スーパーSF大戦インターミッション3



b−part.

 一五〇〇、午後三時、第2シフトに入った野明と遊馬は倒してあるベッドに固定されているイングラム各機に搭乗した。
 彼らは正面モニターを見つめながら、辺りの様子の監視を行った。
 だが、物珍しさから公園よりもそちらの方を取り囲み始めた一般客達の輪は段々と大きくなっていた。
 その中のふたりが辺りに響くでかい声で話し始めた。
「へぇ〜。随分大きいねぇこの人型蒸気はよぉ」
「なんでい、お前知らねぇのかよ。これは蒸気じゃなくてエレキで動いてるってぇ仕組みなんだぜぇ」
「へぇ〜エレキねぇ。エレキってぇとアレかい? 銀座のびるでぃんぐの照明なんかに使われてるあの明るい灯明の事かい?」
「おうよ。なんでもちょうでんどうでんちとか云う仕組みらしいや」
「へぇ〜。しかしこのガタイを動かすには蒸気を使ってんだろう? こんな重てぇカラクリがエレキなんかで動かせるわけがねぇもんな」
「あたぼうよ、恐らく最新型のK型蒸気に違ぇねえとオレは睨んでるだけどよ」
「はは〜ん、そう言えば確かに排気管が目立たねぇもんなぁ。てぇ事は何かい? これは神崎重工の新型かい」
「そりゃあ、こんな物作れる工場は神崎重工しかねぇだろうよ、てやんでぃ」
「てぇしたもんだ、さすがだねぇ」
 等と訳知り顔で観客達が噂話をしている物だから、第2小隊98式AV電子戦仕様担当の篠原遊馬はイングラム3号機の中でブツブツ文句を言っていた。
「何言ってんだか、大体蒸気機関みたいな馬鹿でかい仕組みのエンジンがレイバーに積める訳ないっての」
「遊馬、あすま、仕方ないってば。だって大正時代の人達なんでしょ、電化製品が溢れだした昭和中期以降の人達じゃないんだから間違ったって仕方ないよ」
「そうは言うけどなぁ! 蒸気機関は確かに熱効率は良いけど、こんな大きさで動かせるほどサイズを小さくできないっての。いくらこの世界の蒸気機関が高性能って言っても限度があるぜ」
「そんな事アタシに言ったって仕方ないじゃないか」
「何言ってんだ、第一お前が言い始めたんだろうが」
「そんなの言いがかりだよ」
 指揮車の遊馬とイングラムコクピットの野明がつまらないことで言い合いを始めた所で、一号機メンテキャリアに乗車している小隊長の後藤が無線を入れた。
『もしもーし、おふたりさん。レクレーションを始めたところで申し訳ないんだけど、こっちに注目してくれるかなぁ』
 ふたりが後藤隊長の声に気付き、画面を見ると、戦況表示用の画面に不明機(アンノウン)が数機点滅していた。
『と言うことで、1号機、3号機デッキアップ。起動準備を始めてくれ。それから太田、香貫花も搭乗準備。急げよ』
 後藤隊長が命令を下すと、1号3号メンテキャリアの伏せられていた架台が徐々に立ち上がっていった。
 それが完全に立ち上がり、98式AVの勇姿が観衆の目に入ると期せずして拍手が沸き上がった。
「いよっ! 大統領!」
「頑張れよーっ。怪蒸気の奴をやっつけてくれ」
 だが野明達の予想もしなかった事が起こってしまった。
 起動準備が整い、メンテキャリアの固定が外されると野明は肩のパトライトを回転させた。
 それと共に大音響でサイレンが鳴り響いたのだが。
 こんな大きな音は浅草からの翔鯨丸の発進時位にしか聞いたことのない人々は魂消た様子で後ずさる。
『皆さん、こちら特車2課第2小隊、今よりイングラムを起動しますので、公道上及び公園内にいる方々は速やかに避難をお願いします』
 更に聞いたこともない大声で巨人が喋ったのを目の当たりにした人々は我先争ってイングラムの前から逃げ出した。
 彼らの知る拡声器はせいぜいがメガホン位の物であり、こんな大音量を発するスピーカーと云う物は彼らの世界では普及していなかった。
