時に新世紀元年五月、後に「RYOMA」の名の元に世界的な大企業として大成功を遂げる「海援隊」誕生の瞬間であった。
「ああ、彩理さん。盛況みたいね」
「どうもお待たせしまして田鶴子さん。ええ、おかげさまで順調ですわ」
新世紀2年1月、四国香川は逢羽市国府町のコニーパレスにてのことである。訪れたのは海援隊企画本部長の「福岡 田鶴子」。
それを出迎えたのはイーディス社の営業本部長「高原 彩理」であった。彼女らは今後の営業戦略会議ということであったのだが、
「ちょうどいいから現状を確認しておきましょう」ということで、待ち合わせ場所を国府町のコニパレにしたのである。
ちなみに妙齢の美女二人が出現したと言うことで周囲には人だかりが出来ていた。しかし、テレビ・新聞・雑誌などで顔を知られている彼女たちのこと、さすがに声を馬鹿者などはいなかったが(もし声をかけても即座に追い返されただろうが)。
「なかなか人も入ってるみたいだし。これなら次の計画も立てやすそうね」
「ええ、どんどん会員数も増えてますし、新規の店舗も続々と増えてますからね」
「ここまでするには色々苦労もあったし、正しく報われてよかったわ」
「ホントにいろいろありましたからねえ」
ここで話しを数ヶ月ほど前に戻そう。「高原 彩理」の勤める「イーディス社」は実はDP事業の本体を行う会社ではなく、ただ大手サードパーティに過ぎなかった。だがしかし、時空融合後、大混乱の中で何とか情報を収集し、生き残りの為の会議を行っていたのである。
「…それでは長船主任。これまでに分かった現状報告をお願いしますわ」
四国香川県来瀬市。イーディス社の一角の会議室にてのこと。DP回線網維持等、現状維持に掛かり切りになっている他の部門とは別に、将来に向けての作戦本部とされた「特殊企画部」の会議が行われていた。そこの責任者である「高原 彩理」特殊企画部部長(当時)に指名されて一着のウサギの着ぐるみが書類片手に会議参加者に報告を行うというある意味シュールな光景が展開していた。
「じゃあ行くよ。とりあえずDPの本体であるコニー社及びデッガー社とは、コニーの四国本社とは連絡が取れたけど、残っているのは地元在住の数名だけで会社としての体を成していないそうだ。コニーの他の部門とデッガーに関しては現在のところまで連絡が取れてない。そして僕ら以外のサードパーティの各社も、久我君のところは連絡がついたけど、その他はおんなじだ。というか、これからも取れる見込みはほぼ無い。どうやらニュースでやってた「時空融合現象」ってやつについて来れなかったらしいね」
「なるほどね。じゃ、コニパレの方は…ビリー君?」
「ん、それじゃ行きまっせ。とりあえず有珠と手分けして片っ端から連絡とって見たんやけどな。生き残っとるのは香川・徳島の店舗だけや。だが、チェックしてみたところこの2つの県内については全店舗がそのままの形で残っとる。そいつらを繋ぐ高速通信回線網も異常なしや。こいつらについては元さえなんとかすりゃそのまま営業できるで」
「ふうん。で、その肝心の本体の方は…桐生?」
「そっちの方は浅野部長や樋口部長が頑張ってくれてるし、コニーの本社にマスターシステムが運良く残ってたから、何とかなりそうだって。コニーに残ってた人達も協力してくれてるし、幾つか拡張機能は使えなくなっちゃうけど、取り敢えずゲームとしての稼働は出来る状況だってさ」
「なるほどね。久我さんのとこは今のとこなんて言ってるのかしら」
「それについては大ちゃんが…どうなってたっけ?」
「ああ、とりあえずDPのことについて聞いてみたんだけど、「やめるもやるもお前らの好きにしろ。ただやるんだったら付き合ってやる、やめんならあとは知らん」だってさ」
「ふうん」
「だけど本音はやって欲しいんじゃないかなあ」
「あら桐生、どうして?」
「ほらさ、久我さんとこ子供が産まれたばかりだし。1から他の仕事捜すのも大変だと思うよ。だったら今の仕事続けたいってのが本音じゃないかなあ」
「まあ、それもそうか…」
「あと僕たちの意見なんだけどね。出来れば僕たちもDPを続けて欲しいんだ。やっぱり僕たちがここでこんな風になれたのもみんなDPのおかげだし」
「彩理ちゃんと仁村君が出会ったのもね」
「か、会長さん!!」
真っ赤になって照れる桐生と彩理。そこに今まで黙って皆の話に耳を傾けていたメガネの男が問う。
「で、どうします高原部長。コニーの四国本社もうちに任せたいって言ってますし。今のとこやるもやめるも我々の決断ってとこらしいですが」
