新世紀2年6月15日、午後11時 神奈川県川崎市Gアイランド:GGGメインオーダールーム

 3ヶ月ほど前にようやく完全復興したGアイランドは、いつに無く喧騒に包まれていた。

「時空の不安定化をキャッチしました、場所は・・・・北海道名寄市郊外、美深町です」

 メインオペレータである宇津木命の声が響く。常時待機と言うわけではないGGGオペレーションであるが12時間シフトが組まれており平時でも決して楽な仕事ではない。

「うむ、揺り戻しか・・・科学技術庁に連絡。調査隊の派遣を要請してくれ。陸自には先行調査と名寄市近辺の住民の避難誘導を」

 命の言葉に、GGG長官大河功太郎は指示を出すと、再びシートに腰を沈める。
 現時点で、日本国内の時空融合に関する観測施設はGGG、SCABAIの両者がメインとなっていたが無人モニタリングポストがメインの現状では、両施設とも実際の観測は発生地域の自衛隊や気象庁の観測班に依頼するしかなかった。

「了解、陸自旭川駐屯地に連絡。北部方面隊第2師団所属のヘリコプターを向かわせるとの事です」


 同日午後11時10分 北海道旭川市春光町 陸上自衛隊旭川駐屯地

 時空融合後、様々な非合法組織の襲撃を受けた東京以上に緊張を強いられている地域がある。
 ここ旭川もその一つだ。時空融合の際に人口が希薄であった道東・道北地域は様々な勢力が出現していた。
 一つは原始の時代からやってきたナウマン象を初めとした野生動物達。
 もう一つは北緯44度線を境として、北海道の一部と樺太を領土としていた共産主義国家「日本人民共和国」
 通称「赤い日本」の残党であった。
 このほかにも融合後の混乱期に北海道に上陸、以後潜伏を続けているドラグノフ軍と言う戦力もあるがこの時点では知られてない。この中で危険な存在なのは言うまでも無く「赤い日本」の残党であった。
 赤い日本は首都を樺太最大の都市、大泊に置いていたのだが出現したのは彼らの首都である大泊市を含んだ樺太ではなく、ソビエト崩壊直後の1990年代からやってきたロシア領サハリンであった。
 首都からのコントロールを失った赤い日本軍の殆どが直後の混乱の最中、多くが自衛隊及びロシア軍の説得に応じて投降し、多くが自衛隊に編入されたものの、いまだ2個師団に相応する戦力が頑として投降してくる気配をみせて居ない。彼らの中にはMBTを含む機械化部隊も多数確認されており、小競り合い程度の戦闘記録は融合以来の1年間で20件以上にも及ぶ。
 このため、旭川から名寄を経由して稚内へ向かう国道40号線は地雷を警戒して通行できず、日本連合下の自治領となったサハリンへの連絡は軌道強化された状態の宗谷本線を使い戦前の規模で現れた稚泊連絡船か小樽か留萌から船舶を利用するしかなかった。
 いつ大規模な戦闘が発生するかわからない状況の上、旭川・名寄などの復興作業に持ち込まれたレイバーによる犯罪対策に警察が躍起になったため、治安維持の意味合いも含めて道北の守りを固める第2師団は優先的に戦力増強が図られていた。近いうちに中央に先駆けてWAP中隊の編成も考慮されている。
 GGGからの連絡が入ってまもなく、第2飛行隊所属の偵察ヘリOH-1・2機とAH-64Jアパッチ・2機。そして観測機器を搭載したMATジャイロが旭川駐屯地を離陸し、名寄方面に向かった。

