に入った横島は直ぐ左手の売店で何やら作業をしていた女の子に声を掛けた。

「どうも、元気? 椿ちゃん」
「あ、いらっしゃい横島さん。アイリスちゃんがさっきからウズウズして待ってますよ」
「あはは、じゃあちょっと急ぐか」
「…横島さん、そちらの方は?」
「ああ、この目つきの悪い奴? オレのダチの雪之丞ってんだ」
「おいっ!」
「へえ〜、歌舞伎役者みたいな良い名前ですねえ。頑張ってくださいね、雪之丞さん」
「え、ああ。…今の子の笑い顔、死んだママに似てる」
「…マザコン…」

 横島に「目つきの悪い」と言われた雪之丞は鋭い目つきで横島にガンを飛ばしたのだが、好意的な印象で接して来た椿の思わぬ誉め言葉に戸惑ってしまった。
 先に歩き出していた横島に付いて行ってから数歩歩いてちょっと気になる言葉だった事に気が付いた。

「…頑張るってなんだ?」

 それは直ぐに分かる事ではあったのだが、今はまだ分かるものではなかった。
 横島は慣れた足取りで帝劇の廊下を歩いてゆく、すると左手にレストランの様な座席が広がっていた。
 客の姿は無かったが、調理した食材の良い匂いが漂ってくる。

「わーいっ! 横島のお兄ちゃんいらっしゃーいっっ!!」

 突然柱の影から金髪ふわふわのお人形みたいな女の子が飛び出して来たかと思うと横島の脇腹にタックルして行った。
 その物凄い勢いは雪之丞の目に女の子がまるで空中に浮かんでいると思ってしまった程である。
 彼女がボスンっと音を立てて横島に当たるが、横島は慣れたものでそのまま抱き止めた。

「アイリスちゃんは元気だなあ」
「うん、アイリス元気だよ、横島のお兄ちゃんは?」
「ああ、(腹が減ってなければ)バッチリさ。いよっと」

 掛け声と共に彼はアイリスを抱え上げ、隣りに立たせた。
 そこへ食堂にいたもう一人の人物がアイリスに警告を発した。

「ちょっとアイリス。いきなりなんですの? お行儀の悪い」
「だってぇ、横島のお兄ちゃんが来てくれたんだもん」
「もう。ダメですわよアイリス。そんな事では立派なレイディになれませんわね」
「むースミレのイジワル、アイリス、もう立派なレイディだもん。ねー? 横島のお兄ちゃん」
「うーん。どうかな? オレは普通の…一般市民だからなあ、ちょっと分かんないな。でも、将来は有望、いや、確実に!」

 力説し始めた横島に「おいおい」と突っ込みを入れるべきか雪之丞が迷い始めた所、炊事所の方から大柄な女性が顔を覗かせた。

「おっ、横島、来てたのか。飯食うだろ!?」
「へっへっへっ、もちろん。これが楽しくてここに来ている様なもんだし、あ、そうそう。今日はオレのダチも来てるんで、頼んます」
「お、横島のダチだって? ふぅ〜ん、コイツはナカナカ…ヤりそうな奴だな。腕が鳴るぜ」

 そう言いながら出て来た女性は背の低い雪之丞に覆い被さるような大女である。しかも、ただ大きいだけじゃない。格闘技で鍛え上げられた筋肉質の均等の取れた他人を圧倒する迫力を持ち、しかもそのレベルも半端では無い事が直ぐに掴めた。
 雪之丞の本能が叫ぶ、それに呼応して身体の奥から思わず武者振るいが沸いてくる。

「へっ、それはこっちの台詞だぜ。オレはいつでも良いんだぜ!?」

 思わず上擦ってしまう声に自分で驚きながらも雪之丞は戦闘体勢を取った。
 だが、その女性はアッケラカンと笑みを浮かべるとカンラカラカラと快活な笑い声を上げた。

「あっはっはっは、こいつぁ確かに活きが良いや。まあそんなにがっつくなよ。まずは腹ごしらえしてからで良いだろ? よし、この霧島カンナ様特製の沖縄料理だ。じゃんじゃん食べろよ、な?!」

