スーパーSF大戦・インターミッション 「神々」




 日本列島切っての深山霊峰、妙神山。
 飛騨山脈の一角にあるここ、元々は人間に対する修厳所であるのだが、いま現在はほとんどこの世界に出現した女神達が集う場所となっていた。
 今ここに住んでいるのはここの管理人、小竜姫と旧友のヒャクメの二柱である。
 小竜姫がこの世界にいるのは妙神山に根付いた管理人であるから仕方ないとして、神族らしい軽い性格のヒャクメの方はこの混乱した世界が面白そうだからと言う理由でわざわざ時空融合後に志願して、人間界に降臨していた。
 また、その他にも時空融合によってこの世界に現れていた神々がいたのであるが、その御名は次の通りである。
 千葉の猫見市在住の北欧神話ノルンの三姉妹、ウルド、ベルダンディー、スクルド。そしてベルダンディーと同じく一級神のペイオース。
 ギリシャ神話に出てくる戦の女神アテナの生まれ変わりである所の城戸沙織。
 聖書の外典にその名のある最初の女、リリスの魂を持つ少女、綾波レイ。
 現在のところ以上の八柱と数命の天使が確認されているが、この世界、それだけですべての神族が出揃っているとは到底思えない。
 そんな時の事、時空融合後の今までの期間、妙神山に集まった女神達もただ「のほほん」と時を過ごしていた訳ではない。
 彼女達の人間界に対する深い憂慮も、また加治以上の物であったと言えるだろう。もっとも、神族が人間界に干渉して余計な混乱が起こる事を彼女達は望まなかった。
 この世界、確かに至高神や絶対神と呼ばれる存在によって作られたものかもしれないが、現在の人間社会を成立させてきたのは神の使命を帯びた勇者ではなく、ただそこら辺にいる普通の人間達の営みに拠った物だ。
 神はただ見守るのみ、彼らが世界に干渉するのは彼らに敵対する者の干渉を排除する時か人間が神の基準から外れた時に下す神罰や佛罰と原則が決まっている。
 だが、神とは言えその存在は世界によって千差万別と言えるほど多様なものであった。
 ノルンの女神達の実体は、その気高き魂であり、この世に顕現している肉体はあくまで仮のものでしかない。
 だが、世界によっては人間と神の境界線が曖昧なものであり、それほどかけ離れた物ではない世界もまた存在していた。
 そう言う世界では神族側からの干渉も大きく、人間世界そのものの危機に発展していた例もあるのだ。
 彼女達この世に集った女神らも、時空融合が危機的状況である事は重々承知していた為に女神達の観点から世界を観察し解決の糸口でも掴み取って愛すべき人間達の役に立とうと考えていた。
 それに、この現象は人間界のみに留まらず神・魔界にすら及んでおり、それ故にどうしても人間の手によって解決する必要が有ったからだ。
 現在人間界と神界を越えがたい、一方通行にしている神すら手をつけられない領域、相克界。
 ランダムに切り替わる混沌とした世界によって神や悪魔達は人間界への片道切符しか持つ事が適わなくなったのである。
 つまりそれは、神・魔界から来た者が元の世界から切り離される事を意味し、希薄な活力源しか有しない人間界では特定のエネルギー源を確保した者でなければ全力を発揮出来ず、属性によっては存在する事すら困難な場合すらあるのだ。
 皮肉な事に究極の霊的存在であり絶大な能力を持つ神々はその能力故に時空融合現象に干渉する事が叶わず、肉体という小宇宙に魂を封じ込めた人間にしかこの混乱を解決する術を持っていない事が判明していた。

 まず最初に女神達がした事は、この世界に存在する神族を探し当てる事だった。
 神話に記されている通り、神々の怒り、神罰は恐ろしい物である。
 聖書の中でさえ、最も多くの人間を虐殺しているのがヤハウェとその手下の天使であるのは周知の通りである。
 それ故に破壊神という存在が居るのであれば、彼女達の力を以ってそれを鎮める必要がある、と考えたのだ。

 この手の能力と言えば全身に数多くの感覚器官を有し、それ故に「百目」の名を持つ彼女が適任であると言えた。

 その能力をバックアップし、ブースターする事を自ら進んで計画したのがノルンの三女神の長女ウルドと三女スクルドである。
 彼女達は半分以上趣味全開で「ふっふっふ、このウルド(スクルド)が、こ〜んな事もあろうかと開発していたこのPSYブースターを装着すれば日本どころか地球の裏側で何が起こって居るかまで、微に入り細に入り分からない物なんて存在しないわ!」とそれぞれ懐から実に怪しげな「ドラッグ」と「マシィーン」を取りだした。
 ウルドが取り出した薬瓶の中には何かの小動物のミイラのような怪しげな固形物が堆積していたし、スクルドが取り出したのはヘルメットに電極が多数取りつけられその周りには意味が有るのか無いのか意図の良く分からない電球がピカピカ光っていた。
 その異様な迫力にヒャクメは思わず数歩引いた。

「「さあっ! 」」

 ズズイ!
 ふたりは手に持ったその得物をヒャクメに突き付けた。どちらかを選べ、と言いたいらしい。
 しかし、正直言ってどちらも選びたくないと言うのがヒャクメの正直な所だろう。
 彼女はプルプルと顔を振ると半分涙目になって逃げ出そうとした。

「あらあら、ふたりともいけませんよ。そう無理に押し付けては」

 そこへ救いの女神・・・の手が差し伸べられた。
 −−ああ、神よ感謝します。とヒャクメが心の中で祈ったとか祈らなかったとか。
 だが次の瞬間、彼女の希望は絶望へと転換した。

