前回のあらすじ:
♪超弩級要塞がでーるぞ!
♪こいつはどえらいシミュレーション!
♪のめりこめる! のめりこめる! のめりこめる! のめりこめる!
♪かーちゃんたちには内緒だぞ!
♪超弩級要塞がでーるぞ!
勝負の約束をしたその日の夜、シンジは自室でドラゴンたちとくつろいでいた。
この愛するべきチビ竜たちを洗面所のお湯で洗ってやり(さすがに寮の大浴場には連れて行けないので)、ドライヤーの温風を吹き付けてやると、食事と同じくらい喜ぶのだ。これはシンジが三浦半島でリハビリ中、相模灘に面する日向温泉で湯治を試してみたときに発見された。
江東学園学生寮は男女別棟で、原則として異性の部屋に入るのは禁止である。アスカとレイは(管理人に断ってから)シンジの部屋に押しかけることも多々あるが、それでも20:00を過ぎる前には退室していく(もちろん女子寮の門前まで送らされるが)。
Gアイランドにいたときの実質同居に比べると、シンジの自由時間は格段に増えたといっても良い。健康な男の子として、美少女二人に対していつ過ちを犯してしまうかという不安が無くなったのも喜ばしいことである。
だが、ふとしたときに二人が居ないことを寂しく感じることもある。そんな時、シンジはドラゴンたちを撫でさすってやりながら、二人のことを想うことにしている。
“アスカも、レイも、マナも。個々で見ればみんな可愛いのに、どうして三人そろうとああまで姦しくなっちゃうのかなぁ? それに振り回される僕の身にもなって欲しいよ…”
今日の思考はちょっと愚痴っぽいようである。それに対するドラゴンたちも、女王竜であるブロンディとゴールディに頭が上がらないのか、同情の気持ちを寄せてくる。ペットは飼い主に似ると言うが、こういうところはそっくりである。
“ルリちゃんか… ちょっとレイに似てるかな”
シンジは今日の騒動の一因となった、銀髪金目の可憐な少女を思い浮かべた。
“あー、『開放的だ』なんて言葉を聞かれたのは失敗だったよなー。とほほ。でも、ルリちゃんはどうしてゲームの相手に僕を誘ったのかな。ラピスちゃんやハーリー君の方が、歯ごたえある相手だと思うんだけどな”
シンジがニブチンなのは、肉体が変わっても相変わらずである。
その頃、星野ルリ(小)はゲーム『超弩級要塞2015』のプログラムを解析していた。
プログラム解析といっても、別にズルをするわけではない。ゲーム機とバーチャルルームの接続プログラムを作成するためである。
なにしろ『超弩級要塞2015』が動くマシンは、入力デバイスがマウスとキーボード、出力デバイスが平面ディスプレイという、ルリにしてみれば旧式すぎるものだからだ。
ゲームのメイン処理は旧式マシンのままでも、『プレイヤーがコマンド入力し処理結果をコンピューターから受け取る』という部分をバーチャルルームとスーパーコンピューター・思兼に任せることで、ゲームがよりいっそう楽しめるものになる。
どうやら、『このド迫力を体験したシンジが旧式ゲーム機に不満を覚える』→『バーチャルルームを遊びにシンジがやって来る』→『シンジと一緒にいる時間が増える』という三段論法がルリの中で成立しているようだ。
「………」(赤面)
突然、作業していたルリの手が止まる。三段論法が四段目に突入し、妄想モードに入ってしまったらしい。
「手が止まってますよ?」
「きゃっ??!」
ポンと肩を叩かれて、ルリは飛び上がらんばかりに驚いた。慌てて振り向くと、星野ルリ(大)がニコニコしながら立っている。
「一人でやるより多数でやるほうが能率的ですから、手伝います。ラピスとハーリー君も手伝ってくれるそうですよ」
「えっ? えっ??」
まだ事態の飲み込めないルリ(小)があたふたしている間に、ルリ(大)はさっさとルリ(小)のデータをコピーし、ラピスとハーリーに転送する。
「一応、データ改竄が無いようにというのが名目ですけど、この方がギャラリーも楽しめますから」
すました顔で参加理由を述べるルリ(大)。ルリ(小)は完全に納得してはいないようだが、ラピスに促されて作業を再開した。
「ほーんと、バカばっか…」
もちろん、この台詞が出るのはお約束だ。
♪超弩級要塞を知ってるかい?
♪今度はCode2015だぞー
♪かなり凄い! かなり凄い! かなり凄い! かなり凄い!
