どの位…時間が経ったのか……
 暫らくすると目が覚めた…
 何か得体の知れない不安が襲ってくる。
『何だろう…普段と空気が違うような…』
 彼が不安に思いそう考えていると…。
 グォォオオオン!! 耳障りな雄叫びが飛びこんできた。
 空を見ると…何時の間にか夜になっている…
『何か変だ…確か…昼だと思ってたのに……』
 彼は混乱する頭を静める為、冷静に辺りの状況を伺う……
 無数の人の臭い…
 嗅いだ事の無い刺激臭…
『ゥゥゥ…人臭い…変な臭いもする…』
 彼は思わず呟いていた…。
 ゴアアアァァァオ!!
 又しても耳障りな雄叫びが飛びこんでくる。
『あの野郎!何を興奮してやがる!!』
 彼の言うあの野郎とは何時も縄張り争いを続けていた、彼より年上の雄の剣歯虎だった。
 何度奴に泣かされたことか…。
 奴が吼えている方をふと見ると………
『?????????』
 思わず絶句してしまった…
 星?
 最初はそう思った…然し星はこんなに低い所には無い…
 それに…あんなに早く動かない…
 それに…変な音を出している…
 彼には解かるはずも無かった…それがヘリコプターだと言う事が…。
 用心深い彼は茂みの中に身を隠していた、ふと見ると…遥か向こうに無数の人間共が居た…何故かその廻りは昼間の様に明るかった…
『何だ???』
 余りにも自分の予想を超える数々の出来事に彼は恐怖を覚えていた…。
(ここに居てはいけない!!)
 彼は奥地の方を目指して駆け出していた。
 どの位…一体どの位時間が経ったのだろう…
 何時の間にか朝を迎えていた。
 この一夜は彼にとって、生涯忘れる事の出来ない夜となった…。
 見た事の無い動物の集団(日本狼の事らしい)
 奇妙な格好をした人間共…
 極めつけはナウマン像より遥かに大きい???(彼には理解不能らしい)
 彼は一体何を見たというのか…それは……。
 恐怖に駆られた彼は、まっしぐらに奥地に向かった。
 暫らく駆けていると前方に奇妙な集団を認めた。
『何だ?この変な奴らは???』
 彼は、この変な動物の集団に対して答えを見つけられずに苛立ちを覚えた。
 地が張り裂かれんばかりの咆哮を発する。
 すると…奇妙な集団は びくん!と体を震わせると一目散に逃げ出していた…。
『……まったく…訳がわからん事が続く…』
 思わずそう呟く…無理も無い、日本狼が出現した時期は、彼の仲間達が絶滅した遥か後なのだから…。
 彼は暫らくこの場所を動かずに警戒し続けた、どれ位時が過ぎたのか…
 ゆっくりと彼は歩を踏み出す…足場の枯れ枝が パキ パキと音を立てる。
 彼は出来るだけ背を生い茂るシダ類に隠すように低くする…
『人臭い…凄く人臭い!』
前方を見る…遥か向こうに人がいた。
『…風上に立つとはな…、良いだろう…今日の獲物にするまで…』
 彼はこの人間を獲物にする事を決めた。体が小さく食べ応えの無い…
 肉質も…はっきり言って不味い!と親に教えて貰っていたが、度重なるストレスと散々狩りの邪魔ばかりされた恨みも有りこのまま見過ごす事は出来ない相談だった。
 静かに、確実に獲物に近づいていく…
『ゥゥゥゥ…待ってろよ…』
 彼は知らない内に舌なめずりをしていた。
・・・
・・
・
 その時である!!、突然黒い塊が飛びこんできた!!。
 ゥオン???
