最近、世間で評判になっているゲームソフトがあった。
様々な時空が融合したこの世界にヒントを得た様な作品で、その中に彼らが知る世界や過去のアニメ等から題材をとった混合世界観のシミュレーションゲームである。
そのGAME名は「超弩級要塞2015」
基本的にスーパーロボット大戦の流れを汲むAVシミュレーション物のゲームで、戦闘中に条件をクリアーするとイベントが発生、又、生産の要素も取り入れ高度な戦略も可能となっている。
このゲームの題材となった作品は2つ有り、ひとつは中央公論社から発行されていた荒巻義雄が書いていた要塞シリーズの世界観を元に、ふたつ目にサンライズで作られたアニメーション「機動戦士ガンダム」の要素を取り入れ作られている。
作品展開。
”CODE2015”世界はグロブローと呼ばれる戦場世界シミュレーション・マシーンによって管理される電脳天体である。
虚無の空間に浮かぶ電脳天体グロブローの上では様々な国家が世界の覇権を争っていた。
コード1941以後より、IBM、スミノフの両陣営が長い間世界を二つに分けて争っていたのだが、コード1997”琵琶湖要塞”にてグロブローのプログラム制御を離れてしまった列島軍による混乱により世界大国のIBM帝国でさえも沈黙してしまった。
その後グロブローはコード大転換、魚座年期の終結に伴う大停電により再び眠りに就いた。
このゲームはグロブローの中に眠る数万通りの戦争シチュエーションの中のひとつ、CODE2015にて列島軍を中心とした戦術シミュレーションである。
今回、このコードに於いて列島軍はグロブローに眠る無数の電脳ファイルの中から強力な兵器を呼びだしていた。
その兵器コードは本来ならばコード2015では使用できない物なのだが、優れた電脳心理作戦本部の”グロブロー”アクセス研究部の努力の甲斐があり、このコード2015での生産が可能になったのだ。
そのソースの名前はコード”黒歴史(ダークファイル)”。
全ての電波探知機を無効にする非殺傷兵器、アンチ電波兵器であるミノフスキー粒子散布により兵器の照準は光学による物と慣性誘導による物に限定されてしまったのだ。
列島軍の誇るセラミック装甲の強固な航空機や戦車そして新兵器モビルスーツを操り君がこの世界の戦争を終結させるのだ。
以上がこのゲームの概要だ。
さぁ、早速ソフトをRUNさせるぞ。FILEを提供媒体から君のゲーム機にCOPYしたらCD ¥CODE−2015「ENTER」 AUTOEXEC さぁゲームの始まりだ。
最近ちまたで流行っていてなかなか手に入らない超弩級要塞2015を謎のルートで手に入れた星野ルリは放課後同じ学園の中等部の校舎へ向かった。
ルリの通う初等部の隣にある校舎の出口で待つことしばし、彼女が最近意識している碇シンジがひとりで下校してきた。
いつも彼は彼と同じ時空からやって来た彼と同じエヴァンゲリオンパイロットである惣流・アスカ・ラングレーと綾波レイ、そして同級生の霧島マナと下校してくるのだが、本日はシンジが週番で遅くなることと彼女たちが買い物で先に下校していることを確認していた。
てってって、て感じで後ろからシンジの傍に歩み寄ったルリは声を掛けようとして、少し口籠もってしまった。
そのまま並んで歩いているとシンジは緊張感の全くない気の抜けた顔で独り言を口にしていた。
「う〜ん、今日どうしようかなぁ・・・明日の弁当の買い物してから、ふう、ゲーセンにでも寄ろうかな。・・・でも久しぶりにアスカもレイも居なくて」
「いい天気ですね」
「う〜ん、開放的だなぁ! ハッ!!」
上手いタイミングで放たれたルリのセリフにシンジは思わず本音を吐露してしまっていた。
ハッと息を飲んでしまってから慌てて周りを見回したシンジは後にルリが立っていることに気付いた。