♪とーちゃん一緒に遊びましょ
♪超弩級要塞が出ーるぞ
ゲーム『超弩級要塞2015』の基本ルールはこうだ。指揮官たるプレイヤーは助言者たるサブプレイヤーと共に仮想空間内の戦闘軍団の運用を指示する。
戦闘軍団はプレイヤーの指示通り行動するが、細かい行動についてはプログラムによる自動判断となる。また、個々の戦闘デバイスは人工知能による操作だが、人工知能にも新兵・ベテラン兵・エースパイロットなどバリエーションがある。
なお、この戦闘デバイス用人工知能にウリバタケが介入し、エステバリス・シミュレータと直結して有人操作も可能となっている。(ついでに無断で自作ユニットデータを追加しているあたり、ウリバタケらしい)
試合当日、シンジ、アスカ、レイとルリ、ラピス、ハーリーはパーティションで区切られたそれぞれのブースに入っていった。
「ルリ、正々堂々と叩きのめして上げるからね」
「望むところです。アスカさんこそ覚悟して置いて下さいね」
ルリはナデシコがサセボドックの地下に埋まっている間、暇つぶしのためミスマル・ユリカとシミュレーションを何度となく行っていた。
そのため、ルリは正々堂々と戦ってシンジ(を一日好きにできる権利)をゲットする自信があった。
「では、シンジさん。ヘルメットを被って下さい」
ルリは3つに区切られたバーチャルルームでヘルメットを被りながらシンジに向き直った。
シンジは天辺から天井にケーブルが伸びているヘルメットを恐る恐ると云った感じで頭に乗せた。
真っ暗な目の前に七色の虹模様が走り、テーマミュージックと共に突然無機質な風景が写し出された。
<<CODE−2015.Preparo−turn>>
バーチャル世界の中にシンジの意識が潜り込むと、そこは広々とした壁に囲まれ様々な計器が並んだコマンドルームとなっていた。
「へーっ、これがゲームの中なんだ」
「はい。ではこのゲームの事を説明しますね」
シンジが改めてルリを見ると、白い軍服に身を包んだ女性士官がバインダーを抱えて立っていた。
それはルリ(大)に似ている推定年齢16才くらいのスラリとした女の子であった。
突然現れたルリの声がするその女性にシンジは戸惑った。
「えっと、どちら様ですか」
「ハイ、ルリです。ここでは星野ルリ少佐と設定されています」
「あ、そうなんだ。そう言えばバーチャルルームなんだっけ」
「はい。理解が早くて助かります。ちなみにこの姿は私の5年後をシミュレートした姿ですので。……お、お買い得ですよ」(照れ)
「あ、はははは。でもボクじゃ釣り合わないよ」
「いいえ、これを見て下さい」
ルリは何処からともなく大きな姿見を取り出した。
「現在のシンジさんの姿は19才に設定されています。思兼でシミュレートしたところこの様な姿になりました」
そこに映る姿は身長185cmの長身のスポーツマン風の男性だった。
通りでかなり成長したルリの姿が目線の下の方にあるわけだ。
「このゲーム内でシンジさんは、この列島軍の最新設備である超弩級要塞の司令、碇シンジ大将となっています。私は碇大将付きの電脳セクション担当官となってまして、シンジさんの補佐をさせていただきます」
「うん、よろしくルリちゃん」
シンジがルリに笑い掛けるとルリは目を丸くした後俯いてしまった。
どうしたのかな? とシンジは朴念仁そのままにその様子を見ていたが、直ぐに復活したルリは白磁のような肌を赤く染めて顔を上げた。
「それじゃ説明をしますね。
私達のミッションはパックスIBMの原理に基づいて世界制覇を狙うIBM帝国、総司令・ラングレー神、プログラマーはラピス・ラズリ。それと拡大政策を採り続けるスミノフ帝国、綾波レイ神、祭祀長マキビ・ハリの二大大国の侵略から一定ターンを守りきれば勝利、全滅若しくは超弩級要塞の陥落が敗北条件となります。
ちなみに今回のコード2015に於いては限定戦場となっており、列島北部からシベリア、アリューシャン列島までの地域が戦場として使用が可能です。
それ以外は進入禁止となっていますので、迷走した軍用機や軍艦が侵入した場合はグロブローの管理下に置かれますので注意して下さい。
使用兵装は基本的にコード1997琵琶湖要塞と同じですが、この対戦モードは裏モード、というか評価版ですので、没ユニットデータも含め自由度がかなり高くなっています」
ルリは照れ隠しのため、やや早口でまくし立てた。シンジはルリが説明してくれた処理条件とマップについてなんとか理解すると、頷いて続きを促した。
