時に新世紀元年五月、後に「RYOMA」の名の元に世界的な大企業として大成功を遂げる「海援隊」誕生の瞬間であった。
ダダン、パンパン。
やあああっ
おいやあ
めーーーん
どうりゃあ
「おーし、今日の練習はここまでじゃあ」
「ありがとうございましたぁ」
新世紀元年九月。東京は神田明神下。お玉ヶ池の千葉道場である。
ちょうど練習も終わり、参加していた者達が三々五々帰り支度を始めたところである。
今日は仕事の空いた坂本、そして「真宮寺 さくら」も練習に参加し、気迫のこもった稽古が行われたのであった。
「おお、重太郎と竜馬、それにさくらさんは残ってくれるかの」
上座にて稽古の様子を見ていた道場主であり師匠である「千葉 貞吉」が声をかけ、三人は道場に残って、一旦奥に引っ込んだ貞吉を待っていたところであった。
「なんじゃろの」
「さあのう、さくらさんは心当たりがあるかい?」
「いいえ、まったくわかりませんわ」
「おお、待たせたの」
「いいえ、なんちゅうこともありませんが」
「なんぞ用ですか」
「用というのはな他でもないがな。まずその前にじゃの、重太郎と竜馬は「北辰一刀流」の「有の剣」と「無の剣」についての教えは覚えておるだろうな」
「はい、師匠から免許皆伝を頂く時に教わりましたっちゃ、なあ重さん」
「そうじゃな、ちゃんと覚えておるぞ親父殿」
「ならばよい。ところでさくらさんは知っておるかの?」
「いいえ、恥ずかしながら聞いたことはありません」
「そうか、ならこれから話す故、重太郎と竜馬も復習のつもりで聞いておけ」
「これは昔わしが兄上である「千葉 周作」から聞いた話なんじゃがな。何時の話だがわからんが、とある山奥に一人の木こりがいたと思え…」
〜
ある日、木こりが一人で木を切っていると、ある化け物が姿を現れた。
「何という名じゃ」
「さとりと言う名にて候」
木こりが『珍しい化け物じゃ、捕まえて見せ物にしよう』と考えると、
さとりは「何じゃ、今、わしを捕まえて見せ物にしよう。と考えたであろう」と笑ったそうな。
そこで木こりは『考えたことが読まれてはたまらない。この斧で打ち殺そう』と考えると、
さとりはまた「今、その斧でわしを打ち殺そうと考えたであろう」と、またも笑って言ったそうじゃ。
そこで木こりは諦めて『もはや仕方がない。相手にせず木を切っていよう』と考えたそうな。
するとさとりは「もはや仕方がない。相手にせず木を切っていよう。と思ったであろう」と笑ったそうな。
だが木こりは、本当にその通り、相手にせずどんどんと木を切っておったそうじゃ。
するとどうした弾みか、斧の頭がすぽーんと抜けて飛び、さとりの頭に命中して頭を打ちくだかれ、一言も発せずにさとりは死んだそうじゃ。
「…北辰一刀流には「有の太刀」と「無の太刀」と言うものがあるのじゃ。での、今の話で言えばその「木こり」が「有の太刀」に当たるのう」
「鍛えれば鍛えただけ強くなるがの、それも「さとり」の様にその上を行くものが来ればころんと負けてしまう」
「それに対し、「斧の頭」が「無の太刀」に当たる。斧は何も考えん。ただ自然自然に動くだけじゃ。そしてこれを身につけたなら、どんな相手にも負けることはない。自然自然に勝つことが出来る」
〜
「…というわけじゃ」
「なるほど、そういうお話ですか」
「そうじゃの。ですが師匠」
「わしも坂本さあもよくわかっておりますし、免許皆伝の際に「無の太刀:無妙剣」を教わっております。なぜ再びそのようなお話を…」
「うむ。それでは竜馬よ。その刀、わしが与えた「陸奥守吉行」を抜け。そしてわしに向かってかまえよ」
「し、師匠。こ、こうですかの」
「うむ。そして重太郎とさくらさんは立ち会いじゃ。よく見ておるが良い。竜馬よ。これから「北辰一刀流」極めの技をそなたに伝授する。しっかり覚えよ」
「し、師匠…」
ゆっくりと貞吉も剣をかまえる。双方とも真剣であり、一歩間違えば死にも至りかねない。徐々に高まる緊張感、かまえた二人は勿論、立ち会いの二人も全く動くことが出来ない。
そして時はゆっくりと流れる…
ついに竜馬が先に動いた瞬間!!