「あ、ええ、分かってるわ任谷副主任。というか実は私もいろいろ考えてたんだけどね。ここでのみんなの話、それとある人との出会いで結論が出たわ」
「で、どうするの彩理さん?」
「ま、ちょっと待って桐生。その前にその決断をさせてくれたその人を紹介するから」
そういうと彩理は手元にあった携帯端末からどこぞに回線を繋いだ。
「結論が出ました。お願いします。…ええ、その方向です。そういうことで…、それでは案内のものとご一緒にこちらへ…」
ピッ
「今すぐ来るから。ちょっと待ってね」
「それはいいんだけど彩理さん」
「なあに桐生」
「まさかその人って男の人じゃないよね」
「男の嫉妬は見苦しいよ仁村君」
「か、会長!!」
コンコン
「はい」
「失礼します。お客様をお連れしました」
「失礼するわね」
ガチャッ、コツコツコツ…
「あっ」
「なんだ知り合いか桐生」
「大ちゃんほら、こないだ読んでた週刊誌に載ってたじゃないか」
「あ、あーあーあの」
「ご存じの方もいるみたいだけどとりあえず。どうも初めまして、(株)海援隊の企画本部長を勤めております「福岡 田鶴子」と申します」
「は、はい…って彩理さん」
「そう、私も実はDPの事業を続けたかった。だけどイーディス社単独でその仕事をするのは不可能に近い。久我さん達の協力を合わせてもね。そんな時この福岡本部長と出会ったわけ」
「それで…?」
「我々は四国全域において有効な取引先を捜しておりました。その中で、高原部長の話をお聞きし、また御社の置かれた状況、業務内容等を検討した結果、我々は御社を将来有望なビジネスパートナーであると結論しました」
「と、いうことは…?」
「ええ、我々海援隊はイーディス社に対し大規模な投資を行い、またDP事業の復活・拡大に対しては我々の関連会社も含めて全面的な協力を行うことに決定しましたわ」
「それじゃあ彩理さん」
「そう、我々イーディス社は全社一丸となってDPの再構築と運営を行います。さあみんな、これから忙しくなるわよ、分かったわね。それでは行動開始!!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
それから数週間ほど後、イーディス社会議室である。
イーディス側の「高原 彩理」特殊企画部部長と海援隊側の「福岡 田鶴子」企画本部長がDPの本格再開に向けて書類やらメディアやらディスプレイやらを目一杯に広げて仕事の真っ最中であった。
「…というわけでこれは予算的にOK。高知・愛媛側への通信網敷設に関しては、と」
「現在残っている高速道路沿いにメインのケーブルを敷設完了し、そこから各店舗へ向けての枝線の工事中ですわ」
「ん、で再開と同時に高知・愛媛側で営業を行う店舗が、と…あ、これこれ」
「えっと…、高知県内で、高知市に3、隆山市に2、あと南国市と土佐市にそれぞれ1、ですね」
「それと愛媛県内に、新居浜市に2、西条市、川之江市、伊予三島市にそれぞれ1。と」
「そうすると、3の2の1の1、2の1の1の1で…12店舗ですか。こちらの現状はどうなってます?」
「どれも順調。隆山の1つはね、千鶴さんにお願いして「鶴来屋ホテル」の一角を貸して貰ったわ。「お客様サービスの一環です」って千鶴さんも張り切ってるみたいよ」
「へえー。千鶴さんもですか。これはうまくいきますわね」
「うふふそうね。それでは板垣君と後藤君…と、そういえばうちの二人は?」
「そういえばうちのみんなも…どこいったのかしら…」
「…」
「…」
「「!」」
がたっ
がたがた
ばたん
だだだだっ
「「アンタ達ーっ!仕事もしないで何遊んでるのっ!!!」」
「「「「「ご、ごめんなさーい!!」」」」」
そして時間は戻って現在。
「…売り上げ的には前月比200%増。新規会員登録者もどしどし増えてるし、リピーター数の伸びも順調。次期強化計画の前倒しも必要ね、これは」
「おかげさまです。うちの方でも一気に仕事が増えて、社員のみんなも嬉しい悲鳴を挙げてますわ」
「それに関してはうちも同じね。特に担当の板垣と後藤。今日はつれてこなかったけど、今頃高知の方でひいひい言いながら仕事をしてるはず…」
会話中ふとDPの店内用スクリーンに目をやった田鶴子さんの視線がそこに引きつけられる。そのまま微動だにしない田鶴子さん。だがその目は徐々に険しくなっていく。
「…田鶴子さん?どうしました?」
「…あ、彩理さん。ごめんなさい。ちょっと席外してもいいかな」