顔に縦線を引いてシンジはルリに向き直った。
「や、やぁルリちゃん。こんにちは」
「こんにちは、シンジさん」
「ルリちゃん今の聞い・・・、えっと何か、その・・・いい天気だねぇ!」
「ええ、本当に」
何かを誤魔化すかのように大きな声を出したシンジにルリはニッコリと笑みを返した。
「・・・・・・・・・・・・・・・あ、そうだ。これから買い物に行くんだけどルリちゃんも行かない? ジュースでも奢るよ」
「デートのお誘いですか。シンジさん、ありがとうございます」
シンジの誘いにルリは周りに聞こえる様に結構大きな声で返事を返した。
もちろん周りには下校途中の生徒が沢山おり、なかにはシンジの同級生も何人か居た。
皆、シンジと天才少女の取り合わせに興味津々と云った感じで注目していた。
「ハハ、じゃあ行こうか」
とまぁ、そう言うことでシンジはルリと連れだって街へ出かけた。
寮に入っても3人分の昼食のお弁当を寮の炊事場で作っているシンジは、街のスーパーで購入した食材を紙袋に抱え、最近流行の(流石に女性向けの店を意識した様である)オープンカフェの椅子に座っていた。
わざわざ目立つ席に付くこともあるまいにと思うのだが、そんなシンジに向かい合うようにルリも席に付きカプチーノに口を付けていた。
このカプチーノならエスプレッソの濃さもスチームミルクの甘さで甘みに変わり、ルリの保護者的存在であるアキトに鍛えられた彼女の敏感な舌でも満足できた。
何げに誘ってしまったが、特に話題があったわけでもないシンジと、何故か妙に意識してしまい話題を切り出せないルリの間に会話は弾む筈もなかった。
が、さっきからチロチロとシンジの顔を見ては口をもごもごさせているルリを見て鈍感なシンジも何かに気付いたようだった。
「えっと、何かあったの? ルリちゃん」
「へっ? と、あの、シンジさんてゲームとかやります?」
「うん、少しだけどね。ほとんどアスカに使われてるけど」
「あの、この前、最近「超弩級要塞2015」って流行ってますよね」
「うん、ボクもこの前探したけど何処にもなかったんだ。何故予約しとかないのよってアスカにどやされちゃったけど」
「あれって多人数プレイモードがあるのって知ってましたか?!」
「あ、そうなんだ。てっきり今まで見たいに1人専用だと思ってた」
「裏モードであるんです。で、この前手に入れたんですけど・・・一緒にやりませんか・・・」
ルリはシンジを誘った、しかしシンジは迷っている。
「う〜ん、どうしようかなぁ」 やりたいなぁ、けどアスカ達に知られたら・・・ちょっと怖いし。
うーんうーんと悩むシンジにルリはどことなく不機嫌になった。
何故、この人もアキトさんみたいに優柔不断なのでしょう。
「面白いですよ」
「うーん、そうだねぇ。うーん」
決断しないシンジにルリはかなり不機嫌モードに突入した。
「シンジさん」
結構怖い目つきでルリは言った。
「う、ゴメ・・・何ルリちゃん」
するとそれまで怖い顔をしていたルリは花が咲いたように華やかにニッコリと笑った。
「アスカさんとレイさんがいなくて開放的ですねぇ」
「!!! 誘ってくれて嬉しいよルリちゃん、よろしくね」
シンジは笑い顔を浮かべてルリの手を取り握手した。目は泣いていたが。
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そこから20メートル先にある喫茶店の一席では。
買い物の途中の女性3人がその様子を暖かな目で見ていた。
「へぇ〜、ルリルリってシンジくんとそうだったんだぁ」
「そういえばシンジくんてアキトさんとどことなく感じが似てますよね。大きい方の艦長のルリちゃんがアキトさんを追い掛けてるのと関係あるのかなぁ?」
