裏側の勇者達
「てこ入れ?」
「はい。売り上げに見合った利益が出ていないため、このままではじり貧です」
新世紀2年2月、四国、海援隊本社。
竜馬は、田鶴子から提示された資料を見て、首を傾げた。
資料は、海援隊がプロデュースして大ヒットしたゲーム「超時空要塞2015」の販売資料であった。
時空融合の混乱期、生活が優先された結果、ゲームの開発のような非生産的なものは後回しにされていた。そんな中このゲームは、そんな人の心の隙間をとらえ、空前の大ヒットを飛ばした。オプションシナリオも発売され、今でも根強いファンは多い。
「そりゃ販売してからだいぶ時間がたっちょるから、多少はしょうがないんじゃないかのぅ」
「いえ、そうではありません」
田鶴子は資料の一点を指さした。
「売り上げは予定通りなのですが、経費が予想以上にかかりました。赤字にこそならないものの、何らかの手を打たねばならないでしょう。そう、今のうちに」
ゲームの開発には時間が掛かる。新作を考えるにしろ、新たなキャンペーンを張るにしろ、早いウチに越したことはない。
「しかし何で今頃……」
竜馬は首をひねって考えた。今まで上がってきている情報からすれば、そんなにあわてることもないはずなのだが。
確かに、予測通りの売り上げ推移をしているが、経費が予定の倍近くかかっている。
(おかしいのう……5割増しぐらいまではありうると思ったんじゃが、なしてこげに経費がかかっちょるんじゃ?)
そう思って資料を見直していくうちに、経費の肥大した理由は分かった。それは皮肉にも、ゲームの人気が出過ぎたためにかかる経費であった。
(なるほど……こりゃある意味仕方ないかの。田鶴子さぁでもみとめざるをえん経費じゃ。でもこれにてこ入れするっちゅうのは……)
そのとき、出し抜けに正解が見えた。
経費の増大の理由は、移植にあった。時空融合の結果、ゲーム機もむちゃくちゃな種類のハードがこの世界に出現していた。もっとも外観、メーカーが違っても、ソフトが共通して使える機種もあった。ゲームマニア達が調べた情報によると、P系、S系、D系、N系、そして携帯機のG系といわれる、それぞれ互換性のある5つの大きな流れが存在し、そのほかに独自規格のものが5つほど存在していた。これ以外はきわめてローカル性が強く、ハードそのものも少ない上、同じ場所で出現したゲームしか遊べないものであった。これに通常のパソコンを加えたものが現在のゲーム機の市場である。
なおパソコン関連に関しては幸い台湾に多数のメーカーが残っていた。中華共同体圏でも、やはり台湾は台湾だったというところであろうか。それどころか、かの地域では日本語の勢力が強かったせいか、マニュアルやBIOSが中国語的単語の混じった日本語で記述されていたりして、かえって使いやすかったりした。日本の部品との整合性も割と高かった。
何より、バスなどの規格がこの時空融合という異変があったにもかかわらず、ほぼ同一のものであったが故に成り立ったことであった。委員会ではこれもまた存在力理論の補完例として位置づけている。
日本連合との間に通商条約が結ばれたあとは、今後の日本における潜在的な需要にいち早く気がついたメーカーが、競って日本向けの製品開発に乗り出した。新世紀元年末には商品の供給が開始され、早速好調な売り上げを記録した。
載っかっているOSが若干問題であったが(完全日本語化した窓九八・二式を想像してもらいたい)。
だがこの時点ではまだ十分にネット回線が回復していなかったため、それほど問題にはなっていなかった。企業内部や軍事・政治向けが優先されていたため、一般のインターネット回線はまだ回復していなかったのである。
早期の復旧が望まれてはいたが、過去の世界のバックボーン回線が電話と違ってずたずたになっていたため、時間が掛かっていたのである。
それはさておき。
人気の出過ぎた「超時空要塞2015」は、最初のパソコン版から各ゲーム機に移植され、そのすべてにおいて人気を保っていた。だが各プラットホームごとの純益は必ずしも良くはない。製造ラインが増えたことが経費の大幅な増大を招いていたのである。