「そんなに焦らなくてもヒャクメ様は自ら進んで両方とも着けてくれるに違い有りません。彼女だって人間の方々の事を大事に思っておられる優しい方なのですもの」

 −−そんな事、言ってないぃぃいっ!!
 だが、ウルドもスクルドもその意見には賛同しきれない様子であった。
 何しろそれではどちらが成果を上げたのか分からない。
 それでは「はっは〜ん、どう? スクルド、この偉大で素晴らしい女神の、この私の実力は。あ〜なたなんて目じゃない、って事ね。ほぉ〜っほっほっほぉ」もしくは「おねぇさまっ! 見てくれました? 私ももう一人前の女神ですよね」とか言えないではないか。
 天然ボケに近い感覚を持つベルダンディーからすればそんな事は全然意図していなかったのだが。
 だが、マイナス×マイナスはプラスであるように、ベルダンディーの更なる言葉が状況を変えた。

「あっ、そうだ」

 ベルダンディーは軽く手を打ち合わせるとウルドとスクルドに提案した。

「まず自分で使ってみて、どれ位使い勝手が良いか見てみて貰ったらどうかしら。そうすればヒャクメ様も気持ち良く採用してくれるでしょうし」

 良い事を思いついたとばかりにベルダンディーの顔は晴れやかになったが、それに反比例する様にウルドとスクルドの表情は曇った。良く似た姉妹だ。
 よくよく考えてみると・・・今まで自分が作ってきた作品達の成果は・・・・・・。

「さぁスクルド、正規の手順に従って法力増幅の法陣を作るわよ。愚図愚図しないっ!」
「ウルドになんか言われたく無いわ。大体今回だってウルドが・・・」

 突然自らの作品をそそくさとしまい込むとふたりは連れ立って庭に駆け足で出ていった。

「まあ、ふたりとも仲が良くって。うらやましいわ。ところでヒャクメ様?」

 どこぞの猫とネズミのように仲良くケンカするウルドとスクルドを見送ったベルダンディーはホッと息をついているヒャクメに向き直った。

「は、はい。何でしょう。ベルダンディーさん」
「はい、術式の方なのですが・・・、あっ私の事はベルダンディーで良いですから」
「それなら私の事もヒャクメと呼んでくれなきゃダメなのねー」
「はい、そうですね。で、私達の法力増幅の法陣術式の構成はこんな感じなのですが、あなたの力に適合した物かどうか確認して頂きたいのですけど」
「へー、どれどれ」

 そう言ってヒャクメはベルダンディーが指先から紡ぎだした肉眼で見えるようにした呪文のスペルを読み解いていった。
 その神秘学の結晶とも言える高度な術式は一種の念の様な物で紡がれていたので、彼女のような情報分析のスペシャリストとも言える存在からすれば例え異世界異文明の物だとしても読み取れない事はなかった。
 ただ、正直なところ、慣れない形式で紡がれていたので解読には少々手間取ったのだが、解いてみればフォーマット形式が異なっていたものの変換プログラムを噛ませれば十分に使用に耐える代物である事が分かった。
 ヒャクメはフッと息を吐くとニッコリとネコのように笑って言った。

「これなら大丈夫なのね。特に障害が発生する事も無いし、目的も果たせると思うのね〜。ただ、ちょっと形式が異なるからここの所にこう言う形にして貰いたいんだけど」

 そう言ってヒャクメが呪文の一部を指示するとベルダンディーもその箇所を注視した。

「まぁ、なるほど。はい、分かりました。ではここの所をこの様に変更すれば」
「ええ、これなら上手く適合する筈なのねー」

 因みに自らも術を使う事に長けた小竜姫だったが、情報を司る女神達の会話に口出ししようとは思わなかったようである。
 大変に賢明な態度であると言えよう。

 さてさて、本題の神族検索であるが、新世紀2年の6月のとある日に、ここ妙神山にて行われていた。
 ついこの間まで帝国華撃団が修行して下山、続いて巴里華撃団が修行にくるその短い時間を突いたのである。
 鬼門達が護っている門から入って奥の殿の前の庭に3女神とペイオースが協力して描いた法陣が鎮座していた。
 ただ、この法陣は顔料等の物質によって描かれた物ではない。
 実を言うと魔法陣などの基本となる円だが、これは真円に近ければ近いほど効力が高い。そして神族が使用する程の法陣ともなると完璧に近い真円が必須なのであるが、これが物質世界に描かれる以上完璧な真円は得る事が出来ない。
 何しろ、人間精密計測器とあだ名された世界最高の職人が作り上げた完璧に近い水平盤の上でさえ、分子と言う粒々の上に描かれる以上どうしても歪びつになってしまうのは宿命なのだ。
 ならば神族クラスの法陣を物質界で作成するのは不可能なのかと云うと、ここで神秘学で予言された存在が関連してくるのである。
 すなわち、或る意味思考がそのまま具現化する様な領域であり、この物質界と重なって存在すると考えられている4次元側に法陣を形成するのである。これにより観念的なまでに完璧な真円を得る事ができるのである。
 これを描く場合にも直接念を置いて行くのではなく術式を用いるのだが、直接描く事の出来ない間接的な方法での困難さはベジェ曲線を用いてゴッホの絵を描く様だと例えられる程に困難であり、それをきちんとこなす為には高度な数学的知識とプログラミング能力、立体把握能力が必要であるのは当然である。
 とは言え、これは文字通り神罹り的な迄の能力が必要である。何しろ、普通の人間にはこちらの領域の事は「視えない」、最低限でもその能力を有する存在でなければこれを描く事は不可能なのだ。(もっとも、神秘学の発展により「見鬼君」の様な精霊石クオーツを使用したサポート器具によって科学的なアプローチが可能になるのであるが、それは更に後の世の事である)
 だが、ここにいる女神達にとってそれはそれほど困難と云うべきものではなかった。何しろ彼女達にとって4次元側と言うのはこちら側と隔絶した存在では無いと思えるほど身近な存在である。
 一級神限定解除免許保持者と二級神限定免許保持者達は手間が掛かった物のその仕事を完璧にやり遂げた。