この特等席から2人の様子をさっきから眺めていたのはナデシコAのメイン操舵手ハルカ・ミナトと通信手のメグミ・レイナード、そして今話題を振られたナデシコBの艦長ホシノ・ルリ(大)である。
「ええ、シンジくんも優しい雰囲気がありますからね。そこに惹かれたんだと思います。けど」
「けど?」
ルリの言葉に何か興味を引かれたのか、ミナトはルリの言葉を繰り返し先を促した。
「けど、まだまだ誘い方が甘いですね。あれではアキトさん並みに鈍感なシンジくんをゲットするには時間が掛かりそうです。もっと積極的に攻めなくては」
「アハハハ、もうルリったら」
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更にその先15メートルのマクドの2階席から。
そこには目をつり上げてハンカチを噛み締める女の子がふたりと、ニヤリと笑いながら同じくシンジ達を見る女の子が居た。
ハッキリ言って周りの客は怖くて引いてしまっている。
「クゥゥッ!! シンジの奴、こんなに可愛い女の子2人もいてまだ不満だって言うのぉぉぉぉ」
「ホシノルリ、第1級要注意人物に広域指定ね」
本気でそう言う2人を見てマナはシンジの極近い未来に祈りを捧げた。
だが、次のセリフは余計だったようだ。
「う〜ん、でもシンジくんて結構大胆ネー。こんな町中でルリちゃんの手を握っちゃって。あれって愛の告白をしてるのかしら」
と言った途端にアスカとレイから殺人光線のような視線がマナに浴びせられた。
「うおっと、てへへ、冗談だってば、本気に・・・したのね」
マナは諦めの笑いを浮かべた。
アスカとレイはその視線をシンジに戻すとひとつ肯き、まるでバロムクロスのように右手と右手を撃ち合わせた。
「行くわよレイ」
「ええアスカ」
ふたりはダッシュでその場から消え去った。
後にマナはこう云ったという。
「確かに私は見ました。ふたりの背中に「天」とか「滅殺」とかの文字が浮かび上がっていたのを」
呆然として見送ったマナはテキパキと後片付けをしながらいつしかニヤリと笑いを浮かべていた。
「でも、ルリちゃんもなかなか筋が良いじゃない。でも出来ればあそこは「笑み−12番」じゃなくて「微笑みの5番(動作パターン3〜5)」の方が効果的なんだけどな〜。でも・・・可憐さと儚さをウリにしていても私は決して負けないわ・・・「Girly Girl」の名に掛けて!」
霧島マナ、彼女も又、交渉術に長けた流派の持ち主であった。
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マクドを飛び出したアスカとレイは猛然とした勢いでシンジ達に向かっていた。
彼女たちが彼らの居るオープンカフェに乗り込もうとした時、誰かが彼女たちの肩を後ろから掴んだ。
「誰?!」
怒りの表情そのままにアスカは振り返った。
するとそこには目標とする人物の傍にいるルリをそのまま成長させた様な女性が立っていた。
「! アンタ、私達の邪魔する気なら!」
「しーっ、いまここで乗り込んでも上手く誤魔化されてしまいますよ」
「シンジがそんなに器用な訳ないわ」
「そうですね、でもルリはそうは行きません。私が鍛えましたから」
「やっぱりアンタはアタシの敵なのね!」
「ちょっと待って下さい。それは誤解です」
「どこがよ」
「わたしはルリの相手はハーリーくんを推してますから」
「・・・・・・成る程ね。それなら納得がいくわ」
「ええ、それでここで乗り込んでもうまく行かないでしょう、もっと決定的な瞬間を掴まえてなければ」
「それもそうね。レイ、監視を続けるわよ」
「ええ、分かったわアスカ」
合意した彼女たちはささっと建物の影に姿を隠しシンジとルリを監視し始めた。
ストーカー?
