作者:EINGRAD.S.F

第二部 中華共同体にて 魔神我計画 予告編




 時は戦国、波乱の時代。世界中に吹き荒れる暴力の嵐にあって正義の旗印の元にその嵐にあらがい続ける漢達の姿があった。
 時空融合後に起こった、あのもっとも悲惨な出来事から数年が過ぎていた。
 関係各者の心に深く刻み込まれた南極大陸での決戦である。
 ある者は罪の意識に打ちひしがれ自らの翼を広げられず、ある者は心を閉ざし絶望の中、ただ生きているだけと云う者もいた。
 だが、彼らが守ったこの世界を魔の手から守って見せると硬く心に誓う熱き魂の持ち主も又、少なからず存在した。
 稀台の政治家、加治によって提唱された人類社会自体を守る世界的な組織「汎人類圏防衛機構」は今漸くその姿を現しつつあった。
 彼らは国家の枠組みを超え、人類の…否、知的活動体全てを守るべくその活動に参加し始めていた。
 だが、彼らの真の敵の姿はその姿を表舞台に現してはいなかったのである。
 これから述べる出来事は、それら膨大な出来事のたった一片の出来事である。
 その事件は中華共同体に設置された国際警察機構の秘密基地にて実行されていたある計画が発端であった。
 この頃、世界に偏在していた旧国際的防衛機構の大半が参加、若しくは協力を表明していた「汎人類圏防衛機構」であったが、後の中心地であるオリュンポスは未だに大西洋に姿を現していない。
 その為、装備計画、その他は各地の協力組織に分散して行われていた。
 そのひとつが中華共同体の燕国の首都にて共同体の最高会議が設置されている北京(旧燕都)の郊外にある旧原子力発電所跡に設置されたジャイアントロボの基地にて行われていた。
 その計画とは…。

 日本連合の若き天才博士、兜甲児。

 甲児は自ら引いた設計図を恐ろしい形相で睨んでいた。

「マリア…、オレはとんでもない物を作ってしまうかも知れない。爺ちゃんが構想だけ残していた魔神皇、今のオレなら実現出来るはずだ。しかし…、これを手にしたものは本当の意味で神にも悪魔にもなれるだろう。そうなったらオレは!」
「甲児…」

 記憶喪失の男、巴武蔵。

 既に汎人類圏防衛機構に参加が決定していた特機自衛隊のゲッターチームは中華共同体政府からの要請でこの基地の警護任務に就いていた。
 そんなある日、流竜馬は基地の病院区画の中で信じられない人物に再会した。

「武蔵! 武蔵じゃないかっ!」

 ゲッターロボでゲッター炉を暴走させ恐竜帝国と共に死んだはずの戦友、巴武蔵の姿があったのだ。
 竜馬は思わず武蔵の肩を掴んで彼の名を叫んだが、彼の瞳は当惑した様子であった。まるで知らない人物に呼び止められたような。

