それは時空融合直後に起こった事である。

 昭和30年の日本から南氷洋にやって来た捕鯨船団は、時空融合に巻き込まれたことにも気づかずに予定通り捕鯨を開始しようとしていた。
 漁師達は慣習にのっとり、海神様に御神酒を奉げて豊漁を祈り、やがて見つけた鯨を追いかけ始めた。
 数時間にも渡る追跡の後、捕鯨船が鯨へ銛を打ち込もうとしたとき、銛撃ちの漁師が急に打つのを止めた。
「船長、あいつは子連れじゃ。今回は見逃せ」
 銛撃ち役漁師の言葉通り、今まで追いかけていた鯨の傍らには小振りの鯨が平行して泳いでいた。親鯨が子鯨を庇う泳ぎが巧み過ぎて、今まで捕鯨船からは子鯨が見えなかったようであった。
「そうか、次の鯨を待つか」
 子連れは見逃す鯨取りの慣習でその捕鯨は取りやめになり、捕鯨船は船足をとめて勢いで流れるだけになった。
 と、そのとき捕鯨船の目の前に巨大な鯨が浮上してきた。

『人間よ。なぜ止めた。人間は狙った獲物は逃さず狩り尽くすのではなかったのか?』

 その鯨、否ゾーンダイク軍のムスカ級生体潜水艦は捕鯨船の人間に問い掛けた。青の6号『りゅうおう』所属のパイロット、速水中尉を助けた”はぐれムスカのアカハゲ”が速水と彼に惹かれているミューティオを乗せたまま捕鯨船に接触してきたのであった。獣人軍リーダー、ベルグが命ずるテロ活動に疑問をもっていたアカハゲは、聴かされていた事と違う行動を取った捕鯨船団に興味を持ったのである。



スーパーSF大戦 外伝

加治首相の議

第五話 安全保障会議

Dパート 発動!七つの海計画


 新世紀元年7月21日の夜になり、安全保障政策会議は基本防衛政策の見直しに入っていた。
「次に、敵性潜水艦の日本近海への接近を許した事を話し合いましょう。防衛省は基本防衛政策にかかわる問題と指摘しましたが、その点から説明してください」
 加治の指名により、土方防衛相が説明を始めた。
「基本防衛政策を説明する為には、現在の世界情勢から説明する必要があります。まずはこれをご覧下さい。新世紀元年7月時点で我が日本連合が把握している世界の勢力図です」
 土方防衛相が用意した物がこれである。