さて、シンジ達を挟んで反対側20メートルの所にザン切り頭の坊やとピンク色の髪をした女の子が花壇に隠れてルリの様子を監視していた。
「ううう、ルリさぁん」
「ハーリーうるさい」
グスグスと涙を浮かべるハーリーに対してラピスは冷たく斬って捨てた。
そう言う彼女は片手に構えたビデオカメラでルリの姿を撮り続けていた。
彼女が録画した映像は、ラピスとのリンクを切りベッドの上から動けずにイネスから治療を受けている黒い王子様に届けられている。
しかし、彼の存在それ自体が秘密になっており、ナデシコ側でそれを知るのはプロスペクターとゴートのみである。
彼がそう言う状態になってからは彼の生き甲斐はラピスの人間的成長とラピスが撮ってくれたルリ達ナデシコの人間達のポートレイトだけであった。
それはさて置き、ちなみにハーリーがルリさんと言うときはルリ(小)を指し、艦長と呼ぶときはルリ(大)を指す。
彼らが隠れている花壇の後ろはペットショップになっており、彼らを見た人達は仲の良い子供達が並んでウサギの入った檻を覗き込んでいるように見えるよう、巧みにカモフラージュされていた。
そうして膠着状態が10分も続いただろうか。
じりじりと焦れ始めた状況が動き始めた。
シンジはコーヒーを飲み干すと食器を片付けてルリと連れだって店を後にした。
彼らはハーリー達2人のいる方へと歩いてきた。
慌ててカメラを降ろし息を潜めるふたり。
シンジとルリの声が次第に大きくなり、次第に小さくなっていった。
「ハーリー、見つからなかった?」
「うん、大丈夫だと思うよ。後を追うの?」
「当たり前、行くわよハーリー」
ラピスは勢い良く立ち上がるとダッシュでペットショップから飛び出そうとした。
「ラピス、そんなに急いじゃ」
というハーリーの忠告が終わる前に運動不足気味の彼女を軽い立ちくらみが襲い、足元が疎かになったラピスは平らな大地を踏み外した。
結果、ぴったーんと云う擬音を立ててラピスは大の字になって地面に転んだ。
「ふみ〜ん」
「ラピス、だからいわんこっちゃ・・・あっ」
「何よぅ、もっと優しい・・・えっ?!」
驚きの表情を浮かべたまま上を見上げるハーリーに釣られてラピスも上を見た。
「何をやっているんです、ハーリーくん。・・・もしかしてルリを諦めてラピスちゃんと浮気を・・・」
そこには顔に怖い影を浮かべてジッと睨み付けるルリの姿があった。
「ち、違いますよ艦長〜っっ、ルリさんがシンジさんとぉ・・・、って・・・ところで艦長はこんな所で何をしてるんですか?」
「え、っとですね。ハルカさん達とショッピングに」
とルリの後ろを見ると苦笑いを浮かべたハルカとメグミ、そして憤怒の表情のアスカと氷の表情のレイ、にやっと笑っているマナの姿があった。
どう云う集まりなのかな? とハーリーが疑問符を浮かべているとイライラしたアスカがルリの肩を掴んで引っ張っていった。
「ホラホラ、急がないとシンジとルリが何処かに行っちゃうじゃないの」
「う・・・」
「なぁんだ、艦長もルリさんが心配だったんですね」
「そ、も、勿論そうですよ、さぁ早く行かなくちゃ見失ってしまいますよ」
「はい、艦長」
と言うわけで、ハーリーとラピスもこの集団に合流することになった。
しかし、幾ら隠密行動とは云え8人もの人間が後ろからぞろぞろついてくるのに気が付かないとは、シンジは鈍感過ぎるのでは?
ちなみにルリは上気していて全然気が付かなかった。
ルリに着いていったシンジがたどり着いた所はナデシコが停泊し、研究されているSCEBAI麾下の研究施設、重力制御機構研究所の敷地であった。
ルリに誘われたシンジは、彼女と共にナデシコのバーチャルルームに来ていた。
シンジは不安そうに室内を見渡した。
「ルリちゃん、でもいいの? ここ、関係者以外立入禁止なんじゃ・・・」
「シンジさん、私と一緒じゃイヤですか?」
「え、いやそんなつもりじゃないんだけど」
とシンジは言葉を濁した。
その頃、8人の追跡者たちもナデシコ艦内に入ってきていた。