 その迫力とは裏腹な満面の笑みで、カンナは大皿に盛られた料理を並べ始めた。

「ぐおおおおおおっ! グワッツグワッツ こらうまい、こらうまいでーっ!」

 いつもの様に豪快な食欲を見せてくれる横島にカンナの頬も思わず緩む。

「へへ、んじゃアタイも…、っと雪之丞、お前も食うだろ? 遠慮なんかすんじゃねえぞ」
「あ、ああ、んじゃ頂くぜ。うおぉおっ! 1ヶ月振りのまともな飯だっ! 食うぞ、食ってやるぜ!」

 横島のスタートダッシュに思わずひるんだが、彼とて欠食児童の端くれである、横島、カンナと共にぐおおおおおおおおおっと物凄い勢いで食事を平らげ始めた。
 で、十数分後…。

「ふいーっ、食った食った」

 三人とも尋常で無い量の食べ物を詰め込んでポッコリ腹が膨れている。

「うおーっ、食った食った。当分動けねーよ」
「食いすぎでキツイぜ。実戦なら…不覚を取っていたな」
「なんだなんだ、これ位で。アタイはこれから腹ごなしにちょいと走り込んでくるけど、どうだい?」
「無理っス。勘弁してくださいっス」
「オレも、…うぅっっ」
「それじゃ仕方ないな。じゃあまた後でな」

 シュタッと手を掲げて見せたカンナはそのまま帝劇の外に駆け出していった。

「なぁ横島、あの人は化け物か?」
「俺達よりガタイが良いからな。女優ってのも体力勝負なんだとさ」
「…なるほどな…」

 心底納得した雪之丞は思いっきり膨れた腹を見下ろして重々しく呟いた。大きく口を開くとミが出てきそうだったからだ。

「じゃあ行くか」
「どこへだ」
「ああ、ちょっとな。お前の事を話したらちょっと興味があるんだとさ」
「オレにか…」

 何やら怪しい想像をしながらも横島に着いて行くと、支配人室という扉の前に立った。

「ここは…」
「テイゲキの責任者の米田一基さんのいる所さ。じゃ、入るぞ。失礼しまぁす」
「おう、横島か入れや」
「失礼…」

 何やら妙な雰囲気の中、伊達は緊張気味な顔で支配人室へと入った。
 その部屋の中には、正面の机に赤ら顔をした初老の男が一人、その脇に髪を結い上げた妙齢の女性が立ち、反対側に短髪の精悍な青年が立っていた。

「ちわっス、雪之丞連れて来やした」
「ほぉ、おめぇが伊達か。ほぉ〜、なるほどなあ。良い面構えしてるぜ」

 ジロジロと雪之丞を観察するその視線に雪之丞は緊張した。
 一般人を装っているとは言え、流石に老いているが歴戦の戦士である米田中将である。雪之丞は柄にも無く緊張をしていた。

「ふむ、オレはこのテイゲキを預かっている米田だ。で、だ、…お前ぇ、霊能力を持っているそうだな。興味があるんだが、ちょいとその魔装術って奴を見せてくれねぇか?」
「劇団で見世物にでもしようってのかよ。オレはゴメンだぜ」
「ふむ、オレが言っているテイゲキってのはな…帝國華撃團なんだよ」
「…どう違うんだ?」
「お前ぇ、口は硬い方か?」
「ああ…仕事ならな」
「そうか、なら百聞は一見に如かず、大神」
「は、」

 モギリの服を来た青年は大小を構えた様な構えを取った。

「雑用員の兄ちゃんが一体なん」
「セイヤアッッ!!」
「だと!?」

 大神が烈迫の気迫を込めると彼らGSとは違う形だが、凄まじい霊力がほとばしった。

「これは」
「帝都に謎の敵が現れているのは知っているだろう」
「おう」
「それに対抗する為の霊子甲冑を操る特殊部隊、帝國華撃團。それが俺達帝國歌劇団の正体だ!」

 大見得を切って米田は背後に掲げられた額装の中に飾られている文字「團撃華國帝」を指し示し、帝國劇場に掲げられている表の顔である「團劇歌國帝」との違いを教えた。
 カムフラージュの為とは言え、口で言っただけでは区別出来ないのは仕方が無い所である。

「…本当か? 横島」

 突然の言葉に「あの帝劇が!?」と、雪之丞は衝撃を受け、少なくとも自分より詳しい横島に確認を取る。半信半疑であったが、彼の真剣な眼差しを受けて雪之丞は納得した。
 普段はチャランポランな横島だが、ここぞ一番と言う時にはこの男以上に当てに出来る奴はいないと心底思っているからだ。