「…お前は…誰だ…」
「俺を覚えていないのか?! 俺だ、ゲッターチームの流竜馬だよ」
「…済まないが、覚えていないんだ…」

 思わず口篭る竜馬を尻目に彼は重たそうに身体を引きずりながら廊下を歩き始めた。
 諦められ無い竜馬は後ろから武蔵の肩を掴もうとしたが、それを引き止める人物がいた。

「今はそっとしておいて下さい」
「君は?」

 竜馬がその声の主に振り返ると、そこには若い女性が立っていた。

「失礼、私は元インターポールの捜査官、仁科詩織と申します。もっとも鉄人チームの詩織の方が有名でしょうけど」

 そう云うと彼女はくすりと微笑んだ。

「彼については私の上司が説明されると思います、よろしければこちらへ」

 竜馬がおとなしく詩織の後に着いて行くと、ある事務室へと通された。

「室長、特自の流竜馬さんです」

 正面の机には恰幅の良い50代と思われる男が座っていた。

「うむ、ごくろうだった。あなたの名前は良く聞きますよ。ようこそ流竜馬さん、私が正義の味方で有名な金田正太郎です」

 彼は臆面も無く堂々と言ってのけると、少々面食らっている竜馬を後目にズバリ用件を述べた。

「君が聞きたいのは巴武蔵君の事についてだね」
「ええ、武蔵は一体、どこで」
「彼は3年前にニューヨークに忽然と現れたそうだ。ゲッターロボの残骸と共にな。ただ、酷い放射線障害に掛かっていた上に記憶が失われていたのでね、つい最近追跡調査で発見されたので我々が保護した。恐らくは恐竜帝国に特攻しゲッター炉を暴走させた瞬間、時空融合に巻き込まれた物と推測している」
「そんな…だが、生きていただけでも…俺は…」


 汎人類圏防衛機構に採用されるロボット兵器は優れた科学技術を擁する悪の組織にとっても垂涎の獲物として映っていた。
 この基地で作られている新たなるスーパーロボットの情報は当然彼らの耳にも入っていた。
 暴力を以って事に及ぶそれらにとってこの基地を襲撃するのは当然の義務であったのだろう。
 ただ、彼らとて学習はしていた。
 戦力は集中してこそその効力を発揮するのだと云う事を。

 因縁と執念のあしゅら男爵。

「「はぁっはっはっはっはっはっ! 聞けぇいっ! 愚かなる人間共よ」 我らが盟主ドクターヘル様の命により!」 このあしゅら、貴様らが作っている最強のマジンガーが産声を挙げる前に叩き潰してくれるわっ!」

 そう言うとあしゅら男爵はバードスの杖を振り上げ、待機していた50体もの機械獣に命令を下した。

「「行けぃ、最強機械獣軍団よ。国際警察機構の基地毎新型のマジンガーを葬り去れぇいっっ!!!」

 我ら最強ロボット軍団。

「ゲッタァァアッッ!! ビィイイイームッッ!!!」

 ゲッタードラゴン・パイロットの流竜馬が叫ぶ!

「ブレストファイアアアアッッ!」

 マジンガーZの兜甲児が叫ぶ!

「デラックスボロットパンチ、だ〜わさ」

 ボロットのボスが叫ぶ?

 あしゅらの号令と共に一斉に襲いかかってきた機械獣軍団。
 機械獣軍団に対抗するマジンガーZとゲッターG、そして支援機の元祖ボスボロット。
 必殺技でまとめて、小技で一機ずつ確実に倒して行くゲッターGとマジンガーZ、そしてエネルギーと弾薬が少なくなるとボスボロットはその装甲材の割には頑丈な機体で激しい戦場に突入し、彼らに補給を行う。
 ボスボロットはスクラップから作られた単なるポンコツと思われがちだが、単純な出力ではマジンガーZにも負けない優秀な機体なので、DXボロットパンチによって撃破される敵機もある。
 だが、如何な強力なスーパーロボットと言えど数の理論で押してくる機械獣軍団に徐々に押され始めた。
 ただ単純に敵軍の進行速度が敵一機当たり撃破するのに必要な時間よりも早いと云うだけなのだが、基地の内部に侵入されたら彼らの負けは決定されてしまう。
 だが、その時援軍の知らせが来た。
 この基地をベースにしているジャイアントロボが飛んで来ると云う事である。

 ブラック銀鈴。

 だが、それを妨害すべく行動する別の敵が存在した。
 ジャイアントロボと草間大作の宿敵であるBF団である。
 だが、今回の敵はいつもと一味違っていた。

「銀鈴さん? まさか、本当に銀鈴さんなんですか?!」

 草間大作の前に立ち塞がったのは、かつてBF団の大作戦「地球静止作戦」にてその若い命を散らした国際警察機構のエキスパート、銀鈴の姿であった。
 大作の言葉に口を歪ませた銀鈴は黄色い手袋をはめた右腕を高々と上げ、身体のシルエットが露わになった黒いミニのチャイナの腰に左腕を当てたポーズをとっていた。
 その容姿は以前と変わらずに美しい。多少オリジ…えへん、昔よりも吊り目になっているが。

