スーパーSF大戦インターミッション第5話・RX−606バードとソネット




 九州は阿蘇山の決戦にて共に死を覚悟したバードとソネットであったが、彼らは富士山麓のSCEBAI敷地内に出現していた。
 ふたりはひとつの電池を繋いでサイボーグ機構を動かしていたのだが、それも既に限界に近かった。
 抱き合って地に転がり、近付いてくる死の足音を聞いていたのだが、その時急に月が陰ったかと思うとひとりのマントを着た老人がふたりを見下ろしていた。
 その老人はまるで「仮面ライダー」に出てくる死神博士のような風貌をしていた。
 彼の名は天本教授、SCEBAIを構成する優れた頭脳人のひとり。生体工学者である。
 彼は夜の散歩を楽しんでいたようであるが、その途中で彼らを見つけたという訳だ。
 ただし、この時所長である岸田博士は時空間の歪みを計測していてそれどころでは無かったのであるが。
 さて、かろうじて意識のあったふたりは、この老人が優れた科学者であると同時に科学を行うためには少々の倫理観を欠くことを見抜いていた。
 彼らを改造したDr.メレケス。
 バードは嫌悪を、ソネットは感謝を抱いている史上最高の人体工学者と雰囲気がまったく一緒であったからだ。
 ふたりは天本教授を見上げると口を開こうとしたが、既に原子力電池からの電力供給は底を突いており、体内に残されたコンデンサーに蓄積された僅かな電力がふたりをこの世につなぎ止めていたのだ。
 天本は彼らの様子を観察すると、胸元から携帯電話を取り出して何処かへ連絡を入れ始めた。
 彼らふたりの意識はそこで途切れてしまった。




















 ふと気付くと、鳥飼ことバードは集中治療室の寝台の上に寝転がっていることに気が付いた。
 しばらくぼんやりとしていたバードであったが、顔を左に向けると同じく横になっているソネットの姿が目に入った。
 彼女の体には沢山の栄養点滴や脳波、心電、その他の計測用機器、アンビリカルケーブル(電気供給ケーブル)が繋がっていた。
 その周りでは沢山の白衣を着た男女が彼女の体を調べていた。
 ソネットの様子が心配になったバードは、彼女の側へ近寄ろうとしたが、腕、足、胴体、その全てに力が入らなかった。
 白衣の集団のひとりが、彼が動こうともがいているのに気付いた。
 彼はボードを小脇に抱え、滑るようにバードの横に近寄ってきた。
「気が付きましたか」
「ああ、ここは?」
「国立科学研究所にある病院です。日本最高の医学と技術力を持つ場所ですから。安心して下さい」
「ふ、モルモットとしてか」
「ふむ、確かに科学者としてあなた達の体を構成しているサイバネティクス技術についての興味があるのは確かです。だって、そうでなければこんな道には入ってないですから、ですが、それ以前に私たちは医者です。必ずあなた達を退院させてみますよ」
「ホテルカリフォルニア」
「そこから出て来る事は出来る、ただし生きては・・・ですか? ふざけちゃいけませんね。・・・もしかして貴方は望んでサイボーグになったのではないのですか?」
「あたりまえだろう。誰が好きこのんでこんな体になろうとなんて考えるものか」
「なるほど、分かりました。取り敢えず、貴方の体は問題有りません。じき退院できるでしょう」
「何? ・・・ソネットは、ソネットはどうなんだ」
「機械部分の損傷は問題有りません。電力供給さえ出来れば正常に稼働します。ただし」
「針か」
「ええ、それと・・・CTでスキャンしたところ頭部、頭蓋内に針状の異物と脳腫瘍、そして血栓が見つかりました。これより緊急手術に入るところです。急がなくては手遅れになりかねません。よろしいですね」
「・・・・・・よろしく頼む。彼女はこれまで不幸な人生しか送ることが出来なかった。これからは幸せになっても良い筈だ」
「任せてください。全力を尽くします。貴方は自分の体調を整えることに専念して下さい。ソネットさんは大丈夫ですよ、ただし予断はなりませんがね」
 バードは己の力が役に立たないことに腹立ちながら、じっと寝台の上で横になっていた。
 その時彼は静かに思考していた。
<タロンはソネットの超能力の源がソネットの脳腫瘍に発生したイレギュラーな物と知ってDr.メレケスにソネットのサイボーグへの改造を依頼した。少しでも長くソネットの能力を長持ちさせる為だけに、・・・その結果ソネットは生まれ育ったハーレムで強要された売春婦として汚された体を捨てて新しい肉体を手に入れた。だから彼女はDr.メレケスを慕っていた。そしてメレケスもソネットを自分の娘のように考えていた。・・・そしてその結果は不幸な人間が集まって、結果全員死んでしまった、筈だ、蘭だけには生き延びていて欲しいが。・・・・・・>
「ソネットがこれ以上不幸になる必要は無い。それに俺達は本当の意味で別天地に来たんだからな」
 そう呟くとバードは深い眠りに就いた。




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