 同日午後11時20分 航空自衛隊千歳基地

 旭川駐屯地から偵察隊が飛び立ってまもなく、自衛隊には緊張が走った。
 突如として所属不明の飛行物体が10機以上、旭川近辺から留萌沖の上空に出現した事が長沼町のレーダーサイトで確認されたのだ。
 直ちに千歳基地からアラート任務についていたF-15Jイーグル4機、Mig-29Jファルクラム4機、三菱F-2支援戦闘機4機が離陸すると北へ進路を取った。
 この時点では出現した飛行物体が何者か全くわからなかったため、1年前のイリス出現の悪夢が自衛隊関係者の脳裏を過ぎっていた。またもや怪獣などの超生命体であった場合はどう対応を取るべきか。いやおう無しに緊張が走った。
 だが、この時点では現れた存在が同時期に判明したゾイド連邦には及ばないものの、十分に驚愕するべき存在であることを誰も知る芳が無かった・・・・・・。


Super Science Fiction Wars Outside Story
鋼鉄の戦乙女(ワルキューレ)達


第1話 時を越えた出逢い

作者:こばやしさん






「っつー・・・・・何があったってのよ・・・・・」

 オムニ軍軍総省直属第177特務大隊隊長 ヤオ・フェイルン海軍中佐は任務の最中、突然として自分たちを襲った謎の衝撃からやっとの思いで目を覚ました。
 自分の体をチェックしてみる、何処にも外傷は無いようだ。続いて機体チェック。自己診断モードでは機体にも装備にも異常は見受けられない。ただ、機体そのものは斜めにかしいだまま崖に顔面からめり込んでいるようだ。
 どうやって脱出しようか、としばらく考えていると無線に通信が入った。

「こちらヒドラウィング、ハーディだ。無事なものは居るか?」
「こちらシルバーリード、ヤオ。機体が地面にめり込んでいる以外はほぼオールグリーン。誰か助け呼んでくんない?」

 無線から聞こえたハーディの声に、ヤオはこたえる。他のメンバーの応答する声も次々と聞こえてきた。

「総員無事か・・・・良かった」

 無線機越しにもそうと判るハーディの安堵の声が聞こえてきた。

「それは良いんだけどさ、シルバーで誰か手の開いているのが居たらこっち来てくれない?地面にめり込んでいて脱出出来ないのよ」

 機体そのものはノーダメージであり、後部脱出ハッチを開けて脱出するのは気が引けたのである。

「先輩!」
「セルか?早いところ引っ張り出してよコレ・・・・」

 そうヤオに声をかけたのはヤオの士官学校時代の後輩でもある銀髪のコンピュータことセルマ・シェーレ。
 彼女はヤオ機の肩を後ろからつかむと、一気に引き起こした。現在ドールズが使用しているパワーローダー、X4S型はオプション交換で白兵戦から電子戦まで対応できるマルチプル・ローダーである。それゆえに製造コストが掛かり、本格的な量産化にはいまだ至ってないのであるが・・・・・。

「ありがと、セル。シルバーフォックス、全員動けるか!?」

 セルマに助け起こされたヤオは、周囲を見回すと隊全員に聞こえるように通話を開いた。

「はい!」「何とか」「動けます!」「全装備異常なし、大丈夫です!」・・・・・。

 全員無事なだけではなく戦闘も可能らしい。

「総員警戒態勢!周囲の様子に注意しろ!」

 全員に檄を飛ばしたその直後だった。

『こちらグレイリード、ナミ。ヤオ、あの空見て!』

 別動隊、グレイハウンドの指揮を執っていたタカス・ナミから切羽詰まったような声の通信が入った。

「何よナミ・・・・月がどうしたってのよ?」

 そういいながら空を見上げたヤオは、思わずその場で絶句した。

「ねぇ、今日ってどっちか皆既月食って言ってたっけ?」

 オムニには二つの月があり、それぞれを「パルテナ」「アルテミス」と呼んでいる。だが、今ドールズの上にある月は、その二つの月より大きな月が一つだけ、ぽっかりと浮かんでいるのだ。

