イーディス社が再興を果たしたDPは、全国規模の展開を見せて日本各地にフランチャイズ形式の支店を増やしていった。
総合アミューズメントパークとして発展していった新生コニーパレスであったが、唯一、しかし大きな顧客層の穴が有った。
現代社会において女性の集客力と言うのは無視できないものであり、そしてDPが一般向けであるとは言え矢張り男性向けの物である事は疑うべくも無かった。
そこで、DP熱が一段落した頃、男女共に楽しむ事の出来る本当の総合アミューズメントパーク目指して新規の企画が練られていった。
一般に男性に比べて女性は現実的な価値観を持つと言われている。
男性は擬似世界であるDPでも支障なく楽しむ事が出来たが、実際に手に取る事の出来る商品が女性に強いアピールを持つ事は確かでありそれを基点に企画は進んでいった。
そのヒントとなったのが時空融合直後からコアなマニア達の間に流行っていたプラレスと言うものの存在だった。
しかし、プラレスを楽しむためには高度なコンピュータープログラムを組む才能とセンチボットを1から組み立て上げられる才能が必要であり一般向けの代物ではなかったのだ。
だが、自分の手に持つことの出来る人形と言う存在は小さい頃から人形に親しむ機会の多い女性に対して大きなアピールを持つことは確かであった。
そしてイーディス社と海援隊、そして優れた技術力を持つ大道寺玩具が組み研究が開始されたのが後に熱狂的なファン層を取りこみ、社会現象とまで化した本物の手に取る事の出来る天使を模した人形による対戦ゲーム、エンジェリックレイヤーである。
それはスーパーTALS網による全国同時対戦という機能を持たなかったが、既に全国展開していたコニーパレスに対戦用の筐体を置く事で素早い対応を可能としたのである。
その開発の中心にいたのが 人型ロボットの製作を夢見ながら、それが叶ってしまっていたこの世界で、苦い思いをしていた仁村桐生。オタク心と学術的探求心を満たしまくっている永遠の少年、長船悠樹。そしてもう一人の天才、三原一郎。
彼らが出会った時、歴史は加速度的に動き出した。
一方、後に脅威の新人としてエンジェリックレイヤー界に旋風を巻き起こす事になる鈴原みさきだが、時空融合後身寄りを失い一時的にとは言え時空融合孤児として保護されて居た。
だが、直ぐに彼女の母親である鈴原萩子と連絡が取れたのであるが、母親も生きて行くのに手一杯でありみさきを引き取って暮らすだけの余裕を持っていなかったのである。
そこで、母親は親戚筋に頼る事にした。
実際は世界が異なるために本物の親戚ではなかったのだが、それぞれに相似な人物が存在していた事が縁で彼女はその家に預けられる運びとなったのだ。
新世紀元年10月上旬 第3新東京市 中央センター駅
お互いに告白し合いすっかりベタベタになって居た幼馴染の碇真司と惣流飛鳥は周りが辟易するような熱々振りでいつものショッピングに出かけていた。
今日は日曜日と言う事で駅前のショッピングモールでウィンドゥショッピングと洒落込もうと家から歩いて来ていた。
「ねぇねぇ真司ぃ。光香里ってば鈴原に告ったんだってぇ」
「へぇ、委員長が? ようやくって奴かな」
「うんうん。全くいつまで経っても告白もしないしやきもきしてたのよねぇ」
「で? 結果は」
「断れると思う?」
「桃児には無理」
「よねぇ。で、今日はふたりでデートだって」
「へぇ。アレ? あれ桃児じゃん」
「あ、本当だ。光香理も一緒だけど・・・桃子ちゃんも一緒じゃない。気が効かないわね」
「悪いよ。おーい桃児!」
「あ、ちょっと。はぁ、気が効かないのはアンタも一緒だったわね」
桃児達に駆け寄る真司の後姿を見て飛鳥は溜め息をついた。
「おはよぉ」
「おはようさん真司」
「碇君おはよう」
「真司さんおはようございます」
「今日はふたりでデートじゃなかったの?」
いきなりの単刀直入な質問にふたりは咳き込んだ。
「あ! それでひかりさん朝からウチに来てたんや! 残念やったねアニキ」
「い、いらん事いうなや。シーンージーィ。ニュースソースは拳輔か?」
「ううん。飛鳥だけど」
「う・・・。光香里・・・話たんかぁ」
「え・・・うん。だって親友だし」
肘で小突き会うふたりの前に苦笑いを浮かべて飛鳥が顔を出した。
「あ、あはは。オハヨ、光香里・・・」
「うふっ飛鳥。ちょっと話があるんだけど・・・後でね」
「あははははは・・・怖いヨォ・・・」
余りに鋭すぎる光香理の眼光にビビッてしまった飛鳥はシンジの背後に隠れてしまった。
「まあまあ。所でデートじゃないんならどうしたの三人で」
「あ。ああ、実はな親戚筋の女の子をウチでひとり引き受ける事になったんや。で、中央センター駅に10時に待ち合わせててなぁ。あ、あかん10分前やがな急がんと。じゃ急ぐサカイまた明日な」
「うん。がんばってね」
「おう」
で、駅前。
駅前には謎のオブジェが飾られており、待ち合わせ場所として利用されていた。
