スーパーSF大戦 外伝


加治首相の議


 



 虎穴高等学校と釧路幻魔高校の闘いは、時空融合が起きても中断する事は無く続いていた。

「紺碧〜」
 一人の男の子、いや胸が僅かに膨らんでいるから女の子か、が石像に縋りついて泣いていた。いや石像に見えていたが女の子から見た半分は生身の体である。女の子の叫びからすると、この半分石になっている男が紺碧と言う名なのであろうか。そして彼女と彼の前に紺碧に石化術を掛けた男が立ちはだかっていた。だが、少し混乱している様子だ。
 一時、世界が混乱したような感じがしたが相変わらず魔王からパワーを貰い、楯突く女の仲間が石と化している。問題ない。
 男、釧路幻魔高校の総番はこう考えるととどめを刺そうと二人に近づこうとしたが、彼女の仲間である男が二人、それを阻止しようと立ちはだかっていた。
「へっ、泣くなんてジュウベイらしくないぞ。・・俺よりこのクナイを見ろ」
 紺碧は幻魔高総番が足止めを食らっている隙に、ジュウベイと呼んだ女の子に奴の術を破るヒントを与えようと2段攻撃の2段目に使ったクナイを見せた。
「・・・良いか?・・・石になって・・いないだろう。これは
「真夜中にうるさいぞ。人ん家の庭先で何をしているんじゃ?」
 苦しい息の下でアドバイスしようとした紺碧の努力を無視した声がその場に響いた。
 その場に居たものたちは全員、半分石と化していた紺碧までもがあたりを見渡した。
「なに!?」
 首を動かす紺碧に気付いた、石化術を掛けた釧路幻魔高校の総番が目を瞠った。先ほどまで術が進み、首も半分石となって動かせるはずが無かったからである。その事実に気が付いた総番は、己の術の源である魔王との力の絆が今にも切れそうになっていることに気が付いた。それもこちらに近づく老人の気迫によってである。その老人は若い頃は壮漢であったであろう名残があるが、見る目が無い者にはただの飄々とした老人に思えた。
 紺碧の直ぐ傍に立ち止まった老人は、半分石になっている姿を一瞥した。
「全く、子供のケンカに使うようなものじゃないぞ。ほれ、しっかりせんか」
 老人はこう言いつつ、紺碧の背中を叩いた。
 その瞬間、紺碧の石となっていた体が爆発した。その様にジュウベイには見えたが、実際は芯まで石になっていたと思われる紺碧の肉体が一気に元に戻り、その反動で石化術の魔力が石の薄皮と変じて衣服毎彼から剥ぎ飛ばされたのである。
 紺碧の周りにいた者達の内、『気』を使えない者には軽く叩いたようにしか見えなかった。
 『気』を多少使える者には老人が急に荘重な雰囲気を湛え、何か目に見えないものが老人の手から紺碧の背に入ったように感じた。
 老人はその一撃に彼と同じ技を使う者か、それによって倒される妖にしか解らない『念』を込めていたのである。老人から洩れた『念』は石化術を弱め、そして紺碧の背中への一撃と共に打ち込んだ『念』でそれを完全に破ったのであった。
「紺碧〜」
 涙声でジュウベイが喜びのあまり、紺碧に抱きついてくる。
 むにゅっ。
 ジュウベイは足に違和感を感じて下を見た。その結果は。
「きゃー」
 可愛い悲鳴と共に、パシーンといい音が響いた。
「痛いな〜。大体見慣れているだろうが」
 赤くなった頬をなでながら、紺碧がぼやく。
「やっぱお前らはそういう関係だったか」
 仲間の一人が納得した口調で言った。
「ガキの頃の話だろ〜」
 それに背中を向けたジュウベイが、顔を真っ赤に染めて仲間の誤解を消そうとしていた。
 そして術を掛けた張本人は老人の一撃が打たれた瞬間、パワーが逆流するのを感じた。
「呪い返しか!?」
 釧路幻魔高総番は、己の術で己が石になるのを避けるべく、慌てて術を解いた。
「そんな高等なもんじゃないがね。ボールを打ち返しただけじゃよ」
 簡単に答える老人に、勝ち目が無いと見たか総番は目くらましを掛けて逃げようとしたが、思うに体が動かなかった。
「あぁ、言い忘れていたが、お主が頼みにしていた魔王とやらは既にひっくり返って力を寄越せぬそうじゃ」
 老人の言葉は坂を転げ落ちていく総番に届いたかどうか。圧倒的な力の差であった。
「助けていただいてありがとうございます。私は真田九郎と申します。よろしければ老師のお名前と技の名を教えていただけないでしょうか」
 一見優男の方が老人に問い掛けた。
「んっ?わしか?」
 初めて気が付いたように老人が少年たちに振り返った。
「わしの名は工藤信隆。この先で整体治療と野菜作りをやっとる、ただのナイスミドルじゃよ」
 作務衣一着まとっただけの姿で、自分で自分の事をそう言うか。と、こう思った少年ら一同は一線を引こうかとしたが後の祭り。
「そこの石になり損ねた少年、まだ腰も立たんじゃろう。治療してしんぜようから家へ来なさい」
 少年たちに有無を言わさずに老人は己の棲家、北海道は大雪山麓に建てられている工藤流念法宗家の道場に引き込んだのであった。


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