「・・・・・・・・たしか月食じゃあなかったハズですけど・・・・」

 ヤオのX4Sの傍らに居た電子戦専用ローダー、X4RRに乗っていたマーガレット・シュナイダーが自信なさげに答える。

『月が一つしかない惑星・・・・・・って言ったら・・・・・』

 現在オムニに住む人類が知っている月を一つしか持たない、人が住める星と言えば一つしかない。
 だが、ヤオの中の常識と言うものがその答えを出すことを拒んでいた。

「ちょっと・・・・・冗談顔だけにしてよ・・・・・」

 指揮官が混乱していては話にならない、ヤオは気を取り直すと亜空間通信センターの位置を確かめ残りの2部隊、ナミ率いるグレイハウンドとファン率いるブルーウルフに通信センターへ集合することを通達し、シルバーフォックス全体に移動の命令を下した。

「シルバーリードよりヒドラウィング、周囲の状況はどうなってんの?」

 メンバーが通信センターに集結した事を確認すると、ヤオは上空管制機ヒドラウィングの第177特務大隊司令・ハーディに連絡を取った。

「フェイルン、頼むから驚かないで欲しい。お前たちが集合するまで周囲を警戒飛行してみたが、ここはどうもオムニではないらしい」
 ・・・・・・やはりか・・・・・。
「ハーディ、やっぱりあんたもそう思う?」

 移動の最中も周辺環境やあたりに繁殖している植物を調べたが、多くがオムニには存在していない種類の被子植物であった。
 PLDには植物辞典など搭載しているはずは無いので確証は得られないが、植物のほとんどがオムニには自生していないものであり多くが地球には自生しているが、オムニには持ち込まれていない種類のものであろう事が判明していた。

「それにこっちも燃料がおぼつかない上にウィングと連絡が取れない。連絡を取るのでこちらも通信センターへ降りる」

 それから数分もせずに通信センターのヘリポートに大型垂直離着陸機であるVLC3をベースにした電子戦機、VE-1が降下してきた。
 さて、ここからは時空列が少々入り乱れる事をご容赦願いたい。

 午後11時25分、積丹半島沖20Km。

 スクランブルを受け千歳基地から飛び立った計12機のF-15、Mig-29、F-2からなる戦闘機隊は突如出現した領空侵犯機を目指し、亜音速で向かった。これは進路上に札幌市を初めとした人口密集地帯が多く、音速飛行は影響が大きすぎるためだ。
 最初に発見されてからすでに5分近い時間が過ぎている。最初かなりばらけて発見されたUNKNOWN機の群れは、だんだんと留萌沖の洋上に集まりつつあることが確認された。
 その数およそ14機、機種は特定できないが大型の・・・・レーダー反応から行けばC−5Aギャラクシーより大きいと思われる輸送機が6機、それより小型の・・・・おそらく戦闘機と思われるものが4機、それよりは大きい、速度から行くと大型ヘリコプターと思われるものが4機と言うのがレーダー分析により伝えられたことである。

「SIF照合、該当機体なし。ウィッチリードよりトレボー、アンノウンを確認。これより警告に移る。オーバー」
「こちらトレボー、了解した。アンノウンの機種は特定できない、慎重な対応を望む。オーバー」

 千歳基地でのコールサインは、誰の趣味かわからないが人気のあったRPG「ウィザードリィ」にちなんで名づけられていた。
 現在アンノウンに向かっている小隊のコールサインは以下の通り
 ウィッチ-F15、シーフ-Mig29、プリースト-F2。と覚えておいていただきたい。
 ウィッチリードを勤める牧瀬俊3尉は機体が洋上に出たことを確認すると、推力を上げて接近を始めた。

