スーパーSF大戦 インターミッション

 異星系日本人登録 





 あらゆる全ての知的生命体を対象に(充分に人工知能が発展した後の時代には生命体の定義が変更されて高度な人工知能も対象になった)日本の法律に従うことを条件に日本国籍の取得を行えるようになった。
 その第1号、2号が東京の友引町に住んでいるラムとテンであった。
 ある日、諸星家の夕飯時にそのニュースを見たラムがこう言った。

「ダーリン、うちとテンちゃん、明日この宇宙人登録ってのに行って来るっちゃ」

 それを聞いてあたるは軽く返事した。

「おう、行って来い行って来い」

 快く言ったような感じだが、その内心ではこう考えていた。

『くっくっく、鬼の居ぬ間にガールハントじゃ』

 だが、甘かった。彼の考えは余りにも浅慮であったのだ。


 マスコミの注目の中、彼女とテンは非常に注目を浴びる方法で異星人登録が成されている官庁に姿を現した。
 その日は晴天であったにも関わらず、突然空に雷鳴が鳴り響いたかと思うと突然空中に虎縞模様のUFOが浮かんでいた。
 一瞬、詰め掛けていた取材陣の間にパニックが起こり掛けたが、すぐに報道魂に火がつくようなことが起こり、騒ぎは収まった。
 空中に静止した虎縞UFOの底辺に穴が開き、そこから姿を現わした人影が命綱も無しにそこから落下してきたのである。
 彼ら取材班は目を見張ったが、そのスピードはひどく緩やかな物に見えた。
 よくよく観察してみると、その人影は物理法則を無視したような緩やかなスピードで地上に降りてきたのだ。
 しかも、彼らはごく僅かな下着のような服しか身に付けていないでは無いか。
 それは明らかに人類以上の科学力が介在していると云う説得力を持つ光景であったのだ。
 それを確認した報道陣は、「もしかしたら来るかも知れない」と半分以上諦め期待していなかった彼らの注目を完全に惹きつけたのだ。
 そしてラムは印象的にゆっくりと異星人取材の報道陣の目の前に降り立ったのである。
 後にワイドショーなどで繰り返し放映されることになる映像がそれだ。
 空から舞い降りてきた虹色に輝く髪を持った少女という幻想的な光景は、ニュースを求めていた彼らに格好の機会を与えたのだ。
 ラムが地に足を付けると彼らはラムの周りに群がった。
 ラムの予想を越える反応に戸惑いを覚えたが、元々極めて許容力の広いラム達は彼らの突きつけるマイクにもにこやかに微笑みながら答えた。



「いま空から降りてきましたが、あなたは異星人なんですか!?」
「だっちゃ! だって地球人は空を飛べないっちゃ。見て分かるっちゃ」
「あの空に浮いているUFOはアナタの物なのですか?」
「そうだっちゃ、アレはウチの自家用UFOだっちゃよ」
「アナタは異星人登録第1号と云う事になる訳ですが、地球人社会に対する不安とか無いのですか?」
「べつに? だってウチは地球に来てから1年以上たってるし、皆良くしてくれるっちゃから、危害を加えられたことなんてないっちゃ」
「では、地球に住んでから長いようですが、一体何処へ住んでるんです?」
「ウチ? ウチの住んでる家は普通の家だっちゃよ」
「ホームステイで地球の文化を学んでいると言うことですか?」
「ちがうっちゃ」
「地球を侵略する意志は無いのですか?」
「う〜ん、今はないっちゃ」
「今は、と言うことは過去にはあったと言うことですか?」
「元々うちはインベーダーだし、ダーリンと戦うまではそうだったっちゃよ。でも今は全然そんな気はないっちゃよ」
「あなたのお名前は?」
「うち? うちの名前は・・・諸星ラム、日本人 諸星あたるの妻だっちゃ!!」
「「「 おおおおおーっ!! 」」」

 ラムの予想外の告白に報道陣の間から驚きの声が上がった。
 そのうちの一人、ワイドショーリポーターとして元の世界で活躍していた男性報道陣の一人が慌てた調子でラムにマイクを付きつけるようにして質問した。

「それで、その幼児はもしかして、あなたのお子さん、つまり地球人との混血児なのですか?」
「テンちゃん? テンちゃんはウチの従弟だっちゃ。うちと一緒にダーリンの家に暮らしてるっちゃ」

 こうしてラムへの質問は延々と続いたが、いつまで経っても終わらない質問に流石のラムもじれたのか突然空中に浮かび上がると 「待ったねー、バイバーイ」 と言って役所の中に入ってしまったのだ。


 その頃、吉祥寺駅の近く。
 ラムが外出してから1時間後、諸星あたるはいつものようにガールハントへ町に繰り出していた。
 駅前の繁華街にて彼はガールハントを始めたのだが、何故かいつもと様子が違うことにあたるは気が付いた。
 いつもなら

「ねぇねぇお嬢さ〜ん、住所と電話番号おせ〜て」
「なによあんた。しっしっ」
「ん、もうつれないなぁ。あ、ボク諸星あたる。ねぇねぇいいでしょ奇麗なお嬢さ〜ん」
「しつこいわね。あっち行ってよ」

 となるところなのだが、今日の場合

「ねぇねぇお嬢さ〜ん、住所と電話番号おせ〜て」
「なによあんた。しっしっ」
「ん、もうつれないなぁ。あ、ボク諸星あたる」
「えっ・・・諸星あたるって友引町のですか?!」
「えっ! 知ってるの?! いやぁ光栄だなぁボクの名前がそんなに広まってしまってるなんて。もてる男はつらいぜ・・・なぁ〜んちゃって、あはははは」
「だってそれは知ってるわよ。あ、サイン貰えます?」
「え、サイン?」
「だってアナタあの諸星あたるさんなんでしょ?」
「あのってどの」
「これよこれ」

 そういうと彼女は懐から新聞の号外を取り出した。
 そこには彼の押し掛け女房であるラムとテンの写真が掲載されていた。
 そしてその見出しには、異星人登録第1号は鬼族の諸星ラムさん。
 親善結婚!? 結婚相手は地球人、友引高校2年生諸星あたるくん(17)。
 文章を読み始めた当たるの手はガクガクと震え始めた。

「なにぃっ!?」

 驚きの声を上げるあたるにその女の子は更に追い打ちを掛けた。

「さっきからテレビとかでその話題ばっかりよ。もぅ、あんな奥さんがいるのにガールハントなんてしてぇ。冗談でもそんな事しちゃ駄目でしょ、あ、そういえば記者会見やるって言ってたけど行かなくて良いんですか?」
「・・・・・・はめられた」

 そして、逃亡を決意したあたるが近くのJR吉祥寺駅に向かって駆け出そうとした瞬間、その肩に手が置かれた。

「何処へ行く積もりじゃ? お主が向かうのはそちらでは無かろう? のぅ諸星」
「サクラさん・・・」
「年貢の納め時よ、あたるくん」
「し、しのぶ」
「大人しくしてくれよな」
「りゅ、竜ちゃんまで」

 いつの間にか周囲を囲まれたあたるは進退極まった。
 と、そこへあたるを救う一条の光が。

「はーっはっはっは、助けが欲しいようだね諸星くん」

 近くの歩道橋の上で特殊公安ケルベロス隊隊員達が身に付けるプロテクトギアにも似た装甲服を身に付けポーズを付けている男が居た。
 それを見たあたるはダッシュでそちらへ駆け出した。

「助けてくれ助けてくれぇ! メガネ!」
「わ、ワタシはメガネなどという者ではない。だがしかし、今はその様なことはどうでも良い。さぁ、ここは私に任せて逃げるんだ」
「サンキューメガネ」