3人のIFS強化人間によって、ルリに報告しようとしていた思兼は沈黙を余儀なくされていた。
「ご免なさい思兼。さて、ふたりの居場所は」
ルリがコミュニケを操作すると立体映像が浮かび上がり、艦内図を投影した。
「バーチャルルームですね」
ルリがそう言うとアスカは聞いた。
「何よそのバーチャルルームって」
「頭脳の映像領域に直接情報を送ることでよりリアルな体験をすることが出来る娯楽施設です」
「説め・・・」
「ナデシコで一番のデートスポットですよね、ミナトさん」
ルリは当たり障りない事を言ったが、後ろにいるメグミが一番利用率の高い利用方法を呟いた。
「あはは、メグちゃん。それってクリティカル」
苦笑いを浮かべていたミナトが見た物は恋する乙女達+3が巻き起こした砂煙だけであった。それと口を開けたまま立ちつくす白衣の女性科学者がいたが。
それを横目に見ながらミナト達も後を追った。
「ねぇ、さっきのセリフってワザと言ったでしょ」
「てへへ、だってその方が面白いじゃないですか」
「もう、メグちゃんもナデシコの一員って事よねぇ」
「えへ。ミナトさんだってそっちの方が楽しいでしょ」
「・・・・・・うふふ、実はそうだったりして」
「あ、やっぱり」
ミナト達がバーチャルルームの扉の前にたどり着くとアスカとレイ、ハーリーとマナが扉に耳を押し当てて中の音を細大漏らさず聞き取ろうと努力していた。
さすがに監視装置を使うとルリにバレてしまうからだが、凄く間抜けではある。
「どう? 何か聞こえるの?」
「しっ、声が小さいんで静かにして下さい」
ミナトがルリに声を掛けると、彼女は口に指を当てて静かにっとゼスチャーを送った。
「あっ、ごめ〜ん。ふぅ〜ん。どれどれ」
「ミナトさん・・・」
ミナトの後ろから着いてきたメグミは、如何にも興味津々と言った様子のミナトを見て呆れてしまった。
さて、扉にピタッと付けた耳には微かに内部の音が聞こえてきた。
『・・・ルリちゃん』
『シンジさん・・・』
「お、名前なんか呼び合っちゃって。雰囲気良さそうねぇ、くふふふふ」
ミナトは抑えきれない笑いを唇に浮かべたが、正面にいるふたりの少女の嫉妬に狂った視線を受けて思わず引いてしまった。
「あ、メンゴメンゴ」
『あ、シンジさん。そ・・・・・・所に入れたら・・・壊れちゃ・・・・・・入れるとこ・・・・・・違います』
『・・・ゴメン、ボク、こ・・・・・・うの慣れ・・・・・・くって。どこ・・・・・・・・・挿れた・・・良いの・・・良く分かん・・・いや』
『シンジさんの・・・・・・は、私の・・・・・・真ん中の・・・・・・に・・・イれて・・・』
「なぬ?」
『そう、そこです』
『じゃあ、このあ・・・いジ・・・・・・・・・を入れれ・・・・・・いんだね』
『・・・・・・ごに、そのボ・・・・・・・・・押して・・・・・・下さい』
『・・・ゃあ、行く・・・』
『・・・・・・ぁ! 何か入って・・・・・・、これ・・・ダメ・・・・・・!』
何かドタドタと慌ただしい動きが中から聞こえてきた後、急にシーンと静まり返ってしまった。
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不審に思った覗き達は、一切の音を聞き漏らさないように神経を集中した。
すると突然。
『あはぁぁ〜ん』
と、若い女性の物と思われる艶声が響いてきた。
ナデシコ組の人間達はゴクッと息を呑んで動きを止めてしまったが、アスカとレイは炎を身に纏ったかの様な激しい迫力で自動ドアを強引に開け放ち室内に突入した。
暗い室内にふたりのシルエットが浮かび上がっていた。
「このぉ! バカシン・・・ジ?」「碇くん・・・?」
室内にいたシンジとルリは「バーチャルルーム使用方法説明用(イネス博士謹製のプログラム入り)」の大型画面の方を見て固まっていた。
つられてアスカ達もその画面に目を向けると、そこには明らかに十八禁と思われるゲーム画面が映し出されていた。
「あうえう(真っ赤)」
「・・・・・・・・・(真っ赤っか)」