これをてこ入れするとなれば、製造ラインを絞り、全方位に媚びるような体制をやめねばならない。普通に考えれば、シェアの低いその他の系列や機能が低い携帯用のG系を切るべきである。
だが竜馬の卓越した直感は、その先を見ていた。そして田鶴子も。
「はははは、そうか、そういうわけじゃな、田鶴子さぁ!」
竜馬は豪快に笑った。
「経費が増大したのはゲーム機がありすぎるからじゃ。いちいち全部にあわせてつくっとったら、そりゃいくら売れても儲からんぜよ。じゃからどのゲーム機を中心にするか、と、普通なら考えるところじゃ。だが田鶴子さぁは、その先をねらっちょるな?」
「お見事。その通りです」
田鶴子は新たな資料を提出した。
「時空融合後の技術交換も、最先端ではない旧来の技術においてはほぼ一段落してきました。失業率も2%程度まで減り、末端の消費活動が動き出しています。おそらくこのあと今年いっぱいは、大規模な怪獣の襲撃でもない限り、空前の好景気がやってくるでしょう」
「はっはっはっ、桃鉄みたいじゃな」
「桃鉄?」
聞き覚えのない単語に田鶴子は首を傾げた。
「あちこちの世界にあったゲームじゃ。モノポリーの親戚じゃな。栗鉄やら柿鉄やらといろいろあるんじゃが、まとめて桃鉄系と呼ばれちょる。参考資料としてイーディスの長船さぁから20種類ほどゲーム機ごと借りたんじゃが、どれもなかなか面白かったぞい。せっかく買い占めた街が、怪獣の襲撃でつぶれたりするんじゃ」
「……まあそれはそうと」
先ほどの資料を開く。
「面堂エレクトロニクスをはじめとするいろいろなメーカーが、次期主力ゲーム機の座を狙って開発にしのぎを削っています」
「田鶴子さあの狙いとしては、そのうちの一社と提携、キラータイトルとなるソフトを用意して一気に市場の寡占化をねらっちょるんじゃろ」
「その通りですわ」
ゲーム機はある意味パソコンにおけるOSと同じ位置にある。スタンダードを握ることが絶対の優位となるのだ。後追いの効きにくい世界なのである。どんなに性能が良くても、「多少いい」程度では先発の利を切り崩すことは出来ない。『圧倒的な高性能』に加えて、『魅力的なソフト』が存在せねば、先発の牙城をうち破るのは不可能である。秒進分歩といわれるコンピュータ業界ではハードの進歩はめまぐるしいが、それに反比例するようにソフトの開発に掛かる時間は増える。進歩したハードがそれに見合ったデータ量を要求するからである。
復旧しつつある工業社会の中から、まだ新世紀の主役ハードが出てこないのは、そのハードを決定的に魅力づけるソフトが存在していないからである。どんなに高性能の『器』でも、そこに盛りつける『料理』がおいしくなければ誰もほしがらない。だが、何か一つ、『この料理』を食べたいと思わせることが出来れば、勝利は確定する。ユーザーはそのためにハードを買い、ハードか普及したことにより、以後のソフトはそのハードをターゲットにして開発されるからである。
「ですが今現在、決定的な優位に立っている企業はありません。器となるハードはともかく、それに乗せるソフトがありません。あまり先走りすぎても、もっと魅力あるソフトによって逆転されるおそれがありますので」
「で、田鶴子さぁはどこに目をつけたんじゃ」
竜馬は単刀直入にそう聞いた。
「はい。面堂、中川、神月の『新世紀御三家』には、規模が違いすぎて手が出せません。こちらが喰われる危険が大きすぎます。私が目をつけたのはここです」
竜馬は資料を広げてみた。
「天宮財閥系・大道寺玩具……社長・大道寺園美……おなごの社長さんかいな」
「はい。この会社は小児用玩具、特に女児用のファンシーなものに強い玩具メーカーですが、意外なほどエレクトロニクスに強いのです。特に玩具型の携帯電話などは、下手な家電メーカー製の物より高性能かつ丈夫だったりします。ゲーム機に関しても、試作されているハードは見た目のかわいらしさによらず超高性能でした。キーボードをつなげばそのまま最高性能のパソコンとして使えるくらいです」