 あたるは彼の肩を叩いて逃亡に入った。
 そして残ったのは獲物に逃れられ、新たな生け贄を捧げられた3人の狩人達とそれらに対抗するには余りにも卑小な力しか持たない哀れな子羊が一匹であった。
 彼の生死は定かではない。だが、彼の貴い犠牲をあたるは1時間後に彼女たちに捕まるまでは感謝していた物と思われる。


 友引高校、近所では騒ぎの多い学校として有名なここで記者会見の席が設けられていた。
 控え室には関係者一同が会見の時間を待っていた。

 それまでにはこう云う経緯があった。
 ラムとテンは無事に日本国籍の取得申請を済ますと諸星家に帰ってきていたのだが、そこは既に記者達が詰めかける修羅場と化していた。
 取り敢えず玄関は塞がれていた為、ラムとテンはあたるの部屋の窓を開けてそこから家に入った。
 階下に降りるとあたるの母親と騒ぎを聞きつけ帰ってきた父親がふたりで力一杯玄関の扉を押さえていた。
 その扉の向こうからはドンドンと扉を叩く音や取材の申し込みの声が聞こえてくる。
 鍵は掛けている物のいつ扉を壊して入ってくるか分からない状況だった。

「ただいま〜、お父さまお母さま。? 何してるっちゃ?」
「あ、あらお帰りなさいラムちゃん。何だか知らないけど新聞とかテレビの取材の人達が押し寄せてきたのよ」
「またあたるが何かやったんじゃないのか?」
「否定できない・・・はぁ〜産むんじゃなかった。 ラムちゃん知らない?」
「え、うち・・・うち知らないっちゃ。それでダーリンは」
「あたるならラムちゃんが出掛けて直ぐに何処かに行っちゃったわよ。またガールハントでしょ、まったく誰に似たのかしら」

 と言いつつ横目で傍らの夫を見る妻であった。

「な、な、ワシじゃないぞ。尻軽なのは、きっと」
「きっと何なんです?」

 自分の発した言葉に予想以上の冷たい視線を返してきた妻に夫は狼狽し目を泳がせてどうにか話題を逸らそうとした。

「あ、いや、何だその、あたるはいつ頃帰って来るんだろうねぇ」
「はぁ〜情けない」

 と、家族団らんが行われていたのだが、その時外から歓声が上がった。

「あたるかしら?」
「それにしちゃちょっと騒がしすぎないかい?」
「そぉねぇ、ラムちゃん、ちょっと2階に行って見てきてくれない?」
「はぁ〜い、行ってくるっちゃ」

 返事をするが早いか、ラムはピョーンとばかりに階段を跳ね上がって行った。
 そしてラムが窓から顔を覗かせると、玄関先にボコボコにされたボあたるとボコボコにしたサクラ、しのぶ、竜之介の3人が来ていた。
 3人は取材攻勢に遭い身動きが取れず難儀しているようである。いつもであれば問答無用で殴り飛ばし蹴り飛ばしブルーインパルスにしてしまう所だが、流石にマスコミの前で暴れるほどアレではないらしい。
 その替わり大声を出して彼らを退け何とか諸星家の玄関に辿り着こうとしている。

「ええい! 私達はこいつに引導を渡しに来ただけじゃ。さっさと退かんか、・・・ええい埒が開かん。しのぶ、竜之介、強行突破じゃ」
「ええ〜、だって私普通の女子高校生なんです、力技でなんて使えませぇん。キャッ! ダレよ今私のお尻を触ったの!」

 しのぶは素早く後ろに向き直るとひとりデレッとした顔のテレビレポーターらしき男の胸ぐらを掴んだ。

「おっとっこっな・ん・てぇぇえええ! どっせぇぇええええいっ!!」

 頭に血が上ったしのぶは胸ぐらを掴んだままその男を遙か彼方へと放り投げた。
 投げられた男の悲鳴はドップラー効果によって引き延ばされ低い音調になりつつ、そのまま消え去った。

「ほぉう? 普通の女子高生ね」
「はっ! あ、あ、あは、手が滑っちゃったぁ、てへっ、私ってお茶目さん」

 どこがやねん、周りの報道陣達はそんな顔を浮かべながら潮が引くようにしのぶの周りから退いた。

「さ、行くぞ。しのぶの怪力で皆も退いてくれたようじゃしの」
「え〜ん、私普通の女子高生なのにぃ」
「しのぶってスゲエなぁ」
「竜之介くんまで」

 その時報道陣の中から「彼女、金太郎の子孫か何かか」等と聞こえてきたが、しのぶは忍の一字をもって堪え忍んだ。

「ゴメン! サクラじゃ、諸星の親御さん方、ご子息をお連れしましたぞ、開けて下され」

 彼女がそう名乗って扉を叩くと中からあたるの父と母、そしてラムが顔を覗かせた。

「今回の件について相談したいことが有っての、上がらせて貰うが宜しいな」
「あ、おじ様おば様お邪魔しまぁす」

 サクラはそう言うとズカズカと玄関に上がってしまった。
 流石にしのぶはそこまで出来なかったが、何しろ不本意ながら幼なじみであり恋人でもあったあたるの家なので、一年前にラムが来て彼に愛想を尽かすまでは良くこの家に上がっていたのだ。
 妙に遠い過去のような気がしたが良く知っている家のことでもあり割とすんなりと靴を脱いで家に上がった。

「失礼します、諸星のお母さん」
「はい、いらっしゃい」

 竜之介はほとんど来たことのない家だったため柄にもなく緊張していたが、一時期自分の母親について悩んだときにこの諸星の母親に慰めて貰ったこともあるため、彼女に優しく受け入れて貰えるとホッとした表情になった。
 あたるの母は皆が家の中にはいると錠前を二重三重に掛け、戸締まりが完全で有ることを確認した後皆が行った居間へ向かった。
 彼女が居間へ行くと既にしのぶが食器棚から湯呑みを出してお茶を入れているところだった。

「あらあらしのぶさん、そんな事する事無かったのに」
「あ、すいませんおば様、勝手に使ってしまって」
「い〜のい〜のよ、わざわざ届けて貰って済みませんねぇ。これあたる!」

 そう言うとあたるの母はあたるの頭を平手で叩いた。
 その時まで気絶していたらしいあたるはパッと目を覚ました。

「あ、母さんおはよう。あれ、ここは?」
「ここはじゃ有りません。あんた今度は一体何をやらかしたの!? まったくもう、これじゃあまたご近所に変な噂が流れちゃうじゃないのよ。私がどれだけ恥ずかしい思いをしているのかあんたには分からないの?」
「ちょちょっと待ててってば。一体何がどうしたって言うんだよ」

 それを聞いた母は昼だというのに閉め切ったカーテンを指さした。
 ? 疑問符を顔に浮かべながらあたるが外を覗くと、前の道路一杯を埋めた報道陣に驚きの表情を浮かべた。

「で、あんた今回は一体何をしでかしたの」
「しっ知らないって、ホント、マジマジ。えーと、そう言えば駅前でガールハントしていて・・・」
「・・・ダーリン・・・ガールハントって何だっちゃ」
「ゲッ! ラム、何故ここに」
「ウチというモノがありながら、どーしてダーリンはいっつもいっつも浮気ばかりするっちゃ!」
「いや、それは男の甲斐性・・・」
「何だとぉおおお・・・ダーリンの、ダーリンのぉッッッ」

「双方待ったぁああああ」



 ふたりのいつものパターンでビリビリーッ! となる所を、話が進まないと考えたサクラは気合いを入れて引き離した。

「コホン、良いかな? 私達が今日この家を訪れたのは他でもない」
「サクラさん嬉しいよ、ようやく僕の愛を受け入れてくれる気になったんだね・(ドスン)・グホォ」
「寝言は寝てから言って貰おうか、諸星」