新世紀元年7月日本連合が知る世界

 この時期は5月下旬から6月にかけて世界各地に派遣した調査艦隊や世界各地に出現した日本に関係ある施設からの、エマーンや中華共同体を含む世界中の情報がようやく入ってきた頃である。この世界地図は防衛省情報分析局が日本に直接影響を与えると考えた情報を抜き出した物である。
 日本の隣国となったのは中華共同体である。未知の隣国であるがゆえに外務省とも協力して中華共同体の社会分析を急いでいた。日本より発達した科学技術や超能力者が存在してはいたが、幸いにも社会レベルは国際問題の解決に戦争を安易に選ぶ段階を過ぎていたので、経済関係を深めて行く事で軍事対決は避けられるとの分析が出ていた。ただし、BF団という反社会的集団の活動には注意すべき、という警告が中華共同体の国際警察機構から入っている。
 また中華共同体領内のメコン河口に、呉に出現した連合艦隊に引きずられるかのように帝国海軍南遣艦隊が出現したが、南遣艦隊の長官小沢治三郎中将の的確な情勢判断と指揮により中華共同体と衝突することなく、早期に日本に帰還できていた。
 中華共同体に続いて友好通商条約を結んだのがエマーン商業帝国である。現地に開設した日本大使館が収集した情報によればエマーンの範囲はスカンジナビア半島から東欧を除くヨーロッパ半島、そして北アフリカの一部である。
 そしてエマーンの隣国に東欧系の国が、数カ国出現した情報が入っている。日本とはまだ直接交渉していないその国々は初めて聞く名前の国が殆んどである。その中に日本が知っている唯一の国名であるが、しかし直立歩行する熊の国であるUSSR、ソビエト社会主義共和国が存在している。彼らはシベリア鉄道を通ってウラジオストック・南樺太・千島列島と一回接触した後は、日本連合へは沈黙を保っている。そのため世界地図に描かれている範囲は推定である。なお樺太・千島列島のロシア人達はソビエト連邦崩壊直後の世界から出現したこともあり、全盛期のUSSRからの連絡があったことに大きな期待を抱いた。だが、直立してロシア語を操る熊と接触した事に非常に大きなショックを受け、社会不安が高まる中で熊の支配下に入るか、ロシアとして独立国としての誇りを保ちながら社会資本も充実できない貧乏生活を過ごすか、日本連合に属して豊かな社会建設を目指すか究極の選択を迫られたのである。結局彼らは軍事と外交、通貨発行を除く自治権を得て日本連合に所属することを選択したのであった。
 そのUSSRの東進を遮るように、シベリアに出現したのがシャングリラ基地である。西暦2020年の世界から出現したそこには、シベリア独立支援で派遣された陸上自衛隊第一空挺師団が駐留していた。一夜にしてシベリア共和国軍と入れ替わる一大撤退作戦中に周辺の敵味方共々時空融合に巻き込まれて一時は混乱していたが、第一空挺師団長 土門 康平 陸将が元の敵集団も含めて現地をまとめていた。日本との間で空自が展開していた重慶などの基地は中華共同体と入れ替わったために日本との交通が途絶した状態であったが、最近ようやく連絡が付いて第一空挺師団の帰国が始まろうとしている。
 中東の旧イラク領内には五十嵐情報調査本部長の切り札、101ことバビル2世の本拠であるバビルの塔が出現していた。もっとも本人が正確な位置を明かしていない為、その位置は推測でしかない。
 そして彼がユーラシア大陸を横断して日本に知らせたのが、旧イラン・アフガニスタンに出現したアンドロ軍団である。中華共同体からもこれに対する支援要請の打診を受けていた。これに対しては国内情勢から自衛隊の本格的派遣は出来ないので、アンドロ軍団の調査や情報収集、特殊部隊の投入といった面での協力を進めると交渉中である。
 布哇県真珠湾を空襲したハルゼー艦隊をアメリカ合衆国へ送り届けた日本在日米軍共同北米調査団の報告により、南北両大陸の情勢が伝えられた。北米各国は2050年の世界から来たものである。ただ、カナダ国内にインビットと呼ばれる地球外生命体が排他的活動をしている上に、そのインビットと戦う為に火星から来た軍隊がアメリカ合衆国内を移動していたが、アメリカ合衆国の指揮下に入りつつある。
 そのアメリカと戦闘状態に入っているのが南米を征服中のムーである。ムーの情報はアメリカ経由で入ってきたものと、オーストラリアで接触したインカ亡命者および拝人派のアンドロイドから入ってきたものがあった。
 アメリカはこの強力な敵と戦う為にこの世界に出現した全世界に展開していたアメリカ軍を撤収していた。と言ってもアメリカ国外で出現したのは在日米軍だけであったが。在日米軍が撤収したのも第七艦隊が使徒ラミエルからダメージを与えられていたからだけではなく、国防総省と連絡が取れた直後にこの命令を受けたからである。
 太平洋上でも日本関係の施設が出現していた。中華共同体との境界近く、連合艦隊の泊地であったトラック諸島に出現したのがJSP−03、日本宇宙開発事業団が宇宙開発拠点として建造したメガフロートである。かつての世界では史上最大の人工建造物であったそれは、この融合後の世界でも航空産業実験施設として充分な施設と能力を持っていた。宇宙往還機の発着をも可能とするその施設は、肝心の打ち上げる衛星が偶々現地に無い状態で出現した為に時空融合直後の緊急衛星打ち上げには、日本本土からJSP−03まで運ぶ時間も現地で工作する時間も惜しむほどであったためその能力を発揮できなかったが、今後の衛星打ち上げに役立つことを期待されている。
 そしてオーストラリア大陸も、時空融合を免れてはいなかった。文明が消滅してしまったのである。それでも北部のジャングル地帯では現地のガイドとアポリジニが中心となって平和裏に過ごしていたが、中央部の砂漠地帯では暴走族が強盗団と化して暴れまわる戦乱の世界となった様である。
 そして残る大陸外周部は未開の原野と化していたが、シドニーが在った地には漂着民達が暮らす村が出来つつあった。そのニュー・シドニー村の住人は幾つかの集団が寄り集まったものである。
 まずは時空融合に巻き込まれてシドニー上空に出現し、そして不時着したオーストラリアンエアラインの乗員と乗客達。
 次に来た集団がたまたま近くに狩猟に来ていた原住民のアポリジニ達。不時着したオーストラリアンエアラインの乗員と乗客を見つけて、そのまま彼らを助けて同居し始めていた。とはいえ、もともと一ヶ所に定住することの無い狩猟民族なので、その顔ぶれは一定していない。
 次に来たのが南太平洋で遠洋漁業をしていた各国の漁船達と日本の捕鯨船団、そしてインカ帝国からの亡命船団である。
 漁船達と捕鯨船団は燃料切れを起こす前に近くの陸地へ避難して、唯一短波無線で連絡の取れた日本の海上保安庁の救助を待とうとした。だが、南米大陸に上陸した一隻の漁船員がインカ帝国からの亡命者達と接触し、南米ではムーの殺人ロボットが猛威を振るっていることを知ると、そのニュースは南太平洋中の漁船団に直ぐに伝わった。そして彼らは南米に接近することを諦め、シドニー湾に自然に集結していったのであった。そしてインカ帝国からの亡命船団は、そのまま漁船と同航してニュー・シドニー村まで来たのである。彼らはここで食料の補給と休養を取った後に内陸の大分水嶺山脈へ移住し、そこに亡命インカ帝国を建国することになる。
 そしてエマーンの通商キャラバンがこれらの勢力を結んで交易を行う予定である。

「簡単に世界情勢をまとめましたが、予想通り我々の知らない国家・集団が出現しております。これは海洋も例外ではなく、遣エマーン艦隊を襲ったゾーンダイク軍や沖縄の恐竜事件にあったように巨大生物の出現も報告されております。これら国家・集団の軍事的脅威度と敵対度を検討しましたが、エマーンを含めた人類国家より非人類集団の方が敵対度が高いと結果が得られました。つまりムー、アンドロ軍団、そしてゾーンダイク軍がもっとも注意すべき敵集団です。特に遣エマーン艦隊を襲い、”青”からも警告を受けたゾーンダイク軍は、我が国の生存に必要な海上交通を破壊するもっとも脅威度が高い危険な敵性集団であります」

 この三集団のうち、ムーは遥か地球の裏側である事とアメリカとの戦闘中であり今直ぐ日本へ直接攻撃に来ることは無いとの判断が出ていた。アンドロ軍団は101が勢力圏突破のついでに製造工場を破壊したので、工業基盤の無い中東が勢力圏のアンドロ軍団はニューロイドの新規製造が滞り、天竺への侵攻が鈍くなっていた。従ってこの二つの反人類ロボット集団は、将来はともかく現時点での脅威度は低いと結論された。もちろん敵性体である事は間違いないので、何時脅威度が高まっても良いように研究は続けている。
 しかしゾーンダイク軍は実際に遣エマーン艦隊を攻撃したことから、1、2年のうちに宣戦布告してくる可能性が高いと考えられ、最も脅威度と緊急度が共に高い敵性集団として認識していた。