「それだけじゃ弱いじゃろ」
竜馬は指摘する。
「技術力は十分、ダークホース的でわしらが組むにもいい、じゃが、それだけじゃ御三家にゃ勝てん。何かこう、強烈な突破口が必要じゃぞ」
「そこを何とかしたいと思いまして」
「うーん、そうは言うてものう……とりあえずみんなと相談すべきじゃの」
しかし、彼らの知恵を持ってしても、その突破口は見いだせなかった。
だがこの問題は、あまりにも意外な展開を見せるのである。
新世紀2年3月、中部自治区、松代第二新東京市郊外。
「はい、こちら土木工事課……妙な埋設物? 時空遺失物に当たる可能性もある?」
時空遺失物。それはこの時空融合の結果、所有者が不明になってしまったものの総称である。小は単なる落とし物から、大は秘密基地丸ごと一つまで、様々なものがあった。
文明レベルも様々であり、また、モノによっては大変危険なため、通常の遺失物として処理するわけにも行かず、結局新たに法律が作られた。
まず第一に所有者の手がかりがあればそれを公示、この時点で一次所有権が確認される。関連性のある人物(法人含む)が存在すればその人物に、なければ政府がそれを代行する。
その上で、モノが明らかに危険なものの場合は自治体か連合政府によって強制的に買い上げられ、その管理下に置かれる。一次所有者が存在しない、もしくは受け取りを拒否した場合、モノは競売にかけられ、その代金は15%の競売手数料を除いた上で、一次所有者がいなければ全額が発見者に、いる場合は両者で折半されて渡される。売買が成立しなかった場合は、政府機関が形式的に最低価格で落札したものとする。
過去に発見されたものとしては、第二・第三新東京市郊外で発見されたN2核地雷(もちろん即封印された)、ヌーベル東京市の大操車場(勇者特急が出現しなかったため、その施設だけが残っていた。中川財閥が落札)、離島や山中に設けられた正体不明の軍事施設(善悪は問わず、各種秘密戦隊組織の基地と思われる。すべて連合政府が接収)、人型に変形可能な超高性能の自動車(どこかの未来世界の車と思われる。発見者が所有したがったが、変形機構のせいで車検に通らないと分かったため泣く泣く自動車メーカーに売却)などがある。
今回出てきたのは、ケーブルであった。記録にないケーブルが発見されたのである。どうやらかなり多芯の光ファイバーケーブルらしい、ということしか分からなかった。
幸い工事方向に沿っているようなので、自治政府は調査のため掘り出してみることにした。しばらく後、埋設型の中継装置が発見され、企業名に関する情報が入手できた。
「株式会社コニー? 聞いたことがないな」
何はともあれ、所有者らしい名前の手がかりが得られたのである。自治政府は時空遺失物取扱法に基づき、連合政府に報告。連合政府では「コニー」という名を持つ企業に、心当たりがないかを問い合わせた。
そしてそのうちの一つが、四国自治区の企業、イーディス社に回ってきた。
イーディス社はもともと、「デンジャープラネット」という大規模ネットワークゲームに使われる「ヴァーチャル・パペット」、通称『VP』の開発メーカーであった。いくつかの画期的な新製品によって躍進した同社は、後には身障者対応のシステム構築なども手がけ、中堅のソフトメーカーとして成長を続けていた。それがこの時空融合の際、四国において『ジャストソフテム』と並ぶ一大ソフトメーカーになってしまったのである。また、このとき、「デンジャープラネット」を全国展開していたコニー社が四国本社を除いて消滅、四国本社も、地元在住だった数名の社員を除いた全社員を失ってしまっていた。企業としての存在を事実上絶たれてしまったコニー社は、わずかに残されたネットワークやマスターシステムの管理を、生き残った中で一番技術力のあったイーディス社に委ねていたのである。