 もうこれ以上話を脱線させられては叶わん、と判断したサクラはあたるの鳩尾に一発入れて黙らせた後、淡々と話を続けた。

「ご主人、テレビを付けてもかまわんかな?」
「あ、はいはいどうぞ」

 サクラがテレビを付けると、何故かこの家の前の景色が写し出されていた。
 その中に踊っている文字には「高校生、宇宙人との同棲」とか「異星間親善結婚」とか「赤ちゃん誕生目前か」とか「私は見た本当の真相」とか「高校生、異星人との爛れた関係」とか「既に子供まで」等と載せられていた。

「ま、こういう訳でな、ラムがテレビに映ってからはずーっとこんな感じじゃ。しかも時が経つに連れ内容が推測に基づいた悪質な物になってきておる。此処に至り、こんな者でも一応、私の職場の生徒であるからして放って置くわけにもいかんからのぅ、ここはひとつキチンと皆の者に説明しなければならんと考えた次第じゃ」
「あの、それってどう云うことですか?」
「だから、友引高校に会見のセッティングが出来ているから皆で行かねばならぬ、と言う事じゃな。別に悪いことをしたわけではない、気は楽に持って良いぞ。それにこれは秘密なのだが、実はな、面堂を通じて政府筋から異星人の日本国籍取得の先例を穏やかに済ませて欲しいと言う話があったようじゃ、ラム、お主も宇宙人代表として地球との友好の印になる訳じゃ、嬉しかろう」
「宇宙人ていったって、ウチの知ってる奴らかどうか分かんないっちゃ。でも、いいっちゃよ。行くっちゃ」
「うむ、当然諸星も良いな」
「うう、イヤ」
「嫌とは言わせんぞ。もう会場の準備も整っているはずだろうしのぅ、ご両親もご一緒に頼みますぞ」
「ええ、私達もですか?」
「それはそうでしょう、いちおう諸星も未成年の高校生ですから、ささ、騒ぎが大きくならない内に準備を頼みますぞ、ではしのぶ、表の連中に会見のことを伝えてきてくれ」
「はいサクラ先生」

 こちらの準備はサクラに任せるとしのぶは玄関に向かった。
 錠前を外し、外に出ると彼らは何やら協議しているようだった。

「どうしたんですか?」
「うーん、いやあのおかっぱの女の子が金太郎か座敷童かで意見が分かれていてね」
「なんですってぇ!」
「あ、キミは座敷童の、あぐ」
「ふっふっふ、嫌ですわ、おじさんたらぁ、うふふふふ」

 彼はしのぶの視線に気付くと怯えたように口を噤んだ。
 しのぶは口元に寒い笑いを浮かべたが、ふっふっふと声を出すだけで耐えた。
 流石、ブリッコが全盛期の女の子である。ヤマンバ全盛の今だったらこうは行かないですね。

「皆さんにお伝えします。諸星あたる、並びにラムの会見を友引高校にて今から1時間後に行います。此処にいても無駄ですので速やかに移動をお願いします」

 それを聞いた報道陣の集団はガヤガヤと騒ぎ立てていたが、潮が引くように消えていった。

 と、言うワケで各テレビ局で盛大にテレビ特番が始まったのである。




 都内某所の時計坂上にある一刻館。



 洗濯日和の今日、五代響子は縁側にて日向を浴びながら洗濯物を干していた。
 彼女と夫との間に出来た一人娘も現在は夫の務める幼稚園に通っており、彼女も管理人を続けつつ幸せな日々を過ごしていた。
 と、そこへ何故か管理人室に陣取りテレビを見ていた一ノ瀬婦人が部屋の中から声を掛けてきた。

「ちょっとちょっと管理人さん、いよいよ始まるみたいよ。宇宙人の記者会見」
「へぇー、あっちょっと待ってて下さい。これ干したらすぐ行きますから」
「待っててったって、私に言われても困るんだけどねぇ」

 結局響子が部屋に戻って来たときには会見は始まっていた。

「あら、宇宙人て言うからてっきり目玉の大きい銀色の人かと思ったんですけど、違うんですね」
「本当にねぇ。あたしゃてっきりタコみたいな変なのが出来るかと思ったよ」
「さすがにちょっとそれは」
「ほほぉ〜う。これが例の宇宙人ですか、昔アタシが会ったのとは違いますな」
「よ、四谷さん。いきなり出てこないで下さいよ。と、ところで四谷さん宇宙人にあったことが有るんですか?」
「ちょぉっとちょぉっと管理人さぁん。なぁに四谷さんの言うこと真に受けてるのよ、いつもの嘘っぱちに決まってるじゃ〜ん」
「六本木さんまで、うっ、酒臭い。また上がり込んで酒盛りしてましたね」
「えへへぇ〜、べっつに良いじゃないのぉ〜。五代くんには手出ししてないんだからさぁ」
「されて堪るモノですかって、また壁に穴を開けて入ったんですね」  ワナワナ
「あはは、ゴメンゴメン」

 拳を握り締めて内なる癇癪の火種に耐える響子に対して、六本木は知ってか知らずかヘラヘラとして返した。

「あなた達は一体何時になったら」
「あれ? 四谷さんは?」
「まったくもう、いつの間にか居なくなってるし」
「ああ、四谷さんだったら、何か届け物の用事があるからってさっき出てったよ」
「・・・麻美さんは逃げないで下さいね。今度という今度はキッチリ言わせて貰います」

 いつもは娘の前で声を荒げたくないと抑えてきた響子はここぞとばかりに畳み掛けようと大きく息を吸い込んだ。

「ママただいまー」
「響子さんただいま」

 そして大声を出そうとした瞬間、丁度そこに愛娘と裕作が部屋に入ってきたのだ。
 慌てて声を止めるが、行き場の無くなった呼気により喉が締められてしまった響子は大きく咳き込んでしまった。

「ゲホンケホン、ウエッホン、エヘゲヘエヘン」
「ママー、だいじょうぶぅ?」
「え、ええ大丈夫よ。エホン、ありがとう」  撫で撫で
「えへへー」
「それじゃアタシ帰るから、五代くん響子さんをお大事にねぇ」  そそくさ
「あ、アサミさん、帰るんですか」
「え、ちょっと用事があってねぇ、じゃそう言うことで」

 慌てて逃げる麻美の後ろ姿に今度会ったときは、と誓いを新たにする管理人さんであった。




 都内某所にある無差別流格闘術天道道場。



 無差別格闘流という、ありとあらゆる武術に勝つために考案された流派の道場の脇には道場主たる天道早雲が主の家が建っている。
 そこの居間には天道家の面々、天道早雲、長女かすみ、次女なびき、三女あかねとあかねの許嫁の早乙女乱馬、乱馬の父親にて無差別格闘流のもう一方の雄たる玄馬がやはり興味深そうにテレビを覗いていた。
 以前までは閑古鳥が鳴いていたこの道場であったが、現在は治安の悪化やストリートファイトの隆盛による格闘技ブームによって以前よりも門下生が増えて少しは懐が潤い一安心の長女かすみさんである。
 しかしその一方で腕に自慢のある道場破りが結構頻繁に現れるため、師範代であるあかねと乱馬も結構忙しい日々を送っていたりする。
 つい先日もネオプロレスのギンコと名乗る格闘家と火引弾なるストリートファイターが道場破りに現れたが、丁重に(返り討ちにして)帰って貰った。
 ちなみに、地道な攻めをしてきたギンコの方が中途半端に「気」を使ってくる火引よりも手強かったようである。
 さて、記者会見の方はと言うと。




 一応、ラムがインベーダーとして地球に来た経緯と結果が面堂家に有った為、単独で創意工夫をしながら不屈の精神で一発逆転でラムを敗北させたあたるに称賛の拍手が送られた。