「そうよ、大作君。お久しぶりね」
「だったら何故!? どいて下さい銀鈴さんっ、早く基地に帰らないと竜馬さんや甲児さんがピンチなんです」
「知ってるわ。だって…私も彼ら…ドクターヘルの協力者ですもの」
「嘘だ、だって銀鈴さんは…。そうかお前は偽者だな。BF団のエージェントに決まってる」
「どうして? せっかくこうして再会出来たのに、嬉しくないの? 大作君」
「黙れぇ、そんな事を銀鈴さんがする訳ないじゃないかぁっっ!」
「…彼らが、国際警察機構が私、…私達兄妹に何をしたと云うの!? これはそう…復讐よ…」

 そう云うと彼女は銀鈴ロボの頭部コクピットに乗りこみ、ジャイアントロボの顔面にパンチを浴びせた。

 不死身の村雨健二。

 銀鈴の姿に困惑させられていたジャイアントロボは苦戦した。彼女の複雑な過去は、こうして彼女が悪の道に進んだとしてもおかしくないだけの苦々しい物である事を彼も理解していたからだ。
 苦戦する大作とジャイアントロボ。

「死ねっ! 草間大作!」

 心情的に手出しが出来ず思わず躊躇した隙を突き、銀鈴ロボがジャイアントロボの顔のタラップにしがみ着いていた大作に必殺のパンチを叩き込む。

「うっ…うわぁああああっっ!」

 迫るパンチ、だがっ!

「ナニィッ!? 前が見えない!」

 突然銀鈴ロボのコクピットに目くらまし用のペイント弾が命中し、銀鈴の視界を塞いだ。

「ロボォ!」
「マ゛ッ!」

 空かさず大作が叫ぶとジャイアントロボは両腕を目の前で組み、パンチを防いだ。

「ックソォ…誰だっ!!」

 銀鈴はこびり着いたペンキをワイパーでこすり落とし、スピーカーを使って辺りに喚き散らした。

「誰だ。こんな事をするのは!」
「おいおい、俺の顔を見忘れたって言うのかぁ? だが、それも仕方ないだろうなぁ、BF団の銀鈴っ! いや、電撃のローザ!」
「お前はっ!? 馬鹿な、お前はさっきこの銀鈴ロボのミサイルを食らって吹き飛んだ筈だ」
「死んだはずだよ何とかさん、ってかぁ。ふ、ふっふっふっふっふっはぁっはっはははははは! 」
「貴様ぁ、名を名乗れっっ」
「ふっ、仮にも恋人の名前を調べておかないとは…BF団も質が落ちたなぁ。いや、もしやお前は別組織の…」
「うるさいっ! そんな事はどうでも良い、貴様は誰だ」
「不死身の村雨健二、見参」

 ピンクのトレンチコートを着込んだ男はそう名乗ると大作に向かってニヤリと笑った。

「村雨さんっ」
「よう坊主、久しぶりだなぁ。あの一件以来か。まぁ良い、大作、そいつは間違い無く銀鈴の偽者だ。構う事は無い。ぶちのめせ!」
「ハイ。行くぞ、ロボ」
「マ゛」
「パンチだ! ロボ!!」
「マ゛ッ」