知らせを受け取ったイーディス社社長、エーファ・高原は、まさかとは思いつつも、コニー社の資料を当たってみた。しばらくして出てきたモノは、コニー社を引き受けたときには、想像もしていなかったものであった。
「……まさかとは思うけど、念には念を入れないとね」
彼女は娘の彩理を呼ぶと、連合政府への出張を命じた。
「……なんでこんなに荷物が多いのよ!」
「これでも重要度の低い物は宅配で送ったのよ。我慢しなさい」
「だからってトランク二つ分の書類は重すぎるわよ」
「ネットワークじゃ送れないんだから仕方ないじゃない」
「ああっ、もう、早くインターネットが復旧しないかしら」
「そのための出張なんだけど……仕方ないわね。アシスタントつれてっていいわよ」
「え、ほんと? あ、もしもし、桐生?」
うきうきと電話を始める彩理。しかしその影でエーファが浮かべていたにやりと言う笑いには全然気がついていない彼女であった。。
彩理が苦労して運んだハードコピーに記されていたモノは、連合政府の度肝を抜くものであった。直ちに追加調査がなされた結果、どうやらそれはものの見事に、資料の通りのものであることが確定した。
翌日以降の各種新聞の過熱報道が、それを端的に物語っていた。
そのモノとは、何だったのであろうか。
「で、どうするの、こんなご大層なもの」
事のあまりの重大さに、自社だけでは手に負えないと判断したエーファは、海援隊や四国自治政府に連絡を取った。そしていつもの巨頭会談が行われることになったのである。
「よりによって全国のコニーパレスを結んでいた超高速回線、それも私たちの時代の30年ほどあとのスーパーTALS計画に基づく大容量ファイバー網が、そっくりそのまま発見されるなんて……」
彩理の声は、驚きを通り越してあきれていた。
TALSは元々大学の遠距離受講システムであった。資料によると、このシステムにおける相互間の即時性をはじめとするシステム上の利点がきわめてDPの運営に有効と判明。そこでコニー社は、このTALSを大幅に改良、強化したスーパーTALSを開発、システムの高度化に伴って容量不足が叫ばれていた全国回線の代替システムとして建設したものであった。
「全国津々浦々、最大帯域幅1ペタバイトというとんでもない太っとさのケーブルが、北は稚内から南は海底を通って沖縄や小笠原まで、日本全国を地方小都市まで完全に網羅するように、おまけに明治になってる道後温泉や、太正の帝都区にまで食い込んで存在してるですって? よくそんなところまで残ってたものね」
「おまけにさすがにこちらは中継点で切れてたけど、太平洋横断ケーブルの痕跡まであったわ。しっかりハワイまでは繋がってるわよ。その他の切れた末端と、この資料からすると、間違いなく全世界規模の回線網だったみたいね」
エーファもそう補足する。
「ペタバイト単位の全国通信網……今の日本が喉から手が出るほど欲しかったネットワーク回線、か。うかつだったわ。マスターシステムは私たちの時代のものと変わっていなかったし、まさか未来のコニー社が混じってただなんて想像もしなかった」
元コニー本社の資料庫の、妙に小綺麗な様子を思い出しながら、彼女はため息をついた。そこから出てきた資料には、どれも2040という年号が打たれていたのである。
「現在の所有権はどうなっているのですか?」
海援隊代表の福岡田鶴子が聞いた。
「一応、ウチにあるわ。時空遺失物法の一次所有権が認められてるから」
エーファはため息をつきながら言った。
「でもね、これをこのまま持ち続けると、同時に管理義務を負うことになるわ。地下占有による税金も莫大なものになる。ラリーさんに試算してもらったけど、下手すると数千億の税金を払うことになるわ。一地方の会社に払えるもんじゃないわね。基本的には早々に連合政府か御三家に売り払うしかないわね」
「だが、ただ売るのももったいない話しだ」
自治政府代表、ラリー=シャイアンも、そう言いつつもう一度資料を眺めた。