 彼は情けない声を発して混乱した。
『ななな……何だ??あれは???』
 無理もない、その物体の大きさはナウマン象の大きさを遥かに凌いでいたのだ。
 篠原重工製 ARL-99B ヘルダイバー、習志野空挺団所属の空挺レイバーである。その大きさは8mに達する…彼が驚くのも無理は無かった…。
 一方、上空の偵察ヘリの報告と地上を偵察していた特殊部隊ERETからの要請を受けた空挺レイバーが襲撃行動中の犬歯虎の眼前に飛び出していた。
「こちら習志野01、予定どうり虎の足止めに成功、送れ。」
空挺レイバーからの報告を受けたERETの隊長と思われる人物が答える。
「確認した、引き続き調査を続行する。」
「こちら習志野01、了解!もう一匹の虎は習志野02が抑えた模様、送れ。」
「了解した、何かあったら至急連絡してくれ。」
「こちら習志野01、了解!引き続き警戒行動を続行します。」
一連のやり取りを聞いていた隊員が小声で答える。
「然し…驚きましたねキャップ、まさか間近でサーベルタイガーに出くわすとは。」
「あぁ……あちらも俺達と同じ口だ…古のハンターには敬意を示さんとな…。」
「然しキャップ、何で奴を仕留めなかったのですか?。」
「……俺達と同類だからさ…。」
「(俺達って…キャップの方がよっぽど…)」
隊員がそう考えていると…。
「全周警戒!、気を抜くな。何が居るか判らんぞ!」
 隊長に一喝された隊員は一瞬 はっ! とした後、何時もの戦士に戻っていた。
 彼は動けないでいた…いや!、動けなかった。
 やや黒い緑色の???は彼が右に行こうとすれば右に、左に行こうとすれば左に廻りこんできた。???が動くたびに ズシュン! という振動が伝わってくる。
『…こいつ……一体何なんだ?』
 もう何十分?も自問自答を続けたのだろう…
 彼はこの奇妙な物と対峙するのに疲れ果てていた…。
『もうじき朝か…眠い…物凄く眠い…』
 余りの状況の変化と予想を遥かに超えた出来事は彼の神経に多大な負担を掛けてきた。
 殆ど自暴自棄な思考と早く落ち着きたい思考がごちゃ混ぜとなり、それが彼に意外な行動を取らせた。
『付き合ってられん!、どうにでもしろ!!』
 彼は空挺レイバーの脇を大胆に駆け抜けて行った。
 意外にも空挺レイバーは何らかの行動に出ようとはしなかったので、彼は易々と逃走する事に成功した。
 何故か?。
 …空挺レイバーのパイロットが油断したその隙を突いたに他ならない…。空挺レイバーのパイロットも時空融合の混乱から回復しておらずいきなりの緊急出動でかなり疲れ果てていた…そして、もうじき朝だ・・・と気が緩んでしまっていたのだ…。パイロットが行動に出ようとしたが後の祭…剣歯虎が逃げ去った後だった。
 朝だ、昨夜の悪夢が未だ覚めずにいた…。苔むした巨木の間を縫うように彼は進んでいた。
 上空を見ると奇妙な鳥?が飛んでいる。
『…変な音を出してる、昨夜のアレかな?』
 彼は睡魔に襲われつつもそう呟いていた。あれから特に何事も無く、奇妙な出来事に遭遇する事は無かった。今、彼が求めている物。それは安心して眠れる寝床であった……。
 グォォォォオオオオオオン!!!!
 明らかに威嚇と思われる咆哮が聞こえてきた。
『あの野郎…又、興奮してるよ…無理もないが…』
睡魔に襲われボーっとしながら呟く。どうせ、あの像よりでかい変なのに驚いてるんだろう。
『ゥゥ…兎に角…今は落ち着いて眠れる場所を探さねば…』
 彼は重い足を引きずりながら苔とシダ類を掻き分けて、静かな場所を探し求めた。
 暫らく歩んでいると…ブナの巨木が目に止まった。
『ここで良いか…何か落ち着く…気がする…』
彼は、この場所が気に入ったらしい。草むらとおぼしき場所にドッカリと腰を落とした。
『兎に角…今は眠ろう…後のことは…それからだ……』
 急速な眠りが彼の体を包み込んで行った。
 夕暮れ時、彼は目を覚ましていた。取り合えず睡眠を取る事で少しは冷静な判断が出きる様になっていた。そこで、狩りのついでに廻りの様子を探ろうと思っていた。
『取り合えずは腹ごしらえだな…その後はテリトリーの確保だな』
彼は、寝床から立ち上がり狩りに向かおうとしていた……が自分の新しいテリトリーであるこの場所の近くから忌々しい匂いがしてきた。
『ゥゥゥ…人臭い!昨日の奴らか!?』
 一瞬、身構える!。そして…注意深く匂いの根源を探った…。
 苔むした岩の横に何やら見慣れない物?が半分程、埋まっていた。
『こいつか?人臭いのは…昨夜のでかい変なのと同じ匂いもするし…』
彼は一通り匂いをかいで不機嫌になった。
『俺のテリトリー内に、こんな人臭い物が…不愉快だ!!』
 彼はそう言うと念入りにマーキングを始めた。
 一通りマーキングをした後、満足そうにこう呟いた。
『ゥゥ…これで良いか…さて…狩りに出かけるか』
 シダ類を掻き分けて彼は出かけて行った…。後に残ったのは、念入りにマーキングされた見慣れない物だけだった。
 その表面は金属で出来ているらしい…形はコンテナに似ていた……
 そして、その表面のプレートには以下のような物が書かれていた。
US、ARMY MARINES
OKAWASAKI HEAVY IND CO.LTD
MADOX−01
続く
 後書き
 始めまして、鴬と申します。
 人様の前に自分の作品を見せるのは何十年振りでしょうか…。(然も、稚拙…)
 山河さんに「やって見るとおもしろいですよ」と掲示板で誘われなければ書くことは無かったのですから縁と言う物は全く不思議です。
 書いてみて思いました…
 難しいけど…楽しい!!と…
 岡田”雪達磨”さん、お堀の内側の世界の設定書の件、有難う御座いました。
 アイングラッドさん、この場を提供して下さり、有難う御座いました。
 又、小説を書く上でのアドバイスは大変参考になりました。
 山河さん、誘って頂いて有難う御座いました、やって見て正解でした。
 この場を借りて皆さんにお礼を申し上げます。
 次号予告
 MADOX−01とは何か…