 とにかく、進路上から民間人が待避し、移動が可能になった時点で野明と遊馬はイングラムをメンテキャリアから発進させた。
 そのスムーズな動きは、光武改と同等かそれ以上。
 そのまま、公園正門から公園内に足を踏み入れた。
 既に公園内から市民の姿は消えていた。
 しかし、その代わりに背中から蒸気を噴きだしぎこちなく稼働する約2.5メートルほどのイングラムの背丈の約半分程度の大きさの褐色の鉄の人型の機械が約10基ばかり刀を構えながら公園を自在に闊歩していた。
 その名は脇侍・改 イ型甲。近接戦闘用の蒸気機関で稼働する無人機である。
 ブシュブシュと背中から白い蒸気を吹き出しながら脇侍は当たりを歩き回り、石灯籠やガス灯をなぎ倒していた。
 野明は左手に差し込まれた電磁警棒を引き抜くと右手に構えた。
「遊馬、こいつら小さくて狙い辛いよ」
「ああ、まったくだな。でもこいつらは無人機だ。遠慮しないでどつけるぜ」
「え?! これって無人機だったっけ!?」
「あのなぁ。ミーティングで言ってたろうが。話ちゃんと聞いとけよな」
「えっへへ。ゴメン。進士さん、突入してもいいかな?」
 野明が無線機に語りかけると、しばらくして指揮車で状況をモニターしている進士が返事を返してきた。
『ちょっと待ってて下さい、今、太田さんの2号機と香貫花さんのゼロ号機が起動中です。』
「了解。待機します」
 野明が電磁警棒を構えたままそのまま待つと、彼らが入ってきた公園口から野明の乗機の1号機(アルフォンス)と頭部ユニットの形状が異なる2号機と、頭部の両側に角のように張り出したアンテナが特徴の0式AVが入ってきた。
 ここで簡単に解説しておくと、現在レイバーはこの日本連合の各地へ出荷されつつある人気商品である。
 その汎用性は各種土木現場のみならず、簡単な道具をマニピュレーターに保持させるだけで、予め入力されていた動作パターンからコンピューターが最適値を抽出し、或いは新たな動作プログラムをインストールする事によりあらゆる局面(土木・工業用・園芸・極限作業<強電場>等多岐に渡る)に於いて使用が可能である事。
 しかも大き過ぎずに値段も維持費も手頃。
 コンピューターシステムもなかなか上等であった為に民間で有効活用が可能なロボットシステムであったのだ。
 他にも他世界から来た別規格のロボットもあったが、汎用性、大きさ、量産性、その他諸々のコストパフォーマンスに於いてレイバーに勝る商品はなかった。
 全国に普及した結果、レイバー犯罪は激増。第2小隊の出番は増える一方なのであった。
 この0式は特車2課に配備が計画されていた2種類の98式の量産機種の不採用が決定した後、次世代量産検討機種の高性能実験の試験機として篠原重工でカスタムメイドされていた物である。
 汎用性を向上させた量産型の機体が特車2課第1小隊に正式採用され量産された後、役目を終えて倉庫に仕舞われていたのであった。
 しかし、この時空統合後、何かと物騒な事もあり第2小隊の出動件数が飛躍的に伸び始め彼らに対するオーバーワークを軽減させる目的で倉庫から引っぱり出されて格闘戦用に整備し直された物である。
 以下に特車2課の編成を記す。



特車2課第2小隊編成表
隊長/後藤喜一 警部補
副隊長/熊耳 武緒 巡査部長
隊員/泉 野明 巡査
太田 功 巡査
香貫花 クランシー 巡査部長
篠原 遊馬 巡査
進士 幹泰 巡査
山崎 ひろみ 巡査

0号機操縦担当/香貫花 クランシー
1号機操縦担当/泉 野明
2号機操縦担当/太田 功
3号機操縦担当/篠原 遊馬
統括指揮者/熊耳 武緒
1,3号機指揮者/進士 幹泰
0,2号機指揮者/熊耳 武緒(兼任)
バックアップ/山崎 ひろみ

0号機/0式AV−type.0(格闘戦仕様)プロトタイプ・ピースメイカー
1号機/98式AV(汎用)REACTIVE ARMAR TYPE.