一応そのオブジェには題名が付けられているのだが、誰もそれを理解して居ないようだ。
ともかく、そこに小学校低学年の女の子がどことなく不安げに辺りを見まわしながら待ちぼうけしていた。
「はぁ。私みたいな子なんか受け入れてくれるんやろうか」
色々とコンプレックスの多い彼女は溜め息を吐きながらベンチに座っていた。
そこへ息を切らせながら3人が駆け込んできた。
「はぁはぁはぁ。で、電車が着くのは9時55分やからギリギリ5分前やな。今日ばかりは遅刻する訳にはイカンからのぅ」
「ホンマ、アニキは朝弱いからなぁ。目覚ましなってん起きやせんし」
「いらん事言うなて」
「へへーんだ。ホントの事やろ。ホンマ、大変やね光香里さん」
「な、な、な、何言うてんねん。お前何云うてんかわかっとんのかいな」
「何が?」
彼女の天真爛漫な瞳に桃児は口篭もった。
「いや別になんでもあらへんねん」
数分が過ぎた。
「遅いなぁ。まだ出て来ぃへんのやろか」
「慣れとらん所に来たんやで。仕方ないんとちゃう?」
「そか」
更に30分が経過。
「ホンマに遅いなぁ・・・桃子、ちょっと駅員さんに電車が遅れてないか訊いて来て来んけ」
「えー」
不満げに抗議の声を漏らす桃子であったが、その後ろで桃児の言葉を聞いていた光香里にはカチンと来たらしい。
委員長モードに入った彼女の言葉は鋭かった。
「鈴原ッ!」
怒鳴りつけられた鈴原はビックリして肩を振るわせた。
「うわっ」
「なーっ!」
「ちょっとその言い方は無いんじゃ・・・ってあら?」
彼女が怒鳴ると、桃児から少し離れた所に座っていた女の子がビックリ眼で光香里を見つめていた。
「あ、あは。ごめんね。驚かせるつもりじゃなかったんだけど」
「いえ、かまわんですけどぉ。あのー」
「うん。なに?」
「わたし・・・みさき云うんですけど。鈴原さんですか?」
「えっと・・・桃児? 迎えに来た相手って」
「鈴原みさき云う子やて」
「わたし、みさきです」
「? オレ等がここに来る前からおったやん。電車の時間は」
「あ、はい。慌ててて一本先ので来てました」
「なんやそりゃ!」
「なーっ! 済みません」
「いや、良いんやけどな」
「って云うか、桃児。相手の顔知ってたんじゃないの?」
「そんなモン、5秒で忘れたわい」
胸を反り返して堂々と言い返す桃児の胸に桃子の右腕から放たれた鋭いツッコミが入った。
「なんやそりゃー!」
「グボッ・・・良いツッコミや。成長したな桃子、コレでお前も立派な関西ガールや!」
「修行の賜物やね」
「うんうん。オレ等がこの第3に越してきてから早10年。いつ関西に戻ってもやってける様に続けていた関西人修行もバッチリや」
「アニキ」
「桃子」
ひしっ!
「なー・・・」 わたしこの人達に付いていけるやろか。
「あのーもしもし? 」
思わず抱き合う兄妹に危険なものを感じた委員長はイヤそうにだが、間に割って入った。
「とりあえずみさきちゃんも見つかった事だし。家に帰らなくて良いの? 」
光香里の指摘に我に返った桃児は咳払いなぞしつつみさきに右手を差し伸べて話し掛けた。
「オレは鈴原桃児、これからよろしゅうな」
握手
「は、はいっ! 頑張ります」 なにを?
「ウチは妹の桃子。同い年やね。名前は菊池桃子と同じ漢字や」
「な? 」
「あかん、外してもうた。(アセアセ) とにかくよろしゅうな」
「うん。よろしく。このお姉さんも兄妹なん?」
「どうやろ? そりゃあアニキ達の都合次第って事で・・・」
「な、何言うとんねん。アホ」
「そ、そうよ。私達中学生なんだから。碇くん達みたいな事なんて、まだ早すぎるわ」
「ほほーう。「まだ」やて。ミサ、ふたりの関係は聞いての通りのラブラブカップルや」
「な? な? な? な?」
真っ赤になって困惑するみさきを尻目に兄妹のじゃれ合いはますますヒートアップしていった。
「桃子ぉ!」
「あはははっアチチやアチチー!」
「待たんかーい!」
からかいながら距離を置く桃子を追って桃児は後を追い掛け始めた。
追われれば逃げる訳で、あっと言う間にふたりは姿を消した。
わざとやって居るんだったら立派なイジメだ。
実際の所、本人達に悪気はないのだが。
「あのふたり、何しに来たのか忘れてるみたいね。みさきちゃん?」
「はい」
「ついでだからこの町の事説明しながら鈴原の家に連れていって上げる」
「ありがとうございます」
「なにはともあれ第3新東京市へようこそ。よろしくね」
「はい! えーと」
「あは、ごめん。私は洞木光香里、鈴原・・・桃児の同級生なの」
「はい、洞木さん」
と、ふたりは連れ立って駅から町中へと歩いていった。
数分後、息も絶え絶えになってベンチに戻ってきた鈴原兄妹の前には誰もいなかった訳で。
慌てて家に戻ると、鬼の形相の委員長が玄関前に仁王立ちで待ち受けていた。
その姿は四国四女神のひとり「福岡田鶴子」の形相に勝るとも劣らないものであったと伝説には記されている。
波瀾万丈奇々怪々。
鈴原みさきに待ち受ける運命や如何に、以降の事は、また次の機会に。