新世紀2年5月の時点での世界人口は次の通りであった。
・中華共同体 八億人
・天竺 五億人
・アメリカ合衆国 三億人+難民5千万人
・カナダ 一億六千万人
・日本連合 一億人
・ゾイド連邦 7千万人
・エマーン商業帝国 五千万人
・ソ連 三千万人
・その他 五百万人
 全世界人口 約二十億六千五百万人。
 そしてこれまでに失われた人口
 対ムー戦闘によって南米大陸北部にて八千万人、南米大陸中南部にて二千万人、中米にて三千万人がムーの戦闘ロボットによって虐殺されている。
 他アメリカ軍メキシコ軍の軍人が対ムー戦闘により数万人のオーダーにて戦死している。
 時空融合によって南米大陸に出現した存在はおおよそ次の通りである。
・最盛期のインカ帝国
・ロボットが支配する世界、ムー
・南米大陸北部諸国(西暦2000〜2050年代)
・インビットと敵対し北米を目指す火星駐留軍地球奪還軍
・不特定の個人(美神公彦、陸奥など)
 である。
(実はこの時点で無人の遺跡として活動を停止しているTSC−Sanctuaryと言う存在が有ったのだが、人類圏にはその存在を知られていない。この事実は後に大きな影響を及ぼす)
 この内、人間に対して非常に好戦的な存在のムーが南米大陸に武力侵攻を掛け、またたく間にインカを滅ぼし地球奪還軍と戦い、支配を確立してしまったのはご存知だと思う。
 最初期、ムーの出現領域は極僅かであり、ムーのロボット自体の数も数万体しか存在していなかった。
 彼らの世界では既に人間は絶滅し、人類抹殺と言う目的を失ったロボットとそれを統率する政治機械は発展的な目的を失っており、僅かな生存目的の再生産数しか維持していなかったのだ。
 だが、時空融合により改めて人間と出会ったことにより、それまで備蓄していた全ての資源を用いて再生産活動を始めたのである。
 爆発的に増え始めたロボット達はその殺戮本能に従い手当たり次第に人間を殺戮し始めた。
 しかも彼らの世界に人間が存在した時代の人間間大戦で開発、使用された機甲兵器群も出現していたのだ。
 その中には制御装置として人間を使用した最終兵器リボーの存在も有った。
 それは結局マンマシーンインターフェイスシステムが必ず暴走を来たし敵味方の別無く破壊を行う欠陥が存在したために全て廃棄処分とされていたはずなのだが…時空融合の悪戯か、存在力の顕現か、戦略級を超えた惑星全面に及ぶ規模の破壊力を有するリボーは今やムーの手の内に有った。
 だが幸いな事にこれは人間によってしか起動できない。起動KEYとして人間が設定されている以上、リボーを戦力的に喉から手が出るほど使用したくても人間への殺戮衝動が大きい彼らはそれの使用をロジック的に不可能としていた。
 もっとも歴史書には「この時点に於いては」と云う注釈が付くことになるのだが。

La du Robotoj,nomo estas Mohom.




