X06:Y05 フォーセリア世界、クリスタニア大陸
分伝第二話「道の始まり」
フォーセリア世界の南方に、ひとつの大陸がある。 獣の姿をした神々が統べる大陸、クリスタニアである。
クリスタニア大陸は不ぞろいな大きさの餅を、一本の棒でつなぎ、北側の餅に二つのとげを生やしたような形をしている。
そのうちの一つ。 西部から北へと伸びているとげは、ベルディアと呼ばれている。
この地には、クリスタニアに流れ着いた”暗黒の民”、神獣の民を裏切った”猛虎の部族”、”双面の部族”。彼らに征服された”悟りの部族”、”沈黙の部族”など、様々な人々が暮らしている。
ベルディア王都、ドートン。 ベルディアの中央から若干南に位置するこの都市には、王城ダークスフィアが置かれ、ベルディアの中心としての役割を果たしている。
そのドートンの一角にある酒場「人魚停」。 ”双面の部族”のシロフォノはそびえ立つダークスフィアを眺めながら、よくこんな巨大な物を作ることが出来たものだと思う。 ”双面の部族”に限らず、彼ら”神獣の民”にはこれほど巨大な建築物を作ることは出来ない。
ダークスフィアを建てた、”暗黒の民”に感心しながら彼は、「人魚停」へと入っていった。
シロフォノが中を見回すと、すでに待ち合わせの人物が端の方のテーブルを独占しているのを見つけた。 彼はシロフォノを見つけると、手をぶんぶんと大きく振って合図する。 その子供のようなしぐさに苦笑しながら、すでに酔い始めている客をかき分けて、テーブルへと近づいてゆく。
シロフォノが席につくと同時に、その人物、ベルディアの騎士サザンが声をかける。
「やあ、シロフォノ、お疲れ様。 で、どうだった?」
「長の許可は頂いた。 これで、クリスタニアとの交易を行えるようになったわけだね」
「そっか、これで準備が整ったね」
シロフォノはぶどう酒を注文して、サザンに問い掛ける。
「しかし、よく交易など思いついたものだね」
「んっ? 別に僕が思いついた訳じゃないよ」
急に声をかけられても慌てるふうはなく、サザンは杯を片手に、笑って答える。
対称的にシロフォノの顔は、わずかに引き締まる。
「それでは、誰が思いついたのですか?」
「”暗黒の民”の商人だよ。 名前はユパ、以前から”猛虎の部族”と商売がしたいって、言ってたんだ」
「”猛虎の部族”と”暗黒の民”の交易は、私達”双面の部族”が独占していますからね。
それで、どうしようもなくて、あなたに泣きついた訳ですか?」
少し軽蔑したような口調で言うシロフォノ。サザンは、気にもとめずに話し続ける。
「そんなとこだけど、どういう風に商売をしたいのか聞いてみたら、隊商を組んでベルディア各地の”猛虎の部族”を廻ってみるつもりだって言うから、いっそのことクリスタニア中を廻ったらどうって聞いてみたんだよ。
それには、人手も資本も足りないから、君に話を持ちかけてみたって訳だよ」
「そうですか。 そのユパという男を隊商に加えればいいのですか?
そのために、そんな話をしたのでしょう?」
「うん、そうしてくれると助かるな」
「うまくいくとは限りませんよ」
「それぐらいは、自分でどうにかしてもらわないとね」
そこまで話したところで、シロフォノの注文が届き、二人はしばし食事に集中する。
「ところで、なぜ、あなたはこの話を、私に持ちかけたのですか?」
「だから、人手と資本が足りなくて・・・」
「それならば、宮廷に持ち込めばよい。 交易は多分うまくいく、それも、莫大な利益をもたらすものとして。 そんなうまい話を私に持ちかけた理由を聞きたいのです」
口調は穏やかだが、シロフォノの目は鋭くサザンを見据えていた。
「君達、”双面の部族”のほうが適している。 そう思っただけだよ」
「と、いうと?」
サザンは軽くため息をついて、話しはじめる。
「”暗黒の民”はクリスタニアにとって、侵略者だろう? そんな状況で商売に来たと言っても信用されるわけがないよ。
その点君たち”双面の部族”なら、元は同じ”神獣の民”だし、まだましだろう?」
「”神獣の民”を裏切った、私達も簡単に信用してくれるとは思えませんが」
「でも”双面の部族”の”能力”は、戦闘よりも交渉の方に向いてるでしょう? きっと”暗黒の民”よりもうまくやれるよ。
僕が君に話したのは、そういう理由だけど、納得してくれたかな?」
「とりあえず、納得しておきましょう」
「とりあえず、かあ。 よかったら、理由を教えてくれないかな?」
「あなたが、完全には信用できないからですよ。 いろいろとうわさを聞きますので」
とても笑えない理由を、笑いながら答えたシロフォノに、さらにサザンは訊ねる。
「どんな、うわさ?」
「”悟りの部族”や”沈黙の部族”、妖魔と手を組んでベルディアを乗っ取ろうとしているとか、実は王国の不満分子を調べてるとか、いろいろです」
「前と後ろのうわさが、正反対なんだけど?」
あきれたように言うサザンに、シロフォノはからかうように答える。
「それだけえたいが知れない、と言う事ですよ」
「ちぇっ」
「今回の件、私達は必ず成功させます。
ですから、次に会った時にはあなたの目的を教えてもらえますか?」
ふてくされた様子のサザンに、シロフォノは改まって言う。
「そうだね・・・ これから先には、大勢の協力が必要だからね。
次に会った時には、僕の考えを聞いて欲しい。 そして、協力してくれるかどうかを答えて欲しい」
「では、次に会うときを楽しみにしています」
シロフォノの答えを聞いたサザンは、しばらくして”人魚停”を出て行ったが、この後サザンはダナーンへの使節として旅立ち、シロフォノと再開するのは二年以上先の話となる。
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こんにちは、筆者のkiraです。分伝の第二話、サザンとシロフォノのお話です。
時間では、この話は本編のOPと第一話の間になります。
第二話依頼出てこないサザンですが、結構重要人物です。シロフォノは、本来のクリスタニアではリュース達と行動を共にするのですが、自作の中では、このままベルディアの案内をしてもらいます。
ベルディアは、いろいろと勢力や思惑が入り混じっていて好きなんですが、書き出すとかなりしんどい。
では、次は本編の第四話をお届けできればと思っています。
お付き合いありがとうございました。