 ここで秋山経済相から質問が上がった。
「土方さん、他の国家や集団の脅威度は考慮しないのですか?」
「はい、今まで国内に出現したテロ集団に関してはある程度の脅威度が既に計算され、戦術的対応も確立されています。具体的には土門補佐官の危機管理対策本部で出現したテロ集団に対応した組織を指定し、自衛隊もその一環で特自や特殊部隊が戦術活動に参加します。また空からの進入は空自のバッジシステムが有効に働いていますので、機器の改良等の研究課題は有りますが、緊急度は比較的低いです」
 今まで出現した敵性体、使徒、ゾンダー、Dr.ヘル、その他も日本連合では危険な敵性体と認識されて対策は取られている。土方防衛相が今まで言ったことは、あくまでも正規戦の対象として見た敵性集団の事である。
「各国との対応は防衛省だけではなく、どちらかと言うと外交政策で決めていくものですから、今の話とはまた違います。それに秋山さん、エマーンとの経済活動は秋山さんの管轄になるのではありませんか?」

 そうである。エマーンからシャイア駐日大使が赴任して1ヶ月しか経っていないのに、彼女の経済活動は再三、経済省を悩ましているのである。日本の商法や商慣習を知らないことが原因なのだが、つい商法や独占禁止法に触れる商売をしてしまうのである。そのたびに公正取引委員会に呼び出された秋山経済相が彼女に説明していたのであった。そして後日、とうとう駐日エマーン大使に政教分離ならぬ政商分離を要求する事になるのであった。

 話を戻そう。土方防衛相の説明は戦略面から見た政策についてである。つまり今の問題は、防衛手法をどう確立していくかである。土方防衛相はここで新ためて”青”から入手したゾーンダイク軍の活動記録を、既に知っていた者もその場には居たが、会議室に流した。ゾーンダイク軍の主力であるムスカ級生体潜水艦が船舶および海上施設を破壊している映像と、生体可潜戦艦ナガト・ワンダーからの対地砲撃により彼の世界の横須賀港を破壊している映像である。これらをバックに土方防衛相の防衛政策の説明が続いた。
「さて今までの説明のように、実は怪潜グールが新ヤイヅシティを襲う前から、敵性潜水艦対策はゾーンダイク軍を念頭において進めてきました。遣エマーン艦隊がゾーンダイク軍に襲われた事実が有った為です。ゾーンダイク軍の存在は民間船舶の単独航海を危険な事としております。これに対して防衛省が出した方針は、船団護衛でありました」
 平和な海ならば、船舶は個々の性能が示す経済速度でもって単独航海をするのが一番経済的である。しかし、ゾーンダイク軍が暴れだし船舶が何時沈められるかわからない状況下では、第一次、二次世界大戦の戦訓が示すように船舶は集団で行動し、護衛艦艇で民間船舶を護衛する船団護衛が唯一安全に航海する手段である。と、防衛省と海上自衛隊は考えていた。
「この方針の元に、防衛省と海上自衛隊は現有艦艇で有効な船団護衛を行う方法を研究しています。しかし”青”の協力で、ゾーンダイク軍が日本本土をテロ攻撃してきた場合のシミュレーションを何度も繰り返し、さらには実際にムスカ級生体潜水艦を相手にした演習も行いました」
 ここで海上幕僚長の山本五十六から発言があった。
「土方防衛相、それらの結果報告は現場責任者の私から述べた方が実感が有って良いでしょう」
 土方防衛相の許可を得て、元連合艦隊司令長官が報告を始めた。
「先日の対潜護衛演習も含めて、すべての結果で恥ずかしながらムスカ級生体潜水艦を相手にするには今の装備では役に立たないことが証明されてしまいました」
 ここで先日行われた対潜護衛演習に軽く触れよう。

 その演習には6種類の艦艇と2機の航空機が参加した。すなわち、対潜哨戒機P−3C、海上自衛隊のヘリコプター搭載汎用護衛艦 きりさめ とその次期護衛艦搭載機としてついでにテストのため持ち込まれたMAPジャイロ(Marine Air Patrol:海上航空哨戒の略でMATジャイロから派生した対潜対舟艇哨戒攻撃用として使用する予定)、旧式駆逐艦を護衛艦として改装するテストベッドとして近代化改装を済ませた元連合艦隊籍の駆逐艦 綾波、性能比較の為に改装前の綾波の同型駆逐艦 浦波、海上自衛隊の潜水艦 たつなみ 、元連合艦隊籍の潜水艦 イ−二一、そしてムスカ級生体潜水艦アカハゲである。
 オーストラリアで日本連合が派遣した南太平洋調査艦隊と接触した はぐれムスカのアカハゲ とミューティオは速水中尉や捕鯨船団の船員達の取り成しが有った上に、新国籍法の規定にある人類と意思の疎通ができる知的生命体とみなされたこともあり、日本の法律に従うという宣誓の下に日本国籍を有することとなった。ちなみにミューティオは超音波領域で会話していることが確認された。
 遣エマーン艦隊が襲われ、”青”の勧告も受けてゾーンダイク軍の研究を始めた防衛省及び海上自衛隊にとって、アカハゲの協力は得難いものであった。自分らの対潜装備がゾーンダイクに通用するかどうかが実際に確かめられるのである。
 今回もアカハゲの協力で対抗部隊に本物のムスカを使った実戦演習ができると有って、護衛部隊として参加した艦艇の乗組員は張り切っていた。