 時空融合以来、南米大陸に出現した人間の運命は大きく分けてふたつであった。
 ひとつ目はムーのロボット兵士の手に掛かり、殺される事。
 ふたつ目は南米大陸から逃げ出す事。逃げ出すにしても北部南米大陸ではムーに追い立てられるように北米へ逃げ出さざるを得ず、中〜南部に於いてはムーの中でも少数派の拝人主義のアンドロイド達によって導かれオーストラリアへ逃げ出していた。
 しかも少なからずの人間が行方不明になっている、ムーの攻撃は執拗であり逃亡するグループ毎包囲され、一人残さず…と言う例が少なくない。新世紀元年(チラムの暦では混乱時空元年)メキシコからマイアミビーチ近辺の海岸に漂着した推定6万体分の遺骸はムーが遺棄処分した物がメキシコ湾海流に流され、南米から漂着した物と考えられている。
 その規模に、その行為にアメリカ国民は恐怖に陥った。
 そして悟った、彼らが生来持ち合わせている「アメリカの正義」に火がついたのだ。
 アメリカが新たな外敵に備えていた頃、ほとんどの人間の姿が消えうせていた南米大陸では、ごく僅かな例外だが南米にてムーの偵察を続けるという難行を一年間も続けた人間がいた。
 彼女は地球奪還軍に先立ち偵察任務を受けて地球へ降下していたムーンベース36分隊女性報道官のシノブ竹内、そしてムーの拝人主義アンドロイドとしてシノブの任務に激しく同意したモームという少女型アンドロイドロボットのふたりが徘徊する危険な地域を一年以上にも渡って自主的な偵察任務に就いていたであるが、先日ようやく集めた資料を有る程度組織立った所へ渡すべく決意していた。
 南米邦人救出艦隊が南米中に放った無人偵察機の放送を聞き、ここ南米から脱出できる最後のチャンスがアンヘル基地の日本人を救出に便乗するしかないと判断したためである。
 彼女達はムーの監視網をすり抜けて、アンヘル基地へと向かったのだが、基地周辺の警戒は厳重で迂闊に近付けば直ぐに発見されて抹殺されてしまうだろう。
 彼女達の装備は偵察任務向けに特化されており、ストーキング性能は大した物だが敵中突破を図れるほど機動性が優れている訳でもないのでその場を移動しながら包囲網の穴を探したのだが人間の存在に惹かれ密集している集団にそのような隙は一切無かった。
 だが、何とかそこを通らねば活路が無いのは確かだった為、存在を知られぬように居場所を点々としながら機会を伺った。
 そして長い事待たされ、包囲していたムーのロボットに異常が出始めたのがつい先程だった。
 それが宇宙から放たれたプリティー・コケティッシュ・ボンバーの影響である事はついぞ知る事は無かったのであるが。(日本連合の特殊攻撃である事だけは、この後に数多くの戦場に偵察行へと行く事になる彼女の耳にも入ってくるのだが)
 最初の一撃、ロボット間の連絡網に掛かった負荷は個々のロボットの思考回路のブレーカーに過負荷を掛けていた為、再起動が掛かるまでの10分間、完全な動作停止状態に陥っていた。(これは現地ロボットに掛かった負荷とはまた別の種類の物らしい)
 最初はそのロボットどもの行動に不信感を持っていたシノブであったが、それが真性の物であると見抜くと行動は早かった。
 シノブがアクセルを踏みこむと、可変装甲バイク・モスピーダはHBTを燃料に力強いストロークで動作の停止したムーのロボットの間をすり抜け、駆け出した。
 不整地とは思えぬスピードを出して駆けるシノブの背中には少女型アンドロイドのモームがしがみついていた。
 既に偵察して来た貴重な資料以外の全ての装備を置いてきていた彼女達は、現在最低限の物しか携帯しておらず、モスピーダ以外の移動手段を持たなかった為、攻撃力となり得る可変機動という利点を捨ててでもその高速性に掛けるしかなかった。
 彼女達の居る地点からアンヘル基地の有る地点までは10キロ、ムーのロボットが追いかけてこなければ或いは、とも思われたのだが。
 彼女達の進む森の木陰から、数百メートル前方にムーと敵対している謎の機械が移動している事に気付いた。
 この時点では彼女はこの謎の機械、古代人機が人間に敵対する物かどうか分からなかったが敢えて危険を犯す必要も無かったため迂回しながらその場をすり抜けた。
 後ろの方から破壊音が響いて来たのは、彼女達が通りすぎてからそれほど時間が経ってからのことではない。危うく両者の戦闘に巻きこまれる所であった。
 以前に入手した座標へと近付いて行くとやがて鉄条網に囲まれた基地が目に入った。
 カナイマ・アンヘル基地。人間に敵対的な古代人機をテーブル・マウンテンへ封じ込める役割を持つアンヘルの基地である。表向きは・・・。
 彼女達が基地の周りの鉄条網の周りを迂回して行くと、硬く閉められた門扉が立ち塞がっていた。

「モーム、しっかり掴まってて!」
「ハイッ!」

 シノブは背中にしがみついているモームに声を掛けると、エンジンスロットルを全開に開いた。
 モスピーダのアーモライダー形態時に使用するホバリング用の噴射ノズルを吹かすと二人の乗ったバイク形態のモスピーダは勢い良く跳躍し、軽々と門扉を乗り越えた。
 軽くバウンドしながらモスピーダは無事にアンヘル基地内に着地した。地雷が埋められていなかったのは幸いだったが。
 シノブはヘルメットを脱ぐとモスピーダから降りようとした、その刹那、彼女の背後から声が届いた。

「動かないでくださいっ! 今、私は銃の狙いを貴女に付けています。貴女がムーのアンドロイドではないか確認させてもらうまで動かないで下さい」

 背後から聞こえてきた声は威勢は良い物の、どう聞いてもか弱い少女の物としか思えなかった。
 どこかで聞いたような声だと思いながら、シノブは正面を向いたまま背後の声に向かって返事を返した。