2号機/98式AV(汎用)OLD TYPE HEAD.RED SHOLDER.
3号機/98式AV(電子戦仕様)

第1小隊
隊長/南雲 忍
1号機操縦担当/五味丘巡査部長
2号機操縦担当/ゆうき巡査
1〜3号機/0式AV−type.1(汎用)PEACE MAKER.
Newron Network System.搭載。



 第2小隊は0号機から3号機まで4機のパトレイバーを並べると、公園内の脇侍に対しフォーメイションを組んだ。
 前列に香貫花の0号機と野明の1号機、その斜め後ろにライアットガンと20ミリリボルバーカノンを構えた太田の2号機と遊馬の3号機が立っていた。
 見る者に対する心理的影響まで考慮して作られた4機はその巨体を入り口付近に並べた。
 4機は一斉にパトライトを点灯させ、サイレンを掻き鳴らした。
 その赤色の輝きと甲高い音に気付き、脇侍達は公園入り口のパトレイバー達に向き直る。
『そこで破壊活動を行っている者達に告げる。あなた達の行為は公共物破損、及び騒乱罪に当たります。速やかに機体を停止し、こちらの指示に従いなさい』
 1号機が電磁警棒を構えながら所属不明の人型機械に警告した。
 だが、10機の脇侍はそれを無視すると刃渡り1.5メートルを越す日本刀を振りかざして駆け寄ってきた。
『公務執行妨害、及び公共物破損の現行犯により逮捕する!』
 野明はそう宣言すると電磁警棒を構え、隣の香貫花と共に格闘戦に備えた。
『太田くん、篠原巡査発砲を許可します。犯人の機体は無人機です。存分にやってしまいなさい』
 統括指揮の熊耳巡査部長が指揮車から命令を下す。
『ウォオオオオオッッ!!! 往生せいやぁ!!』
『3号機了解』
 熊耳の命令を聞いた太田は、雄叫びを上げながらライアットガンを発射した。
 7メートルスケールのイングラムが構えた凶悪な迄の口径を持つ散弾銃から、対レイバー用の散弾が発射された。
 爆煙を吐き出しながら、無数の弾が2機の脇侍に襲いかかった。
 脇侍・改イ型乙達が装備する機関砲の口径よりも大きな弾頭である、易々とその装甲を貫いた弾はそのまま機械部分をも貫き通し機体に無数の穴が開いた脇侍はガックリと膝を落とすと穴々から激しく蒸気を噴きだして沈黙した。
『わーっははははは。どうだ見たか犯罪者め。』
『太田さん横、横!』
 高笑いを続けていた太田機の横から日本刀を構えた脇侍が突進してきた。
『なに? うぉ!』
 太田は両手にライアットを保持していたため、咄嗟の回避行動を取ることが出来なかった。
 半分以下しかない身長の機械人形が持つ武器とは言え、鉄の刀身を受ければ軽量の複合素材を多用した弱いイングラムの装甲でそれを受け止める事は困難である。
 慌てて避ける暇もない。
 太田は悲鳴を上げた。
 だが、太田のカバーに入っていた香貫花の0号機が脇侍の更に横から踏み込んだ。
 右手の指を揃えると手首伸縮フレームを展開し、その貫き手を脇侍の脇腹に貫き通した。
 ゴンッ、と云う鈍い音と共に機体から蒸気が噴き出し、脇侍は沈黙した。
『なんだ、爆発しないのね・・・。 オオタ! 戦場で脇見をしてると命を落とすわよ。注意しなさい』
『お、おう。悪い。』
『まぁ、私がガードしたげるから。大丈夫だけどね。行くわよオオタ、突撃よ』
『おう!』
 血気盛んな太田巡査と香貫花巡査部長のコンビは、熊耳の指示も無いのに残り6機の脇侍に向き直った。
『ちょっと! 太田くん、香貫花さん。指示も無しに』
『今、突撃しないでいつするって言うの!? そんな弱腰じゃ敵に付け入る隙を与えるだけよ』
『そうそう、現場の判断は臨機応変。この犯罪者どもを叩き潰してみせます』
『ちょっと待ちなさーい!』
『シャラーップ! 聞く耳持たないわ! 通信終わり』  ブッ!