「しかし、予想通りとはいえ一方的に殺られちまったなぁ」

 アドバイザーとして参加した青の6号「りゅうおう」の伊賀艦長の台詞である。この台詞の通り、元の世界で世界有数の対潜能力を持つ海上自衛隊にとってもムスカ級生態潜水艦の攻撃を防ぐことは至難の業であった。改装も受けていない駆逐艦やイ号潜水艦はもちろん、近代化改装した綾波や護衛艦、P−3Cですらアカハゲの姿を捉え続けることは出来ずに、護衛対象の旗艦共々撃沈判定となってしまったのである。期待の新鋭機MAPジャイロも対怪獣装備が外され従来の対潜ヘリと同じ対潜装備ではムスカを見つけることは出来なかった。
 もっとも普段の演習でも潜水艦の航路は指定され、その条件下でも見つけられた潜水艦は恥であると言われるほど潜水艦の方が有利なのである。通常の潜水艦の速度よりも20ノット以上速い脅威的なスピードを持つ上に、生物であるが故に磁気探知機も効かず桁外れな静粛性でパッシブソナーもロストしがちなムスカが相手では、自衛隊の完敗としか言えない物であっても仕方の無いことである。
 この演習では唯一、深町 洋 二等海佐が艦長を務める潜水艦 たつなみ が一矢報いたのであったが、この結果はゾーンダイク軍が本格的に海上通商路破壊活動に入った場合、船団護衛方式をとってもその損害は過大なものと成る事を確実に示していた。


山本五十六の報告が続いた。
「私も幕僚長に推薦していただいて以来、60年に及ぶ戦術の変化を研究させてもらいました。それに拠れば、潜水艦による作戦行動は弾道ミサイル搭載艦配備による優位な立場に自国を置く戦略的なものと、通商破壊作戦に使用する戦術的な二通りのパターンしか無いとされて来ました。もちろん連合艦隊の潜水艦作戦のように艦隊決戦に使用しようとした例も有りましたが、これは失敗の例として一般的な物にはなりませんでした。そしてゾーンダイク軍の活動は、水中に主戦力を置くためか通商破壊作戦と艦隊決戦を行う2つのパターンに入る事が”青”のデータベースから明らかになりました」
 ここで山本海幕長は一旦言葉を区切った。
「ところが今回の事件では、全く想定していなかった第4のパターンが出てしまいました。輸送潜水艦による大規模上陸作戦。つまり今回の事件で言えば怪潜ブードを母艦とする機械獣および敵兵士の上陸です。戦後の記録によれば、潜水艦を使用した上陸作戦はゲリラ的な少数人数の進入作戦に留まっていました。一地域を占領するような大規模な部隊は水上艦艇で行動するのが軍事的常識ですし、また大規模な水上行動があれば直ぐにその存在が探知され、上陸前に海上で撃退する手段は幾らでもとれると考えていました。しかし今回の事件では敵性体の日本本土攻撃に対して、防御体制に大きな穴が有った事を残念ながら証明してしまいました。護衛艦隊による巡邏主体の体制では、容易に敵潜水艦の日本列島接近を許してしまうでしょう。この穴を埋めるには基本防衛政策の見直しが必要であると、防衛省とも意見が一致したのであります」
 ここで土方防衛相が報告を締めくくった。
「ただ、ブードが撤退途中にSOSUS・水中固定聴音システムに引っかかったように、技術的には十分対処可能であると考えています。そこで防衛の最低条件である日本近海の海上通商航路を確保しようと言う基本防衛政策の実現には、今までの護衛艦主体の防衛体制だけでなくSOSUSをゾーンダイク軍にも対応できるように質量共に拡大発展させて空のバッジシステムに相当する海のバッジシステムを建設し、日本近海を潜水艦を含む敵性勢力を排除した安全な海域にしようとする計画が考え出されました。この計画には経済や科学技術そして外交面から協力していただきたいものがあります」

 ここで加治首相が確認を取った。
「それが基本防衛政策に関わるほど、潜水艦対策が重大な事項になる理由なのですね。趣旨は了解しました。日本の安全を守る為には、土方さんたちの報告の通りであると私も考えます。皆さんも了解してくださいますね」
 議決が取られて、土方防衛相の提案が了承された。
「では計画の内容を説明してください」
 ここで新しい資料が栗原防衛政策局長から全員に配られた。資料の表紙には「極秘:新・海上防衛計画(案)」と印刷されていた。
「お配りした資料は、これまでに研究した海上防衛計画をまとめたものです。これから一つずつご説明します」

 一つ目は水中探知能力の向上である。

「海上防衛のためにもっとも必要なものですが、従来のソナー磁気探知が効かない相手を探知するには相当なブレイクスルーが必要と考えます。”青”からも技術協力を受ける事も考えていますが、独自の新探知システムも早急に必要とするものです。防衛技研以外からも研究に参加して欲しいのですが、余力はありますか?」
 土方防衛相は科学者達の方に向いて質問した。これにはSCEBAI所長の岸田博士が答えた。
「うちの研究にも有ったはずじゃ。水圧波頭赤外線質量探知選り取り見取じゃから、何時でも自衛隊に発表できるぞ」
 水圧探知は機雷にも使われている、水中を物体が移動した時に発生する水圧の変化を利用するものである。波頭はその水圧が海上に達した時に生じる極僅かな海面の盛り上がりを探知するものである。赤外線はおなじみの物体が発する熱を探知するものであり、質量は物質そのものを探知しようとする技術である。
 もっともどれも高度な技術を必要するものであるが、SCEBAIの科学技術は実現可能なレベルにまで有るらしい。恐るべしマッドの城。
「では、SCEBAIから自衛隊へ協力するということでよろしいですね」
 こうして水中探知能力の向上にSCEBAIが協力することは承認された。

 2つ目の計画はSOSUSの敷設計画である。
 ここで示されたのが次の地図である。黄色に色づけされているのが中華共同体、水色がアメリカ合衆国領で太平洋上の2箇所の水色の海域は東からミッドウェーとグアム・サイパンである。