「今回、私たちが使える裏データは、コードUC0079〜0088までのジオン系列のモビルスーツですね。
ちなみにこのロボットはその筋ではとても有名なアニメーションが元になっていまして、サンライズと言うアニメ会社が製作した機動戦士ガンダムから機動戦士ガンダムZZまでのデーターが使われています。
ちなみにデフォルトの設定ではIBM帝国には連邦系列、スミノフ帝国にはクロスボーン以降のモビルスーツが当てられていますが、これはV作戦が始まるまで生産・使用は不能です。
それと、フラグが立てばGガンダム、ガンダムW、ガンダムX等に出てきたモビルファイターやモビルスーツも使用できます。
モビルスーツの利点は様々なオプションの武装を大規模な改装も無しに使用できる点です。これによりコード1941に於けるミッドウェーの様な悲劇が防げます。
また、その機種専用の装備以外の汎用品であれば機種間で武器の手渡しも可能であると言う点です。例えばコード0087以降で主流となったエネルギーパック式のビームライフルならばガルバルディーβの物をザクUに装備することも可能なわけです。
緒戦に於いての私のお薦めはこれです。
MS−06J(ZAKU−U・地上型)
ジオン共和国が初めて実戦配備したモビルスーツの地上型で、核装備用のユニットを取り外し宇宙用より冷却効率の良い地上用の冷却ユニットを装備した機体です。
基本動作プログラムを1G下の物に変更しています。
基本的に対モビルスーツ戦は考えられない状況下(短期決戦で決着が付かなければ国力が小さく継戦能力の弱いジオン共和国は連邦軍に勝てないと判断されたため)で設計開発されたため攻撃機としての要素が強く、全ての領域のレーダーを無効にするミノフスキー粒子の影響下で誘導兵装を使用不可にした状況での運用を前提としています。
ちなみにミノフスキー粒子の傘の下にいなければ精密誘導兵器の飽和攻撃により簡単に撃破されてしまいますので注意が必要です。
それまで完全にレーダーに依存した兵器体系を築いていた連邦軍の兵器は、今までのECMとは比較にならない抗レーダー兵器に完全に機能を麻痺させられました。
レーダー未搭載の軍用機としてはA−10攻撃機がその最後となっていた連邦軍は、有視界攻撃を前提としたジオンの兵器に圧倒されました。
ジオン軍もコストの安い戦闘機や戦車を量産しましたが、その頂点に立つ兵器がモビルスーツのザクです。
いわば緒戦に於けるジオン軍の最終兵器と言うワケです。
基本的に頭部に装備されたモノアイから得られた映像を使って目標を視認するためミノフスキー粒子の影響を受けにくく、高度にコンピューター化された機体は高コストの為量産が困難となっていました。
ですが機動性に優れ、破壊力の高い宇宙塵に耐えられる厚い装甲を持つモビルスーツを撃破する事は非常に困難であり、地上を征服すべくジオン軍は地上型のザクを投入し続けていました。
これに対して連邦軍は主力戦車や有線ミサイルで対抗しようとしたのですが、よほどの近距離からでない限りザクのコンピューターは察知した弾種から弾道を計算し避けてしまったのです。
また、機体の特性上、関節が一番脆弱なのですが、よく考えられたセミモノコック構造の装甲で覆われた機体は驚くほど関節部の露出が少なく、後のコードUC0087ティターンズ戦争やコードUC0088ネオジオン戦争時の機体のような無駄な駆動系の露出が見られないのが特徴です。
これはコードUC0080年以降、モビルスーツに対抗できるのはモビルスーツだけであるとの一般認識から小口径銃弾に対する防御を軽視していた風潮による物なのですが、コードUC0079時のザクの敵対兵器は主に戦車、航空機、歩兵であった事からそれらに対する装甲と、宇宙よりも防塵に気を使わなければならなかったザクを地球の環境に詳しくない宇宙生活者の技術者達が設計しなければならなくなった為に隙間のない装甲が必要であると彼らが考えた為です。
その中でも特徴的な物がザクの腰部装甲板と言えるでしょう。
後の機種、特にMS−06FZとの比較で目立つのですが、対モビルスーツ戦闘では全ての装甲を硬装甲で覆う必要がありますが、これは関節部の駆動範囲を狭めるというデメリットがあります。
しかし、対モビルスーツ戦を考慮する必要の無かったザクは対抗弾種の特徴から腰部装甲は被弾時に装甲を冷却する役割を持つジェルや圧縮気体を緩衝剤に挟んだ金属ゴムとケプラー繊維などが積層された柔軟な構造の軟装甲を保有しています。