「本当だ。雪之丞」
「それでだ。霊力の研究に横島に色々協力して貰っているんだが、話しを聞くとごーすとすいーぱーって奴には色々個性的な仲間がいるって話じゃねえか。是非とも他の世界の霊能力って奴を見せて貰いたくてな、機会が有ったらって事で頼んで置いたんだ。今までもタイガー寅吉の精神感応能力とハーフ・ヴァンパイアのピートのヴァンパイア能力か。それを見させて貰った。お前も彼らから横島の事を聞いたんだろ?」
「あ、…仕組まれてた、って事かよ。チィッ」
「済まねえな。俺たちも秘密は守らなきゃならないんだが、出来るだけ多くの霊能力者とも会わなくちゃならないんでな。色々と難しいんだよ」
「ほおぅ? なら、この俺の能力、幾らで買う?」
「そうだな…今日は取りあえず横島と同額で50万円ってとこでどうだ?」

 ニヤリとした笑いを浮かべて米田は提案した。それを聞いて二人は驚いた。

「「ええっ!?」   ・・・って何で横島が驚いてるんだよ」

 意外と高い金額に雪之丞は驚いた、がそれ以上に横島が驚愕していた。

「オレが月イチでここに来た時、そんなに出てたんスか?!」
「ああ、美神の姉ちゃんが指定した口座にその都度振り込まれてた筈だが…な? あやめくん」
「ええ。キチンと。ね、大神君?」
「はい、由里君たちと経理の書類仕事した時見ていましたが、キチンと領収書も発行されていました…」
「チクショーッ! あの強欲オンナッ! もう少し給料上げんかーい!」

 大神のその言葉を聞いた途端、横島は絶叫した。自らの境遇が余りにも理不尽な待遇で対応されて来たかと言う事に気付いてしまったからだ。
 だが、それほど彼の実情を知るでも無い米田はその横島の態度に失望を感じた。

「…横島、男がイチイチよお。金の事くらいで」
「俺のバイト代時給二百五十五円で月の手取りが多い時でも五万円なんス、もうそろそろ限界っス。時々ここに寄せて貰った時に栄養補給させて貰ってなんとかやってるんスけど、美神さんが言うには「ここに来た時は女の子に囲まれて食事も貰ってるんだから、その時の分の払いはいいわよね〜」って言ってここに来た時の手当て所か給料から引かれてるんス、交通費も自前なんス!」

 鬼気迫る表情で、血涙を流しながら尋常で無い勢いで独白する横島の迫力に流石の米田も引いた。

「そ、そうかい。それは知らなかったぜ。しかし、お前程の奴がまだ一人前扱いされていねえのか?」

 横島の実力が飛び抜けて優れている事は今までの彼の行動と霊力探知機での霊力値から米田も実感していた。
 幾ら霊能力文化が発達していたGS世界と言えど、勿論横島の上司たる美神もその認識は同様の筈だ。だが、その疑問に答えたのは、意外な事に横島本人ではなく、その好敵手である伊達雪之丞であった。横島本人にその自覚が無いのだから仕方が無いのだが…。

「あの美神の旦那が、こんなに便利に使える奴を手放すわけ無いさ。このままだとコイツは一生美神の旦那の下で文珠を絞り取られた挙句に永遠の下働き間違い無しだぜ。何しろGS仮免を既に取得して居るってのに、所員として雇わないで未だにアルバイト待遇なんだからな。流石の俺も呆れっちまうぜ。しっかし、バイト扱いならいつ辞められても引き止められないってのは承知の筈なんだが、…まぁ、確かにコイツがあそこを辞めるはずは無いって事を美神の旦那も確信しているからなんだろうが、な」

 その情報を聞いて美神に対する評価を改めた米田は対策を練った。このままでは貴重な霊能力者が擦り潰されてしまうのは確実だったからである。
 特に横島の場合、おちゃらけた表向きの性格はともかく意外と生真面目モードの生来の性格であれば未来の帝撃隊員候補の一人として挙げても良いのではと考えていただけに尚更だ。
 もっとも煩悩抜きの横島がどれだけ使えるのか未知数ではあったが…女性だらけの帝撃で健全な男児が、幾ら真面目ぶっていても女性の色香に迷わない筈が無い。生真面目だった筈の大神の現在の状況からしてもそれは明白だ。
 よってそんな心配は要らない、と言う事になる訳だが。