「ケーブルと中継/接続端末部分のみとはいえ、この密度と性能は半端じゃない。しかも政府の調査委員会の報告によると、信じられん話だが即時稼働可能……つまり、この回線は生きている。試算された金銭的価値がなんと50兆円だと言うではないか。もちろんこんな価格で競売にかける訳にはいかんだろうが、それでも一次所有者たるイーディスにはいる金はどう見積もっても5000億を超えるぞ。地方税を払ったとしても2000億は手元に残る……どうするんだ、こんな金」
「使い道なんて、一つしかないわ」
あっさりとエーファは言った。
「コニーパレスの再建……かつての私達の世界ではごく当たり前だったあの光景を、再現する以外に何の使い道がありますか。それこそがあの子の……ディーターの夢だったんだから。あの子はその夢を実現するために、自分の命を燃やし尽くしてしまった。全国回線を敷設するために、DPの生みの親であったデッガー社はコニー社の傘下に入った。そしてその夢を受け継いだ私たちの手元に、かつて大いなる犠牲のもとに手に入れた物が、ぽろっと転がり込んできたのよ。それ以外の使い方をしたら罰が当たるわ」
田鶴子も、ラリーも、そして当然彩理も、黙ってうなずいた。
それから3日後、この4人は再びイーディスにて会合を持った。
「試算してみたけど、500億有れば何とかなるわ」
田鶴子は、「コニーパレス再建計画案」と書かれた資料を提示していった。
「時間は掛かるけど、TOWERの再建は大丈夫。1店舗平均総予算2、3億くらいかしら。コクピットが一基あたり250万掛かるから、標準の6基筐体で2000万て所ね。技術が進歩すれば安くなるとは思うけどね。現時点で問題はないわ。コニー社の元資料から見てまあ大丈夫ね。経営はフランチャイズシステムを使い、本社の負担を減らす」
「大企業になるチャンスとは言え、今のウチには以前のコニーみたいに、全国の直営店を管理する余力もノウハウもないわ」
「海援隊も発展途上とは言え、やはりそこまで手が回りませんね。外部の手を借りねばならないでしょう」
エーファと田鶴子のため息の中、ラリーが意見を述べた。
「そうそう、この計画だがな、規模を考えるととても面白いことが分かった」
「「「どういう事?」」」
声をそろえる3人に、ラリーはにやりと笑っていった。
「この規模になると、もはや『事業』の枠を越える、ということだ」
「じゃ、なんになるって言うの?」
彩理の問いに、ラリーは答える。
「『政策』だ」
そしてラリーは、考えを述べ始めた。
新世紀2年4月、全国を衝撃が走った。
新世紀2年最大の発見といわれる巨大ファイバー網。大方の予想通り、施設は連合政府に売却された。
驚愕だったのは、その売却価格である。
最低1兆とまで言われたその価値に対し、イーディス社が発表した売却価格はなんと500億であった。
まともに建造したら、総工費20兆はかかると言われた回線網。それがたったの500億である。しかもイーディスは、その利益をすべて全国にコニーパレスを復活させることに使うと明言した。
そして見返りとしてイーディス側が政府に要求した事が二つ。
回線網は維持費及び初期権利金だけで解放されること。
自社使用分を無料(税別)にすること。
「我々は発見されたこの回線網を、『情報の高速道路』にしたいと思います」
エーファは記者会見でそう語った。
「かつて日本の交通インフラとして建造された高速道路は、償却の終了後は無料になるとされていました。ところが現実には無料どころか頻繁に値上げされることになりました。関係者諸氏には言いたいこともあるでしょうが、そもそもの計画に無理があること以上に、高速道路が『収入源』になってしまったのも問題だったのでしょう。我々はこの回線を政府に譲るにあたり、ここを重視しました。現代の情報社会において、回線網は貴重なインフラです。私たちはこれを政府の『財源』にして欲しくはありません。過去の日本の政策には、本来の目的とは違った『財源』にされた物がいくつもあります。お酒やガソリンにかかっている税金がその最たる物です。これらの物にかかる税金はかなり理不尽なものがあります。取るな、とは言いません。しかしお酒の製造会社が税金の安い商品を開発するとその製品の税率を上げたり、本来モータリゼーションの環境整備に使うために掛けられた揮発油税をそれとは関係のないことに使うのは本末転倒のような気がします。