 日本晴れのその日、妙神山の修練所に大和神族の能力をブーストする為に組上げられた多重積層法陣の中心に超感覚能力を持つヒャクメが座し、北に地の属性を持つペイオース、東に水の属性を持つスクルド、南に火の属性を持つウルド、西に風の属性を持つベルダンディーが立っていた。
 ここでの小竜姫の役割は聞き手である。
 本日、この場には前述の女神様達の他に、大天使ミカエルであり上級降魔殺女である、帝國華撃團司令米田の秘書を務めている藤枝あやめの姿も見えた。

「それでは、これより千里眼増幅術式を開始します。ヒャクメ、準備の方はいいですか?」

 術式に参加しない小竜姫が開始の宣言をし、施術の中心人物である親友のヒャクメに覚悟の程を問うた。

「ええ、こちらの方はいつでもオッケーなのね。地球の果て、相克界の内側に存在するすべての物を見てくるのね」
「よろしい。では、ノルンの女神達よ、かねてより用意して来た術を」
「「「「 了解 」」」」

 四女神が声を唱和して返答すると、それぞれの女神は目を閉じ、呼んだ。

 ベルダンディー 「ホーリーベル」
 ウルド     「ワールドオブエレガンス」
 スクルド    「ノーブルスカーレット」
 ペイオース   「ゴージャスローズ」

 彼女達の呼び声に応じて、その背後からそれぞれの魂に深く結びついた天使達が晴れやかな笑顔と共に現れた。
 ベルダンディー達が目を閉じて呪文の詠唱を始めると、それに合わせるように天使達も口を開きそれぞれのパートの旋律を謡い始めた。
 常人が聞いたら卒倒してしまいそうな荘厳な波動は、ヒャクメの周囲を取り囲む法陣を構成する無数の術式に組み込まれるように入り込み法陣を活性化させてゆく。そこから発振された神気は呼吸と共にヒャクメに取りこまれて行き、また、周辺空間への干渉を始めた。
 十分なエネルギーを取りこんだのか、ヒャクメは全身に約百個も存在する感覚器官を見開き、彼女に備わった超感覚、千里眼の神通力の能力を解き放った。
 4柱の女神と4体の天使によって増幅された神気は、いつもの彼女が使いこなす千里眼の能力を遥かに凌駕する力を与えていた。
 ヒャクメは自分の感覚器官が与えてくれる情報量に葎然とした。いつもなら特製の機械を使用して感覚を増幅しているのだが、それとは比べ物に成らないほどの繊細且つ膨大な情報が彼女の脳裏に流れ込んできたのだ。

「あ、あ・・・。ここまで・・・凄い、これなら何でも視えるのね〜・・・」
「ではヒャクメ、今この地球に居る神族を見て頂戴」
「ええ。えっ・・・と」

 ヒャクメは両手の人差し指をこめかみに当てると、流れ込む膨大な情報の中から必要な情報を選りすぐり始めた。

「力が視える。とても強い力が。・・・これは、・・・日本なのね。・・・いくさみこ・・・地球生命体を滅ぼさんとした 天御門あまのみかどの手から人類を護りとおした地球の守護神、戦神子いくさみこ、小春・・・。空間を司る能力を持つ。そしてその妹の遊風稜ゆせみ、存在を司る神。そしてふたりの母親、御由まゆ、時間を司る神。今現在・・・いる場所は・・・長野県・・・飛騨山脈・・・山中・・・妙神山の麓・・・・・・?」

 予想もしなかった言葉に、一同の言葉は途切れてしまった。

「えっと・・・ヒャクメ?」
「えーっとね海神の末裔、人狼の血を持つ安曇あずみ一族の隠れ里が・・・結界に包まれているのね〜。えっと・・・こう巧妙に隠されると、いつものノーマルのアタシの能力では見破れなくっても仕方ないなのよね。アハッ!? 失敗したのねー」

 可愛くご魔化してみたヒャクメだったが、小竜姫は容赦無くヒャクメに言い放った。

「ヒャ〜ク〜メ〜・・・! 仮にも情報を司る神族のあなたが!」
「でも小竜姫だって気づかなかったのねー? 自分の領分なのに」
「うっ! ・・・」

 ヒャクメの鋭いカウンター・突っ込みに思わず口篭る小竜姫であった。
 この妙神山修行所という土地の管理者であり、この土地に縛りつけられている小竜姫にとって、この土地自体が彼女の存在に結びついている為、そこに彼女の知らない神族が居たと言う事実は例え相手の結界が優れていたとしても・・・思いっきり恥ずかしい事なのである。
 言葉が出て来なくなってしまった小竜姫を見て、取りあえずヒャクメは先を続ける事にした。

「・・・他にも感じるのね・・・強い力を。これは熊野の山中なのね・・・でもこの力の質は・・・大和神族じゃないのね。どちらかと言うとノルンの方達に近い感じがするけど・・・何か違和感があるのね・・・あ、これは肉体は人間の物? 人間に転生した古き神々の一柱なのね。名前は・・・アテナ・・・ギリシャ神族のアテナ神。鎧をまとって生まれてきたあのアテナ・・・この前、加治首相と一緒にここへ登ってきた女の子の。・・・城戸・・・沙織嬢なのね。え〜と次は・・・と」