日本SOSUS設置計画

 赤いラインが日本が張ろうとするSOSUSである。具体的にはカムチャッカ半島の南端ロパトカ岬から東経約155゜のラインを南下して、南鳥島を経てトラック諸島のJSP−03まで。そして南鳥島から西へ硫黄島、沖ノ鳥島を経て与那国島へ約10,000Kmにも及ぶSOSUSを張り、外敵の侵入を阻んで安全な航路を確保しようとする物である。またこのラインの他にも布哇諸島への大圏航路上、そして日本の沿岸を囲む様にもSOSUSを置く計画である。
 さらに島の無い北西太平洋をカバーする為にシャッキー海膨の上(図中の布哇とを結ぶ線との交点)にメガフロートを配置して、硫黄島共々補給修理できる戦略拠点とする。ここに配置するメガフロートは、もともとは新関西国際空港建設予定施設であった。その世界では新関西国際空港に絡む土建業界からの贈収賄疑獄が発覚し、漁夫の利を得る形でメガフロート工法で新関西国際空港を建設することになったのである。3分割されたメガフロート本体をタグボートで現地に引っ張って行き、結合するところまで工事は進んでいたが、時空融合は完成した、しかも埋め立て工法での新関西国際空港を出現させており、これを管理する空港公団もこの時期の航空路線の壊滅的な減少状況下では、メガフロートを引き取ることは拒んだのである。もっとも今から1年後には国内国際線ともに路線が増加したために、それを手放した事を後悔することになるのであるが。こういった理由でしばらく横須賀沖で主人を無くしていたメガフロートは海上自衛隊に引き取られ、噂の超大和級戦艦に付けられる筈だった艦名”紀伊”からMFB-X-01キイと名付けられて海上移動基地の実証テストに使われていたのであった。外洋で使用する目処が立ったので、『新・海上防衛計画』の要の一つに組み込まれたのである。
 JSP−03も”青”本部やオーストラリアを結ぶ航路上の戦略拠点として自衛艦隊の補給と修理に活用するが、どちらかと言うと出城としてゾーンダイク軍を惹きつける囮として動いてもらう面が強い。こうして安全海域を設けることで実働部隊・通商船団双方の負担を軽減しようと言う計画である。
 これを聴いて、秋山経済相が、また質問をあげた。
「土方さん。JSP−03を根拠地に、うちの産業政策局と科学技術省の航空研究所も参加して合同プロジェクトを立ち上げようって計画が有ります。上手く行けばYS−11を超える究極の民間航空機が誕生するかもしれないプロジェクトです」
 JSP−03へは、最先端大規模航空宇宙開発基地の噂を聞いた国内の航空技術者やエンジン技術者たちが続々と見学に訪れていたのである。そしてJSP−03所属の 黒木 正一 氏が率いる宇宙開発事業団生え抜きの設計屋集団に零戦の堀越、飛燕の土井といった全盛期の軍用機設計者、そして重工や自動車のエンジン設計技術者達の、噂によるとタンカー一隻分のアルコールを消費した大宴会の中から、『時空融合後の日本航空技術を結集したレシプロ機・ターボプロップ機の最高時速更新を目指す』と声高らかにプロジェクトを立ち上げようとしていたのであった。
 秋山経済相の発言を聞いて、神田航空幕僚長がそれを裏付ける発言をした。
「そう言えば航空開発実験団に打診が有ったようですね。もっとも彼らのコンセプトが空自のそれとずれていた上に、既にMATジャイロを始めとするMATの戦闘機を自衛隊用に改修するプロジェクトが立ち上がっていたので、それに協力することは出来ませんでしたが」
 MATを航空自衛隊に編入する計画の一環で、MATアローやMATジャイロを自衛隊仕様にするプロジェクトがあった。既に編入先が変わってしまってはいたが、その計画だけは引き続いて行われていた。アロー1号は高性能であるがコストが高いので導入は見送られる公算が高いが、2号はコストパフォーマンスが良いのでF2支援戦闘機に代わる支援戦闘機として導入が決定していた。そしてアローよりも大量に導入が決まったのがMATジャイロである。対怪獣要求により現用のヘリコプターを遥かに超える防弾性と耐熱性に低騒音、亜音速まで出せる高速性、MATでも評価が高い優れたコストパフォーマンスの事もあり、自衛隊だけでなく政府国内専用機としても導入され始めていた。もっとも対怪獣用の装備のまま導入するのではなく、政府や陸海空特それぞれの自衛隊でMATジャイロの各種ヴァージョンを開発して導入する予定でいる。
 政府専用機として開発されたのは、防弾性耐熱性はそのままで内装を旅客機ヴァージョンに改造したMAT(Multi-use Air Transportation:多用途航空輸送)ジャイロである。特自ではMAT(Monster Attack Team:怪獣攻撃隊)が編入されることもあり運動性能はほぼオリジナルに近いが火力を更に強化した武装強化型を、空自も中近距離のコミュニケータとして政府専用機と同じバージョン(機内装備は最低限)を導入する計画となっている。陸自では、その被弾性能の高さに着目して戦略機動旅団等の空挺部隊最前線輸送機として使用し、MAT(Mobile Airborne Trooper:機動空挺騎兵)ジャイロと呼ぶ計画を立てている。海自は次期護衛艦搭載機として開発し、MAP(Marine Air Patrol:海上航空哨戒)ジャイロと呼ぶ計画である。さらに特偵隊等のテロ対応部隊ではCAT(Counter Attack Terrorism:対テロリズム攻撃)ジャイロと呼んで、静穏性に優れた強襲空挺用航空機として開発する計画もある。
 更にその動きは民間用にまで及んだ。対怪獣戦闘能力を考慮せずに普通の航空機用ジェラルミンを使用することによる低価格化、比較的低燃費でヘリコプターより静穏性に優れ汎用的に使えるところが短距離航空コミュニケータ需要を喚起し、地方中核都市間や離島との民間航空路を有する航空各社が導入し始めていた。