「こちら日本連合国航空自衛隊、未確認機に告げる。貴機は日本国領土を侵犯している。直ちに我に返答をし、指示に従え。繰り返す」

 国際共通周波数にあわせ、牧瀬は融合前にはお約束のように繰り返した警告メッセージを放つ。
 だが、酷い空電のあと入った言葉に彼は唖然とせざるを得なかった。

『こちらはオムニ連邦軍第177特務大隊航空小隊、「ドールズウィング」。日本連合とは何だ?こちらは燃料がおぼつかない、最寄の基地まで誘導願いたい。オーバー』

 女性と思われる声は、少なくともその言葉が冗談で言っている言葉でないことだけを牧瀬に伝えていた。

「ウィッチリードよりトレボー、所属不明機は敵対の意思希薄と思われる。どうやら時空融合の揺り戻しがあったようだ。オーバー」

 すでに幾度か揺り戻し現象の影響で出現した航空機を誘導したこともあり、千歳基地の航空隊にとっては慣れた仕事であった。

「トレボーよりウィッチリード、現在名寄市郊外で揺り戻し現象が起きているが、それの影響の可能性がある。要らん刺激を避けて我々の基地までご案内しろ・・・・何だ?」
「ウィッチリードよりトレボー、どうした?」

 トレボー(千歳基地管制所)が語尾を妙に濁したことに牧瀬は戸惑った。

「トレボーよりウィッチリード、大変だ!現在ベースの近くでも揺り戻し現象が発生している。危険だ、お客さんは三沢へ誘導してくれ。オーバー」
「こちらウィッチリード、了解した。オーバー」

 航空自衛隊千歳基地と民間空港である新千歳空港の南側には、緩衝地帯の役割も含めて大きな空白地帯がある。
 だが、この地域がウィッチ小隊達が離陸してまもなく、見る見る内に二つの巨大な軍事基地へと変貌し始めたのだ。

「どういうことだ、コレは?」

 基地司令は戸惑いと興奮が入り混じった口調で、調査班の出動を要請していた。
 空間が安定し、光の膜が薄れた基地内に突入した調査班が見た建物には地球に似た惑星をかたどったシンボルと、陸自のWAPに似た人形兵器に天使が抱きついたイラストを記したイングシニアが描かれ、こう記されてあった。
『O.M.N.I 177esc Detachment of Limited Line Service』

 同日午後11時40分 北海道美深町

「周囲のサーチを続けていてくれ、少しでも現状を把握したい」

 ハーディの言葉が冷えた空気に響く。ドールズはもてる電子能力をフルに活用して周辺地域の情報を得ようとしていた。

「放送されているラジオ・テレビなどを傍受した結果を分析すると、やはりここは地球・・・・場所は日本の北海道北部と思われます」

 情報を分析していたフレデリカ・アイクマンが代表して結果を報告する。その言葉に集まっていた隊員たちには 失望ににたため息が流れていた。
 PLDをセンター周辺の平地に車座に降着させ、無人のセンター本屋内にてドールズは会議を持っていた。本来ならセンター内には研究のための職員が居たはずなのだが、まるで冗談のように人だけが居なくなっていたのだ。

「100%言い切ることは出来ないが、証拠は沢山有る。まずベースとの連絡が取れない。中央作戦司令室にもだ」
「広域ジャミングをかけられている可能性はありません。通信状況は極めてクリアですから」
「困ったな・・・・・」
「ジアスの謀略、と言う線はまずありえないわよね」

 ヤオがもっともな事を言う。とてもではないが月を一つに見せたり地球のラジオやテレビの情報を流すなどと言う事をわざわざジアスがやるはずが無い。やるとしたらとんでもなくクレイジーな事だ。

「それ以前に、航空隊との連絡が付かなくなっているのが気になりますが・・・・」

 セルマの言葉に、全員頷く。これだけ電波がクリアな状況であればすでに連絡が取れているはずなのだが、直後の数分間以降は、通信確認が取れているブリップすらも表示されて無いのだ。

「仕方が無いわね・・・・周囲への偵察隊を出すしかないのでは?」

 ヤオが提案する。航空隊による回収を受けるために集合していたが、このまま居座っていても埒があかない。
 少しでも周辺の状況を把握するためにも、偵察隊を出すべきだろう。