 命令を受けたロボは躊躇無く、巨大な腕を振り上げた。

「うっうわぁあああ」

 ロボのメガトンパンチを食らった(偽)銀鈴ロボは大爆発を起こした。

「やったぁっ!」
「急げ大作、基地は機械獣の軍団に襲われて大ピンチだ」
「ハイ、急ぐんだ、ロボ!」
「マ゛!」

 命令を受けたジャイアントロボは、背中のロケットから火炎を噴射させ空へと飛び立っていった。
 どこと無く意地の悪い、斜に構えた笑い顔でそれを見送る村雨、だが。

「何っ! うおぉ…」

 次の瞬間、地面から布状の触手が伸びたかと思うと彼の身体に巻きつき、その自由を奪った。

「確かにあなたを殺すのは不可能でしょう。しかし、要は肝心な時にあなたの行動を封じる事ができれば良いのです」
「おま…えは…」

 村雨は必死で相手を探した、彼の前に現れたのは。

「ジャイアントロボは、この私が倒します。十傑衆を襲名した、その記念にね。オホホホホホホ」

 彼女の微笑みと共に彼の身体は地中深く飲み込まれて行く。

 十傑衆サニー・ザ・マジシャン。

 ジャイアントロボは国際警察機構が誇る最強のロボットである。
 BF団の宿敵、ジャイアントロボは確かに強力な存在であり、正面からの力押しで撃破するのは難しい。
 だが、そのジャイアントロボの唯一の操縦者である草間大作は数多くのエキスパートの中でも肉弾戦に弱い事が分かっていた。
 ならば、と、今回のドクターヘルの機械獣軍団の出撃を裏の情報で知っていた彼らBF団は草間大作の暗殺を画策していた。
 そしてその責任者として任じられたのが、極めて最近十傑衆に加わったばかりの女性エージェント、衝撃のアルベルトの一人娘であるサニー・ザ・マジシャンである。

「見えたぞロボ、このまま皆を援護するんだ!」
「マ゛」

 大作の命を聞き、更に加速するジャイアントロボ。
 だが、突然彼らの前に立ちはだかるひとつの影。

「そうはさせませんよ。草間大作さん」

 彼女は帚を片手に、空中に浮遊していた。
 大作の命令が無いため、そのまま突撃を行っていたジャイアントロボだが、突然張り巡らされた念動バリアーに衝突しその勢いを止めた。

「これは一体っ!?」
「はじめまして、大作さん。わたくし、この度十傑衆に選ばれましたサニー、サニー・ザ・マジシャンとお覚え下さいな。そして…今日があなたの命日っ!」

 彼女が念を込めるとジャイアントロボは突然地面に叩きつけられた。
 その瞬間、衝撃で彼は地面に投げ出されて地面を転がった。

「うう…今のは一体…」

 うめく大作の目の前に可愛らしい形の靴が降り立った。
 大作が見上げると、スラリとした足の先に彼女が冷たく立ちはだかっていた。

「ビッグファイアー様の為、草間大作、あなたの命…頂戴致します」
「わぁああああ!」

 仁科詩織。

「その前に。ジャイアントロボに命令されては厄介だわ。えいっ」

 サニーが掛け声を上げるとポケットから飛びだしたバンソウコウが大作の口に貼りつき、その言葉を塞いだ。
 必死でそれを剥がそうとする大作だったが、強力な粘着剤のせいか少しも剥がれ無かった。

「これで良しっと、おとなしくしててねジャイアントロボ、動いたら草間大作の命は無いわよ。…動かなくても無いけどね」

 条件さえ整えばジャイアントロボと互角の能力を持つ十傑衆の出現に大作はひるんだ。
 彼を守って来てくれた戴宗も楊子も銀鈴も既にこの世の者ではなく、鉄牛も今この場にはいない。
 サニーが人差し指を向けると、その先端がまばゆく光った。

「悪く思わないでね…」

 思わず目を瞑る大作の耳に乾いた音が響いた。
 何時まで経っても来ない攻撃に不信感を抱いた大作は恐る恐る目を開けた。
 そこに立っていたサニーは右手を抑え、苦痛に震えながら言った。