 香貫花は通信を切ると、太田を従えて突撃を敢行した。
『ちょっとちょっと香貫花さん、太田くん! バックアップの指示に従いなさい! これは命令です! 太田くん! 貴方は聞こえている筈よ! 突撃を止めて返事をしなさい! 早くしないと後で酷い目に会わせるから覚悟なさい』
 そのセリフを聞いた瞬間にライアットを発射しながら突進していた太田機の足が鈍ったのだが、前を走っていた0号機が2号機の腕を引きずるようにして走り出した。
「くぅ〜、まったくもう。香貫花さんと組んでから太田くんたらちっとも云う事を聞かなくなっちゃって。はぁ〜あ、自信喪失しちゃう」
 思わず指揮車に突っ伏す熊耳の耳元に、通信機から野明と遊馬の声が漏れ聞こえてきた。
『ね、ねぇ遊馬、酷い事って何かな?』
『さぁなぁ? そんなに酷い事はしないと思うけど』
『だってさぁ。あの熊耳さんがわざわざ「酷い事」なんて云う位だし。結構凄いことだったりして』
『んな事、オレに云われたってわかんねぇっての』
『それにしても、意外と熊耳さんと香貫花って相性悪いよねー』
『あっ、それはオレも思ってた。才色兼備対ウーマンリブの対決って感じか?』
『あはは、それ言えてる』
『あっ、これって通信されてた・・・』
・・・・・・・・・
「ふ〜た〜り〜と〜も〜」
『『ハ、ハイッ!!』』
「無駄口叩いていないでサッサとふたりの援護に入りなさいっ!!」
『『アラホラサッサー』』
 熊耳の怒鳴り声と共に電磁警棒を構えた1号機とリボルバーカノンを構えた3号機は脱兎の如く、公園の奥に消えた0号機と2号機の後を追った。
「まったく、皆、緊張感がないんだから」
『あの〜、熊耳さん』
「はい、進士さんなんですか?」
『私たちは前進しなくて構わないんですか?』
「したくても、この林の中では指揮車の活動は制限されてますし、こう云うところで待ち伏せを喰ったら大変なことになりますから。それに、あれだけ臨機応変って叫んでたんですから大丈夫でしょうよ!」
『はぁ、成る程。それからですね、4機とも前進させてしまって良かったんでしょうか? メンテキャリアとか、こちらの方の警備が随分手薄になってしまった様ですけど』
「えっ?」
 ハッと気付いた様子で慌てて周りを見回すと、確かに周りはかなり手薄で、ここに敵が現れれば一巻のお終いって感じである。
 取り敢えず、敵の姿は確認できなかったが。
「あ、た、多分大丈夫よ。それよりも泉さん達の方が心配よね」
『はぁ、そうですね』  こっちも結構大変だと思いますけどね。
 進士は通信機のマイクに音が入らないように溜め息をついた。


 さて、当時(西暦一九二〇頃)の上野公園内には桜の木が現在(西暦二〇〇〇頃)よりも沢山植えられ、花見の季節になると大勢の花見の人達が集まっていたのだが。
 今現在、その木立の多さは脇侍達に有利に働いていた。
 98式イングラムと0式ピースメイカーの巨体(全高7〜8メートル)が災いして、桜の木に影響を与えずに行動するのはほとんど不可能だった。
 そのため、公園の道に沿って進むを得ず、直進で林を突っ切っていった脇侍達に後れをとっていた。
『ちっくしょう! 俺に銃を撃たせろぉぉ!』
『ダメよオオタ。こんな木立の多い場所から射撃しても当たりっこないわ』
『しかし、どんどん離されているじゃないか』
『指揮官の命令が聞けないの? とにかくダメなのよ、分かったわね』
『っくぅぅぅ』