そして我々は、今回政府に譲られる回線網が、その価値故に政府の『財布』にされることをおそれます。回線網の整備、維持にはお金がかかりますから、そのためになにがしかの税を設定することは否定いたしません。しかしそれがそのための予算を超えた何かになることは、断固として反対いたします。
なお、売却価格の設定は、かつてこの世界に存在していた『コニーパレス』の再建予算として必要な金額から導き出されたものであり、それ以外の目的に使用する気はありません。我々もたまたま拾ったようなこの回線網で私腹を肥やすつもりは全くありません。器が出来たあとは、その上で展開されるゲームをはじめとする事業によって利益を得たいと思います」
この発表は、経済誌をはじめとする関連業界に、きわめて好意的に掲載された。「企業家の誇り」、「情報革命」などの美辞麗句が飛び交い、彼女と彼女の率いる企業をいろいろな意味で有名にした。
そしてその裏で、ラリーが立案した計画がそっと動き出した。
コニーパレスの再建事業は、実に広範囲にわたる事業の集合体であった。通信事業、中継点と店舗の間の回線接続、そのために道路工事が必要になり、電気事業にまで影響を及ぼす。消費電力をまかなうための電力ラインの強化、コックピットは油圧制御のため、高度な機械的構造をしており、機械部品の製造業者が総動員される。同時に大量の制御用コンピューターの発注。ソフトはあっても逆にハードがないのだから当然である。また、ディスプレイ部に使われる大量の平面型ディスプレイパネル。これは主にエマーン製の物が使われた。大型で継ぎ目がなく、自力発光する割に消費電力は低い、それでいてエマーンでは型落ち品(本国では3Dディスプレイが使われていた)のためとても安価と、いいことずくめであったのだ。ちなみにこのディスプレイパネルは今までのブラウン管や液晶ディスプレイを駆逐する勢いで普及した。それはCDがレコードを駆逐する様を見るようであった。元々ブラウン管は時空融合の際に有力な製造業者が減っていた上(海外移転していたため、根こそぎ製造工場が消えていた。中華共同体は文明が日本より進化していたのでこれらは液晶に取って代わられていたのだ)、再建にも時間が掛かっていたためあまり内外の業者を圧迫することはなかった。エマーン側にとっても、大儲けできた上将来にわたっても安定した需要が見込める、かなりおいしい取引だったのである。シャイアさんの評価もかなり上がったようである。
それに加えて、コニパレは当然新築の建物だから建設業界も忙しくなり、また総合アミューズメント施設としての性格からファーストフード店との提携もある。
これだけ波及効果の高い建設事業が、同時に200弱の箇所で動いたのである。各種業界に『コニパレ特需』の波が襲いかかった。
翌5月、秋山経済相とラリーとの間で電話による会談が行われていた。
「さすが四国の懐刀ですね。ご指摘の通り、これがきっかけになって一気に景気が上昇を始めました」
「ふふっ、今の政府は、きっかけが欲しかったのが見え見えでしたしね。火をつければ燃え上がる状態とは言え、加治首相としてはこういうところで政府主導の体制を造りたくはなかった。そこに現れたのがこの回線網。これをただ使ったとしても一時的なネット特需やお手軽な財源が出来るだけ。でも見た目以上に関連事業の規模が大きい『DP』の立ち上げは、絶好の呼び水になる。さらにこのゲームが流行れば、儲け以前にかなり活発な経済効果を生み出す……」