「くっ…、誰です一体」

 彼女が誰もいない空間に問いかけると、地面から沸き上がるように一人のシルエットが浮かんだ。

「ふふっ、サニー・ザ・マジシャン。油断大敵ってね」

 そう言うと、その声の主は腰に着けていた鞭を握り締めた。
 その鞭は凶悪な事に薔薇の刺のような突起が付いている。

「梁山泊九大天王がひとり、大塚署長の孫娘。仁科詩織! 参る!!」

 そして、巴武蔵、ふたたび。

 怒涛の如く押し寄せる機械獣軍団の猛攻に、基地の中も大混乱になっていた。
 病室で安静にしていた巴武蔵もまた、この騒ぎに巻きこまれていた。
 基地の外から聞こえてくる戦闘の音。
 それに誘われるようにして、彼は窓辺に立ち、外の様子を眺めていた。
 そこでは彼の憶えていないロボット達が押し寄せる機械獣を相手に懸命に戦闘を続けていた。
 二体のロボット、明らかに戦闘用ロボットであるマジンガーZとゲッターGは何の遜色も無い戦いを続けていたが、作業用のロボットにも見えるボロットは反撃を受け、その力を発揮していない様に武蔵は感じていた。

「あれじゃダメだ…あれじゃ…」

 そう呟きながら彼は熱に浮かされたようにフラフラとした足取りでさまよい始めた。

 金田探偵事務所。

 鉄人28号の金田正太郎少年を陰日向に応援していた九大天王大塚署長の孫であり、金田探偵所で修練を積んだベテラン探偵の仁科詩織であったが、やはり十傑衆に選ばれた人間相手では荷が勝ち過ぎていた。
 サニーの苛烈なまでの攻めに彼女が薔薇の鞭を取り落とすと、近寄ってきたサニーが拾い上げて値踏みをする様に眺めた。

「これは…正義を名乗っていた殺し屋スカーレットローズの…そう。彼女が熱を上げていた女の子がいたって聞いた事があったけど。あなただったのね」
「クッ…確かに彼女は人殺しだった。けど、本当は心の優しい女性だった。正義の為と言って悪徳商人やギャングのボスを暗殺していた彼女を邪魔だと言って殺したのは、貴方達犯罪シンジケートの仕業でしょう。公的機関はギャング同士の抗争だと言って気にもしなかった。私は真犯人を見つけて罪を償わせるまで、戦い続けなければ。だから…負ける訳には!」

 最後に残った気力を振り絞って跳びかかろうとした詩織の身体は、陰縫いの術にでも掛かったようにサニーのサイコキネシスで絡め取られてしまった。

「あ、あぁあああ!」
「残念だけど、それは私達ではないわ。…良いわ、付きまとわれても困るからヒントを上げましょう。ギャングや犯罪組織をまとめて犯罪を助長している組織があるの、傘下の組織を荒されていた奴らにとってスカーレットローズは目の上のコブだった。そして私達BF団とは敵対関係にある…言えるのはここまでね」
「…ダッカー…ね…」

 しばらく考えていた詩織は思い当たる組織があったのか、その名を上げた。
 彼女の推測はある程度当たっており、そして又、外れてもいた。
 確かに「ダッカー」も高度な技術と人材を犯罪組織にばらまき、犯罪の温床になっていたのだが、そのダッカーですら下層組織として支配していた存在があったのだ。
 犯罪組織を束ね、世界を陰で操る一大暗黒組織「ダマスカス」、未だにその名は深く潜っており、こちら側の人間でない詩織が知らなくても不思議ではなかった。
 サニーは詩織の答えに笑みを以って答えた。決して正解とも不正解とも言わなかったが。

「それはともかく…」

 サニーは身動きの取れない詩織の脇を悠々と通り過ぎると、大作に止めを刺すべく気力の集中を始めた。

「今度こそ、最後よ。草間大作」

 サニーは任務の成功を確信した。

「フフ…」

 だが、背後の詩織が笑みを浮かべたのに気付き、苛立ちを込めて倒れ伏した彼女に向き直った。

「何を笑っているの? 満足に時間稼ぎも出来なかったくせに」
「残念でした、時間稼ぎなら。完璧よッッ!!」

 そう言うと彼女は、身を守る為着こんでいた対衝撃スーツを脱ぎ捨て催涙剤と共にサニーに叩きつけると、空かさず大作を連れてその場から出来るだけ遠くへと走った。
 しかし、咳込みながらもサニーはサイコキネシスを発動し、ふたりの足を止めた。