 テレビ画面でそれを見ていた男性陣はラムの豊かなバストが一瞬写った事に目を奪われた。

「ふぅむ、これは仲々」
「絶景かな、かな? でへへ」
「いひひひ」

 女性陣は軽蔑した眼差しでふたりのオヤジを見た。

「さーいてい」
「お父さんたら、もう」
「信じらんない。乱馬は、なに平然としてんのよ」
「あ〜、だってオレは見慣れてるからなぁ」
「え、何々? アンタたちもうそんな関係なわけ!?」
「違います! なに言ってんのよお姉ちゃん」
「そうそう、第一この寸胴のあかねとあれじゃ全く比べ物になんないだろ?」
「なんですってぇ!」
「少なくともあかねよりもオレの方が大きいしな、やーい寸胴」
「このぉ・・・表に出てけぇ!!」

 挑発され頭に来たあかねは乱馬の胸ぐらを掴むと有無を言わせず庭に放り投げた。
 開け放たれた障子の向こうからは乱馬が庭の池に飛び込む水音が響いてきた。




 とはいえ空を飛ぶ相手に鬼ごっこで勝つには確かにああいう策を弄するのは仕方のないところだろう。
 もっとも、男性記者達が拍手をしていたのは画面の中のラムに向いていたような気がするのは確かだが。 






「このぉ、いったい何をしやがるんでぇ」

 何故か甲高い声に変わった乱馬が閉められた障子を開けると、赤毛の少女に変身していた。
 そう、彼女・・・ではなく彼は水を被ると女の子に代わってしまうと言う体質の持ち主だったのです。
 水を滴らせながら女らんまが居間に上がると服を脱いで水を絞り始めた。
 元々男であることから羞恥心という物がなく堂々と胸をホリ出しているが、それを見ていたあかねの方が恥ずかしくなった為、タオルを掴むとらんまの顔目掛けてそれを放り投げた。

「ちょっと乱馬、体は女なんだから少しは恥ずかしがりなさいよ。恥ずかしいわね」
「へっへーんだ。わたくし、アナタみたいに恥ずかしい体はしてませんでございますのよ、オホホホホ、ヘブッ!」

 小指を立てて嬌を作るらんまに頭が来たのかあかねは無言で近くにあった魔法瓶を投げつけた。
 鋭い勢いで乱馬に激突した魔法瓶は蓋が吹き飛び、その中に詰まっていたお湯が乱馬の頭上から襲いかかった。
 熱湯はジュッと音を立てて湯気を立たせた。

「あっちゃぁあああ!! 何しやがんだよ!!」
「ふん! 戻してやったんだから感謝してよね」
「何だとこの暴力女、寸胴女」
「ぐぅううむむむむっバカバカバカ! 乱馬なんか知らない!!!」

 あかねは立ち上がると自室の方へと走っていってしまった。
 それを見て乱馬は勝ち誇った笑みを浮かべた。

「へへへん、参ったか」
「あらあらあら、乱馬くんたら、ふたりともしょうがないわね」

 その様子を穏やかに見守っていたかすみはそう言うと乱馬の前に立った。

「乱馬くん?」
「なんだいかすみさん」
「早く行ってらっしゃいね」
「行くって、どこへ」
「女の子を泣かせたのよ、責任をとりなさい、ね」

 その顔はいつもと同じく慈愛に満ちた物であったが、有無を言わせぬ説得力をも持ち合わせていた。と言うか、逆らった時にはどうなるのか分からない不気味さも持っていたが。




 ラムとあたるに対する質問が終了し、もうひとりの宇宙人テンに話題が移ったところちょっとしたハプニングが起こった。
 会見席の末席に控えていたマコという幼稚園児がテンの所へ進むと、記者達の前で彼女はこう言った。

「あなたはわたしのハズなんだからもううわきなんかしちゃダメなのよ」
「な、なに言うてんねん。わいはお前のことなんか知らんど」
「ひどい、あなた私のチョコレートうけとったじゃないの」
「ふん、あんな物食べとらんわい」
「そ、そんな・・・。いいこと、チョコレートをうけとったっていうことはわたしのアイをうけとったっていうことなのよ、うけとったからにはわたしとケッコンしなくちゃいけないの。ニホンの法律できまっているんだからね」
「ほ、法律・・・」
「そうよ、あなたわたしにキャンディーをくれたじゃない、あれでわたしたちのアイはせいりつしたのよ。まだ食べていないなんて・・・あなたこのままだと死刑になってしまうのよ!」
「し、死刑・・・」

 しまった忘れていた! という表情でテンは凍り付いたように動きを止めた。  






「おやおや、こんなに小さいのにしっかりしているねぇ玄馬くん」
「あ、ああ。そうだね早雲くん」
「だけど、チョコレートを受け取っただけで結婚しなくてはならないとは。あの世界もなかなか凄い物があるもんだ、あはははは」
「あはははは。そういえばのどかからチョコレートを貰ったこと無かったよなぁ」




 都内某所、お好み焼き屋の「じぱんぐ」



 結構繁盛している店内でブー垂れながら席に付いているカップルが2人いた。

「やれやれ、Mr.ブーの騒動が終わったかと思ったら次は宇宙人かぁ」
「本当ねー。ねぇ、ところで背古井氏は?」
「いや、今日は見てないなぁ。あの人何処で何してるか分かんないしなぁ」
「本当よねー。ネー、宇宙人とあの人とどっちの方が怪しいと思う?」
「やっぱり背古井さんじゃないかな?」
「あ、やっぱり。私もそう思う。きっと何処かの古くさい下宿屋か何かに住んでて、隣の住人にたかったりしてんじゃないの?」
「こ〜んにちはぁ〜。炎上寺さんに五味くん」
「うわっ、相変わらずゴキブリのように」
「はっはっはっ、まぁまぁ、とりあえず今日はお二人に残念なお知らせをしなければなりません」
「「 は? 」」

 実はこの3人とこのお好み焼きやのジパングは日本政府の諜報組織HCIA(日の丸CIA)の構成員とそのアジトだったのだが、この騒ぎで本部と切り離されていた。
 炎上寺由羅と五味たむろはそれぞれ超常能力を持つエ(キ)スパー(ト)であるのだが・・・抑制の出来ない怪力の持ち主とゴミ置き場とゴミ置き場の間を瞬間移動出来るテレポート能力の持ち主では本部でも活用の場を思い付かず、持て余されていたのだった。
 で、二人の担当が背古井唯安であった。
 その背古井氏がふたりに残念なお知らせとは一体。

「あ、私、豚玉お願いします」

 何事かと身構える二人を肩透かしさせるようにカウンターに注文する背古井。

「で、一体何なんですか?」
「まぁまぁ、そう慌てる乞食はもらいが少ないと言いますから。お好み焼きでも齧りながらゆっくりと」
「気になるじゃないですか」
「慌てても仕方ないですからね」

 そう言いながらお好み焼きの具を鉄板に明け、焼けると同時に食べ始めた。

「それで用事って何なんです?」
「はい、それはこの封筒の中に入っています。現在の状況はHCIAの第38条21項に該当すると思われますので。では私は忙しいのでこれで」

 そう言うと彼はそそくさとその場を去った。

「えーと何々? HCIA本部との連絡取れず。よって現時点を以てHCIA友引支部は解散となります。尚ジパングについては、機密書類を破棄の上通常業務に専念して下さいね・・・って、これってオレ達クビって事かよ?」
「どーも、そう言うことらしいわね。ヤケにあっさりと何処かへ行ったかと思えば・・・くぅううう」