「了承した、ヤオ、ナミ、ファン。メンバーの選出を急いでくれ」
「了解!」


 新世紀2年6月16日午前0時

 偵察隊はまず索敵能力の高さと機動性、いざという時の火力が優先される。
 自然とこの任務には、最新鋭で十分なペイロードと汎用性、機動性を持ったX4Sが中心になるのは必然であった。
 偵察隊に編成されたメンバーは以下の通り。

 第1偵察隊:北方面中心
 ヤオ・フェイルン中佐:X4S(マルチセンサー+リニアキャノン装備)
 セルマ・シェーレ大尉:X4S(リニアキャノン+汎用ミサイル装備)

 第2偵察隊:東方面中心
 タカス・ナミ中佐:X4S(マルチセンサー+リニアキャノン装備)
 エイミー・パーシング大尉:X4S(リニアキャノン+汎用ミサイル装備)

 第3偵察隊:西方面中心
 アリス・ノックス大尉:X4S(リニアキャノン+汎用ミサイル装備)
 ミリセント・エヴァンス准尉:X4S(マルチセンサー+リニアキャノン装備)

 第4偵察隊:南方面中心
 ジュリア・レイバーグ少佐:X4S(マルチセンサー+リニアキャノン装備)
 コウライ・ミキ特務軍曹:X4S(リニアキャノン+汎用ミサイル装備)

 索敵距離と電子戦能力であれば標準でパッシブセンサーも搭載しているX4RRが有利なのだが、いかんせんペイロードが小さい上にいざという時の装甲の薄さを考えると、むしろその広い索敵範囲を生かすためにも高台上になっているセンター周辺に居た方が有利だという判断であった。

「出来るだけ交戦は避けるように、半径20km圏内の情報を入手後は速やかに戻れ!」

 編成と装備の譲渡を終わらせ、それぞれの方向に向けて出発して10分ほどした後だった。
 西方面に向かったミリセントとアリスは、数分もしないうちにセンターの西側を南北に走る道路に出た。

「こちらエヴァンス、道に出ましたが敵らしい反応は見当たりません。オーバ」

 マルチセンサの反応を見ながらミリィは報告を入れる。それでも敵に発見される危険性を危惧してアクティブサーチは極力避けるようにしている。

『こちらヒドラウィング、ハーディ。了解した、引き続き偵察を続けてくれ。オーバ』
「了解です、オーバ」
「ミリィ、あちらの標識、見られて?」

 実家がオムニ屈指の資産家であるアリスが、令嬢らしい丁寧な口調でミリィを呼んだ。

「国道・・・・・275号線?」

  オムニでは、第2公用語の一つとして日本語を用いていた。民族的にマイノリティであるはずの日本語をなぜ公用語として採用したのか判らないが、この場合は役に立った。
 アリスが道路を伝って行ける所まで言ってみようと提案したときだった。
 ミリセント機のマルチセンサが複数台の車両の接近を伝えていた。

「この音・・・・・アリスさん!、隠れます!!」

 そういうとミリィはすばやく道路わきの鬱蒼とした森の中に隠れ、隠蔽姿勢を取った。
 5分ほど息を潜めていると、暗視モードに切り替えたローダーの視界に10台以上の車両の群れが入って来た。

「見たこと無い形式・・・・・ですわね、ミリィ」
「えぇ、ずいぶん古臭いというか・・・・・たぶん複合装甲ですらありませんよ、あれ」

 目の前を通過する車両は、ミリィたちの時代からすると当たり前の複合装甲独特の角ばったフォルムをしていなかった。
 車体を主に鋳造で構築されたと思われる丸みの強い形状のキャタピラ式装甲車やMBTが轟々と音を立てて過ぎていく。
 その中の何台かには、砲塔にかつての日本の国旗である日の丸の丸を赤い星に置き換えたようなペイントが施されていた。