 神族には珍しく、自らの存在を大きくマスコミにアピールした城戸沙織のことはヒャクメも知っていた。
 数ヶ月前の事、彼女と日本連合首相がこの地を訪れていた際に、彼女も歓待側に居たからだ。
 だが、その訪問は口で言うほどに簡単なものではなかったのは言うまでもない。
 何故ならば、現在の妙神山は神族側の時空融合対策の前進基地としての役割が強くなっていた、その為に以前よりも霊力修行の霊能力者の入山資格の検定基準がかなり厳しくなっている。
 麓から鬼門の待つ山門までの道筋には一般人が間違ってでも入って来れないような、精神的に強力なプレッシャーが掛かるようなプロテクトが掛けられていたのだ。
 それ以来、この山に登ってきた人間の数は極めて限られていたのだが、その中にアテナの転生たる城戸沙織と日本連合の首相たる加治の名前があった。
 神族の転生たる城戸沙織については、その持って生まれた神力を以ってすればここまで来る事は難しくも無い。しかし、強固な意思とカリスマ性を持つとは言え一般人並の霊力しか有していない加治は、未来の日本の行く末への道標を刻み込むべく城戸沙織とその一行を伴ってこの妙神山修行所への訪問を強行した。
 それが如何ほどに困難だったかと言うと、SP兼サポーターとしてERETイーリートとC.A.T.のメンバーが数人(残念ながら新命隊長は別命で出動していた)居たにも関わらず全員ギブアップしてしまった事でも分かると言うものであろう。
 幾ら聖闘士セイント達が居た事による安心感がサポートしていたとしても(彼自身は聖闘士達から直接サポートを受ける事を拒否していた。何故なら、自らの足で訪れてこそ訪問する資格があるのだと考えたからだ。そしてそれは正しかった。幾ら美神美智恵の口添えがあったとしても、完全な加護を受けていたとしたら小竜姫は彼の事を軽く扱ったであろう)彼の確固たる信念がそれを可能にしたとしか言えなかった。

 それはともかく、彼女は次なる神々を求めて情報の海を掻き分け始めた。
 彼女は両目を硬く閉じて、それ以外の感覚器官を全開にして集中を始めた。

「えっ・・・と、この感触はヘブル神族なのね。場所は・・・静岡県!? ああ、あの子だ、リリスの娘。確か政府公認だったから、別にー調べなくても良いのねー。でぇ、次には・・・岡山なのね。これは・・・ウゲッ、別天津神ことあまつかみ! 全ての次元の創造神から全権委任された全時空の管理神が何故ここに?! しかも二柱も一緒にいるし。能力は封印して居るみたいだけど・・・彼女達が居れば時空融合なんて一瞬で、ん? これは・・・へーっ、なるほどなるほど。つまりはそう云う事な訳なのねー。まあ神族といっても小竜姫みたいに人間に関心を持つのは仕方が無いのね〜、あ痛てて。ちょっと何するのね、本当の事なのね〜。別に珍しい事じゃないのよねー、ね〜ベルダンディー? ・・・・・・・・・ うっ、そうはっきりと言われるとこっちが照れちゃうのね〜。えーっと、作業を続けると・・・」

 ちなみに彼女が観ている映像は特に外部に出力はしていない。ヒャクメだけのお楽しみ映像である。
 彼女は走査範囲を太平洋から東へ移動していった。

「これは・・・神じゃないけど・・・なんて凄まじいパワーを秘めているの?! これは神族でも勝てないかも知れないのね・・・下手するとアシュタロスの神体に匹敵するかも。名前は・・・怪獣王・ゴジラ、人間が生み出してしまった最強の破壊神なのね。でもこれが最後のゴジラじゃないのね〜(汗汗)・・・第2、第3の反応まであるのねー・・・、これは・・・いつ目覚めても不思議じゃないのね。もしも、このゴジラ達が一斉に目覚めたら、人間所か、神族だって地上から消えてしまっても不思議じゃない。眠りに就いているのが唯一の救いなのね・・・」

 彼女は冷や汗を掻きながら余計な刺激を与えないように慎重にゴジラ「達」の事を調べていった。
 普段は結構チャランポランな所が目立つ彼女ですら戦慄を覚える程の存在なのだ、怪獣王、キングオブデストロイヤー、ゴジラと言う存在は。
 ゴジラの事を一通り調べ上げたヒャクメはそのデーターを「怪獣Gメン」宛てにまとめて置くと神族探しを続けた。
 因みに、ゴジラに似た存在の放射能怪獣は広く太平洋域に分布している。
 それも日本海溝にある放射性廃棄物の墓場からマグロが取れる浅海までと深度も幅広い。
 ここでひとつ不思議なのはゴジラがどうやって呼吸をしているかだ、吠え声が観測されている以上肺呼吸しているのは確実なのだが・・・何しろ有り余るエネルギーを内包するゴジラだけに原子力潜水艦の様に水の電気分解はお手のものだろうから敢えて突っ込むのは止めておこう。
 そのゴジラの分布が太平洋に集中しているのは偶然ではない。
 1940〜60年代において、植民地を持っていた旧宗主国らが環太平洋域にて数多くの大気中に於ける核実験を実施した事は有名だが、そこにゴジラが発生した原因が有ったのは言うまでも無い。
 その核と成った生物種こそ古代の海生から陸上への移行期の生物の生き残りや恐竜の生き残り、海凄イグアナ等と多様であったが、ほぼ同様の形状と能力を有するに至っていたのは同然の産物なのだろうか?
 そしてこの他にも地球上には余りにも特異な存在があった。