『まったく、太田いい加減にしろよな。市民の財産を警官が破壊してどうするんだよ』
『ングググググ』
『それよりどうするの。このままだと公園から逃げられて、市街地に出ちゃうかも』
『大丈夫でしょ。この先には池があるようだし。そこで捕捉できるはずだわ』
 自信満々で断言した香貫花だったが、図らずしもそれは当たった。
 彼らが公園に隣接する不忍池に辿り着くと、池の畔に建立されている神社の屋根に止まっていた数多くの海鵜が甲高い声を上げて喚き立てた。
 イングラムの前には、生き残った5機の脇侍が立ちふさがっていた。
 しかし、その背後には機関砲を装備した脇侍・改イ型乙が2機待ち伏せしていたのだ。
『どしぇええええー!』
 野明が奇声を上げて後ずさるが、慌ててリボルバーカノンを右足のウェポンラックから取り出すと2,3号機と共に射撃を開始した。
 今か今かとてぐすねを引いて待っていた太田は勿論だが、遊馬も野明も続けざまに弾丸を脇侍・乙に浴びせた。
 野明と遊馬の射撃の腕前は2号機の太田程ではない物の、イングラムに搭載され鍛え上げられていた射撃プログラムは正確に目標を射抜いた。
 2機の乙には立て続けに2発3発と弾丸が命中し、5体をバラバラに散らばせながら地面に脇侍だった物が転がった。
 これが有人機だったら大変なことになっていた所だ。
『よぉし、野明、突入よ!』
『了解! 香貫花!』
 香貫花の合図に答えた野明はリボルバーカノンを収納すると、電磁警棒に持ち直した。
 コンパスの差から、一気に間を詰める0式と98式に対して脇侍は刀を構え直した。
『甘い!』
 香貫花はそんな脇侍の動作を見て取ると、脇侍の間合いの外から貫き手で1機の脇侍の頸を砕き、取って返 した勢いで蹴りをもう1機に叩き込んだ。
 蹴飛ばされた脇侍は大きく体を軋ませながらも何とかそれに耐えた。
 その脇侍は折れ曲がった刀を投げ捨てると肩を突きだして突撃した。
 しかし、脇侍の身長は2.5メートル。イングラムの膝より少し高いだけである。
 香貫花は慌てず脇侍の突進を避けると、バランスを崩した脇侍の背後から貫き手の一撃を加えた。
 ぶしゅーっと白い蒸気を吐き出して脇侍は沈黙した。
『フッ・・・。ざっとこんなもんよ。野明、そっちはどうなの?』
『こっちも大変だよ。このぉ〜! いい加減にしなさい! 』
 野明は電磁警棒を脇侍の胸部に当てると電撃を加えた。
 すると脇侍背部の蒸気ユニットの強制排気弁から物凄い勢いで蒸気が噴き出した。
「ってぇいやぁ! やったぁ!」
 野明は歓声を上げたが、しかし直ぐに脇侍は再起動を果たして動き始めた。
「えー? なんでなんでぇ?」
 彼女の疑問も最もだが、実は、脇侍のメカニックには電気回路が一切使用されていないのである。
 それらは全てが非電気回路によって制御されていたのだ。
 中枢演算ユニットは超細密加工によって作られたデジタル蒸気計算機(理論的には可能)。
 命令伝達系統は油圧及び水圧輸送管と蒸気管により、駆動部分は水圧油圧ジャッキに蒸気ピストンとタービン。
 その他、バネにゼンマイ、歯車にカムを組み合わせて出来ているのだ。
 まるで怪奇小説に出てくるゼンマイ仕掛けのカラクリ人形のようではないか。
 もっともそのお陰で電磁警棒による電気回路の破壊から逃れられたのだが。