「ふふ、油断したわ、でも、こんな物で十傑衆から逃れられると思うな!」

 本気になったサニーの目は欄々と光り輝き、その能力はふたりをズタズタに引き裂く、かと思われた。
 だが。

「時間稼ぎは完璧だって言ったのよ!」

 その瞬間、詩織の背後からロケットを噴射し、ものすごいスピードで迫り来る二体のロボットがサニーの視界に入った。

「あれは! 金田正太郎の操る、鉄人28号! そして金田正人の鉄人28号FX!! 」
「「その通り!」」

 その声と共に鉄人二体の目が輝いた。

「鉄人! フルパワーだ!」
「鉄人28号FX! 超電動パワーON!!」
「「行っけぇ! ダブル・鉄人パーンチィッッ!!」」

 金田親子の掛け声と共に、二体の鉄人は高速飛行のスピードそのままにシンクロしたポーズで鉄の拳を叩き込む。
 明らかに過剰な攻撃だろう、と思えるのだが…「十傑衆をぉ…舐めるなぁあ!!」
 サニーのオタケビと共に二体の鉄人の鉄拳はバリアーによって阻まれた。

「うえー、ウッソだろぉ?!」

 余りに非現実的な光景に、鉄人専用輸送機に乗って鉄人28号FXを操っていた金田正人は絶句した。
 だがその父親であり金田探偵事務所の所長である金田正太郎は冷静に応じた。

「いや、あれがBF団の十傑衆の力だ。あんな事で驚いていてはこの先やって行けないぞ正人」
「本当かよ、信じらんねえぜ」
「だが、事実だ。では、三郎、双葉くん。予定通りに」
「「ハイ」」

 複数の巨大な質量が衝突した際に発する轟音と共に鉄人は弾き返された。
 だが直ぐに大作と詩織を守るべく、彼らとサニーの間に着地した。
 巨大な鉄人二体と可憐な少女が対峙する光景というのは筆舌に尽くし難いのだが、その実力は伯中していたのだ。
 その隙に輸送機は垂直着陸し、中から金田正太郎と正人、そして探偵団のひとりのメガネ少女双葉が降り立ち詩織と大作を保護して、機内に駆け戻った。
 そしてハッチが閉まるのももどかしく、離陸用のVTOLエンジンを吹かして大空へ舞った。
 まだ命令を下せない大作の代わりに正人と三郎に操縦された鉄人達がジャイアントロボを両脇から抱えて戦場へと飛び立った。
 金田正太郎を残して。
 サニーはチラリとその様子を見ていたが、直ぐに目の前の敵に集中した。
 しばしの間、値踏みするかの様に相手を観察していたふたりだったが、サニーは正太郎の持つ何かに合点したのか彼に声を掛けた。

「貴方があの有名な?」
「うむ、正義の味方の金田正太郎だ」
「お会い出来て光栄だわ。でも、一人で私に勝てるとは思わないでね」
「ああ、勿論だ。ただ、君は勘違いをしているよ」
「? なんですって?」

 サニーは怪訝な顔で問い返した。

「別に君と素手で戦おうと言う訳ではない。わたしは彼女達を案内してきただけなのでね」
「彼女達?」
「うむ、出て来たまえ!」

 そう言うと正太郎の身体の陰になっていた場所からふたりの女性が現れた。
 その顔を見た瞬間、サニーは驚愕のうめきを漏らした。

 復活の武蔵。

 数多くの機械獣にたった三機で対抗するのは無理と言うものだった。
 事に、敵の目的が基地内への侵入を第一としている事には。
 その為、通常兵器による支援攻撃が基地内より行われていた。
 基本的に国際警察機構の構成員達はエキスパート程ではないが体術に優れた人間が多かった。
 それこそ、徒党を組めば生身で戦車と力押しをして負けない連中ばかりだ。
 その為、携帯火器を肩に担いで物陰から忍び寄り、又は待ち伏せていた。
 激しい白兵戦の最中、武蔵は夢中で駆けていた。
 彼の目の中にはただひとつの物しか映っていなかった。
 それがゲッターGでなかったのは皮肉に近かったが。