「え〜と・・・、これは・・・神族・・・の反応じゃないのね。人工物だけど、このエネルギー反応は尋常じゃないのねー、これは」

 ヒャクメが感知した物は本来ならば他星系、しかも銀河系の向こう側にあるはずの惑星ZOID及び惑星Ziに居るべき存在。
 つい先日、新世紀2年6月6日にアフリカ大陸を覆っていた破壊的な雲塊が消滅し、その全貌を明らかにしたばかりのゾイド連邦。
 時空融合の余波を受けた為、5万光年と言う膨大な距離を超えて引きずりこまれたのが現在アフリカ大陸に存在するゾイド連邦である。
 しかし、破壊力の大きいゾイドと言えど、神族の探査に引っかかるような強大な存在が居ると言うのであろうか。
 純正ではないが・・・居る。それが答えだ。
 惑星Ziにて古代ゾイド人によって全てのゾイドを管理する母体として作られたゾイドイブ、そして惑星ZOID自身が有していた星の意識。
 これらは時空融合で彼らの子供であるゾイド達と人間、そして地球から移住してきた人間達を護る為、自身の力を多大に消耗させながらもその何割かの者達を無事にこの地球へと送ったのである。
 そして今も彼らはアフリカ大陸で眠りに就いていたのだ。
 だが、その強大なパワーは隠しきれるものではなく、ヒャクメの探知能力によってその存在が見つけられた。
 ヒャクメとて眠れる存在にちょっかいを出すほど軽率ではない、だが、ゾイドイブの防衛本能はその視線に気付いていた。
 周りをうろつく嗅ぎ屋を疎ましく思ったのか、ゾイドイブは意識のうねりを発した。
 それは彼女にとって寝返りに近い防衛反応に過ぎなかったのだがヒャクメの視点を弾き飛ばすのには充分過ぎた。
 少なくとも彼女の周囲からそれが消えた事に満足したのか、彼女はまたまどろみの中に埋没して行く。深く。

「ハッ、」
「ん? どうしたんだフィーネ」

 突然ブレードライガーの補助座席から立ちあがり、在らぬ方向を向いた古いつき合いである古代ゾイド人の娘をみてガーディアン・フォースのバン・フライハイトは怪訝な顔をした。

「ゾイドイブが・・・動いた気がしたんだけど。ううん、大丈夫、気のせいだったみたい」
「ふー、なんだ驚かせるなよフィーネ。ようやくヘリック共和国、ガイロス帝国、ゼネバス帝国がひとつにまとまってこれから平和な時代が来るって時に」
「うん、そうね。でもこのままじゃ終わらない気がする。ルドルフもまだ安心は出来ないって言ってたし・・・」
「だ〜いじょうぶだ。何が在ってもオレが護って見せるさ。オレとこいつが居る限りな」

 そう言うと彼はコンソールを撫でつけた。
 彼の愛機ブレードライガーもゾイド連邦統一戦争での戦闘と、同じくコクーンの中に現れた異世界の戦闘種族、幻獣やヴォータンらとの戦いに於いて傷つき、疲労していた。
 だがそれすらも誇りに代え、力強い金属の四肢を大地に叩き着けて軽やかなストロークでアフリカの大地を素早いスピードで駆けていた。

「うん、そうね。シュバルツさんもトーマさんも、アーバインもムンベイだっているんだもの。きっと大丈夫ね」
「あ・・・ああ。そうだな」

 基本的に天然が入っているフィーネの言葉に思わずズッコケるバンであった。
 その時、ブレードライガーと合体していたオーガノイドのジークが溜息をついたとかつかなかったとか。

 さてそれはそれとして、ゾイドイブに吹き飛ばされたヒャクメの視点は遠くインド洋までさまよっていた。
 インド亜大陸、この世界での名称は天竺亜大陸と言う事に成るのだが、「文明の有る所に神族の姿有りき」、この地もご多分に漏れず古く、そして現在も信仰され続ける神族の存在が有った。
 この地はラーマヤーナと言う古代書物に描かれたヒンドゥーの神が眠っていた。
 そう、神々の戦いの際に封じられたわずかな神々が辛うじてその存在を保ち、そして現在の天竺に現れていたのだ。
 ここではヒャクメの超感覚に捕らえられた映像と音声を観察してみよう。


「兄っ! 一体いつになったら日本に帰るのよ。もう兄の研究は証明されたんじゃなかったの!?」
「うむ、まなかよ。確かに私の自説「日本神話の国津神の系譜はインド亜大陸に起源をたどることができる」は今回のフィールドワークによって実証されたと言っても過言ではあるまい。しかしな・・・」

 まるでインディー・ジョーンズばりの格好をした髭面の青年、考古学者の星真一郎教授が後ろから噛みつくように喚き立てる妹に向かって説明して見せた。

「お前も新聞で呼んだだろうが、今のこの世界はいろんな世界がパッチワークと言うか寄せ鍋の様な世界になっている事を」
「あ、うん。ビックリしたよね、新聞が日本語で書かれてるんだもん」

 突っ込む所が違うのでは? とも思うが、実際海外の商店街の看板の文字が現地語以外には日本語しかない状況と言うのは驚くべきものだろう。
 特に天竺には数百の言語が存在していると言われているので、旧宗主国の日本連合王国(大日本帝國)の支配者層が使用していた日本語がもっとも多くの人に通用する言葉で有るが故なのだが。