「良いけど、私は人間よ。マルスベースからの第2次地球奪還軍に先立って偵察任務を受けたムーンベース36分隊女性報道官のシノブ竹内。状況が変わったの、今ムーの軍勢が向かっているわ。この基地は危険よ。その事を伝えに来たのだけれど」
「知っています。先ほどからムーの下級兵士達の行動が活発化してますから。現在、我々はこの基地からの脱出準備を進めているところです。身体検査してもよろしいですか?」
「構わないわ。出来れば私達も混ぜてもらいたいな、その脱出行に」
「貴方達が人間であると証明されれば直にでも」
「・・・残念ながら、ひとりは人間じゃないのだけれど、ダメかな」
「え? それって」
「モーム」

 シノブが背中にしがみついたままの少女に声を掛けた。すると

「「 はい 」」

 背中のモームと銃を突きつけていた少女が同時に声を上げた。
 それをシノブは不信気に思ったが、構わず話を進めた。

「彼女は私を助けてくれたムーのアンドロイドの一人で、南米のムーの実態を調査している私が無理に連れまわしているのよ。ムーのアンドロイドには違いないけど彼女は絶対に無害だわ。それは私が保証する」

 シノブが事情を説明して納得してもらう為に次の言葉を重ね様とした所、それよりも早く彼女から肯定の返事が帰ってきた。

「はい、知っています。このアンドロイドが人間に危害を加える筈は有りません。だって・・・」

 なぜか知らないが、彼女は絶句したまま黙りこんでしまった。

「だって・・・、どうしたの?」
「だって、彼女は<ワタシ>です。」
「え?!」

 慌てて振り返ったシノブの目に映った物は、お互いに凝視しながら固まっているふたりのモームの姿であった。




「こう言っちゃ失礼だと思うけど。貴方達って大量生産の量販品なんでしょ確か。どうして同じ顔と名前だからってそんなに驚くわけ?」

 あれから数分後シノブが行った問いかけに、ようやく電子頭脳の整合性を取り戻した(シノブの)モームがシノブに説明をはじめた。

「私達は人間の方達の為に奉仕するアンドロイドです。しかし、社会を構成する一片でも有るという意識から、一体たりとも同じ顔の製品は作られない様に製造工程がつくられているのです。しかし、先ほどチェックした所、私と彼女の製造年月日と製造番号が完全に一致したんです。これは有り得るべきことではありません。私の論理回路では理解不能な」
「これが日本連合から連絡の有った「時空融合現象」って事なんじゃない?」
「知っていたのですか? では向こうと連絡がとれたんですか、あなた達も」
「いえ、残念だけど敵地の直中をさまよっていた私達にはそんな余裕はなかったから、受信だけね。貴方達と日本連合との会話を傍受していたって訳。だからここに来れた。そう言うこと」
「そうなんですか・・・。彼らから「救出に向かう」「計画を立てている」という連絡が有ってからかなり経ちますけど、すでにもう限界が来たようです。ここに愚図愚図していたらそれこそ」
「それは分かっているわ。ムーのことなら私達のほうが詳しいもの。後2〜3時間がせいぜいでしょうね。それで、私達の疑いは晴れたのかしら」
「ええ、それはもう。ではアンヘルの方々にご紹介いたしますので、付いて来て下さい、シノブ佐竹さん」
「ミス・シノブで結構よ」
「分かりましたシノブさん」