「しかもエンジンの放熱量や排気ガスから行くとエンジンはおそらくガソリンか軽油です。あんなものオムニには絶対無いですよね」

 21世紀初めから、ミリィたちの世界では内燃機関の燃料としては水素が一般的になっていた。初期の頃はガソリンを改質機で水素を取り出して燃やしていたらしいが、21世紀半ばに画期的な水素安定法が発見されて以来、水素吸蔵合金を用いた保存法が一般的な水素エンジンの水素供給手段であった。地質タイムスケジュールでジュラ紀に相応し、石油などの有機資源が少ない
 オムニではなおさら水素燃料は重要といえるだろう。

「どうします?」
「ミリィ、今の画像は撮ってらっしゃいますわね?」
「はい、転送しておきます?」
「よろしくお願いしますわ」

 南方面に向かったジュリアは、ウルベシ橋と言う名前の橋の袂に来た際、マルチセンサに複数のヘリらしいローター音を捕らえた。

「ミキ、下がって。あんた確か対空ミサイル持っていたわよね」
「はい、持ってますが・・・・」

 ミキの答えに、ジュリアは表情を硬くさせた。
 元々迫力のある顔だ、と言われるジュリアだが、徹底した自信に裏打ちされたものであるゆえに頼れるものがある。

「いつでも撃てるようにしておいて、何があるか判らないから」
「わかりました。でも、ジアスのヘリじゃなかったら・・・・」
「良いからやっといて」
「ハイ・・・・」

 しぶしぶながらミキは自分の機体が装備しているDRu35対空ミサイルのセイフティを解除する。
 ドールズで戦う者にとって、小型ヘリや対戦車ヘリは天敵と言っていい存在である。ましてや制空権が確保されていない空域に強襲輸送機や潜水艦から発射される大型巡航ミサイル・カーゴバードで突入する任務も多いため、PLDにとっての天敵である
 戦闘ヘリには不必要なまでに警戒心を抱いてしまうのだ。
 マルチセンサーのスクリーンに映るブリップは3つ。ヘリコプター4機と中型のティルトローター機らしい。

「どうします?」
「どうって・・・・ローター音がライブラリに無い形式だからね。どうしたものか・・・・」

 接近するローター音は、オムニ陸軍航空隊が保有する対戦車ヘリの音でも無ければ、DoLLSの天敵HAT21小型ヘリでもHC11対戦車ヘリでも無かった。石油燃料系ガスタービンの音だ。

「ROTで接近している・・・・。もう少しでシルエットがはっきりしそうですけど・・・・RRがあったらもっと楽なのに・・・」

 X4S専用オプション、VP1肩装備型マルチセンサーは索敵範囲こそ両腕にマルチセンサーを装備したX4RRに匹敵するが情報処理・分析能力という面ではやはり専用設計され、ニューロコンピュータなどの高性能デバイスを有するX4RRには敵わない。

「距離2500!準備しておいて。攻撃するようだったらすぐに撃ちなさいよ!」
「はい!」

 センサーのマイクを通じて伝わるローター音が一際強くなる。
 シルエットが判明した瞬間、ジュリアは攻撃やめることにした。暗闇の中、コンピュータによって調整された画像にはくっきりと日本国所属であることを示す赤い丸(ミートボール)と「陸上自衛隊」の白い文字が浮かんでいたのだった。

「こりゃ、本当に私たち日本に来てるみたいだな・・・・・。あ〜あファイナル・カウントダウンってか?、あはは、あはははははは・・・・・・」
「レイバーグ少佐!大丈夫ですか?ちょっと!ジュリアさん!」

 コクピットで馬鹿笑いを始めたジュリアに、思わず錯乱するミキであった。
 東方面に向かったナミとエイミーは、約20分ほどの高速移動モードで山の頂にまで駆け上った。
 とりあえず山の向こう側を見る必要性が有ると判断したためだ。