 電磁警棒の電気はタンク内に溜めてあった還元水を熱によって蒸気に変換、一時的に管内圧力を上昇させて機械機構を破壊し掛けたが、安全弁によってそれも回避されていたのだ。
『野明、それらに電撃は効果がないわ。体内のスチームパイプを破壊しなさい』
『りょ、了解』
 野明はいつも相手をしている作業用レイバーとは違う相手に戸惑いを感じていたが、持ち前の元気で気を立て直すと再起動を果たした脇侍に向き直った。
『さぁ、もう容赦しないんだからね。』
 野明のアルフォンスは電磁警棒を構えてその脇侍に突進していった。
 この戦いの趨勢は決したと見て良いだろう。
 その様子を近くで見ている者達がいた。
 そう、上野公園近くのマイクロバスに待機していた特工課の面々である。
「あのー、服部さん」
 例の恥ずかしい服(本人談)を着た南風マロンは、渋い顔をして戦いを見つめていた服部課長に話し掛けた。
 だが、服部の表情は冴えなかった。
 それはそうだろう。折角特攻課の存在意義を示す機会が失われようとしているのだから。
 だがしかし、服部は公務員生活の長い役人根性の染みついたプロの公務員で大人である。そんな事はおくびにもマロンに見せることもなくほぼ無表情で肯いた。
「んー? どうしたマロン」
「敵のロボット・・・やられちゃいましたね・・・」
 マロンも自分が特工課の皆の役に立てなかった事が悲しかったのか少し湿った声で言った。
 しかし、服部はそんな事は大したことではないと言い放った。
「なーに言ってるんだ。こんな事で自分を安売りしちゃダメだろ。お前にはお前にしかできないことがあるんだ。そしてそれに然るべき舞台を用意するのが俺達の役目だ。気にすんなって」
 服部はマロンの頭に手を置くとクシャクシャと髪を乱した。
 少しそれが気に掛かったようだがマロンも服部が気を落としていないと思い、気を取り直したようだった。
「そうですか、そうですね。分かりました」
 マロンは陰のない表情でニパリンと笑った。


 さて、特車2課第2小隊は全ての怪蒸気を殲滅した。
『ガーッハハハハハ。どうだ見たか犯罪者どもめ。俺が本気になればこの通りだ!』
『なーに言ってんだか。大概は香貫花と野明が方を付けてたんじゃないか。まったく周りの状況が見えていないやつだぜ。ほーんとめでてえよな』
『なんだと篠原! 貴様俺に難癖付けるつもりか?』
『つもりじゃなくて事実なの。 そんな事も分からないのかよ。まったくしょうがないなぁ』
『ぬ、ぬ、ぬわんだとぉおお!!?』
『ちょちょちょっと太田さん止めなよ、それに遊馬も太田さんを刺激しないで』
『事実は事実だろ。大体、お前がそんなだから太田なんかがつけあがるんだよ』
『えー? そこでアタシに振るワケェ?』
『俺がつけあがるとはどう云うことだ!』
『遊馬だっていつもいつも・・・』

『シャラーッップ!!』


 ギャアギャア喚く3人に耐えきれなくなった香貫花の堪忍袋の緒が、ブツンと切れた。
『あなた達、いい加減になさいよ、目の前の敵を倒したからってそれで戦いが終わっただなんて考えてたら命が幾つ有っても足りないわよ』
「ほぅ? お巡りの中にも少しは賢い奴がいるんだねぇ」
 誰もいないはずの公園から若い女の肉声が聞こえてきた。
 全員が振り向くと、まるで印度のおとぎ話から抜け出てきたような怪しい格好の色黒な女性が立っていた。
 だが、彼女の何が一番目を引くかと言えば普通は一般的にやはり腕が4本伸びていると言うことだろう。