「まさにその通り。ゲームというのは極度にお金が掛かるかまるで掛からないかのどちらかと決まっています。ディズニーランドのようなアミューズメント施設は、リピーターが確保でき、定番の存在となれば製造業では及びもつかない経済効果をもたらします。コンピューターソフト同様、収入逓減ではなく、逓増の法則が働く業種ですからね」
「ええ。ですから我々はあえて回線そのものの売却価格は低く抑え、かわりにその周辺事業……回線網を立ち上げるために必要な業者への補助予算を組んでもらった。そしてこの回線網は一定の回線確保金を払えばどんな事業者にも利用できるようにしてもらった……そう、中継点からのラスト1マイルに光ケーブルを配するという事業に膨大な光を当てたのです。これがまた新たな有効需要となる。一歩間違うとNTTの再来になってしまうけど、幸い今の日本は地方自治が盛んだ。こういう地元密着型の産業は自治体主導になるため巨大企業にはならない。地方ごとにいくつかの企業が分立することになるでしょうね。中央回線の使用料は事実上ただ同然だから、この末端部の利用料金だけで一般ユーザーは夢のような高速回線を安価に利用できる。御三家のような巨大企業には中小企業では手を出せない光ファイバーの製造といったハード面で儲けていただく。政府は共通プロトコルを設定することにより、規格の統一と新規参入の垣根を低くすることが可能……これでしばらくはいいことずくめですね」
「いずれ配信が完成すれば落ち着くでしょうけど、経済的な効果は抜群ですね。これで待望の好景気を引き出せそうです」
「その通り。こちらでもいろいろと利用させていただきます」
そして全国のコニーパレスが立ち上がり、四国と一部マニアの世界であったDPが日本中に開放される同時に、このゲームは空前のブームを巻き起こした。自分だけのVPを造る楽しみ。それを自分の手で操って冒険する楽しみ。一旦弾みがつけば、あとはまさにローリングストーンであった。さらにこの世界には特機自衛隊という所に、あこがれのメカがしこたま存在している。当然これらを模したVPが発売されたりして、少年達に大評判となったりした。
「マスターシステムの改良に物凄い手間が掛かったけどね。何しろ超合金Zやゲッター合金といった、とんでもない新素材かいっぱい出現していたし。これをマスターシステムに組み込むのには物凄い手間が掛かったよ」
こう語ったのは、謎のぬいぐるみ魔神(元祖)である。
イーディスでアルバイト(未だに)をしているこの材料工学専攻の大学院生は、その天才的な頭脳とオタク心を遺憾なく発揮していた。彼の力無くしてこれらスーパーロボットをDPのマスターシステムに乗せることは不可能だった、と、関係者は語っており、またそれは紛れもない事実であった。さらにこれら超合金素材の物理シミュレート(ゲッター合金まで!!)を可能とした彼の能力は業界の注目することとなり、元々人気の高かった彼に対する企業からのスカウト合戦が加熱したという微笑ましい話もあった。
それはさておき、この年の秋、海援隊は満を持して最後の戦略を発動させた。大道寺玩具から発売された新型次世代ゲーム機に、DPとのリンクという強力な付加価値をつけたのである。ゲーム機本体にVPのエディタを搭載、ディスクの読み書きをサポートした。さらに通信機能によって、自作のVPを使って、自宅でDPのストーリーモードを楽しめるというおまけが付いたのである。このプレイにはコニパレでディスクを書き換える必要がなかったため、自作機の動作テストを手軽に行えるという、予想外の付加価値がついたこともあって、幅広くマニア層にも受け入れられた。
そしてこれが決定打になって、大道寺玩具と海援隊は、新世紀2年のクリスマス商戦を圧倒的勝利で飾ることとなったのである。
しかし光あるところには影がある。そのための犠牲は、決して小さくはなかった。
「……で、何で俺が回線の管理をしなきゃならねえんだ、高原」
「あら、だってこれはあなたが造ったんでしょう? ね、久我さん」
「未来のことなんざ知るかっ! せっかくDPが立ち上がって、業務再開できると思ってたのに」
「お給料は十分出てると思うけど」