「あら〜ん、やられちまっただわさー!」

 ボスボロットはトロスD7の突撃を受け、派手に弾き飛ばされた。
 ゴロゴロと地面を転がりながら、大きな木にぶつかりボスボロットはようやく止まった。
 幸いな事にいつものように機体が大破し、首だけが転がると言った事態にはならずに済んでいた。
 それだけ被撃墜の経験値を積んだとも言えるが。

<おいボス、大丈夫なのかぁ!? ずいぶん派手に飛ばされてたけどよぉ。怪我とかしてねぇか?>
「あてたたたた。大丈夫だ甲児、けどかなり危ないところだっただわよん。えーっとボロットに異常はないわねん。それじゃあ行くだわさ!」

 横倒しになった姿勢で、畳敷きの運転席(と言うべきだろう)に安全帯で身体を括り付けると目の前のハンドルを握ろうとした、が、突然目の前の格子(ボロットの口のように見える覗き窓の事)からニョキっと腕が伸びてボスの腕を掴んだ。

「デヘーっ! 一体なんなんだよぉー!」

 突然の出来事に魂消てその腕を振り払ったは良いのだが、勢い余って座席から転がり落ちたボスはそのまま床に釘で打ちつけてある茶卓台に突っ込んでしまった。
 頭に急須を乗っけたままボスは唖然した顔で、侵入者を見た。
 すると、何時か…遥か昔に見たような……顔がのっそりとボスボロットの中に押し入って来た。
 そいつはいとも簡単に座席にすがり付くと、キーを回してエンジンを吹かした。
 因みに、今回の出番が中華共同体だと言う事でエネルギーにはシズマ−フォーグラードライブシステムを積んできている。
 あらゆる状況下でも運用が可能な優れた汎用性がボスボロットの売りなのだ。
 ボスこと棒田工業の棒田進社長にとっては量産型ボスボロットを売りこむ貴重なチャンスだったのである。
 飽くまで汎用機としてだが。

「ダメだダメだ、なっちゃいない。腕や足を振りまわしているだけじゃ意味は無い。俺が手本を見せてやる」

 と、周りをしっかりと認識はしていない様子ではあったが、彼はボスボロットを起動させた。

「お、おい。あっお前は!」

 ようやく座席に付いている人間が誰か思い浮かんだボスは思わず叫んだ。

「お前、武蔵じゃねえかっ! ゲッター3のパイロットだった」

 ボスは思わず武蔵の肩を掴むが、彼はそれを無視してボスボロットを敵に向かって突撃させた。

「うわっうわっうわっ! ちょっと無理だーっ! 無茶をさせるなよぉ、これはゲッター3じゃねえんだぞ」
「機体が違ったって手があって足があるんだ、問題無い!」

 如何にもベテランパイロットな言葉に思わず納得してしまいそうになったボスだったが、ふと思い出した。

「ゲッター3ってキャタピラじゃなかったか?」

 突然動きが変わり、目の醒めるような機動で敵に突っ込むボスボロットを見て流竜馬は目を見張った。

「なんだ?! ボスボロットだよな?」
<ああ、だが、あの動きどこかで…>

 ボスボロットにしては妙に滑らかな足捌きでトロスD7に近づくその動きに記憶を刺激されたのか、神隼人はしきりに首を傾げていた。
 だが、その疑問はボスボロットがトロスD7に組みついた瞬間氷解した。
 右腕でトロスD7の角を掴み、左手で顔面を押した、左足で右前脚を払うと体重を掛けてトロスD7を引き込んだ。
 バランスを崩したトロスD7はボスボロットの導く方向へ体重を動かしてしまい、その瞬間を狙ってボスボロットはトロスD7の重心に沿って竜巻のように身体を振りまわした。
 するとマジンガーZと同じ位のパワーを持つボスボロットでもまず動かせないだろうと思えるトロスD7のボディーがボスボロットを中心に勢い良く回転を始めたのだ。