これは元々宇宙塵の直撃から股関節という大変に重要かつデリケートな部分を守るための物でありましたが地上戦の際に下方から打ち上げられる銃弾や対戦車ミサイルの威力から防ぐのに大変に有効でした。
よって、記録映像を見て、金属製のザクの腰部アーマーがグニャグニャ動くなんて変だぜ、何て言うのはナンセンスなのです。
ちなみに初めて硬式の腰部アーマーを装備したのはドム(一説には生産ラインの一部を改修したMS−06F−2と言う説もありますが、)からです。
これはホバー用のバーニアが腰部アーマー下に多数装備され、遠距離攻撃からそれらを守るためだと考えられます。
と、云う事で、ミノフスキー粒子を用いた限定戦場に於いて緒戦に最も有効であると私が推薦するのはMS−06Jです。
これは最もコストパフォーマンスが良いと思われるからです。
ですが、敵がモビルスーツを開発生産するとすれば、その性質は攻撃機よりも戦闘機としての性格が強く出てくると思われます。
基本的にレーダー及びレーザー照準が不可能なため、それらを用いた戦車及び戦闘機などに対しては無敵の性能を持つザクですが、対MS戦を念頭に置いて開発されたMSに対してはザクの劣性は隠せません。
ですから初期の段階から憲兵&濾獲兵器対策として対モビルスーツ部隊の編成と専用モビルスーツの選定を行った方がよいと思われます。
ここで考えられるのは局地戦用モビルスーツ・ケンプファーや高機動モビルスーツ・ガルバルディーβが適当と思われます。
又、列島軍の主な戦場は地理的要因から太平洋などの列島の四方を囲んだ大洋となることが過去の戦訓からも予想されますので水陸両用モビルスーツの生産も同時に進める必要があります。
これは水中基地建設の際の作業用としても活用できますので大変に効率が良いのでお勧めします。
機種としては大型で強力な火力を持つズゴック・エクスペリメントと小型で高機動のカプルの2機種が良いと思われます。作業用としては通常型のマニピュレーターのザク・マリナーやマリンハイザックの方が良いのですが。
ただ、実用深度が500メートルと言ったところなので列島軍の水中艦隊の実用深度1000メートルアンダーとの差をどう埋めるかが課題ですね。
で、生産するモビルスーツは以上の5機種でよろしいでしょうか」
いくら好きな相手が目の前にいて張り切っているからとはいえ、ここまで長い説明というのはどうだろうか。もしかして、説明おばさんお姉さんの影響だろうか?
立て板に水、と言ったルリの流れるような説明にシンジは反応しきれなかったが、それに代わってニッコリと微笑みを浮かべてルリを見つめた。
「うん、すべてキミを信じるよ。ルリちゃん。一緒に頑張ろうね」
「は、はい。頑張りましょうシンジさん」
“はぁ、シンジさんの一日占有権、何に使いましょうか”
シンジの了承を取ったルリはコンソールを操作して工場ユニットへ作戦機の生産指示を出した。
また、戦いに備えて既に生産している戦闘機や攻撃機の航空基地への配置と敵機襲来時に備えてミノフスキー粒子散布の準備も怠らなかった。
このミノフスキー粒子こそが列島軍が唯一抜きん出ている技術で、これの使用方法如何によって戦況が一変すると言っても良い対電子兵装であった。
数値を操作し、まとめて数ターン飛ばすと開戦ターンへと到着した。
既にルリが指示した通りに生産された兵器が配置され、開戦を待ちわびていた。
ちなみに、エステバリス用のシミュレーションコクピットから兵器の有人操作ができるようになっているが、リョーコ・ヒカル・イズミの3人娘がIBM軍に、山田二郎ダイゴウジ・ガイはスミノフ軍に参加している。
「それでは、CODE2015“超弩級要塞”攻防戦。開戦です」
ルリの宣言と共に広い作戦室に掲げられた地図上に、配置された戦線からの様子が写し出された。
続く
<アイングラッドの感想>
この物語は、「GAME超弩級要塞2015」の正当な続きです。
私が書きかけて停止していた「GAME」ですが、あとりさんが書かれるという事で少し書いてあったアイデア程度の物を贈って書いて貰ってしまったのです。→これが俗に言う「丸投げ」か?
中盤のダラダラ書いてある部分が私の書いた物で、その他の軽妙な所はあとりさんが書かれた物ですので、そこの所宜しく。
イヤー楽で良いわ☆☆! baki(- - #
ではでは。