 思わず机の端を握っていた由羅の手からミシミシと云う音が響いてきた。

「お、おい由羅、机つくえ!」

 怒りを顕わにしている由羅にたむろはびびったが、何とか治めた。

「むううう。ところで、今一銭も持ってないわよ私」
「お、おれも」

 此処の支払いどうしよう、等と思っていると封筒にもう一枚何か入っているのにたむろは気が付いた。

「あれ? これなんだろう。えーと、・・・追伸・おふたりにはじぱんぐのアルバイトを頼んでおきましたので、早速本日からどうぞ。だって」
「ここで?」
「ここで」

「まぁそう言うことなんで、ふたりとも今日から早速頼むぞ。今食べているのはサービスしといてやるからな」

 ふたりが無言で手紙を読んでいるとカウンターの方から白衣の男が声を掛けてきた。
 一見ただの調理師だが、実際はHCIAで諜報関連の連絡員を続けていた彼らの先輩にあたる。
 だが、今となってはただのお好み焼きやの店長になってしまったが、まぁ、無事平穏に諜報機関からこの店舗を退職金に抜けられたと考えればそれ程悪くはないかも知れない。




 都内某所の春風高校。



 春風高校グランドにて、粉砕バットを構えたOBの鳥坂が硬式の野球ボールを持っていた。

「おらぁあ〜る、千本ノック行くぞぉ!」
「あい」
「鳥坂先輩!」
「ん? どうしたさんご」
「どうして千本ノックなんですか?」
「あー、それはだなぁ」
「それはですねぇ、宇宙人と言えばタコ、タコと言えばハゲ、ハゲと言えばノック知事だからなんですよ」
「あ、そうか。でも横山さん結構前に止めさせられちゃったよ」
「そーなんですか」
「うん」

 とまぁ、間抜けな会話を交わしているあ〜るとさんごの後ろでは、顎に梅干しを作って怒りを一時的にプールしている鳥坂先輩が、粉砕バットを背後に放り投げていた。

「あある?」
「アイ、何でしょうか鳥坂さん」
「人のセリフを取るんじゃない! ウリャ!!」

 一瞬にして卍固めを掛けられたあ〜るの首から破滅的な音が響いた。

「あ、何をするんですか鳥坂さん、首のターレットにヒビが入ってしまって痛いではありませんか」
「だーいじゃぉぶ、むぅわーかせて! 痛いような気がするだけで本当は痛くなぁい」
「そうでしょうか」
「そう、そんなものである、と言う訳でもう一回! ウリャ」

 バキ

「あ、首が取れてしまいました」
「気にすることはなぁああい」
「大有りです! 鳥坂先輩あ〜るくんが可哀想ですよ」
「ホントホント、癖になったらどうするんですか?」
「第一どうしてノックしなければならないんです?! 」
「うむ、宇宙人が出てくる世の中だ。あ〜るを鍛えてやらなければとてもコイツには世界制服など愚の骨頂」
「いや、別に世界征服して貰わなくてもいいんですけど」
「あ〜るがそう言うんだから仕方がないだろう。なぁあ〜る」
「アイ。あれはそう。冬の寒い日お父さんは言いましたのです「よいかR田中一郎よ、今日は東京、明日は日本、明後日は・・・世界を征服するのだぁ!」と」

 そのセリフを聞いた光画部の面々は辺りをキョロキョロと見回した。

「どうされたんですか?」
「いや、いつもならここで成原博士が出てくる所なんだが」
「ああ、お父さんなら今テレビに出ていますので此処には来れません」
「ナニィ、テレビだとぉ」
「凄い凄い、でもどうしてテレビに?」
「ハイ、ボクのようなアンドロイドを作ることが出来るのはそうそういないと云う事なので」
「こ〜んなポンコツロボット作って一体何の役に立つというのだ?」
「失敬な、ボクのような人間並みのアンドロイドは貴重なんですよ」
「そーよねぇ、本当に人間並みよねぇ」
「計算するのに指を折るロボットなんてそうそう居ないよね」
「何を言うんですか、ボクはロボットじゃありませんよ、ロボットではなくてアンドロイドです」
「「 ハイハイ 」」
「でも今宇宙人の記者会見やってるよねぇ。それ本当に放映されてるの?」
「録画だそうですから大丈夫ですよ」
「ふぅ〜ん。じゃあ放送日が決まったら教えてね」
「アイ」




 都内某所、ゴーストスイーパー美神事務所。



「先生、宇宙人てなんでござるか?」

 いつもの通りGS美神事務所で飯をたかっていた横島に不思議そうな顔をして聞いてきたのは犬塚シロ、ここGS美神事務所でGS見習いをしている狼少女、人狼である。

「んー、つまり宇宙に住んでる人のことじゃないのか?」
「あんたバカねぇ。それじゃあ宇宙空間に住んでるみたいじゃないの。どっちかって言うと彼女の場合は異星人、別の星の人間の事よ」
「へー、つまり織姫殿のような人の事でござるか」

 シロの一言を聞いた事務所所長の美神とその下っ端の横島、家事に頼りになるだけでなく貴重なネクロマンサーとしての才能を持つオキヌの脳裏にあのゴツイ星界の女神の顔がズッシリとした感覚と共に思い出された。
 特に横島は本性を知りながら一晩のアバンチュールを過ごしそうになった為、モノごっつう落ち込んだ。

「い、いや違うんじゃないかな。一応アレでも神様だったし」
「そ、そうそう。あくまで別の星の人間よ。空を飛んだりしてるみたいだけど」
「つまり、拙者達に近い訳でござるな」
「クスッ、そうでもないんだけどね」
「そう言えば、横島さん本命チョコ貰ったのって何時なんですか」
「うう、オキヌちゃんが苛める」
「あ、そうじゃなくって。もしかして私が上げたのが一番初めだったのかなぁって」

 それがどう云う意味なのか敏感に感じ取った美神とシロはキッとオキヌを見つめた。

「なーにやってんだか」

 そんな自分以外の女達が水面下で激しい攻防しているのに当の本人たる横島が気付いていない、そんな見慣れた光景に「こんな男の何処が良いんだか、本当に人間て分からないわよね」とひとり冷静に見つめるのは九尾の狐として人間から追われていた玉藻という妖狐の少女である。実年齢は一歳に満たないが外見と行動は既に十四歳相当のモノを持っている。
 実際の所、妖怪という存在を未だに知らない日本連合国政府から追われる事はないのだが、何となく居心地が良いので彼女はGS見習いを続けていた。
 何しろここではGSに対する税金が甘く、美神はウハウハ、確実に幽霊騒ぎを納めてくれるので今まで頼りにするしかなかったインチキ霊媒師達に頼むよりもと言うことで彼女の事務所も大儲けしていた。
 実は、時空融合で金や宝石以外の有価証券などの財産がパアになってしまい落ち込んでいた美神が急に立ち直り、彼女の大好物の油揚げも毎日奮発してくれるほど上機嫌なのだ。
 既に宇宙人のことなど何処かへ行ってしまった食卓にそれでも何か好意のようなモノを抱き玉藻は笑みを浮かべてその騒動を見守った。




 相模灘に面する某日向温泉にある女子寮ひなた荘。



 町田市が東京都の半島ならばひなた市は東京都の飛び地である。
 東京都に属しながらも温暖な相模灘に面した鄙びた温泉街にあるこのひなた荘は元々は温泉宿であったのだが、オーナーの意向により現在は女子寮として経営されている。
 女子寮、つまりは男子禁制なのであるはずだが、何の因果か現在の管理人兼オーナーは東大を目指し四浪中の浦島景太郎(21)である。
 彼は住民達に振り回されながらもしぶとく浪人生活と管理人生活を続けてきていた。
 現在のひなた荘の住民は6名+1匹。
 歳の順で行くと
 紺野みつね、通称キツネ。フリーター
 成瀬川なる。景太郎と同じく東大を目指す浪人1年目。
 青山素子。高校3年生。
 カオラ・スゥ。高校1年生。
 前原しのぶ。中学3年生。
 サラ・マクドゥガル。小学3年生。
 ペットの温泉亀、温泉たまご

 そしてひなた荘の前で喫茶店「日向」を経営している浦島の叔母の浦島はるか(29)
 火事で下宿を焼き出されはるかの好意で喫茶店「日向」に住み込んでいるローニンズのひとり乙姫むつみ  以上の面々である。