「うらぁーっ!! 大雪山おぉーろぉーしぃいいいっっ!!」

 機械獣の中でも重量級のトロスD7が宙を舞った。
 しかも300メートルは上空へと飛ばされた事が後の検証で明らかになっている。

「あ、あれはっ!?」
<間違いない、武蔵の得意技だった大雪山下ろしだ。ちくしょう、ボスの奴何時の間に武蔵の技を盗んだんだ? >

「いや、もしかすると…」

 元級友(クラスメイト)たち。

 サニーはまるで死人に出会ったかの様に顔を青ざめさせ、その反面抑え切れない喜びをも感じていた。

「マナ、どうして彼女がここにいるの!? 彼ら三人共全員、あの戦いで死んだって聞いていたのに…」

 思わず震える声を出してしまったサニーは、しかし、それを隠そうともしなかった。
 超一流の戦闘の達人、BF団の頂点に立つ十傑衆としては完全に失格ものの態度であったのだが、今の彼女は今までの人生で一番楽しかった、あの江東学園の夢野サリーに戻ってしまっていた。

「本当の事をスパイのあなたに漏らす訳にはいかなかったからよ。サニー・ザ・マジシャン!」

 だが、それに対するマナの言葉には一切の温かみは無かった。
 その辛辣な調子に思わず心を傷めるサニー。

「くっ、……!」

 その言葉を聞いたサニーは思わず音がするほど歯を噛みしめた。

「あの戦いで奇跡的に生き残った彼女は、…ふたりが犠牲になった事にショックを受けてつい最近まで失語症に掛かり、誰ともコミュニケーションすら取れなかった。何故だと思う? 貴方も含めた人間達を守る為よ。なのに貴方は彼らの志を無駄にして人類の敵、BF団の幹部になって! 彼らに対して恥ずかしくは無いの!?」
「うぅ…」
「どうなの? サニー・ザ・マジシャン。いえ、夢野サリーとしてでの貴方でも良い。答えてよ!」
「だって…」

 非常に言い辛そうな、歪んだ顔になったサニーは重い口を開いて言葉を紡いだ。

「ワタシは十傑衆、衝撃のアルベルトの愛娘。栄光あるBF団の幹部候補生。そして何よりビッグファイアー様の為に戦う尖兵! 例え敵が国際警察機構の英雄であった母様だったとしても、それがビッグファイアー様の敵ならばたちどころにして、完膚無き迄に叩き潰し、勝利を捧げるっ、それがワタシの使命だから!」

 段々と声が大きくなり、高揚と共に歌い上げたサニーには最早、何の躊躇も無かった。

「どうしてもなの?」
「ええ、どうしてもよ」

 何の迷いも無い精神はサニーのサイコキネシスの力を数倍に引き上げていた。

「サニー・ザ・マジシャン。BF団の首領、ビッグファイアーと同じサイコキネシス、テレキネシス、テレポーテーション、テレ・ビジョンを持つ特級エージェント、十傑衆が一人。その能力は世界でも突出している。でもね、彼女の持つ力の前では無力だと言う事を、思いだしなさい!」

 魔神計画、「魔神皇」マジンカイザー。

 そして、ジャアントロボ、鉄人28号、鉄人28号FXが参戦し、更に激しい戦場となった北京郊外の基地周辺。

 そんな攻防の最中、とうとうそれは完成した。
 薄暗いケージに立てられた最強のマジンガーは、秘められた力を発する場を求めるかのように激しく脈動していた。

「とうとう、この時が来たか…。あの時の爺っちゃんの言葉が試される時が来たって訳だ。これに乗れば俺は神にも悪魔にもなれる。だから……、行くぞ! マジンカイザーッ!! マジーン、ゴォーッッ!!!


 Coming Soon!




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