 第2小隊の面々は驚愕の声を上げた。
「ふっふっふ」
 彼女は幼い頃からその奇異に映る体によって他人から差別されてきていた。
 他人が自分を見る目が怯えであったり蔑みであるほど彼女の中の黒い炎は燃えさかり、その敵を焼き尽くしてきた。
 この敵もそうだ。
 そうだ、アタシは異分子だ、普通じゃないんだ、あんたらとは違うんだ。そう思えばそう思うほどアタシは強くなれるのさぁ。
 さぁ、あんたらも叩きつぶしてやる。
 あんたらも思っていることをアタシに言いな。素直にネ。
『えーっ、あの人今どきしかもあの歳でガングロだってぇ。ちょっと恥ずかしくないのかなぁ? ねぇ遊馬もそう思わない』
『バカ、俺に振るな。どうも俺ってああいう勘違いしたオバハンは苦手なんだよ』
『ちょっと遊馬オバハンはちょっと言い過ぎじゃない? どう見たってまだ27か29歳位だと思うけどなぁ』
『バーカ、あれはかなり若作りしていると見た。香貫花はどう思う』
『うーん、そうねぇ。日本人はかなり若く見えるから30代中盤だと思うけど』
『俺は20代後半と思うがなぁ』
『誰も太田にゃぁ訊いてネーよ』
『何だとコラァ』
『まぁまぁ太田さん落ち着いて』
 ふるふるふる。
 彼女の両方の両腕(計4本)は堅く握りしめられ細かく震えていた。
「この、この、このアタシが小母さんだと! アタシはまだ19歳だ!!」
『『『『ウッソだーぁ!!!!』』』』
 全員揃って声を上げた。
「ぶっ殺す!! いでよ! 八葉!」
 彼女が右上腕を振り上げると地中から彼女と同じく4本の腕を持つ魔繰機が現れた。
「我は黒鬼会五行衆がひとり土蜘蛛。貴様ら全員生かしちゃ置かないから覚悟しな!」
 彼女の操る八葉は大きく腕を振りかぶった。
「九印曼陀羅!」
 土蜘蛛の操る八葉は98式の半分しかないが、妖力機関を持つそれは充分にイングラム3機とゼロ1機を戦闘不能にするだけの実力を秘めていたのだ。
 妖しい光が撒き散らかされたと思うと地面から爆発が起こり4機のパトレイバーはひっくり返された。
『ナニナニ一体何がおこったのよー』
『落ち着け野明、機体のチェック。どうだいけるか?』
『ダメだよ。機体には特に異常が見当たらないのに動いてくんないよー』
『こっちもダメだ。畜生』
『どうなってるんだ一体』
『落ち着きなさいオオタ。再起動急いで! SHIT! 何よこれ機体も正常、Battelyも問題なし、コンピューターも正常、何処にも異常は無いってのに』
「ハッハッハッハッハ。そんなエレキテルで動くような木偶はこの八葉の敵ではないわ。このアタシを侮辱した報いは受けて貰う」
 土蜘蛛は八葉をまずは泉機に近づけた。
「さぁ〜て、アンタだったねぇ。アタシのことを色黒とか言ってくれたのは」
『ええーっそんな事言ったっけ』
『ほら、さっきガングロって言ってたろ』
『あぁ、でもあれって顔に色塗ってるんでしょ。別に地黒って云った訳じゃ』
『シャネルズじゃないんだから。彼女にそう言って聴くと思うか?』
『無理・・・かな』
 無理であった。
 感情的になった土蜘蛛はそんな事どうでも良かったのだ。
 さて八葉の放った技、九印曼陀羅は妖力を元に霊力を放つ攻撃である。
 イングラムが霊力を使った攻撃に弱いことは「闇に呼ぶ声」(そう、熊耳さんが気絶しちゃったあの話だ)で幽霊に動作停止を喰らって実証されてしまっている。
 イングラムはオカルトに弱かった!