 さて、ローニンズの3人、浦島景太郎と成瀬川なる、乙姫むつみは無事に二〇〇〇年度センター試験に合格して、明日はいよいよ東大二次試験の本番当日と言う西暦二〇〇〇年2月24日。
 流石に試験日の前日はぐっすり眠って、万全の調子で望もうと彼らはよく眠った。
 そして目が覚めると、何故か季節は春であった。
 何が起こったのか分からないまま3人は東大へと向かったのだが、その門扉にはこう書かれた表札が高々と書かれていた。 曰く。

 「帝國大学」

 勿論入学試験も無く半ば呆然とした彼らはひなた荘に戻るとそのまま眠り込んでしまった。
 これまでその日のために一年間頑張ってきた努力がパーになってしまった為その反動は大きく、最近まで何もする気力が湧かずにぐてーっとして過ごしてしまった。
 とは言えそのままで居るわけにも行かず、最近また受験勉強を始めたらしいのだが。
 ハッキリ言って次回の試験方法など、未だに未定で、どう対処すればよいのか全然分からないのが現状である。

「で、あんたどうすんの?」
「え、どうするって?」
「だから、今年は何処を目標に大学受験をするかって言ってんのよ」
「えーと、勿論今年も東大だけど」
「それは分かってんのよ。ち、小さい頃の私との約束だって 言うんだから、その」
「成瀬川・・・」
「・・・景太郎」
「あらまぁ、お二人とも仲が良いんですねぇ」

・・・・・・・・・

「「 う、うわぁ! むつみさん、一体何時からそこに 」」
「何時って、えーと今3時丁度ですから12時55分位かしら」
「いえ・・・、何時(いつ)って聞いたんですけど」
「あらまぁ。勘違いですか、それはゴメンナサイねぇ。ふふふ、私最初から一緒にいたじゃないですか」
「気付かなかった・・・」  ドーン
「えっと・・・ずっとそこに座ってました?」
「はい。お二人がお話に夢中だったようなので黙って息を止めていたら一緒に心臓まで止まってしまっていたようで、てへっ」
「「(てへっじゃな〜いっ!! )」」

 余りにもあっけらかんとむつみは言ったが、彼女の体力の無さは折り紙付きだった。
 気が付くと倒れているので周りとしても気が気でなく、去年東大に落ちた時、傷心旅行で沖縄まで行ってしまったふたりが鹿児島にて知り合ってからこれまでに何度吃驚仰天させられてきたことか。
 その癖、妙なところで地力が強く徹夜も苦にならないし未だに致命的な病気も患っていない。土俵際の魔術師とでも言ったところだろうか。

「それで景太郎さんはどうするんですか?」
「へっ? どうするって言うと?」
「だから何処を受験するかって事でしょ。私もさっき聞いたじゃない」
「あ、ああそうだったっけ・・・。で、今どこと何処があるんだったっけ」
「あのねー。いつまで呑気にしているのよ、それぐらいサッサとチェックいれとかなきゃ、5・・・4浪は決定よ」
「実質的には5浪・・・」

 ドーンと落ち込んだ景太郎を尻目になるは話しを始めた。

「まず東大と言って第1に挙げられるのが東京都にある日本の最高学府として作られた帝國大学、受験生の間での通称「伝統の帝國大学」、その次としては長野の第2東京市にある「名門の第二東京大学」でしょ、それから箱根に出来た第3新東京市にあって特に科学の分野で有名な「実力の第三新東京大学」の3つよね」
「ふぅん・・・でもやっぱり出来れば東京都の帝大の方が憧れるなぁ。東大じゃないけど」
「そうは言うけど、あそこの図書館にある蔵書や取り扱っている書類って右から左へ書く旧仮名遣いで漢字片仮名混じり文なんだけど。ついていける?」
「げげ、なんで」
「なんでって、そう云う世界から来たからに決まってるじゃない。私達だって本来だったらこんな事(受験勉強)なんてしてないで働かなきゃいけないんだからね。分かってんの?」
「あ、う、うん。素子ちゃんのお姉さんに感謝しなくちゃね」
「うん。特に私とむつみさん、キツネにスゥちゃんは此処しかないんだから。本当のトコ、皆不安でしょうがないんだからね」
「うん、分かってるけど」
「そう言えば景太郎さん、素子さんのお姉さんの実家って何処なんですか?」

 流石に住人のことについて一番知らないむつみはそれを疑問に思ったのか素子と一緒に現地へ赴いた景太郎に聞いた。

「えーと、素子ちゃんの実家は奥京都って云うか、京都府の外れの山奥にある神鳴流って云う古来より京都の魔を払ってきた剣術道場なんですけど」
「あらまぁ。 でも確か京都と言えば王様ゲームがどうとか」
「王様ゲーム・・・えーとですね、京都は確か日本連合王国っていう国の首都で、その国王が住んでいるらしいんですけど・・・なんか本当に京都から離れた山奥に道場があったから偶々こっちに来ていたって言ってましたけど」
「モトコちゃんのお姉さんて本当に妹思いよね。あの頃はまだまだ途中に危険な所とかあった筈なのにわざわざこんな所にまで来てモトコちゃんが無事かどうか調べに来たんだから」
「あのお姉さん、素子ちゃん以上に腕は立つからなー。それに無茶苦茶厳しいけどね」

 景太郎はその時のことを思いだし、恐怖に顔に縦線を引いた。

「はぁ〜。全く危ない所だったよ」
「危ないと云いますと?」
「お姉さんが素子ちゃんに神鳴流の道場を継がせようとしていたんですよ。それでこっちに残りたい素子ちゃんが咄嗟にボクなんかと結婚するから道場は継げないとか言い出しちゃって・・・ははっ、結局バレて約束は約束だ、って祝言を挙げさせられそうになってしまったんですよ」

 とは言いながら満更でもない表情を浮かべた景太郎になるはムカッと来た。

「へーっ、・・・景太郎、アンタやっぱりあのまま素子ちゃんと一緒になっちゃった方が良かったんじゃないの?」
「な、な、な、何言ってんだよ。オレは小さい頃に約束した通り、トーダイに行って幸せになるんだから」
「な、なに言ってんのよバカ」
「あ、つまりその」

・・・・・・

「まぁ。おふたりは相思相愛なのですね」
「えっ・・・」
「違います! 」
「えっ・・・」

 キッパリというなるに景太郎は落ち込んだ。
 と、突然景太郎達が居る景太郎の自室である管理人室の障子が開け放たれ、肌の色の濃い少女が元気良く飛び込んできた。

「オーッス、ケイタロー真面目にやってるのかー?」

 彼女はそのままの勢いで景太郎に跳び蹴りをかました。

「ぷろぽぴえふ!」

 景太郎は奇声を上げながら壁際まで吹き飛んだ。

「にゃははは。相変わらず変な声を上げよるなー。なーなー、テレビで宇宙人の記者会見が始まりよるで? 一緒にみよーよなー?」
「スゥちゃん」
「早よ急がんと始まってまうで、なー なるもむつみも一緒に食堂へ行こうで。皆待っとるし」
「はぁ、そうですか」
「ちょっとちょっとスゥ引っ張らないで」
 ・
 ・

「あのボクは・・・」

 ひとり残された景太郎は頭から血をどくどくと流しながら床に倒れていた。だが、驚異的な回復力を持つ彼を誰も心配しようとはしなかった。




 岡山県某所に存在する柾木神社近くの柾木家。



「ほぇええー、ねぇねぇ天地さん、宇宙人ですってホラ、テレビに映ってますよホラッ凄いですねぇ」

 食事部屋にていつものようにワイドショーを見ていた美星達であったが、美星は何を慌てたのかラムを指さして騒ぎ始めた。

「あの美星さん・・・」

 天地は美星のそのセリフに呆れて言葉が続けられなくなった。
 しかし、その横に座っていた阿重霞は美星の言葉を聞いて大きく溜め息をついて呆れ返った。

「はぁぁ、美星さん、ご自分で何を言ってるのかお分かりになっているんですの?」
「はいぃ?」
「分かってないし、ご自分がどこの出身かお忘れ?」
「ええとぉ、銀河系のぉ・・・あっそういえば私も宇宙人なんですねぇ。すっかり忘れてましたぁ。 てへっ」