「堀越君が海軍航空隊のつもりで海自の航空団にも打診したそうだ。もっとも海軍時代と違って兵器開発は防衛省の装備計画局で管理するから、装備計画局の航空本部へ行ってください。と断ったそうだがね」
 山本海幕長も発言した。そして土方防衛相がこの件での防衛省の考え方を説明した。
「秋山さん、そのプロジェクトは山本海幕長が仰られたように、装備計画局から話を聴きました。確かに彼らの計画は長距離輸送機の開発に必要になるかもしれません。ですがJSP−03の場所が悪すぎます。JSP−03がいた世界のように妨害しようとする勢力のどれからも遠く離れている状況ならばともかく、今では南方から日本本土を狙う勢力を遮る絶好の位置にあります。しかも、テロ活動を始めれば真っ先に海上施設を攻撃するゾーンダイク軍の活動が判明した今となっては、JSP−03は彼らの格好の目標になると考えざるを得ません。自衛隊の防衛施設として活用しなければ、かなり悲惨な事になると考えます」
 この後JSP−03を沖ノ鳥島近くまで曳航する案も出されたが、トラック諸島に置きつづけるメリット以上の理由も見出せず、JSP−03を現在の位置のまま新・海上防衛計画に組み込む事となった。

「じゃが、この計画では中華共同体領である東南アジアから台湾近海が監視網の穴に成るのではないかな?それに中東の原油やオーストラリアの鉱物資源を輸入する計画があると聞くが、そこをどう対応するのかな?」
 高橋是清経済財政担当補佐官が質問を発した。直ぐに土方防衛相が答える。
「まず第一のご質問からお答えします。これは機密事項なんですが、海自の調査によれば中華共同体でも独自にSOSUSに相当するシステムを持っているようです。野党が反対している集団安全保障にまた一層踏み込むようですが、中華共同体と協力した監視体制を作りあげるしか無いと考えます。その場合、東南アジアの島々の間に監視網を構築することになるでしょう。また、JSP−03以南からは”青”本部との作戦面での協力も必要となってきます。ここでもまた外交交渉に首相のお力が必要となってきます。中東の原油、オーストラリアの鉱物資源の輸入の護衛計画は、SOSUS網から出ることになりますので従来どおり船団護衛で行くしか有りません」
 図中の緑のラインが中華共同体と共同で張る必要があると考えたラインであり、青いラインが”青”本部で用意してもらおうと考えたラインである。
 また軍事力による解決が求められる現状から目を背け続けて落ち目になった、社会主義平和連合が「軍事力行使反対」と運動を起こし始めていたが、腐っても何とやらで結構国会運営が滞り始めてもいた。
「なるほど、これこそが外交面での協力が必要と言った事なのですね。では、この計画書とは別に日中協力に必要な計画をまとめてください。それを受け取り次第、早速外交交渉の準備をさせることにしましょう。よろしいですか九条外務相」
 加治首相は事態の必要性を理解し、真正面から国会論戦をする決意を固めた。そして九条外務相に確認を取ったのである。

「では次の説明に移ります。SOSUSの構築が静的な防衛体制の構築計画ならば、次の計画は動的な防衛体制を構築する為の新型艦建艦計画です」
 土方防衛相の発言の後、この説明も山本海上幕僚長が買って出た。
 新型艦建艦計画は4つに分かれていた。つまり、旧巡洋艦・駆逐艦の近代化、護衛艦・対潜哨戒機の対ムスカ級探知能力の付与と言った現有戦力の改良、新型護衛艦の開発、これらに装備する新型対潜兵器の開発である。
「第一点、旧巡洋艦・駆逐艦の近代化と現有戦力の改良は対潜探知システムに先の新式探知システムの成果をもってくる以外は従来の方針との差は有りません。第二点、新型護衛艦の開発は4種類の艦艇を考えております」
 山本海上幕僚長の説明によれば、この4種類の艦艇は以下の通りである。

 プランA、戦時量産型護衛艦。これは護衛艦が消耗した場合を考えて、平時から短期間に量産可能な対潜護衛艦を研究しておこうというものである。
「なんせ、我々帝国海軍が敗れた原因の一つに、駆逐艦のような補助艦艇を軽んじて通商護衛を怠った事だと指摘がありましてな。実際、切羽詰った時にはもう手遅れだった様なんですからなぁ。我々が体験した事ではないとは言え、敗北を知ったからにはその轍を踏まないようにしなければいけません」
 自衛隊に編入して以来、敗北した大日本帝国が言う処の大東亜戦争、勝利した連合国側が言う処の太平洋戦争で、日本が敗北した原因を研究していた元連合艦隊司令長官、山本 五十六 海上幕僚長はプランAの動機を、こう語った。

 プランB、攻撃型潜水艦。目には目を、潜水艦には潜水艦を、と言う理屈から青の6号「りゅうおう」をモデルにした攻撃型潜水艦を量産しようとする計画である。

「相討ちとは言え、唯一アカハゲ殿を撃沈した深町二佐には りゅうおう に匹敵するような潜水艦を与えたいものです」
 前にも述べたように、対潜護衛演習で一矢報いたのが海上自衛隊潜水艦隊に所属している『たつなみ』であった。もっとも演習後にアカハゲは深町二佐にこう言ったそうな。
『ほ〜ほっほ、本気を出したらピンガー打たれる前に思いっきり躱す事も出来たんじゃが、そうすると波に煽られてたつなみが沈没してしまう恐れがあったんでな。まぁワシが気付く前に懐に飛び込んだたつなみに敬意を表したんじゃよ』
 これを聴いて深町二佐は思いっきり悔しがったとか。

 残りの二つは、プランC、新戦闘型潜水艇。ゾーンダイク軍も小型の水中戦闘艇を使用していることから、対抗の為に開発が必要と考えられた。「りゅおう」搭載のグランパスやSCEBAIに集められたスーパーロボットをも参考にする予定である。そして、プランD、次世代護衛艦。プランAとは逆に、時空融合後の日本連合の最先端の技術の粋を集めた次世代の護衛艦を研究開発する。もっとも10年単位の長期研究に値するので、対ゾーンダイク戦に間に合う可能性は低い。