「そう言う問題じゃねえだろっ! 全く、時間がたんねえぞ」
「あ、そうか、この世界じゃクリムゾン、別に悪役じゃないものね。堂々と桐生と表で対戦できるようになったのに、その時間がないから不満なんだ」
「な……」
顔が赤かったのは気のせいか。
2040年代の資料に、スーパーTALSシステムの設計者として名前が記されていたシステムエンジニア、久我透がDPで遊べるようになるのは、まだまだ先のようである。
おわり
あとがき
ははは、実はこの話、海援隊の8話とリンクしています。だからEX1。
DPの事で相談を受けたり持ち込んだりしたのが元で。
元々はインターネットの復旧をどうしようかと考えているときに浮かんだネタなんですけど。全国の回線をどうしようかと。軍用回線はともかく、民間のインターネット環境がないのは不便ですし。そんなときに思いついたのがこれでした。
大道寺玩具(仮称・ブランド名が分かんなかったので)と組んだのは将来の予定(笑)を見込んで。いずれこの世界には某天使人形を使ったゲームも出現することですし。
まあ、さくらの出番がまだというのもありますが。
人型ロボットの製作を夢見ながら、それが叶ってしまっていたこの世界で、苦い思いをしていた仁村桐生。オタク心と学術的探求心を満たしまくっている永遠の少年、長船悠樹。そんな彼らがもう一人の天才、三原一郎に出会うとき、それは始まった……。
こんな話も、もう少し時代が進んだら書きたいですね。
今回は真面目なのでギャグはなし。ではま
ズギュウン!!
「何ぬかしてやがるてめぇ。やっと出番が回ってきたと思ったらあんな役か! このクリムゾンの塗装の一部にしてやる! このっ、このっ!」
ぎゃーっ! 確かにそう言う色だけどーっ! あ〜れ〜
次回予告
初めまして、神谷大作です。え、聞いたことがない? ええ、まあ、出現してから一年近く放っておかれましたから。いろいろ面白いことはあったんですけど、外の世界にさすがの先生も霞むような怪獣が出現していましたからねぇ。静馬さんも「モノホンの怪獣が見れるとは思わんかった」といってましたし。しかしそんな僕たちの周辺も、一通の招待状と共にきな臭い雰囲気が流れてきました。
第二回アルティメット・ヴァリー・トゥード格闘大会、オーバーソウル級出場要請。表も裏もまっとうなはずのこの大会に忍び寄る黒い影。アメリカのTCT(タイム・クラッシュ・タウン)といわれる都市、サウスタウンの事件を皮切りに、生と死が交錯する。ウィラード・ゲイツとギース・ハワードが拳を交え、リョウ・サカザキとテリー・ボガードが日本に招かれる。そして襲われた少女を挟み、対峙する現代の侍と傭兵。上陸する新たな人型兵器と謎の潜水艦。暗躍する男達。華やかな大会の裏に、いったい何が潜むのか……
次回、裏側の勇者達・エピソード4 「神威の拳」 こうご期待!
参加予定作品 召喚教師・リアルバウトハイスクール
フルメタル・パニック
ストリートファイターシリーズ
竜虎の拳シリーズ
餓狼伝説シリーズ
沈黙の艦隊(?)
その他ちょい役のみなさん。
これはマジですよ〜。
<アイングラッドの感想> ver.2.0・・・一度書いたのに、消えてしまった。しくしく。
ゴールドアームさん、そして小さな一読者さんこのような大作を送って戴き大変にありがとうございました。
こうして設定が積み上げられて行くのを見ると、最初にスーパーSF大戦を書き始めたときに設定をきっちり決めないで始めたのが良い方向に向かった様で、思わぬ効果に狂喜乱舞といったところです。
はっきリ言って私だけではこんなに凄い話にはなり得ませんでしたから。
皆さんが楽しんでこの話に関わってくれているのが嬉しいです。
後、これから数年後に某天使人形らの活躍が始まるのですが、今後におけるその時の中心人物がどうして居るかを書きます。
と思ったけど以外と長くなってしまったのでインターミッションにしてしまいます。
こちらをどうぞ。
ではでは、ありがとうございました。