 何も考えていない美星のセリフにコメカミを押さえる阿重霞であるが、前々から常々思っていた質問を発した。

「あたくし頭が痛くなってきましたわ。本当に貴女ギャラクシーポリスの刑事だったんですの?」
「ええー? お疑いになるんですかぁ? これでも数々の事件を解決してきた敏腕刑事何ですよぉ」
「どうも嘘臭く感じるのよねぇ。貴女の行動を見ていますと」
「うぇええええーん、天地さん阿重霞さんが苛めるんですよ」

 本当に泣き始めた美星は近くに座っていた天地の頭を抱きかかえるように抱きついた。
 天地は困ったように後頭部に手を当てたが、勿論この場に美星の暴挙を見逃す女性は居なかった。
 特に見た目は20歳、実空間上での経過年齢820歳の阿重霞さんは。

「あのぉ、美星さん・・・」
「チョット! 美星さん、どさくさに紛れて天地様に抱きつくんじゃありません!」
「そうだそうだ、天地に抱きついて良いのはアタシだけなんだぞ」

 阿重霞は素早く天地から美星を引き剥がしたが、それと入れ替わるように今度は魎呼が姿を現した。

「ちょっと魎呼さん。どさくさに紛れて何をしてるんですの?」
「何って、スキンシップに決まってるだろう?」
「ちょっと魎呼」

 魎呼に抱きかかえられた天地はこの後起こる騒動の予感に頭を痛めながら、魎呼から離れようとするが、魎呼は天地の腕をガッチリと掴んで放さなかった。
 見る見るうちに目をつり上げる阿重霞に天地は恐怖した、魎呼はほくそ笑んでいたが。
 その笑みを見た瞬間、阿重霞はキレた。

「天地さんも天地さんです! 嫌なら嫌ってハッキリ言って下さい」
「嫌な訳無いだろう? 阿重霞と違ってアタシの体はグラマーなんだからさ」
「なんですってぇ! ・・・ふっふっふっ・・・魎呼さん・・・」
「お?! 何だやる気かい? こっちは何時でも相手をしてやるぜ!」

 魎呼の言葉を聞いた阿重霞は不気味な笑みを浮かべたまま無言でガーディアンシステムを起動し、魎呼への攻撃態勢をとった。
 それに相呼応するように魎呼も手首の珠からエネルギーを集中し始めた。
 一撃で、この地域一帯を焼き尽くせるだけの攻撃準備を始めた二人に天地は慌てた。
 幾ら鷲羽の技術で直ぐに修復できるとは言え、とても無事に済むとは思えなかった。
 必死の思いでふたりに天地は呼びかけた。

「ちょっと二人とも落ち着いてくれよ」
「「 天地(様)は黙ってろ(いて下さい)! 」」
「・・・はい・・・」

 天地は何とか二人を取りなそうとしたが、呆気なく二人の迫力の前に撃沈した。

「ふっふっふっ、遂に決着をつけるときが来たようだなぁ? 阿重霞よぉ」
「それはこっちのセリフですわ。覚悟をおし、宇宙海賊!」
「はっ、自分の実家だって海賊の大元締めじゃねぇか、よく言うぜ」
「う、それはそれ、これはこれです」
「何だってんだよ! まったくこれだからお嬢様ってやつは」
「大体アナタが!」
「ふたりともぉ〜(オロオロ)、ケンカはぁ止めて下さいぃ。ケンカは良くないんでよぉ〜?」
「「 アナタ(お前)が言うな! 」」
「ふえぇえ〜ん」

 毎度お馴染み、と言えばお馴染みの大騒動に天地は疲れた顔をして床に座り込んだ。

「あーしんど」
「ご苦労様、天地兄ちゃん。はい、お茶どうぞ」
「アリガト砂紗美ちゃん。はぁ、落ち着くなぁ」
「ふふふ、大変ね。天地兄ちゃんは」
「ははは、はぁ。・・・、そう言えば、この宇宙人の人って砂紗美ちゃんは」
「知らないよぉ。多分別の世界の人じゃないのかなぁ? 鷲羽さんに聞いてみたら?」
「わ、鷲羽ちゃんに?」

 天地はその余りにも不吉なというべきか、散々酷い目に会ってきた女性の名前に少し退いた。
 ちなみにこの鷲羽さんは日本連合政府総合科学会議で辣腕を振るっている天才科学者の鷲羽・フィッツジェラルド・小林(11歳)ではなく、銀河アカデミーで色々と活躍してきた伝説を持つ白眉・鷲羽(四万歳)である。

「うん。あ、でも最近は研究に忙しいからやっぱりダメかも」
「研究って?」
「うーん、この世界の成り立ちについてぇ〜とか言ってたけど、砂紗美まだ小さいから分かんないや」
「ふーん、じっちゃんも東京に出たきり戻ってこないからなぁ。直ぐ戻るとか言ってたのに」
「陽照お兄様? 」
「うん。ほら、地元の人達に地域代表として選ばれちゃったからね」
「陽照お兄様も天地兄ちゃんと同じで責任感が強いから、どうしてもって頼まれちゃったんじゃないのかな? 」
「でも実力者だって言うなら何で爺っちゃんを選んだんだろう?」
「あのー、あははは。多分面白いから、かな? 銀河アカデミー出身の人達って皆鷲羽さんみたいな性格しているって聞いてるし」
「え、それって・・・」
「うん、この辺に住んでる天地兄ちゃんの親戚って全員銀河アカデミー出身だよ。多老ちゃんのお母さんとか」
「ええーっ!? 砂紗美ちゃんそれ本当?」
「あれ、知らなかったっけ」
「うん、知らない」
「えーと、つまりはそう言うことだから、多分心配はいらないよ」
「はは、その点については心配してないけどね」