「うむ。それだけにまだまだこの地には私が研究する余地があるのだ。分かるな督」
「兄っ! それじゃいつになったら戻ると言うの!」
「・・・実はな・・・」

 激しい攻撃に星教授は深刻そうに切り出した。

「(ごくり・・・)」
「ヨーロッパが消失したんでな、私が依頼を受けていた大欧博物館がなくなって貰えるはずだった収入が無くなってしまったのだよ! こっちの方が物価が安いし慣れているからないっそ永住しようかなと思っているのだよ。わっはははははははははっ!」
「なぁんだ! あっはははははって笑ってる場合か! 兄!」
「だって笑うしか無いじゃん、この場合。それにハヌマットは置いて行くつもりか? この世でたったふたりの神様なのだぞ。お前とハヌマットは」

 意外な方面から切り出してきた星教授の説得に何となく驚く督であった。
 その当人たるハヌマットは督の頭に子猿の様にしがみついていた。
 とは言え、今の「彼女」の姿は間違う事無き子猿なのだが。

「はっ、オレはシヴァなんかと離れられて嬉しいけどね」
−−それは私だって同じだ。ティラクの形が気に入らなかったからと言ってよりにもよってヴィシュヌなんかの陣営に加わるようなたわけた奴など知らぬわ!
「ヘン! 人間の女なんか憑代にした「寄生生物」が何言っても滑稽だよな」
−−なんだと。この破壊神シヴァに向かって!

 督の額に埋没した三つ目が現在のシヴァの正体である。数千年の昔に世界維持神のヴィシュヌによって地下に封じられた破壊神シヴァの核たる三つ目、別名「ハラの神眼石」が数奇な運命に従い日本人の星まなかの額に入ったのが数ヶ月前の事。
 色々あって督の肉体のチャクラは神族と同様のものになってしまうわ、シヴァの武器であったトリシュールのプラーナ・エネルギー体であるクンダリニ(気の蛇)は督の物になってしまうわで波乱万丈の物語があったのだが、それはともかくシヴァの神気は保存が効かないし、しかもすぐに破壊活動に使用してしまうので未だに幸いな事に肉体の主導権は督が握つてゐるのであつた。
 そうで無ければ今ごろ破壊神シヴァの手によって敵も味方も破壊されていたはずである。
 今のシヴァは督の額の表皮の下から前頭葉に分子融合している。
 その状態で喋っているため、シヴァが喋る時にはその声が督にはくぐもって聞こえて、かなり気持ち悪かった。
 そんな物が頭の上にすがりついているハヌマットと言い争いを始めたのだ。たまらず督は仲裁に入った。

「ちょっとふたりともいい加減にしなさいよっ! 私はいつまでもインドに居る気は無いんだから、日本に帰るのよ! はい決定っ!」

 そう断言する督にシヴァと真一郎は不満の声を上げた。

「「ぶーぶー」」
「なんか文句ある!? 」

 文句はあったが、反論はしなかった。

「それからハヌマットは人間に変身して付いて来ればいいじゃない。ノープロブレムだわ」
「うーむ、私としてもハヌマット(研究素材)が近くに居てくれると凄く嬉しいのだが・・・」
「え・・・」

 思わず顔を赤らめるハヌマット、最初の出合いの時にシヴァから命を救われたのと引き換えに「是非お友達になろうね(貴重な研究資料だから)」と申し込まれてから妙に意識してしまうのであった。
 彼女は子猿、人間形態、戦闘形態とそれぞれの状態に化身する事が出来、人間形態の時の彼女は小麦色の肌に金髪と言う姿かたちをした、結構な美人である。

「他に何か問題でもあるの?」

 督が真一郎に問いただすと彼は眉間に皺を寄せながら言った。

「うむ。日本の入国管理局の審査は厳しいからな。何と言ったものか」

 それは表向きの理由であった、本当はインドの神を日本に連れて来て神族を存在させているエネルギーの問題とかは大丈夫だろうかと心配になったのだ。

「う〜む・・・兄はハヌマットが近くに居てくれると嬉しいのよね」
「うむ。大変に嬉しいぞ」
「え・・・だって私達種族が違うし・・・そんな急に言われても・・・」
「?」
「と、言うわけでハヌマットの方もまんざらでもないようだし。インドの嫁さんを連れて帰ったと言う事で」
「なにっ!」
「では早速これからカトマンズへ行って飛行機で日本に帰りましょー」

 問答無用とばかりに彼女は東の空を指差して宣言した。

「えー、もうちょっとお宝発掘してから行こうよー」

 しかし、ここ天竺の遺跡にて発掘(盗掘)に励んでいた真一郎教授は未練タラタラに指をくわえて口応えた。

「また来れば良いでしょ、また! それに」
−−それは良いんだが、督、覗きがいるぞ。
「えっ?! 」
−−この偉大なる神、破壊神シヴァの目を逃れる事などできんぞ! とりゃっ!
 シヴァは一時的に督の肉体の主導権を奪うと虚空に向けてビームを放った。


「キャッ! 痛いのねー」

 ヒャクメは額を抑えてクラクラする頭をなだめた。

「ヒャクメ大丈夫ですか?」
「ちょっとしびれたけど大丈夫なのね。でも流石にシヴァ神なのねー。私の事に気づくなんて凄いのねー」
「ええっ、シヴァ神って大黒様だいこくさま大国主命おおくにぬしのみことの?」
「そうなのねー。でもデーヴァ神族のシヴァ神であって大和神族の大国主命とは習合していないのね。それと一緒に斉天大聖ハヌマット聖仙も一緒に居たのね」
「ええ!? ハヌマーン師匠も一緒に?!」
「ちっちっちっ、違うのねー。天竺にいる斉天大聖スヴァルティカ・マハリシ火眼金晴白猿王ハヌマットは女性なのね」
「女性?!」