「あの美神の姉ちゃんがそこまで吝嗇家ケチンボだったとはな…良し分かった、あやめ君」
「そうですわね。雇用主、特に後見人も兼ねた人物は契約者に対して十分な給料を払って健康管理もするべきですのに、ちょっと酷いですわね。分かりました、では最低でも交通費と食費、手当ての支給を横島君に手渡しに変更すると言う事で…税込みでね」

 如何にも有能な調子で事務手続きの変更を並べ立てるあやめに横島は尊敬の眼差しを送った。

「有難う御座います、感激っス! 是非ともこのお礼は身体で!」

 うおーっ! と云う勢いであやめに飛び掛かって行こうとした瞬間、何もかも承知していると云った風の微笑みを浮かべたあやめが人差し指でコツンと横島の額をつついた。

「横島君、オイタはダメよ」

 その圧倒的な包容力を持つ雰囲気に押され、さしもの妄想暴走機関車状態だった横島の血の気も鎮められてしまった。
 そのまま支配人室から出てゆくあやめの後ろ姿をぽーっと見送ってしまう横島、とてもらしくない。

「……いいなぁ…あやめさん…」
「うんうん、俺も同感だよ横島君。あやめさんて最高だよなぁ」
「死んだママに…(以下省略)」
「ったく罰当たりな野郎だぜ山崎の野郎もよ」

 男性陣一同の見解が一致したのは有る意味当然。
 この一件で横島には「隣りのおねえさん仲良くしてね派」の属性が強化された。
 因みにこの時の一言が華撃團のメンバーに漏れた為、大神が制裁を受けた事は言うまでも無い。
 帝國華撃團と巴里華撃團の双方のメンバーにだ。

 と、まあ色々とあったのだが、雪之丞の魔装術を米田の目の前で披露した後、帰って来たカンナと組み手の特訓をしたり帝撃の霊力測定機で霊力の測定を行った。

 世も更け始めた頃、ディナーも一緒にどうぞ、という誘いを受けて帝劇のレストランで夕食を呼ばれていた時の雑談で横島に関係する事柄が出て来た。
 時空融合孤児となった横島の話題だったのだが、親の居た会社から給付金を貰っていないのかと云う話題で

「いや…良く知らないんスけど、確かこの世界に来ていたって云う話しは聞いていないっス」と横島が曖昧な事を言っていたので何処の会社なの? と聞いたところ「村枝商事っていう商社っス。聞いた事ないでしょ?」とのたまった。
 幸いこのメンバーの中には財界に詳しいトップスタアの神崎スミレ嬢が居たため、直ぐに答えが返って来た。

「あら、村枝商事でしたら来てますわよ。現在は中華共同体に支店を作って進出の足掛かりにするって情報が商業誌に掲載されてましたもの」
「スミレさん、本当ですか!?」
「あら。トップスタアであり神崎重工の後継者候補筆頭のこのワタクシの言葉が信用できないと言うんですの? 不愉快ですわね」
「じゃあ、本当なんですね!? じゃあ明日早速行ってみます」
「ええ勿論。ご両親の安否も何か分かるかも知れませんわね。是非行ってみなさいな」

 そう言ってスミレは微笑んだ。彼女としても自分が両親とともに出て来ただけに時空融合孤児に対しては引け目を感じてしまうのだ。

<後書き>
 と言う訳で後書きです。
 今回の作品はGSモノの王道である横島×美神を目指して書き始めた物です。
 おや? 何故か読み返してみても美神の事が良く見えない・・・本人があんなキャラクターだから仕方がないですねー。
(みょんみょんみょん)
 お、懐かしのキャラコメ空間発生音が
「ちょっとアンタ! ナニ勝手な事言ってんのよ、しかもオーナーのアタシと丁稚の横島クンをくっける? ハッ、バカにしないでよね。アンタ一体アタシを何だと思ってんのよ」
 強欲で金の為なら何でもする最低女
「なっ・・・アンタ命は惜しくないようね」
 しかし、それは彼女が創り上げた仮面であり、彼女の隠された本性は気が回って優しくてでもそれを素直に表現できない意地っ張りでナイーブな可愛い女の子
「えっうっい!? ・・・」
 だったのだが、仮面が厚く成りすぎて正真正銘の厚顔無恥なクソ女
「死にさらせーっっっ!!!」
  ドカズカバキッ!
「フンッ アタシを余り怒らせると・・・次はないわよ」







 になりかけているから早く素直になれって・・・ガクッ




日本連合 連合議会


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