「エイミー、あれ・・・・」
「牧場・・・・街が見えますね・・・」

 とりあえず、ナミはエイミーの腹が満腹であることに感謝した。エイミーは満腹であれば冷静沈着、もてる能力をすべて発揮してドールズでも1・2を争う対空屋ともスナイパーともなるのだが、少しでも空腹となるとおつむテンテンのおバカ娘になってしまうのだ(笑)後に某バターロールヘアの不幸娘やいい気になっている同人作家娘の存在を知ったドールズメンバーは「やっぱりえいみーって名前の女はバカになるのかしら・・・・・」と残り大多数のエイミーさんが聞いたら名誉毀損で訴えられそうな事を真剣に考えたという。
 それはさておいて、ナミはこのまま一旦センターへ戻るか、この街の様子を偵察するかしばし悩んだ。
 ここが本当に地球、日本であるとすればX4Sのような巨大な人形兵器はあるはずが無いし、街まで1,2時間程度で戻ってこられれば良いがもし夜が明けてしまった場合、X4Sを発見されると酷だ。自爆させても証拠は残ってしまう。

「引き返すしかないわね・・・・エイミー!戻るわよ!こちらタカス、東の山の向こう側を観測したところ、中規模程度の農場と街を発見。無用な刺激を避けるためコレより帰投します。さらに言うと・・・・・北側にこちらの施設と酷似した建築物を確認しています」
『ヒドラウィング、ハーディだ。その施設はヤオとセルマが調査に向かっている。ジュリアからの報告で『陸上自衛隊』のヘリが向かっているらしいので早いところ戻ってきて欲しい。オーバ』
「了解、オーバ」
『ご苦労様』

 問題は北方面に向かったヤオとセルマだった。
 彼女たちは北へ向かって高速で移動を続けるうちに、先ほど自分たちが出発したばかりの地点に戻ってきたのかと一瞬錯覚した。

「セル、あたしたちさぁ、ちゃんと北に向かって走ってたよね?」
「えぇ、そのはずですけど・・・・・」

 ヤオ達の目の前には、先ほどの建物と酷似した亜空間通信施設が夜空にそびえていた。

「微妙に違う気もするね。まさか・・・・地球政府もオムニと同じ亜空間通信施設を?」
「の、可能性はありますね」
「判った。こちらヤオ、地球政府の物かと思われる亜空間通信施設を発見・・・・あれ?どうしたんだこれ?」
「せんぱ・・・・・ザザザザザ・・・・」

 ヤオの疑問に気づいたセルマが答える前に、無線はノイズで満たされた。
 急いで接触回線を開くと、セルマの声が聞こえてきた。

「先輩、これって・・・・・」
「十中八か九、ジャミングね。急いで隠れた方が良い!」

 ぱっと離れたヤオとセルマが今まで居た地点を中心にした半径30mほどが、一気にバッと燃え上がった。

「榴弾砲?」

 機体をどうにか安定させながら、ヤオはセンサー出力を最大に上げて砲撃地点を推測した。

「砲撃地点はあの通信施設・・・・?だけどあんな高台に200mm榴弾砲を揚げるか?」

 コンピューターが推測した砲撃地点は、とてもでは無いが戦車や装輪式車両では重い榴弾砲を載せて上れる道路はつながっていない。だとするとPLD?いや地球には戦闘用としてPLDを装備している軍隊はありえない。
 それ以前に200mm砲を搭載できるPLDなど聞いたことも無かった。

「セル!出来るだけ近づいてプローブを投げてみるから。援護して」
「判りました!」

 セルマの返事を聞くと同時に、ヤオは愛機をフル加速モードで突撃させた。
 紙一重とも言える距離で敵の放つ砲弾が炸裂する。飛散した破片が装甲に当たる乾いた音が響いた。