 意外な答えに小竜姫さま想像中・・・想像中・・・うぅ。自分の師匠たるハヌマーンを基準にして想像した小竜姫はちょっと嫌な気分になった。

「しかも、これから日本に向かうって言っていたのね」
「・・・破壊神が?」
「飛行機に乗ってこっちに来るって言っていたのね〜」

 思わず小竜姫の背中に悪寒が走った。彼女が知る限りの神力を持ったシヴァ神ならば、地球上の全ての文明社会を破壊して尚も有り余る破壊力を有している筈である。

「でもシヴァ神は日本人を憑代にしていて、本来の力を使えないらしいのね。丁重にお出迎えした方が無難なのね」
「・・・・・・そうですね。ではそうしましょう。そろそろノルンの方々の法陣も時間ですね。ヒャクメ、あと少し捜索を続けてくれませんか? 」
「了解なのね」

 そう言うとヒャクメは再度精神を集中させて行った。
 その他の強い反応を追っていたヒャクメであったが、肉体を持った神族の姿はほとんど観られなかった。
 神族と呼べる者の大半は弁財天のスワティと、同じく見習いの(弁財天という名の職種?)サワディと言う神族の様に非実体の存在であり、肉体を持つそれら数少ない者としては「荒魂」と呼ばれ人間の不具戴天の敵であるロイヤルハイネス率いるオルグ一族との戦いを終え自らを封印して居る金属の肉体を持つ神のガオゴッド達などが居た。
 その他にも、強い神力を感じて行ってみたら神族そのものではなかったのだが、デビルサマナー達の使役する「悪魔」の根源たる人間の集合無意識「心の海」の管理人ニャルラトホテプとフィレモンと言う者の存在を見つけたりした。
 だが、最後に見出した者のインパクトに比べればそれほど特異な者ではないと言えた。
 彼女はもっとも近い隣国、対馬海峡を挟んだ対岸の国、中華共同体の一員の高麗こうらい国に存在していたのである。
 彼女が元々存在していた世界は我々と同じく分断された朝鮮半島の大韓民国の存在していた世界なのだが、時空融合によって人間のパートナーと共に高麗国へと出現していた。
 捜査行も時間が過ぎ、流石にノルンの方々にも疲れが出てきそうだった為に最後に反応のあった高麗へとヒャクメは目を向けた。
 そこはごく普通のマンションであった。
 その一室に彼女は居た。

「へ〜、普通の人間の部屋なのね〜。どんな神族がいるのかしらね〜」

 期待に胸を膨らませるヒャクメが精神を集中させると部屋の中の様子が見えて来た。
 その部屋の中には一人の青年と彼女の後頭部が見えた。
 どうやら食事中だったらしくふたりは食卓に付いている。
 だが、少し妙であった。彼女は体が不自由らしく正面に居る青年が甲斐甲斐しく運ぶ箸で運ばれた食物(それを食物と呼ぶのならばだが)を嬉しそうに咀嚼していた。

「お熱いふたりなのね〜、でも身体に障害があるって事は時空融合の時に体を不自由にしたのかしら。精神に依存する神族にとってはあの衝撃はかなりの物だったのねー」

 最初は仲むつまじいふたりの様子に当てられていたヒャクメだったが・・・彼女の正面に回って見た光景は・・・
 その瞬間、ヒャクメの体に百もあるとされる全ての目は大きく見開かれ、次の瞬間「ヒィイイイ」と梅津かずお調の悲鳴をこぼし、クルッと白目を反転させて気絶した。
 いきなり悲鳴を上げて気絶したヒャクメを見て、小竜姫は慌ててノルンの女神達の法術を終了させると彼女に駆け寄った。

「大丈夫ですかヒャクメ」
「・・・・・・うう、ゴキブリは嫌なのねー・・・」
「・・・ゴキブリ、ゴキブリの神だったのでしょうか?」

 実はこの世界には超絶的な能力を持つゴキブリも存在する事が知られていた。
 石炭紀の頃から変わらぬ姿を持つ強固な生命体で在るゴキブリと知能を備えた人間の能力を兼ね備えた超人「ゴキヴリマン」と言う政府公認特殊能力者登録番号02−0025のヒーローが活躍している事を知らぬ人は少ない。
 現れる度に怪人と間違えられ警察に通報されているらしいのだが・・・。
 そんな事を思いながら小竜姫は気絶したヒャクメを近くの寝台に横たえ、法術を使い疲れているベルダンディー達を食事でもてなすべく、厨房へと足を運ぼうとした。
 だがそんな小竜姫の後ろからベルダンディーが心配そうな面持ちで声を掛けた。

「あの小竜姫さん、ヒャクメさんは大丈夫なのでしょうか? もしよろしければ私が介抱致しますが」
「いえ、まず貴方がたの方こそ疲れを癒すべきです。長時間の法術の行使は馬鹿にならないほどの神力を消耗している筈ですから。ヒャクメの事は私とあやめさんに任せて休息なさって下さい」
「でも・・・」