全員が絶句して固まっている間も大型画面は延々とそのシーンを映し出していた。
「しんじ・・・?」
アスカが声を掛けるとシンジはギョッとした顔で後ろにいるアスカを振り返った。
「うわっ! ア、アスカァァ! なな、なんでここに?」
「あんたって、・・・・・・あんたって奴はぁああああ!! ハァアアアア!!!」
アスカは吼えると握り締めた拳に息を吹きかけた。
「ちが、ちがう、違うんだよアスカ! これは、ごか、誤解なんだー!」
「五階も六階もあるかぁ! この裏切り者ぉ!!」
涙を流しながら撃ち放ったアスカの鉄拳は見事シンジの左頬に決まった。
堪らず吹き飛ぶシンジ、転がった体はピクリともしなかった。
ゼェゼェと息も荒くアスカは立ち尽くした。
そこへヒョッコリとナデシコ整備班班長のウリバタケ・セイヤが顔を出した。
「うわっ、遅かったか・・・」
目の前に広がる惨状にウリバタケは目を覆った。
その訳知り顔のセリフにミナトは眉を上げて不信感も顕わに聞いた。
「ちょっとちょっとセイヤさん。何がどうしたってぇのよ」
「あ、いやそのなんだ・・・なぁ。ハハ、じゃあまぁそう言うことで」
そそくさと退散しようとしたウリバタケの背後にルリ(小)の声が掛けられた。
「・・・ウリバタケさん」
「ハ、ハイ」
何かやましい事でもあるのかビクッと背中を振るわせてそのまま固まってしまった。
「説明・・・して貰えますよね」
「うっ、すまん! ついうっかりオレの秘蔵のコレクションが入ったままなのを忘れてたんだ」
「・・・(ニコッ)そうですか」
「そ、そうなんだ。ついうっかりミスって奴でな。悪い悪い。アッハハハハ」
「フフフフフ、思兼?」
『・・・(ブウン)ハイ、なんだいルリ』
「ウリバタケさんの個人ファイルにアクセスして」
『ダメだよルリ、個人情報はプライバシーの』
「アクセスして」
『プライバシーの』
「ア・ク・セ・ス・し・て」
『ううううう、一般保護条例違反だよー』
「ウリバタケさん」
「ななななんですかルリさん」
「なかなか立派なコレクションですね」
「おお、まあな」
「思兼、消去して」
「ちょっと待っ」
『ダメ』
「消去(デリート)」
ルリのIFSが煌めくとコミュニケに表示されていたウリバタケの個人ディレクトリーが見る見る削除されていった。
「ああああああ!」
『デリート・・・完了』
最後のファイルが消去された瞬間、ウリバタケは脱力して膝を屈した。
「シンジさん、大丈夫ですか」
取り敢えず原因に仕返ししたルリはまだ床に倒れているシンジに駆け寄った。
「うわぁ、ルリって怖い子ね」
「先に手が出ないだけアスカよりも怖いわ」
「ちょっとレイ、それって酷いんじゃない」
「でも、事実」
「むぅ〜ん」 最近レイも言うように成ってきたわね。手強いわ。
さて、何が起こったか説明すると。
「説明しましょう! 憧れのシンジくんのために最近流行のビデオゲームを手に入れてきたルリちゃんはシンジくんとふたりでゲームをやるためにここのバーチャルルームを使おうって思ったわけ。でも、そのゲームの規格がバーチャルルームの機械の規格に合わなかったためにウリバタケさんから規格に合うゲーム機を借りて変換コネクターを使ってバーチャルルームの機械に繋げていたって訳、ちなみに聞き耳を立てていた皆が変な誤解をしたのは変換コネクターを取り付けようとしていたシンジくんが端子の取り付け位置を間違えたときの物ね、で、ようやく取り付け終わったゲーム機の電源を入れようとしたところルリちゃんは中に何かゲームのプログラムが入って入るのに気付いて直ぐに止めようとしたんだけどもう起動シーケンスに入っていたゲーム機は勝手に立ち上がってしまったのね。で、ここからが問題なんだけどその中に入っていたゲームって云うのがウリバタケさんがここの所はまっている十八禁のAVGだったの。