「え、ええ構いませんけど。何かありました?」
「あとで説明するわ。すぐ戻るから」
そういうと田鶴子さんは颯爽とした足取りでカウンターの方に向かう。その美しさに周囲から溜息が漏れるがもちろん気にすることもない。そしてカウンターにて田鶴子さんはいつの間にか手にしていたDPの会員証とディスクを店員に示し、二言三言言葉を交わしたかと思うと、くるりと振り向き自席に戻る。そこにいた彩理に「ちょっとごめんね」というように手を挙げると、自分の鞄から取り出したDP用のヘルメットとジャケットを手にDPの端末である「TOWER」のコクピットへ吸い込まれていった。
−仮想空間:第3バトルロイヤルステージ−
「…今回の敵は割とあっけなかったの」
「そうじゃの。というかわしらが強すぎるんじゃろう」
「あはははは、それもそうか」
「じゃがの、こんなとこで仕事もほったらかして遊んでるところを見られたらヤバイの」
「大丈夫じゃろ。田鶴子さあはこんなゲームなぞやらんし、それに今日は出張中じゃ」
「なら安心か…と、新しいやつが出てきたぞ。注意せい後藤」
「ああ、そっちも突っ込みすぎてやられんようにな板垣、それでは行くぞ」
そして数分後、板垣機と後藤機、そして謎の機体の3台が相まみえたのである。
「なあ板垣よう」
「なんじゃ後藤」
「なんか知ってる人のような気がするんじゃが」
「お前もか後藤、わしもなーんか知ってる人の様な気がしてならんのじゃ」
「それも何か威圧感ちゅうか…」
「殺気っちゅうか…」
「あら、二人とも結構鋭いのね」
「そ、そのお声は」
「ま、まさか」
「そういうこと、ところで二人ともこんなところで何をしてるのかしら」
「「そ、そいは」」
「まさか二人とも仕事をほったらかして遊んでるって訳じゃないわよねえ」
「「(ぎくぅ)」」
「どうなのかしら」
「「あ、あうあう」」
「そ。そういうことね」
「「あ、あわあわあわ」」
「「田鶴子さあごめんなさーーーーーーーいい」」
…そんなこんなもあったがDP事業は順風満帆にスタートする事となり、四国以外の各地へ展開し、新世紀2年後半には日本のゲーム業界を代表するゲームの一つとなる。ただこれには今後記される事となるであろう日本の通信分野に関わる重大な出来事も影響を与えているのだがそのことはやがて語られることとなろう…
そして新世紀2年1月のとある日の第3バトルロイヤルにおいては、前代未聞の虐殺劇が繰り広げられたのである。
それを見ていたイーディス社営業本部長のコメント。
「ふう、田鶴子さんもたいへんね」
<あとがき>
どもども、小さな一読者です。
今回はDP復活の軌跡。そしてその中での海援隊とイーディスの活動について書いてみました。
それにしても原作がある方たちを書くのは難しい。
イーディスの連中の性格がずれていたりしないのか不安なところではあります。
あと、「通信分野に関わる重大な出来事」っていうのは…また今度。
さて今回も後書きの方にはゲストをお呼びしたんですが…(そういや誰?え、なんだって。この間来て貰ったばかりじゃん。まずいよそれ…ってもう来てる?誰だ呼んだの…)、お見苦しいところをお見せいたしました。今回のゲストは、海援隊企画本部長「福岡 田鶴子」さんです!
「どうもこんにちわ」
ところで今回のお話に関してなんですが…
「…まあ、あなたの作品にしては割とましな方じゃないかしら」
そうですか。お気に入りいただけたようで幸いです。
「でも満足した訳じゃないわよ。もっと精進しなさい」
あ、あう。りょ、了解しました。
「分かったならいいわ」
ところで質問があるのですが、
「なにかしら」
ずいぶんとDPにお慣れなようですけど。
「ああ、そのこと。当たり前でしょ」
なぜです?
「自分が分かってないものを商品にするわけにはいかないでしょ」
それもそうですね。
「ところでこっちからも質問なんだけど」
なんでしょう。
「次作はいつ?」
え、え?だって今これを書き上げたばかりなんですよ。いきなり次作だなんて…
「そ、じゃ一刻も早く書き上げられるように…」
な、なんですかそれわああああ。
…
急いで幕が下りる。その向こうからは世にも恐ろしい悲鳴やら叫び声やらが聞こえてくるが何も見ることは出来ない。やがて幕が上がるが、後に残ったものは何やら赤い染みと何かを引きずったような跡だけだった…
「…あ、そうそう私を「最強」とか呼んでらっしゃったお方がおられたようですけど、またあとでご挨拶に窺わせていただきますわ。それではまた…」
<おしまい>