 尚もためらうベルダンディーの後ろから姉のウルドが言い放った。

「ほぉらベルダンディー、小竜姫がああ言っているんだから素直に好意を受け取りなさいよ。こう言っちゃ何だけど、本当にあなたも疲れているはずなのよ。あなたにこそ何かあったらヒャクメも辛いはず。だからね、今は休みなさい。これは姉としてのわたしの、お願い」
「はい・・・そうですね」
「大丈夫よ、私の見たところ、単なる精神的疲労だから少し休めば彼女も回復して起きてくるでしょうから」
「・・・ええ、わかったわウルド。それではご好意に甘えさせていただきます。でも何かあったら直ぐに呼んで下さいね」

 それでも心配そうにヒャクメのいる方を見詰めながらベルダンディーは食堂へと姿を消した。
 急いで準備を整えると小竜姫はすぐにヒャクメのいる部屋へ駆け戻った。

「あやめさん、ヒャクメの具合はどうなのですか?」
「特に異常は無いみたい。ちょっとした精神的な衝撃を受けて意識が混濁したのね。じきに回復するから安心して」

「そうですか。ホッとしました」

 小竜姫が安堵の溜息をついているのを見てあやめは優しく微笑んだ。
 数十分後、ヒャクメは心配そうに自分を見つめる12の瞳の中で目を覚ました。

「あ・・・とここは」
「あなたは術式の終わりに急に気絶してしまったのよ。疲れは残っている?」
「大丈夫なのねー。えーっと確か最後に見た神族はー・・・」

 しばらく虚空をさまよっていたヒャクメの視線が急に一点に定まった。

「あ、あうあうあう」
「落ち着いてヒャクメ、慌てなくて良いから」
「はぁはあはあ・・・・・・くっ・・・はぁ〜っ・・・最後に見たのは高麗国に降臨していた愛の女神エビアンと言う一柱だったのねー」
「・・・ゴキブリの女神だったとか?」

 ヒャクメはブンブンと首を激しく振ってそれを否定すると弱々しげに語った。

「彼女は・・・その。下半身と言うか体が・・・その」
「不自由だったの?」
「もっと凄いのね・・・」

 ヒャクメは言おうかどうかちょっと逡巡した後、決意して口を開いた。

「私が見た光景は、こうなのね。食卓に人間の青年が着いていて、愛の女神エビアンに食事を与えていたのね」

 皆は脳裏にその微笑しげな光景を描いた。

「彼女は食卓の上に乗っていたのね」

 ・・・少し行儀が悪そう、奔放な神ならありそうだけど、等と考えたのだが残念ながらそれも外れていた。

「食卓の上に植木鉢があったのねー」

 少しヒャクメの視線がうつろになって来ていた。

「その植木鉢に彼女の生首が植わっていたのね・・・」

 ・・・・・・その瞬間、全員、無言・・・・・・喋るだけの気力と勇気を持った者はいなかった。

「彼女の目の前に座っていた青年が・・・食事と言って箸に摘まんで、嬉しそうに彼女が咀嚼していたのが、・・・テカテカと黒光りした光沢を持ったゴキブ・・・」
「イヤァアアアアア!!」

 そこまで言うと突然黙って聞いていたスクルドが大声を上げてヒャクメの言葉を遮った。
 とてもではないが、まだ幼い所の多い彼女の心ではその事実を受け止めきれなかったのだ。

「言わないで、喋らないで、教えないでぇええええっ! 」

 そう叫ぶとスクルドは涙を流しながら両手で耳を塞いだまま部屋から駆け出して行った。

「あ、ちょっとスクルド待ちなさいよ!」

 と言ってウルドもドサクサに紛れて部屋から脱兎の如く走って行った。

「ホホホホホ、まったくウルドもスクルドも困ったものです事。ま、所詮は2級神ですわね。わたくしの様な優れた1級神が導いて上げなくては心配でたまりませんわ。小竜姫様、ヒャクメ様、失礼ながらあのふたりが心配ですので失礼しますわ。では」

 と言ってペイオースも優雅な足取りで逃げ出した。少しも取り乱した様子が無いのは流石である。

「ベルダンディーさんもあやめさんも嫌でしたら聞かなくても構いせんよ」

 小竜姫はこっそりと言った。

「あら、私は構いませんわ。どうぞお続けになって下さいな」
「平気なのですか?」
「ええ。相手の方からお箸で食べさせて貰えるなんて、愛情があると言う事ですもの」
「・・・ゴキブリですけど」
「生命に高等も下等もありません。食物として頂かなければならない以上、どのような生き物でも感謝しているのではないでしょうか。流石は愛の女神様です」

 ゴキブリと言うインパクトのある話題に、その本質を見抜けなかった小竜姫とヒャクメの目から鱗が落ちた様な気がした。
 なるほど、確かにベルダンディーの言う事も確かであった。
 ゴキブリだけど。

「詳しい事情を調べる前に気絶してしまったから彼女の事は良く判らなかったのねー。今度機会があったら良く調べておくのね・・・食事時以外に限るけど」

 と、言うわけで現地球上に於ける神族の調査は大体終了した。
 後日、魔族を中心とした同じ様な捜査を再度行う予定である。
 今回一緒に魔族の探査も行わなかったのは力の質が異なる為であるが、魔族を除外した代わりにただ単純な高エネルギーの保有体は感知していたので、思わぬ物まで発見したのは幸いであった。
 こうして色々とインパクトのある情報を入手したあやめは、その情報を整理し報告書にまとめ上げると第一に勤めている帝國華撃団司令米田に提出した。
 その「米田レポート・神族・その2」が首相官邸で加治が開催した会議に与えた衝撃は計り知れないものがあったと言う事である。
<後書き>
 ああ、エビアンビームが出せなかった。
 彼女、次作のシューティングゲームではあの姿のまま空を飛んで攻撃するそうですが・・・想像するだけで・・・。




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