 彼女らがかなりの広さを誇るアンヘル基地を人機等の整備工場が有る区画へと案内していく間にアンヘル・モームは、先ほどのシノブの疑問に答えていった。
 ムーの世界ではアンドロイドの使用が盛んであった事、人類自体の仕事がなくなった訳ではなかったのだが、高度に進歩した文明に於いては人件費の高騰から人口の減少が著しく、文明を維持しながら経済状態を安定させるためには彼女達のようなアンドロイドが欠かせなかったとの事である。
 だがその為に画一的な個性しか持たないアンドロイドでは人間の側からの区別が出来ず、それがストレスに繋がったため、或る時期以降に製造されたアンドロイドは法律でそれぞれの個体にはコンピューターで作成された数多くのパターンの顔が与えられたとの事。
 その通常ヒューマノイドタイプだけでも色分けまで含めれば数十億パターンにも及び同じ顔のアンドロイドは有りえないと言うことだった。
 また、彼女のような人間の生活に入り込むアンドロイドは人間に対してストレスを与えないキャラクターと言うことから、人間生活の補助に必要なだけの背丈であり、尚克つ邪魔にならない大きさとして身長120cmを基準とした体格が与えられた。(大体HoNDAのASIMOと似たような設計思考の様である)
 更にモーム達の場合、ムー世界での文化的側面から検討された結果、少女の形態と思想を持つ事で人間に尽くす事を主目的にしているのだと言う。
 無論、どちらかと言うとウーマンリブに近い思想を持つシノブとしてはその様な結論は女性差別、女性蔑視以外の何物でもなかったのだが、何の接触もなかった世界について文句を言っても仕方ないと思い直した。それに結果として彼らは既に滅んでいるではないか。
 シノブは心の中で人権擁護委員会事務総局苦情処理係宛ての抗議文をしたためる事で溜飲を下した。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 南米大陸上空を高速で駆ける特殊救難機グロイザーX内部に設けられた、要救助者保護設備の耐G拘束席、繭のように彼らの身を包む耐Gベッドに横たわりながらシノブは数時間前のことを思い出していた。
 とうとう侵攻してきたムーの戦闘ロボットの手から逃れるために乗り込んだ装甲など無いに等しいトラックに乗り込んだアンヘルの隊員達とシノブと彼女のパートナーのモーム。
 それを援護するために出動してゆく巨大な人型ロボットのモリビト2号の若い男女二人と作業用のナナツーウェイカスタムに乗り込むもう一人のモーム。
 だが、ムーの兵力は圧倒的で如何に優れた性能を誇る人機と言えども苦戦は必至だったのだ。
 結果、モームの乗ったナナツーウェイカスタムは序盤に大破し、モリビト2号も辛うじてオトリ役をこなすだけで精一杯であった。
 そして間近に迫った死の臭いが耐えがたいほどに成った時、ギリギリのタイミングで現れた日本連合の救難機。
 ムーの戦力の事を良く知る彼女であってもあのタイミングは無いのではないかと言いたくなるほど、ギリギリの時間であった。
 もしも、後一日早ければ、彼女は助かることが出来たであろうに。

「モーム・・・」
「はい」

 シノブがベッドに横たわったまま声を発すると、すぐ隣のベッドから聞きなれた声が帰ってきた。

「心残りは無かったのかな、もう一人のあなたは。人間なんかの為に自分の存在を投げ出さなくてはならなかった彼女の心は」
「そんなことは有りません。私達アンドロイドは一個のモーターからオイルの一滴に至るまで、すべて人間の方に捧げ尽くすために存在するんです。あの場に存在したすべての人間の命を救うことが出来たんですから、それは満足すべき結果なんです。それに彼女は最後まで諦めていませんでした。きっと生き延びているはずです。こう言っちゃ何ですけど、私達はしぶといんですよ。壊れない限り、動けるんですから。私よりも稼動時間が長い彼女の内蔵電池の消費期限まであと10年近くありましたから、電池が切れるその時が来るまで私達は人間の方に尽くす欲求を無くす事は有りません。私には分かります。それに」
「それに?」

 シノブは少し言い淀むモームに先を促した。

「アンドロイドの私が言うのもおかしいのですが。・・・私の勘では、もう一人の私が壊れたとは思えないんです。今も必死に人間の為に活動していると言う気がします」
「・・・そっか、あなたがそう言うならきっとそれはそうなのよ。・・・モーム、私は体勢を立て直したら又、どこかの軍に入って偵察任務に就こうと思うの」
「危険ですよ」
「私の性格、知っているでしょ?」
「だから言っているんですぅ。一応聞いて置きますけど、どうしてなんですか?」
「良いことも悪いことも、嬉しいことも辛いことも、悲しくて堪らない事も、人間は知っていなければならない。それが世界を動かす事が出来る力を手に入れた人間の最低限の義務だと私は思う。ならば、その事実を誰かが知らせなければ成らないもの。それがたまたま私だって言うだけのこと。それに常に最前線へ出て行ける機会が有るのなら、ムーの手から南米を奪還する時に一番乗りをするのは私だわ。私は絶対に帰ってくる、この地に。モーム、こんな私だけど付き合ってくれる?」
「はい勿論です。私はいつまでもあなたと共にどこまでも行くと誓いましたから。すべての人間の利益の為に、あなたに最大限の助力を」
「私は私の信念のために。そしてアンドロイドと人間のより良い関係を構築するために、ね」
「はい、シノブさん」




日本連合 連合議会


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