「北辰一刀流・無想剣!!」
ダーーーン!!
「…」
「…」
「わかった!!わかりましたぞ師匠!!!」
「わかったか竜馬!!」
「わかりました…」
「よし、それでは重太郎もさくらさんもきちんと見たの?」
「は…、はいっ!!!」
「こう来て、こうなって…。わかった!わかりましたぞ父上!!」
「ならばよい。それならばもう一つじゃ。この技が「無の太刀」と呼ばれる由縁について話しておこうかの」
〜
「有の太刀」の「有」じゃが、この場合、有るのは「気」というものじゃ。
そいつが剣に載ることにより、力が入ることとなる。じゃがの、「気」というものはの、相手にそれ以上の 「気」があることにより弾かれてしまったりもするのじゃ。それが「気」というものじゃからの。故に「北辰一刀流」の「無の太刀」は「気」を載せぬ。「気」を載せぬこと故、相手の「気」をもなかったことにして相手を打つことが出来る。故にこの技を「無の太刀」とするのじゃ。
〜
「…この気の話は、さくらさんならよう分かるのではないかの?」
「あ、はい…って、ええっ?」
「どういうことじゃ?」
「なんか心当たりでもあるんかの?」
「(にやっ)ま、そこら辺は聞かんことにしておいてやれ。竜馬、重太郎」
「「は、はい」」
「の、さくらさん(にっ)」
「え、ええ(どこまでご存じなんですかぁ!)」
「(剣筋を見りゃだいたいはわかるんじゃよ。これでもわしも道場主だからの)」
「「???」」
「その話はまあよい。取り敢えず今日はここまでじゃ。お疲れさまじゃった」
「「「ありがとうございましたっ!!」」」
「北辰一刀流・極・「無想剣」」伝授
伝:千葉 貞吉
授:坂本 竜馬
立ち会い:千葉 重太郎
同:真宮寺 さくら
…次の日
海援隊・東京営業所
「ふぅい〜、やっと終わったぞい」
「ご苦労様です。ではこちらも目を通してください。土木用・圏警用レイバー購入に関する篠原重工からの見積もり」
どさっ
「防衛省の新プロジェクトに関する資料」
どさっ
「エマーン商業帝国に関する第三次精査報告書」
どさっ
「「超弩級要塞2015」開発に関しての最終報告書」
どさっ
「こ、こんなにかの…」
「ええ、そうです。とりあえず今日中にすべて目を通しましてサインをお願いします。またそれらが終わりましたらこちらにある計画書等の書類に指示と回答を、それから…」
「(こんなに仕事を詰め込みおって、田鶴子さあは鬼じゃあ…)」
「社長が遊んでるからです」
「あ、あうう(な、なんで分かったんじゃあ)」
「あら、これくらいはたしなみですわ」
<後書き>
どうもこんにちわ、小さな一読者です。
今回の作品は第4話の番外編となります。
番外編にしたのは、今回のお話がちょいと毛並みの違う話になってたりするからですね。
あと短いし。
今回の話の元ネタはですね、「海援隊がゆく」のために、司馬先生の「竜馬がゆく」を最初から読み返してたときに、北辰一刀流の神髄について「千葉 貞吉」が語ってたとこがありまして、そいつを元ネタにというか、貞吉先生のお話はそっくりコピーさせて貰っちゃったりしたんですけどねえ。
あとはせっかく「真宮寺 さくら」さんの剣が北辰一刀流だという設定があるんで、ここからさくらさんのパワーアップのお助けが出来たらいいなあと思いまして…
ゴールドアームさんの設定と引っかからなきゃいいんですけど。
と思いまして、一応ゴールドアームさんには目を通していただきました。有り難う御座います。
次は…やっぱり第9話の続きか…四国圏の女神たちがどう動くかだな。
(彼女たちのことだから…死人が出ることにならなきゃいいが…)
んじゃ、今回はこの辺で。
小さな一読者でした。
「あら、そんなことはいたしませんわよ。もし死人が出るとしたら貴方ぐらいですわね」
「うわあああぁぁぁああ!!!!」
<<騒音により、状況不明>>
「ふふふっ、キジも鳴かずば撃たれまい、ですかしら」
<おしまい>