「700・・・600・・・550・・・・今だ!」

 そう叫ぶとウェポンセレクターを開き、右太股の2番ポケットに装着していた自律偵察ポッド・プローブを射出すると、フルブーストをかけて地面を蹴り上げ180度ターンを決め、出来るだけ直線的な動きを避けて一気に遁走した。

「セル!間合いを取るよ!」

 そういうと待機していたセルマを引きつれ、おそらく敵機の索敵範囲外と思われるところまで一気にダッシュをかけた。

「さて、何を撮って来たのかね・・・・」

 プローブから送られてきた画像を見た瞬間、ヤオは唖然とせざるを得なかった。

「PLD?」

 その画面の中には、X4をさらに華奢にしたような印象を持つPLDが何機も写っていたのだ。肩の装備から行くとC型やRR型らしき機体も見える。

「・・・・ですよね、多分。妙に華奢ですけど。」
「でも中にはX4に近い外見の奴も居たわね。」

 ヤオの目は、目ざとく他のローダーとは印象の違う外見の機体を見つけていた。

「先ほどの榴弾砲ですけど・・・・撃ったのは多分この四脚式でしょうね」

 セルマが再生映像を見ながら指摘する。

「この首なし・・ひょっとしたらステルスタイプかも知れないわね。前にナミが研究してるって話していたことあったし」
「だとしたら・・・・もう現れているかも・・・・・」
「!」

 ヤオはほとんど野性的カンで左手に装備していたM63ショットシェル・グレネードを連射する。
 ボム!という爆発音を発して周囲のトドマツの茂みが吹き飛び、吹き飛ばされた落ち葉が光学迷彩で隠蔽したPLDのシルエットを映し出す。

「セル!電障弾!」

 ヤオが叫ぶと同時に、セルマがW800スナイパーライフルを構え、電障弾を発射する。
 命中した電障弾は強力なEMPパルスを発射し、相手PLDを行動不能に持ち込むはず・・・であったがそのPLDは何とも感じずにサブマシンガンらしきものを連射した。

「!!」

 ガンガンと弾が機体を叩く音がする。だがX4Sのスペースチタニウムとカーボンナノチューブ、セラミックの複合装甲を舐めてはいけない。4Sのハイパワーを活かして一気に間合いを詰めたヤオは、一気にそのPLDに襲い掛かった。

「DoLLSをなめるなぁ!」
「待ってください!」
「ほへ!?」

 飛び掛らんとした勢いをとめられ、思わずヤオはつんのめった。絶妙なオートバランスで設定されたバランサーのおかげで転倒だけは避けられたのだが、勢いはとまらずその光学迷彩を施したPLDに真正面から激突した。
 ごぉぉん、と言う寺の割れ鐘のような音が当たりに響き渡り、夜の眠りをむさぼっていた鳥たちが暴れまわる音があたりを騒がせる。
 森林の樹木に寄りかかるようにしてどうにか転倒だけは避けられた2体だが、まるで抱き合うようにして停止していた。
 ハッチを開放し、外に顔を出したヤオは、目の前のPLDが光学迷彩を解除し、だんだんと普通のPLDとしての外見に戻る光景を見る事となった。

「・・・・・・・・何、この機体・・・・・」

 薄い紫色とグレーに塗装されたそのPLDは、先ほどのプローブの映像で見たとおり頭が無かった。
 その首なしPLDのコクピットハッチが開くと、DoLLSのものに似たヘルメットを被った女性の姿が現れた。

「第177特務大隊DoLLS、ヤオ・フェイルン中佐でありますか?」
「え、ええ。そうだけど・・・・・」

 あっけに取られたヤオは、ぎごちない敬礼をそのパイロットに返す。

「お会いできて光栄です。ヤオ中佐。私はあなたたちの時代から100年ほど経った時代の177特務大隊所属。ナガセ・マリ中尉であります!」

 時代を超えた二つのドールズの出会いであった。

 To Be Continued.






日本連合 連合議会


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