 だけど、ここの皆が暴走し始めたらオレじゃ止めきれないじゃん。勘弁してよー。
 天地17歳。悩める年頃であった。




 第3新東京市市立孤児院太陽学園。


 時空融合後、両親と離ればなれになった子供の数は膨大な物であった。
 それはここ第3新東京市に於いても例外ではなかったのだ。
 渚麗、九歳小学三年生は時空融合から一週間後に自宅付近の公園で衰弱しているところを通りすがりの通行人が発見し、連絡を受けた警察官によって保護されていた。
 時空融合後の混乱によって未だにごった返す病院に彼女は最優先で入院させられた。
 その後、麗は質問してきた市民課の女性職員にこう答えている。
 時空融合の当日、彼女の両親は所用(彼女は詳しく知らなかったが親戚関係の用事だと言うことだった)で午後八時に外出し午前二時に戻ってくる予定だったそうであるが、それが丁度時空融合と重なったらしい。
 時空融合の際に全員が襲われた不快感によって彼女も夜中だというのに目が覚めたと言うことであったが、何故か電気がつかなかった。(当時日本中の大半がこの様に停電に襲われていた)たった一人で留守番していた彼女は耳が痛くなるような静寂と暗闇の中泣きながら過ごしていたがいつの間にか眠っていた。
 そして朝、いつも母親によって起こされていた麗はこの日初めて自分で目が覚めた。
 ふと時計を見ると、午前9時20分、いつもならとうに母親に起こされて学校に着いている時刻であった。
 ハッとして麗は自分が暮らしているマンションの部屋の中をくまなく捜した。
 だが、昨夜出掛けた時のまま、彼女の他には誰もいなかったのだ。
 とたんに何かとてつもない不安に襲われた彼女は押入の中に閉じこもり、玄関の外から聞こえてくる音に怯えながら2日間を過ごしたのだ。
 3日目、トイレと空腹に耐えきれなくなった彼女は恐る恐ると部屋へ出た。
 この時、トイレの水を流したのだが、補充されるべき水は流れなかった、だが、彼女は不思議には思ったようだが特に気にしなかったらしい。しかし、その為に後に彼女は苦しむことになるのだが。
 飢えた彼女は台所へ行き食料を捜した。
 自分で料理などしたことのない麗であったが、直ぐに食べられる物、パンや菓子などを捜して冷蔵庫や棚の中を捜索したが、季節は初夏、この陽気による気温の上昇のためにパンの類は全滅、そして頼みの綱の冷蔵庫でさえも時空融合後にブレーカーが落ちたのか未だ以て電気が来ていなかった為、そのほとんどが腐り果てていたのだ。
 辛うじてペットボトルのジュース類と乾いた菓子だけが何とか口にすることの出来る物だったのだが、それも直ぐに尽きてしまった。
 彼女はこの近くに住む両親の親戚や知人等、頼りに出来る人を知らなかった。
 学校に行けば少なくとも何とかなったはずであったのだが、この当時、学校関係も電話線も大混乱を来していて学校側から電話若しくは直接、麗の方への生存の確認もなかった。
 また、向こうから出向いて来ていても怯えきっていた麗はそれらに怯えて接触を拒んだであろう。
 そんな彼女が自ら外出するはずもなく、電気・ガス・水道、そして電話の全てが止まった部屋で麗は6日間を過ごしたのだ。
 そして飢えが恐怖を上回った7日目、彼女はふらつく体を引きずって両親とよく行った隣の公園に行き、そこで渇いた喉を癒した後、力尽きその場に倒れてしまったのである。

 後は先程言った通りである。
 連絡を受けた警察官が彼女の身辺関係を調査した結果、彼女はこの震災による孤児と認定され所定の手続きの後に太陽学園という孤児院へ引き取られたのであった。
 だが、そこでも安心出来るようになったわけではなかったのだ。
 ここ太陽学園にも震災孤児達が大量に引き取られ、かなり人数が増えたので、全てを職員が世話すね事ができなかったのだ。
 その為、その後暫くしてからこの学園では年齢が上の子が下の子の面倒を見るように役割の分担を決めていた。
 それまで両親と共に暮らしていた頃の麗は甘えん坊で、朝起きるときから寝るときまで親にベッタリ甘えていたのだが、両親とはぐれてこの学園に来てから、周りから同情こそされたが幾ら我が儘を言っても誰も聞いてはくれなかった。
 どちらかと言えば、皆が大変なときなのになんて聞き分けのない面倒な子供が居るんだろう、としか思われなかった。
 だが、そんな彼女も自分が責任を負わなければならなくなった年下の子供、葵豹馬君6歳の面倒を見ている内に自律の心が芽生えてきた。
 それまで我が儘な一人っ子の行動パターンで来ていた彼女に面倒見の良い長女の行動パターンが現れてきたのだ。ちなみに一人っ子が我が儘とか長女が面倒見が良いと言う意味ではないのでご注意。
 まだまだ分別の付かない者同士だったが、この雑然として競争が激しい孤児院の中で友達達とのつき合い方とか如何にして食いっぱぐれないか等の学習をしながら生活を始めたのである。
 後に、特別養子縁組法によって彼女が理津子に引き取られるまでは。




 太平洋上の某孤島の地下基地。



 大東亜戦争に於いて秘密指令を受け、この南海の孤島に潜み驚天動地の新兵器を開発している神宮寺大佐率いる旧日本海軍の一大部隊は帝国政府の無条件降伏を受け入れられず、現在もこの地に於いて鬼畜米帝國の支配を一発で覆すことの出来る全領域活動戦闘艦「轟天号」の建造を続けていた。
 だがしかし、その一方でこの異変の情報収集の為、秘密諜報部隊を本土へ派遣していたのである。
 現在首脳部が見ている諜報員が送ってきた16mmフィルムには総天然色にてあたるとラムの記者会見の様子が写し出されていた。
 本土上の米帝進駐軍が撃退された時には手放しで喜んでいた首脳部であったが、今回のこの映像は彼らの不屈の精神を萎えさせるには充分な衝撃を持っていた。
 参謀達はこの部隊の最高権力者である神宮寺大佐に、本土に誕生した新政府との連絡を取ってはどうかと具申したが、神宮寺大佐はそれを一蹴した。

「何を戯けたことを言う物か、この映像は米帝の宣伝放映による我々の志気を喪失しからしめんとするを示す良い証拠ではないか。先だっての紛争に於いて神聖なる我が国土に駐留していた米軍共はよほどその戦力を減らしたと見える。見よ、この毛唐の娘を。我々日本人が外人に弱いことを知ってか、鬼畜米英等と叫んではいるが奴らとて人間、この様な角など生えておるはずがあるまい、然るに何だ、このらむと申す娘の頭部に生えるこの二本の角は、我々を侮辱しておるのだよ奴らは。かてて加えてこの軟弱な大和魂の何たるかも知れぬ軽薄なうらなり坊主にこの如何にも米国娘らしい女を宛うことによって如何に自らが強大な存在かを示すつもりなのだ。奴らの戦略に乗ってはいかんのだよ」
「おお、成る程。言われてみれば確かに」
「さすが神宮寺大佐」
「読みが深い」
「おのれ鬼畜米英めら、よくも我々を謀ろうとしおったな」
「これで分かっただろうが。我々が今しなければならぬ事は、一刻も早く「轟天号」を完成せしめ、奴らの戦力を殲滅せしめることにより陛下への忠誠を示し、先に散っていった仲間達の仇を討つことに他ならないのだ」
「討て! 鬼畜米英!」
「我らの国土を取り返せ」
「報国の槍となりて、退治てくれようぞ米兵どもめ」

 こうして彼らは未だに世界の現状から目を背け、アメリカ軍との決戦に向けて轟天号の建造に全力を注ぎ始めた。
 この轟天号、最初期の設計では単なる大型潜水艦であったのだが、彼らがこの島にて開発した新技術を持って設計変更を重ね、現在では地中、海中、空中とありとあらゆるフィールドでの戦闘が可能な万能戦艦として設計上では完成を見ていた。
 しかし、結果的にこの轟天号が日本連合国の危機を救う為の重要な戦力になるのだから歴史という物は皮肉に満ちている。







 ともあれ、ラムたちが第1号であったことは大変な幸運だった。
 人間にとても友好的な異星人があろう事か地球人と結婚(確定)していたとは! このニュースにマスコミは飛びついた。
 親善結婚、宇宙を超えた愛、そう言った言葉によって異星人の日本国籍の取得及び異星人登録は大変に友好的に迎えられることになったのだ。
 マスメディアを用いてあたるとの関係を決定付けようとしたラムの計略は見事に成功した。
 以後、有名人になってしまったあたるのガールハントは軽い冗談としか受け取って貰えず、元々成功率が1パーセント以下であった物が完全にゼロになってしまったのだ。
 これで名実共に日本一の浮気者は横島忠夫に移ってしまったのである。
 しかしそれでもあたるの浮気の虫は治まることをしなかったが。




・諸星ラム ご存じ諸星あたるにぞっこんの押し掛け女房、鬼族のインベーダー鬼星の名家のお嬢様である
・テン ラムの従姉弟で地球にいるラムが居候している諸星家に厄介になっている鬼族の異星人である。




後書き
こんにちはアイングラッドです 。
今回 は色々なキャラクターの 性格を掴む為の試し書きみたいなものですのでここは違うんじゃないかと言うところがありましたらバンバン指摘してください。




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