「第三点、新型対潜兵器の開発」
 これにもいくつかのプランがあった。その一つが現行兵器の発展として、超高速魚雷(雷速200kt)を開発するプランである。
「もっともこれは神田の古書店を巡ったときに、雑誌で見た記事から研究を指示した物です。ですがムスカを相手にするにはこれくらいの雷速が無いと当てることも出来ませんからな」
 これも山本海幕長の説明である。その記事に拠ると、「微少気泡により最大で魚雷本体にかかる粘性抵抗の約80%を低減させ、さらにロケット推進させる」ことで雷速200ktを実現したそうである。
 この計画には岸田博士も興味を示した。
「ほ〜、これは面白そうですな。ぜひ我々にも研究させてください」
 こうして、新型対潜兵器の開発も始まったのである。

 そして最後に、SOSUSによる敵性体の発見から最寄の基地から発進した、もしくはパトロール中の護衛艦・哨戒機による攻撃といった攻撃手順の概要説明で海上防衛計画の説明が終わった。
 ここで、秋山経済相から質問が上がった。
「土方さん。計画では護衛対象の民間輸送船には触れられていなかったようですが、防衛省では最新の輸送船情報をキャッチしていませんか?」
 これには土方防衛相も山本海幕長も興味を示した。
「我々の計画では、民間輸送船の最高速度を最大30ktに見積もっていましたが。それもかなりの高速輸送船と見て、通常の輸送船は20kt台で見積もっています」
 それを聞いた秋山経済相は、防衛担当者にある事実を伝えたのである。
「実は最近、物流事業局の方に申請された海上輸送事業があるんですが・・・」
 高知で急成長した商社、海援隊の高速貨客船(テクノスーパーライナー)「飛翔」を使用した高知−東京間高速輸送航路の事である。日本経済に大きな影響を及ぼすと考えられたので、経済相にまでその情報が伝わっていたのである。
「申請に拠れば東京−大阪間を8時間、巡航速度が時速100Kmでって言うから、・・・」
 秋山経済相は簡単にメモ用紙で計算すると、防衛相と海幕長の方に向かって言った。
「54ノット弱、って言うところですか。この速度ならば十分ムスカを振り切れるんじゃないですか?」
「「振り切るどころか、りゅうおう よりも速いじゃないですか!」」
 この情報で興奮した二人は、直ちに海上防衛計画に新しい計画を追加した。新型輸送船の開発と護衛艦への応用である。その結果、続々とTSLを応用した貨物船や高速護衛艦が開発されることになったのである。

 さらに水原博士からも質問が上がった。
「南極といえば、”そうや”が今年の末に探検しに行く予定では無かったですか?」
 この発言で加治首相も探検隊の隊長の事を思い出した。
「そう言えば臨時政府が成立した途端に、隊長が直訴に来ました。あの時は彼の熱意に絆されて体制が整い次第南極に派遣する約束をしたので、世界調査団派遣計画の一部に組み込んで南極へは第二次派遣艦隊で調査に出発させる事になったのは、皆さんご承知のとおりです。しかし、ゾーンダイクが危険だと判明した今は彼らを南極調査に派遣する必要が有るか議論の必要があると考えます。皆さんの意見はどうですか?」
 加治首相の質問に出席者達から意見が上がっていったが、やはり意見は派遣と中止に二分されていった。
 派遣の必要が有ると主張したのは防衛省・自衛隊と科学者たちである。中止の意見を出したのはそれ以外の者たちであった。
 中止の意見は、ゾーンダイク軍の本拠地に無防備な科学者たちだけを派遣する危険性を指摘していた。
 防衛省と自衛隊は、将来ゾーンダイク軍と戦う状況になった場合に現地の状況を早い時期から偵察する必要が有ると理由を挙げていた。そして科学者たちは、時空融合後の地球気候を予測する為に南極の気象状況や20世紀末から問題となったオゾンホール、そしてオーロラなどを観測する必要があると主張した。オーロラを調べることにより相克界を経た太陽からの電磁波状況を観測でき、相克界を調べるデータが増えると期待している。さらに水原 誠からこんな意見も出た。
「碇博士も言うとりましたが、エヴァンゲリオンを生み出した技術は南極に眠っとうた使徒”アダム”を調査して得たそうや。浅間山で使徒を確認したからには、南極にもアダムがおるか確認する必要が有るんと違いますか?具体的な方法は出発までに考えますが、とにかく必要と思います」
 両者の言い分を聞き終えた加治首相は、次の結論を出した。
「南極で無ければ確認できないことが多いことは良くわかりました。それに実際に面会したあの隊長の性格から、危険だからと言って止めても止めるような人では無いし、あの熱意を忘れていなければ無断で南極に行ってしまうでしょう。無断で行かせてしまうよりは、全面的にバックアップする方が危険度が少ないかもしれません」
 この結論から、南極調査は海上防衛計画からも支援を受けることになった。

 こうして基本防衛政策の見直しは終わったが、九条外務相からこんな意見が出た。
「しかし味気ない計画名ですね。連合王国でなら、もっとセンスの良い名前を計画に付けるんですけどね」
 この意見には意外なことに山本海幕長が大賛成した。
「この場で海上防衛計画を見直したことで、課題もちょうど七つにまとまりました。この海上防衛計画を”七つの海”と命名したいと思います」

 こうして日本連合の海上基本防衛計画は「七つの海 計画」と名付けられた上で承認され、政策として実行されることになる。各課題に付いた名前とその経過を最後に述べよう。

 新探知システムの開発:”インド洋”
 岸田博士が言ったセンサーの他にMATの対生物センサーも新探知システムに流用され、更に生物であるムスカが分泌する物質を探知する一種の嗅覚センサーも考案され、半年後にはその殆んどが実用化されたのであった。ただ、青の6号「りゅうおう」が装備しているロレンツォニはオペレータを選ぶ為に海上自衛隊の装備とするのは見送られた。