流石の電子の妖精もネットワークに繋がっていない電子端末にはアクセスできなかったのね、あらヤダ、電子の妖精はナデシコBの艦長の方の渾名だったわね、まぁそう言うことで目の前の大画面にそんな絵がばば〜んて写し出されてうぶなシンジくんとルリちゃんは固まってしまった所にお立ち会い、誤解に血を上らせたアスカちゃんとレイちゃんが現れたからさぁ大変。てっきりいけないことをしようとしていたんだと誤解したアスカちゃんはシンジくんの説明を聞こうともせず・・・どうして説明って人にすると嫌そうな顔をしたり無視したりされたりするのかしら全く不可解だわ、私は分かり辛いことをスッキリシャッキリ整理して説明しているのに失礼だわ、そうは思わない? え、脱線しないでくれって? 分かったわよ、こほん、つまり自分の物としてシンジくんを認識していたアスカちゃんの嫉妬のパワーが爆発してラブラブファイヤーってわけ。分かった?」
「分かった? って、突然現れてアンタ一体何言ってんのよ」
「あら?」
「アラッ!? じゃないでしょ。第一何がラブラブファイアーなのよ。全然訳分かんないわよ」
「ふふん、この泣く子も黙るイネス・フレサンジュ博士の説明を聞いてまだ足りないなんて、それではジックリ説明することにしましょう」
「いらない。で、つまり私達に抜け駆けしてシンジとふたりきりになろうとしたルリが借りたゲーム機に問題があったって事なんだから。原因その1・ホシノルリがシンジを誘った。その2・ゲーム機にいらないゲームを入れていた。どっちかってーとルリの方が気に入らないわね」
「誰が誰と付き合おうとそれは個人の自由の筈です」
「ふ〜ん。シンジの意見は?」
「キューゥ」 ただ今気絶中。
「ムゥ、ところで、そのゲームって一体なに」
「・・・・・・「超弩級要塞2015」です」
「えっ?! 本当っ!? でもそれってワンマンプレイ専用でしょ。なんでシンジを誘うわけ?」
「・・・裏モードです。多人数&ネットワークモードがありますから」
「へぇ〜・・・・・・・・・・(ピカ!) へへへ、良いこと思いついたわ。ルリ、勝負よ!」
「勝負・・・ですか?」
「そう、私とアンタで勝負するの」
「でも私はプログラムが読めますし、勝負するには少し不利だと思いますけど」
「な、なら」
そう言うとアスカは周りを見回した。
その視点はある所でピタリと止まった。
「ナニ?」
注目を浴びた人物、ラピスはキョトンとした表情でアスカを見つめ返した。
「アタシはラピスと組むわ。そうすればインチキは出来ないでしょ」
「インチキではなくて才能です。が、良いでしょう」
「で、アンタはレイと」
「私はこの子と組むわ」
「え?」
それまで黙っていたレイはすうっとハーリーの後ろに歩み寄ると、彼の肩に手を置いて逃げられないように固定した。
「私はこの子と組んでアスカとルリを倒すの、そしてシンジくんを手に入れるわ」
「なっ!」
突然のレイの宣戦布告にアスカは驚いた。
確かに最近積極的になってきたとは感じていたが、まさかここまでとは。
「い〜わよ。このアタシに勝てたらね。いいわ、それじゃあルリ、アンタはシンジと組みなさい。ただし、勝負のことは一切秘密。正々堂々と勝負判定を操作したりせずに戦うのよ、いいわね」
「はい」
「ええ」
「じゃあ、勝負に勝った者が一日シンジを好きに出来る権利を持つ、いいわね」
「はい」
「ええ」
「勝負は明後日。それまでにルールを明確にして置きなさい良いわねルリ」
「了解しました。では明日ルールとか設定を送りますので」
「いいわ、こてんぱんにギャフンと云わせてやる」
「返り討ちです」
「シンジくんは私が守るもの」
3人の間には激しい火花が散っていた。
その様子を見ていたミナトやメグミは久しぶりのイベントに沸々と沸き上がる高揚感を隠しきれなかった。
さっきまで真っ白に燃え尽きていた筈のウリバタケでさえも既に復活して必要な機材の手配に駆け出していたのだからナデシコ乗組員が如何にお祭り好きなのかが分かるという物だ。
と、言うワケで、ルリ&シンジ組(列島軍)、アスカ&ラピス組(IBM軍)、レイ&ハーリー組(スミノフ軍)に分かれて三つ巴の戦いが始まる事に決定したのであった。