 というより、霊力を体系立てているサクラ大戦の世界以外では対処のしようがない物だ。
 そう言う意味では、黒鬼会は科学の最先端を行く世界に対してのアドバンテージを握っていると言えるのかも知れない。
 さて、八葉は泉機に近付くとその手に持っている武器を胸のコクピットに突き付けた。
「ふふふ、ジワジワと殺してやるよ、お姉さん。命乞いをするなら今の内だよ」
『ふん、警察官が犯罪者にそんな事言えるわけないでしょ』
「そうかい。なら死にな!」
『野明ーっ!』
『泉!』
 土蜘蛛は武器を大きく振りかぶるとアルフォンスのコクピットに振り下ろした。


 さて、一方その頃、大神一郎は大帝國劇場の入場口にてモギリの準備をしていた。
 が、簡単に準備が済んでしまった大神は開場時間までの間、近くの売店で新作の歌劇団員のブロマイドの購入を検討していた。
 そんな浮ついた大神の後の大扉から姿を見せたのは所用で陸軍省から帰ってきた帝國華撃団副司令である藤枝楓である。
 彼女は大神が入り口付近にあるブロマイドなどが売っている売店で売り子である帝劇3人娘のひとり、高村
 椿を相手に世間話をしているのを見つけた。
 彼女は口元に笑いを浮かべながらその背後へと忍び寄っていった。
 それまで楽しそうに大神と話をしていた椿は楓を見つけると突然顔を強ばらせて黙ってしまった。
「あれ? どうしたの椿ちゃん」
「え、えっとあの〜。あ、そうそう大神さんブロマイドが御入り用でしたね。今日は何になさりましょうか」
「え、うん、それじゃぁこの」
「お・お・が・み・くん。お仕事頑張ってる?」
「う゛っっっ」
 大神が売店に並んでいるブロマイドを指さした瞬間、その後から肩を叩かれた。
「あら、大神くんの本命は・・・・・・マリア? さぁてこの事を皆が知ったらどうするか楽しみだわ〜」
「う、うわーっちょちょちょっと待って下さい。後生ですから」
「んふふー。さぼっちゃダメでしょ、お・お・が・み・くん」
 大神はガックリと肩を降ろすと降参した。
「済みませんでした楓さん」
「よろしい、以後気を付けてね。椿ちゃんもネ」
「は、はいぃ」
 楓は優しく彼らをたしなめるとそのまま支配人室へと足を進めようとした。
 だが、そこに突然放送が流れた。
『黒鬼会が上野公園に出現、帝國華撃団出動準備!』
 大神と楓はハッとした表情になり顔を向かい合わせた。
「いつもの脇侍だけじゃない?!」
「やはり、今までの脇侍の出現は今回のための布石だったようね」
「そうか、連日の出動でこちらに疲労を溜めて、戦力が低下した所を高い戦力の奴らが叩く。くそう! 卑劣な奴らめ。」
「急がなくては大神くん。警視庁の戦力では黒鬼会の妖力を用いた戦力に対抗できないわ」
「はい、待ってろよ黒鬼会!」
 大神はダッシュで地下作戦室へ向かうが、途中で楓が引き止めた。
「待って大神くん、こっちの方が早いわ」
 そう言うと楓は食堂の方へ走った。
「あの、楓さん」
「さぁ、こっちへ急いで」
「厨房? こんな所で一体何を」
「帝劇にはまだ色々と秘密があるのよ。ここもその一つ。地下司令室へのシューターがこのオーブンに隠されているわ。ここから早く」
 楓にせかされた大神は少し躊躇したが、深く底が見えないシューターになっているオーブンへと身を躍らせた。
 長く深いシューターをくぐり抜ける途中で大神の服装はいつものモギリの格好から戦闘服へと変化していた。
 カタッと扉が開き、大神が地下作戦室に辿り着くと既に大神を除く全員がいつもの戦闘服に身を包んで待機していた。
「隊長、遅い」
 レニは冷静にそれを指摘した。
「悪い。」
「おい大神、楓くんはどうした?」
 陸軍の軍服に身を包んだ米田一基中将が大神に尋ねる。反射的に記憶を反芻した彼はすぐに答えた。
「はい、厨房のシューターで一緒にこちらに向かったはずですが」
「え、厨房のシューターか? だがアレは」
 米田が呟くと、ちょうど大神が出てきたシューター出口から楓が現れた。
 ピンク色の制服に身を包んで。
「例え如何なる闇だとて、払って見せましょ、この愛で!」
 全員絶句・・・・・・。 (声優ネタ)
「楓さん、一体・・・・・・」
 だが、やがて気を取り直した米田は戦闘作戦を実行すべく訓辞を始めた。
「いいか、今回の敵は今までチョロチョロしていた脇侍とは違う。敵の幹部が乗った魔繰機兵。データーからすると土蜘蛛が乗った八葉と言う魔繰機兵だ。連日の出撃で皆疲れているだろうが、霊力を持たない機械では魔繰機兵には勝てない。我々が出撃しなければならないのだ。行け!帝都の平和を守るのだ」
「ハッ! 帝國華撃団! 出撃!」


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