 SOSUS設置:”北太平洋”
 戦略拠点となる硫黄島やJSP−03、MFB−01キイ(実戦配備の為開発コードXは外れた)の基地化は完了し、補給と簡単な修理整備の拠点として動き出した。
 キイは3本のフロートに支えられた一辺100mの正六角形のベースが基本ブロックとなり、前後左右に連結して全体でまた一辺約3000mの正六角形を造っていた。外周はそのまま対空対潜陣地を兼ねた防波堤として機能し、内部に護衛艦の補給基地となる港を作っていた。中央を通る2本の対角線約6000mの上に3000m滑走路を造り、航空基地機能も万全である。
 なお、JSP−03で究極のレシプロ・ターボプロップ機を造ろうとした航空技術者たちの計画は航空機産業が集まる中京方面で進むことになるが、JSP−03を使わせなかった事はゾーンダイク戦役(七大海大戦)が始まり、防衛省の予想通りJSP−03が攻撃を受けるまでしこりが残った。

 SOSUS国際協力:”南太平洋”
 連合議会での論争は荒れたが、実際に壊滅した新ヤイヅシティの記憶も残っていたので、敵性潜水艦を日本に近づけないためにも近隣諸国の協力が必要であるとの加治の説得が効を成し、中華共同体や”青”との協力体制が整えられていったのであった。

新型護衛艦、新対潜兵器の開発:”北大西洋”
 高速護衛艦の開発はガスタービン機関を主動力にする通常動力型は、結局航続距離の短さがネックとなり基地から出動する運用となった。引き続き、核融合やHBTシステム、L動力と言った次世代機関搭載の研究が開始されていった。
 ”りゅうおう”量産タイプの1号艦は半年後に進水した。艦長に任命された深町 一佐、新世代潜水艦艦長に任命と同時に昇進、は艦名に付いて希望を聞かれたときにこう答えたそうである。
「俺が海江田のライバルと言われているのはご存知でしょう?野郎が自分の艦を”やまと”と命名したんだから、自分の艦は”むさし”とでも名付けますか」
 海自の命名基準から外れた意見に、艦政本部は命名をまだ決めかねている。
 山本 五十六が命令した雷速200kt超高速魚雷の開発は順調であった。ただ、やはりムスカを相手にするには威力を増やすことが必要ではないかと鋭意改良中である。
 さらに、潜水艦 707号II世が海底ムウ王国から帰還してきたので、707号II世に搭載されていた水中超音波兵装(サウンドピック)が量産されることになった。

新型輸送船の開発:”南大西洋”
 続々とTSLタイプの輸送船は就航していったが、やはり航続距離がネックとなり日本からは台湾あたりまでしか航路は伸ばせなかった。そこでやはり東南アジア以遠との輸送は従来の輸送船が中心のままであるため、量産タイプ、第2次大戦当時よりも高速である、の研究が開始された。

南極観測船 そうや:”北氷洋”
 加治の予想通り、危険だからと言って南極探検を諦める探検隊では無かった。そこで万が一のことを考え、近くで調査している第2次調査艦隊のインド洋調査艦隊か大西洋調査艦隊がバックアップに付く事になった。
 その上、調査団には時空融合の研究が一段落した水原夫婦と101を始めとした超能力者達が、そしてサイボーグ戦士たちも参加することになった。もちろん警備陣も同乗する事になり、海上自衛隊からJAMSSSを派遣することが決定した。
 さらに自力で安全圏に脱出できる特殊救命カプセルを急遽開発し、乗員が海上を漂う事の無いようにした。ただ、そうや本体には武装追加はしなかった。武装したことでゾーンダイク軍を呼び込むことを避けたのである。
 数々のバックアップ体制がとられたが、それでも来年には迎えに行けなくなる危険性が高いので越冬観測を断念させざるを得なかった。

海上警備活動:”南氷洋”
 SOSUSを利用したパトロールを始め、新型護衛艦、新兵器を使ったゾーンダイク軍以外の海中敵性体をも含めた海上警備活動は一括して扱うことになった。
 噂によると、南極反抗計画まで立てていると言う話もあるが、機密事項になっている。

 そして新世紀3年、ゾーンダイク軍との戦争が始まったのである。


後書き Ver1.0
 連合議会に出席された方々に感謝いたします。このパートは皆さんの話題から思い付いたものが多いです。
アイングラッドさん(世界地図をありがとうございました。アイングラッドさんの地図を元に情報を追加しました)
Ver7 さん(南極”そうや”関係の話題を入れさせていただきました)
二式 さん(JSP−03を出演させました。ただレシプロ機開発でJSP−03が使えない事情はこれで納得したでしょうか)
眞戸澤 元 さん(β版に真っ先にご意見いただき、ありがとうございました。反重力飛行船には結局触れずじまいでした)
小さな一読者 さん(海援隊をまた使わせてもらいました)
T.M さん(β版にご意見いただき、ありがとうございました)
ゴールドアームさん(精霊石鉱脈を調査した調査団は第二次調査艦隊の大西洋調査艦隊、司令官 小沢 治三郎 中将、という事にしたいと思いますがどうでしょうか)
(順不同)
 ありがとうございました。

 それにしても相変わらず世界設定小説だな。(^_^;)
 次はいよいよROEと特殊部隊のEパートか、ERETの後編か、それとも小沢提督の航海(新作)か、アイディアは湧き出るんですが。

 感想は連合議会か、もしくは直接こちらへ。




<アイングラッドの感想>
 戴いてから掲載までに間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
 今回形にして戴いた設定を基に来るべき戦いの形を物にしますので、お待ち下さい。
 第一部が終わるまで、後どれぐらい掛かるのでしょうか。
 取り敢えず今世紀中と云うことは確かですが・・・、頑張ります。はい。
 ではでは。




日本連合 連合議会


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 提供/岡田”雪達磨”さん。ありがとうございます。


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